気が付くと、何も無い世界に浮かんでいた。

見渡す世界に色は無く、自分の存在はあやふやだ。

手元を確かめようにも身体の感覚すら無い。

なんだか、目玉だけになってしまったような気持ちだ。



ひょっとして、別な世界に飛ばされた?
うむむ、俺は次元跳躍体質になってしまったのだろうか…。
良いのか悪いのか…、少なくともアルフ達には迷惑かけっぱなしなまま、終わってしまったな。

と、目の前に人が居る事に気付いた。

長い金髪をツインテールにし、赤い目を大きく見開いた可愛らしい少女。

…?

俺の身体だ。

だとすると、俺は今、幽体離脱をしているのか?

…この状態でフェイト嬢の意識を確認できたら、このままMrs.テスタロッサに分割状態で固定してもらってもかまわんな。
問題は俺本来の身体を捜すのをどうすればいいのか判らないって事だが。

「…それは、無理。」



目の前の俺の身体が喋った。
無理?…どういうことだろう。

「コレは夢、だから。
私達が目覚めれば、元通り、貴方が身体の主導権を握る事になる。」

夢…。
っていうか、目の前のこの子、ひょっとしてフェイト嬢なのか!?

「そう、その通り。
…始めまして、フラットさん。」

始めまして、フェイト嬢。

「………。」


どうした?

「その『嬢』って、いらない。」

そうか…、じゃあ、フェイト。
改めて、よろしく。
俺の事はフラットでいいぞ。

「うん、よろしくフラット。」

…無表情かと思ったら、いい顔で笑うじゃないか。

「!?
…ありがと…。」

今度はフェイト嬢が赤くなった。
いやはや、面白い子だ。

「だから『嬢』は要らない。」

ん?
ああ、俺の方は思考垂れ流し状態な訳か?

「うん。」

…そっか。
まぁ、それはどうでもいいんだが。

「?
どうでもいいの?」

自分の考えている事が丸ごと相手に判ったら不愉快じゃないのか?
って言いたいのか、フェイト?

「そう、少なくとも私は嫌。」

ああ、大丈夫だフェイト。
君の思っている事は、さっぱり判らない。

「フラットは、それでいいの?」

まぁ、な。
元々俺が君の身体にお邪魔している訳だ。
家主に無断で住み込んでる以上、文句は無いさ。

「…その割に、私の服については不満がイッパイだったみたいだけど。
………バリアジャケット、水着でゴメンね?
一応、アレ、レオタードのつもりなんだけど。」

!?

「なんで判った?…って雰囲気だね。
私に身体の主導権は無いけど、私も貴方と同じ五感を共有してるから。」

…って事は、着替えの時の事も…。

と、あの時の情景を思い出した瞬間、フェイトの顔が真っ赤になった。

「…あ、あの時は……。」

…無かった事にして欲しい。
これから風呂に入ったり、着替える時とかは、出来るだけ意識しないようにするから…。

コクコクと頷くフェイト。

しかし、自分の体が実感できないと言うのも変な感じだ。
フェイトから見たら、脳みそと目玉だけが浮いてる…なんてグログロ映像だったらどうしたものか…。

「?
私からはフラットの身体、ちゃんと見えてるけど。」

!?
そうなのか?

「うん。
私と同じ体。たぶん、全部一緒。」

…、そうか。

「…嫌、だった?」

ちがう、ちがうっ!
そういう事じゃない。
もし、俺の本来の身体だったら、自分の記憶を思い出す手助けになると思ってな。

「そう…、
御免なさい。」

いやいや、君が謝る事じゃないさ。
そう出来たら良いのにな、って願望なだけだから。
夢の中で思い出せても、起きたら全て忘れてました…って事になっても虚しいだけだ。

「多分、目覚めたら、貴方は今の会話の事も忘れてるかもしれない。」

ふむ、まぁそんなもんだろ。

「随分、簡単に受け入れるんだね?」

まぁな。
ストレスを溜め込まないコツは、期待を抱かない事だと思う。
全ては在るがまま…と言ってしまえるほど、俺も超越出来ている訳ではないんだが。

「…でも、それは…寂しいと…思う。」

うん、否定できないな。
あるいは何も持っていないから、この俺がよりどころにすべき何かを抱いていないから、
こんな醒めた物の見方をしてしまうのかもしれない…。

「……私がいるよ……アルフも………母さんも…
…………何も無いなんて……言わないで…。」

…ありがとう。
っと、声が遠いな。
ああ、もう目が覚めるのか…。


 

 

魔法少女リリカル☆なのは 二次創作

魔法少女? アブサード◇フラット

第二話 「遭遇! もう一人の魔法少女!?」

 

 

 目覚めは、あまり宜しくなかった。

昨日、埃まみれになって部屋に帰ってきて、風呂に入る事も着替える事も無く寝てしまったのだから。

…、大きくフカフカのベットから起き上がる際、脳裏を何かが横切る。

ん?

