そこは冷たく、暗く、静かな場所だった。
わずかに機械が出すハム音、ピーブー音がそこに稼動中の機械があることを示す。
いや、音はそれだけではなかった。
液体が循環する音がする。なぜそんな音がするのか?
その部屋には人一人楽に入る巨大なシリンダーがいくつもあった。
聡明なAction読者なら、これだけですでにお気付きかもしれない。
そう、ここは通称<マシンチャイルド>の研究所である。
ただ一つ違うことは…

キシュッ!
部屋のドアが開き、研究者が次々に入ってくる。部屋の明かりが点き、彼らの手により待機中だった機器が稼動状態になった。
「今回の実験がミスれば、自分ら終わりっすかね?」
彼らの一人が機械を立ち上げつつ愚痴をこぼす。
「そもそも、無茶なんだよ。たった一ヶ月で基礎実験を打ち切って即座に実用試験に移るなんて!」
「どこか田舎にでも左遷になれればいいけどな。激戦区に叩き込まれたらやってられねーぜ。」
「畜生!木星蜥蜴も上層部も糞だぜ!連中のおかげで今までの研究がパアになっちまった。」
「でも、木星蜥蜴のおかげで俺らのプロジェクトにも予算がおりたんだよなぁ〜。」
「やるせねぇよな。プロジェクトの方向性まで変わっちまってよっ。もともと、実用性は度外視の長期研究だったのになぁ〜。」
「今までの成果が泡と消える瞬間は堪えるぜ。俺たちの五年間を返せってんだ。」

「やめたまえ、諸君。確かに上層部の短気のおかげで当プロジェクトは崩壊の危機に立っている。だが、実験体はまだ一体残っている。諦めるのはまだ早い。」
他の男達と一風変わった雰囲気を持つ男が口を開く。

「しかし、主任!最後の一体です。いままでの失敗も解明しきれていないのにどうしようってんですか!」
「なればこそだ。それにこの個体は、ナノマシン親和性を最優先にデザインしている。他の個体より脆弱ではあるが試験そのものに対しては、はるかに耐性があるはずだ。」
「さあ、無駄口を叩く暇で実験体と投入ナノマシンのチェックをしたまえ。君達の言う通り失敗は許されないのだ。」
主任と呼ばれた男が部下達を静かに叱咤する。
その騒ぎに釣られてか、この部屋の主が目を覚ました。
いくつもある透明なシリンダーの内、ただ一つ、中身の入っているシリンダーがあった。
そこに浮かぶ体は、僅か4、5歳ほどの少女のもの。未発達の体は病的なまでに白く、髪は光に鈍く輝く濃青、まるでガンブルー。瞳の色はしっかり金色である。
シリンダー越しにゆがんで見える彼女の風景は何に使われるのか判らない雑多な機械と軍服に白衣を着込んだ男達。少女はそれを無表情に睥睨する。

 説明が遅れたが、ここは連合軍技術研究本部、第4課、先進技術実証部門、生体工学班の研究室である。
そもそも、次世代兵士製造、育成実験計画としてスタートしたこのプロジェクトも半年前に木星蜥蜴が火星を落として以来、その性質を大幅に変えてしまった。
本来なら時間と手間と金が掛かる上に情報の隠蔽工作をしなければならないこの手の計画に、たとえ戦時であれど臨時予算が組まれ、計画が変更されるはずが無いのだが、木星蜥蜴に成す術も無く蹂躙された事実は露骨に軍上層部の理性と財布の紐を緩ませる結果となった。
資金が潤沢になり、計画も大きく推進できるかと期待されたが、大きな代償があった。上層部の矢継ぎ早で無謀な催促である。結果、史上初の成功作「星野 瑠璃」を参考にいくつかの方向性を与え、作られた少女達はたった一人を残して死んでしまった。
さて、電子戦関連なら最強になりうるマシンチャイルドだが、唯一にして最大の弱点がある。それは同年齢の存在に比べ脆弱にならざるをえない事。
人工的に生み出された者達に共通する問題点である。
それが軍という存在にとってマシンチャイルド研究に本腰になれなかった理由であり、歴史の表舞台に軍のマシンチャイルドが出てこなかった所以でもある。
ならば、彼らが研究しているのは一体何なのか?脆弱とされるマシンチャイルドで一体何をしようというのか?

