戦いは終わった。

あのうるさい覇道の小娘に九朗を取られたような気がしないでもないが、それは仕方が無い。

なぜなら、九朗があの小娘を選んだのだから。

満身創痍の巨人の中で、妾は一人二人の帰る場所を探した。

「デモンベイン・・・・まだやれるな?」

デウスマキナ(鬼械神)に問いかけつつ、必死であの世界への情報を検索する。

大混乱時代にして、大暗黒時代でもあり、さらには大激動時代のあの世界、あの街へと二人を送るために。

身動きがほとんど取れない巨人が最後の力を振り絞る。

動力部である銀建守護神機関『獅子の心臓(コルレオニス)』が、平行世界から無限大のエネルギーを搾り出していく。

その無尽蔵の力が、広大な宇宙の情報の中からたった一つだけの世界を選び出す。

「まったく・・・・二人そろって仲良くとは羨ましいものだな」

だが、この二人だからこそ勝てたのだろう。

あの強大なる怪異と脅威の体現者に。

そう、彼女は思った。

絶望した自分を叱咤し、九朗と共に戦うために妾を焚きつけたこの小娘にはコレは与えられるべき特権かもしれない。

コックピットの魔法円に包まれて抱き合ったまま眠る二人を見るとそう思えてくる。

実に満足そうな寝顔だ。

無性に腹が立ってくる自分に苦笑しつつも、彼女は作業を続ける。

「・・・ふむ。ようやくヒットしたか。これで任意先が指定できる」

検索結果に満足した彼女は、すぐに次の作業に移った。

検索に使われていたエネルギーが解放され、巨人の右腕に集っていく。

この無限大の可能性全てに広がる漆黒の宇宙空間。

その中で二人を帰すべく彼女は詠う。

「現われ給え、門にして鍵たる神の末端よ!」

朗々と紡がれる祝詞が、右手のエネルギーを生贄にして別のものを生み出していく。

彼女に記された外なる神々の記述の中で、邪神と呼ばれた者の力を擬似的に再現するための儀式である。

やがて、門なるものが召喚される。

今、彼らがいるそこは門の内側。

彼女が召喚したのは門の出口に他ならない。

それを通れば二人を帰すことも可能というわけだ。

「ふう・・・これでお別れだな。覇道瑠璃、九朗を任せたぞ。 そして・・・・我が主、マスター・オブ・ネクロノミコン。 大十字九朗。妾は汝のことが嫌いではなかったぞ」

独白は二人には聞こえない。

だが、それでいいと彼女は思っていた。

コックピットが開放され、二人が抱き合ったまま門の中へと吸い込まれる。

出口の先にはきっと、二人が守った明るい未来があることだろう。

次の瞬間、二人を吸い込んだ門は何事も無かったかのように消えさり、それと同時に鬼械神の力も尽きる。

動力の駆動音が止み、全くの静寂が彼女に訪れた。

「・・・・後は二人の運次第か。 しかし・・・・ここは一人だけだとちょっと寒いな」

シートに背を預けて目を瞑る。

ここにはもう自分しかいない。

この先どうなるかは少女にはわからない。

何処とも知れぬ場所や、時間に出るだろうとは思うが、それは一体何時ごろか?

そもそもそれが本当に訪れるのかすら理解できない。

「妾の時間はほぼ無限大。 となれば・・・・一生このままかな? ・・・九朗」

少女はそのまま眠ることにした。

戦いは終わったのだ。

ならば少し休憩するのもいいだろう。

長い長い休憩になるかもしれないが。




これは、一つの可能性の中の話。

無数にある可能性のなかでの、たった一つの奇跡の続きの・・・・・・。









門を越えし者

第00話

             「選んだ道の先を目指して」






「ふざけるな!!」

ダン!!

俺の一撃によってコンソールが軋む。

「冗談だよなアカツキ? ルリちゃんが殺されただと?」

火星の後継者の残党狩りをしていた俺は、その報告を聞いたときは頭がおかしくなったのかと思った。

深遠の宇宙。

周りには敵のスクラップしかない。

全て俺がブラックサレナとユーチャリスを使って作り上げたものだ。

「・・・冗談だったらいいんだけどね」

その一言が俺の胸に突き刺さる。

親友であるアカツキの顔が、今までに無いほどに真剣だった。

そして、悲しみという表情を隠せずにいる。

のらりくらりとしたいつもの態度からは余り想像できない顔だ。

「犯行はナデシコCの中で行われた」

「ナデシコの中でだと?」

「絶対にナデシコの中では出だしできないだろうと思っていたところをやられた」

ナデシコCには基本的にはオモイカネが乗っているからそんなことを行えるようなことはまずない。

そういう思い込みの隙を突かれたとアカツキを言う。

危険物などの武器は艦内のセンサーに引っかかるし、ナデシコの乗組員はそれなりに身元調査をされた上で決められている。

外部からの犯行があったとしてもその成功確率はかなり少ない。

「犯人は・・・犯人はどうした!!」

「隔離中。 現在は連合軍本部で尋問されているところだよ。・・・・火星の後継者の残党に家族を人質にとられていたらしい。」

「くそぉぉぉぉぉぉ!!!」

ガン!! ガン!!

「また、守れなかった! ユリカに続いてルリちゃんまで奴らに!! ちくしょぉぉぉぉ!!」

何度もコンソールに、壁に、自分の腕をぶつける。

何もできなかった自分への怒りと、奴らへの、犯人への怒りが俺の心を埋め尽くす。

火星の後継者。

俺の大切なものを奪っていく奴ら。

どこまで俺から奪っていく?

どこまで俺から大切な人を奪っていけば気がすむんだ!!

