広い部屋。

床に硬い木材風タイルが敷き詰められた、この部屋は部屋の主の意思を反映して飾り気という物がまったくといって良いほど無かった。

その何処と無く寒さを感じる部屋で、二人の男が大きな机を挟んで話し合っていた。

「…地球に行って貰う。…よいな?」

座り心地最高の肘掛け椅子に腰掛けた中年男性が、手元にあった書類を相手に投げ遣りながら口を開いた。

「…御意。」

和服である着流しを見事に着こなした男が、静かに答えた。彼の目は寒気がするほど鋭い。…まるで爬虫類のような目付きだった。彼の左目が赤く光る。

「任務は、その資料の機体とパイロットを奪取する事。もしくは破壊、殺害する事だ。」

中年男性が声色一つ変える事無く言い切る。彼は人を殺す命令を出す事に慣れていた。否、慣れなければ今のような地位に就けなかっただろう。奇麗事だけで歩めるほど安易な道は歩んでいない、何より彼は、普段の静かな物腰の割に短気な一面を持っているのだった。

「…優先順位は?…閣下。」

着物の男が、ニタリと背筋を凍らせる笑みを浮かべながら問う。

「好きにしろ。…ただし、『可能であれば』両方、持ち帰れ。…技術屋が興味を示しているからな。…なにより、アレは木連向きな兵器だ。」

「承知。…目標について、他に何か?」

「地球の協力者の話によると、目標は白兵戦もこなすそうだ。負け惜しみかもしれんが、並では勝てないとも言っていたな。」

「くふっ…それは良い。噂の黒いゲキガンモドキとそのパイロット。一体、如何ほどの腕前か、期待に胸が膨らむと言うもの。…して、装備はいかほどに。」

「貴様の専用機を持ち出しても構わん。それと技術部が現地用の装備を7人分、用意している。後で行ってやれ。」

「…くふふふふっ……失敬。…では、草壁閣下。さっそく準備をしてまいります。準備完了次第、潜入いたしますが、宜しいか?」

「…それで構わん。…吉報を待っているぞ、北辰。」

踵を合わせて一礼した着物の男、北辰が手に書類を抱えて部屋を後にする。

彼の動きに合わせて、ヒラリと書類が捲れる。そこにはアリスとトライデントの写真が挟まれていた。

部屋を出る北辰と入れ違いに青年士官が草壁の部屋に入ってくる。

嫌なモノを見た。と言わんばかりの顔で後ろを振り返った彼だったが、問題の北辰はすぐに廊下の奥に消えていった。

敬愛する閣下の前で、無作法は出来ない。

直ぐに前を向き直し、草壁に敬礼した後、報告を開始する。

「閣下。『れいげつ』発進準備、整いました。」

「…そうか、早かったな。」

草壁が、思わぬ吉報に相好を崩して答えた。

「それと、『れいげつ』の主砲の取り付けが完了しました。後は細かい微調整と、問題点の改修だけです。」

「うむ。…良くやってくれた。…主砲の試射は移動中にする事になるか。…なに、急ぎはしない。確実に完成させてくれたまえ。」

「はっ!!」

青年士官が直立敬礼して草壁の言葉に答える。

士官が立ち去り、一人になった広い部屋で、草壁春樹は一人、呟いた。

「…クククッ…これからだ。正面から殴りあうだけが戦争ではないという事を教育してやろう。…そして、我々の本気の一撃を受け取るが良い…。」

 

 

機動戦艦 ナデシコ OUT・SIDE

機械仕掛けの妖精

第十一話 「困難を乗り越えて」欧州解放作戦(オペレーション・オーバー・ライド) 前編

 

 

 朝霧が立ち込めるベルリン市外。

寒い中であるが、無数の男達が無数の機械に取り付いている。

ここは、連合陸軍ベルリン駐屯地。北欧方面最大規模の兵力と装備を誇る最精鋭部隊、第6機甲師団の基地である。

整備庫から出された新品の機動戦車(ホバー・タンク)が次々に主機を起動させ、アイドリングに入ってる。

その駆動音は意外と静かだ。


それもそのはず、ホバー・タンクの主機は核融合炉である。戦闘機に付けられる時分、戦車に付けない訳が無いのだ。

ちなみに、炉に被弾したら核爆発が起きるのではないのか?という疑問は杞憂であり、愚問である。

そもそも、核反応は繊細で絶妙のバランスが必要とされる。理論は単純な核兵器が、技術力の象徴とされる理由。つまりは高品質、高精度。そして的確に運用するシステムが不可欠なのだ。

もし、炉に被弾すれば即座に核反応のバランスが崩れ、停止してしまう。…もっとも、それまでに発生した熱量、プラズマや中性子線などの放射線が一瞬、周囲に拡散してしまうのは避けられない。対策は採られているが、完璧とはいかないのが現状だ。

付け加えて言うなら、重力推進で走る為、走行中も静か。環境と味方にも優しい。

このホバー・タンク<ティーガーV>の外見は、平べったい立体の台形に太い棒が突き刺さったようなデザインである。

砲塔(ターレット)は無い。戦車と言うより自走砲と言う方が正しいかもしれないが、いちいち砲塔を旋回させるより、車体ごと旋回させた方が早い為である。もっとも、上下の仰角、俯角はしっかり取れるようになっている。

曲線で構成されていて、エッジもそんなに切り立ってない。

平べったい車体にセンサーや機銃や工具箱などの小物がゴチャゴチャついている。戦う為の道具(ツール)として当然だ。

凹凸の無い戦車など戦車ではないと声を大にして言いたい。

側面には合計6本の脚がある。基本的にはランディング・ギアとして使われるが、いざとなれば、この脚で移動も可能だ。

そして、突き刺さった棒…もとい、主砲は88mmレール・カノン。光学系兵装がメインだった現代の流行と相反したこの装備は対木星蜥蜴の為にのみ用意されたのだった。

ジャバウォックの主砲で御馴染みであるこの砲身は本来、戦車用として開発されたが、威力、サイズ、連射性能、発展性に優れていた為、開発段階ですでに対空砲や海上艦の副砲にすら採用された砲だった。

