蒼穹を飛行機雲が貫いてゆく。その雲の先端にはガンメタルに輝く大型の戦闘機。その機体は中世時代の太く長い騎士用の馬上槍に双発のエンジン、前進翼をつけた鋭角的なデザインをしていた。その機体の名はADF−01B ジャバウォック。現在、日本は佐世保のネルガルドックへ一直線に向かっている。

「…ようやく…アジア防空圏…WILL…到着まで…後、何時間?…」

ジャバウォックのパイロットは女性…いや、今だ少女と言うべき女の子であった。その女の子、アリスは機載コンピュータ〔WILL〕に抑揚こそ無いが鈴の鳴るような声で問いかけた。

〔現速度・デ・一時間・ヲ・予定。退屈・ナラ・眠ル・カイ?操縦・ハ・任セテ・クレ。〕

WILLは、たどたどしいながらもしっかりとした音声でアリスに答えた。

「……じゃあ…ボク…眠るね……何かあったら…起こして…You Have Control…」
「I・Have・Control!大丈夫・何モ・起コラナイ・ヨ♪」

WILLの返事を聞きつつ、少女は眠りの中へ身を投じた。
結局、少女が眠っている間は何も起きなかった。しかし、彼女が目を覚ました頃、事態は急変していた。

機動戦艦 ナデシコ OUT・SIDE

機械仕掛けの妖精

第一話 「少女らしく・機械らしく」でいこう


 ここはネルガル重工の地下ドック、地上とドックを結ぶ直行エレベータから二人の人影が現れた。

「いや〜、ぎりぎりのお着きで。あと3時間ほどで出航ですから、積み込むものがあれば、お早めにお願いしますよ?」

エレベータから先に出てきた、赤いベストを着込んだチョビ髭にメガネの男が少々神経質に後に続く者へ話す。

「ふむ、こちらもギリギリだったのでな。ADF−01Bの整備と改良に予備パーツの発送。ユニットALSの調整、部隊の残務処理。私とて嫌味や嫌がらせでこんな事はしない。むしろ、Mr.プロスぺクター。そちらからの通達が後一週間早かったら、このような事態にはならなかったのではないかな?」

後から出てきた男、大型のアタッシュケースを手に軍服の上に白衣を着込んだ30代の男が、二倍返しとばかりにやり返す。

「手厳しいですな〜、グルーバー中尉。しかし、残念な事に貴方のプロジェクトを当方が知り得たのが貴方へ連絡する直前でしてね。会長直々のお達しがなければ、もっと遅れていたかもしれませんなぁ。」
「!なるほど、私と付き合いのあった彼らがそちらの手に落ちたのだな。私との繋がりまで洗いざらい吐いてしまうとは、情けない。少しでも粘っていてくれたなら、わざわざ地球を半周する羽目にもならなかっただろうに。まぁ、後顧の憂いが無くなると考えるのならば、願っても無い事なのかもしれないが。しかし、新会長は昼行灯であるとの噂だったが…なかなか、動き回れる御仁のようだな。認識を改めておこう。」
「あはははは…、本当に手厳しいですなぁ。しかし、ま、そういう訳で当方も心強い援軍を得られた訳でして。ところで例の彼女は一緒では無かったのですか?」

プロスペクターが冷や汗と共に、かつてネルガルが所有していた少女の事を尋ねる。

「ああ、アレは乗機と共に後…一時間程で到着するはずだ。どちらにしろ、艦に積むのは出航後だろう?流石にあの機体をこのドックに下ろすのは骨が折れる。不可能ではないがな。」

グルーバーが腕時計に目を走らせつつ、プロスペクターに答えた。

「なるほど、そーいうことでしたら了解いたしました。いやー、クルー達との面通しの事を考えますと、あまり時間は空けたくありませんでして。」

安堵と共に答えるプロスペクターの腕につけた機械、通称<コミュニケ>が受信音を出し、彼の前にウィンドウが展開する。

「忙しいとこ…申しわ………変な…自転車……暴れ……ミスマル……会わせろと……」

途切れ途切れに聞こえてくる、警備員とプロスペクターの会話。
話し振りから察するに正面入り口で男が暴れているらしい。どうも、施設の誰かに用があるようだが…
と、どうやら話が終わったらしい。

「すいません。グルーバー中尉。いかんせん急な用事が入ってしまいまして。道案内の方は大丈夫でしょうか?あ、こちらが貴方のコミュニケです。これを着けていれば先ほどのような通信が可能になっております。」

プロスペクターの差し出したコミュニケを腕に着けつつ、グルーバーが答える。

「ふむ、案内表示もあるようだし問題はなさそうだ。ああ、一応、これからの行動を伝えておこう。この後、格納庫でADF−01Bの予備パーツの確認と図面一式の受け渡しを整備班長と行なう。その後、ブリッジで待機する。よろしいか?」
「ええ!有り難いかぎりです。では、失礼させていただきます。」

プロスペクターは言うが早いか、即座に踵を返し先ほど出てきたエレベータに乗り込む。
グルーバーはプロスペクターに背を向け、乗り込むべき艦に目を向けた。

「ほう、機能優先…いや、それぞれの機器を組み合わせたら船になってしまった、とでも云うべき形状だな。実用艦ではなく、運用試験艦というのが正解か。」

彼の目の前には酷評されたばかりの戦闘艦、ND−001ナデシコが鎮座していた。



 さまざまな音が鳴り響く巨大な空間、作業員たちが右に左に行きかう活気に満ちた空間に一人の活気にそぐわない男が姿を現した。
彼は、側を通りかかった作業員に声をかけた。

「ああ、仕事中にすまない。整備班長と話があるのだ。どちらに居るか教えてくれないか?」

作業員は軍服に白衣を羽織った男を胡散臭げに眺めつつ答えた。

「あ〜、いいスよ。班〜長〜〜!!お客さんっすよ〜!」
「ぁあ〜ん?客だぁ?どこのどいつだ!このクッソ、忙しい時に来る奴は!?」

整備班長、ウリバタケ・セイヤがイラつきを抑えようともせず、こちらに大股で向かってきた。

「私だ。連合軍技術将校、テオドール・グルーバー中尉。こちらで整備される予定のADF−01Bの図面一式を持ってきた。受け取ってもらおう。」
「おお、急に来る事になったアレの責任者か。俺はウリバタケ・セイヤ。ここの整備班長だ。アレの予備パーツはもう搬入されてるぜ。見とくか?」