「アキト・・・」

ラピスが俺を止めようと、艦長席にやってきて俺に抱きつく。

「テンカワ君。 今ネルガルのシークレットサービスがフル稼働で奴らのアジトの場所を探している」

「・・・・・・最優先で俺に教えてくれ。俺が全てを消す」

痛む拳をさらに強く握り締め、震える手で湧き上がってくる衝動を押さえ込む。

「わかったよ。 じゃ・・・・」

「待ってくれ。もう一つだけ」

「・・・・尋問している基地の場所かい?」

「そうだ」

「・・・・連合軍本部ビルだよ」

答えながらも俺に目で訴えてくるアカツキ。

「安心しろ。殺しはしないさ。殺しは・・・な」

「・・・そうかい」

ピッ。

そういうとアカツキは通信を切った。

「くくく・・・ははははははは!!!」

そうだ。

「怒りを通り越して何も沸いてこないな。」

殺しはしない。


「ユリカは奴らの遺跡の接続のせいですぐに死んで」

やったことを後悔させてやるだけだ。

「ルリちゃんは・・・ルリは殺すか」

俺の大切な者に手を出した報いとともにな。

「アキト・・・・」

絶望を貴様にも、あいつらにも見せてやる。

二度と忘れることができぬほどの恐怖を刻み込んで。

「ラピス・・・・情報を集めてくれ。 対象は・・・・・ホシノ・ルリを暗殺した奴の身辺だ」

それから勝手に死ね。

「・・・・わかった」

ルリちゃんを守るためにも奴らを倒していたというのに。

これじゃ・・・・これじゃあなんにもならない。

無力感に苛まれながら、俺はユーチャリスの艦長席に体を預けて目を閉じる。

「俺が・・・君の望んだ通り傍にいれば守れたのか?」

一人独白。

その答えに答えられるものはいない。

答えられるとしたら、それはもうこの世界にいないルリちゃんだけだ。

俺が考えても答えなんかわからない。

「ラピス、情報が集まったら教えてくれ。 ちょっと仮眠させてもらう」

「うん・・・・わかった。」

自分の少ない五感が、目に何か暖かいものが流れていることを感じる。

俺はバイザーを取ると、久しく忘れていたそれに気づいた。

「涙・・・か。 はは・・・もう、枯れてたと思ったんだけどな」

プリンスオブダークネスだろうと、所詮は心の弱い人間だったってことだな。

娘の死が俺をちょっとだけ昔の俺に戻したのか。

娘なんていったらルリちゃん怒るかな。

妹だった、娘だった少女。

最後に会ったとき言われた言葉が、ルリちゃんを俺の妹的な存在という認識から変えた。

一人の女性だという認識に。

それはもう2週間は前のこと。

ルリちゃんに、最後に会ったときの・・・。

俺はそのときのことを思い出しつつ、眠りに落ちた。








「・・・逝ったのか」

「アキト・・・さん?」

俺は最後を看取るために病院に来ていた。

ボソンジャンプのできる俺には距離なんて無力な壁でしかない。

その場のイメージさえあればそこに跳べるのだから。

ベットの上で眠りにつく妻。

そしてその傍らでその手を握り締めて涙を流している少女。

この場には三人しかいない。

俺たち家族だけしか。

「もう・・・ユリカさんは逝きました。 最後にアキトさんに会いたいといって」

「・・・・そうか。」

俺はもう動かない人の頬に手を当てる。

冷たい。

暖かさなんてもうその体には残っていない。

そっと、彼女のおでこに唇を当てると俺は身を翻した。

俺にできることなんてない。

できることは奴らを倒すことだけだから。

ガシッ!!

去ろうとした俺の体に、少女が後ろから抱き着いてきた。

その体が小刻みに震えている。

悲しみが彼女の中を駆け巡っているのだろう。

俺にはなぜかユリカが死んだと言われてもピンとこなかったが。

心が壊れているからだろうな。

涙すら出てこないんだから。

「アキトさん!! 帰ってきてください!!」

魂からの慟哭。

感情をあまりださない彼女の本当の悲しみが俺に投げかけられる。

「君の知っているテンカワ・アキトは死んだ。 もう、死人に拘るのはやめろ」

「死んだ? 冗談はやめてください。 貴方は今私の前にいます。 いて、こうやって話をしています。 これは生きている証拠です!!」

「もう、死んだんだよ。 ここに残っているのは亡霊だ。 亡霊は生きている者の所に帰ることなどできないんだ」


「ふざけないでください!!」

「ふざけてなんか無い。 亡霊になった俺は敵を倒すまで満足できない。 奴らが存在している限り俺の戦いは終わらない」

「なら敵を倒し終わったら・・・・倒し終わったらどうするんですか?」

「亡霊の存在する意義はそのときに無くなる。 亡霊は亡霊らしく地獄に行くさ」

「アキトさん・・・・ほんとに・・・いい加減にしてください!! 亡霊は亡霊らしく地獄に行く? 死ぬんですか? またあの時みたいに私を置いて? あなたの帰りを待っている人たちをおいて一人で逃げるんですか? そんなこと私は認めません!!」

「俺がいたらみんなを不幸にするだけだ。 だから帰れるはずなんてない。 そんな俺にはそれが一番いいんだよ。 それで、みんな幸せになれるはずだ。 不幸の元凶がいなくなるんだから。」

「アキトさん!! 勝手に決め付けないでください。 私の幸せは私が決めるものです。 そして、その幸せの中にはあなたがいることが前提なんですよ? 」

俺の体に回された手に力が篭る。

二度と離さない。

そんな意思が伝わってくる。

「私をまた悲しませないでください。 ユリカさんがいなくなって貴方までいなくなったら私は耐えられません。」

「・・・ルリちゃん」

ゆっくりと振り返り彼女を抱きしめる。

娘の求めるものが暖かさだと俺は思った。

あの幸せだったときの暖かさを求めているのだと。

そして知っていた。

もう、そのときは戻ってこないということを。

他でもない俺が、それから離れようとしているのだから。

「それに私は・・・・アキトさんが好きなんです」

「!?」

完全にそれは不意打ちだった。

彼女より背が高い俺にあわせ、つま先立ちをして俺の頬に手を伸ばす。

しっかりと両頬をその小さな手で包んだ少女が、俺の唇に自分のそれを押し当てた。

俺の思考が一瞬とまる。

なぜ?

その答えは、もう俺にはわかった。

鈍感な俺でも彼女の思いの意味を理解するのは簡単だった。

だけど、

それでも俺は理由を尋ねる。

離れた唇。

見上げてくる切なげな黄金の瞳。

それを真っ直ぐ見つめ返して。

「どうして・・・・・」

「私は、アキトさんが好きです。 愛してます。」

「だからって・・・」

「ユリカさんがいたときまでは、私はあなたの娘でも、妹みたいな存在でもかまいませんでした。」

「だったら・・・」

「でも・・・もう嫌です!! 自分の気持ちを押さえつけたままにしておくのは!! ユリカさんだから今まで我慢してました。 でも、もうそのユリカさんもいなくなりました。 私の心を止めるものはありません。 だから・・・・」

もう一度、彼女が俺にその唇を押し付けてくる。

俺は・・・・ただただそれになされるがままだった。

引き剥がすことは簡単にできただろう。

か細い彼女の腕など、俺には簡単に振りほどけるのだから。

だが・・・俺にはそれができない。

死んだ妻の前での少女の告白。

それがどういう意味を持っているのかを理解しているから。

きっと今のは一時の気の迷いだ。

今起こっている行為は、ユリカが死んだことで精神的に疲弊したルリちゃんの迷いだ。

その・・・はずだ。

なのに・・・なんで俺の手はルリちゃんを抱きしめる?

俺が愛していたのはユリカだ。

なのに・・・なぜ・・・・・こんなにも心が熱い?

少女の涙が見たくない?

悲しみが、その涙が俺を責めている?

再び離れる唇。

それを驚きの表情で見つめる自分が俺の中にいる。

離れることを残念がっている?

俺が・・・、

俺がルリちゃんを求めているのか?

「アキトさん・・・私の傍にいてください。 お願いです・・・・私を・・・・」

始めて見るルリちゃんの涙。

俺はそれを単純に綺麗だと思う。

妖精の流す涙。

俺はそれを見た瞬間に彼女を抱きしめたまま床に倒れこんだ。

「アキトさん・・・」

俺の上に今ルリちゃんがいる。

「お願いします。 私をあなたの者にしてください。 そして・・・ずっと私の隣にいてください」

死んだ妻の傍で、自分はいったい何をしているのだろう?

頭で理解していても俺は止まらない。

止まれない

なぜ?

なぜ?

なぜ?

何で止まらない?

なぜ彼女の望む通りにしようとする?

なぜ・・・・・・・。

俺の理性が、俺じゃない誰かに操られているような気分。

心の奥底で、ルリちゃんを求めている自分がいる。

そうか・・・・これは・・・・・・。

この思いは・・・・。

昔のテンカワ・アキトの思いだ。

ルリちゃんと、ユリカと一緒にいたいと思っていたときの。

亡霊じゃない俺の心が。

絶対的に感じていた孤独を埋めるために求めているんだ。

守ろうとする存在の思いに反応して。

プリンスオブダークネスとしてじゃない。

手が震える。

必死に止めようとするが、もう俺の手は止まらない。

「ルリちゃん・・・・」

「はい・・・・ん・・・・・・」

抱きしめていた腕が彼女の柔らかな頬を掴み引き寄せる。

強引に彼女の唇を奪い、彼女を自分の者にするべく動く。

慎ましやかな胸に触れる。

そこからはもう止まらなかった。

封じ込めていた思いと、禁欲生活だった俺の体が求めるように貪欲に彼女を俺の色に染めていく。








自分の娘だという感覚はすでに無い。

あるのはただただ求める心。

心の空白を埋めるための行為なのか。

それとも彼女の願いをかなえるためのものだったのか。

それとも、心のどこかで俺が彼女を愛しているためだったのか。

最後の決戦を前にして、俺がなぜ彼女に俺の生きた証を託したのか。

その答えが今のこの出来事なのか?