そして、乗員は4名。内訳は車長、砲手、操縦手、レーダー手。

ちなみに、自走砲との見分け方の一つは、砲身の仰角がどれだけ取れるか?である。

自走砲は運用上、山なりの弾道射撃を行なう事が多い為、砲身を天に指向させる必要があるのだ。

また、ドッカリ腰を据えて撃ちまくるのが基本である為、ズングリムックリな外観の車体が多い。

もっとも、見かけの割に機敏に走り回る。自走砲…いわゆる重砲部隊は射撃ごとに陣地転換するのが望ましいからだ。

下手に一点に留まっていれば、敵からの長距離砲撃の返礼が待っている。


一台ずつ、準備の整った戦車、自走砲が隊伍を組んで基地を後にする。

その後には、各種エステバリスと補給物資を満載したトラックや対空戦車。移動整備車両や、戦場で被弾などで故障した車両を回収する回収車。

そして、歩兵を乗せたトラックに装輪戦車、装甲車、歩兵戦闘車、前線指揮車などの補助部隊が続く。


ここで一つの疑問が湧く。

「歩兵がバッタと遣り合えるのか?」である。

答えはYES。

対ディストーション・フィールド重狙撃銃。口径12.7mm、全長1.4mの磁気火薬複合加速方式携帯レールガンがその対抗策である。

もっとも、携帯火器で電磁加速を行なうという機構上、連射性能は乏しく、バッテリーが重い為、兵士達の評価は低い。しかし、当たれば一撃でバッタを撃墜する貫通力を有している。

対フィールド・ミサイルも開発中だが、先に完成したこの狙撃銃が現在、歩兵にとって唯一の牙だった。

ちなみにデザインは、大昔に先祖帰りしたような、曲銃床(ライフル・ストック)となっている。材質こそ、特殊強化プラスチック製だが、その銃がもつ雰囲気は大昔のボルト・アクション・ライフルを髣髴とさせる。銃に付いている自動倍率調整スコープがさらにその雰囲気を誇張していた。

基本的に兵士に一丁ずつ与えられ、重狙撃銃より威力の低い分隊支援火器が、牽制と歩兵の護衛を行なうと言う立場の逆転が起きている。


基地総出の全力出撃である。

ついに欧州から木星から飛来した無人機共を駆逐する時が来たのだ。

「オーバー・ライド」作戦。

欧州残存兵力の総て、のみならず新設部隊、他方面部隊をも投入する連合陸軍、海軍、空軍、宇宙軍総てを巻き込んだ、古の歴史に刻まれた第二次世界大戦級の巨大作戦の始まりである。

当然、このベルリン基地以外の各基地からも今頃、戦闘部隊が出発している頃だろう。

最前線で今も戦っている味方と合流したのち、作戦は発動される。

 

 同時刻、おなじベルリン市外の教導隊駐屯地。

出撃間近の格納庫の片隅に、グルーバーと101中隊パイロットが集まっていた。

「忙しい中、すまんな。エステ用の新兵装がつい先程、完成した。よって、今回の作戦で実用試験をしてもらいたいのだ。」

グルーバーがそう話す背後には、狂ったようなサイズの巨大な槍や盾、煙突みたいな大砲が壁に立てかけられていた。

エステバリス用にしても大きい。槍など9mはありそうだ。槍というよりランス。騎槍といった風情である。

「…お、俺達にチャンバラをやれってのか!?」

パイロットの一人が唖然としながら問う。

「チャンバラ?…ああ、盾と剣は各機体にそれぞれ用意してある。槍と大砲は各自で選んでくれたまえ。」

剣は盾の裏に装備され、柄が盾の上部から覗いている。そのサイズは5mと言う所。

巨大であるがゆえに、それぞれの装備にはハード・ポイント接続用の補助アームが付いている。エステの腕だけでは保持しきれないのだった。

「…で?…これらはただの鉄の塊では無いんだろう?…どういう武器なんだ?」

クリシュナが冷静に言う。

「ああ、まず、槍には回転式ディストーション・フィールド展開装置が装備されている。ジャバウォックのマグナム・ファングと同等の機構だ。盾には重力場発生装置。これは盾前方に重力レンズを展開させ、敵の砲撃を曲げる事が可能だ。剣はディストーション・フィールドを表面に展開するだけだが、エステバリスで振るえば、それなりの威力になるだろう。」

一息呼吸を整え、説明を続けるグルーバー。

「で、最後の大砲はリニア・カノンだ。レール・カノンと違って、高初速こそ得られないが、簡単な構造ゆえに大型化しやすかった。砲弾は徹甲弾、榴弾、散弾と用意してある。ただ、30発程で砲身の超伝導コイルがクエンチ現象を起して加熱してしまう。そうなったら砲身が曲がって使用不可能だ。使い捨ててくれ。」

グルーバーがざっと説明してしまう。ちなみに最後に話の出たリニア・カノン。全長10mで460mmの巨大な口径を持っているが、その構造は非常にシンプル。10発入りマガジンとその装填口、そして砲身兼加速器である超伝導コイルのみで構成されている。実に簡単な構造であるから使い捨てにも出来るのだった。

「他に注意点は?」

「これらの装備の電力は核融合炉から直結で供給されるが、最大出力で使用すれば重力波推進器にも影響が出る。小回りが効き難くなるだろうから、状況に応じて使い分けてもらいたい。」

シンの質問にも明確に答えるグルーバーがさらに口を開いた。

「他に質問は無いか?…よろしい。では、諸君。地獄に向けて進軍しよう。」

 

