「…あの杖、あの衣装、あの魔力の使い方。
間違いなく、彼女は僕と同じ世界の住人だ。」

私、高町 なのは。
小学三年生。
ココは私の家の私の部屋。

今喋ってたのは、ひょんな事情で出会った喋る魔法使いフェレットのユーノ君。

そして、

ユーノ君の話の主は、今日のお昼に森で出会った魔法使いの女の子の事。

唐突に戦って、
何がなんだか判らないまま倒されて、
目覚めたら、友達の家のベットの上で…その後、帰ってきて今に至る訳です。

「ジュエルシード集めを続けるなら、
又、
…あの子とぶつかっちゃうのかな?」

躊躇いがちに話すと、ユーノ君は私の膝の上で、すまなそうに俯くのでした。

でも初めての『人との戦い』は、不思議なほどに怖くは無くて、

だけど、なんだか悲しいような…そんな複雑な気持ちで…。

「なのは。
やっぱり、…もう…」

「ストップだよ、ユーノ君。
私はもう、この問題に関わったの。
だから、最後まで付き合わせて…お願い。」

「なのは…っ!
だけど彼女は、なのはを傷つけるって宣言してるんだよ?
『命を捨てる覚悟が無ければ、俺の前に立つな』って。」

「うん、それでも、ユーノ君は戦うんでしょう?」

「そりゃそうだよ!
だって、ジュエルシードは僕が見つけたんだ。
僕には、責任があるんだから…。」

「私にもあるよ、責任。」

「えっ!?」

「私はユーノ君を手伝うって決めたの。
自分の行動には責任を持ちなさいって、お父さんとお母さんはいつも言ってるの。
このまま放り出されたら、私、何にも出来なくなっちゃうよ。
だから、もう一度、あの子に会う。
あの子に会って、あの子の理由を聞くの。」

「…ごめん、なのは。」

「違うよ、ユーノ君。」

「え?」

「ありがとう。
こういう時は、ごめん、じゃなくて、ありがとう。だよ?」

「…なのは。
ありがとう、なのは。
本当に…ありがとう。」

瞳を潤ませたユーノ君は本当に可愛くて、

私は思わず抱きしめて、力一杯、頬擦りしてしまったのでした。

ユーノ君を心行くまで可愛がって落ち着いた時、ふと、ある事に気付きました。

「ねぇ、そういえば、あの子。」

「うん?」

「すっごい、男口調だったよね。」

「…ああ、確かに。」

「でも、衣装は女の子してたよね。」

「………。」

あ、ユーノ君、赤くなってる。

「…あの子、オカマさんなのかな?」

「それを言うなら、女装趣味…だと思う。」

「あ、そっか。
オカマさんだったら、口調からして女の子だよね。」

「って言うか、女装趣味だとしたら、あの子、男って事になるんだけど…。」

およ?
ユーノ君の顔が今度は青くなっちゃった。

小さい声で「男に欲情した、男に欲情した」とか呻いてます。

「ユーノ君。…大丈夫?」

「はっ!?
う、うん。大丈夫。」

「男の子なのかなぁ?
胸はちゃんとあったみたいだし、体格からして女の子だと思うんだけど。」

「う、うん!
そうだよね!!彼女は女の子だともっ!!」

凄い必死になって、肯定するユーノ君。

「よし、それじゃあ、その事もあの子に聞いてみよう。」

やるべき事がハッキリしてくると、眠気もしっかりやって来る訳です。

「ふぁ〜〜。
それじゃ、おやすみ。」

「お、お休み、なのは。」

ベットに横になると、意識は直ぐに飛んで言っちゃう…の……でした……。

「…結構余裕なんだね、なのは(汗)」



 

 

魔法少女リリカル☆なのは 二次創作

魔法少女? アブサード◇フラット

第三話 「衝突! 少女達の戦い?」

 

 

 もう数日間ジュエルシードを探し続けているが、初日の二つ以来、収穫はゼロ。

街の近辺は諦めて、郊外の森の中を一人で探索中。

街から遠く離れた場所でもジュエルシードと思しき反応があったからだ。

最初は一緒に居たアルフも、気が付けば別行動を取っていた。

ま、念話があるから問題は無いか。

川のせせらぎに沿って、整地された遊歩道をゆっくりと歩いてゆく。

バルディッシュを起動しなくとも、簡易探査くらいは自力で出来るみたいだ。

探査中だから、ゆっくり歩いているのだが、
他人が見れば、身体の弱い少女がのんびり散策しているようにしか見えまい。

…、

そう、今の俺は病弱少女風の衣装を着ているのだ。

髪はあえてストレートに垂らす。

服は淡い色合いのフリルとリボンが控えめに付いたブラウスと白いカーディガン。

スカートは足首まである長さのをチョイス。

靴は適当な革靴。

先日、通販で手に入れたのだが、初めて着た時のアルフの爆笑っぷりと来たら…。

くそ、「似合うけど似合わない」とはどういう感想だ?

これは唯の変装に過ぎないんだ。

だって、普通の小学生が真昼から道端を歩いてたら問題だろう?
実際、何度補導されかけた事か。

だが、病弱っぽい少女が道を歩いていても「今日は体調が良いから外を出歩いているんだな」と好意的に解釈されるだけなのだ。

と、力説したら、アルフのヤツは更に大笑いした。

「くそ、いつか目にモノみせてやる。」

アルフへの復讐の誓い(凄いフリルが付きまくったゴスロリドレスを着せる計画)を立てていると、
周りに少しだけ居る人たちの視線が一瞬、俺に集まり、それぞれあさっての方向を向いた。

おっと、この格好で握り拳をプルプルさせていたら怪しすぎるか?
びーくーる、だ。俺。

手を顔にやると、眉間にも力が入っていた。

いかんいかん、しかめっ面の病弱少女なんて存在しないだろうに。

額を揉んで、顔の緊張をほぐす。

…、

前もって警告しておくが、俺に病弱フェチみたいな趣味は無いからな。
俺はノーマルだ。

長いスカートの方が落ち着くのは否定しないが。

慣れなのかもしれないが、短いスカートは歩き方に気を使う。
空を飛ぶに至っては、おっぴろげを覚悟するしかない。
出来れば、ズボンかキュロットスカートが良いんだが、アルフに全力で止められてしまった。
何故だ?

ちなみにバトルジャケットの件は諦めた。
あれは、レオタードだ。
スカートみたいなのは、唯の腰飾りだ。
なにせ、背中側に凄い切れ込みが入ってる。
前垂れが付いてるだけありがたい。そう思わないとやってられない。

「…ふぅっ。」

川のほとりで溜息を付くと、側で佇んでいた若いカップルがこちらを見た。

「重い溜息だね。
なにか悩み事かな?
オジサンに話してみないかい?」

いきなり話しかけられて動揺する俺。
しまった!
こういう格好の時、どういう口調で話せば良いんだ?

「あらあら、駄目じゃないアナタ。
驚かせちゃったじゃないの。ごめんなさいね?」

間髪入れずに詫びを入れる彼女さん。

「あ…いえ、大丈夫です。」

あわてて、手を小さく振って否定すると二人が微笑んだ。

「ああ、自己紹介をしておこうか。
オジサンは高町 士郎。」

「私は高町 桃子よ。
よろしくね?」

「あ、はい。
お…、ゴホン。
私は、…フラットです。」

「で、どうしたのかな?」

士郎さんが優しく微笑んで質問してくる。

「あ、…ええっと。」

イカン、流石に戦闘時の衣装が露出度高くて凹んでたとは言えまい。
うむむ…。

「ちょっと、最近忙しくて…。
その上で、やる事が上手くいかなくて…。
でもヤルしかないんだよなって、
そう、思ってたら…溜息が出ちゃいまして。」

話しても問題ないレベルで話を誤魔化しつつ、
たはは、と苦笑すると、二人が凄い感動していた。

「まぁ!
凄いわ、その歳でそういう考え方が出来るなんて!
ウチのなのはと同じくらいの歳なのに。」

「いやいや、桃子。
なのはもやる時はやる子だよ。
もちろん、フラットちゃんが凄い事は認めるさ。
ううむ、オジサン達が協力できるような問題じゃなさそうなのが申し訳ないが。」