「私は・・・ん・・・ん・・・・悪い娘ですか?」

「・・・・どうして?」

「死んだユリカさんの前で・・・あ・・・あなたを求めた。 あなたが欲しいって駄々をこねて・・・」

止まらない涙。

それを唇で拭う。

しょっぱい。

けど、これは彼女の心の涙。

自分を責める心が生み出した罪の意識と、そして歓喜の混ざった涙。

「それなら・・・止められなかった俺が悪い」

「・・・・ユリカさん。 きっと向こうで私を怒ってます。 ん・・・私のアキトに何をするんだって」

「どうかな・・・・。 そうだとしても怒られるのはルリちゃんだけだな」

「なんで・・あ・・・・私だけ?」

「俺はきっと天国には行けない。 俺が行くのは地獄のはずだから」

「なら・・・私もそっちにいきます。」

「ルリちゃん・・・・」

「私はもう、貴方を離しま・・あ・・・・せん。 絶対に・・・、絶対に!!」

「ルリちゃん・・・・・・・・・・ルリちゃん・・・・ルリ・・・瑠璃!!」







全てが終わったとき、俺は疲れて眠った彼女を置いて部屋を出た。

寝る前に、散々傍にいると言った癖に。

傍でいてやるっていう嘘をついたまま。

彼女は今、俺が傍にいる夢でも見ているだろうか?

俺と一緒にいる夢を。

「ごめん・・・俺は・・・まだ、帰れない。奴ら全てを倒すまで・・・それまで待ってくれ」

絶対に帰らないと誓ったくせに、俺は彼女に負けた。

自分の弱い意志に苦笑しながらも俺は・・・・また鋼鉄の心で自分を覆った。

「まだ、止まることはできない。 奴らは君を狙っている。 君を目の敵にして再起を伺っている。 けど・・・そんなことは俺がさせない」













「・・・アキト情報収集完了したよ」

「ん・・・そうか」

急激に覚醒した意識。

そのおかげでまだ寝ていたいが、俺は情報に目を通す。

「・・・こいつか」

犯人の特徴とプロフィールを完全に覚える。

覚悟しておけよ。

唇を吊り上げ、写真の人物を睨む。

二度と笑えない地獄に。

家族を奪われる悲しみを。

俺が貴様に送ってやる。

自分のしていることを棚に上げていることはわかっている。

だが・・・それでも、理性では理解しても感情では納得などできはしない。

しかたなかったんじゃないのか?

確かに当人には仕方が無い選択だったかもしれない。

だからあえて言う。

「そうだ。 俺がすることも仕方がないとして受け入れろ」




その日、犯人らしき男とその家族が何者かの手によって精神を破壊された。

連合本部の警備網をくぐりのけて行われたそれは、瞬く間にニュースとして取り上げられた。












シュオン。

光が辺りを照らす。

ボソンジャンプ特有の光だ。

ここに来るのも久しぶりだな。

無礼を承知で無断で入った。

この広い家の間取りは覚えている。

だから、俺は迷わずにその場所を目指した。

通夜も終わり、今ここは静かに家族が別れる最後のときを過ごしているのだ。

明日には彼女は灰になる。

だからその前に・・・・。

「・・・ルリ君。 君まで逝ってしまうとはな。 ユリカに続いて君まで・・・・私は・・・・父親として何かを君達にできたのだろうか?」

独白が聞こえる。

親馬鹿と言われる彼の悲しみは到底俺が理解できるものではないだろう。

娘を溺愛するその姿は、俺には微笑ましいものだった。

しかし、もうそのシーンを見ることはできない。

二人の娘がいなくなったのだから。

「失礼します。ミスマルのおじさん。」

返事を待たずに中へと入る。

「君は!? ・・・そうか。 最後に会いに来たのか」

「はい」

バイザーを外し、彼女の眠っている花の棺おけに近づく

花一杯に満たされたそのなかで、彼女は眠る妖精だった。

永遠に目覚めることが無い妖精。

その彼女を包んでいる花は撫子の花ばかり。

この花は彼女が好きな花だろう。

あの戦艦に居続けた彼女なら。

俺も持参した花を手向けると、彼女の頭を撫でる。

冷たい。

ユリカと同じように彼女も逝ったのだから当然か。

「俺が君の傍にいれば・・・・・君を守れたのかな?」

独白の答えを眠る彼女に尋ねる。

答えは返ってくるはずはない。

それは当たり前だ。

きっと彼女は天国にいるはずだから。

今頃ユリカと仲良くやっているはずだ。

それとも喧嘩でもしているのだろうか?

俺にはもう判らない。

銀色の髪を触り、すぐにおじさんのほうに向く。

「おじさん。頼みがあります。 聞いてもらえますか?」

「・・・・・何かな?」

「ルリちゃんの遺体、貰って行って良いですか?」

「・・・・・どうするつもりかね?」

「娘と最後までいたいと思いましたから。」

バキッ!!

おじさんの拳が俺の頬を打つ。

俺は避けもせずにその拳を受けた。

その一撃で吹き飛ぶようにして俺は障子を突き破る。

「アキト君・・・なぜ、今なのだ? 全てが終わってしまった後でなぜその言葉を口にする!! なぜルリ君が求めたときに君は傍にいなかった!!」

「・・・・」

俺は無言で起き上がる。

「それなのに、自分のために彼女を連れて行くというのか? 彼女が一緒にいたかった時には現われずに!!」

「はい」

バキっ!!

「私は・・・私には君を殴ることしかできん。 何処へなりともいくがいい!! ・・・・娘を連れてな!!」

部屋の壁に吹き飛ばされた俺は、起き上がると背を向けていたおじさんに頭を下げる。

俺なんかよりも本当の親のようにルリちゃんに接していたおじさんから、ルリちゃんを取り上げようとしているんだ。

俺は。

自分のために。

「さっさと行けい!! 私がこれ以上君を殴らないうちに!! この馬鹿息子が!!」

おじさんの嗚咽が聞こえる。

ルリちゃんをそっと抱き上げ、俺は部屋を出る。

「・・・今までありがとうございました。 義父さん」

そして・・・俺はボソンジャンプしてこの場を去った。

だからおじさんの最後の言葉を聴くことは無かった。








「すまないアキト君。 だが・・・私は君が憎い。 娘を二人も君にとられてしまったんだからな」














「・・・・エリナ、ラピスを任せた。」

「・・・・分かったわ」

「頼む。 ・・・・・それから、今までありがとう。」

彼女の肩に手を乗せ、最後の挨拶をする。

もう、俺がここに戻ってくることなど無い。

俺は本当に最後の出撃に向かうのだから。

「・・・・本当にあのブラックサレナ2で行くの?」

「ああ」

「ルリちゃんと一緒に?」

「そのためにイネスに防腐処理をしてもらったんだ。 奴らをこの戦いで潰す。 そして俺は彼女達の所を目指す。 もっとも永遠に会うことなどないだろうがな」

「それで・・それで、本当にいいのアキト君!! まだ間に合う。 そんなことしなくても貴方は生きて行けるはずよ!!」

「駄目なんだよエリナ。 俺にはもう戦う理由がコレしかない。 最後の俺の生き様だ。 好きにさせてくれ。」

「馬鹿・・・本当にあなたは大馬鹿よ!!」

「それが・・・・俺だよ。」

そういって最後の戦場を目指す。

漆黒の機体と白亜の戦艦に乗って。

愛しき娘と共に。

いや・・・愛しき女性と共にか?