 だだっ広い荒野に、緻密な隊列を組んだ戦車が佇んでいる。

総数400台以上の最新鋭ホバー・タンクやエステバリスが一地点に集まり、作戦開始時間を待っている。

当然、戦車以外にも対空戦車、歩兵戦闘車の姿も見える。

現代においても、やはり、戦車と歩兵は密接な協調関係にあるのだ。

さて、この荒野に布陣した中央軍集団を構成する第6機甲師団の陣容を解説しよう。

第6機甲師団

第1重戦車旅団

・502戦車大隊 97式ホバー・タンク<ティーガーV>64輌。

・503戦車大隊 94式ホバー・タンク<ボナパルト改>48輌。<ボナパルト>16輌。

・588増強戦車大隊 94式ホバー・タンク<ボナパルト>82輌。

第4機動兵器旅団

・736機動兵器大隊 エステバリス・陸戦フレーム、32機。重機動フレーム、32機。

・713機動兵器大隊 エステバリス・陸戦フレーム、64機。

・773機動兵器大隊 エステバリス・陸戦フレーム、64機。

第2陸軍航空旅団

・821航空機動大隊 エステバリス・空戦フレーム、64機

・804攻撃ヘリ大隊 91式攻撃ヘリコプター<ジェロニモ>32機。92式多用途攻撃ヘリ<ホーカムU>32機。

・811偵察大隊 各種偵察機多数。


第591対空戦車大隊 95式ホバータンク<ゴリアテU>64輌


第422増強重歩兵大隊 94式歩兵戦闘車<ワシントン>91輌
  

第303増強<突撃>野戦砲連隊 95式ホバー・自走砲<バベル>51輌。93式ホバー・自走砲<デイビー・クリケット>26輌。エステバリス・重機動フレーム、31機。砲撃管制車など6輌。


・226増強輸送大隊 各種車種多数。


・戦闘指揮車及び、通信管制車等、多数。



と、時計の針が作戦開始時間を示した。

同時に、無線機から作戦指揮官からの訓示が流れる。

「将兵諸君!私は連合総軍司令長官、ジャック・R・パットンだ。当作戦の指揮を取らせて貰っている。さて、諸君らの中には早くも猛っている者も多いだろう。それも無理は無い!この一年以上、我々はあの無人機共の良いようにあしらわれて居たからだ。撤退に次ぐ撤退で戦友を失ったものも多いだろう。家族を失った者すらいるだろう。」

画像送信式の通信機で、パットンは俯き、拳を握る。

「…だが、屈辱と嘆きの日々は終わりを告げた!!諸君らの装備している兵器はどれも連中のディストーション・フィールドを突破できる物ばかりであり、我々の戦車には、戦闘機には、戦艦には、ディストーション・フィールドが標準装備されているのだ!我々は、今こそ、あの機械共に人類の本気を見せ付けねばならん!!さあ!進撃しよう!ノルマンディまで一気に踏破するのだ!!ロンドンを奪還しろっ!!ジブラルタル海峡を戦艦で満たせ!!この欧州からあのクソッタレな虫共を駆逐するのだ!!」

パットンは握り拳を振り上げ、その右手を開いて横に振る。

「オペレーション・オーバー・ライド!状況開始せよっ!!」

パットンの言葉と同時に軍団が疾走を開始する。

この荒野に集まった部隊、中央軍集団だけではない。北部軍集団、南部軍集団、海上進撃艦隊、そして航空部隊と宇宙艦隊。

それぞれが、それぞれの方角から戦場へ進撃する。

当然、木連無人艦隊…木星蜥蜴の群れも連合軍の大規模行動に反応して、戦闘を開始する。

戦争の始まり。

地獄の蓋はここに開いたのである。

あとは、ただ、破壊あるのみ。

両陣営は、それぞれの威信と信念を掲げて激突するのであった。

 