「主任!ナノマシン、チェック完了。修正プログラムもダウンロード済みです。」
「実験体ALS−027、バイタル正常、投与済みナノマシンの整合性も確認済みです。」
「観測機器スタンバイ。システム、オールグリーン!」
「融合干渉端子、いつでもいけます。」
研究員が次々に準備の完了を報告する。
「よろしい。では、第16回全身ナノマシン化実験を開始する!」
シリンダー内に幾つもの針が出てくる。針にはチューブが連結されており、チューブにはなんらかの液体が満たされていた。
少女は身じろぎもせず、ただあるがままを受け入れていた。それは達観なのか諦めなのか。少女の意思は読めない。

「第一段階、脳幹ナノマシン化。開始!」
主任の声と同時に少女の後頭部に針が突き刺さる。
「脳幹ナノマシン化順調に進行中!」
少女の四肢が時折、ピク、ピク、と震えるが少女の顔に苦痛は無い、今だ無表情である。だが目は限界まで開かれ、何かに耐えてるようでもあった。
「!?進捗率低下!原因不明。どうしますか?主任!干渉端子で促進させますか?」
「促進待て!おそらく実験体が抵抗しているのだ。文字通り脳を弄くられているのだからな。抵抗の一つもあってしかるべきだろう。このまま進める。下手な干渉は危険だ。」
「了解。このままで行きます。完了は+30分を予定。」

通常、何らかの機能を持たせた常駐型ナノマシンは脳内に補助脳と呼ばれる器官を形成する。IFSが有名だろう。
それのお蔭でダイレクトにナノマシンと意思を交わしうるのだが、代償として一定以上ナノマシンを投与されれば脳を圧迫しさまざまな弊害をもたらす。
先の主任の言葉、全身ナノマシン化など行なおうとすればどうなるのか自明の理である。
ならば、どう回避すべきか?

主任と呼ばれた彼、テオドール・グルーバー中尉の答えは脳全てを補助脳に置き換える。だった。
正確には、補助脳に脳の機能を代行させる。とでもいうべきか。人の脳はその容量の三割ほどしか使われていないのは有名な話である。
ならば、そんな非効率な脳は取っ払って、ナノマシン脳に統一したほうが効率的であり、拡張性がある。と考えたのであった。
もちろん、そんな乱暴な事が簡単に出来るはずもない。
いままで失ってきた実験体はこの段階で全て、拒絶反応もしくは原因不明の死を迎えている。

ちなみに、全身ナノマシン化とは、全身にナノマシンを行き渡らせる事ではない。全身をナノマシンに置き換える事を示す。
そもそも、このプロジェクト[advance lasting soldier project(次世代永続兵士計画)]はマシンチャイルドの研究が主ではなかった。本来の目的はナノマシンによって戦闘能力を強化された兵士を生み出す事。
そして、その実験に白羽の矢が立ったのがIFS強化体質、マシンチャイルドであった。
もともとは人とナノマシンとの親和性限界と多様性を探り、次世代の基礎研究としてのサンプルデータで終わるはずだったこの計画は、木星蜥蜴とテオドール・グルーバー中尉の「将来、実現されうるナノマシン構想」という報告書によって様変わりする。
グルーバー中尉はその報告書において、ナノマシン・サイボーグたる構想を打ち上げていたのだ。今の軍上層部において、少しでも使える計画は金の卵にも思えたのだろう。もしくは、溺れる者は藁をも掴む。結果、ただの構想が今までの計画を塗りつぶし、失敗に失敗を重ね現在に至る。
グルーバー中尉の腹の内には、如何なる感情が渦巻いていたのか。5年越しの計画を磨り潰してしまった後悔か?幾人ものマシンチャイルド達を図らずとも殺してしまった慙愧の念か?思いつきで出した構想が現実のものとして形になっていく喜びか?
彼の心を蔽う科学者たる理性の仮面は硬く強固で、内心をうかがい知ることはとても出来なかった。

 そして、奇跡が…起きた。あまりに当たり前に成功した事がこの場の者達に違和感を与えなかったが、後になって、この現象が再現不能である事を知ったテオドール・グルーバー中尉は苦笑と共に語った。
「さて、何が起きたのだろうね?私の頭では解析出来んよ。唯一つ、私が言える事があるとすれば、現代科学に置いてすら人体は未知の領域だと言う事だ。きっと当時の私は実験体の少女達を生贄に未知の探索を続ける冒険者気取りの愚か者だったのだろうよ。」
この奇跡が、今後いくつかの事件を大きく変化させ本来ならば在り得なかった事態、いくつかの幸運と不幸を引き起こすのだが、それはまだ先の話。

「脳幹ナノマシン化完了!やりました!この実験体凄いです!現時点において拒絶反応ありません。完全に定着できたようです!」
「よろしい。ネルガルに頭を下げた甲斐があったというものだ。引き続き、全身ナノマシン化に移る。焦るなよ、ここから先は未知の領域だ。ゆっくりやれ。」
後頭部の針が抜かれ、少女の体に無数の針が覆いかぶさり次々に柔肌に打ち込まれる。