「ユーチャリス・・・・・・出るぞ」

『マスター、いつでも出れます。』

「ダッシュ、コレが最後の出撃だ。頼むぞ。」

AIに補助を頼みつつ、俺は艦長席に座る。

その隣には、物言わぬ妖精が一人。

俺は無言で彼女を抱き上げると、ユーチャリスの格納庫に向かう。

彼女と最後の戦いに行く。

そう・・・最後の。

ブラックサレナ2のコックピットに乗り込む。

基本的には追加装甲だったブラックサレナ。

それを再設計してフレームから組上げ、二人乗りにしたのがこの機体、ブラックサレナ2だ。

シートは二つ。

後ろの補助シートにルリちゃんを乗せ、前方のメインシートに俺が座る。

戦闘を円滑に進めるための二人のりだが、別に一人で動かしてもいいのだ。

だからこそアカツキに無理を言って作ってもらった。

ルリちゃんを連れ帰って一ヶ月の間に。

「ダッシュ、跳ぶぞ。ユーチャリス始動!!」

『了解!!』

駆動音が響く。

最終戦闘用の追加ユニットを装着したユーチャリスがその圧倒的な力を解放すべくエンジンを駆動させる。

ユーチャリスに4基、ユニットに二基の合計6機の相転移エンジンが通常の戦艦一機ではありえないほどの出力を捻り出す。

「さて・・・お前も準備だぞサレナ」

小型相転移エンジンを内蔵した機動兵器に火を入れる。

センサーアイが煌き、機体が俺の最後の戦への鎧と化す。

「さて・・・・行くか」

機体をジャンプフィールドが覆う。

そして俺のイメージを受けてフィールドが俺をボソン粒子の海に送り込んだ。









「南雲少佐!! ボソン粒子反応!! 機動兵器クラスです!!」

「・・・・ついにここに来たか。 型式照合急げ!! 防衛部隊も同時に出撃!!」

廃棄コロニーサツキミドリ。

蜥蜴戦争時代に、木連によって破壊され、そのままだった場所。

そこは今では火星の後継者の拠点になっていた。

すでに廃棄されたここには、来るような戦艦もなく、利用する者もいない。

だからこそ、このコロニーは彼らのアジト足り得た。

もしものときのために改修し、力を蓄えていた彼ら。

そんな所にたった一機で迫ってくる存在。

南雲にはあの男しか考えられなかった。

モニターに現われた漆黒の機動兵器に目を向ける。

そこにはあの男が乗っていた機体に似た物が存在していた。

「我々を断罪しに来たか。 閣下の理想を阻むテロリスト風情が!!」

司令室に木霊する南雲の怒り。

「テンカワ・アキト!!」

魔女の親にして我々の拠点をいくつも潰してきた最悪の存在。

もう、ここが最後のアジトだ。

私達にはもう後がない。

「全軍絶対に奴を落とせ!! 私も出る!!」

南雲は信頼できる部下に指揮を任せて、先陣に立つべく格納庫に向かった。
 







目の前には廃棄コロニー。

そしてそこから出てくる数々の敵。

木連式戦艦、統合軍の戦艦。

エステバリス、ステルンクーゲル、六連、中には量産型と思われる夜天光の姿もある。

時代遅れのダイマジンや、テツジンまである始末。

あの火星の後継者の騒乱のさなか、草壁についた奴らの生き残りのゴミども。

そいつらが俺一機に群がってくる。

統一性の無いその軍団は徹底的に俺を目の敵にしてくる。

「いいぞ・・・・もっと来い。 出て来い!! 俺に殺されに出て来い!!」

接近してきた敵にフィールドを前回にして突っ込む。

爆発的に体にかかるGを無視して、俺はサレナの拳を突出していた一機に叩き込む。

強固なフィールドのため、そいつが撃ち出すライフルなどサレナには効きはしない。

グシャ!!

コックピットを抉るような一撃。

それで一機が機能を停止する。

腕に突き刺さったそれを盾にして、俺は左手のカノン砲を撃つ。


ドドン!!

編隊を組んでフォーメーションで迫ってくる奴らを次々と落とす。

カノン砲の一撃で吹き飛んでいく敵機。

勿論全てコックピット狙いだ。

生かすつもりも無い。

「落ちろ・・・落ちろ・・・・・・・・・落ちろぉぉぉぉぉぉぉ!!」

サレナ2の武装の全てが唸りをあげる。

背中のバックパックから展開された四つの砲門。

それから発射される弾丸が敵のフィールドを易々と貫いていく。

両肩二門、腰部にヴェスバー状に展開されたディストーションレールガン。

ディストーションフィールドを圧縮して生成した弾丸を電磁力で撃ち出す兵器。

ほぼ無尽蔵にエネルギーがある限り撃ち出せるこれは、多対一のために作ってもらった代物だ。

それらが別々の獲物を狙う。

実体弾のようにディストーションフィールドを貫通するこれからは避けるしか手がない。

だが・・・俺の狙いから逃げられると思うな!!

強力な火器管制システム、簡易型オモイカネを積んでいるこいつのサポートに、俺の技術がプラスされ全てを撃ち落す。

超高速機動と、弾幕を併用して敵を次々と落とす。

ミサイルの雨に右手の敵機をぶつけ、お返しにカノン砲の雨で返礼。

戦艦からの援護射撃など、俺には当たらないし機動兵器クラスの攻撃など怖くない。

ほとんどの実力者が捕らえられて、奴らの中にエースと呼べるような存在などほとんどいないのだ。

「貴様らを許す世界などない!!」

俺は悲しみを、そして怒りをこいつらにぶつける。

延々と途切れることも無く馬鹿みたいに突っ込んでくるこいつらを相手に。

たった一機だろうと、俺は貴様らを断罪する!!

奪われる者の悲しみを、力によってもたらされる屈辱と略奪を貴様らに!!

貴様らに味あわせる!!

(ダッシュ!! 準備はいいな!!)

(マスター、チャージはほぼ終了しています。いつでもどうぞ)

リンクによって会話をしつつ、敵を蹴散らす。

(そうかなら・・・・)