グルーバーが差し出した情報メモリーを受け取りつつ、ウリバタケは答えた。

「ああ、確認させてもらおう。足りなくても、もはや手の出しようが無いが後で焦るよりはマシだ。」

言うが早いか、踵を返し目的地に一直線に行くウリバタケに答えつつグルーバーも後を追った。

「Bっつう事は、ファルケンの原型を留めたままの改造だよな。あの化けモンをどういう風に改造したんだ?改造屋の血が騒ぐぜ!」

目の色を変えつつ、ウリバタケが問う。

「詳しくはそのメモリーを見れば判るが…大雑把に言えば、主兵装の光学式レーザーを実体弾のレール・カノンに変更、エンジンを最新の熱核ロケット型に変えて、各翼に重力波推進器を設置しディストーション・フィールド発生器を搭載した。と言うところか。」
「なに?あの機体に熱核ロケットと重力波推進付けただと!?んな事したら、パイロットがもれなくミンチになるぜ!アンタ、そんなモンに乗るパイロットどうやって見つけ出したってんだ?」
「いや、違う。はじめにパイロットありきだ。パイロットの特性を生かす方向性で改装したら、そういう装備になっただけだ。」
「はぁ?!なんだいそりゃ?…で、どんなパイロットなんだ!会わせてくれるよな。」
「ああ、勿論だ。だが、パイロットはまだ到着していない。ADF−01Bに乗ってくるから、格納庫で待っていれば会えるぞ。」
「ほ〜、楽しみだな。どんなパイロットなんだ?男か?女か?」
「女だ。だが性的魅力を感じる年齢ではない。平均的な嗜好ならばな。」
「なんでぇ、ガキかい。って、子供を戦闘機に乗せてるのか!?しかも、あんな化けモンに!!てめえ!何考えてやがる!!」

激昂したウリバタケがグルーバーの襟首を吊り上げた。

「ただの子供ではない。そう成るべくして、成った存在だ。それに木星蜥蜴との戦闘は、あの子の望みでもある。」

吊り上げられた事にも意を解さない様に、平然と答えたクルーバー。
彼の返答に意表を突かれたウリバタケは腕の力を抜いた。

「けっ!糞っ!何だってんだ!ちくしょうめ。あーっ畜生!よくわかんねぇがな、中尉!その子の為にならないと思ったら、俺は容赦しないぜ?」

ウリバタケは、なんとも言えない顔でグルーバーを睨み付ける。

「ふむ、なんとも熱血漢なのだな、君は。そう思うのなら、あの子に構ってやってくれたまえ。私は止めはしない。ああ、予備パーツの確認を完了した。損失は無い。では、失礼する。」

話し終えると共にグルーバーは出口に向かう。


「なんだってんだ…マジで……」

それを呆然と見送るウリバタケ。彼が再起動するのは、ナデシコSS恒例、ヤマダ・ジロウ主演のワンマンショーが始まるまで待たなくてはならなかった。



 通路に向かうグルーバー。進行方向から向かってくる二人連れの片方はすでに面識のある者だった。

「おお、グルーバー中尉。用事は済みましたか?申し訳ありませんな、本来ならしっかりと案内させて頂く予定でしたのに。」

そう、先ほど別れたプロスペクターである。

「Mr.プロスペクター、お心遣い痛み入る。しかし、この艦は良く出来ている。そう易々と迷わせてはくれないようだ。」
「ははは、そういって頂けると当方も鼻が高いですなぁ。しかし、グルーバー中尉。当船は民間船ですので、<艦>という呼称は勘弁して頂きたいですなぁ。」
「?ああ、それは失礼した。以後訂正しよう。いや、なに、ハイレベルな武装船であるがゆえの間違いと受け取っていただきたい。」

プロスペクターと談話?するグルーバー。彼を鋭い目つきで睨み付ける一人の青年が居た。プロスペクターと共に格納庫にやって来たテンカワ・アキトである。
アキトの視線に気付いたグルーバーにプロスペクターが紹介する。

「ああ、こちらはテンカワさんです。この度、ナデシコのコックを務めて貰える事になりましてね。テンカワさん、こちらはグルーバー中尉です。」
「テオドール・グルーバー中尉だ。よろしく頼む。」

いつもの表情でアキトに挨拶するグルーバー。アキトもアキトで険しい顔は変わらない。

「ふむ、私が気に食わないのかね?それとも、軍服が気に食わないのかね?」
「あ〜、そうだ、グルーバー中尉。これからテンカワさんとエステバリスの見学をしようと思っているんですよ。良ければ一緒にどうですか?」

険悪な雰囲気をなんとかしたいプロスペクターがグルーバーの問いかけを意図的に無視し、この後の行動を提案する。

「ほう、それは興味深い。私が見たのは、教導隊に渡された先行試作機のみだからな。しかし、それは後日の楽しみとしよう。如何せん、彼は軍人がお嫌いな様だ。お先に失礼する。」

軽く彼らに会釈し、グルーバーはブリッジへ移動を開始する。

「ふぅ、あっ、さて!テンカワさん!こちらが我がネルガル重工が誇る、最新鋭の人型機動兵器・エステバリスです!」

紹介と同時にピンクと呼ぶべきか、ワインレッドと呼ぶべきか悩む色合いのエステバリスが動き出した。
それと同時に意識を取り戻したウリバタケがメガホンで、エステを動かしているパイロットに怒鳴りつける。