「……ぅ……ぁ…ぁ………。」
少女が始めて苦悶を漏らす。それは苦痛の声であると同時に、自らの体が失われてゆく、作り変えられてゆく恐怖の声のようでもあり、同時に自分にこんな仕打ちをする者達への怨嗟の声のようでもあった。
「ナノマシン化シーケンス順調展開中。完了は10時間後の予定。」
「ふむ、手の空いた者は休んでよろしい。ああ、ちゃんと五時間後には交代に来てくれよ?」
主任の言葉に従い、半数近くの男達が苦笑しつつ研究室を出てゆく。

所変わって、研究室のそばにある休憩室。
「まさか、ああもすんなりと実験が進むとは思わなかったな。」
「主任も言ってたけど、ネルガルのお蔭かねぇ?」
「ああ、ネルガルね。連中、マシンチャイルドにかけては先駆け的存在だからな。あの実験体もネルガルから譲り受けたって話だぜ?」
「お〜、その話聞いたことあるぜ!なんでも、ネルガルの新会長が生体実験否定派らしいじゃん。しかも社長陣は推進派だとかで、ネルガルって今血を血で洗う抗争の真っ只中だとか。」
「その抗争の中で会長派にばれそうになって、廃棄寸前だった実験体を主任が技術協力と称してかっぱらってきたって話なんだよな。」
「上手くいけば、あの実験体が量産されるようになるのかねぇ。」
「いや、無理だろう。マシンチャイルドは製造に時間が掛かりすぎる。軍には向かんよ。そもそも、俺たちのプロジェクトも技術検証実験でしかないからな。成功するにしても失敗するにしても試験体はもはやあの子一人だけだ。」
「どう転ぶにしても、俺たちの5年越しの研究も一段落か。」
「長かったのか、あっという間だったのか判んねーな。」
「そんなもんだろ、振り返れば短く感じるもんさっ。」
「さあ!そろそろ交代の時間だぜ?ここまで来たんだ。最後までがっちり決めてやろうじゃないか!」

「シーケンス99%完了。実験体に異状は検知出来ません!」
シリンダーの少女は、もはや針を抜かれ元の様にシリンダーに漂っている。
いや、「元の様」ではない。彼女の体は全身をナノマシン発光パターンで蔽われ光輝いている。体だけでなく髪、瞳にも発光現象は現れている。
と、次第に発光パターンは落ち着いてゆき、もとの体を取り戻していく。
「全身ナノマシン化全工程完了!実験体、バイタル正常値!成功です。主任!」
「ああ、おめでとう諸君。我々の5年間は報われた。これで不愉快な上層部にも一泡ふかせられるというものだよ。」
研究室のそこかしこから賞賛の声、喜びの声が沸き起こる。お互いに握手し、コブシを打ち付けあう者達もいる。
ただ一人、ALS−027と呼ばれた少女だけが、実験前と同じように無表情に男達を眺めていた。

機動戦艦 ナデシコ OUT・SIDE

機械仕掛けの妖精

ゴォォゥ
雲ひとつ無い空を一機の戦闘機が駆ける。
飛行機雲を後に残し、全速で空を往くその双発機は通常の戦闘機とは一線を隔したデザインをしていた。
一言で言えば、変形したW型。もしくはV字の翼の縁に機首を含めた胴体とエンジンがそれぞれくっ付いているとでも言うべきか。
角の丸い先の尖った縦に伸びた六角形の巨大な機首とも胴体ともいえる前部が機体の全長の半分以上を占め、その斜め後方それぞれに一基づつエンジンを格納した膨らみ、エンジンノズルは二次元推力可変式。
翼は特徴的な前進翼(V字型の翼の事)。それにコクピット後方にカナード(主翼前方に設置された姿勢制御用の小翼)が水平方向から斜め上に飛び出し、機体下面同位置から垂直に下へ一基付いている。
ちなみに、下へ突き出したカナードは、離着陸時、胴体に格納される。
形状も特徴的だが、この機にはさらに大きな特徴がある。コクピットが装甲で覆われているのだ。
風防が無いため外からパイロットを確認することは出来ない。
コクピット周辺に多数設置された全周囲カメラで捉えた映像をコクピット内に投影するようになっている。
全長24mに及ぶこの巨大な戦闘機はかつて、<ADF−01 ファルケン>と呼ばれていた。
少数生産され配備されたものの、全てにおいて独特で乗り手を選ぶこの機はパイロットに敬遠され倉庫で埃を被っていた。
そんな彼を再び、空に連れ戻したのは、とある部隊と一人の少女。
連合軍教導隊第6特殊実験中隊第603実験小隊とナノマシン強化試験体。ALS−027と呼ばれた少女だった。