なにか、忘れてはいけない大切な事があったような。

誰かと話をしていたような気がするのだが…。

頭を捻りながら、着替えの下着をチェストから取り出し、クローゼットから服を取る。

そのまま、思い出せない『何か』を考えながら風呂場に向かい、

服を脱ぎ、

身体を洗って、

湯船に浸かって、

更衣室で備え付けのバスタオルで全身を拭いている時、ようやく気が付いた。

今まで頭を捻っていた『何か』の事ではなく、俺の身体が今は女の子だという事を。

動揺しつつも、手は的確に衣服を身に着けてゆく。

なんだか可愛い系の服をチョイスしてしまっているのは、誰かの陰謀なのだろうか?

あまりにも可愛い格好だったので、
目の前の大きな鏡の前で「きゃる〜〜ん☆」とポーズを取ってみる。



…きゃる〜〜ん、ってなんだよ?

しかも☆。

俺はアホだ。

自分のマヌケさ加減に頭が痛い。

着替えの中にリボンが入っていたので、やたらと長い髪を適当に後頭部で一括りに纏める。

…ポニーテールになった…。

ま、いっか。

とりあえず、腹がへったのでキッチン探して庭園内をうろつく。

食い物があれば文句は無い。

多少の料理なら………、きっと出来ない事も無いだろう。

 

 …、料理の道は険しかった。

面倒なんで適当な炒め物を作ろうとしたのだが、味付けを考慮していなかったのだ。

出来上がって試食してみると、素材のプリミティブすぎる味が俺を刺激する。

仕方ないので塩と胡椒を振りかけながら食ったのだが、どうにもヤルセナイ味は変わらなかった。

どこぞの騎士王が「雑でした。」と言うような料理を平らげ切った時、厨房の入り口からアルフが入ってきた。

「お、こんな所に居たんだ、フラット。
…って、朝っぱらから脂っこい物食べてるんだね。
料理くらいワタシが用意してやるのに。」

俺のズサンな料理に呆れ顔のアルフ。

「そうなのか?
アルフが何処に居るのか判らなかったから、自前で用意してみたんだが…。」

「は?
いつも食事時は念話で連絡を取り合ってたじゃないか。
…って、それはフェイトとだったね。」

「念話?」

『これの事さ。』

俺の疑問に脳裏に響く不思議な声で答えるアルフ。

「ふむ、どうやって使うんだ?」

『コレの感覚に合わせて、相手に自分の言葉を送る…って感じかねぇ。』

『………、こんな感じ…か?』

『なんだい、出来るじゃないか!
コレを使えば、よほどの事が無い限り、距離に関係なく、連絡が取れるからね。』

口も動かさずに頷くアルフ。

『ふむん、念話か。
使える技術だ。』

うむうむ、と頷く俺。
ロストロギアの探索という仕事が待っている以上、距離に左右されない通信技術は必須だ。
戦闘時に的確に使えば、敵を罠にかけることも造作在るまい。
敵が居るのならば…だが。

「あ、
忘れてた。
プレシアが呼んでるよ。」

「どこにだ?案内してくれ。」

Mrs.テスタロッサは気の長いタイプではあるまい。
アルフがどれだけの時間、俺を探していたのか…気になるが、急ぐしか無いだろう。







…、結論から言えば、

プレシア・テスタロッサは…怒っていた。

「遅かったわね。」

彼女は額に血管を浮き立たせそうな表情で、玉座の間と形容出来そうな広い空間に鎮座していた。
肘掛けに添えた指がトン、トン、と苛立ちの音を出している。

「すまん。
念話に馴れていなくてな、アルフと合流するのに手間取った。」

「そう…。
まぁ、いいでしょう。
そんな事より、ジュエルシードの居場所を掴めたわ。
今から行ってきなさい。」

「…早いな。
いや、了解した。
で、どうやって行くんだ?」

「この紙に目標の座標とここの座標が書いてあるわ。
座標を暗記したらメモは燃やすように。
アルフが転移魔法を知っているから、教えてもらいなさい。
あと、向こうの通貨よ。
他は工夫して拠点を構築しなさい。
…それと、ジュエルシードの情報よ。参考にしなさい。」

メモが書かれた紙片と束になった紙幣がいくつか入った封筒、手帳が渡される。

「手際もいいんだな…。
で、行動に当たって注意すべき事は?」

「無いわ。
強いて言うなら、少しでも早く21個、全てのジュエルシードを回収する事。
その為なら如何なる行為にでも手を染めなさい。
そして、次元震に注意しなさい。
ハイエナの時空管理局がしゃしゃり出てくると面倒よ。」

「なるほど、確かに俺達に無いのは時間だな。
他に言う事は無いか?