通路を進むグルーバーの背後で、怒鳴り声と大質量の物体同士がぶつかり合う音と妙に暑苦しい笑い声が響いた。

「ふむ、なかなか刺激的な環境だ。アリスの情操教育に丁度良いやもしれんな。」

…本気な辺り、グルーバーもナデシコクルーたる資格を持っていたようである。



 扉が自動で開くと共に室内にウィンドウが開く。

〔テオドール・グルーバー中尉、ブリッジ・イン」

ブリッジにいる全員の目がグルーバーに向けられる。雑談していた者、静かに席についていた者、説教していた者、説教されていた者と様々だったが。

「連合軍欧州方面軍技術将校、テオドール・グルーバー中尉だ。ナデシコに配属される実験機の管理責任者として派遣された。着任許可を頂きたい。」

グルーバーが陸軍式のカッキリした敬礼をするとブリッジで一番高いところに居た4人が答礼した。

「ネルガル重工所属、機動戦艦ナデシコの提督を拝命したフクベ・ジンだ。よろしくの」
「機動戦艦ナデシコ船長のミスマル・ユリカです!着任、許可しちゃいます♪」
「副船長のアオイ・ジュンです。未記入書類が何点かあるので、あとで僕の部屋に来てください。」
「ふんっ、副提督のムネタケ・サダアキ中佐よ。ヨーロッパから遥々ご苦労様ねぇ。でも、どうせすぐにお払い箱になってヨーロッパの掃き溜めに逆戻りよ。」

…実に個性的なそれでいて一発で性格を掴めそうな自己紹介である。
もちろん、ブリッジにはまだ人が居る訳で。

「ナデシコの戦闘指揮官兼、保安班長のゴート・ホーリーだ。機動兵器の戦闘指揮と船内の保安業務を預かっている。」
「操舵士のハルカ・ミナトよん。よろしくねぇ。」
「通信士のメグミ・レイナードです。声優やってました。」
「メイン・オペレーターのホシノ・ルリです。そして、ナデシコ管制AIのオモイカネです。」
〔始めまして!オモイカネです♪〕

今までの自己紹介を眉一つ動かさず聞いていたグルーバーがオモイカネに反応した。

「ほぅ?自我を持つ高次元AIか。なめらかな出力だな。タイムラグも無い。見事だ。ここまでのレベルに在るモノは初めて見た。」
〔ありがとう♪〕
「良かったね。オモイカネ。」
「うん!ルリ。」

会話が始まった隙を捉え、ミナトが会話に参加する。

「グルーバーさんってAIに詳しいみたいですけど、オモイカネってそんなに凄いんですか?」
「ふむ、私が担当している実験機にもAIを搭載しているものでね、その関係で詳しくなった。正直な話、自我を持たせる所までは不可能ではない。だが、人とシークタイム・ゼロの会話をさせようとすれば、どうしても誤差やロスが発生してしまう。機械の意思と人間の意志のすり合わせが難しいのだよ。現代においても人体は謎の筆頭だからな。だからこそ、簡単に人に追従出来るオモイカネは大したものなのだよ。」
「ふーん、そんなもんなんだ。」
「ほぇ〜。」

なんとなく、納得するミナトと目を丸くして感心する新任船長。と、オモイカネが新たな疑問を提示する。

〔ところで、その実験機のAIの事、教えてクダサイ。〕
「ああ、名を<WILL>。君ほど多機能で高性能な訳ではないが、なかなかどうして個性的な思考をするAIだ。パイロットの補助、戦略情報の取り扱い、搭載兵装の管理を行なっている。」
〔いつ会えるか、判る?〕
「ふむ…あと20分もかかるまい。実際に船に着くまではまだ時間が掛かるだろうが、なに、通信はもう直ぐ可能だろう。」

グルーバーは再び、腕時計に目を通して受け答えをした。

プシュン

〔プロスペクター、ブリッジ・イン〕
「お、皆さんお揃いですなぁ〜。」

プロスペクターが呑気な感想を述べつつ、ブリッジの定位置へ移動する。
と、唐突にサイレンが響き始めた!

「へ?お昼の時間だったっけ?」
「にしては、音がちがうような…」

ミナトとメグミのコンビが呑気な会話をする。

〔木星蜥蜴、接近。目的地、当ドックと推定。地上、連合軍警備隊との接触、2分後だよ。〕
「バッタ、ジョロ混成群、機数300と推定。カトンボ等の艦影、補足できず。チューリップ、無いです。」

呑気な二人を余所に、オモイカネとルリのコンビが直ちに状況分析に入る。

「え、敵?」
「そんなぁ!」
「むぅ…」
「いやはや、もう少し待って頂けたら準備万端でお出迎え出来ましたのになぁ。残念です。」
「直ぐに出航よ!いや、対空砲を早く撃ちなさい!」
「地下ドックの中で…ですか?」
「落ち着きたまえ、ムネタケ君。…ふむ、船長。何か策はあるかの?」
「はい!直ちに出航!海底トンネルを経由し、海から木星蜥蜴の背後を突きます!」
「ほほぅ?しかし、木星蜥蜴が大人しくしていると思うのかね?」
「…完全休止中の本船を動かすには最短で10分必要です。」

プシュン

〔ウリバタケ・セイヤ整備班長、ヤマダ・ジロウ、ブリッジ・イン〕
「ちっがぁ〜う!ダイゴウジ・ガイだ!…っと、そうじゃなくて、そこで、この俺がゲキガンガーで、カッコ良く囮を勤める訳だ!仲間の出撃を助けるために命を賭けるヒーロー!くぅぅっ!漢だっっ!!」

ウリバタケの肩を借りながら、熱く語るヤマ…「ダイゴウジ!」…自称、ダイゴウジ。

「ってお宅、足折ってるじゃねーか。」

自称ダイゴウジの熱血に辟易しながら、冷静に突っ込むウリバタケ。

「ぐぁぁっ!そうだったぁっ!!」

「囮、出てます。」

ルリの冷静な声がブリッジの空気を動かした。
驚きと疑問の渦の中を一番最初に抜け出し、行動したのは以外にも頼りない印象しかない船長、ミスマル・ユリカだった。もちろん、グルーバーは我関せずとばかりに超然としていたが。

「ルリちゃん!その囮サンの現在位置と装備を教えて!後、通信もお願い!」
「現在、貨物搬送用エレベータで地表に向け移動中。エステバリスを装備。武装はナイフだけです。映像、通信…出ます。」