「あ、いえいえ。
話を聞いてもらうだけで、大分楽になりましたから。」

「…本当に良く出来た子だなぁ。」

士郎さんがウムウムと頷いている。
ただ、何故だろう。
この人、「コイツ予想外に出来る」みたいな武人の品定めじみた視線を滲ませてる。

本当になんでだ?
実は士郎さんって武道の達人なのか?
いやいや、まさか。

っていうか、この肉体、すなわちフェイト嬢と同じ年齢の子供持ち?
この人ら、どう見ても20代前半なんですが…、学生結婚?いや、まさか。

この、凄まじく若作りで人の良い夫婦から穏やかに離れる方法を考えていると、脳裏に自慢げなアルフの声が響いてきた。

『あ〜、もしもし、フラット?
こちらアルフ。
フラットの言ってた例の白い子、見てきたよ。』

…、この能天気狼。
以前、俺の言った事、ガン無視したな。
存在を秘匿しておけば、いざって時に最高の不意打ちが出来たのに。

『そうか、どこで出会ったんだ?
それと、様子はどうだった?』

ともかく、そんな苛立ちは心の奥にしまっておいて、なるべく平静に問いかける。

『ん〜、川の上流へちょっと行ったところにある温泉宿だよ。
ま、アイツはフラットの敵じゃぁ無いね。楽勝だよ。』

『そうか。
こちらも当たりだ。
場所も大体、特定できた。人気が無くなったら仕掛ける事にしよう。』

『はぁ〜〜い♪』

やれやれ、温泉を心行くまで楽しんでるようだな。
ま、普段世話になってるから、それぐらい構わないんだが。

「っと、大丈夫かい?」



かけられた言葉に疑問を抱きつつ視線を上げると、心配そうな士郎さんと桃子さんの顔があった。

…ああ、急に黙って俯いたから、心配になったのか?

大丈夫、と返事をしようとしたトコロでふと気付く。
これって、穏便に分かれるチャンスじゃないか?

「ええ、もう大丈夫です。
でも、調子に乗って…外に出すぎたかもしれません。
私、これで失礼させてもらいますね。」

ぺこりと頭を下げて、森の人気の無い方へゆっくりと歩き出す。
ポイントは普通に振舞う事。
人間、当たり前に行動する人には、声をかけづらいものだ。

幸い、桃子さんの「さようなら〜、また会いましょうね〜。」という言葉を背に無事、別れる事が出来た。

 

「…身体が弱いみたいでしたけど、強い子でしたね。」

「ああ。
強くならざるを得なかったのかもしれないな…。
しかし、あの佇まい、只者ではなかったのだが。」

「?
アナタの目に留まるものがあったのですか?」

「気のせいかもしれないが。
…まぁ、いいさ。
今は葵屋の店長だ。もう、桃子達に心配をかけさせる事も無い。」

「ええ、ありがとう。アナタ。」

「ふ、
桃子には俺が、もうSPの仕事が出来ないのが不満なように見えるかもしれないがな、
今の仕事は本当に気に入ってるんだぞ?」

「あら、そうなの?」

「もともと、皆の笑顔を守りたくて始めた仕事だ。
だが、俺が全力で頑張っても、守れた笑顔の数はたかが知れてる。
その事が無意味だったと言うつもりは無い。あれは俺の誇りだ。
でもな、
葵屋に来るお客さんは、皆、笑顔になるんだ。
俺が守ってきた笑顔より、はるかに多い数でな。
だから、桃子。
俺は、お前を尊敬してるんだよ。皆を笑顔に出来るお前を。」

「アナタ…。」







…見ちゃいられないな。
なんなんだ、あの甘甘空間は?

うおっ!?
平然とキスしたぞ?

って、なに俺、出歯亀してるんだろう?

あの士郎さんの視線が気になるから、絶対に察知されないくらい離れて魔法による長距離望遠で観察してたんだが。

ええい、終了だ。

暗くなるまで不貞寝しておこう。
木の上だとて、寝れば上等のベットだ。

何より、最近はジュエルシード探しでマトモに寝られなかったからなぁ。



「バルディッシュ。
何かあったら起こしてくれ。」

〔Yes sir.〕



結局、何事も起こる事無く、俺は時間まで熟睡する事が出来た。
…これでフェイト嬢に何処でも寝られる癖が付いてしまったら、申し訳ないよなー。

 

俺とアルフは夜空が照らす欄干に座って、川の中を覗いていた。

「見つけた。
アレだな。」

「そうだね。
すっごい魔力量だけど、それだけみたいだし、簡単に終わらせられそうじゃないか。」

浅い川底には菱形の宝石が一つ。
その宝石からは、サーチライトのように魔力が放出されている。

「バルディッシュ。
…起きてくれ。」

〔Get raedy.〕

バトルジャケットの右手袋に付けられた台座から金色の宝石が浮かび上がる。

空に舞い上がった宝石を中心に一振りの杖が形成される。

俺の手元に納まった杖は先端に巨大な宝石を作り上げ、斧や様々なパーツを組み上げていく。

最後に、宝石に瞳が開き、起動が完了する。

〔Sealing form.
Set up.〕

ゴキン、ガキンとバルディッシュが変形する。

「大丈夫だとは思うが、アルフ。
万が一の時は補佐を頼む。」

「へい、へい♪」

封印の槍と成ったバルディッシュを振りかざし、俺は宣言する。

「ジュエルシード、
シリアル]Z。
…封印!」

ジュエルシード目掛けて振り下ろすと、金色の閃光がジュエルシードの青い光を散らす。

封印されたジュエルシードからは魔力が放たれなくなり、俺の手元にゆっくりと飛んできた。

そっと左手でつまみ、バルディッシュに回収させようとした、その時。

タッタッタ!

足音が俺達の側で止まる。

振り返った俺達の前に居たのは、以前ブチのめした少女魔導士とその使い魔。

「あ〜〜ら、あら、あら、あらっ!
子供は良い子でって、言わなかったっけか?」

アルフの言葉にハッとする少女。

「それを、ジュエルシードを如何するつもりだ!!
それは、
…危険な物なんだ!!」

少女の肩に乗った使い魔が叫ぶ。

「さぁ、ねぇ?
答える理由が見当たらないよ?
…それにさぁ、
ワタシ、親切に言ったよねぇ?
『良い子でいないと、ガブッっといくよ』って。」

言い切るとアルフが狼の姿に変身する。
いや、アルフにとって本来の姿に戻ったのだ。

アルフは遠吠えをすると、少女達を鋭くにらみつけた。

「やっぱり!
アイツ、あの子の使い魔なんだ!」

「使い魔?」

俺とアルフにおける使い魔云々の事情はややこしい上、あまり自分達の事情を話したくないので、
俺は少女達の会話に割り込む事にした。

「それで、どうするんだ?
俺達がこのジュエルシードを渡さないとしたら、実力で奪うのか?」

バルディッシュにジュエルシートを取り込ませつつ話す。

「そんな!
私達は別に…、
お話で…」

「フラット?
今回はワタシがヤルよ。
手出しは無用だからね!」

少女の言葉を断ち切るようにアルフが言う。

「そうか。
では、お手並み拝見だ。」

「O.K.!
行くよォッ!!」

大きく飛び上がり、そのまま少女達に向けて降下するアルフ。

だが、その鋭い爪先が少女に掛かる手前で緑色の魔法陣から展開される障壁がアルフを阻む。

魔法陣を展開したフェレットが叫んだ。

「なのは!
あの子をお願い!!」

「させるとでも、
思ってんのぉぉっ!!」

「させて、
見せるさァァッ!!!」

フェレットの気迫と共に、新しい魔法陣がアルフの周囲に展開される。

「移動魔法!?
…やばっ」

「ふっっ!!!」

フェレットの掛け声と共に、アルフはフェレット共々何処かに飛ばされてしまった。

「結界で囲んだ強制転移魔法を一瞬で、だと!?

