アリス観察記録 〜とある研究員の手記〜



 突然、「実験体の言語教育を担当しろ。」と研究主任から命令が下った。

入ったばかりの見習いに相応しい雑用と言う事か…。

僕の担当する事になった「実験体」とは、僕の所属する連合軍技術研究本部第四課、先進技術実証部門生体工学班の5年越しの成果。

最後の試験体であり、最初の、唯一の成功作でもあるナンバー・027。

最近実験に成功したばかりの名前すら与えられない少女である。

どうやら、今までちゃんとした教育を受けてないようで…。

…とりあえず、実際に会って話をしてから、今後の方針を固めようと思う。


 「始めまして。これから僕が君の言語教育を担当するよ。」

何事も第一印象が大事。

僕は、僕に許される最大限の柔和さを前面に押し出して少女に話しかけた。

「………」

少女は僕に視線を合わせるが、それだけ。頷きも微笑みもしない。

恐ろしいまでに整った容姿だが…無表情はソレの価値を激減させるのだ…と僕は初めて知った。

ひょっとして、情操教育も任されたって事?

ガックリ肩を落としながら、僕は彼女に問いかける事にした。

「…僕の言葉は解る?…解るなら…僕に意思を示してほしい。」

少女は暫くこちらを見つめた後、僅かに頷いた。

…一番面倒な言葉を認識させる行為をしなくて済む事にホッとしながら、少女の資質の高さに驚いた。

そもそも赤ん坊は、両親の話す言葉を四六時中聴く事で言葉を認識していくものだそうだが、この少女はそんな環境から隔絶されて育ったような物。

世界を隔てるガラス・シリンダー越しの研究員達の会話だけで言語学習を行なったのだろうか。

「文字は読める?」

引き続いての僕の疑問に、首を振る事で否定を示す少女。

流石にソレは無理だったらしい。まぁ、無理も無い。

僕は「こんな事もあろうかと」あらかじめ用意しておいた、幼児向け学習絵本を取り出したのであった…。


 言語教育を始めて一月。

彼女の学習能力の高さに唖然とする。

すらすらと言葉を理解していくものだから、調子に乗った僕は、気が付いたら専門書を使った先端技術の解説を始めていた。

…一度、原点に戻ろう。

「さて、言葉を学ぶ上で人の生み出した空想の産物である小説を読む事は大いに意義が有る。…と言う訳で、いろんな種類の小説を用意してみたよ。読破しなきゃならない訳じゃないけど、とりあえず読んでみてね。」

少女は頷き、さっそく机に積み上げた本を一冊、手に取った。

「あ、ネットにもいろんな文章が散乱しているからね。HPに掲載された小説や掲示板、チャットなどの文字による会話など興味深い物は色々ある。…そこの机の端末は自由に使って良いからね。」

…この一言が無ければ、僕はあんなに苦しむ事は無かった。と後で僕は後悔した。


 さらに一月後。

「おや、何を見ていたんだい?」

彼女の部屋に入った時、情報端末が稼動中だったので聞いてみた一言。そして、その返事…

「…厨房…大増殖……激しくワロタ…。」

…え?この子が言葉をしゃべった?

「って、これはっ!」

昔から一部有志によって代を重ねて運営され続けている、とある奇跡的な無料掲示板サイトがその端末に表示されていた。

「…DQN、プゲラ…イクナイ…逝ってよし…PON…オマエモナー…(藁)。」

少女が言葉を続ける。

よりによって、コレっすか!?コレを見たんスか!?

「勘弁してくれよ…。」

「…もうだめぽ……(´・ω・`)」

…彼女の言葉の矯正に2ヶ月掛かったという事だけ最後に記入しておく…。




 

 

機動戦艦 ナデシコ OUT・SIDE

機械仕掛けの妖精

第十六話 「女らしく」はデンジャラス

 

 

「喜びなさい!貴方達。新しい任務よっ!!」

…シーン…

「…あ、あれ?」

勢いよくナデシコのブリッジに入って来たのは最近、影の薄いムネタケ提督。

しかし、ブリッジには一人しか居ない上に、照明はギリギリまで落とされていた。

「ふぁ〜ぁ、提督?今、何時か確認した方がいいわよ?」

あくびをかみ締めつつムネタケに言うミナト。

「…はいはい、邪魔。」

呆然とするムネタケの背中を押して、ブリッジに入ってくるエリナ。

ピッ!ピッ!ピッ!ポ〜ン!

〔只今、午前2時〜!業務終了、お疲れ様〜。〕

効果音付きで時刻を教えてくれるオモイカネに感謝を述べつつ、エリナとハイタッチ。

「じゃ、お疲れ様ぁ〜。」

先ほどまでミナトの居た席に座るエリナ。と、ムネタケの姿を改めて確認する。

「…どうしたの?提督。」

「とりあえず、アンタだけにでも伝えとくわ。新しい任務よ。次の任務地は赤道直下のテニシアン島よ。そこに落下した新型チューリップの調査と状況によっては破壊、が今回の任務。連合軍には期待されてんだから抜かるんじゃないわよ。」

「私だって、睡眠中に叩き起こされたのよ。」と呟きつつ、ムネタケが言う。

「そう。…任務は承ったわ。詳細はオモイカネから聞くからお休みになって結構よ、提督。」

夜中でも相変わらずクールなエリナ。

苦虫を噛み潰したような表情で、かろうじて「お休み。」と残してブリッジを後にするムネタケ。

ブリッジに一人残されたエリナ。

「…赤道直下の島…。私の出番ね。…オモイカネ。ちょっと手伝って欲しいんだけど…。」

〔いいよ、何するの??〕

「くすっ…良い事。」

オモイカネの疑問に笑みで答えたエリナ。ナデシコの操縦そっちのけで、内業に勤しむのであった。

 