ブリッジ正面モニターに、地表に向け稼動中のエレベータ。それに乗ってるピンクのエステバリスが映る。その隣に開いたウィンドウにエステバリスに乗っている青年が出た。



 突如、鳴り響いた警報としばらく後に轟いた遠くの爆発音。それを聴いた瞬間、テンカワ・アキトはそれらが知らせる事実を直感し、恐怖に恐れ慄き、ただちにその場から逃げだした。アキトにとって不幸であり、アキト以外にとっては幸運だったのは、彼が逃げる事を決意したのが、エステバリスのコクピットの中だった。と、いう事だった。

「畜生!なんだってんだ、なんだってんだ、なんだってんだ!なんで、いつもいつも俺の周りに寄ってくるんだ!木星蜥蜴の野郎は!!」

恐怖に体を震わせながら、木星蜥蜴に怒りの声をあげつつ、初めて乗ったエステバリスを危なっかしくも操縦し、エレベータに入り込むと言う器用な事を実行中の彼は唐突に開いたウィンドウに思考停止する。

「…はろー、もしもし。あなたは誰ですか?」

ルリの抑揚の無い声がアキトの思考停止を加速する。当然、黙っている他のクルーでは無い訳で…

「君は誰かの。官姓名を名乗りたまえ。」
「むぅ、ただちにその機から降りろ。」
「あ、あ〜!俺のゲキガンガー!!ゲキガン人形も一緒じゃね〜か!っ返せ!!」

いきなり問いかけられたり、命令されたり、命令されたり、怒鳴りつけられたりで唖然としつつもなんとかアキトは返事を返す。

「テンカワ・アキト…コックです。」



「乗員名簿、検索…載ってません。」
「ああ、テンカワさんはつい先ほど、雇い入れたばかりでして。IFSを持っている事は知ってましたが、まさかエステに乗っていらっしゃるとは。」
「テンカワ?…テンカワ…テンカワ……あ〜!アキト!!アキトでしょ!いやんっ、アキトったら、さっき会った時、知らないなんてっ!もう!恥かしがり屋サンなんだからぁ♪ああ、アキト。さっすが、私の王子様!私の為に戦ってくれるのね♪判りました!ナデシコ・クルーの命、預けます!頑張ってね♪アキト。」
「な!?…お前、ミスマル・ユリカかっ!って、命預けるってなんだっ!!聞いてないぞ!何をさせようってんだ!」

動揺するアキトに冷静に状況説明するゴート・ホーリー。

「非常事態だが仕方ない。聞いてくれ、君にはこれから地上で10分間、木星蜥蜴を引き付けて貰う。その間に本船は、攻撃態勢に移り、君を収容したのち攻撃を開始する。」
「木星蜥蜴と戦え!?この機械動かした事も無いのにそんな事出来るかよっ!」
「大丈夫です。その機体、エステバリスは自分の体の様に動かせるよう作られておりますから。それにしていただくのは囮。けして、正面切って戦えと言っている訳ではありませんよ?お給料の方は色も付けて…こんなもんで、如何でしょ?」

「え!?…こんなに!?!?……でも…」

プロスペクターの提示した金額に思わず動揺しながらも、未だ決心出来ないアキト。

「もし、どうしても嫌だと言うのなら構わない。降りたまえ。そして、部屋の隅で恐怖に打ち震えて居る事だ。邪魔だからな。」

プロスぺクターの説得の後に、それをぶち壊すようなグルーバーの一言が入る。

「なにっ!俺が臆病者だとっ!?この野郎!舐めるな!!」
「証明したいのなら、行動する事だ。言葉では如何様にでも出来る。」
「この野郎ぅ…やってやろうじゃないか!」
「やった!それでこそ、私のアキト♪やっぱり、アキトは私が好き♪♪…ナデシコ出港準備に入ります!アキトを少しでも早く助けないとっ!」

グルーバーの挑発に、まんまと乗せられたアキト。そんなアキトに熱を上げるユリカに冷静なツッコミが下る。

「マスターキーがまだ挿入されていません。現在、相転移炉、停止中。ナデシコ、動けません。」

「え?あ、あ〜!御免なさい!すぐやります!!……えいっ!」

ユリカが、慌てつつ懐からマスターキーを取り出し、掛け声と共に挿入口に突き刺す。

〔マスターキー、挿入を確認。統合管制システム、システム・ロック解除。SVC2027オモイカネ、ナデシコ運行システムへ正常に組み込れたよ♪〕
「相転移炉、始動準備。フライホイール起動。副エンジン、起動。エネルギー、主機へバイパス。電圧正常。相転移炉起動まで…10…9…8……」
「操舵システム、準備よ〜し。各種スタビライザ、動作良好〜。メインノズル及び主動作系、異常無さそうよん♪」
「ナデシコ全部署へ、こちらブリッジ。これより地下ドックに注水。ナデシコは出航します。全ハッチ、閉鎖を確認してください。関係各部署は所定業務を開始してください。地下ドック管制室、ナデシコ出航準備中です。ドック注水、及び海底トンネルへの経路を開いてください。」

ブリッジの女性達が命令されるまでもなく、自らの仕事を開始する。能力‘は’一流。その言葉に偽りは無く、人材発掘人プロスペクターもどことなく誇らしそうである。
と、グルーバーが一人の女性の下に移動する。その女性は必要な通信を終わり、心持ち暇そうにしているメグミであった。

「レイナード通信士。すまないがドック近辺に接近しているはずの戦闘機とコンタクトを取ってもらいたい。コールサインはαー1ジャバウォック。時間通りなら通信可能圏内だ。」

唐突に話しかけられたメグミは呆気にとられつつ、グルーバーの威圧感に軽く震えながら、大人しく通信を開始する。

「αー1ジャバウォック、αー1ジャバウォック。応答してください。こちらはND−001ナデシコ。αー1応答して…」
「…こちら…αー1ジャバウォック…感度良好…」

メグミの前にウィンドウが展開し、通信が開始される。が、画面は黒く白地でSOUND・ONLYと出ている。ジャバウォックにはまだ、コミュニケ・システムに対応した通信機を載せていない為だ。
と、めぐみに断りをいれてからグルーバーがウィンドウに話し始める。