なるほど、
ナリは小さくとも見事な使い魔だ。」

おそらく移動距離は短いのだろうが、瞬間的に詠唱も無く転移魔法を展開したというのは凄まじい。
コチラに来る時に使った転移魔法しか判断基準がないが、それでもだ。
この間、アルフに教わったあの術式の複雑さを思えば、あのフェレットの凄さも判ろうというものだ。

「ユーノ君は使い魔ってヤツじゃないよ!
私の、大切な友達っ!」

少女がそこは譲れないと睨みつけてくる。

「…そうか、それは失礼した。
で?
どうするんだ。」

「…話し合いで、
なんとか出来るって事、無い?」

「ふむ?
大前提として、俺達はジュエルシードを必要としている。
全て手に入れることが望ましい。
だが、同時に君達も必要としているようだ。

君は俺が『俺の命が掛かっているから、君の持っているジュエルシードを全部譲り渡して欲しい』
と言っても受け入れられるか?」

「え!?
それってどういう事?」

「言葉通りだ。
…俺は、とある事故でとても不安定な存在になってしまった。
元に戻るにはジュエルシードのような莫大な魔力を大量に必要とする。」

「でも、ジュエルシードはユーノ君が見つけた物で、
とても危険だからキチンと管理しないといけないって。」

「それでも、だ。
危険なのは承知の上。
それが人の所有物だとしても、俺達はその力を欲している。」

「…でも。」

少女はどうにも納得できないらしい。
まぁ、概略だけ話されても信用できなくて当たり前か。
堂々と犯罪行為にも手を染める。と公言したしな。

「やはり、話は平行線だな。
俺達の間には、信頼関係が皆無だ。
俺は自分の事を安易に語りたくない。
君は俺の曖昧な話では、信じられない。」

「じゃあ、私達が分かり合えるまで話し合えば…」

「所詮、言葉に、力など無い。
その者に受け入れられない事柄は、決して受け入れられない。

そして、俺達には時間が無い。」

「でも、それでも!」

「なによりも!
俺は言ったはずだっ。
『命を捨てる覚悟が無ければ、俺の前に立つな』と!!」

バルディッシュを構え、魔力で一気に大地を駆ける。

少女の背後を取ると同時にバルディッシュをデバイスモードのまま振り抜く。

だが、少女はギリギリで避け、

〔Fier fin.〕

続けざまの追撃を空に飛ぶ事で逃れた。

「それでもっ!!
そう言う事を、簡単に決め付けない為に、
話し合いって必要なんだと思う!!」

俺は両足に魔力を溜め、少女の後を追う。

「それはっ!
余裕がある者の理屈だっっ!!」

〔Scythe form.
Set up.
Arc savior.〕

「ぅらぁぁぁっ!!」

空中でバルディッシュを振り抜き、光刃を飛ばす。

アークセイバーを少女はギリギリで避け、言葉を放つ。

「でも!
だからって!!」

だが、甘い。

ブーメランの様に旋廻したアークセイバーが少女の背後から、襲いかかる。

〔Protection.〕

が、少女のデバイスが少女を守りきった。

「ちっ。
…賭けろ!
俺はさっき手に入れたジュエルシードを!
君は自分の所有するジュエルシードを!
それぞれ、一つだけなっ!!」

〔Device form.〕

バルディッシュが再変形すると、脳裏に強力な攻撃魔法の使い方が浮かんだ。

左手で印を切り、魔法陣を展開する。

足元の魔法陣が周囲の魔力を集め、左手の魔法陣がそれらを収束する。

〔Thunder smasher.〕

バルディッシュを左手で展開した魔法陣に差し込むと凄まじい閃光が少女目掛けて飛び出した。

〔Divine buster.〕

だが、少女も攻撃魔法で対抗する。

いつぞやの腑抜けた攻撃ではなかった。

デバイスを包む様に、リング状の魔法陣が幾つも浮かび、回転し、力を振るっていた。

拮抗する金色と桜色の閃光。

「レイジングハート、お願い!!」

〔All right.〕

少女が言うと同時に暴発しそうなくらいの魔力がデバイスに集まり、閃光の直径が2倍以上になった。

同時に俺のサンダースマッシャーが撃ち潰される。

「ちっ。」

前回の意趣返しか?
味な真似を。

桜色の巨弾が目の前に迫るが、この身体、フェイト嬢の真骨頂は高速戦闘にあるようだ。

おざなりな防御壁を展開して、一気に急上昇。

防御壁にぶち当たって炸裂したディバインバスターを隠れ蓑に少女の直上から襲い掛かる。

〔Photon lance.
Get set.〕

()ぇ!!」

少女へ向け、一直線に降下しながら、フォトンランサーの単発三連射。

「わっ、わわっ!?」

〔Protection.〕

展開された魔力障壁で、危なげにフォトンランサーを弾く少女。

だが!

〔Scythe slash.〕

隙だらけだ!

バルディッシュを大鎌に変形させつつ、一気に懐に踏み込んだ俺は、
デバイスで身をかばう余裕も与えられなかった少女の首元ぎりぎりで、光刃を止める。

…危ない危ない、危うく、そのまま切り落とす所だった。

と、

〔Pull out.〕

少女のデバイスの宝石部からジュエルシードが一つ浮かび上がった。

「レイジングハート!
何をっ!?」

「負けを認めたか。
…主思いの、良い相棒だな。」

バルディッシュを少女の首元に構えたまま、左手でジュエルシードを摘み取る。

「ところで、ジュエルシード…
まだ持ってるんじゃないのか?」

Well(さあ?)―.
But you say(しかし、貴女は言った)
Oue and only(一つだけだと).〕

俺は、そのデバイスの答えに、少女をバルディッシュから解放して大笑いした。

「はははっ、その通りだ。
いやいや、一本とられたぜ!
はっはっは、今回はコイツで満足しておくよ!」

ゆっくり降下しながら、バルディッシュに戦利品を収める。

俺の後を追うように、少女が降下する。

少女が地面に降り立つのを待って、俺は問いかけた。

「さて、第二ラウンド…行くか?」

「うっ。」

少女の表情を見て、俺は先の言葉を打ち消す事にした。

「冗談だ。
出来れば、手持ちのジュエルシード全部置いて去ってもらいたいんだがな。
まぁ、次の機会に取っておこう。」

どうにも俺はバトルマニアな性分も持っていたらしい。
やれやれ、相手は子供だってのに。

「アルフ、次に行こう。」

踵を返して森の奥に去る事にする。

ある程度歩くと、俺を引き止める声がした。

「待って!
名前…、貴女のお名前はっ!?」

少女の問い掛けに足を止め、しばし考える。

「フラット。
仮の名前だがな。」

顔だけ振り返って答える。
同時に足へ魔力を溜め、跳躍の準備に入る。

「私の名前は…」

少女が言い切る前に、飛ぶ。

「ばぁいばぁ〜い♪」

俺の後を追うようにアルフが捨て台詞を残しつつ飛んだ。

木々を踏み台に低空飛行に入ってしばらくした後、俺は側を飛ぶアルフに言った。

「アルフ、結構楽しんでないか?」

「そういうフラットだって楽しんでたじゃないか。
あの大笑い、こっちまで聞こえたよ。」

「ふふん、
まぁ、いいじゃないか。
楽しく仕事が出来るなら、ソレに越した事はないさ。」

「へぇ、へぇ。」

 

 いつも通り、いつもの時間に鳴る携帯の目覚ましを止めて、寝惚け眼で階段を下りる私。

洗面所で顔を洗いつつ、脳裏に浮かぶのは、

怖いくらいに鋭いけれど、炎のように煌く意思の強い目。
…でも、悲しんでいるような、焦っているような不思議な目をしたあの子の事。

会えばまた、ぶつかり合う事になっちゃうだろうけど…。

だけど…、出来るなら…、

私は…

フラットちゃんと…。





 