では行ってくる。」

踵を返し、玉座から去る俺にMrs.テスタロッサから声が掛かる。

「1週間後には報告に帰ってきなさい。」

彼女の言葉に右手を上げて返事とする。

つまり、俺に与えられた猶予は1週間と言う事か。

強行軍になりそうだな、っていうか、無作為に落ちた21個の宝石をたった1週間で回収しきれるのか…?
微妙に出来そうな感じがなんとも…。

憂鬱になりながら大きな扉を潜り抜けた先で、アルフが申し訳なさそうな顔で佇んでいた。

「ゴメンよ、フラット。
ワタシの為に嘘を吐かせてしまって…。」

「ん?
ああ、合流に手間取った事か。
気にするな。
あれは事実でもある。
俺が念話という概念を認識していれば、もっとスムーズに動けただろうからな。」

「でも、アンタは…。」

「申し訳ないのなら、転移魔法を教えてくれ。
俺達には、時間が無いのだから。」

広い通路を歩きながらアルフに話しかける。

アルフの耳と尻尾が申し訳なさそうに垂れているのが微笑ましい。

が、

指摘したら多分、怒るのだろう。

…指摘してみた。

「なっ!?!?
いきなり何言ってるのさ!?
ゴメンと思ってたのにっ、怒るよっ!!」

怒髪天を突く。

その言葉に従う様に、アルフの耳と尻尾も上を向いた。

「ああ、アルフは沈んでいるよりも元気な方が良いな。」

「へ?」

「垂れた耳よりも立ってる耳の方がアルフに似合ってるって言ってるんだ。」

「ほへっ!?
ええっと、その……。」

照れて、いきなりモジモジしだすアルフ。

あの御主人にして、この使い魔と言う事か…よく似ている仕草だ。

ん?「あの御主人」って誰だ?



そうこうしている内に幾つかの扉を潜り抜け、広い空間に出た。

「ああ、ココで転移魔法を使うんだよ。」

と、アルフの周囲に大きな魔方陣が浮かび上がる。

「座標のメモだ。」

俺がアルフにメモを手渡すと、アルフはアルファベット交じりの数字を朗読し始めた。

一定のテンポで読まれている辺り、一つの区切りで一つの基準点なのだろうな。
いくつもの区切りが連なってゆく。

だとすれば多次元に渡って干渉する魔法なのか。
魔方陣も大きいしな。
では、緊急時に展開するのは危険か、ミスって変な所に飛んだ日には…。

もの思いに耽っていると、アルフが締めの呪文を唱えて術式が完成する。

「…F1095。
開け、誘いの扉。
海鳴市、ジュエルシードを宿す土地。」

オレンジの光が俺達を包むと、
世界が、閉じた。

 

 目が正常に戻ると、ソコは青空の下だった。

周囲は森、人気は無し。

「よしよし、成功したみたいだね。」

自分の術式が成功裏に終わった事に自慢げなアルフ。

「ああ、大したものだ。」

実際、世界を渡るなんて普通、夢物語のレベルだろう。
それも、一個人の技術で行なえるのだ。
何処かの魔術師が知れば、怒りに打ち震えるのではなかろうか?

俺に褒められた事で更に機嫌が良くなったアルフ。
でも「これがフェイトだったらもっと気分良いのにな〜。」って呟きが駄々漏れだぞ?

まあいい、今はジュエルシードの探索だ。

「さて、アルフには寝床を確保してもらおうか…。」

「あん?
フラットはどうするのさ?」

「俺はさっそく宝石探しだ。」

Mrs.テスタロッサに渡された金の入った封筒から、紙幣を一枚抜き取って、残りを全部渡す。

「土地勘も無いのに大丈夫なのかい?」

「地図でも手に入れるさ。
なにかあったら、念話で頼む。」

手に持った紙幣をヒラリと振って答えるとアルフが憮然とした。

「はぁ…良いけどね。
アンタの身体はフェイトのなんだからね?
傷つけたら承知しないよ?」

「ああ、重々承知している。」

背中越しにアルフの言葉に答え、俺は意気揚々と歩き出した。

まずは、街に出よう。





















街は…遠かった。

クソ、一体どこまで山奥に飛ばされたんだ?