「こちらはテオドール・グルーバー中尉だ。αー1、ドックまであと何分で到達出来る?」
「Tes.主任…最大出力で30秒…です…」
「よろしい。では、現状と作戦を伝える。現在、ナデシコは木星蜥蜴の襲来を受けている。今、出港準備中だが後9分強、掛かる。その為、ナデシコ搭載エステバリスによる陽動が開始されている。αー1は直ちに現場に急行。エステバリスを支援し、ナデシコの攻撃開始まで木星蜥蜴の離脱を阻止せよ。」
〔まるで・SHEEP・DOG…牧羊犬・デス・ネ〕

冷徹に命令するグルーバーにWILLの合いの手が入る。グルーバーは茶化すWILLに怒りもせず、命令を下す。

「SHEEP・DOGか。…ふむ、では当作戦はそれで呼称しよう。オペレーション、SHEEP・DOG。行動を開始せよ。なお、詳細データは随時送信する。」
「…αー1、Tes.…行動開始します…」

開いていたウィンドウが閉じる。と同じに、

「オモイカネ。αー1にナデシコの今後の行動と地上の動きを送信してくれたまえ。」

と話しかけるグルーバー。

〔ちょっと、待ってて…データ送信完了したよ。作戦概略図にαー1、マーク。〕

アキトのエステバリスに代わり、ドック周辺の概況を映していた正面モニターの概略図に新しい光点が点く。その光点は信じられない速度で移動していた。



「ちきしょう!どいつもコイツもっ!」

地上に出たエステバリスは、木星蜥蜴の熱烈な歓迎を受けた。機関銃のコーラス、ミサイルの拍手、自爆突撃という抱擁。それらを受けつつ避けつつなんとか五体満足で逃げ回るアキト。

「くそ、あの軍人!火星を見捨てた腰抜け共の癖にっ!偉そうに!舐めるな!!」

たまたま、手の届く位置にいたバッタにパンチをブチ込む!

メキョッ!…ボムッ!!

ディストーション・フィールドに包まれた拳の破壊力はバッタの強度を圧倒的に上回っていた。

「…なんだ…いけるじゃないか!…もう、逃げ回らなくてもいいんだ!!」

自分に与えられた力を遅まきながら理解したアキト。アキトは直ちに手近な敵に襲い掛かる!

「あははははっ!圧倒的じゃないか!さっきまで逃げ回ってたのが嘘みたいだ!喰らえ!木星蜥蜴!!こいつは火星の皆の分だ!!」

初めて、力によって自分の意思を強要する行為、通称<暴力>が木星蜥蜴にまで届いたアキト。今までの鬱屈の所為か、即座に力の魔性に飲み込まれる。

「お前も、お前も、お前も!皆、ブッ潰れろ〜!!!」

元々、暴力には疎い生活をしていた所為か動作こそ素人臭いが、果敢に攻め立てる。だが、木星蜥蜴はそんなに甘く無かった。
アキトの戦闘力を知るやいなや、拳の届く範囲に侵入しなくなり機銃とミサイルで遠巻きに追い立てる。

「くっ、このっ!…卑怯者!逃げるな!」

再び、形勢不利になったアキトは成す術も無く身動きが取れなくなってゆく。
と、そこに鈍色に輝く翼竜が舞い降りた。



 ギシ、ギシ…ギシ

機体が限界ぎりぎりの推力で大気という壁を切り分ける。機体各部に発生する圧力がギシギシ歪む音となって、パイロットに警告する。だが、当のパイロットは気にもしていなかった。

〔作戦空域・マデ・後5秒・ARMED・AND・READY!装備・確認…88mmレール・カノン・30発、空対空ミサイル・6発、250ポンド爆弾・12発、試作・散弾ミサイル・1発、30mm機関砲・1200発、ディストーション・フィールド、ALL・GREEN!〕
「バッタに一撃を加えて…上空のジョロに散弾ミサイルを撃ち込んだら…グラビティー・スラスターを高機動モードに…」
〔I・COPY!〕

猛烈な圧力をモノともせず、パイロットであるアリスはWILLと戦術を組み立てていく。その戦術は意外にも当たり前で妥当な物だった。危険を度外視すれば…
そして、翼竜は獲物をその視界に捉える。

「よりどり…みどり…」

アリスの顔には、注視しないと判らないほどではあるが、確かに笑みが刻まれていた。

〔LET'S・ROCK'N'ROLL!!〕

アリスとWILLとジャバウォックは一心同体となり、戦いの喜びに身を震わせる!
ぐるりと機をロールさせ、地面に向かって一気にダイブ。大地には無数のバッタに、散々に嬲られてるピンクのエステバリスが居た。

「支援目標…確認…エンゲージ!」

アリスの言葉と共に、ジャバウォックが機関砲を発射する!
一発も外さず、エステバリスに襲い掛かろうとしていたバッタ達に全ての弾が命中する。
ジャバウォックは地面スレスレを這い、メインノズルで大地を焼き焦がしながら天に再び舞い戻る!

「なんだっ!一体、なにが起きたんだ!」

繋げっ放しの無線から、アキトの驚愕の声が聞こえる。無理も無い。いきなり黒い影が舞い降りたかと思えば、自分を取り囲んでいたバッタ達が爆発。その頃には当の黒い影は空に舞い戻っていたのだから。

「散弾ミサイル…ジョロ集結点に向け…発射。」

アキトの声を無視し、次なる目標に目を向ける。
機体下部の大型パイロン(ミサイル等の取り付け部)からズングリしたミサイルが切り離され、ミサイルに命が吹き込まれる!と、同時にジャバウォックは機首を翻し、散弾ミサイルから全速で離れる。 別れた散弾ミサイルはその体に似合わない加速力でジョロの群れに突撃。その中心点で大爆発を起こした!ミサイルを構成していた全てのパーツが即席の弾となり周囲の物、全てに襲い掛かった。
被弾したジョロがボトボトと落ちる。中心部ほどその数が多い。かろうじて生き残ったジョロも、ボロボロになってしまっていた。