 照りつける太陽。押しては引く波。キラキラと輝く砂浜。そして風にそよぐ、草木達。

リゾート地を絵に描いたような理想的な浜辺、テニシアン島のビーチに一隻の純白の航宙船が近づいていた。

その船のブリッジ。

「ナデシコの皆さん!待ち望んだ戦場(遊び場)です。満願成就の日が来ました。戦争の夜(リゾート地)へようこそ!全船、上陸戦よ〜い!!」

船長用の白い帽子に白いワンピースの水着を着た女性が元気良く言うと、他のクルーもそれに答える。

「皆、しおりは持ったわね?困った時はこのしおりを参照する事。今回の事は本社にも黙っとくけど、羽目を外しすぎたら駄目よ。午後からは仕事も有るんだから。」

オレンジのワンピース水着を着たエリナが釘を刺す。口では厳しい事を言いつつも、本人も乗り気だったりする。

「右舷、左舷カタパルト、エステ隊、強襲用意完了。上陸舟艇隊、設営部隊乗り込み完了。いつでもいけます!」

中段左の席に座る黄緑のビキニを着た通信士が戦闘配置完了を報告する。

「前進微速から後進一杯、推進器ニュートラル。ナデシコ停止、停泊位置についたわよ〜!」

中段右の席に座る黄色のビキニを着た操舵士が目的地の到達を告げる。

「周囲に敵影無し。作戦遂行に障害ありません。」

中段真ん中の席に座る水玉ワンピースの水着を着たシステム・オペレーターが船周辺状況の確認をする。

「船長。当船の準備は完了しました。采配を…ユリカ。」

船長の隣に控えるのは蒼く、裾が膝上まで有るカーゴタイプの水着を履いた副長。

「こほん。…上陸戦、開始っ!!」

胸を張り、右手を振って指示を出すユリカ。彼女の動作に合わせて胸も揺れる。

「エステ隊、先行。…設営資材投下、陣地展開開始です。……上陸舟艇隊も砂浜へ到達、上陸…陣地設営を開始しました。上陸第一号は整備班所属サトウ・タイシさんです。」

正面モニターに折りたたまれたパラソルやベニヤ板などを抱えたエステが空を飛ぶ姿や、ナデシコから飛び出した、人員満載のモーターボートや発動機付きゴムボート達が波を蹴立てて砂浜に殺到する状況が映し出されていた。

通信士の報告に頷く船長と副長。

「船長、サトウ整備員の働きは褒章物です。」

「うん、副長。サトウさんには後でトロピカル・ジュースを奢って上げてね♪」

「後続の乗組員も続々と上陸開始しました。…この海岸はナデシコの制圧下にあります。」

オペレーターが冷静に報告する。

「…じゃ、私達もそろそろ出撃しようか♪」

船長ユリカの発言に色めき立つブリッジ・クルー。と、そこに釘を刺す一人の男。

「ちょっと、アンタ達!なに遊びに行こうとしてるのよ!!ここに来たのは仕事よ、仕事っ!!なに遊びに行こうとしてんのよっ!!軍人にそんなの許される訳無いでしょっ!!」

ムネタケ提督の甲高い叫びが木霊した。

「私達は今もネルガル社員を兼任してますから、業務に差し障り無い程度の息抜きは許されてるんです♪…じゃぁ、ムネタケ提督。お留守番お願いしますね〜♪」

ユリカが言うが早いかブリッジから姿を消す。

ユリカの後を追って、ブリッジに居る者達がゾロゾロと移動を始める。その最後尾に着いたプロスとゴートにムネタケが文句を言う。

「…アンタ達まで、遊びに行くって言うの?それがネルガルの意思なのかしら?」

ムネタケの言葉に振り返ったプロス。黒のビキニタイプというある意味典型的な水着に赤いパーカーを着ている。

「まぁ、そう受け取られても構いません。何せここの所、休暇無しでしたからね。ここらで息抜きでもさせないと反乱が起きてしまいます。連合軍所属の船でストライキなんか起きたら、大変ですからねぇ。」

やれやれ、といったプロス。隣の迷彩色のカーゴタイプ水着を履いたゴートもゆっくりと頷いた。

「…あ〜、もう。勝手にしなさいよ!」

ナデシコを後にする皆に、投げやりな言葉を叩き付けるのが精一杯のムネタケであった。

 

 「ジュンさ〜〜ん!…どうですか?私、頑張ってみました!!」

砂浜にあっと言う間に建てられた海の家。そこの椅子の一つに腰掛けていたジュンの目の前でクルリと一回転したメグミが問う。

普段のお下げを解いてストレートに。普段は大人しい服装を好むが、愛しい人を惹き付けたくて一念奮起のビキニ。でも、おなかこそ晒しているものの布面積の大きいタイプなのはご愛嬌。

もっとも、歳相応の健康的な色気を十分伝えているあたり、ベストチョイスなのかもしれない。

「……う、うん。…その、……凄く、魅力的だと思うよ。」

女性に免疫の少ないが故に、顔を真っ赤にさせながら、ジュンが答えた。

「やった!有難うございますジュンさん!!…ねぇ、ジュンさん。こんな所で燻ぶってないで一緒に海で遊びましょうよ。」

そう言いながらジュンの右腕を抱きしめて立ち上がらせ、波打ち際に引っ張ってゆく。

「わっ!?…メグミちゃん?…胸、胸が……。」

ちょっと小さめではあるものの、そこに確実に存在する双丘の谷間にしっかり挟まれた腕。

腕に伝わる柔らかい感触にジュンは耳まで真っ赤になる。

海というシチュエーションは奥手な女性も勇敢にさせるのか?はたまた、何時まで経っても別の女性への思いを捨ててくれない思い人に業を煮やしたのか。

なんと言う役得、なんというお約束な展開!