「ちぃ!!」

嫌な殺気が俺が先ほどまでいた場所を通り過ぎる。

俺に向けて放たれるプレッシャー。

回避行動に瞬時に移行したためにかわす事ができたが、俺のいた地点を精度の高い射撃が襲っていた。

「夜天光? ・・・今更どこの誰だ?」

単なる雑兵にはそれは扱えない。

このブラックサレナと同じで極限まで体を鍛えないと扱うのが困難なのだ。

「テンカワ・アキト!!! 閣下の理想を阻むテロリストがぁぁぁぁ!!」

「この声・・・・南雲か!!」

錫杖を振り上げて高スピードで突っ込んでくる灰色の夜天光。

左手にはレールガンがあることから、先ほどの射撃はこの男だろう。

なるほど・・こいつならそれを扱えるのも納得だ。

振り下ろされる錫杖を、腰に刺していたイミディエットブレードで受け止める。

「貴様も電子の妖精の後を追うか!!」

ゼロ距離でレールガンがサレナの胸部に向けられる。

それをブレードを持っていないカノン砲の銃身で外に反らす。

瞬間、レールガンから破壊の一撃が発射され、サレナの装甲を抉り取る。

「安心しろ。それは全てが終わった後だ!! 貴様達を駆逐した後のなぁ!!」

4連のディストーションレールガンを南雲に向けつつ、俺はサレナで力ずくに奴を吹き飛ばす。

奴が射程に入った瞬間掃射。

放たれたレールガンが南雲を襲う。

だが、奴はいち早く体勢を整えると、ロールしながら俺の砲撃をかわしていく。

北辰たちが使っていた傀儡舞に近いその動きは、ことごとく俺の砲撃をかわす。

その後ろでは、後継者の奴らが数機俺が放った弾丸によってスクラップと化した。

南雲が俺から離れたことで俺に一斉に射撃が向けられる。

ミサイル、レールガン、機銃、ありとあらゆる兵器が俺を狙う。

「うっとおしい!!」

俺も傀儡舞を再現してそれらを回避する。

ロールしながら、不規則に、そして正確に周りの雑魚どもを落とすべく狙いを定めた。

右手のブレードも収納し、4つの砲門とあわせて、二門のカノン砲を発射。

『警告!! 敵戦艦に高エネルギー反応!!』

サレナの管制AIの報告。

俺はレーダーで確認するとすぐに、機体を射程外に向ける。

強力な機体だが、それでも戦艦のグラビティブラストを食らうわけにはいかない。

「ジャンプ!!」

瞬間ボソンの光に包まれて、俺は戦艦群の頭上に出現。

「邪魔をするなぁ!!」

急に現われた俺に対処できることも無く、戦艦が沈む。

一機、二機、・・・・・数えるのも面倒な数だ。

「A級ジャンパーを敵に回した意味を教えてやる」

跳ぶ。

跳ぶ。

跳ぶ。

サレナが敵戦艦のフィールドの内部に。

抵抗らしい抵抗もできない戦艦。

他の機動兵器にも成す術がない。

なぜなら、戦艦が展開しているフィールドが俺を守っているのだから。

奴らには味方戦艦が沈んでいく様を見ていることしかできない。

爆発炎上。

そのたびに戦艦がスクラップと化す。

「く・・・・その力を管理することが我々の目的だというのに!! なぜ貴様がそれを!!」

南雲の叫びが俺のサレナの通信から聞こえる。

「なぜ貴様がそれを自由にできる!! なぜその力を持ちながら閣下の理想を阻む!!」

冗談じゃない。

この力なんか俺にはいらなかった。

俺が欲しかったのは平穏だ。

料理人となってユリカと、ルリちゃんと暮らすことだった。

小さなラーメンの屋台でもそれだけで、俺は幸せだったんだ!!

それを奪った貴様らに俺が協力?

ふざけるな!!

ふざけるなよ!!

貴様らの理想など!!

俺が絶対に認めない!!

ユリカを遺跡に接続して生態ユニットにした奴らに・・・・。

ルリちゃんの力を恐れて暗殺するような奴らの理想など!!

俺が認めるわけがない!!!

(ダッシュ!! イメージを送る・・・・来い!!!)

(了解・・イメージ・・・・・来ましたジャンプします!!)

俺のイメージをリンクで受け取ったユーチャリス。

それが、戦場に現われる。

俺が引き付けた敵の反対側に。

これはアマテラスの再現のようなものだ。

違うことがあるとすれば、俺がサツキミドリに突入する気が無いことだけ。

そして、ユーチャリスの狙いが浮き足立った戦艦どもではないことだ。





「く・・・やはりきたか。」

テンカワ・アキトの攻撃は凄まじかった。

突破される包囲網。

私の夜天光でも相手が悪いかもしれん。

だが・・・私はやられるわけにはいかん!!

奴の戦艦が現われた瞬間、私は奴をほって置いてまず、その戦艦を落とすことにした。

今、奴の周囲をグラビティブラストで吹き飛ばされるわけには行かない。

同胞が必死の覚悟で奴に向かっているのだから。

「断じて撃たせるわけには行かん!!」

距離は遠い。

間に合うか?

「否、間に合わせてみせる!!」

徐徐に強くなっていく敵戦艦のエネルギー反応。

そして、発進してくるバッタたち。

我々の兵器を改良、強化して放つそれは木連時代の戦艦を彷彿させる。

「邪魔をするなぁ!!」

体当たりしてくるバッタ。

機銃を放ってくるバッタがしつこく私の夜天光の行く手を阻む。

「このままでは・・・・・!?」

そのとき、それは発射された。

禁断の兵器。

核と同じく、戦略兵器に認定されて封印されていたあの武装が。

白亜の戦艦が青白く光る何かを発射した。

私は最初それが何かが分からなかった。

だが・・・・背後からする爆発的な閃光。

私の背後にあるのは廃棄コロニーだ。

閃光に驚いてモニターを確認した瞬間、私は体から力が抜けた。

「わ・・・我らのアジトが・・・殲滅? 馬鹿な!! たかだか戦艦の一撃で消滅だと?」

そのとき私は絶望のふちの中で思い出した。

唯一それが可能な兵器の存在を。

蜥蜴戦争終結後、その余りの威力に核同様にして封印されたはずの戦略兵器。

「まさか・・・相転移砲だと!!」

それしか考えられない。

核の光でもない。

放射線も計測されてはないのだから。

「ふふ・・・ふははははははは!!」

そこまで・・そこまでするか。

いいだろう。

これでもう火星の後継者は存在できん。

しかし・・・貴様だけは。

貴様だけは黄泉路へと付き合ってもらうぞ!!

私の中で何かが弾けた。

私の行く手を阻むバッタども。

だが、それがどうした?

邪魔ならば切り捨てるのみ!!









(ダッシュ、残りはお前の判断で破壊しろ)

(・・・・了解。マスター。よい最後を)

(ああ・・・・お前もな。いままでありがとう)

(いえ・・・それでは)

ユーチャリスとの別れもそこそこに、俺は呆然と突っ立っている馬鹿の掃除を開始。

サツキミドリを失ったことで、奴らは完全に士気を低下させている。

いつユーチャリスによって自分達が消滅させられるかもしれないという恐怖を抱いたまま。


「随分と余裕だな。 そんなに死にたいのか? なら、そのまま死をまて!!」

六つの砲門が唸る。

撃墜数などもう数え切れない。

すでに百機以上は落としただろう。

ハイになっていく自分の意識。

今、俺は酔っている。

奴らを蹂躙しているという事実に。

俺から幸せを奪った奴らを殺していくという行為に。

だが、数機は諦めが悪い奴らがいる。

そう・・あの南雲のように。

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

怒声が聞こえる。

うるさい。

黙れ。

「消えろテンカワ・アキト!! このシンジョウ・アリトモが閣下の無念を晴らす!!」

例によって奴らのなかで一番の最高性能機、夜天光。

握られているのは二本の錫杖。

熱血育ちの木連の奴らは、格闘戦がお好みのようだ。

馬鹿が・・。

俺は距離をとりつつ、カノン砲だけをそいつに向けて発射する。

残りは雑魚の掃除用だ。

ランダムブーストでかわし、接近しようとするシンジョウ。

「く!! 正々堂々と戦え!! テンカワ・アキト!!」

正々堂々だと?

笑わせてくれる。

貴様らの行いの何処に正々堂々があった?

そういうのはスポーツの中だけにするんだな。

延々と追い続けてくるシンジョウに辟易しながらも、俺は掃除を続ける。

特に、逃げ出そうとする奴から徹底的に。

冗談じゃない。

逃がすわけ無いだろう?