「こちら…α−1ジャバウォック……出力…MAX…機体…異常…無し……戦闘行動…可能…」
旧ファルケン、現在はADF−01B ジャバウォックと呼ばれるこの機体に件の彼女が乗っていた。
「こちら603HQ(ヘッド・クオーター。本部の意)。了〜解だ、アリス。現速度で10分後に戦闘空域に着く。敵勢力はジョロ100、バッタ50、カトンボ1。チューリップは確認できない。アリス、大丈夫か?」
第603実験小隊、通信士が心配げな声で問う。
「問題…無い…これくらいで壊れるほど…ヤワじゃない…」
今はアリスと呼ばれる少女は平然と答える。ちなみに途切れ途切れなしゃべり方は全速力による加圧で話しにくい訳ではなく、地のしゃべり方である。
「別に体の心配だけじゃないんだけどな…まぁいい、GOOD LUCK!αー1。こんな所で死ぬなよっ!」
「…?……αー1…Tes.(テスタメント。了解の意)」
ジャバウォックは獲物を求め、天空を駆け抜ける。

 先の実験から4ヵ月後、アリスは様々な検査、試験、訓練をパスし実用評価試験に移った。だが、そこで計画は大きく頓挫することになった。
現行の兵器ではアリスのスペックを生かしきれないのである。

ちなみにアリスの体は12歳前後まで成長させてある。ナノマシンで構成されるアリスの体は必要な養分、構成材と身体データがあればどのような体型にでも出来る。もっとも、精神にどのような影響を及ぼすかまったく判らない為、姿形はオリジナルのまま成長させてある。
何故、12歳で20代ではないのか?それはアリスの精神年齢が今だ5歳だからである。下手に二次性徴期を超えた体を与えたらやはり、どうなるか判らない。一次性徴期頃が限界なのである。だから、アリスはこれでもかというほどスレンダーな体型である(汗)
どうしてそんな面倒くさい真似をするのか?確かに五歳児の体でもアリスは戦闘可能だが基本的に道具というものは成人が扱える様に設計されている。やはり、最低10代前半の体格が欲しい。つまり、とことん妥協の産物である。けしてテオドール・グルーバーがロリコンな訳ではない。断じて…無い…はず。

さて…誰にでも、簡単に扱え、同じ戦果を発揮する。それが兵器の兵器たるあり方だ。しかし、いまや超人一歩手前なアリスにとってはそれが足かせとなってしまうのだ。
唯一、ネルガルから譲られたエステバリス先行試作型がアリスの可能性を開花させるかと思われたが、今度はアリスの設計コンセプトとエステバリスの設計コンセプトが噛み違う事になった。
アリスは、可能な限り長期間戦闘能力を維持し戦い続ける。それが基本コンセプトであり、その真髄は長距離強攻突撃。単騎で敵陣を蹂躙し敵中枢を撃破。もしくは敵を壊乱させる。
その為にアリスは各種乗り物の運転技術をマスターし、万が一敵陣で乗機を失っても白兵戦を行ないうる戦闘能力を与えられている。
対してエステバリスは拠点防衛がメインである。もちろん、エステバリスにも強襲作戦は可能であるが、常にバッテリー容量に悩ませられる。
アリスの乗機とするには、エステバリスは息が上がりやす過ぎるのだ。そこでアリス・カスタムをと言う意見も出たが、教導隊の新人パイロット教習用である貴重な先行試作機をくれてやる訳には行かない。となり、エステは見送られたのだった。
そこで、発想の転換が出た。 「並みの兵器でダメならば、乗り手を選ぶ兵器、お蔵入りになった失敗作に目を向けてはどうか?」 アリスと共に第603実験小隊に配属された「主任」テオドール・グルーバー中尉の意見である。
そこで資料を洗い出した結果、一機の戦闘機が候補に挙がったのであった。
第603実験小隊の実態は整備兵小隊だ。改善の余地がある機の問題点を洗い出し、その場で改良し、より完璧に仕上げる。当然その結果はメーカーにフィードバックされ量産機の能力向上に貢献する。
かつてはメーカーの仕事であった。だが、技術革新は次世代機の一号機ロールアウトまでに掛かる年月を増大させる一方であり、もはや、ユーザーに丸投げ状態である。まるでWindows XPのように。
ウリバタケ・セイヤ率いるナデシコ整備班の信じられない柔軟性には、各メーカーから卸される不完全な製品を弄り続けた経験。という事情があったのかもしれない。

閑話休題

それから二ヶ月後。

 大空を翔るジャバウォック、光を照り返す美しいガンメタリックの外装と対称的にコクピット内は暗い。光点はアリスの両手のIFSタトゥーからのみである。
アリスの目は閉じられている。それでどうやって操縦しているのか?
答えはナノマシンで構成されているアリスの特性にある。云わばIFSが服を着て歩いているようなアリスは、イメージを介することなくダイレクトに機械と交信可能なのである。もはやIFSではなくDFS(ダイレクト・フィードバック・システム)である。
IFS端子に手を触れさえすれば、カメラ映像を自分の目として認識し、翼とその制御系を自分の手と認識し、エンジンとその制御系を自分の足と認識出来るのである。もちろん、武装もだ。
マクロス・プラスに出てきたYF−21の脳波コントロールシステム、初登場離陸時の映像がイメージとして判りやすいかもしれない。