 「車長。前方11時方向に木星蜥蜴の集団を捕捉。距離、20。ヤンマ3隻、カトンボを11隻確認、小型機は3000程度と推測。」

第6機甲師団、第502戦車大隊、第1中隊長の戦車。

中央軍集団の最先陣を切るその戦車のレーダー手が、空で対空、対地レーダーを稼動させている早期警戒情報管制機とのデータリンクを経て、中隊長に報告する。

同時に、無線機から502大隊長からの通信が入った。

「502大隊諸君。本作戦の先駆けは、我が502が戴いた!502全隊は目標に向け全速前進。射程に入り次第、撃ちまくれ。」

「…と言う訳だ。第一中隊、突貫するぞ!」

大隊長の無線の後に中隊長、マイケル・ヴィットマン大尉が発言する。5021戦車中隊が進路を左に30°転進し、全力疾走に移った。

ヴィットマンの戦車を先頭に中隊の16両の戦車が、無人機の3000以上の群れに突っ込む。

同時に第二中隊、第三中隊、第四中隊もそれぞれ行動を開始した。

どこからどう見ても圧倒的な戦力差。

しかし、これを克服しなければ、欧州を解放することなど夢の又、夢。

「第一、第二、第三小隊!私に続けっ!虫共を駆逐するっ!第四小隊の目標はカトンボだ!射程に入るまで砲弾は温存しろ!」

各小隊がヴィットマンを先頭に鏃隊形(パンツァー・ケイル)をとり、地面スレスレを疾走する。

第四小隊は隊列中央で、出番を待つ。

「砲撃、開始!」

ヴィットマンの言葉に88mmレール・カノンが火を噴く。

砲弾後部の伝導体が高電圧によって、砲身内で瞬時にプラズマ化。プラズマになってもレール・カノンの磁場の流れに沿って、砲弾を加速させ続ける。

音速超過。

音の壁を切り裂いて、砲身から飛び出した砲弾が牙を剥く。

プラズマの花を咲かせて、12門のレール・カノンが雄叫びを挙げる。

同時にバッタ達からもミサイルの返礼が贈られた。

空間が、爆炎で彩られる。

煙から飛び出す戦車達。その車体には傷一つ無い。

ディストーション・フィールドは正常に作動していた。

「これは技術屋共に感謝しなければならんな。…各車、カトンボの砲撃にだけ注意しろよ!戦車、前へ(パンツァー・フォー)!!」

機械の虫達を鋼鉄の砲弾で叩き落としながら、男達は前進を続ける。

数の不利をモノともせず、飛び交う弾雨の中、彼らはただ、敵を屠る。

カトンボが落ちたのはその僅か数分後だった。

502大隊の後を追った中央軍集団が合流し、残存敵兵力を喰らい尽くす。

一方的な破壊。

それは、一年前の火星、一年前の地球。木星蜥蜴の侵略当時を彷彿とさせた。

戦車は男達の無言の怒りを乗せて、疾駆する。

目指すは木星蜥蜴の大艦隊。

この程度の部隊など腹の足しにもならないのだった。

 

 中央軍集団が更なる敵戦力と交戦に入った頃、ジブラルタル海峡、西方40km地点。

時速30ktで1時間掛からない距離である。

現在も地中海へ向けて航行中の連合海軍艦隊。

その旗艦、超弩級空母「フューリアス」。

最初にして最後の海上航行型超大型空母と呼ばれるこの艦の戦闘指揮所(CDC)にて、一人の男が不満を漏らしていた。

「くそ…パットンのアホんだらめ。あの様式美主義者めが。あの馬鹿が戦場に出るものだから、私までが前線に駆り出される羽目になってしまったではないか。…ここに出張っても私の仕事は無いというのに。なにより許せんのが、先の演説で猛ってしまった俺自身だ。…くそっ、あのボケの、あんな単純な言葉で…。」

連合海軍司令長官、リード・B・トルーマンである。

「ああ、閣下。地が出てしまっています。」

艦隊の提督が、兵が見ている。と言外で忠告する。

「む…すまんな。提督。本来なら、この席に座っているのは君だったのに。」

トルーマンが座っているのは提督席。本来の持ち主である提督はトルーマンの隣で立っていた。

ちなみにトルーマンの言葉は真実である。

司令長官ともなれば、軍の基本方針や、様々な政治交じりのイザコザを解消するのが基本の仕事。

大戦略に手を下しても、戦術レベルにはノータッチなのだ。

時にはそんな軍隊が有るかも知れないが、そんな軍隊は組織が崩壊していると言わざるを得ない。

流石の木連ですらそこまで悲惨な人員不足には陥っていない。

もっとも、宗教信仰に近いゲキガン狂いの果てに、将兵の思考力の低下を引き起こしつつあるが。

単一価値観の強要は、それを押し付けられた者達の自我の希薄化と愚鈍化という、為政者にとっては素晴らしく、文明にとっては最悪な結末をもたらす事は歴史が証明している。

多様性は混乱をもたらすが、活力も与えるのだ。

…話を元に戻すとしよう。


「…まあ、構いませんとも。偶には前線視察というのも悪くないでしょう?私も時には、こうして体を酷使しないと直ぐに足腰が衰えてしまいますからな。」

連合海軍、混成第一艦隊提督はそう言って笑った。

「ふむ、そう言ってくれると助かる。」

トルーマンが釣られて苦笑した。

「司令長官、提督。作戦開始時間、1分前です。」

フューリアス艦長がトルーマン達に顔を向けて報告する。

「閣下、我々も演説といきますか?」

提督の言葉に、トルーマンは否定で答えた。

「いや、やめておこう。二番煎じは好かない。海軍は沈黙を尊ぶしな。…替わりに少し、命令させて貰うぞ?」

トルーマンの発言に頷きで答える提督。

「艦長、作戦参加艦に通信。『計画通り、地中海制圧艦隊及び、北海制圧艦隊に艦隊を二分せよ。』だ。それと通信旗を掲揚してくれ。内容は『我に続け』。後は任せる。提督と艦長の思い通りに行動してくれたまえ。」

小気味良い踵の鳴る音と共に敬礼した艦長は、振り返り、受けた指示を実行に移したのち、自身の命令を出す。

「よし、信号旗は出したな?…では、両舷全速。本艦が先頭に出る。艦載機も順次発進させろ。敵影を補足してからでは遅いぞっ!」

艦長の言葉と共に、速度を増したフューリアスの前部カタパルトから各種兵装を抱えた多目的戦闘機「雷電V」が発艦する。同時に空戦フレームのエステバリスも、抱えるだけのミサイルとライフルを積んで後部ヘリポートから静かに離陸してゆく。

エステも電磁カタパルトから射出可能だが、自力発進も容易くこなすこの機体がカタパルトから発進する時は、よほどの重武装なのか、緊急展開しなければならない時くらいだ。

別にヘリポートからしか離陸できない訳ではない。が、重力波推進器の重力波を作業員が喰らうと、下手すれば艦から転落してしまう為の安全措置である。

非常時には、甲板上にエステを整列させて、全機同時発進という荒業も出来ない事ではないが…


さて、ここで混成第一<地中海制圧>艦隊の陣容を説明しよう。

旗艦、超弩級空母・フューリアス。

ミサイル戦艦(アーセナル・シップ)・コロラド級コロラド。以下3隻。

対艦・対空・対潜統合情報統制(三次元イージス・システム)巡洋艦・長門級、陸奥。以下2隻。

重ミサイル潜水艦(アーセナル・サブマリン)・]\級U−333<三匹の小魚>。以下7隻。

空母・エンタープライズ級エンタープライズ。以下2隻。

多目的駆逐艦・アルキメデス級ダビンチ。以下11隻。

潜水補給艦・]V級U−11<輝ける五輪>。以下5隻。


混成第二<北海制圧>艦隊の方は、

旗艦、三次元イージス巡洋艦・長門級、長門。

航宙機動戦艦・ナデシコ級ナデシコ。

空母・エンタープライズ級アトランティス。以下3隻。

三次元イージス巡洋艦・長門級、摂津。以下、3隻。

重ミサイル潜水艦・]\級U−99<幸運の蹄鉄>。以下8隻。

多目的駆逐艦・アルキメデス級ミケランジェロ。以下5隻。

高速攻撃潜水艦・][級U−100<白虎>、以下12隻。

潜水補給艦・]V級U−53<泳げタイヤキ君>。以下9隻。


ちなみに潜水艦の愛称は、通称である。各艦のナンバーは戦時中なので消されているが、それぞれの好みの小さなマークを艦橋脇に付けていた。ソレが由来の通称である。U−53については、艦長が無類のタイヤキ好きだった。でも、「うぐぅ」と泣き声を発したりはしないはず…。