誰一人ここから生かして返さない。

「ルリの痛みを味わえ!!」

次々と咲いては消える光が、漆黒の宇宙を照らしては消えていく。

人々の命を糧に咲く花の、なんと綺麗なことか。

「さて・・・ん?」

遥か彼方に見えるユーチャリス。

大量のバッタの放出で艦を守りつつ、戦艦の密集地点にグラビティブラストを叩き込む。

だが、それに変化があった。

ユーチャリスと追加ユニットが分離したのだ。

「・・・・そうか。」

遠めに見えるのは南雲の夜天光と、その部下達。

ユーチャリスに群がるが如く、その数は増していく。

数秒後、追加ユニットが周囲の空間を相転移しながら爆発した。

どうやらユーチャリスも限界のようだな。

今の相転移でかなりの敵を吹き飛ばしたとはいえ、それでも敵の数は多い。

(マスター・・・お先に失礼します。)

(そうか。)

(最後に、ジャンプさせてくれませんか? 敵戦艦の中心部に)

(・・・・わかった。)

イメージをリンクで送り出す。

所々で小爆発を起こしているユーチャリス。

それが、急激にエネルギーを得る。

エンジンをオーバードライブさせているのだ。

減衰したディストーションフィールドがその高エネルギーの支えを受けてもち直す。

(じゃあな・・ユーチャリス。ダッシュ・・・今までご苦労様)

(さようなら・・・・マスター)

大質量の物体が消える。

そして、次に現われたきには奴らにはその姿が死神に見えたころだろう。

ユーチャリスの最後の姿を視界に納めながら、俺は戦う。

良き相棒の最後の姿。

それを目に刻みこみながら。

やがて、現われた戦艦は、すぐに内部から崩壊しつつ全周囲を強制的に相転移させた。

超大規模な自爆だ。

ユーチャリスの命を犠牲にしたそれは、敵艦隊の中心部を根こそぎ消滅さえるほどのもの。

もう・・戦艦はいない。

後は機動兵器だけ。

そう・・・後は俺の時間だ。

(ユーチャリス、ダッシュ・・・ありがとう)

礼もそこそこに、俺は敵へと向かう。

奴らにはもう逃げる手段など無い。

たかだか機動兵器の航続距離はそんなに無いからだ。

ブラックサレナ2ほどのエンジンと永続性のある機体ならば別だが、奴らのエンジンのほとんどがそれに及ばない。

ジェネレーターの出力からして違うし、燃料が持つまい。

俺はレーダーで残りの敵機を確認する。

敵はあと43機。

そのほとんどが、雑魚ではない。

17機が夜天光。

23機が六連。

そして三機のステルンクーゲル。

生き残った奴だ。

最後の最後まで徹底的に俺を責めてくるはずだ。

いいだろう。

全部落とす。

弾が切れたカノン砲二つを肩のショルダーガードにしまい、両手にイミディエットブレードを装備。

ディストーションレールガンはまだ持つ。

弾切れなどないし、まだまだ砲身の疲労も軽微だ。

俺自身の疲弊も、上がりまくったテンションのおかげで全くといっていいほどに感じられない。

敵はほとんどが弾切れのために射撃兵器を捨てている。

群がってくる敵。

ステルンクーゲルが残った残弾を全て吐き出すようにして射撃をしてくる。

俺はそれを交わしながら、お返しとばかりに、ディストーションレールガンで撃墜。

射撃時の隙を狙って突っ込んでくる六連たち。

俺を取り囲もうようにして迫ってくる。

「うざいんだよ!!」

ほぼ同時に7機が仕掛けてくる。

前後左右、上下から、ありとあらゆる角度から迫ってくる。

サレナの加速力で一気に正面の機体に突っ込む。

こちらの機動性を甘く見ていた敵が、錫杖を振り上げているが遅い!!

ブレードを一閃。

敵の胴体部を二つに切り裂く。

左腕のブレードを敵の上半身に突き刺し、それを後ろから迫っていた奴らにブン投げる。

六機が避ける。

そこにすかさず、狙っていたレールガンで叩き落す。

二機の生き残った奴らが今度は上下から迫ってくる。

レールガンの射程からすれば近すぎる。

即座に右側に回避。

すれ違いつつ、後ろから上の奴を撃破。

通り過ぎて反転してくる奴に、レールガンを撃つ。

そしてその反動と逆噴射で急速後退。

俺がいた場所に横から向かってきていた一機の攻撃をかわし、背後から切り裂く。

「黙ってやられろぉぉぉ!!」

仕掛けてくる敵機に休むことなく砲身を向ける。

フルロックの一斉掃射で六連の集団に撃ち込む。

全速後退。

一度不利な敵集団圏から離脱。

その間にも敵を落とすことを忘れない。

連続発射に唸る砲身。

ステータスに目を向けると、連続発射での熱がレールガンの砲身にたまってきていた。

「まだいける!!」

警告がでているがまだいけると判断。

後退の射撃によってさらに7機撃墜。

レーダー確認、夜天光9機、六連13機!!

ここで、機体を前に加速。

体が軋むようなG。

だが、かまわない。

悲鳴なら好きなだけ上げろ!!

どうせコレが最後だ!!

加速しつつ、敵集団に射撃。

一気に散開して俺を警戒する敵たち。

その中で、比較的弱い奴から狙いを絞る。

常に二機でフォーメーションをとるようにしたようで、11組がある。

そのなかでも端からターゲットにする。

六連二機。

レールガンの掃射で二機撃墜。

反転しつつ回避。

両サイドから迫る二組。

夜天光と六連が二機ずつ。

その四機が一斉に錫杖を投げる。

ブレードで二本はじきとばし、残りを回避する。

その隙に迫ってくる4機。

ディストーションフィールドを纏った拳が4つ俺を狙ってくる。

「くらえ!! テンカワ・アキトぉぉぉぉ!!」

誰かの叫びが聞こえる。

だが、俺には極度の集中のためにもうほとんど聞こえはしない。

迫りくる拳。

タイミングがややずれた、完璧な時間差アタック。

咄嗟に俺は二本のブレードを投げる。

防御を捨てて迫ってきた二機を串刺し。

残り二つをフィールドを纏った拳で受け止め・・・・流す。

そして、はじいたことでその辺りに浮遊していた二本の錫杖を引っつかみ、後ろに流れた二機に投擲。

例によって狙いはコックピットだ。

それだけで動きを止める二機。

咄嗟にフィールドを展開したようだが、この錫杖にはフィルドキャンセラーがある。

奴らの最後の抵抗は無益だった。

残り、16!!

その中で二機だけ戦列から離れて様子を見ているが、俺にはどうでもよかった。

すぐに相手をしてやる。

砲身の熱がやや冷却され警告ぎりぎりの熱量のレールガン。

それを再度奴らに向ける。

電磁力で加速されたフィールド弾。

フルロックで接近してきた奴らを落とす。

4機撃破!!

だが、それは死を理解した囮。

その4機の後ろに爆炎を利用して接近してくる2機。

そして全ての角度から8機が突っ込んできた。

逃げ場など無いほどに投擲される錫杖。

計10本の錫杖が俺を狙う。

逃げ場など無い。

ブレードも失ったおかげで防ぐ手立てもない。

やられる? いや・・・まだだ!!

まだ!!

完全に冷却がすんでいないレールガンを4機の敵に向けて放つ。

それで4つの錫杖を吹き飛ばし、射線上にいた4機を撃墜。

強引に姿勢を制御し、全ての錫杖に向けて、そのレールガンの砲身を操って身代わりにしてブチ当てる。

砕け散る砲身と反動で吹き飛んでいく錫杖。

だが、それで十分だった。

できた死角に機体を滑り込ませつつ、迫ってくる六機の迎撃にでる。

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

遅れ気味に迫っていた錫杖二本を強引に掴みとり、相対していた機体を叩く。

ボゴン!!