 「ん〜〜♪
ハフハフ、あ〜、
こっちの世界の食事も、なかなか悪くないやぁねぇ〜。」

極上の笑顔を見せて、ドックフードの缶詰を食べきるアルフ。

「そうか?
まぁ、色々種類があるみたいだから、飽きる心配もなさそうだな。」

俺はアルフの作った食事で満足してるから、ここの世界の食事を食べた事は無いのだが。

「そうなんだよ!
ここの連中は良い奴ばかりだよぉ〜♪」

今度はドライタイプのドックフードをスナック菓子のように食べるアルフ。

「…ん、ご馳走様だ。」

俺の方は腹一杯。

食器を片付けるついでに紅茶を一杯、用意する。

「おや、
もう出かけるのかい?」

「いや、ソレを食べ切ってからでいい。」

紅茶を傾けつつ、アルフに答える。

「でもさ、ここんとこ出ずっぱりじゃないか。
偶にはゆっくり休んでもバチは当たんないんじゃないかい?」

…初めから休むつもりだったら、日が落ちきる前に晩飯にするって選択肢は無いとおもうんだがな。

「いや、初めから休み無しで捜索するつもりだったから、問題無い。」

と、俺が答えると、
アルフが食べていたドックフードの箱をドンッ!と机に叩き付けて怒鳴った。

「アンタさぁ。
忘れてるかもしれないから言っとくけど、アンタの身体はフェイトの身体なんだよ!?
自分の体のつもりで酷使してたら承知しないんだからねっ!!」

「…忘れちゃいないさ。
忘れちゃいないから、休めないんだ。
それにな、最近、戦闘中に知らない事が急に判る瞬間があるんだ。」

「それって、まさか。」

「ああ、おそらく、俺とフェイト嬢との精神が融合しつつあるんだろう。」

「…なんて事だい。」

「しかも、入手できたジュエルシードはまだ4つ。
Mrs.が言うには21個全部が望ましいらしいからな。
全然、足りていない。」

「ああ、もう!
のんびりしてらんないじゃないか!!」

と、今度はドックフードを口の中に直接注ぎ込むように食べるアルフ。

「喉に詰まらせない様にな。」

と忠告するやいなや、むせるアルフ。

「ああ、もう。」

背中をトントン叩いてやると、ようやく、喉の奥のものが胃に降りていったらしい。

「…紅茶でよければ飲むか?」

差し出した紅茶を一気に飲むアルフ。

「プハ〜〜ッ!
はぁ、アンタ、意外と優しいんだねぇ、助かったよ。」

「意外と、が余計だ。」

「あっはっは、まぁ堅い事は言いっこ無しだよ♪」

アルフが、バンバンと照れ隠しの様に俺の背中を力強く叩く。

…コイツこそ、この身体がフェイト嬢のものだって判って無いんじゃないのか?

そんな風に怒ったらいいのか、笑ったらいいのか判らない、だが、どこか優しい時間が過ぎていった。

 

「ここら辺というのは確かだが…。」

「ああ、
こんだけゴチャゴチャしてると探すのも一苦労だぁねぇ。」

夜に紛れてビルの屋上に降り立った俺とアルフ。

眼前には無数のビル。

そして無数の灯り。

「ふむ、
この地域に魔力を流して、ジュエルシードを強制発動させよう。
それが一番早いだろ。
…バルディッシュ。」

「ああ、待った。
それ、ワタシがやるよ。」

「?
いいのかアルフ。
無駄に疲れるぞ?」

「ハン、
ワタシを誰の使い魔だとお思い?
ワタシはね、大魔導士フェイト・テスタロッサの使い魔なんだよ。
このぐらい、お茶の子さいさいさぁね。
…行くよっ!!」

俺がアルフの言葉に含み笑いすると同時に、アルフの周囲に魔法陣が展開され、膨大な魔力が周囲に放出される。

俺達のいるビルを中心に世界が圧迫感に包まれてゆく。

街中を歩いていた人達も、周囲を走っていた車も、この圧迫感を前に何処かへ去ってしまった。

空には雷雲。

海には荒波。

何故か、街の明かりも次々に消えていってしまった。

そして、立ち上る青い光。

「あれかっ!」

「でも、
連中も近くに来てるみたいだぁねぇ。」

ん?
視線を下にやると、世界の色が微妙に変わる。

「結界…、あのフェレットか。
ならば、先手必勝!
バルディッシュ!!」

〔Sealing form.
Set up.〕

とっとと封印して、アイツの持つジュエルシードもせしめる!

変形したバルディッシュを構え、魔力を溜める。

切っ先に浮かぶ光球に自分から放出された魔力だけでなく、周囲に漂う魔力も取り込まれてゆく。

良し、これで十分だ。

「評定射撃開始っ!」

狙いを確実に付ける為の細い光線が、ジュエルシード目掛けて放たれる。

と、遠くに落ちているジュエルシードにコチラから放たれた金色の光と別の箇所から放たれた桜色の光が収束した。

「ちっ、考える事は同じかっ!

ジュエルシード、シリアル]\!
封印っ!!」

同時に放たれた、金色と桜色、二つの封印の閃光が同時にジュエルシードに衝突する!

閃光が掻き消えた後、かすかに見えるジュエルシードは…
光を発する事を止め、ただ宙に浮いているようだった。

「…なんとか無事に安定させる事が出来たな。
余剰エネルギーで暴発とかしなくて、良かった。」

「危ないかもしれないって判ってたなら、どうして対抗するように撃ったんだい?」

「…勢い?」

「は?
…まったく、アンタって奴は…。」

「いや、まぁ。
あの状態ではもう、撃つしかなかったんだがな。

ともかく、俺はあのジュエルシードを回収する。
アルフはあのフェレットがいらん事をしないように牽制してくれ。」

「あいよ。
…でもさ、」

「ん?」

「倒してしまっても、構わないんだろ?」

「くっくっく、
ああ、構わんさ。
よろしく頼んだぜ、アルフ。」

アルフの気の利いた台詞に思わず笑ってしまいながら、俺達はそれぞれの目標に向かって飛び出した。

とはいっても、ジュエルシードは目と鼻の先。

軽く、ひとっ飛びするとジュエルシードと少女魔導士の姿が視界に入ってくる。
彼女の側にはフェレットの姿。
結局、俺達の向かう先は同じだったか。

ん?
手を伸ばせば届くのに、どうしてジュエルシードを回収しないんだ、アイツ。
俺が疑問に思っている内に、先行するアルフとフェレットが戦闘に入った。

俺が近くの街灯の上に降り立って、
少女にその事について疑問を発しようとしたその時、先に少女が口を開いた。

「この間は、自己紹介出来なかったけど、
私、なのは!
高町 なのは。
私立聖祥大付属小学校、3年生!」

「高町 なのは…ね。
小学生の身空で、こういう荒事に手を出すのは如何な物か…と俺は思うのだが?」

「なっ!?
小学生なのは、貴女も同じでしょう?
どう見ても、フラットちゃんは私と同じくらいの歳だよっ!!」

フ、フラット…ちゃん!?

なのは嬢の放った言葉に多大なダメージを受けた俺は、思わず足を滑らし、街灯から落下した。

「くっ!
こんな阿呆な事でっ!!
怪我してたまるかっっ!!!」

辛うじて地面ギリギリで浮遊する事に成功。
そのまま、地面に降り立つ。

「だっ、大丈夫!?
フラットちゃん!!」

心配そうに寄ってくる、なのは嬢。

だが、俺に一番ダメージを与えるのはその言葉だ、なのは嬢。

「待て。
俺を、ちゃん付けで呼ぶな。」

「ほぇっ!?」

左手で制止させながら、もう一度言う。

「だから、
俺を、ちゃん付けで、呼ぶな!」

「え?
だって、フラット…ちゃん、女の子だよ?」

つっ、時の庭園で目覚めて以来、一番のダメージだ。

くそっ、そんな普通っぽい感じで当たり前に言うなっ!
今まで、色々考えないようにして来たのがオシャカになるだろーがっ!!

なのは嬢の言葉に悶絶していると、なのは嬢は更なる暴言を吐いた。

「ひょっとして、フラットちゃん、男の子?」

ぐっ、その通りだが、その通りでは無い。
だが、だからといって男だと答えたら、フェイト嬢に要らない嫌疑が掛かりかねん。

「くっ…身体は女だ。」

「やっぱり♪
でも、そんな口調だから勘違いしちゃう人が居るかもしれないよ?」

「ええいっ!
如何でも構わんから、俺を、ちゃん付けで呼ぶんじゃない!!」

「え〜〜!!
それって、なんだか変だよ。
女の子なんだから恥ずかしがる事、全然無いんだよ?」

「くそったれっ!
恥ずかしがって何が悪いっ!!
ええぃっ!
バルディッシュ!!」

唐突に理解した、俺となのは嬢は理解し合えない。
少なくともなのは嬢の固定観念をぶち壊すか、此方から妥協しない限り。

そして、俺にそんな悠長な事をしている暇は無いし、歩み寄る気も無い。
ジュエルシードを手に入れる事は絶対条件だからだ。

〔Scythe form.
Set up.〕

だから、力づくで押し潰す!