 

 その頃、ナデシコでは。

白亜の戦艦は、一路、ドーバー海峡へ向けて疾走中の艦隊の先頭にて、その巨体を誇示していた。

前衛哨戒(センシング・ピケット)任務である。

ナデシコの探査機器の性能は最新鋭イージス艦のソレを越えている。

宇宙戦争は、レーダーの性能が勝敗を分ける。圧倒的物量と質で連合宇宙軍を駆逐した木星蜥蜴だったが、連合宇宙軍がかろうじて生き残ってこれた理由、それが木星蜥蜴に匹敵する索敵能力だったのだ。

もちろん、現在連合軍唯一のグラビティー・ブラスト搭載艦である事もナデシコを先頭に押しやっていた。

広角射撃でバッタの群れを駆逐する事を期待されているのだ。

その時、味方を巻き込んでは話にならない。

そんな、この第二艦隊の中核をになっているのに、命令中枢からは切り離されているナデシコのブリッジ。

「…はぁ、中々上手くいかないなぁ…。」

データ・リンクにより、戦闘開始まで暇な通信士であるメグミが手帳に何かを書きつつ、ボヤいた。

「?…どうしたの?メグちゃん。」

ブリッジ一、気が利くお姉さん、ミナトがメグミに話しかける。

「あ…、その、ジュンさんに色々、手『造り』料理を振舞ってるんですけど、なかなか上手にいかなくて…。」

ミナトに悩みを打ち明けるメグミ。相変わらず、「手作り」のイントネーションが変である。

「…ああ、それで…。」

後ろを見上げ、最上段の指揮区画で佇んでいるジュンを視界にいれる。

彼は、一目でわかるほど、やつれていた。

「夜が激しい訳じゃ無かったのね〜。」

のほほんと18禁な思考を展開するミナト。彼女も<灰色の悪魔>の噂は耳にしていた。

幸か不幸か、ジュンは<灰色の悪魔>に適応した胃腸を持つに至ったのだが、それでもメグミの『手造り』の暴力は彼の心身を痛めつけていた。

普通ならば度重なる手料理と言う名の暴力に、いい加減キレてもおかしくないが、彼の半生の中で、このように女性から色々アプローチされる事は初めてだったので、強く出る事が出来ないのだった。生来の気弱さもそれを加速させている。

メグミの楽しそうな顔を見ると「まぁ良いか。」と思えてしまう辺り、かなり末期症状である。

…一応、<灰色の悪魔>の破壊力もメグミの涙ぐましい?努力によって、減少方向にあるらしい。

ともかく、そんな微妙な沈黙につつまれたブリッジ。

「…ふぅ…。」

もう一人、憂鬱なため息をついたのはナデシコ提督、ムネタケ大佐であった。

「どうかしましたか?」

側に居たユリカが、相変わらずの能天気を振り撒きながら問いかけた。

「…どうかもするわよ。本来ならナデシコが第二艦隊、旗艦として任務に付いていてもおかしくないのよ?それだけの機能を持った艦なのに、センシング・ピケット艦として最前線に張り付いている。…どれだけ、この船が、乗組員が、そして私が信用されてないか、判ろうと言うものだわ。」

「でも、ナデシコを旗艦とするなら司令部をこの船に移動させないと。地球の海が持ち場な彼らが『宇宙船に乗り込むくらいなら既存の艦で賄っちゃえ。』と考えてもおかしく無いんじゃないでしょうか?それに、艦隊の『目』を任されるというのは信頼の証しとも受け取れます。」

ムネタケのぼやきにユリカが珍しく、マジメに答える。

「ハッ!…アンタはお気楽ねぇ。ま、この船はもう、アンタの船なんだから、どうでもいいんだけど。」

「?」

ムネタケの言葉を理解できず、首を傾げるユリカ。

「…解ってないの?もう、私がどれだけ声を張り上げても、この船は私の思い通りにならない。…火星で何が有ったのかしらね。少なくともアンタは、この船に乗る者達の信頼を得ている。アンタが名実共にこの船のボスなのよ。…うらやましいぐらいだわ。」

そう、ナデシコの軍属に際して、下船を希望したのは主計、整備の一部のみ。人員の補充する事無く、稼動状態を維持出来たのは火星での戦いを通しての連帯意識。そして、ミスマル・ユリカ船長への信頼の表れと言ってもいいのかもしれない。

「この戦争を終わらせる一翼を担える。」

ナデシコの現クルーは、ナデシコに自分の居場所を見出したのだった。

と、警報が敵の接近を知らせる。

「木星蜥蜴、索敵圏内に侵入ました。当艦隊に向け、接近中。ヤンマ級6隻、カトンボ級12隻、機動兵器5000の大群です。」

ルリがいつも通りの冷静な声で報告する。アリスが居れば楽勝でしたね。と内心で呟いて、今は居ない親友に思いを馳せる。

「旗艦にデータ・リンク!蜥蜴さん警報とグラビティ・ブラスト発砲時刻を暫定でいいから送信して!」

「…完了しました。グラビティー・ブラスト、チャージ開始。」

ユリカの指示に即座に応じるルリ。ついでにまだ命令されていない主砲発射準備も行なう。

「ありがと、ルリちゃん。…メグミちゃん、エステバリスの発進準備を発令して。グラビティー・ブラスト発射後に出すからね♪」

気を利かせたルリに感謝しつつ、次の行動を指示するユリカ。…ルリの行動は厳格な軍隊ならば「独断専行」と叱責されてもおかしく無い。が、それをいうなら勝手に迎撃行動を開始させたユリカも同罪である。

