時は西暦2202年。

 火星から数千キロ離れた宙域。

 そこで、世界の行方を左右する事件が起きようとしていた。

 当事者達の予想を超えて……









時の流れに アナザーストーリー

青と黒の旋律






プロローグ0 全ての終わりと始まり







 

 その宙域にいたのは二隻の船。

 一隻は数週間前、火星の後継者残党による「南雲の乱」を鎮めてきた船であり、

 もう一隻は「火星の後継者」の存在を世に知らしめる原因となった船であった。












 

「アキト! お願いだから戻ってきて!」

(ユリカ…………)


 追う妻と追われる夫。

 追う者は夫への譲れぬ思いを、追われる者は決して許し得ぬ己への罪の意識を、互いに抱きながら……



 そして―――


「アキトさん! お願いです、ユリカさんのためにも戻ってきて下さい!」


 銀髪の妖精は義父が義母の元に戻る事を、以前の生活を取り戻す事を願い……


「アキトさん! 一体これからどうするつもりなのですか? もう火星の後継者も、北辰達も存在しないのですよ!?」


 白髪の青年は、彼等が一度失った幸せを取り戻す事を願って。










 

 しかし、それでも彼の決意を崩す事は出来なかった。







「……ラピス、ジャンプの準備を頼む」

「うん、解った。アキト」

 ラピスは俺の顔を微かに見た後、ダッシュにジャンプフィールドの生成を命じた。



「「「アキト(さん)!!」」」




「……俺と君達の道が交わる事はもうありえ無い。無論、同じ道を歩む事も無い。」



『ジャンプフィールド生成完了しました!!』

「アキト、ジャンプフィールドが生成終了したよ。」

「ああ、解った……」


 取り敢えず、物資が尽きかけている以上、一旦月に補給を受けに戻らなくてはならない。

 そして彼は、ナデシコCとの回線を強制切断した。







 

「アキト!!」

「ユーチャリスの周囲にジャンプフィールドの発生を確認!!」

 ナデシコCのブリッジで、ハーリーが報告した。

「ジャンプで逃走する気ですか……どうします、ユリカ姉さん?」

 そうカイトがユリカに質問するが……




「「させないよ(ません)!! アキト(さん)!!」」




 既にユリカとルリは行動を起こしていた。












 

 ドガッッッンン!!!!!



 突然、大きな衝撃がユーチャリスを襲った。



「くっ!! 何が起こったんだ!!」



『アンカーを打ち込まれたんだよ、アキト!!』


 そう、ユリカとルリによって、強襲用のアンカーがユーチャリスに打ち込まれたのである。









 

「…………流石にやりすぎですね、あれは(汗)」

「カイトでもそう思うか……ホント恋する乙女は凄いね〜」

「艦長ぉ〜〜(泣)」


 ナデシコCの主要男性陣の会話も尤もである。

 彼女達はこのままユーチャリスに乗り込むつもりなのだろう。











 

 しかし、事態はこの場にいた皆の予想を、遥かに越える事となった。










 

「アキト!! ジャンプフィールドが暴走してる!!」





 ユーチャリスのブリッジで、ラピスが動揺しながらアキトに報告した。


 ジャンプフィールドの暴走……それはジャンプフィールドが不安定になる事を意味していた。

 同時に、ジャンプ時のイメージ伝送にも非常に悪影響を及ぼすという事も意味していた。





 はっきり言って、冗談では無い。

 これでは未知の世界へ跳ばされるどころか、まともにジャンプアウトする事が出来るのかさえ微妙である。

 

「くっ!! ジャンプフィールド緊急解除!! 俺が―――」

『駄目だよアキト!! フィールドの制御装置にアンカーが直撃してる!! フィールドの暴走はもう止められない!!』


 アキトがしようとした行動は、ダッシュの報告によって無意味になった。


「何!! ……くっ、このまま何も出来ないのか!!」





 だが、ラピスがアキトの忘れかけていた事を指摘した。


「アキト……ナデシコが」


 そう、ナデシコとユーチャリスはアンカーによって繋がったままなのである。


「しまった! 間に合うかっ!?」


 アキトはすぐに回線を繋げさせた。





「ユリカ、ルリちゃん、すぐにアンカーを切り離してユーチャリスから急いで離れろ!!
 このままだとナデシコCも、ユーチャリスのランダムジャンプに巻き込まれるぞ!!」