ちょっと青臭い青春ドラマ展開中の二人を見て、海の家にたむろって居たモテナイ男達は血の涙を流すのであった。

 

 一方その頃、砂浜では白熱した戦いが繰り広げられていた。

「…リョーコっ!受け取れっ!!」

鋭いスパイクを辛うじてレシーブするガイ。

「ど〜っりゃ〜〜!!」

丁度良いところへ弾かれたビーチボールに宙に浮き上がったリョーコが全力のスパイクを放つ。

赤色のシンプルなホルターネック型セパレーツ水着(スポーツタイプ)で身を包んだ身体。リョーコの意外と有る胸が震え、男達の視線をかき集める。

リョーコの全力スパイクのエネルギーを余すとこなく受け取ったビーチボールは、形を変形させながら砂浜目掛けて一直線に飛ぶ。

「ぐっ…ユリカ〜っ!!」

重いスパイクをなんとかレシーブ。ユリカのいる方向へボールを弾くアキト。

「ナイス!アキト〜!!…ってい!」

白いワンピース水着を煌かせるユリカがスパイクを返礼する。ちなみに水着の切れ込み具合はそこそこ。エッチなほどでは無いし、野暮ったいほどでも無い。背中部分が大きく晒されているのが健康的でもある。

飛び上がったユリカの大きな胸はユサリと揺れ、男達の視線をまたもや釘付けにする。

何かの限界が来たガイはついにビーチボールを取りこぼし、ガイ&リョーコチームはついに負けてしまった。

「ああっ!なにしてんだっ!ガイッ!!てっめ〜、あんなボールも取れねぇのかっ!!」

リョーコが胸をそらしながらガイに文句を言う。

目の前で揺れる胸に思わず顔を赤くするガイが逆切れする。

「うっ…うるせ〜!テメー等が綺麗過ぎるのがいけねぇんだっ!!綺麗過ぎて目のやり場に困るだろ〜がッ!!」

思いもしない反論に目を白黒させるリョーコ。

「うっ…綺麗っつったって…その……だから……アリガト。

ゴニョゴニョと顔を赤くしてモジモジと答えるリョーコと自分の発言にさらに顔を赤くするガイ。

嬉し恥ずかし告白大会に変貌しそうな一角と対照的に勝者のアキト&ユリカ組は…。

「ねぇねぇ、アキト〜。ユリカはど〜お?…綺麗?美しい?素敵??」

「どれも肯定的な意見じゃんか…。あ〜、何でも似合うよユリカは。」

猛烈に過ぎるユリカのプッシュに疲れ気味のアキトがどうでもよさ気に答える。

「…ユリカ、どうでもいいの?」

アキトの気分を敏感に察したユリカが涙目で言う。

「わっ!?…そんな事無い!!……似合ってるよ、ユリカ。

慌ててなだめつつ、ボソッと呟いたアキト。

先ほどと同じ言葉だったが、そこに込められた思いは真逆。

「ユリカ、嬉し〜〜っ!!」

唐突にアキトに抱きつくユリカ。当然のように豊満な胸がアキトに押し付けられ変形する。

…やっぱり、十二分に盛り上がっていたりする。

 

 「はぁ〜、何処もかしこも春真っ盛りねぇ。」

波打ち際から少し離れた場所に敷かれたレジャーシート。その上に豊満な肢体を余す事無く晒しているミナトが、ノホホンとのたまった。

「春?…今は秋ですが…。」

ミナトに答えたのは、隣でノートパソコンを操作するルリ。IFS対応でお手軽操作。

季節はもう冬に入り始めているが、赤道直下のこの島では海遊び可能だった。…ご都合主義万歳。

「ふふっ、そういう意味ではありませんよ。」

さらにルリの隣で日光浴をしていたイツキが微笑みつつ、言った。

イツキは紺のワンピース水着。ミナトみたくボン!キュッ!ボン!では無いが、十分に女性の魅力を伝えるボディラインを形成してる。


ちなみに、人生の春を満喫しているのはブリッジ・クルーやパイロットの極一部の者達だけではない。

そこかしこで気合を入れた男達の猛烈なアタック。女達の熱烈なトライが繰り広げられている。

折角のシチュエーションと機会を失う訳にはいかないと、皆、必死。

成功率は低いものの、元々満更でもなかった者達やら、取り敢えずくっ付いてみた者など様々である。

広いが、船と言う密閉空間。航宙戦闘船舶としては少な目だが、300近くの乗組員が一年以上暮らしている訳である。

当然のように、出会いや別れが有る訳で…。

プロスペクター氏が、職場内での異性関係に目を尖らしたのも無理は無い。戦場で「妊娠しました。船降ります。」など不可能だ。

もっとも、大抵の乗組員カップルは大人で常識をわきまえてるので…いたす時はゴム等で問題回避しているとか…。


「おんや〜?期待のルーキー、イツキちゃんがこんな所で油を売ってますよぅ?」

ミナト、ルリ、イツキの三人の側を通りかかったヒカルがイツキに気付いて、隣を歩いていたイズミに話を振ると、

「…取り出したるは夏なお寒き氷の刃、一枚の紙が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十六枚、十六枚が三十枚と二枚、三十二枚が六十四枚、六十四枚が一束と二十八枚…ほれこの通り、フッと散らせば比良の暮雪は雪降りの姿!これなる名刀もひとたびこのガマの油を付ける時にはたちまち切れ味が止まる!押しても惹いても切れはせぬ。と言うてもナマクラになったのではない、この様に綺麗に拭けばこの通り元の切れ味とな〜る!さ〜て御立合い!!この様にガマの油の効能がわかったらには遠慮はいらねぇ、ドシドシ買って、あ、行きやがれ!!」

イズミは唐突に何処からとも無く刀と小道具を取り出し実演を始めた。

「って、そりゃガマの油売りだよ!」

ようやく、イズミの大道芸が終了して心置きなく突っ込みを入れたヒカル。ちょっとハイレグ気味なワンピース水着を着ている。色はオレンジ系の黄色。

「…でも、ガマの油は切り傷に効かない。要注意。」

ヒカルの突っ込みにニヤリとしながら答えるイズミ。背中と前が大きく開いたワンピース?なホルターネック型水着を着ている。陰気な顔の割に凄い色気の有る格好である。色は緑。

「へ〜、そうなんだ。ガマの油って万能薬ってイメージだったけどなぁ。」

イズミとヒカルの会話に感心するミナト。

「…ガマの油は、現代でいう皮膚疾患向けの軟膏のような使われ方をしていたようです。薬事法の規制が掛かってからは販売出来なくなったそうですが。…ちなみに切り傷の話は落語の落ちだそうです。」