実際、ユリカは後で第二艦隊提督から叱責を受ける事になった。

「了解。…エステバリス、発進準備。作業員は各機体を起動。パイロットはコクピットに搭乗してください!繰り返します、エステバリス発進準備…」

ようやくお仕事の来たメグミが気合をいれて船内放送を開始する。

直ぐにそれぞれのエステから、準備完了の通信が入る。

臨戦態勢で航海中だったため、パイロットは格納庫で待機していたのだ。

「あ、アキト〜!…お仕事はもう少し、先だからね〜♪」

アキトの姿をウィンドウ越しに確認したユリカが手を振りながら声を上げる。

その姿に苦笑しながら、小さく手を振るアキト。

そんなアキトを小さな瞳がこっそり見つめていた。

ルリである。

アリスが居なくなった事で、元々アリス繋がりで始まったアキトとルリの接する時間が増えた。その結果、ルリは急速にアキトに惹かれて行ったのだ。

その思いは「お兄ちゃん」に対する思慕か、「彼氏」に対する淡い恋心か。

間近でルリの心の移り変わりを目撃する事になったミナトは、ルリの成長を好ましく思うと共に、彼女持ちであるアキトを好いてしまった事に一抹の不安を抱えていた。…まあ、初恋は実らないと言われているが…。

ともかく、自身を道具として認識していたルリ。アリス、アキトの影響で、その認識は無意識下で消えてしまっていたが、その事を実感するにはまだ時間が掛かりそうだった。

今はただ、彼の姿を目で追うのみ。

 

 エステバリスのコクピットで待機するアキト。

はじめは違和感だらけだったパイロットスーツとコクピット・シートも今ではしっかり体に馴染んでいる。

つまり、それだけエステに乗っているのだ。と、アキトが気付いて苦笑する。

「俺はただ、コックになりたいだけなんだけどな…。」

ため息と共に、最近の出来事を思い出す。

それは、地球に帰ってしばらく後、佐世保シティー展望台でユリカと話をした翌日。


 「配属先の再確認?」

食堂での仕事が終わって、自室に戻る途中のアキトに話しかけたのはプロスペクター。

「ええ、この度、連合軍に軍属として登録される事になったのですが、先方が『コック兼パイロット』というのは容認できない。どちらか片方に専念して貰いたい。と仰りまして。…規則ですから、こちらの方も無碍には出来ないのですよ。」

申し訳無いという表情を顔に貼り付けたプロスが遠慮がちに問題を口にする。

ちなみに、今まで「コック兼パイロット」という労働基準法に抵触しそうな行為が見逃されてきたのは、プロスペクターの手腕の賜物である。

一人で二人分働いてくれる勤勉な人間が、彼は好きだった。特にお金の面で。

もちろん、かつて付き合いのあった夫婦の忘れ形見であるアキトの希望は出来うる限り叶えてやりたいという意識も作用している。

「とりあえず、申請書類はこちらで用意しました。こっちがパイロット用、こっちがコック用。どちらか一方にサインを記入して私に渡してくだされば、こちらで手続きいたします。…あ、もちろん、今まで通り副業に精を出したいと仰るのであれば、当方は歓迎いたしますよ。軍からは出ませんが、ネルガルからは今まで通り御給料も支払います。…なにより、貴方のチキンライス。好みの方は意外といるのですから。」

プロスの差し出した二つの封筒を受け取るアキト。プロスの最後に零した言葉に呆気に取られるが、辛うじて、「有難う」と答えた。

俯き、食堂に踵を返して歩み去るアキトをしばらく眺めていたプロスは、軽くため息をつくと自室へ戻るのだった。書類が彼を待っている。


食堂の机に二枚の書類を置いて、ソレを眺めるアキト。

「ど、ち、ら、に、し、よ、う、か、な、…なんて訳に行かないしなぁ。コックか、パイロットか、か。結局、あの時の決断は決断じゃなかったのか?また同じ問題で悩んでいるなんて…。俺も進歩が無いなぁ。」

アキトの言葉通り、かつて有耶無耶にしてしまった問題が再浮上してしまったのだが、少なくとも、この問題に対して軽い冗談を言えるくらいには成長していた。

そこに、食堂の後片付けを終わらせたホウメイが通りかかる。

「おや、なにをしてるんだい?」

「あ、いえ。…その、あれですよ。軍属に際して、配属を明確にしてくれって頼まれて…。」

一瞬、隠そうとしたが、ホウメイはアキトの上司。黙っているより、しっかり報告しておいた方が良いと思い直した。

「ふーん、なるほどねぇ。…で、どうするんだい?仕事を一本に絞るのかい?」

「いえ、副業は歓迎するとプロスさんは言ってました。どちらにしろ、俺は食堂に来ますよ。」

「そうかい。じゃ、これからもビシビシいこうかね。」

「あはは、お手柔らかに。」

「…それじゃあ、何を悩んでるんだい?アンタの意思はもう決まってるようじゃないか。」

「ええ、俺はコックになりたい。…でも、同時にユリカを、船の皆を守りたい。どちらが、大切とかじゃなくて、どちらも大切にしたい。…これって贅沢ですかね。」

決意と共に語るアキトにホウメイが「若いって良いね。」と内心で思いながら答える。年齢不詳ではあるがホウメイも十分に若いと思うのだが。

「良いんじゃないかい?贅沢ってのは良いことさ。心が贅沢ならなお更さね。心が豊かなら余裕が持てる。かならずしも、遣りたい事を一本に絞らなければいけない訳でもないからね。…でも、アンタに戦う事を決意させるのは、あのお嬢ちゃん、アリスの事もあるんじゃないのかい?」