「いっけぇ〜〜!!
アークセイバーッ、五連撃っ!!」

〔Arc savior.
Quintet.〕

バルディッシュを振り回すたび、光刃が切り離され、なのは嬢目掛けて殺到する。

計5つのアークセイバーだ!
いくら性能の良いなのは嬢のデバイスでも、捌き切るのは骨なはず。

その隙に接近して、手足の二、三本くらい戴いておく。

始めっから妙な情けをかけていたのが間違いだったんだ。

いや、本当に情けをかけていたのかは俺自身疑問だが、
取り合えず、
なのは嬢が死ななければ問題あるまいっ。

問答無用で手足をブチ切られれば、流石になのは嬢も怯えるだろう。

彼女の心さえ折れば、
もう、なんの憂いも無いのだ。

「殺す気で行く!
悪く思って構わんから、君はココで倒れろっ!!」

迫り来るアークセイバーに障壁を展開し、防戦一方のなのは嬢が驚きの声を上げた。

「えっ!?
私、そんなにフラットちゃんの嫌な事、言っちゃったの!?
でも、それだけで殺すとか言っちゃ駄目だよっ!!」

「それも有るっ!

だが、それだけでも、無いっ!!」

真正面から肉薄し、バルディッシュを振りかぶった。

取り合えず、デバイス持ったその左手から切り落とす!

〔Fier fin.〕

が、なのは嬢は的確なタイミングで、自身を安全圏へ飛ばした。

「ちっ、
何度も同じ手で逃げられると思うなよっ!」

地面を蹴る様に飛び上がり、下から上へ、バルディッシュを突き出す。

バルディッシュの光刃は峰も刃も無い。
当たれば切れる。

ならば、鎌にあるまじき突き技も、十分使えると言う訳だ。
そして、基本的に突きというものは軌道を捉えにくいが故に、避けづらい。

狙いは左足。
身体の末端は守りにくい。
そして、命に関わる大ダメージが狙えるのだ。

〔Flash move.〕

が、光刃が当たろうかと言う瞬間、なのは嬢が消える様に飛び去った。

!?

どこだ…………!
くっ、背後っ!?

〔Divine shooter.〕

後ろを振り向くと、俺に向かって構えられたデバイスが見える。

「クソっ!」

間に合えっ!!

咄嗟に半身になって、右手でバルディッシュを引くと共に、左手でバルディッシュを回転させる。

半回転したバルディッシュの刃先がなのは嬢の手元を掠め、狙いをずらす!

ゴッ…ヒュッ!!

俺の身体スレスレを飛び去る桜色の光弾。

バルディッシュを持った手をクルリと捻って、
なのは嬢のデバイスにバルディッシュの鎌を引っ掛ける。

そして、そのまま引っ張って、なのは嬢の体勢を崩す。

「え!?」

体勢を崩され、驚くなのは嬢目掛けてバルデッシュを突き刺した!

鎌の中心部である斧の部分が綺麗になのは嬢の腹にぶち当たる。

「がふっ!?」

女の子にあるまじき呻き声を上げたなのは嬢は放物線を描き、ビルの壁面に追突する。

〔Photon lance.〕

左手で魔法陣を展開し、そこからフォトンランサーの単発弾を落下するなのは嬢目掛けて連射。

なのは嬢を基点に、弧を描く様に旋廻しながらフォトンランサーを浴びせてゆく。

なのは嬢から狙いがずれた弾がビルの壁面を砕き、粉塵がなのは嬢を覆い隠す。

直接打ち込まれた打撃で身動き出来ない内に、コレだけの射撃を食らえばそれなりのダメージは与えられたはずだ。

魔力障壁を展開する余裕も無かっただろう。

だが、警戒はして、しすぎる事もあるまい。

俺は一端、身を引き、ビル群の物陰に隠つつ罠を張る事にした。

素早く左手で印を切り、目の前に魔法陣を待機させる。

魔法陣の照準は、なのは嬢の居る地点。

その魔法陣は発動させずに待機状態のまま別の地点へ、気付かれないように魔力を抑えつつ移動する。

そして、再び魔法陣を展開。

移動。

展開。

移動。





なのは嬢を取り囲むように幾つもの魔法陣を展開して行く。

とはいえ、なのは嬢はビルを背にしているので設置地点は彼女を中心に半球状に広がっているだけだ。

10個目の魔法陣を設置する頃には、ビル風が粉塵を何処かに連れ去った。

そして、粉塵が晴れた先に姿を現したなのは嬢には、



傷一つ無かった。

なにっ!?
魔力障壁の展開は確認して無いぞ?

と、思わず声に出して言いそうになるのを堪える。

…そうか、バリアジャケットか。

よくよく見れば、なのは嬢のバリアジャケットは所々で光が瞬いていた。

破損を修復しているのかもしれない。
あるいは、防御の名残か。

なのは嬢は周囲を見渡し、俺を探している。

どうやら粉塵に紛れて俺が突っ込んでこなかった事が不思議らしい。
なのは嬢は首を傾げて不思議そうな仕草をしていた。

まぁ、今まで機会あらば突っ込んでいってたからな。

バルディッシュの特性が近接戦闘重視な事もあるが…たぶん、俺自身の性格なのかもしれない。

ま、自己分析は後回し。
今は戦闘あるのみ…だ。

周囲を警戒するなのは嬢は少しも移動していない。

ラッキーだ。
有り難く、罠にはめてやるぜ。

一つの魔法陣を遠隔操作し、フォトンランサーを射出させる。

「えっ!?
……、そこっ!!」

〔Divine shooter.〕

至近距離で着弾したフォトンランサーに驚きつつも、攻撃が来た方向に反撃の矢を射るなのは嬢。

…いつの間にか、戦いのスキルが上がっていた事に内心焦る。
まさか、たった一発の攻撃にあそこまで反応出来るとは。

いつでも倒せる。と、慢心していたかも知れない。
狙いも正確ななのは嬢に俺は危機感を覚えた。

ならば、せめて、容赦無く屠る事にしよう。

別の地点の魔法陣を起動。
今度はフォトンランサーを連射させる。

「えっ!!
何時の間にっ?」

〔Protection.〕

なのは嬢が飛んでくるフォトンランサーを障壁で防御し、反撃に移ろうとしたその瞬間、
さらに別の地点の魔法陣を起動させる。

「うそっ!
どうやって移動してるのっ!?
全然、捉えられない!!」

次々に場所を変えつつ飛んでくるフォトンランサーに防戦一方のなのは嬢。

「いけない、このままじゃ!」

なのは嬢の両足の羽が大きく展開される。

おっと、ソコから動かれたら折角設置した魔法陣が無意味になってしまう。
もう少し、そこで足止めされていろ。

設置した全ての魔法陣に起動指示を送る。

計10個の魔法陣が一斉に魔力弾をなのは嬢目掛けて撃ちまくった。

ぐっ、
一気に自分の体から力が抜けていく感覚がする。

遠隔操作で大量の魔力弾を放つのは、少々無理があったか?