と、ルリが即座に収集した情報を口にした。

「そう、ここの作者も万能薬だと思ってたわ。ネタとして使おうとググッて見たらアラ不思議。調べて解る意外な実態って奴ね。」

イズミがウムウムと頷きつつ答えた。

「…ま〜、それはそれでいいとしてっ!…遊ぼうよ、皆。日光浴だけじゃ勿体無いよぉ?」

ヒカルが呆然としていたイツキとルリの手を取って立ち上がらせる。

「…あ、でも私は…。」

ルリがいきなりの行動によろめきつつ誘いを辞退しようとすると…

「ルリルリ、駄目よ?元気に遊んで体力付けなきゃ。アリスちゃんに置いてかれるわよ?」

体力と身体の成長の二つの面からアリスに引き離される。と、隣で立ち上がったミナトが言う。

実は、先の第4次月奪還作戦において、コミニュケ越しにではなく久し振りに顔を会わせたルリとアリスだったが、その時、ルリは内心で驚愕したのだ。

…私より、成長している…

と。

日々、椅子に座ってオペレート作業をしているルリと、兵器の操縦と白兵戦に明け暮れたアリス。

その差は身長、体格、胸、お尻に現れていた。…僅かな差ではあるが。

もちろんアリスが通常の人よりも成長しやすい因子…すなわち、「組立工(アセンブラー)」を代表するナノマシン群を大量保有しているというのも大きな一因である。

が、運動しなければその因子も働きはしない。

ちなみに最近アリスは小振りながらも存在を主張する胸の為、ブラジャーを付けるようになったようである。ルリはまだ…必要ない。

「行きましょう!ええ、遊びます!!遊び倒して見せますとも!!」

ミナトの言葉がルリに火を付けた。普段ならしないであろう行動に打って出たのだ。

実年齢でお姉さんであり、実際にアリスの姉役としてアリスと係わり合いを持ってきたルリにとって、ブラジャーの付け方を妹に習う事になる…かもしれない未来など認められないのだ。

ヒカルとミナトの手を取って海に突貫する。ついでにヒカルに手を繋がれたままのイツキも海へと引っ張られたのであった。

どっぽ〜ん!

 

 「…あ〜、やれやれ。これは…迷ってしまった…かな?」

にっちもさっちも行かなくとも平常心。のんびりした声でそんな独り言を漏らしたのはネルガル会長、現ナデシコ所属パイロット、アカツキ・ナガレである。ハーフパンツの様な水着と水色のパーカーを羽織っている。

ここは、テニシアン島の中央部。うっそうと茂る密林の中。

素敵な女の子達に南国の花をプレゼントしよう。と、森の中に探索に出たはいいが、そのまま迷ってしまったのであった。

「う〜ん、歩けど歩けど花の一つも見えやしない。失敗したかな。もうそろそろ、昼ごはんの時間だけど…しまった!コミニュケの受信範囲外に出ちまったか?」

左腕のコミニュケを操作してオモイカネに道案内をさせようとしたら、

〔−通信障害−…電波が届いていません。受信範囲外か電波が発信されていないか機械の故障と思われます。…最寄の中継点に移動するかサポートセンターにご相談下さい。サポートセンターの番号は…〕

という文字がウィンドウに流れていたのだった。

「参ったねぇ。…帰ったら小言を聞かされるハメになってしまったよ。」

頭をかきながら溜息を付く。部下兼同僚のエリナ女史のネチネチ小言攻撃を喰らう様が脳裏に浮かぶ。

頭はイイし、機転も利く。器量良しだし、いっちょ前な野望も有る。実に素晴らしい彼女の唯一の問題は、物事の細部にこだわりすぎる事。…完璧を望みすぎて、いらない事にまで手を出してしまうのだ。

「…もう少し余裕を持てたなら、地位を譲ってあげてもいいんだけどねぇ。…完璧なんてこの世に存在しないというのに。」

ウンウンと一人腕組みして頷くアカツキ。

と、

「完璧なんてこの世に存在しない。…されど、完璧を追い求める所に、人の人足るべき生き様があるのですわ。」

森にかろうじて付けられている小道。その奥から一人の可憐な少女が姿を現した。

その少女の言葉に微笑みつつ、言い返すアカツキ。

「そうだね。…その生き様は美しい。でも、美しいだけでは生きていけないよ。人生なんて汚れて初めて解る物事だらけなんだから。」

アカツキの言葉にムッとする少女。

「汚れなんて洗い落としてしまえばいいんですわ。」

「簡単に洗い落とせないから人生…汚濁の中からでも雄雄しく立ち上がるからこその人間なのさ、美しいお嬢さん。…僕の名前はアカツキ・ナガレ。貴女のお名前は?」

少女の反論にも微笑みを絶やさないアカツキ。彼がサラリと自分の名を語った事に表情を一瞬変える少女。

「…(わたくし)の名はアクア。アクア・クリムゾンですわ。…すぐ近くに私の館がありますの。よろしければ、お昼、ご一緒に如何かしら?」

お互い、立ち話するような身分じゃ有りませんわ。とアクアが返事も聞かずにスタスタ歩き出す。

「ふむ、ではミス・クリムゾンのご好意に預かろうかな。」

アクアの後をゆったりと付いてゆくアカツキ。

「…ミスター・アカツキ。私は姓で呼ばれるのを好みませんわ。アクアとお呼び下さい。」

「では、僕もナガレと呼んで欲しいな。アクアちゃん。」

 

 と、アカツキ達が森の奥に姿を消した頃、浜辺ではエリナがアキトに迫っていた。

「ところで、貴方が火星から地球に逃れられた理由。その手段を知りたいと思わない?」

エリナが強引に進めている計画<ボソン・ジャンプ解析プロジェクト>の一端として、偶然にも生身でソレを成し遂げたであろう被験者にアタックを開始したのだ。

にーちゃん、にーちゃん。おもろい体験しとるな、モルモットにならへんか?