と、眼下に広がる光景に多数の不純物が混ざる。木星蜥蜴、603HQ通信士が言っていた目標である。
光一つ無いコクピットの中、ハーネスに体を固定したアリスは目を閉じたまま、口を開いた。 「…エネミー・タリホー(敵機、目視で確認)…テン・オ・クロック(十時方向)…ヘッド・オン(相対位置に付いた)…エンゲージ(攻撃に移る)…」
機載コンピュータがアリスに答える。
〔ARMED・AND・READY…ALL・WEAPON'S・FREE…LET'S・GO!ROCK'N−ROLL!…ALS♪〕(準備完了。全兵装使用可能。さぁいこう!踊り狂おう!アリス♪)
どうやら、このコンピュータはやたら陽気なようだった。このコンピュータの名は「WILL」。アリスの操縦を手助けし、戦術情報を提示し兵装情報を一括して処理する。まだまだ幼いアリスの心強い相棒である。

 獲物に襲い掛かる猛禽そのままに目標に向け緩やかに降下を開始する。
接近するジャバウォックに気付いた木星蜥蜴は直ちにカトンボをジャバウォックと正対させる。と同時にグラビティー・ブラストを照射した!
ゴッッ!!
ジャバウォックのコクピットを掠めて、不可視の黒い光線は飛び去る。 大きくバレル・ロール(コルク抜きをなぞるように飛ぶ空戦機動)してギリギリ、グラビティー・ブラストを回避したアリスは再びカトンボに向かって突進する!
「レール・カノン…展開…」
〔Roger…RALL・CANON…STAND−BY〕(ラジャー。レール・カノン、スタンバイ)
胴体が上下に口を開く。水平に開かれたスリットの付け根に砲身が覗く。まるで翼竜が口を開いたかのような姿。スリットが帯電を始め、発射体勢が整う。
Pi!Pi!Pi!
レーダーが目標を捉え、ロックする。もはや、獲物は逃れられない。
「目標…カトンボ……斉射…三連…」
ドッ!ドッ!ドッ!
軽快に飛び出した弾頭が超音速でカトンボに迫る!
カトンボはすでにディストーション・フィールドを強化していたが、レール・カノンの衝撃はフィールドを超え船体を揺らす。だが、それだけだ。カトンボはその特徴的な船体を空に誇示し続けている。
アリスは眉を僅かに顰めつつ、再攻撃に移る。
ドドドドドドドドドド!
怒涛の様に叩き込まれる砲弾には流石のディストーション・フィールドも歯が立たなかった。あっという間に貫通し、船体各所に被弾する。
高速で接近したジャバウォックがカトンボと至近距離を交差する!
大きく上昇旋回する無傷のジャバウォック。対照的に穴だらけになり、至る所から炎を吐き出すカトンボは断末魔を上げつつ大地に突き刺さった。
この間、僅か20秒。木星蜥蜴はあっという間に主戦力を失い、烏合の衆と化した。
「レール・カノン…残弾…17発…精密射撃モードへ移行…」
〔ALL・RIGHT!…PRECISION・SHOOT・MODE〕(全て良し!精密射撃モード)
ジョロたちは健気に編隊を組み、ジャバウォックを迎え撃とうとするがジャバウォックのレール・カノンは一発で複数のジョロを巻き込み破壊の渦に叩き込む!
圧倒的加速力と火力で敵を翻弄するジャバウォックだったが、そう全てが順調に進む訳がなかった。
「レール・カノン…残弾…ゼロ……残兵装…短距離ミサイル、0…クラスター爆弾、1…30mm機関砲、800発…ちょっと…撃ちすぎた…かも…」
〔NEGATIVE!…FIGHT−ON・AS−YET!〕(まさか!まだ戦える!)
いまだジョロは60機以上、バッタは手付かずである。
「…なら…高機動モード…ディストーション・フィールド…出力全開…」
〔O.K.NOW・YOU'RE・TALKING!ALS!!…GRAVITY・THRUSTER…RIGHT!…DISTORTION・FIELD…MAXIMUM!〕(おーけー。そうこなくっちゃ!アリス!重力波推進器、準備。空間歪曲場出力全開!)
各翼に仕込まれていた重力波推進器が機動制御スラスターとしてその真価を発揮する!
今まで、ヒット・アンド・アウェイを繰り返し高速で飛び回っていたジャバウォックが航空機としてありえない機動を空に描く!!
小回りで勝っていたはずのジョロに易々と追い付き、そのままディストーション・フィールドでひき潰す!
まるでUFOのような急旋回、急加速!揚力を無視した姿勢のまま縦横無尽に飛び回る!
機首を天に向けたままクルクル駒のように旋回し、機首を大地に向けたまま水平方向に機動する。まさに異次元の戦闘!重力波推進器が機体を空中に固定し、二次元可変ノズルが機体を目標へ蹴り飛ばす。
体当たりで届かない範囲の敵は躊躇無く機関砲弾をお見舞いする。
わざと低空に舞い降り、バッタにミサイルを撃たせ、そのミサイルを背後に追いすがったジョロに叩きつける。
かと思えば、誘導し一纏めにしたバッタにクラスター爆弾を叩き込む。
あまつさえ、地表ぎりぎりに降下しバッタを直接ディストーション・フィールドで叩き潰す。
あっという間に木星蜥蜴は一機残らずスクラップになってしまった。
〔ENEMY・DESTRUCTION…MISSION・ALL・COMPLETITE♪](敵全滅。作戦完了♪)
「ふう…ふう…ふう……敵機殲滅…αー1、作戦行動終了…RTB(リターン・トゥ・ベース、基地に帰還、の意)…」
流石のアリスもこの機動は堪えたらしく、息を荒げながら無線を操作した。