「何これっ!?
どうやったらこんな事がっ!?
分身の術なの!?」

猛烈な弾雨に辛うじて障壁を展開しつつ、驚愕するなのは嬢。
…ある意味、正解だ。

彼女が自分の術策に翻弄されている事に満足感を覚える。

が、
なのは嬢が混乱している今こそが絶好の好機であり、
同時に、これ以上、魔法陣群を展開していられない。

俺は潜んでいたビルの屋上から飛び降りた。

真下には、なのは嬢。

そう、俺はなのは嬢が打ち付けられたビルの上に陣取って魔法陣を操作していたのだ。

魔力を使わず自由落下しつつ、バルディッシュを振りかぶる。
同時に、魔法陣へ送っていた魔力も打ち切る。

〔Master.〕

攻撃が止んでホッとした瞬間、告げられたデバイスの警告に空を見上げたなのは嬢が俺に気付いた。

「何時の間にっ!?」

驚きつつも振り上げられたデバイスがバルディッシュの進路を阻む。

そのまま、鍔迫り合いに陥る俺達。

「…ちっ。
ここまでお膳立てして、不発に終わるとはな。
いらだたしいまでに有能なデバイスだぜ。」

ついでに言うなら、魔法陣群を停止させるのが早すぎた…って事か。
くそったれ。

「…、
聞いてフラットちゃん!
『言葉に力は無い』『受け入れられない事は受け入れられない』って言ってたけどっ。
だけど、
言葉にしか出来ない事が、話さないと受け入れられない事も、きっとあるよ!!
ぶつかり合ったり競い合ったりするのは、それも仕方の無い事なのかもしれないけど、
だけど、何も判らないまま、ぶつかり合うのは、
私!
嫌だ!!

そのジュエルシードを集めるのは、それがユーノ君の探し物だから。
ジュエルシードを見つけたのはユーノ君で、
ユーノ君はソレを元通りに集め直さないといけないから。
私は、そのお手伝いで!
だけど、そのお手伝いをするのは偶然だったけど、今は自分の意思でジュエルシードを集めてる!
自分の暮らしている街や、自分の周りの人達に危険が降りかかったら嫌だからっ!!

これが!
私の理由っ!!」

デバイス同士が組み合った状態で両足の羽を駆動させるなのは嬢。

両者のバランスが崩れ、今度は俺が打ち落とされる。

「ぐぬぉっ!!」

道路に立つ街灯に背中からぶつかる。
バリアジャケットが衝撃を緩和するとはいえ、痛いものは痛かった。

叩き付けられた街灯から飛び降りる。
が、地面に足をつけた瞬間、クラリと眩暈がした。

強引に足を踏ん張り、体勢を立て直す。
…、魔力を使いすぎたか?

それでも、後少しは戦えそうだ。

気合を込めて、空に滞空するなのは嬢を睨みつける。

「俺の理由は言ったはずだっ!!」

言うと同時に、空のなのは嬢へと突進する。

「言って無いよ!
命が掛かってるとか、身体が不安定とか言ってたけど、
それだけじゃ、判んないよっ!!」

全力でバルディッシュで斬りかかるが、なのは嬢はデバイスで的確に受け、弾く。

なのは嬢も反撃としてデバイスを振りかぶり、俺に叩き付けてくる。

空中を縦横に飛び回りながら、熾烈な斬撃戦が始まった。

「うおおおぉっっ!!」

振り下ろされるデバイスを弾き、石突でなのは嬢を突く。

「やぁあああっっ!!」

なのは嬢は空中でステップして石突を避け、その勢いでデバイスを振り回し、俺に叩き付ける。

弾き、

叩き、

避け、

斬り、

逸らし、

突く。

数え切れないほどの、しかし数分にも満たないだろう打ち合いを経て、
再びデバイスで鍔迫り合った状態にて、状況は膠着する。

「ふぅ、ふぅ。」

「はぁ、はぁっ。」

気が付けば、二人とも道路に足を付けていた。

「…ねぇ、
どうしてフラットちゃんはジュエルシードが必要なの?」

なのは嬢の俺の呼び方に俺の眉が釣り上がるが、なんとか平静に答える。

「だから、ちゃん付けするんじゃねぇ!」

…平静ぢゃなかった。

「駄目だよ!女の子がそんな乱暴な言葉遣いじゃっ!」

「このっクソ…、
…ゴホン。
それは、まぁ置いといて、だ。

ジュエルシードが必要な理由を話した所で、お前さんがジュエルシードを譲ってくれるとは思えない。
だが、
今ココで、手持ちのジュエルシードを全部渡してくれたら、話しても良い。」

「そんな条件じゃ頷けないよ!
渡しても良いかどうか、判断出来なきゃ渡せないじゃない!!
それに、話もしないで『譲ってくれない』って断定するのは駄目だよ!」

「それは君の都合だ、俺には関係無い。
だが、
そう言うのならば、俺に倒されろ。
心置きなく奪ってやる。」

「そんな事言われたら、なお更、負けられないよっ!」

「ふん、俺に渡したとて、
少なくとも君の身の回りの人達に危害が及ぶことは無いだろうよ。
俺の拠点は高次空間の狭間だ。」

「え?
それって何?どーいう事?」

「ジュエルシードを使うのは、この世界では無いって事だ。
厄災の種をココから別の所へ持って行くんだから、感謝されたっていいくらいなんだがな?」

「…でもそれだと、他の世界が危険になるんじゃないの?」

「ふむ、

そうかもしれん。
そうでないかもしれん。」

「どっちなの?」

「判らん。
実際の施術がどういうものなのか、俺は聞いていない。
ただ、ジュエルシードという代物は、
一つだけでも時空間に穴を開けるほどの魔力を溜め込んでいるらしい。」

「…それって、凄いの?」

「…おそらく。」

「………。」

「………。」

デバイス越しに顔を見合わせる俺達。

なのは嬢の視線はどことなく俺に呆れてる雰囲気だが、
曖昧な情報で戦っているのはなのは嬢も同じだ。

そして、俺にはMrs.テスタロッサに賭けるしかなかったのだから。



「ええいっ、
話を元に戻すぞ!」

「うん。
フラットちゃんの言葉遣いについてだよねっ!」

「そっちじゃねぇっ!!」

意図的なのか、天然なのか。
なのは嬢の発言に俺の、思ったより短い堪忍袋の尾は再びプッツン切れたのだった。

「そもそも、俺達は今、
ジュエルシードを賭けて、争ってんだぞっ!!」

鍔迫り合ってる状況で、大した行動は出来ないと気を緩めた目の前の小娘に喝を入れてやる。

なのは嬢のデバイスの柄の上を滑らせるようにバルディッシュを手元へ引き込む。
ガチンという音がして、
鎌の根元がなのは嬢の杖で引っかかり、止まる。

「バルディッシュ!」

〔Device fome.〕

そのまま、鎌の形態から、通常の斧の形態に変形する。

結果、
なのは嬢のデバイスは、バルディッシュにガッチリ噛み込まれた。

「なっ!?」

「ハッ!
膠着したら戦いが終わりだと思った、お前の負けだ!」

そのままバルディッシュを引っ張り、それにつられてバランスを崩したなのは嬢へ、

頭突きをお見舞いした。

「きゃあっ!!」

ゴッチンと痛い音を響かせて吹っ飛ぶ、なのは嬢。

だが、自分のデバイスは手放さない。

そのお蔭で今度は自分が僅かながらバランスを崩す。

「痛ったぁ〜っ、
やったね!
そっちがそうくるなら、私にも考えがあるんだからっ!!」

勢い良く仰け反り、そのまま、頭突きを敢行するなのは嬢。

しまった!
今度は俺が身動きとれん!

くっ、ならば、せめてっ!!

なのは嬢に合わせる様に、俺も頭突きを敢行する。

ガッ…コ〜ンッ!!

弾かれる様に、お互いの頭が離れる。

「くっ、この石頭っ!!」

「つっ、フラットちゃんだって硬すぎだよっ!!」

「だから、ちゃん付けは止せぇぇっ!!!」

三度、頭突き。

アホの極みの様だが、仕方ない。

双方、全力でデバイスを奪い取ろうと四肢に力を入れている以上、
残った攻撃に転用できる部位は頭部ぐらいなものだ。

そして、相手の攻撃をただ受けるより、自分からも攻撃した方が、ダメージが小さくて済む。
…はず。

むしろ、コレはお互いの意地を賭けたチキンレースなのだ。

どちらが先に屈するか。

お互いの誇りが安易な負け方を許さないのだっ。

「うぉりゃぁあっ!」

「でぇぇええぃっ!」

四度目の頭突き。

既に脳震盪で視界はグニャグニャ。

頭が麻痺って、身体が束縛から解放されたような開放感がある。

って、あれ?
バルディッシュが噛み込んだ筈のなのは嬢のデバイスが何処かに消えた!?