ってなノリで。もちろん、ファースト・アタックは勘違いユリカの妨害であえなく轟沈であったが。

 

 テニシアン島に唯一存在する館。その中庭に設置されているテーブルに豪華な昼食が用意されていた。

「あら、お食べになりませんの?客人の振る舞いとしては褒められたものではありませんわね。」

あくまで上品に、たおやかに食事を取るアクア。

対するアカツキはフォークを手に取るどころか、ワインにも水にも手を出していない。

「ふふん、君がお披露目の舞踏会で痺れ薬をばら撒いた事件は有名だよ。かの『狂気の朱(ファナティック・ルージュ)』に油断は禁物なのさ。」

アカツキの言葉に目を丸くするアクア。

「まあ!それはそれは大層な渾名ですわね。私、そんな物騒な真似しでかした覚えはありませんことよ。」

「上流階級の無駄にプライドが高い連中には君の騒動だけで十分、物騒だったさ。」

「あら、そうですの?面白くない連中ですのね。…でも、貴方はそんな連中と一線を隔してるようにお見受けしますわ。ところで、今回は痺れ薬も睡眠薬も毒物も混入してませんの。どうか、安心して食事をお楽しみになって?」

「信用…していいのかな?」

「もちろん、アクア・クリムゾンの名に懸けて事実ですわ。」

胸を張ってアカツキに答えるアクア。その様にようやく納得したのか、アカツキは料理に手を出した。

「お、いけるねぇ。」

即座に顔が綻ぶアカツキ。実はナデシコ食堂に不満があったのである。…といっても、味にではない。三つ星確定な素晴らしい料理人だと内心喜んでいる。

不満なのは三つ星な技術で作られるのが、定食屋のサービスランチとかである事だ。いや、そのことは素晴らしい。だが、どうしてもこの腕前で作られた本格コース料理が食べてみたくなってしまうのだ。

やれば良いじゃん。ホウメイなら絶対作ってくれるよ。とアカツキ自身思うが、ナデシコ食堂はコース料理を楽しむような空間ではない。カツ丼を食ってる隣でフルコース食うなんて出来ない…と言う訳だ。

贅沢で我が侭な男で有るが、そこら辺の線引きは意外と厳しい。

そんな訳で久し振りの贅沢な昼食に思わず声を上げても致し方無しといった所である。

しばらく料理に舌鼓を打っていた二人だったが、平らげ一息ついた所でアクアが本題を語り始めた。

「それで?…私の島に何の用なのかしら、ネルガルの会長さん。」

「僕の正体に気付いてたとはね。…用件は連合軍から伝えられているはずだよ?」

アクアの言葉にも表情一つ変えずのアカツキ。

「はぁ…本名を堂々と語っておいてよくもヌケヌケと。この島に落下したチューリップとネルガル会長直々のご来訪が繋がらないから聞いているんですの。」

一方のアクアは眉をピクピクさせている。

「ははっ、偶々さ。現場視察にナデシコに行ってみたらテニシアン島への任務が下された後だったんでね。この島まで着いてって散歩に出て迷ったら、美しい薔薇に出会ってしまったのさ。」

困ったもんだね。と肩をすくめて見せるアカツキ。嘘を言ってはいないが、事実を言っている訳でもない。

「…そう、残念ですわ。せっかく連合軍の素敵な殿方と、めくるめく無理心中を満喫できると思ってたのに…。」

あまりに残念だったのか、思わず本音を漏らすアクア。

「…無理心中…。」

アクアの言葉にぞっとするアカツキ。

「でも、引っ掛けれたのはネルガルの会長さん。下手に殺せばお爺様にまで迷惑をかけてしまいますわ。どうしましょう?」

盛り上がりつつあるアクアに、内心「無理心中前提な考えを改めたらどうか?」と突っ込みたいアカツキ。

「ああっ、でも愛らしい孫の生涯最後の願い。お爺様なら笑って許してくれるかもしれませんわ。」

なにやらヤバケな方向に意識が固まって来てる。と、決意したアクアがアカツキに視線を固定する。

「ナガレ様。このアクアと共に死んでくださいませんこと?」

ニッコリ笑ってとんでもない事を要求するアクア。

「アクアちゃん、それは無理だね。僕にはネルガルを繁栄させる義務がある。ここで死ぬ訳には行かない。なにより、僕が死ぬのはベットの上だと決めてるんだ。」

アレでナニではあるが真面目な話だと思ったアカツキは真剣にアクアの問いに答える。

「そう、同意していただけないのですわね。残念ですわ。殿方の決意を踏み躙るのは本意ではありませんが、今回が唯一無二の機会ですの。」

アカツキの答えに残念な表情を浮かべたが、直ぐに笑って懐から長方形の物体を取り出した。

その物体は手に握ると両端が出るぐらいの長さで片方の端には蓋が付いていた。さらにクリムゾン家の紋章も入っている。

「変に暴れられるのも困りますから、この島に落下して直ぐにチューリップをバリア展開ユニットで蔽ってしまいましたの。コレはそれの緊急停止キーですわ。」

蓋を親指で弾き上げ、中のスイッチを露わにする。

「な!?…バカ!やめるんだ!!死んでなんになる!完璧を目指してこその生き様だと言っていただろう!」

アクアの意図を理解したアカツキが必死になって止めようとする。

「そう、私は死んで完璧になるのですわ。生きる事で生まれる穢れもチューリップから出る木星の使者の放つ火が燃やしてしまうでしょう。」

言葉では食い止められないと直感したアカツキが実力行使に出ようとするが、アカツキが動こうとするとアクアがスイッチに指を這わせて警告する。

「辞世の句ぐらい言わせて欲しいですわ。私、コレを楽しみにしていましたの。」

「…それに付き合わされる僕は辞世の句すら読めない訳だが。」

やれやれと肩をすくめるアカツキ。

「?…抵抗なさいませんの?私、本気ですわよ?」

押しちゃいますわよ?と右手のスイッチをアピールさせるアクア。

「ふふ、耳を澄ませれば解るよ。そら、上空に騎兵隊の到着だ。」

つぃっと人差し指を空に向けたアカツキ。つられて視線を空に向けたアクアは驚いた。

「…エステバリス…。」

そう、お遊びは午前中だけ。午後からは真面目にお仕事を開始したナデシコ・クルーの最初の仕事はチューリップと行方不明のアカツキの捜索だった。

アクアの館上空にホバリングした赤色のエステは、左手にぶら下げたアカツキのエステをポイっと落とした。

アカツキのエステは重力波スラスターの自動制御でバランスを取り、中庭の空いたスペースに片膝をついて着陸し、コクピットを開く。

アカツキは愛機に歩み寄り、アクアに振り向いた。

「すまないね。お仕事の時間が来てしまった。」

「そう…でも、総ては遅いですわ。これも、また萌える展開ですもの。さようなら、ナガレ様。」

アクアは感極まってホロリと涙を一粒こぼし、右手のスイッチを…入れた。

ドッゴ〜ン!!