ブレードと違い、鈍重な激突音。

二本の錫杖での一撃で爆発する二機を尻目に、すぐに下方向に機体を移動。

4機が追撃してくる。

それに回避行動からの攻撃で迎撃。

唸る錫上。

陥没する敵機の胸部。

中のパイロットを無残に潰すような一撃。

刺さった錫杖に縫いとめられた機体を掲げ、二機の拳の盾とする。

接触する盾と敵の拳。

ディストーションフィールドを全開に展開し、至近距離の機体の爆発に耐える。

吹き飛ばされる自機と二機の敵。

「損傷は軽微!!」

爆発の衝撃で乱れるモニター。

だが、それも一瞬に修正され、元のクリアな情報を俺に伝える。

立ち直ったのはやはり俺が先だ。

根元から折れた錫杖二本を投げ捨て、二機に突貫。

フィールドを纏った拳が敵を貫く。

貫かれた敵機を蹴り飛ばして、腕を抜く。

そこへ迫るもう一機。

「見え見えなんだよ!!」

後ろから迫る拳。

左のストレートを、右に避け、左手でその腕を掴み取ったままゼロ距離から、急旋回しつつコックピットに向けて右の肘打ち。

拉げ潰される胸部。

中のパイロットはミンチだな。

持っていた左腕をそのまま振り回し、機体の力で戦列から離れて様子を見ていた二機にブン投げる。

挑発だ。

「さっさと来い。シンジョウ、南雲。 貴様らで最後だ」

「・・・・人の執念か」

「我らの理想もここまで。 だが・・・絶対に貴様だけは許さん!!」

「御託はいい。 さっさとこい!!」

「「言われるまでもない!!」」

同時に動き出す二機の夜天光。

さきほどの奴らなどよりも、大きなプレッシャーが俺に向かって浴びせられる。

サレナを向かわせつつ、俺も全速で機体を加速させた。

純粋なる怒りと殺意。

そして奴らをようやく殺せる歓喜を内包して。

(俺は狂っているのか?)

その問いは誰に向けられたものだったのか?

それは分からない。

分からないが、今はどうでもいい問題だ。

狂っていたとしても、正気だったとしても。

やることは変わらない。

ここで最後の幕を引く。

それが・・・・俺の役目だ。

サレナのショルダーガードから弾切れのカノン砲を両腕に装着する。

無手で奴らの錫杖を受け止めるのは自殺行為だ。

何も無いよりもまし。

高速で迫る敵機。

南雲が錫杖を投げる姿勢を見せる。

俺は瞬時に機体を回避行動をとらせ、高速で飛来するそれをかわす。

そこに迫るのはシンジョウ。

「テンカワァァァァァァ!!!」

振り下ろされる錫杖。

奴らレベルになると簡単にかわせない。

俺は両手のカノン砲を盾に自分から突っ込んだ。

バキィ!!

左腕のカノン砲が砕け、下の右腕のカノン砲にまで錫杖が達する。

だが、それが機体に到達することは無い。

カノン砲のヒビに挟まった錫杖。

それをカノン砲ごと投げ捨てるようにして武器を捨てさせる。

そして開いていた左手で殴りつける。

あたる直前、自ら後方に逆噴射して威力を殺すシンジョウ。

それをお追うとしたが、俺は左からの殺気のために断念した。

「草壁閣下! バンザーーーイ!!」

それは俺の予測を超える速度でやってきた。

リミッターを切ったな? と理解した瞬間、俺に組み付く南雲。

「ちぃ!!」

右手でコックピットを潰そうとするが、巧みに機体を操って防がれる。

「なにをするつも・・・まさか!!」

「そのまさかだよテンカワ・アキト!! 地獄で会おう。 ふははははははははは!!!」

瞬間爆発する夜天光。

ゼロ距離での自爆。

俺は咄嗟に左腕を切り離し、フィールドを展開。

だが、やや遅れた。

凄まじい衝撃が機体を翻弄する。

「くそぉ!!」

衝撃によって消えそうになる意識を必死に繋ぎとめ、機体を制御する。

そして迫ってきていたシンジョウを迎撃する準備を始める。

機体のAIがほぼ自動で慣性を制御して姿勢を保つ。

機体をシンジョウのほうに向けたとき、奴もリミッターを切って突撃してきた。

捕まれば今度こそやばい!!

スラスターを吹かして距離を一度とろうとするが、サレナのスラスターはピクリともしなかった。

南雲の自爆が思ったよりもメインスラスターに影響を与えていたようだ。

迎撃するしかない!!

「テンカワ!! お前も俺と一緒に南雲の待つ地獄に来い!!」

「断る!!」

動くのは両足と右腕。

そして、姿勢制御のスラスターのみ。

どうする!!

考える俺。

だが、もうそんなに距離がない。

このまま何もできなければ俺は奴に殺される。

殺される?

だが、奴の狙いは自爆だ。

最後の奴も死ぬ。

それでいいんじゃないのか?

俺の目的は奴らの命。

だからここで死んでも、結果は変わらないだろう?

そうだ・・・ならこれで俺の目的は達成される。

なんだ・・・満足できる内容じゃないか。

「これで・・・最後だったな。」

迫りくる夜天光。

「とうとう諦めおったかテンカワ。 潔く俺と地獄に来い!!」

これで・・・・終わりだ。

何もかも。

そう・・終わりなんだ。








『ふざけるな!! 汝はそれで満足なのか!! 後ろに覇道の小娘を乗せたまま、敵に蹂躙されるのが満足なのか? それでも汝は、大十字九朗なのか!!』








それは、どこからともなく聞こえてきた。

昔、ずっと昔にどこかで聞いたことのある古本娘の叫び声。

その言葉に触発されたのか、俺は無意識に後ろを振り返った。

そこにあるのはコックピットの補助シートで眠る妖精の姿。

全てが終わったら帰るからそれまで待っていてくれと勝手に自分に課した俺が、帰るべき場所だと考えた俺の居場所の象徴。

それが・・・奴らに蹂躙される?

冗談じゃない!!

そうだ・・・・俺は何を・・・・何を考えていた?

『シャンタクを貸してやる。 さっさと敵を倒さんか九朗!!』

迫りくる夜天光。

諦めかけていた俺は、無意識にスラスターを最大噴射する。

本当ならば姿勢制御ぐらいしか反応しないはずのスラスターが反応した。

「翼だと!?」

シンジョウの驚愕の声が聞える。

再び高速機動を取り戻したサレナ。

武器は、フィールドを使った接近攻撃しかない。

射撃兵器が無い今、それだけで自爆を覚悟している敵を仕留めなければならない。

(フィールドを使った攻撃で自爆される前に破壊できるか? いや・・・できるはずだアレの力でやれたんだから・・・。 なら・・・後は一か八かだ!!)

「断鎖術式一号ティマイオス、二号クリティアス開放!!」

ディストーションフィールドを脚部に集中させながら叫ぶ。

本来以外の使い方をされるフィールドが俺の送るイメージに抵抗してくるが、強引なイメージングで機能させる。

一度距離をとり、向かってくるシンジョウに機体を反転。

超高速の突撃を敢行する。

いつのまにかサレナの背面に存在するシャンタクと呼ばれる、彼女の機体の追加ユニットであるうろこ状の翼と、ディストーションフィールドの力で空間に発生した歪みが元に戻る力を操作し、機体の推進力として爆発的なエネルギーを得る。

「いい加減に観念しろぉぉ!!」

「シンジョウ、俺は・・・俺は貴様らにやられるわけにはいかないんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

推進力にした両足のディストーションエネルギーを再び収束。

今度はそのエネルギーで持って相手を破壊する力に昇華させる。

「くらぇぇぇぇぇ!! アトランティス・・・・ストライクゥゥゥゥゥ!!!!!」

右足にフルパワーのディストーションフィールドを収束し、必殺の蹴りとして叩き込んだ。

蹴りのインパクトの瞬間に、全てのディストーション(空間の歪み)が元に戻るときの莫大な破壊エネルギーを相手に直接開放する。

「これは・・いった・・・・・・・」

ズガァァァァァァァン!!!!