初めは律儀に歩いていたが、今は魔法を使って高速飛行である。

海鳴市はその名の通り、海沿いの街らしい。

木々の切れ間から覗く海目掛けて全速力だ。

最初に歩いていた方角が海鳴市とは関係ない方角だったのは…忘れてしまおう。

流し読みではあるが、ジュエルシード情報が書かれた手帳を見る機会に恵まれたのは幸いだったかもしれない。

ああ、ようやく街が見えてきた。

もうそろそろ、歩きに切り替えようか?というその時、大きな魔力が行使されるのを感じた。

その方向を見やると巨大な結界が、大きな屋敷を中心に展開されていた。

「怪しい、
…絶対何かあるな。
どう思う、バルディッシュ?」

〔Me too.〕

「ならば、突っ込むか。
装備を頼む、バルディッシュ。」

〔Yes sir.〕

金色の帯が俺の全身を包み、バリアジャケットが展開する。

右手に握ったバルディッシュはその全貌を現し、自分の身長くらいの斧槍に成る。

相変わらず、この格好には馴れない。

まぁ、ミニスカートで空を飛んでる時点で終わっているのだが。

いらない思考を溜息と共に吐き出して、アルフに一言入れる事にする。

『アルフ、アルフ?
聞こえるか?』

『………、どうしたんだいフラット。』

『俺の居る近辺で結界が張られた。
ジュエルシードの可能性も否定できないので、これから結界内に突っ込む。』

『な!?
ワタシも行くから待ってて。
直ぐ行くから。』

『待て待て、
寝床の確保も重大事だ。
それに今後どういう展開になるか検討もつかない。
アルフは今回、控えていろ。』

『待てと言われて収まるもんか!』

『…判らんか?
アルフは俺達の切り札になるんだ。
いざって時に、効果的に活躍する為に、今回は引いてくれ。』

『う、むむむ。
…ふふん♪
フラットもワタシの実力を認めてるんだぁ〜ねぇ。
判ったよ。今回は大人しくしとくさ。
でも、そこまで言ったからには、しっかりお仕事するんだよ?』

『ああ。了解だ。』

アルフとの繋がりが途切れる感覚がする。
やれやれ、単純なヤツ。

そして、結界の中に侵入する。
結界への侵入は何の衝撃も無く、逆に不安になるくらいだった。
どうやら、外敵の侵入を防ぐ類の物では無いらしい。

と、妙な魔力の高まりがある。

あれがジュエルシードの反応なのか?

一体どんな形なのだろう?
と期待に胸を高鳴らせつつ、魔力に乗って空を飛べば…


























…、おっきな子猫が、ニャアと鳴いていました。



















帰っていい?




















いやいや、待て待て。
落ち着け、俺。
手帳にも書いてあったじゃないか。
ジュエルシードは、願いを叶える石だと。

と、言う事はあの子猫が石を拾ったのだろう。

うむむ、なんかメルヘンな感じ。
もっと殺伐としたのを想像してたんだがなぁ。

手頃な足場だった電柱の上に降り立った俺。
目標たる子猫は木々の合間から、その大きな身体を窺える。

とりあえず、あの子猫の動きを止めてしまえば封印のやり放題だろう。

「さて、ここは射程範囲かな?
バルディッシュ。」

〔Photon lance get set.〕

質問に行動で答えるバルディッシュが頼もしい。

スッと、バルディッシュを突き出し、子猫の腹に一撃を撃ち込む。

〔Fire.〕

光弾が命中し、ウニャーと苦痛に呻く猫の声が聞こえてくるが、攻撃が利いた様子は無い。

む、身体がデカイ分、ダメージも小さいのか?

「バルディッシュ。
連射だ。出力は高めで頼む。」

〔Gain up.
Poton lance.
Full auto fire.〕

片手で保持していたバルディッシュを両手で持つ。

大粒の光弾の雨が、子猫に襲い掛かったその時。

〔Try area protection.〕

白い服に身を包んだ少女が、光盾で俺の砲撃を全て打ち消した。

ぬ、魔導士か?