ホウメイの鋭い意見に、一瞬、呆気にとられるアキト。

「たしかにあの子の事は切っ掛けかもしれません。でも、アリスの事が総てでは無いです。」

「そうかい。ま、戦争に引きずられない様に気をつけな。のめり込んじまったら、戻ってこれないよ。」

ホウメイが経験から裏打ちされた言葉をアキトに突きつける。パイロットになるとは一言も発してないが、アキトの選択をすでに解っているようだ。

かくして、翌日にプロスに出された書類はパイロット用の物だった。


 コクピットに伝わる振動でアキトは回想から戻ってきた。

ナデシコのグラビティ・ブラストが発射されたのだ。

「エステバリス各機、発進願います!」

「よし、やってやるっ!…こんな戦争、ぶっ潰す!!」

メグミの通信に答え、カタパルトから飛び出したエステの中でアキトは一人、決意に身を固めていた。

 

 ナデシコを含む第二艦隊が全力戦闘に移った頃、空でも命懸けの花火が咲き誇っていた。

「グレッグ、バクシー、ジェンセン!私に続けっ!コイル・カノンを使う。蜥蜴連中に抜かれると、後方の補給部隊は大打撃だぞ!!」

101中隊の編隊の前にクリシュナ率いる第一小隊が先行して横列を取る。

「鉄鋼弾、装填!砲身が新品の内に精密射撃を行なう!」

クリシュナの指示に従い、4機のエステが右肩のハード・ポイントから保持アームで繋がった巨大な大砲に、これまた大きなマガジンを装填し、脇に抱える。

ちなみに、他の8機のエステには突撃槍<ボルテックス・ランス>が装備されている。使い捨ての大砲より、振るい続けられる槍のほうが使い勝手が良いだろうという判断だ。

「目標!敵双胴戦艦!!撃ち方っ、始めぇ!!」

四機のコイル・カノンから音速を二桁で越える砲弾が射出される。砲弾は飛び出ると弾芯を保護していた装弾筒が四つに別れ、安定翼の付いた杭のような弾芯のみが総てのエネルギーを受け取って空中を疾走する。

いわゆる安定翼付き装弾筒式鉄鋼弾(APFSDS)である。

超音速の杭はヤンマ級のディストーション・フィールドに接触し、フィールドと押し合い、辛うじて勝った所で失速する。

しかし、続けざまにくる砲弾がヤンマ級の防御を困難にする。

3発目の砲弾がついに、船体に突き刺さり、火を噴く。更なる砲弾が襲い掛かって、ついには地球の重力に引かれて落ちていった。

「ようやくか。微妙に硬いなぁ。」

グレッグが眠たそうな顔でのんびり感想を漏らす。しかし、その手は止む事無く次なる目標を屠るのだった。

軽快な反動をエステに提供するコイル・カノン。しかし、マガジンに装填された砲弾は10発。すぐに弾が切れる。

「次弾、榴弾。各個に好ましいと思う目標を撃て!榴弾が切れたら散弾だ。接近戦に移行するぞ。第二、第三小隊、準備しておけ。アリス!君もだ。」

「Tes.第一小隊長。こっちは何時でもいけるよ。」

アリスがトライデントをマーチ・ヘアー形態にして待機している。突撃の先陣を切る気満々だった。

「やれやれ、勇ましいもんだ。」

「ウチのお嬢様は、突撃大好きだかんな。機体からしてケレン味たっぷりだ。」

「ケレン味って意味じゃ、このエステもそうだな。この歳で騎士ゴッコをする羽目になるたぁ思わなかったぜ。」

「くくっ、ちげえねぇ。」

第二、第三小隊のパイロット達が、僅かな待機時間を雑談で潰す。

「シン、初っ端から死ぬなよ?」

「当然!…生き残るさ、必ず。」

マックとシンも、お互いに短く決意を伝え合う。

と、辛うじて砲火から逃れた一隻のカトンボが待機中のエステに艦首砲を向けた。

「げろっ!言ってる側からっ…シールド、全開っ!!」

運悪く狙われたマックが付近に居る味方に余波を浴びせないように移動しながら、左肩のシールドを前方に展開する。

シールドから発生した重力レンズが空間を歪ませる。

直後に発射された収束高出力レーザーは、重力レンズに見事に進路を曲げられ、哀れ天空に虚しく伸びた。

「ハンッ…盾の方も良い感じだな。中隊長に感謝ってとこか。」

マックが軽口を叩きながら、隊列に戻る。

「第一小隊、後は散弾だけだ。ショットガンと物は変わらんからな。至近距離でぶっ放す。切り込みは任せたぞ、アリス!」

クリシュナが隊列後方に引く。彼の部下が操る3機もそれに続く。

「ふふん、任せて♪」

クリシュナと対照的に隊列から飛び出すアリス。

「さ、僕の側に近づいたら、電子機器と一緒に焼いちゃうよっ!…E.M.P.トルネードッ!!」

天空を指した左腕の槍が変形を開始し、切っ先が回転を始める。

宇宙空間を往くモノに必須の対電磁処理を貫く、死の光がドリルから漏れる。

狂えるウサギは槍を構えて、全力疾走に移った!