〔グラビティ・スラスター、モード・変更、高機動モード・READY!」

推進補助に使っていた重力推進器が、姿勢制御用に割り振られる。最大速度こそ落ちたものの、ジャバウォックはとてつもない加速力を得た!
再び、エステバリスに襲い掛かろうとしていたバッタをその真上から砲撃!群れて行動していたバッタ達を機関砲で追い詰めた後、即座に爆弾で粉砕。
幸運にもジャバウォックの背後を捉える事の出来たジョロを確認するが早いか、その場で、でんぐり返して仰向けになり、進行方向に後部を向けながら前進。至近距離でジョロにレール・カノンを浴びせる!
機首を地面に向け、水平移動しながらバッタを機関砲で粉砕していくと同時に、ダンスしているかのように留まること無くジョロを撃墜していく。



 相変わらず、状況を認識出来ずただ呆然とするアキトに通信が入る。

「ナデシコ、もうすぐ海面に到達します。エステバリス、ジャバウォックは主砲砲撃範囲内から退避してください。」

アキトの視界にナデシコ通信士、メグミの映ったウィンドウが展開される。

「た、退避?…どっちに逃げりゃ良いんだ?」

安堵と戸惑いをあわせた表情を浮かべたアキトに新しく開かれたウィンドウが答える。

「ナデシコの方向に向かってください。岸壁からジャンプすれば、ナデシコ上部構造に着地出来ます。マップ、表示。」

ルリの言葉と共に視界左端の邪魔にならない位置に周辺状況を示した地図が表示される。地図には矢印で移動経路が記されていた。

「う…こっちか!」

ようやく、行動を開始したエステバリス。海へ一直線にひた走る彼を邪魔するものは居なかった。



 アキトとの通信が完了したメグミはもう一人、戦っている者へ通信を繋げる。

「こちら、ナデシコ。αー1、直ちに退避してください!」
「こちら、αー1…主砲発射までの所要時間は?」
〔アト・40秒・ダヨ・アリス。〕

アリスの問いにWILLが答える。

「こちら、αー1…主砲発射ギリギリまで…敵を引き付ける。」

冷静に通信をするアリスにメグミが反抗する。

「なにいってんですか!主砲に巻き込まれたら死んじゃうんですよ?早く逃げて!」
「ジャバウォックはそんなに鈍重じゃない…それに…今、離れたら木星蜥蜴を纏めて倒せない。」

声を張り上げるメグミにただ、事実を突きつけるアリス。再び、声を上げようとしたメグミの肩にグルーバーの手が置かれた。

「大丈夫だ。ジャバウォックの機動力は先ほど目にした通り。アリスもけして無茶はしない。WILLが許さないからな。」

その言葉と共に、今まで地上の戦闘風景をウィンドウ越しに見ていた者達が口をひらく。

「いやはや、たいした物です。改造してあるとはいえ、いささか旧式のあの機体でエステバリスを超える戦闘力を誇るとは!無理を言って来て頂いた甲斐がありましたよ。」
「むぅ、確かにエステバリスを凌駕していた。だが、テンカワは素人だ。初めて乗ってアレだけ動けるだけでもたいした物だ。」
「ああ、アキト、カッコ良かった♪早く帰ってきてね、アキト!」
むっ…ユリカ…テンカワって奴と一体何があったんだ……しかし、あのアリスってパイロット、妙に声が若すぎるんだけど…」
「きぃぃぃっ!まぐれよ、まぐれだわ!あんな事、有り得ないわ!!」

周囲のざわめきを無視してルリが状況報告をする。

「ナデシコ、海面に到達。アキト機、ナデシコに向けジャンプ……今、着地しました。グラビティ・ブラスト充填完了。何時でも撃てます。」

ただちにユリカが反応する。

「目標、木星蜥蜴!まとめて、ぜーんぶ!!グラビティ・ブラスト、発射!!」
「目標、主砲攻撃圏内にとらえました。発射。」

地上に姿を現したナデシコから、不可視の光線が放たれる直前、木星蜥蜴の群れから高速で離れる黒い影があった。

ゴォォォッ!!!

途轍もない圧力を撒き散らし、木星蜥蜴の群れを飲み込む黒い奔流!
バッタ、ジョロは凶悪な圧力に耐えられず即座に爆砕してゆく。

「目標、全て破壊。連合軍警備隊、地上施設被害甚大。ですが、死者0です。」
「ありえないわっ!」

ムネタケの悲鳴に似た叫びがブリッジにこだました。



「すっげ…一瞬かよ…」

ナデシコ上部構造の上でその光景を眺めていたアキトは、そのあまりにもの威力に絶句する。


そのアキトの頭上を鈍色の翼竜が飛び過ぎた。まるで、己以外に空を飛ぶモノは許さぬ。とばかりに悠々とその身を誇示する。大きく旋回した時、翼がギラリと煌めいた。



 先ほどまで、静かだった格納庫。今は息を吹き返したような喧騒に包まれている。
騒ぎの中心はピンクのエステバリス、そして、黒く輝くジャバウォック。つい先ほど格納されたばかりだった。

「おお!おお!!スベスベで傷一つ無い装甲チャン♪滑らかな曲線、猛々しいエッジ!凶悪な出力のエンジン!ああ!やっぱこれだよ!たまんねぇ!!!」

格納庫の主、ウリバタケの前にジャバウォックが姿を現した瞬間、彼の理性は天空の彼方に放り上げられた。マッド・エンジニアとしての情動に支配された彼は機が停止するやいなや、機体にへばり付き、装甲に頬擦りを繰り返していた。
そんな彼の奇行も、それぞれの機体のハッチが開くまでだった。
まず、エステバリスのハッチが開き、中から苦労しながら抜け出したアキトが床に降り立つ。
すぐに整備班の面々が取り囲み、ちょっと手荒く彼の勇気を称える。
今までの人生の中、褒められる事が極端に少なかったアキトは満更でも無い様子でそれに答える。

「よう!無事に帰ってきたな。機体をしっかり持ち帰ってくれて感謝するぜ!」

ウリバタケがアキトに話しかけた。

「済みません、勝手に持ち出して…機体壊してしまいました。」

アキトが申し訳なさそうに謝る。

「なーに、パイロットが無事だったら上等よ!俺たちはな、パイロットを無事に帰ってこさせる為に整備してんだ!お前さんが無事なら俺たちが働いた甲斐もあろうってもんさぁ!壊れたら、また直しゃぁいい。」