なるほど、アイツがこの結界を張ったのか。

早速、邪魔者が出るとは…幸先悪いな。

バルディッシュの斧頭を子猫の胴体から子猫の頭に向ける。
猫を痛めつける事に、少し心が痛む。

が、

とっとと気絶させた方が、この子猫の為でもある。

ドドドッとフォトンランサーの三連射。

狙い通りに子猫の頭にHitし、子猫が倒れる。

少女魔導士は倒れる子猫から離れ、地面に着陸した。

子猫を守る様に、その手に持った杖を構えている。

その目的は判らないが、コイツから倒すべきだろう。

「バルディッシュ!」

〔Fire.〕

三度、フォトンランサーの連射。

少女魔導士は盾を作り出して、耐える。

その隙に、俺は彼女に接近して近接戦闘を挑む事にした。

〔Scythe form.
Set up.〕

空を飛びながら、バルディッシュを右に大きく振ると大鎌に変形する。

進路は少女魔導士に一直線。

着地と同時に右上から左下へ、文字通り大鎌を刈る。

が、少女魔導士はギリギリのタイミングで空に飛び上がり、俺の攻撃を避けた。

ちっ、すばしっこいヤツ。

バルディッシュを構え直し、空を見上げると、

靴から生えた光の羽で空に滞空する少女が戸惑いの声を上げた。

「ちょ、ちょっと!?
いきなり攻撃なんて酷いよっ!!
なんで、こんな事をするの!?」

「判らんか?
ロストロギア、ジュエルシードが俺には必要だからだ。
そして、
俺の行動を妨害したが故に、君は俺の敵だ。」

不意に、心の何処かが何かと繋がり、バルディッシュの使い方が脳裏に浮かんだ。

〔Arc savior.〕

バルディッシュを振り回す様に構え、身体を捻って力を溜める。

「邪魔立てするならっ、
容赦しない!!」

気迫と共にバルディッシュを振り抜くと、光刃が分離して、少女魔導士目掛けて一直線に駆けて行く。

「なのはっ!!」

森の何処かから、声がする。

周囲を警戒するが何も起こらない以上、無視しても問題ないようだ。

しゃがんで力を溜め、一気に魔力で飛び上がる。

〔Protection.〕

少女魔導士の眼前に桜色の盾が一瞬展開したかと思うと、アークセイバーとぶつかり、桜色の光球に包まれる。

よし、戦況はコチラが押している。
このまま、倒す!

光球から飛び出した少女魔導士目掛けて、バルディッシュを振り下ろす。

「くっ!?」

が、少女魔導士が掲げたデバイスらしき杖によって攻撃が止められる。

至近距離で相対する俺と少女。

「なんで、
なんで急にこんなっ!」

「言ったはずだ。
俺にはジュエルシードが必要だと。」

「くっ。」

怒りに表情が歪む少女。
…、確かにこんな風に答えをつき返されたら不快に思うのも無理は無い。

だが、俺と少女の間では、何かが食い違っているような気もする。

…まぁいい。
邪魔をするなら倒すだけだ。

お互いに押し合って距離を離し、少女魔導士は大地へ、

俺は太い木の枝に着陸する。

〔Device form.〕

〔Shooting mode.〕

双方のデバイスが変形する。

〔Divine buster.
Stand by.〕

〔Photon lance.
Get set.〕

少女魔導士の表情には躊躇いと戸惑いが判りやすいほどに浮かんでいる。



こいつ、人に向けて撃った事が無いのか?

…いや、まぁ、俺も無いんだが。
何故だろう、今なら眉一つ動かさず、人を殺せる気がする…。

そんな俺の逡巡を悟ったのか、少女が攻撃に移った。

〔Fire.〕

〔Fire.〕

間髪入れずに俺も全力射撃。

二人の間で衝突するデバインバスターとフォトンランサー。

だが、躊躇いがちに放たれたデバインバスターは、倒す気で放ったフォトンランサーの相手にならなかった。

桜色の光を貫いて、金色の光槍が少女に命中する。

「きゃぁぁあああっ!!!」

空へ弾き飛ばされる少女魔導師。

念の為に、バルディッシュを構えたまま彼女の行方を見守る。

ああ、気絶したか。
頭から落下している。
少女のデバイスも何故か作動を停止してしまったようだ。

このまま落下したら死ぬか、重傷は確実だろうと思ったその時。

「なのはっ!!
なのは〜っ!!」

草むらの中から、一匹の…フェレット?が駆け出していく。

と、少女の落下地点に魔方陣を張って、少女を受け止めた。

ふぅん、使い魔か?