ガンメタリックの装甲は傷一つ無く光輝き、エンジンは戦果を誇るがごとく高々と周囲に響き渡る。天を貫く飛行機雲は木星蜥蜴の墓標の様でもあった。

基地に舞い降りた翼竜、ジャバウォック。牽引車に引かれ格納庫に収められた乗機からアリスが降り立った。
パチパチパチパチパチ。
格納庫で待機していた第603実験小隊の整備兵達が拍手や口笛と共にアリスを出迎える。
「初戦果おめでとう!無事に帰ってきたな。さっそく、機体にキルマーク付けといてやるからなっ!」
調子のいい男達がアリスの肩を叩いたり、頭を撫でたりする。
アリスは何がおきているのか判らないような、キョトンとした表情のまま、為すがままにされる。

コツコツコツ

「人気者だな、アリス」
落ち着いた足音とともに大仰な声が静かに響く。
整備兵達は直ちにアリスから離れ、直立敬礼する。
「楽にしたまえ。我々の初戦果なのだからな、そのぐらいで良い。私も少々浮かれている。」
答礼と共に兵達に気軽に声をかける男、話し振りと裏腹にまったく浮かれてるようには見えない彼、テオドール・グルーバー中尉はアリスの前でその足を止めた。
「さてアリス。新しい任務だ。ユニットALS・アリスは私、グルーバー中尉とADF−01B ジャバウォックと共に、直ちにネルガルの新造戦艦、ナデシコへ派遣される。」
「なっ!アリスはまだ初陣を果たしたばかりですよ?機体にだってどんな問題点が出てるか判らない!無茶です!!」
一人の整備兵がグルーバーに噛み付く。
「ふむ、同感だな。私も先方にそう答えた。だが、先方には多大な貸しがあってね。便宜は図ってやるからとっとと来い。との仰せだ。」
「そんな…先方ってどこなんです!?軍に横槍を押し通せる奴なんているんですか?」
「もちろんいるとも。ネルガルだよ。」
「なっ!?…」
「さて、アリス。質問は有るかね?」
まるで生徒に語りかける教師のようにグルーバーはアリスに顔を向ける。だが、その顔は常に鷹揚であり何を考えているのかわからない。
そんなグルーバーにアリスが答えた。
「Tes.主任…その配属先に行けば…敵…沢山……壊せますか?…」
アリスの疑問にグルーバーは眉一つ震わせず、答える。
「ああ、もちろんだとも。もちろんだとも、アリス。ナデシコは戦場を渡り歩く事になるだろう。当然、木星蜥蜴なぞ腐るほど出てくるだろうとも。しかし、何故そんなことを気にするのかね?」
「Tes.主任…ボクは木星蜥蜴を殲滅する為に生まれたからです。」
返答と同時にアリスは微笑んだ。生まれて始めての彼女の微笑みは、まるで純真無垢な天使の様であり、同時に見る者を戦慄させずにはいられない悪魔の笑みのようだった。





あとがき

 Actionの皆様、始めまして〜。TANKと申します。
さて、今回の拙作。初めて、作りました。どきどきモノです。さまざまなHPでいろいろなSSを読んで、偶に小説を読んだりの果てに「ああ、あんな事したいなぁ〜」が積もり積もって出来上がりました。
特に、したかったのはっ!