ウリバタケの威勢の良い言葉に、周囲にいた整備員が頷き、賛同する。
と、その時もう一機の機体、ジャバウォックの上部、後部カメラの後ろ付近にあるハッチが上下に開かれる。そこから出てきたのは年端もゆかぬ少女であった。
彼女の姿にざわめく整備班を尻目にアリスは床の上に飛び降りる。
そんな彼女に近づくウリバタケ。

「嬢ちゃんが、ジャバウォックのパイロットか。」
「Tes.…ボクはアリス…君は誰?…」

表情固めに問いかけるウリバタケに表情まっ白けで答えるアリス。と、アリスの言葉に整備班の面々が反応する。以下はその抜粋。

「ボクっ子だ。」
「しんじらんねぇ…マジかよ。」
「本物か!?」
「始めて見た!」
「…いい…」

周囲のざわめきになんともいえない表情をしたウリバタケがアリスに答える。

「<君>だなんて、初めて問いかけられたぜ。…ともかく、ここの整備班班長のウリバタケ・セイヤだ。お前さんの機体の整備も担当する。これからよろしくな。」

自己紹介と共に右手を差し出すウリバタケ。対するアリスは右手を差し出される意味を理解できず、キョトンとする。

「あぁ…まったく、握手だ!あーくーしゅー!右手を出せ!」

もどかしそうに言うウリバタケの前にようやく、アリスの右手が現れる。即座にその右手を握り、少々大げさに振る。未だ、疑問だらけの様相のアリスにウリバタケが説明する。

「これはな、握手っつうんだ。初めて会った人と仲良くしたい時にするもんなんだ。」
「…あくしゅ……あくしゅ…」

解放された右手を不思議そうに眺め、ウリバタケの説明をつぶやくアリス。
そこにアキトが現れ、少々ぶっきらぼうにアリスに問いかける。

「アンタがこの黒いのを操縦してたのか?」
「Tes.ジャバウォックはボクの機体…君は誰?」
「うっ…お、俺はテンカワ・アキト。あのピンクのロボットに乗ってた。…さっきは有難う。お蔭で助かった。」

アリスの反応に戸惑いつつも、感謝を述べ、右手を差し出す。その行為を理解したアリスが即座に握手する。

「…君もボクと仲良くしたいの?」

アリスのストレートな問いに赤面しつつ、答えるアキト。

「それもあるけどな。握手ってのは、感謝したい時にもするもんなんだ。」
「…感謝……握手は難しい…」

眉を心持ちひそめるアリスの様子に一同が頬を綻ばせる。と、一つの疑問に気付いたアキトが握手したまま、アリスに問いかける。

「ところで、なんで君みたいに小さな子が戦闘機なんかに乗………」

そこまで言いかけた時、大きな声が全ての音を駆逐した。

「あ〜!!アキトが小さな女の子と握手してるぅ〜!!もう!アキトは私が好き!!だから、浮気なんか許さないんだからねっ!!!」

言うや否やアキトに全速力でダイブするユリカ。
アリスの手を離し、なんとか踏ん張りユリカの猛攻に耐えるアキト。形の良いユリカのムネがアキトのそれなりに鍛えられた胸にぶつかり変形する。それに気付いたアキトが頬を赤らめる。
そんな、彼女らを無視し二人の男達が一同の前に姿を現す。

「テンカワさん、とりあえずご無事でなによりです。こちらは今回臨時に支払われる給与明細です。と、もしよければ引き続きパイロットの方も続けては戴けないでしょうか?もちろん、お給料はしっかりお支払いさせて頂きます。」

ユリカに抱きつかれたままのアキトに表情一つ変えず、語りかけるプロスペクター。アキトはユリカの感触に平静を保てないままプロスペクターに反論しようとする。

「なっ!?なんで、二度も三度も出なきゃならないんだ!本職の人間はどうしたんだ?」
「はい、情けない話ですが、現在唯一のエステバリスパイロットが骨折中でして…現在はあちらのアリスさんただ一人と言う訳なんですよ。ですから…その、テンカワさんにピンチヒッターをお願いしたいと言う訳でして。ハイ。」
「う…でも…俺はコックだ…」

言い返そうとするアキトを強引に説き伏せるユリカ。

「大丈夫!アキトは私の王子様!!アキトは私を守ってくれるよね?」

…説き伏せれてるのか?…ともかく、もう一人やってきていた男もようやく目的の人物の前で話しかける。

「事の始めから波乱万丈だが、機体の状態はどうだったかね?なにか、不備があればいいたまえ。」

グルーバーの問いに、周囲の状況を観察していたアリスが答える。

「Tes.主任…機体の調子は万全でした…全速機動でも、機体に異常は見受けられません。ただ…」

珍しく、饒舌なアリスが口ごもる。二重に珍しいアリスをグルーバーが促す。

「話したまえ。君の要求が、ジャバウォックをより使える物にする。」

躊躇っていたアリスがグルーバーの言葉に意を決する。

「ペイロードが足りません…特に主兵装の弾数が少ない所為で戦術の幅が狭まっています…」
「なるほど、主兵装のレール・カノンはただ機体に押し込んだだけの急造品だったな。よかろう、整備班と協議の末、改善する事にする。」

グルーバーの表情はあい変わらずだったが、どこか興味深いような、楽しんでるような響きを持っていた。そんな彼にアリスが右手を差し出す。

「?…なにかね?アリス。」
「Tes.主任…握手…です…感謝の表れと聞きました。」

アリスの行為に戸惑いつつ従うグルーバー。そんなアリスに先の一件を知っていた者たちは微笑みを向けた。















一話、完。

続くっす。続いちゃうっす。














 あとがき


 当初は、無理やり短編っちゅう事にしちゃったけど、書きたいものが書けて、満足してたんですがっ。
一日経つと、「うう、あの話、ど〜考えてもプロローグだよなぁ。」と思い直し、「長編なんて、おっかねぇけどよう、手が動いちまうんだよう」とペチペチと今回の話を打ってると、なんとさっそく拙作がActionに掲載されてるじゃありませんか!
興奮しながら拙作を読み、ありがたいなぁと、代理人様こと鋼の城さんの感想を読んだ瞬間、なんか、キマシタ。

「新城直衛なマシンチャイルド」…やべぇ!見てぇ!自分が見たい!!
どーしても、見たい!…ならば、どうする!