バリアが消えた直後、そこに収められていた小型チューリップが爆発した。

「あら?なんですの?」

想像していた事態とは違う事に疑問が湧くアクア。

ズシ、ズシと重い物体が移動するような音が響く。

と、嫌な予感が心を満たしたアカツキがアクアの手を取って、エステのコクピットに潜り込む。

アクアを膝の上に乗せ、IFSコンソールに右手を置いて起動シーケンスを開始させる。

「強引に連れ込むなんて。少々はしたなくありませんこと?」

アクアが不満げにアカツキに文句を言う。アクアは上品にアカツキの膝の上に横座りし、至近距離でアカツキの顔を見据える。

「無礼は謝る。でも、僕には美しい女性を見捨てる趣味は無いんだ。…それに、この特等席で見る光景は、無理心中に萌えるより燃えると思うよ。」

アカツキの言葉に答えるようにコクピットのモニターが外の光景を映す。

同時に『緊急起動完了♪良く出来ました!』とメッセージが提示される。

フッと笑みを零したアカツキがエステを立ち上がらせる。

キャッと驚きを漏らしたアクアがアカツキの首に右手を這わす。

「見たまえ。君が待ち望んだ破滅の使者があそこにいる。」

木々をなぎ倒し、姿を現したジョロ。

いや、ジョロではあるが…そのサイズが並みの10倍以上ある。

巨大ジョロはおもむろに背中の装甲を開き、その中に収められた膨大なミサイルを露わにする。

同時にロックオン警報がコクピット内に響き渡る。

「…君の家を壊す訳にはいかないな。」

アカツキがキラリと歯を輝かせながら、エステを空に飛ばした。

空を高速で飛んでみてもロックオンは外れない。

と、警報音が変化した。ミサイルが発射されたのだ。

「き、来ましたわよ!?」

アカツキよりも背後を確認しやすい位置のアクアが後方に目をやるとミサイルの団体が一直線に迫ってくるのが見えた。

アクアは恐怖に震えていた。いかに死ぬ覚悟を決めていたとはいえ死ぬ恐怖を克服出来る訳ではないし、何より、自分の計画が粉々に崩れてしまったのが大きい。装った悲劇の主人公の殻が割れ、地が出てしまったのだ。