戦闘に介入しなかったという事は、戦いが不得手なのだろう。
戦うには小さすぎるし。

とりあえず、少女が戦闘不能だと言う事を確認した俺は、いよいよ仕事に入る事にした。

「始めるぞ、バルディッシュ。」

〔Sealing form.
Set up.〕

バルディッシュを振り回すと、全長が伸び、変形を開始する。

光の翼を生やし、刃の下に放電する光球を発生させたバルディッシュを振り上げる。

狙いは倒れたままの巨大な子猫。

「行けっ!!」

バルディッシュを大地に叩き付けると、バルディッシュから子猫へ一筋の亀裂が走る。

子猫に到達すると、子猫の全身に放電が走った。

無意識に痙攣する子猫から、一粒の宝石が浮かび上がる。

蒼い、菱形の宝石だ。
俺が放った魔力の影響か、中央にローマ数字が認識出来る。

〔Order.〕

指示を乞うバルディッシュに俺は答えた。

「ジュエルシード。
シリアル]W。
…封印だ。」

〔Yes sir.〕

振り上げたバルディッシュから光が立ち昇った。

いつの間にか結界が解除された青い空に雲が集まる。

光を中心に時空が歪み、空に開いた奈落の穴から無数の光の雨が降る。

〔Sealing.〕

そして、魔方陣に囲われた奈落の穴から、太い光の柱が舞い降りる。

「うおっ!?
ド派手だなぁ、オイ!!」

巨大な子猫はその光の柱に衝撃と共に包まれ、柱が消失すると、元のサイズであろう姿に戻っていた。

子猫の上には蒼い宝石が浮かんでいる。

バルディッシュを肩に担いだ俺は歩み寄って、その石を覗き込む。

「ふ〜ん、これがジュエルシードか。」

光沢の強い石は俺の顔を映し返す。

〔Sir.〕

じろじろ見ていると、バルディッシュが早く回収させろと催促してきた。

苦笑しつつ、バルディッシュをジュエルシードの側に掲げると、

〔Capture.〕

と宣言したバルディッシュの宝石部分にジュエルシードを取り込んだ。

直後に、二本のシリンダーが伸びて無数に空いた穴から黒い蒸気が吐き出される。

やれやれ、なんとか一つ目を手に入れたか。

ふむ、
コイツを基準に、この地に散らばっていると言うジュエルシードの長距離探査が出来んもんかね…。

「バルディッシュ。
ジュエルシードの共鳴波を発生させる事が出来るか?」

〔No sir.〕

バルディッシュの否定を聞きながら、ジュエルシードについて書かれた手帳に目を通す。

…ふむ、
ジュエルシードは魔力の高密度結晶体であり、周囲の魔力を吸収する性質を持つ。
また、無差別に周囲の願い、願望を実現化すべく反応する。
…か。

ははぁ、安全装置の無い暴走特急って感じだな。

突然暴走する所を鑑みるに、寧ろ不発弾と形容すべきか?

む、魔力を吸収するのでは、広域探査魔法の類が効き辛そうだ。

無作為に、周囲へ魔力を垂れ流して、励起状態になったジュエルシードが暴れだすのを待つか?

だが、
活性化したジュエルシードを発見出来ても消耗した魔力で封印できるものだろうか。

…と、なれば。

魔力波を出して、反射波を検出。

魔力反射が起こらない地点を重点的に捜索する…という方針で行くか。

「よし、アクティブ・ソナーだ。
バルディッシュ、単発の高出力魔力波を全方位に発信出来るか?
そして、反射波を検知して特異点の座標を記録する事も。」

〔All O.K. sir.
Active magical SONAR.
Get ready.〕

バルディッシュの斧頭に光球が発生する。

俺は出来うる限り高くバルディッシュを掲げた。

「バルディッシュ。
出来るだけ広範囲の観測を行ないたい。
出力は最大で頼む。」

〔Yes sir.
…Activated.〕

キンッ!

脳に直接突き刺さるような甲高い音が大音響で聞こえた気がした。

こいつは、使えば遠くからでも判る者には判ってしまうな。
まぁ、今のところ、捜索がばれてもそんなに問題は無い訳だが。

既に別の探索者と遭遇してしまったのだから。

〔Data recording.
…Completion.〕

「オーケー、バルディッシュ。
後で地図と観測データをつき合わせて…。」

『フラット!!』

「うおっ!?」

大きな声の念話に思わず驚く俺。

『アルフか?
如何したんだ?そんなに慌てて。』

『如何したんだ?
じゃないよ!!
フラットの居る方向で凄く強力な魔力波が一瞬、放射されたんだよ!
何か問題でも起きたんだろう?
怪我してたら承知しないんだからね!!』

『ああ、それ、俺が意図的に流したヤツだ。
ジュエルシードの一つ目を手に入れたんでね、他のヤツを探しておこうと思ったんだ。』

『なんだい、人騒がせな…。
でも、さっそく一つ目を手に入れられるなんて、幸先良いスタートじゃないか。
拠点も出来たから、さっそく帰っておいでよ。』

『そうか、早いな。
だが、もう二、三個くらいは回収しないとな。
後で拠点の住所を教えてくれ。』

『ハン、仕事熱心なヤツだねぇ。
その身体はフェイトの身体って事を忘れるんじゃないよ。』

『了解だ。』



幸先良いのか、悪いのか。
直ぐにジュエルシードを入手できたのは大きいが、邪魔者も一緒だからなぁ。

改めてバルディッシュを肩に担いだ俺が周囲を見渡すと、倒れている少女魔導士を見つけた。

彼女の傍らには、先の使い魔の姿もある。

しまった、迂闊!
敵の目の前で思案に耽り、広域探査を試みていたのか。
なんて、無防備な真似を…。

しかし、コイツ等…どうしたものか。

一番的確な行動は、この場でトドメを刺してしまう事だが。

ただし、こんな小さい子を殺してしまうと、
この土地の警察組織が活気付いて、今後のジュエルシード捜索に支障をきたすかもしれない。

ただでさえ時間が無いのに、そんな無駄が出来るはずがない。

が、このまま放置しても、再び彼女は俺の前に立ち塞がるだろう。

取り合えず、警告して士気を削ぐか。

「…そこの使い魔。
俺の言葉が判るか?」

サワサワと優しい風が吹く中、全力で俺の動向を警戒しているフェレットらしき使い魔が頷く。

「では、その魔導士に伝言を頼む。

今回は見逃す。
だが、次は容赦しない。
命を捨てる覚悟が無ければ、俺の前に立つな。
…と。
この言葉を伝えるも、伝えないもお前の自由だ。
だが、俺はこの警告が受け入れられる事を願っている。」

言うだけ言って、俺はその場から飛び去った。

回収すべきジュエルシードはまだ、20個もある。
そして、俺の魔力はまだ十分に有るのだ。

出来れば今日中に五つくらいは回収しておかないと後が無い。

この考えは運良く出会えた、本日、二つ目のジュエルシードを封印する際に消し飛んだのだが。

くそぉ、こんなに抵抗するなんて聞いて無いぞ?