シンジョウの言葉が最後まで紡がれることもなく、夜天光は跡形もなく消し飛んだ。

だが、この攻撃はサレナの右足にも甚大な被害を催していた。

専用のシールドもないこの機体で放った代償か。

「はあ・・・はあ・・・・はあ・・・・・」

呼吸が荒い。

最後の一撃にはかなりの精神力を消費したのだ。

サレナの機構にない方法でフィールドを使ったツケが疲労という形で俺に出た。

それに、長期にわたって戦い続けたせいだろう。

疲れた体に鞭打って、俺は辺りを索敵する。

レーダーに反応なし。

全て・・・終わった。

IFSコンソールから両手を離して、シートに体を預ける。

しばらくそうしていたが、呼吸が元に戻った後に俺はシートベルトを外し、後ろにいるルリの方に向かう。

サレナに取り付けた強力な慣性制御システムのおかげで、彼女には俺ほどのGによる負担はかからなかったはずだ。

俺の分までエネルギーをまわしていたからな。

「終わったよ。ルリちゃん・・・」

彼女のシートベルトを外し、ヘルメットを被せる。

俺自身も宇宙用のメットを被った後にコックピットを開放した。

カシューーーー。

ピット内の空気が漏れ出していく。

その流れに身を任せて、俺は彼女と共に外に出た。

「じゃあな・・・・ブラックサレナ2。 お前のおかげでここまでやれた。 感謝してるよ」

漆黒の宇宙の中、彼女を抱いて漂う。

なぜか、無性にそうしたかった。

多分、それが彼女をここまで連れてきた俺の願い。

そう・・・俺はせめて誰か大切な人と一緒に最後を迎えたかったのだろう。

だから・・・ここまで付き合ってもらった。

この深遠なる無限大の宇宙は一人じゃ寂しすぎるのだから。

「寂しいだけじゃないな。 ・・・・ここは一人じゃ寒すぎるんだ」

星達の煌きを眺めながら一人ごちる。

そう・・・ここは本当に寒い。

何だか眠くなってきたな。

よっぽど疲れてるのだろう。

今まで生きてきた中で最長の戦闘時間だったのだから、体が休息を求めている。

「ルリちゃん・・・せめて俺もそっちに行けたらいいんだけどね。 ・・・・無理だよな」

叶わぬ望みと知りつつもつい思ってしまう。

考えたとしてもどうしようもないのに。

それに、地獄も天国もあればの話でしかない。

そんな都合のいい物があるわけないのだ。

死んだら終わりという恐怖を人が無意識に未来があるように考えた結果生まれたのだから。

確かめたことなんか無いけど、俺には死は全ての終わりだとここに来て悟った。

だって、こんなにもここは冷たいのだから。

「お休み・・・ルリちゃん」

起きているのに疲れた。

このまま君と眠らせてくれ。







『汝はそれでいいのか?』







まただ。

また、あいつの声が聞える。

あいつって誰だ?

ああ・・・・そうだ。

あいつは・・・あの娘は古本娘だ。

生意気で、俺の意思とは無関係に戦いに俺を導いた奴だ。

でも・・・あいつは俺の相棒、戦友だった。

信用できる奴だ。

『妾には、汝にもう一度やり直すチャンスを与えることができる』

なんだって?

『一度だけならチャンスをやろう。 覇道の小娘とも仲良くやれるような未来を自分の手で切り開く気があるのなら妾の名を呼べ。 九朗・・・・疲れたのならばそのまま座して死を待つのもよかろう。 だがチャンスを生かすならば心せよ!! 神殺しの汝が歩むのは、そこでもきっと戦いのある世界。 それでもなおチャンスを求めるのならば我を呼べ!! 大十字九朗!!  ・・・いや、転生した九朗。 テンカワ・アキト!!』

やり直す・・・チャンス。

戦いのある世界。

ルリにもう一度会える?

俺は・・・・。

どうすればいい?

また何かが絶対に繰り返す。

それが分かっていながら、やるのか?

どうせ悲劇は繰り返す。

どうやっても・・・・どうやったとしても。

『それだけの力を持ちながらできんと申すか? とんだ腑抜けになったものだ』

ざけんなよ。

俺が腑抜けだって?

あの時だってマスターテリオンに震えながらでも、最後まで戦った俺が腑抜け?

『そうじゃ。 そのまま逃げようなものなら、汝は妾の主と認めた男とは全くの別人だったということだ。 私の知っている汝、絶対に最後まで諦めぬ。 何が何でも守ると決めたからには守る男だ。 それが汝はなんだ? どうやっても悲劇を繰り返す? だからどうしたというのだ? あの永劫の無限ループを打ち破った男のセリフではない。 今そこにいるのは単なる腑抜けた男。テンカワ・アキトだ!!』

くそう、好き放題に言いやがって。

『それに汝はあの時も、そしてさっきもその娘のおかげで助けられておる。 それでもなお貴様は覇道の小娘が幸せにならぬような結果で満足か?』

!?

『ひどい奴だ。 何度も救われておいて、自分は救わぬのか?』

そうだ・・・・・。

古本娘の言うとおりだ。

俺は今、この結果を消すような機会を得たんだぞ?

なぜそのチャンスを得ようとしない?

姫さんが好きだったんじゃなかったのか?

この世界でも転生先のルリちゃんが最後には守りたかったんじゃないのか?

だったら・・だったら答えは目の前にある。

そういうことだろう?

俺が大十字九朗なら、しっかりやれ!!

みっともなく地べたを這いずりまわりながらも、例え最後の最後まであがき続けろ!!

テンカワ・アキト!!

『どうやら・・・どうするか結論が出たようじゃな。』

ああ・・・でたよ。

閉じた目を開き、この手にある大切な人を掴むために俺は彼女の名を呼ぶ。

「頼む!! アルーーーー!!! 俺にチャンスをくれ!!」

『よかろう。 我が主。 今一度汝と契約を結ぼう』

『「怪異なる永劫の中で死すら終焉を迎えん!!」』

俺の叫びとアルの叫びが重なる。

瞬間、俺のの手の中には一冊の古びた書物があった。

「アル・・どうすればいい?」

『妾が門を開く。 汝はそれに入ればいい。 その娘を抱いたままな』

「分かった」

『現われ給え、門にして鍵たる神よ!!』

瞬間虚空に門が現われる。

外なる神(アウターゴット)ヨグ=ソトース。

門にして鍵なる神。

全ての時空に存在せし邪神。

『よし・・・・ゆくぞ。 アキト!!』

「ああ・・・絶対に姫さん・・・瑠璃は・・ルリちゃんは俺が守る!!」

現われた神の中に俺達は向かう。

この先に希望があると信じて、あの聖句を高らかに詠いながら。

「祈りの空より来たりて!」

『切なる叫びを胸に!』 

『「我らは!! 明日への路を拓く!!」』

俺の前方に描かれるは旧き印。

五芒星の入った魔を払う印。

エルダーサイン(旧神の紋章)。

それが、宇宙を照らしながらも俺達の行く道を指し示す。

『「汝!! 無垢なる翼!! デモンベイン!!」』










最後の祝詞と共に彼らは消えた。

完全にこの世界から。

どこへ行ったのかは誰も知らない。

それは門を越えた彼らにしかわからないことだから。

ただ、言えることは。

彼が向かった先は戦いがある世界だということ。

そしてその世界では瑠璃と九朗が、

ルリとアキトの二人が絶対にいるということだけ。

全ては彼しだい。

どのような時を、世界を選ぶかは。

これは無限大の中のたった一つの可能性の話。

だけど、これはたった一つの彼らだけの物語。



















あとがき

代理人さんからの忠告を受けて、再度読み直した谷島・之斗(たにしま・ゆきと)です。

すると出てくるは出てくるは誤字の山。

・・・・恥ずかしさのあまり穴があったら入りたい気分で修正を決行。

次からは気をつけるよう誓いつつ、目を皿のようにして修正しました。

少しは読みやすくなったと思います

あくまでも読む人がいるということを意識してなかったことが失敗でした。

ノリで書いたせいですね(笑い)

ううむ。

投稿小説は奥が深いですな。

・・・・・単に私の気配りが足りなかっただけだけど。(自爆発言!!)






追伸のような補足

ブラックサレナ2のディストーションレールガンは某フリー○ムの武器をイメージしています。

イメージが湧きづらかった人はそれと似たようなモノだと解釈してください。

それではまた。