アクアの言葉にアカツキはニヤリと笑うことで答えた。

空中でくるりと身体ごと後方に振り返るエステ。

コクピット正面モニターにミサイルの団体が映る。

と、複数のロックオン・シーカーが稼動し、すべてのミサイルに付けられた四角のターゲット・マーカーの内の十数個が赤い菱形に変化する。

即座に左手のスティックのミサイル発射スイッチを押し込む。

エステの両肩に付けられたマイクロミサイル発射口からミサイルが一斉に飛び出す。

全弾狙いを外す事無く、巨大ジョロのミサイルに直撃。

周囲のミサイルも巻き込んで爆風を作り出す。…が、無事なミサイルも多くそのままアカツキ達に向けて突っ込んでくる。

「…ま、こんなもんかな?」

「ちょっと!?『こんなもん』ってナニですの!?!?」

「揺れるからね。口を閉じててね〜。」

左手でアクアを優しく抱きつつ、アカツキが言う。

「へ!?」

対するアクアの混乱は頂点に達していた。

ミサイルがエステの眼前に迫る。そして、そのまま直撃しようとして、見えない壁にぶつかり爆発。爆発が連鎖する。

アカツキが右手に力を込め、エステから更なる力を搾り出す。ディストーション・フィールドが限界まで酷使される。

爆風に包まれるアカツキのエステ。

総てのミサイルを受けきった後、仲間からの通信が届く。

「おい!アカツキ!!無事なのか!?!?」

通信と共に、ピンク色のエステがアカツキの側に接近。最近影の薄いアキトである。

エステでも撃破されてしまいそうなミサイルの雨に心配しているとコミニュケの回線が繋がった。そこに移っていたのは美少女を抱えた男…アカツキだった。

「大丈夫だよ、テンカワ君。僕達は無事さ。」

「僕・達!?」

なにか怪しい雰囲気を察したヒカルが回線に割り込んでくる。

「わ〜ぉ!アカツキちゃん、そのコど〜したの?拉致った?」

「…拉致…ラチ…らち…カフェ拉致(らて)?…今ひとつね。」

「テメェ!遂に犯罪を!!」

ヒカルの言葉に反応したイズミとリョーコもコミュニケの会話に参加する。

「いやいや、彼女はこの島のオーナーだよ。戦闘に巻き込まれる恐れがあったから一番安全な場所にお連れしたのさ。拉致とは心外だなぁ。」

フッと微笑みつつのアカツキ。

「おお!か弱き女性を守ってこそのヒーロー!!コクピットに連れ込むのは英雄の特権!!くぅ〜!羨ましいぜっ、アカツキ!!」

「は〜、心配して損した。無事なら無事って直ぐ言ってくれよな。心臓に悪いじゃないか。」

ガイは勝手に盛り上がり、アキトはほっと一安心。そこにクールな声が響き渡る。

「なにしてるんです皆さん!!今は戦闘中ですよ!?…アカツキさん、その状況では戦えませんから貴方は後方待機してください。…皆さん、行きます!!」

真面目ちゃんであるイツキがプリプリ怒りながら敵である巨大ジョロに突撃を開始した。

アカツキを除く皆がイツキの後を追う。

「…な、なかなかユニークな方達ですのね?」

アクアが呆気に取られながら言う。

「そうさ、頼もしいナデシコの仲間達さ。」

アカツキは少し寂しそうな表情で語る。

「?」

その表情に疑問を覚えるが、戦闘はそんなアクアを置いて勝手に進行する。


「うお〜りゃ〜!!」

リョーコが急速接近しつつラピットライフルを連射するが、弾は無常にもフィールドに阻まれ明後日の方向へ弾かれる。

「くっそ〜、なんでぇアレ。滅茶苦茶硬いぞ?」

巨大ジョロが放つミサイルのお返しを急旋回して上空に退避。やり過ごす。

「う〜ん、デッカイのは見かけだけじゃないんだねぇ。」

「ちょっと!?私達はアレを破壊するんですよ?ナニを呑気な事を言ってるんですか!」

のんびりなヒカルにイツキの突っ込み。

「…落ち着きなさい。焦っても良い結果は出せないわ。」

さらにイツキにイズミの突っ込み。

と、次なる手を相談中の女性陣を他所に熱血野郎二人組みが巨大ジョロに突っ込んだ。

「いっくぜ〜!アキトぉ!!」

「おおっ!!」

ピンクのアキトを先頭にして、青のガイのエステが一直線に突っ込む。

当然、露骨な突撃は巨大ジョロにも丸解りな訳で、ミサイルの雨が二人に降りかかる。

と、アキトの機体が急上昇。ミサイルの大半を引き付けて退避に移る。

「ガイ!後は任せる!!」

「おお!まっかせとけぇ!!行くぜぇ!ゲキガ〜ン・ソードッ!!」

ミサイルの着弾をものともせず、ガイのエステが剣を振りかざす。

その剣は101中隊が使用しているディストーション・ソードそのものだった。

実は、ダイゴウジ・ガイ。第4次月攻略戦の後、別れる101中隊のパイロット達に土下座して「剣を譲ってくれ!!」と頼み込んだのだ。

滑り止めの刻まれた格納庫の鉄板に額を擦りつけ、再三頼み込むガイの姿に呆れ返った101パイロットの一人が「戦闘中、紛失した」事にして譲ってくれたのだ。

そんな訳でガイ、ノリノリである。

「喰らえっ!正義の刃ぁっ!!」

全力加速で振り抜いた剣が巨大ジョロのフィールドにぶち当たる。

ガリガリガリ

剣のフィールドとジョロのフィールドがシノギを削る。

「くっ、ゲキガンソードでも無理なのか!?」

押している手ごたえはあるが、ジョロのフィールドを抜くには時間が掛かりそうだ。

と、ジョロのミサイルポッドがこちらを向いた。

「げっ!?」

至近距離で大量に喰らったら、流石のエステもヤバいとガイが全速回避に移る。

ガイの後を追う、ミサイル。

そのミサイルを撃ち落としたのは赤色のエステ。

「ったく、いつも威勢だけで突っ込みやがって。もう少し、状況を考えろっての。」

「おお、助かったぜ!リョーコ。」

「う〜ん、ガイ君の剣でも駄目かぁ。ね、ランスのほうは貰ってないの?」

リョーコとガイの会話に割り込むヒカル。

「ん?…ああ、俺はこのゲキガンソードがあれば良かったからな。貰ってないぞ。」

えっへん!と胸を張って答えるガイ。

「…打つ手無しですね。イツキからナデシコ、艦砲射撃を要請します。」

状況を判断したイツキがナデシコにグラビティーブラストで粉砕しろと要求する。

「ナデシコからイツキさんへ。艦長は『島の民間人を巻き込む方策は取れない』と言っています。他の手立ては無いんですか?」

ナデシコの通信士、メグミからの返事が届く。

「…そんなの有れば直ぐやってます!…いったい、どうしたら…。」

とイツキが零した時。

「ふっふっふっ、こういう時を待っていた。こんな事もあろうかと!あ、こんな事もあろうかとぉ〜!!用意してるぜ、新兵器をようっ!!ナデシコから一番近いのはアカツキか。アカツキぃ!今からそっちに新兵器ぶっ飛ばすからなぁ!受け取れぇ〜!!」

いきなり開いたウィンドウからウリバタケの楽しそうな声が響いた。

と、ナデシコのカタパルトから一本の槍が打ち出される。

アカツキのエステの眼前を飛び去ろうとしたその槍を辛うじて捕まえるアカツキ。

槍を目の前に疑問が溢れるアカツキ。

「コレは!?」

「対ディストーション・フィールド干渉中和型戦槍。名づけて<フィールド・ランサー>!敵のフィールドを無効化するウリバタケ様の新兵器だぁ!!」

「「「「おお!?」」」」

アカツキの疑問に答えるウリバタケ。さらにその解説に驚くエステ・パイロット達。

「へ〜、101の槍みたいだねぇ。」

アカツキが感想を零すと、ウリバタケの表情が豹変した。

「ちがう!断じて違う!!<ボルテックス・ランス>は高速回転させたフィールドをブチ当てるゴリ押し兵器だが、この<フィールド・ランサー>は相手のフィールドを中和する洗練された兵器だ!!一緒にされては困る!!」