 

 ガツガツガツ。

「はむはむはむ!」

ゴッキュ、ゴッキュ。

「お替りだ、アルフ。」

左手に持ったシチュー皿をアルフに差し出す俺。

ココは、アルフが買った高層マンションの一室。
大金を預かっているとはいえ、一つの階に部屋が一つ二つしかないような高級マンションをポンと買えるとは思えないのだが…。

ともかく、今はリビングにて夕飯の真っ最中だ。

「…ん?」

アルフの反応が無いので、視線を手元からアルフに移す。

と、
アルフが蕩けた顔でこちらを見ていた。
瞳には星が舞っている。

…なにか呟いている。

「…あの少食のフェイトが、ワタシの料理を貪る様に食べてる。
ああ、料理人冥利に尽きるよ、フェイト。
ようやく、ワタシの料理を気に入ってくれたんだね?
いやいや、アレはフラットだ。
ワタシのフェイトじゃない。
でも…、
それでも、フェイトの姿がワタシの料理を平らげてる光景を見られるなんて…♪
ああ、生きてて良かったよ(はーと)」

自分用のドックフードに手も付けず、ただ感激に身を震わせているようだ。

どうやら、フェイト嬢は少食なようだ。
アルフが心配するぐらいに。

…いや、むしろ自分の料理が不味いから食べてくれないと思ってた様でもあるが。

なんだか目を覚まさせるのが気の毒な気がしてきたが、俺の腹はまだ、満たされていない。

なにせ、時の庭園で目覚めてから「始めて」のマトモな飯なのだ。

クッキーで飢えを誤魔化したり、自分は料理が下手である事を認識するハメになったり。

「アルフ、アルフ!
お替りを頼む!!」

だから、せっかくの美味い飯を心行くまで堪能してもバチはあたるまい。

「…ほぇ?
なんだい、フェイト……じゃなくて、フラット。」

「お替りだ、アルフ。
シチューのお替りを頼む。」

「はうっ!
お替り…。
ああ、平らげるだけじゃなくて、お替りまで!!
今日は人生最良の日だよ♪」

また、幸せな世界に篭もるのかと思いきや、
ひったくるように俺の手から皿を奪うと、キッチンへ飛ぶように移動した。

そして、信じられない速さで戻ってくる。
両手で持っている皿にはシチューがなみなみと注がれている。

「はいよ♪
たんと食べとくれ。」

目の前に置かれたシチューを堪能し始めた俺にアルフが話しかけてくる。

「しかし、よく食べるねぇ。
身体はフェイトのままだってのに。」

「ん?
今日も魔力を散々消耗したからな。
沢山食べたから回復するという訳じゃないだろうが、体力はあって困る物じゃないだろう?」

「ああ、その台詞をフェイトに聞かせてやりたいもんだよ。
フェイトときたら、いっつもほんのちょっとしか食べないんだ。」

「ふ〜ん、それで薄口の味付けなのか?
まぁ、美味いから問題無いんだが。
…しかし、苦労してたんだな、アルフ。」

「判るかい?
いっつも、いっつも、作った料理を捨てなきゃならない悲しみがっ!
ワタシが食べてもいいんだけど、人向けの味付けはどうにも好みが合わなくてねぇ。」

「合わない好みでよく、これだけの料理が作れるな。」

「そこは日々の練習の賜物さ!
それにまったく食べれない訳じゃないからね。」

…ひょっとして、フェイトが少食になったのは、初期のアルフの料理が悲惨だったからじゃないのか?