軍こそが非合法最前線になりうる可能性を持ってるのにナデシコSSでは「連合軍製マシンチャイルド」には誰も手を出してないッぽい!「木連製マシンチャイルド」はいくつか拝見しましたが。っつーか、「時ナデ」に出てるっすね。

ナデシコSSにおいてマシンチャイルド研究者って大抵、鬼畜に描かれてる。でも、そんな鬼畜外道研究者って少数派でないかい?研究者って理性と情動を切り離せるから、動物実験とか出来るんで無い?

の二本立て。実際、どこまで冷静な研究者を描けたか判りませんが、少なくとも実際こんな感じよね〜って感想が戴けたら成功っす。
ある意味で主人公は「主任」テオドール・グルーバー。アリスの様々な反応に研究者の仮面を崩されながらも、冷静にアリスと対峙し続ける。ヒロイン・アリスは命令に従い敵を殲滅するだけの存在です。少なくともこの時点では。ナデシコのクルーと出会い、自己の確立に悩み、自分の有り方を受け入れていくってイメージは考えてるんすけどねっ。
結局全然、描ききれてないけどねっ。始めは長編として考えていたのですが、有難い「感想代理人座談会」の意見を読むうちにSSを書く事に恐怖を覚え、開き直り、考え直し「取り合えず、短編で行って見るか」と相成りました。
ぶっちゃけ、しんどいっすね。タグ打ちながら文章打つの。Actionの「素人の〜HTML講座」のドシンプルな奴でやってるんすけどね。気が付いたら有給一日半、潰しちゃった。
正直、正しく出力されるのか判んないし。ミスってたら御免なさいデス。

さて、拙作においても元ネタはやはりあります。
なにより、真っ先に出てくるのがADF−01 ファルケン!エースコンバット5、ゼロの最強隠し機体であります。拙作でレールカノン仕込んでた部位にレーザー砲を装備し、地上の敵も空の敵もバッサリ一撃♪ステキです。
一番恐ろしいのはゲーム中最大級の機体の癖に最大級の機動性を誇る所。怖いほど動き回ります。あまりに動くもんだから重力波推進器付けちゃった。
ちなみに、重力波推進器とディストーション・フィールドは軍に譲られたエステバリス先行試作機からのリバース・エンジニアリングという設定。ほんとはカトンボのグラビティーブラストも解析しレールカノンの替わりに装備させたかった。
でも、そんな事をすればファルケン、もといジャバウォック最強伝説になってしまうので泣く泣くオミット。
陽気な機載コンピューター、彼はホントは日本語でお喋りするはずだったんですが…気が付いたら(汗)あぁ、英語は通信簿1だったのに。辞書フル活用でなんとかやってみました。雰囲気だけでも楽しめたら幸いです。彼の、あの陽気さは攻殻のタチコマ、フチコマの影響かなぁ。
ついでにアリスのDFS…こう書くと「時ナデ」のディストーション・フィールド・ソードみたい(汗)DIS(ダイレクト・インターフェイス・システム)としようか。ともかく、DISはIFSとマクロス・プラスの合体ネタ、攻殻風味。IFSを進化させたら脳波コントロールに匹敵するんじゃないか?と。このネタを生かす為だけにアリスちゃんは地獄の苦しみを経て、ナノマシン・サイボーグになってもらったようなもの。
もちろん、ユニットALSの機能はそれだけではありません。不足しがちな各種ナノマシン構成金属を得る為にEATMANがごとくボルトをコリコリ、拳銃をモグモグ。あまつさえ、余剰金属分を用いて食した武器の再構成!
「コリコリ…けぷっ……完成…」ずるるぅっ、ドゴゴゴゴッ!ドッッギャァァン!
実際、設定として出せませんでしたが。
あ、アリスはオリジナルですよ?名前こそ戴いてきてますが。コンセプトは頑丈なマシン・チャイルド。塹壕の中で泥と血と汗と得体の知れないなんかにまみれつつ、スコップで敵兵を殴り倒す!みたいな。可憐な存在と無骨な存在の両立、といえばなんかカッコイイですが、実態はそんな感じ。始めはTSキャラとして、男と女の性差をコメディタッチで…と考えてました。あまつさえ異世界転移モノとして歴史を操作したら面白かろうと思ったりしたのですが。設定を煮詰めるうちにバッサリカット。
だって、この話において男である意味が無いんですものねぇ。やっぱり、歴史は知らない方がキャラが動きやすいし。そんな訳で旧男キャラの名残はボクっ子に留まるのみっす。最後の最後でボクっ子設定出せて、個人的に満足♪です。 ちなみに微小元ネタとして「終わりのクロニクル」の「Tea.」を持ってきてます。なんか、機械チックな受け答えになっていいなぁと。
あと、「戦闘妖精 雪風」の影響はモロ受けです。無線通信の所や喋る戦闘機の時点でモロバレっすよね。原作、OVA共に影響受けてます。
ついでに微妙に「皇国の守護者」の影響も?ビバ、地獄のような戦争。アリスの精神には直衛チックな破滅思想があったりして。「地球連邦の興亡」は一巻しか手に入らなかったなぁ。再版の予定は無いんですとトホホ。