〔投稿!〕〔投稿!〕〔投稿!〕
よろしい!ならば投稿だ!!
三千世界の鴉を焼き尽くす、嵐のような投稿を!!
大投稿を!一心不乱の大投稿を!!

すいません。強調が過ぎました。そんなたいそれた事出来ないデース。
という訳で、ポチポチ作っていきます。でも、一度手を休めたら再開に必要なエネルギーが途方も無い(とても面倒くさがり屋と言う)ので、投稿のともし火を絶やさないよう気をつけます。

今回の話の解説ですが、一応、OUT・SIDEと銘打ってるので、本編の裏側って雰囲気を出すべくワザと定番イベント群をバッサリカット。っていうか、数多のSS作家の先輩方が面白く描いてますからね。定番イベント。自分は楽させてもらいました。
話の内容自体はグルーバー大暴れってとこでしょうか。ううむ、コイツその場の思い付きで即席で作ったんだけど、よく動くなぁ。ちなみにグルーバーは名前の通りドイツ系。何気に嫁さんがいたり、実は特殊部隊出身だったりすると…面白い?
ついでにWILLは片仮名片言に変身。多分、誤字の大半はヘタレな英単語にあるのではと思いまして。なにより、書きにくい!(汗)設定としては、前回は文字表記で意思表示、今回は音声出力にバージョンUPって事で手打ちにしていただきたい。

タグの方は了解です。鋼の城さん。味見の方は気をつけますね。今回、装飾にもトライしてるし。
とりあえず、手打ちで慣れてきたかも?です。でも、道具は揃えるべきだよなぁ。
行間にも注意しました。確かに全然読みやすいッス!さすが、先輩ッス!
誤字はこれが打ち終わってからから、チェックするっす。うう、致命的な物…胃が痛い。今回は無いといいなぁ。
あ、ジャバウォックの画像、感謝です。アレがガンメタリックになったらジャバウォックって感じ。ついでに鋼の城さんの表現、使わせて頂きました。ああ、上手く表現できなかったアイツがわずか一文で♪素敵だ。

P.S.

アリスは今後、直ちゃん化していきます。してみせます。してみせれたらいいよなぁ。そんな訳で今回、戦いの愉悦と人の心の一端に触れさせてみました。新城直衛って退くべき時、退いてはならない時を心得てるから強いんだよなぁ。って事でついでに、退いてはならない状況を戦い抜きました。もちろん、アリスはまだまだ発展途上。これから、ドンドン人の心を理解し、時には笑い、時には泣くでしょう。同時に戦争って奴にどっぷりと首まで浸かり抜け出せなくなってきます。っつうか、自ら飛び込んでいくでしょうが。
大体、火星到達〜8ヶ月後の月防衛線乱入、辺りで人の心を形成させたいものです。上手く行けば、中盤からは直ちゃんアリスとして大暴れしていく予定。お楽しみに♪ちなみに直衛が大戦略を行なえる軍事の天才なら、アリスは戦術で戦略をひっくり返す奇才。何せアリスは最前線が居場所ですから。戦いの中で生々しく<生き汚さ>が出せたらいいな。
鋼の城さんのシュトロハイム化という予想ですが、今の所有りません。残念な事に…でも、見てみたくもある。別の意味でカッコイイし。シュトロハイムなマシンチャイルド…



 幾多の銃弾を乗り越え、敵兵を打ち倒し、姿を現したソレは唐突に名乗りを上げた!

「ふははははっ!我がナデシコの改造技術は世界一ィィィィィィ!」

ソレはどこからどう見ても、可憐な少女だった。未だティーン・エイジャーで通用する背丈。腰まで伸びた緑銀の滑らかな髪、整った顔立ち、銀色の瞳。しなやかで繊細な手、痩せているものの凹凸があり、将来が楽しみな体、針金のような足。
どこから、どう見ても…美少女である。
なのに、それなのに、何故か彼女から漂う雰囲気は筋肉マッチョで厳つい、歴戦の軍人のソレであった。
気を抜けば、彼女の背後に2mありそうな髪の毛を逆立て、古めかしい軍服を着込んだ筋肉マッチョの幻影を見そうである。
まるで、軍への大義の為ならば死に掛けた肉体を機械で補い、再び戦場に舞い戻ってきそうな雰囲気である。当然、右手を斜め45度に掲げるナチ式敬礼で、である。
瞳はナデシコへの誇りでランランと輝き、眉は我を打ち倒せる者無しと厳めしく締まっている。口は自らナデシコの偉大さを示せる事に喜びを現し、体は力を振るう事への賛美をあげる。

「こんな体になった私を、気の毒だなんて思うなよ。私の体はァァアアアア!!我がナデシコの最高知能の結晶であり、誇りであるゥゥゥ!!つまり!全ての人間を超えたのだァアアアアアア!!!」
「くらえぃ!木連!!ナデ式殲滅拳!!」



…濃ゆい…濃縮120%だ。ううっ、一応、拙作は出来うる限り理屈詰めで、簡単に最強伝説には至らせないという制約が…でも、このシュトロちゃんが出てくれば全てご破算になりそう(涙
アリスがもう、最強伝説してんじゃんって言われそうですが、まだ、戦局を左右する強さは得られてません。限られた弾薬で雑魚をやり過ごし、大物を避け、本命に全てを賭ける。それを為すための知能と生への渇望という閃きが武器になっていく…予定。アリスの肉体的無茶苦茶さはこれ以上、上昇させない予定です。多分。食べた物の再構成ってネタはどうしようかな。うう、止めといたほうが無難だな。でも、拳銃をコリコリ喰らうってのだけは残しとこう、可愛いし。

 

 

 

 

感想代理人プロフィール

戻る

 

 

 

 

代理人の感想

可愛いのか(爆)。

でもまぁ排泄の必要がないってのは経済的でいいですな。消化率100%!w

 

それはさておき連載おめでうございますw

逆行アキトじゃない黄色アキトが実に新鮮でよいですなー。

アリス、そしてグルーバーという異分子が混入することによって変化するナデシコの物語を、期待しています。