と、一瞬思ってしまったりしたが、確証の持てる疑問ではない訳だし、口には出さない俺だった。

『賢明だね、フラット。』

脳裏の隅から声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。

ともかく、すっかりアルフの料理を堪能しきった俺はようやくスプーンを置いた。

「ふぅ、ご馳走様だ、アルフ。」

「お粗末様、だよ、フラット。」

食器を適当に隅に積んだ俺は、町で購入した地図を広げる事にした。

本の形式ではなく、一枚の大きな紙のタイプだ。

机の上に様々な記号で描かれた海鳴市が広がる。

「さて、バルディッシュ。
今日、複数回行なった魔力観測の結果を地図上に表示してくれないか?」

そう、俺達は海鳴市の周囲で場所を変えつつ何度も魔力観測を行なった。
一箇所だけではあやふやにしか判らなくとも、こうする事で怪しいポイントが浮き彫りになるのだ。
その過程で二つ目のジュエルシードに出会えたのは僥倖だったといえるだろう。

バルディッシュが、金色のサークルを幾つも地図の各所に浮かべる。

これらが、観測時に魔力波が返ってこなかった地点。
すなわち、ジュエルシードが存在する確立の高いポイント、特異点だ。

俺はバルディッシュの示す地域を赤い鉛筆で囲ってゆく。

結構広い範囲なのは仕方あるまい。
ジュエルシードが魔力を吸収する為に正確に検知できない以上、誤差を大量に含むのは当然の事だ。

もっとも、今大切なことは地点の絞込みだ。
行き先が判らなければ、落し物も探し様がない。

全部の地点に印を入れ終わった時、アルフが口を開いた。

「んん?
これで全部なのかい?
全部で10箇所しかないじゃないか。」

「大雑把な探査だったからな。
見落としもあるかもしれない。
あるいは、同じ地点に幾つか転がっているのだとも考えられる。」

アルフの疑問に頷きながら答える俺。

「実際、海上に検知された反応は広大で歪だ。
ひょっとしたら、大量にあるかもしれんぞ?」

「それよりも、今日遭遇したっていう魔導士が幾つか回収してるって考える方が違和感無いんじゃないかい?」

「ん、確かに。
…しまった。カツアゲしとくんだった。」

「まぁ、いいんじゃないかい?
今度の出会った時に、ボコボコに痛めつけて奪っちゃえばいいじゃないか。」

「まぁ…そうなんだが。」

次は無い。と啖呵を切った以上…、あまり顔を合わせたくない。

万が一、次に遭遇した場合、俺は彼女を殺せるのか?

必要とあらば、俺は人を殺せる気がする。
容赦無く、躊躇無く…。

だが、それは予想にしかすぎず、実際には手を下す事も出来ないかもしれない。

いや、今回見逃したのは、殺害に因って起きるだろう警察組織の活動の活発化が探索行動を阻害する事を恐れて、だ。

昼も夜も警察の威信に懸けて街中を巡回された日には、俺達のような怪しい存在など一発で保護対象だ。

…、逮捕される訳でなく、保護されるってのが…切ないが。

「どうしたんだい、フラット?
浮かない顔だねぇ。
ひょっとして、ソイツ、強いのかい?」

「ん?
いや、資質はあるのだろうが、それだけだ。
彼女は戦いを迷っている、…そんな雰囲気だったからな。
そんなヤツに負けるほど俺も弱くは無いみたいだ。
ただ…。」

「ただ、なんだってんだい?」

「意思の強そうな目をしていた。
ひとたび心を決めたら、どこまでも食らい付いてくるだろう。」

「へぇ、アンタにそこまで言わせるたぁねぇ。
興味が湧いて来たよ。」

…、ひょっとしたら、あの使い魔に言った捨て台詞。

あの少女を焚き付ける結果になってしまうかも…な。

「さて、一休みしたら探索に出よう。」

「はいよ。
まったく、仕事熱心なんだから。」

「俺の命と、フェイト嬢の安全が掛かってるからな。」

「判ってるよ。
アンタはともかく、フェイトの為なんだから手は抜かないさ。」

アルフの言葉に口元をゆがめて俺は立ちあがった。

ベットで寝たら翌朝まで熟睡するかもしれないので、ソファーで仮眠を取る事にする。

美容の敵なんだろうが、今は時間と効率優先だ。
勘弁してくれ、フェイト嬢。
















第二話 完















あとがき

 ここまで読んでいただき有難うございます。

話を変えた途端、サクサク書けて楽しいTANKです。

ま、第二話は第一話を投稿する時には半分くらい書けてた訳ですが。


フラットのヤツが妙にミリタリー知識に傾倒してるのは、まぁお約束と言う事でスルーして貰いたいです。

ソナーも本当は音波を使った探知装置の事ですから、『SONAR』は『MANAR』とかになる…んですが、これもスルーで(汗
かっこ悪いですし。

次回は戦闘続きで送る予定です。

あ〜、まっとうに戦いに悩むキャラって動かしやすいなぁ。

アリスのヤツは戦い自体には悩まないみたいですから。
戦いを求める自分に戸惑ってはいるみたいですがね。

OUT SIDEもこの話(無印分まで)が終わる頃には再開出来るかもしれません。






感想代理人プロフィール

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代理人の感想

結構容赦ないなぁ。w

このフラットとの間で、はたして拳と拳での語り合いが成立するんだろうか。

本物のフェイトもこの頃はこんなもんだったとはいえ。