歪む視界の中で必死に探すと、離れた地点でフラフラとよろめくなのは嬢。
その手にはデバイスの姿が。

ちっ、頭突きの衝撃で外れてしまったか?

ええい、もういい。
これで最後だ!俺の全力、持っていけっ!!

なけなしの魔力を注ぎ込み、金色の光を放つバルディッシュを振り上げるのと、なのは嬢のデバイスを振り上げるのは同時だった。
どうやら、なのは嬢も俺と同じ考えらしく、彼女のデバイスは桜色の光に包まれている。

お互いの視線が交差した瞬間、俺達は同時にデバイスを振り下ろした。

この時、目の端にちらつく青い光の正体を正しく認識していたら、
もっとジュエルシードを回収出来て、フェイトがあんな目にあう事も…。



俺達はふらつく意識の中、懸命にお互いのデバイスを叩き付ける。

二人のデバイスが重なり合った瞬間。

衝突による相乗効果で、俺たちの搾り出した魔力の何倍もの巨大な魔力波が発生した。

魔力波は突風が如く俺達の髪と服をはためかせ、俺達の側に漂っていた青い宝石にも衝突する。

その時、

世界から、

音が…消えた。

そして、視界が蒼一色に染まり…、

先ほど起きた魔力波の何十倍もの魔力がはじけ飛び、凄まじい圧力で俺達を一瞬で吹き飛ばした。

蒼い光の柱が、雲を貫き、天に伸びる。

「くうっ!?」

「なぁっ!?」

その時、犯したもう一つの誤算は、咄嗟にバルディッシュを盾にした事。

バルディッシュのお蔭で大した怪我も無く弾き飛ばされるだけで済んだ。
だが、その代償にバルディッシュは、その身を半壊させてしまった。

竜巻に巻き上げられた看板の様にクルクルと翻弄されるも、なんとか空中でバランスを取って着地する。

両足だけでなく左手も地面についてふらつきを押さえ、前を見据えると…

先ほどよりは落ち着いたものの、先に施した封印は外れ、再び魔力を周囲に垂れ流そうとするジュエルシード。
そして、その更に先に、ジュエルシードを驚きの表情で見つめるなのは嬢。

「ちっ、俺達の戦いの余波で再起動してしまったのか?
バルディッシュ。
…やれるか?」

〔……….
No sir.〕

ひび割れた声で、どこか悔しそうに告げるバルディッシュ。

「そりゃそうか、まぁ仕方ないだろ。
取り合えず待機状態になっとけ。」

俺の言葉に応じる様に、傷ついた斧槍は光を放って、元の小さな宝石に戻る。

その宝石が右手の甲につけられた台座に落ち着くと俺は一度、深呼吸した。

絞りカス程度だが、まだ、魔力は残っている。

深呼吸を繰り返すたび、魔力が回復していくのが実感できる。

が、それは微々たる物だ。
あまり期待すべきではないな。

…いけるか?

自己へ冷静に問いかける。
だが、それは答えを待つまでも無い明らかな問い。

つまり、

出来るかどうかじゃない!

やるだけだ!

俺は道路を踏み締め、駆け出した。

あのジュエルシードは一度封印してある。
上手く行けば、僅かな魔力でデバイス無しという現状でも再封印出来るかもしれない。

…いや、待てよ?

今や、俺自身の魔力量はカスみたいなモンだが、この周囲には俺達の戦いの結果、撒き散らされた魔力に満ちている。
ジュエルシードが封印を破って活動を再開するほどの魔力が。

ジュエルシードが周囲の魔力を吸引する様に、俺も周辺の魔力を収集して利用すれば、
『擬似的に』だが、魔力量は底無しになる。

…まるで初めから想定されていた様に、周囲に漂う魔力『魔素』の収集魔法陣を展開する方法が脳裏に浮かんだ。

元々は広域攻撃魔法の補佐術式らしいが、使えるのなら問題ない。

後、二呼吸ほどで展開に必要な魔力が貯まりそうだ。

…ジュエルシードが目の前に近づいた。

後、一呼吸。

…手を伸ばせば届きそうだ。

今だ!
魔法陣、展開!!

同時に、俺の右手がジュエルシードを掴んだ!

足元に展開した魔法陣が周囲に漂う魔素を吸引し、圧縮する。

そして、直接俺に魔素を叩き込んでくる。

「ぐっ!?」

急に胸の真ん中が痛くなった。

心臓ではない。

胃でもない。

この痛みは、内臓から発せられるものじゃない?

じゃあ、一体何なんだ!?

唐突で激烈な痛みに意識が奪われそうになった瞬間、
ジュエルシードが俺の拘束を振り払って自由になろうと暴れだした。

「くそっ!
テメェは大人しくしとけっ!!」

ジュエルシードを握った右手に力を込める。
更に右手ごと暴れださないよう、右手首を左手で握り締める。

そして、魔法陣から俺に供給される魔素で、封印術式を開始する。

「ぐっ!?
ぐぬぅぅぅっ!!」

胸の中心から右腕へ、正体不明の痛みが広がってゆく。

だが、魔力行使は滞りなく行なえているので我慢する。

「なっ!?
何をしているんだ!あの子はっ!!
加工もしていない、そのままの魔素を取り込んで魔力行使だって!?
無茶だっ!
身体が壊れるぞっ!!」

痛みで距離感が掴めないが、遠くからフェレットが叫ぶ声が聞こえてきた。

…、そうか。
この痛みは、魔素を人体に取り込めるように加工していない為に起こる拒否反応みたいなものか。

道理で死ぬほど痛い訳だ。

だが、封印途中で投げ出せば、再びジュエルシードが先ほどの爆発反応を起こすかもしれない。

だから、やり遂げるしかない。

右手のジュエルシードが強引にかけられる封印に抵抗して暴れる。

その影響で右手の手袋が裂け、弾ける。

只でさえ痛いのに、更に浴びせられる痛みと疲労で足元がふらつく。

そのまま膝をつきそうになるが、すんでの所で堪える。

男が膝をつく時は、敗北した時だけだ。

「くっ!
石ころの分際でぇっ!!
テメェはっ!
俺にっ!!
従えぇぇぇっ!!!」

俺の怒声につられる様に、流れる魔力と痛みが増大し、
右手の周囲に小さいながらも回転する魔法陣が展開する。

シャキン!



封印が完了した。

同時に展開していた魔法陣も役目を終え、消える。
強引な魔素利用に因る過負荷は消えたが、痛みは残る。

「くぅっ、

ジュエルシード、シリアル]\。
封印…、
……だっ。」

身を切り裂くような痛みを堪え、封印を宣言すると、全身から力が抜けた。

今回は、無理をしすぎたからまぁ、当然か。

と、思ったら意識まで閉じそうだ。

踏ん張る事も出来ずに、崩れ落ちそうになる。

…おっと、足元はアスファルトだ。

……、迂闊に倒れたら傷になるじゃないか…フェイト嬢の身体なのに。

段々傾いてゆく視界の中、今更な思考をしていると、
不意に誰かに抱き留められた。

「バカッ!
このバカっ!!
ワタシ言ったよね?
アンタの身体はフェイトの身体だって!!
無茶、するんじゃないよ…。」

倒れそうだった俺を抱き留めたアルフが、泣きそうな顔で俺に言う。
彼女の言葉が、フェイト嬢の事だけでなく俺の事も心配してくれているように感じたのは、俺の気のせいだろうか。

…すまん…。

謝罪の言葉は口に出す事も出来ず、俺の意識は急速に消し飛んでしまった。


 