背中の巨大な二機のエンジンと両足のエンジンから炎を吐き出し、空を翔る。

戦艦を含む木星蜥蜴の群れに、躊躇無くアリスは突っ込んだ。

あっと言う間に双方の距離が縮まるのを、マーチ・ヘアーのカメラを、各種センサーを通して限りなくリアルに感じ取るアリス。

マーチ・ヘアーを撃墜せんと放たれる濃密な弾幕を縫って、アリスはただ、敵艦隊中央部を目指す。

「くっ…くくく…。」

カチカチと歯を震わせ、顔を青ざめさせるアリスだが、その口は薄っすらと笑みを浮かべていた。

…なぜ、ボクは恐怖と歓喜を同時に味わっているのだろう…

戦闘中に考えるような事では無い事を脳裏に掠めながら、アリスは、マーチ・ヘアーは木星蜥蜴の群れを突っ切った。

直後に無数の爆発。

凶悪な電磁パルスが電子機器を焼き切るに留まらず、火災を起したのだった。

しかし、無事な蜥蜴もまだ多い。そんな、一機のバッタが無防備に背中を晒すマーチ・ヘアーに襲い掛かった。

「イケねぇ!アリスっ、背中につかれた!避けろっ!!」

101の同僚、グエンがアリスに警告する。

しかし、

「大丈夫。トライデントの本領はこんなもんじゃない。」

アリスは愉快気に答えると、手を動かす事も無く、装備の一つに起動命令を送る。

ガコンッ!

マーチ・ヘアーの背中。二機の巨大な槍のようなエンジン。グリフォンのソレに挟まれるようにして収められていた、ジャバウォックUの機首が起き上がる。

後方のバッタにその舳先を向けると機首は上下に開いた。レール・カノン発射体勢である。

バッタは危険を察知し、踵を返すが既に遅い。たった一発でバッタは射抜かれたのであった。

「…まったく、一々心配させんじゃねーよ。人の悪いガキンチョだ。」

グエンがホッとため息を付きながら悪態を付く。

「よっしゃ、これ以上心配する事が無い様に、連中をぶっ潰すぜぇ!ライリー、キャンベル、マクファーソン!!続け〜っ!!」

マックが突撃槍<ボルテックス・ランス>を起動させながら、猛烈なダッシュを掛ける。

彼の列機も即座に呼応し、綺麗な鏃隊形を取る。

「こっちも、突っ込むぞ!ウォーレン、ケン、グエン!!」

シンも又、<ボルテックス・ランス>の起動トリガーをエステの指で押し込みながら、鏃隊形を維持して木星蜥蜴に切り込む。

彼らの後方に浮き出す飛行機雲(ベイパー・トレイル)

飛行機雲は緩やかな弧を描きつつ、木星蜥蜴の群れの中心で交わった。

再び巻き起こる、紅蓮の花火。

ランスの発生させるディストーション・フィールドにひき潰され、又、貫かれ、バッタもカトンボも平等に落ちて行く。

そこに、バッタクラスのディストーション・フィールドなら物ともしない散弾をばら撒く第一小隊とジャバウォック形態に変形したトライデントも参戦する。

「ちっ、弾切れか。」

無用の長物と化したコイル・カノンを近くのバッタに投げつけて、左肩のハード・ポイントで繋がっている盾から剣を抜く。

即座にコイル・カノンにもたついたバッタを切り裂き、背後から迫るバッタには、左肩の盾を振り回して跳ね飛ばす。

そのバッタも二つに切って捨てたクリシュナが、剣を掲げて指揮を執る。

「よし、隊列を崩しすぎるなっ!敵はもう烏合の衆だ!…蹂躙するぞ!!」

「「「「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」」」」

アリスを含めた101全員の威勢のいい返事がクリシュナに返って来る。

「ふん、騎士ゴッコも中々捨てたものではないな。」

クリシュナが苦笑しながら、三度、バッタを切り裂いた。


この戦闘の一部始終を目撃した、連合空軍輸送部隊。

彼らが101中隊の常識外れな戦闘を噂にして軍全体に流すのは、あっと言う間だった。

101…その栄光と悲劇の始まり。

彼らはただ、ひたむきに戦い続ける。行く末に待ち受ける結果を知ろうともせず…。


欧州解放戦線、その戦端がようやく開いたのであった。

 

 




第11話 完









あとがき

いやはや、年末が近づくと何でこんなに忙しいんでしょうね?って感じのTANKです。

しかも「コードギアス」というアニメが素敵に自分の書きたかった事と抵触。え?そんなのあったんか?…ええ、一応あるんです。

面白いから始末に終えない。あ〜、続きが気になって筆が進まないゼェ〜♪ルル君最高〜!一人で巨大国家にケンカを売る君に乾杯だっ!

ともかく、一応11話、仕上げました。

…ある意味、中編、後編を完成させないと終わった事になりませんが。

ああ、後編の展開は思い浮かぶのに、中編の情景が思い浮かばないヨゥ。

でも、いきなり欧州解放戦線は終了。って言っても興ざめかなぁ。


>スペックで大勝ちしてる相手に対して中破まで持ち込むというのはやはり凄いね、エース。

ですね。連中を出す以上、かなり持ち上げてやるべきかなぁと。

それに、スペックこそ大勝ですが、アリスは彼らと遣り合うには空戦技量が足りません。如何せん、生後6歳のハードルは高すぎです。

って訳で、彼らと戦う内に彼らの技術を盗んでいったら…って目論みもあります。


>ファルケンの最速レコード並みのスピードでF-4クリアする人も世の中にはいることだし

お〜、それは凄い!自分もやりますね、最弱機体でクリア・チャレンジ。自分には完遂出来ませんが…でも、MIGー21で強敵を倒すとニヤリとなるのはご愛嬌。




感想代理人プロフィール

戻る

 

 

 

 

代理人の感想

いよいよ仮想戦記っぽくなってきました。

話の内容が「戦った、戦った」だけなのがちょっとあれですが、そこはまぁ導入部ってことで仕方がないですね。

それにしてもこれほどの一大反攻作戦、さすがにどこもかしこもエースだらけです。

戦車に乗ってるのも怪物中の怪物と言える人ですしねぇ。

と言う訳で今日の締めは何となくこれ。

 

「情け無用、ファイア!」