 そう、アンカーを打ち込める程の距離なので、ナデシコCとユーチャリスの距離は余りにも近過ぎるのである。


「ア、アキト、それって!?」

「し、しかし、アキトさんが!!」


 コミュニケの画面内の、ユリカとルリが慌てている。

 だが、今最も心配すべきはジャンパー処理を施されている彼等ではない。 


「俺達は何とでもなる!!
 だが、ナデシコCの乗員全員が、ジャンパー処理を受けているのか?
 このままフィールドを展開せずにジャンプに巻き込まれたら、措置を受けていない者が全員死ぬぞ!!」


 ジャンパー処理……ボソンジャンプに耐えるための措置を施さなければ、人は高出力のディストーション・フィールド無しではボソンジャンプに耐えられないのである。

 その為、戦争中に行われた地球側の生体ボソンジャンプの実験は、ナデシコでの(後にA級ジャンパーと呼ばれる者達による)実験を除いて全て失敗に終わっている。



「!!! ルリちゃん、急いでアンカーを切り離して!!
 ディストーション・フィールド緊急展開!!」

「は、はい!! ユリカさん!!」


 ユリカが素早く指示を出し、ルリもすぐに対応する。 
 
 しかし、もはや手遅れだった。



『駄目だ!! ジャンプ・シークエンスが開始されたよ、アキト!!』

「くっ、フィールドの展開は間に合わないか!! 済まんみんな!! ナデシコのクルー!!」




 その言葉を最後に、彼等の視界は虹色に染まった



















 

 その後のこの世界について………



 ―ナデシコCとユーチャリスが消息を絶った2週間後―



 ある日突然、新地球連合と統合軍の癒着、更にクリムゾンを筆頭とする反ネルガル陣営のスキャンダルを示す情報が一斉にマスコミへと流された。


 手段は様々であり、メールに添付したり、ウイルスを利用して直接データをマスコミ各社のデータベースへ送りつけたり、はたまたネット上にアップしたりと、複数のルートから情報が流出していった。


 さらには火星の後継者が行っていた事も全て明かされる事となり、ますます統合軍と新地球連合の主流派に批判が集まって、主流派の各国における政府支持率は一気に下降した。


 多数の逮捕者や軍事裁判における有罪判決が決まる中、遂に統合軍は解体され、新連合宇宙軍と統合されて『新地球連合軍』と名称を改める事になった。

 また、統合軍の上層部が軒並み更迭されてしまったため、ミスマルコウイチロウ元新連合宇宙軍総司令(兼極東方面軍司令)が『新地球連合軍』の総司令として就任する事となった。

 そして、かつての統合軍よりも遙かに柔軟な人事移動により旧木連側の反発も少なく、更に元木連組の旧新宇宙軍若手将校達の仲介によって、割と良好な状態を築いていった。



 この事件の原因は、ナデシコCと白亜の戦艦の消失によって、ホシノ・ルリとミスマル・カイトが仕掛けたトラップが作動したのだと言われているが、真相は謎に包まれたままである。






 斯くして、この世界の秩序は次第に安定していった。



 蜥蜴戦争後落ち目になったネルガルと、火星の後継者事件後スキャンダルによって急落したクリムゾンに対し、ここぞとばかりにシェアを拡大させた明日香インダストリーの突出により、三つ巴の争いは静かに激化していった。

 しかし表立って争う事は全くなかったので、その後の世界は比較的平和だったと言えるだろう。








 これで、この世界の話は終わりである。



 だが、彼ら――テンカワアキトを筆頭とする、この世界からナデシコC&ユーチャリスと共に消えてしまった彼らの話はまだ続く事となる。



 此処とは異なる世界で………





 


 後書き

 どうも皆様はじめまして、タングラムと申します。

 この度は初めてSSを執筆させて頂きました(爆死)

 表現力が足りないなど、まだまだ勉強中の身ですが、よろしくお願いしますm(_ _)m

 このプロローグ0はご覧の通り「時の流れに」のプロローグそのままの為、2話同時投稿とさせて頂きましたので、続きはプロローグ1の後書きで書かせて頂きます。

 


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