そんな訳で、作った拙作。楽しんでいただけたら恐悦至極で御座います。

TANK

 

 

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代理人の感想

新城直衛なマシンチャイルド・・・・・いかん、カッコいい(爆)。

まぁ現時点の「戦闘マシン」状態では直衛どころか剣鉄也にも遠く及んでませんが。ダダッダー。

現状では本当に「キカイ」であって戦士として、イコール人間としての凄みが感じられないので

(直ちゃんが凄いのは生臭く見苦しい人間と冷徹な軍事の天才を融和させている点じゃないでしょうか)

やっぱり続きを書いて頂いてそこらへんの凄みを加えたアリスも見てみたいと思うのですがどうでしょうか。

もっともあの艦で軍人としての成長を遂げると「我がナデシコの技術改造術は世界一ィィィィーッ!」とか叫ぶ方向に誘導されそうな気もするのですが(爆)。

 

で、タグですがこんなもんでオッケーです。ただ、慣れないとやはり手打ちは辛いですよね。

まぁ私もHTML化にFrontpageなんぞ使ってるので偉そうに言えた義理ではありませんが、

そうでなくても何か重かったり危険があったりしないHTMLツールがあればかなり便利だと思います。

(WordやHTMLビルダーは駄目ですよ?)

ただ手打ちツールに限らず、投稿前に作ったHTMLを実際にIEとかFireFoxとかで開いて、ちゃんとタグが出てるかどうか確かめておくべきです。

こちらでは間違いを直すことはできても、意図と違った表現になっているのをイメージどおりに修正することはできませんからね。

料理を作って出す前に味見するようなもんだと思ってください。

 

行間ですけど、行間それ自体は好みがあるんで何が良いとは言えないのですが、

少なくとも地の文とセリフは一行なり半行なり余分に離した方が見やすくてよいかと思います。

例えば以下の部分なら、

 

まるで生徒に語りかける教師のようにグルーバーはアリスに顔を向ける。だが、その顔は常に鷹揚であり何を考えているのかわからない。
そんなグルーバーにアリスが答えた。
「Tes.主任…その配属先に行けば…敵…沢山……壊せますか?…」
アリスの疑問にグルーバーは眉一つ震わせず、答える。
「ああ、もちろんだとも。もちろんだとも、アリス。ナデシコは戦場を渡り歩く事になるだろう。当然、木星蜥蜴なぞ腐るほど出てくるだろうとも。しかし、何故そんなことを気にするのかね?」
「Tes.主任…ボクは木星蜥蜴を殲滅する為に生まれたからです。」
返答と同時にアリスは微笑んだ。生まれて始めての彼女の微笑みは、まるで純真無垢な天使の様であり、同時に見る者を戦慄させずにはいられない悪魔の笑みのようだった。

 

 

まるで生徒に語りかける教師のようにグルーバーはアリスに顔を向ける。だが、その顔は常に鷹揚であり何を考えているのかわからない。
そんなグルーバーにアリスが答えた。

「Tes.主任…その配属先に行けば…敵…沢山……壊せますか?…」

アリスの疑問にグルーバーは眉一つ震わせず、答える。

「ああ、もちろんだとも。もちろんだとも、アリス。ナデシコは戦場を渡り歩く事になるだろう。当然、木星蜥蜴なぞ腐るほど出てくるだろうとも。しかし、何故そんなことを気にするのかね?」
「Tes.主任…ボクは木星蜥蜴を殲滅する為に生まれたからです。」

返答と同時にアリスは微笑んだ。生まれて始めての彼女の微笑みは、まるで純真無垢な天使の様であり、同時に見る者を戦慄させずにはいられない悪魔の笑みのようだった。

 

こんな感じで。

 

誤字ですが、致命的なものもいくつかありました。それも含めて例によって修正してあります。

「GOOD LACK」とかは読み返せば変かどうか分かると思うので、もうちょっと推敲をしたほうがいいかと(苦笑)。

 

 

 

 

 

おまけ

どうもこんな奴らしいです、ジャバウォック。

 

ttp://namco-ch.net/goods/latest/img/060302_ace_00b.jpg

ttp://images.amazon.com/images/P/B000EGCS78.01._SS500_SCLZZZZZZZ_V1140582345_.jpg

 

すまん、本文読んでてこんな形は全然イメージできなんだ(爆)。

実際、確かに描写の難しそうなデザインではあるのですが・・・

私だったら「中世の騎士の槍に二機のエンジンと全身翼を取り付けたような鋭角的な機体」とでも表現するかな?

それともぶっちゃけて「機首が大きくとんがったVF-21みたいな機体」とか(爆)。