 「…レイジンクハート、壊れちゃったね。」

握り締めたら砕けそうなほど、大きなヒビが入ったレイジングハートを、
そっと、いつもの定位置のハンカチの上へ。

チカチカと光を瞬かせているのが痛々しいです。

「大丈夫だよ、なのは。
今、全力で修復作業中だから。
直ぐに元通りになるさ。」

と、ユーノ君。

「うん、
…でも、ゴメンね、レイジングハート。」

ユーノ君に頷きつつ、レイジングハートに謝る私。

でも治療に集中してるレイジングハートは無反応。

ここは、私の家の私の部屋。

さっきまで街中で戦って、帰ってきたら晩御飯の時間に帰ってこなかったので、
お父さんとお母さんとお兄ちゃんにコッテリ絞られて。

でもお腹はすいてるので、軽食をお盆に載せて、部屋に帰ってきたところ。

「それよりも、なのは、大丈夫?」

「うん、
レイジングハートが守ってくれたから。
ちょっと、額は痛いけどね♪

でも、あの子の方が無茶してたね。」

「ああ、フラットって奴の事だね。
無茶苦茶だよ。
足りない魔力を魔素で補って、強引に封印を敢行するなんて。
下手をすれば、二度と魔法が使えなくなるのに…。」

「…そうなんだ。」

「なのはが気に病む事なんて無いよ!
アイツは…敵、なんだから。」

「それでも…ね。
それにしても、最後にあの狼さんが言ってた言葉が気になるな…。」

「『アンタの身体はフェイトの身体』って奴?
う〜〜ん、情報が少なすぎて僕には判んないな。」

「うん、
命が掛かってるとか、身体が不安定とか言ってたけど…。
その事と関係あるのかな?
それとも、何かの理由でフェイトって子とフラットちゃんの身体を入れ替えてるのかな?」

「…そんな事が出来るとは思えないけど…。」

「ま、いっか。
ビスケット食べよ♪」

私は手に取ったビスケットを二つに割って、片方をユーノ君に差し出すのでした。

 

プシュッ!

ぺたぺた。

フラット…が乗り移ってるフェイトの身体を、ワタシ達が寝泊りしてる部屋に連れ帰って、
ワタシは直ぐに、フェイトの右手の治療に取り掛かった。

ソファーに横たわったフラットは起きる気配が一切無い。

そして、その右手は酷い火傷を負っていた。

「くっ、フラットの奴!
あんだけ口酸っぱく、フェイトの身体を傷つけるなって言ったのに!
あの、バカ!!」

むしゃくしゃして、痛くなるように包帯を巻こうと思ったけどフェイトの身体だから我慢する。

「まったく、
どこまで無茶すりゃ気が済むんだか。
そりゃ、ワタシだってフェイトに元通りになって欲しいけどさ。
そのために死んじゃったら、元も子も無いじゃないか。」

包帯を巻き終えて火傷の治療を終えると、
ワタシはフェイトの額を撫でて、呟いた。

「そもそも、なんであの鬼婆は自分でジュエルシードを探しに来ないんだろう。
アイツ、フェイトよりも強いのに。
フラットは兎も角、フェイトはまだ子供なんだよ?
フラットの奴も、大人だって言ってた割にガキだし…。
なんで、こんな事になっちゃったのかなぁ…。
ねぇ…、フェイト……。」

と、ワタシの呟きに答えるようにフェイト…もとい、フラットのまぶたが動いた。

「…う…。
……ん?」

目を覚ましたフラットがゆっくりとソファーから起き上がり、周囲を見渡している。

「…ここは…?」

「ワタシ達の家だよ。
普段は皮肉ばっかりで冷静な癖に、アイツと戦ってる時は随分、頭に血が上ってたみたいじゃないか。
そんな有様で大丈夫なのかねぇ、フラット?」

ワタシの精一杯の皮肉に、パチクリと目を瞬かせて驚いた表情を浮かべるフラット。

あれ?
なんかフラットと表情、違わなくない?
むしろ、フェイトみたいな…。

「…ん、
久し振りだね、アルフ。」

やった!
フェイトだ!!

思わず、フェイトを抱きしめ喜ぶワタシ。

「フェイト。
フェイト〜!
ワタシゃ、もう会えないかもって心配だったよ〜〜。
あの変な奴に、フェイトを乗っ取られて以来、気が気じゃなかったんだからね!」

「うん。
有難う、アルフ。
でも、フラットも悪い人じゃないよ?」

「なんであんな奴に気を使うのさ?
フラットはフェイトの身体を傷つけたんだ!」

「…うん。
でも、あの時は仕方なかった。
あのジュエルシードを手に入れるには…あれくらいしなきゃ、無理だったよ。」

「それでもさっ!!
…、
え?
フェイト、さっきの戦いの事知ってるのかい?」

「うん。
フラットと入れ替わって以来、
私は、フラットと五感を共有してたから。
だから、フラットの見た物、聞いた事。全部知ってる。
…、ゴメンね。
いつも、食事、完食出来なくて。
アルフにそこまで心配させてるとは思わなかったよ。」

…げ。
フラットに愚痴った時の話が出てくるなんて!?
本当に知ってるんだ。

「ご、ゴメンよフェイト!!
悪気があって言った訳じゃないんだよ!?」

必死にペコペコ謝るワタシ。

クス。

変な音が聞こえて顔を上げてみると、其処には楽しそうに顔を綻ばせるフェイトの姿。

「クスクスクス。
そこまで、必死にならなくても良いよ、アルフ。
大丈夫、そんなに気にしていないから。
…、
でもね。フラットの事は嫌わないで欲しいな。」

「え?
あんな奴の事なんか、もう、どうでもいいよ。
フェイトが元通りになってくれたんだ!
ねぇ、フェイト。
もう止めよう?
ジュエルシード、集めなくてもいいじゃないか。
フェイトが元通りになったんだから。」

でも、フェイトはワタシの言葉に悲しそうに首を振った。

「元通りじゃないよ。
フラットは、まだ、私の中に居る。
今は眠ってるみたいだけど、彼が起きたら、元に戻るかもしれない。
…ジュエルシードは集めるよ。
フラットの為に。
母さんが、彼と私の為に準備してくれているんだし。」

フェイトは「母さん」という台詞のところで幸せそうに、右手を抱きしめた。

「…あの人が、そんなタマかねぇ。
なにか裏がありそうなもんだけど。」

「そんな言い方しないで。
母さんが私の為に動いてくれているんだ。
この事だけでも、フラットに感謝しても良いかもしれない。
…、
ともかく、明日で母さんの言ってた期限だね。
明日、時の庭園に帰るよ?」

「まぁ、一週間で五つ集めりゃ上等だよ。
あの人も、きっとフェイトを褒めてくれるさ。」

「集めたのはフラットだけどね。」

「ワタシはフェイトの使い魔だよ?
フェイトを優先して何が悪いのさ?」

「ありがとう、アルフ。
でも、フラットが頑張ったんだから、フラットが褒められるべきだよ。」

「もう、フェイトも頭が固いねぇ。
フラットと足して二で割ったら丁度良くなるんじゃないかい?」

冗談まじりに口を開くと、驚いたようなフェイトの顔。

その顔は次第に微笑みに変わって、
ワタシ達は気が済むまで笑いあった。

その後、話のネタとしてフラットのアレコレが余す事無く飛び交ったけど、勘弁する事だね、フラット。

ま、フェイトの笑顔が久し振りに見れたんだ。

少しはフラットの奴にも感謝してあげてもいいのかもしれないな。











第三話 完











あとがき


 ここまで読んでくれて有難うございます♪

いやぁ、本当にサクサク書けて気持ち良いですね。この話は。

後は読んでくれた方に満足していただけたら最高ですが。

ともかく、

どうにもフラット君、柄がどんどん悪くなる一方です。

うむむ、自分に冷静冷徹キャラは描けないという事ですかな。

今回は二話分の話を纏めてみました。

戦闘重視で行きたかったですし、フェイト陣営中心の話ですから温泉宿の話とかバッサリ切れましたしね。

さ〜て、次の話はプレシア大活躍?

かも、しれません。











感想代理人プロフィール

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代理人の感想
こいつ、ひょっとして中身はサイヤ人か何かか?
やたらめったら戦闘に適応するのが早いことといい、間違いなくバトルメィニアな所といい。

・・・まー、もっともその意味でいえば充分なのはも戦闘民族の血を引いてるわけですが(爆)。

と言う訳で、現時点では皮ジャン着たチンピラちっくなイメージで固定されてしまったフラット君であります。


>胸はちゃんとあったみたいだし
・・・あるのか? 小学三年生(推定)で?

>若いカップル
ああ、確かにあの歳で公然といちゃつける程度には若いですね。
外見もやたら若作り・・・士郎のほうはそれなりに年食ってるはずなんだけど(爆)。