猛烈な熱意で違いを説明するウリバタケ。

「…う、すまないね。…では、その使い勝手を試させてもらおうか!」

ヒュンヒュンと槍を振り回し、格好良く小脇に抱え、巨大ジョロに突撃するアカツキ。

「ちょ、アカツキさん!?貴方の機には民間人が乗ってるんですよ!!」

「ははっ、民間人というならナデシコのクルーの殆んどはそうさ!軍属扱いだけれどもねっ!!」

イツキが焦るがアカツキが笑って答える。

「大丈夫!止めは皆に任せるよ。僕の仕事はフィールドを中和する事だけさ!」

アカツキのスカイブルーの機体を先頭に、エステ達が編隊を組む。

そして、接触。

フィールド・ランサーを巨大ジョロのフィールドに深々と突き刺す。

ランサーが巨大ジョロのディストーション・フィールドの周波数帯を解析、中和を開始する。

ランサーの切っ先が二つに割れ、フィールドに穴を開けた。

巨大ジョロはソレに構わず装甲を展開。腹部のミサイルを露わにする。

このままでは、という時にアカツキの背後から次々とエステがフィールド内に飛び込んだ。

赤のエステがジョロの頭部を殴り倒し、黄色と緑のエステがミサイルポッドに銃弾を叩き込む。

紺のエステが脚部の関節に的確に攻撃を繰り返し、ピンクの機体が足を殴り飛ばす。青の機体が手に持つ剣で当たるを幸い装甲を滅多切りにする。

あっと言う間に、巨大ジョロはボコボコになり、煙を噴き出した。

「皆!爆発するぞ!!」

既に巨大ジョロがフィールドを展開出来なくなっていたので遠慮なく退避するアカツキ。

「へっ!ざま〜みろっ!!」

リョーコの威勢の良い声と共に、六機のエステが安全圏まで飛び去る。

総ての足をモガレ、身動きできなくなった巨大ジョロは哀れ、爆散した。

 

 夕方、ナデシコクルーが遊んでいた砂浜。そこに一人の少女が立っていた。

「…ナガレ様…。」

アクアは別れの時を思い出す。


巨大ジョロ破壊後、今、アクアが立っている砂浜に着陸したエステから丁重に降ろされた。

「色々騒がせてすまなかったね。」

一緒に砂浜に降りたアカツキが言う。

「いえ、貴重な体験をさせて頂きました。」

「ははっ、良い答えだ。…ところでまだ、無理心中とかに興味有るかな?」

「…正直解りません。でも…いまは…どうしたらいいのか…。」

アカツキの問いに俯いて答えられないアクア。

そんな彼女の肩にそっと手を置いて、頷くアカツキ。

「うん、それでいいのさ。迷ってこその人生だし、苦悩してこそ張りがあるってもんさ。…死ぬのはいつでも出来るからね、もっと人生を楽しんでからでも構わないはずさ。」

「…ナガレ様…。」

答えの出ない感情を褒められて、嬉しくなるアクア。

「さよならだ、アクアちゃん。…また会う日を楽しみにしてるよ。」

「はい、さようなら。ナガレ様。」

静かに浮き上がり、ナデシコに帰還するエステをそっと見送るアクア。


「…今はさよならですわ。また会う日まで…ナガレ様。」

ついっと、踵を返して自分の館に足を向けるアクア。その表情は明るい。

こののちもアクアは『狂気の朱(ファナティック・ルージュ)』の渾名のごときハチャメチャ振りは健在のままであった。

少なくとも、破滅的な遊び方はしなくなったのが彼女の御付きの者達に安心をもたらしたが。

「人間そう簡単に変わってたまるものですか。」とはアクアの言葉。

この戦争終結後、アクアがアカツキに猛烈なアタックを開始してアカツキを白黒させるのは、また別のお話…。



 薄暗い部屋の中で一人の女性が、机にコブシを打ち付ける。

「くっ、あの自殺(スーサイド)マニアがまだ生きているですって!?…何の為に北辰に頭を下げて、テニシアン島にチューリップを送り込んだと思ってるのよ〜っ!!」

髪を振り乱して、悪態をつくのはアクア・クリムゾンの異母姉妹、シャロン・ウィードリン。

そう、テニシアン島にチューリップが落下したのはシャロンのお蔭なのである。アクアなら、かならず自殺の道具に使うと睨んで。

が、結果は「どうやら人間的に成長しちゃいました」という報告書。

「なんであんな女の成長を手助けしなきゃいけないのよ〜〜!!」

もう、ブチ切れ寸前である。

「はぁ、最近良い所無しだし…私、才能無いのかしら…。」

グッスンと椅子に座り込んで凹むシャロン。

そんなシャロンの頭をナデナデするラピス。偶々部屋の前を通りかかったら、シャロンの絶叫が聞こえたので入ってきたのだ。

「ああ、ありがと。ラピス。私の味方は貴方達だけだわ。」

思わず本音を語るシャロン。…始めは道具のように思っていたようだが、なにか心変わりする事件があったのだろうか?

ともかく、シャロンの気持ちが落ち着くまでナデナデし続けたラピスなのであった。








第十六話 完










 あとがき

お待たせしました。ようやく、十六話。皆様のお目にかけることが出来ました!TANKです。

いや〜、新年から仕事が忙しくて…というのもあるんですが、なかなか、話が纏まらなかったというのも。

今回は久し振り?のナデシコの面々がメインですし。

しかし、アキトが目立てないなぁ。いや、アクアと誰を絡ませるのかで、アカツキを使ってしまったのが問題なんでしょうけど。

後は早々にアキトとユリカをくっつけてしまったからかな?

でも、ハーレム系演出はどうにも想像できなくて…ああ、「時ナデ」のBenさんが羨ましい。


今回のネタ〜!

>テニシアン島上陸作戦

解りづらいかもしれませんが、「ヘルシング」のロンドン上陸作戦冒頭からインスパイアされています。…諸君!私は戦争が好きだ!!



>下手にスペックが高いと〜

正攻法最強ってのは深く納得です。某砂ぼうず氏も「プロは奇をてらわない。当たり前の事を確実にこなすから恐ろしい」と仰ってましたし。

そういや、Benさんのアキト氏も最強伝説バリバリでしたもんね。

まぁ、猪突猛進ゆえに、挫折も経験させやすいってことで?


>イツキとシンが兄弟

おお、鋼の城さんに勝った!?

自分が人様よりネジくれているだけなのかもしれませんが…。これからも「なっに〜!?」なサプライズをお届け出来れば幸いです。


次回はアリスとナデシコの連中の競演の予定。出来るだけ早くお届けしたいです。

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

冒頭の研究員、また出てこないかなぁ。

一発キャラとしてはやや惜しいw

 

アキトが目立てないのは、まぁしょうがないというかどうでもいいというか。

逆行タイプでも主人公でもないなら単なるヘタレ一号ですよ、あんなの(爆)。

まぁ笑えたからいいか。w