魔法少女リリカル☆なのは 二次創作

魔法少女!Σ(゚Д゚) アブサード◇フラット A’s

第6話 「混沌を制するモノ」 中編

 

 

 

 ◇ はやて ◇

 

 いきなり世界が凍り付いて、罅割れ、私達は虚空に放り出された。

私が座っていた車椅子も何処かへ消し飛び、一筋の光も見えない闇の中をただ落下してる。
一緒にいた皆も何処かに消えてしもうた。

ああ、このまま底に叩き付けられたら、熟れ過ぎたトマトみたいに簡単に潰れるんやろうなぁ。
それとも逆にずーっとこのまま落ち続けるんかもしれへん。

ん〜〜、痛いのは嫌やけど、ずっとこのままも辛いなぁ。
今はいいけど、トイレ行きたくなったらどうしよう……。

と、つらつら考え事をしていたら、
フェイトちゃんの叫び声が聞こえて、明るい光が周囲を照らした。

次の瞬間、私の真下に金色の魔法陣が現れ、

私はソコに頭から落ちた。

「……いっっったぁぁっ!?」

ほっ、星が見えたスタァーー!

はうわっ、
激突の瞬間、星が見えるって言うけれどホンマやった。

こんなん知りたくも無かったで。

「くぉぉぉぉうっ、
きっつぃわ〜〜。
脳みそが飛び出してまう〜〜っ」

動かない下半身はそのまま、動く上半身で痛みを必死にアピール。

「あっちゃぁ〜〜、
……大丈夫〜〜?」

私の側に寄って来て心配そうに声をかけてくれたのはアリシアちゃん。

「なんとか大丈夫やで」と、声の方向へ顔を向けた私は、その体勢で固まってしまった。

なぜなら、

アリシアちゃんの体が、

半透明に透けていたからやっ!!

「うわぁっ!?
アリシアちゃん!
その体どないしたん!?」

「あはは、
『夢』が覚めちゃったからねぇ〜〜」

「へ?
『夢』って何??」

「簡単に言えば、お兄〜ちゃんの言う『箱庭』だったから私は表に出られたってトコかな〜〜」

表……?
何を言うとるんやこの娘は?

と、私が困惑していると、

「アリシア、まさか、貴女は……。
本当のアリシアなの?」

右手に槍のような斧を携え、マントを翻したフェイトちゃんが現れた。
むぅ、勇ましくも可愛い絶妙なデザインの騎士甲冑……センスええなぁ。

でも、何を言ってるか意味不明。

「ん、
フェイトが持つ私の記憶、フラットが持つフェイトの体……。
この二つがあったから、私は私として表に出る事が出来た」

「……そう……」

どこか申し訳無さそうに言うアリシアちゃん、
そして、この先の展開を判っているのか落ち込んだ表情のフェイトちゃん。

「……なんでお前等は、この不可思議現象よりも先に得体の知れない事で落ち込んでるんだ?」

周囲を見渡しながらアリシアちゃんとフェイトちゃんのお兄さんが歩いて此方へやって来る。

お兄さんの言葉に釣られて周囲を見渡してみると、

私達は真っ暗な闇の中、金色の巨大な魔法陣の上に居た。

魔法陣の下も真っ暗な闇。

魔法陣の光があるからお互いの姿は確認出来るけど、見えない闇の先が見通せるほど明るくない。

「ちっ、
『夢』から覚めたらベッドで目覚めるのがセオリーだろうが。
なんで何も無い空間に放り出されるんだ」

不機嫌な様子を隠そうともしないお兄さん。

めっちゃ、恐い。

「兄さん、落ち着いて。
はやてが恐がってる」

と言うフェイトちゃん自身もちょっと恐がってる。

「そ〜だよ。
落ち着いてよ、お兄〜ちゃん。
そんな事より私を見てよ!
お化けだぞ〜〜ぅ、うらめしや〜〜彡☆」

半透明アリシアちゃんが幽霊のポーズでお兄さんを脅そうとする。
でも、そんな明るく言うお化けはおらへんと思うで……。

「ハッ、
妹を恐れてたまるものか。
何言ってやがるんだお前は?」

「へ?
お化けだよ?
半透明だよ?
人じゃ無いんだよ??」

すっごく自然体のお兄さんにアリシアちゃんが恐る恐る問いかける。

……ああ、そうか。
いきなりそんな体になってもうたもんな。
誰よりも一番、アリシアちゃんが不安やったんか。

でも、お兄さんにそんな心の機微は通じなかった様子。

「……何を言ってやがるんだ、お前は?
アリシアはアリシアだろうが。
半透明だろうが、粘土だろうが、お前はお前だ」

「「ねっ、粘土!?」」

思わず私とフェイトちゃんの声が重なる。
お兄さん良い事言ったとは思うけど、粘土は無いんやないかなぁ。

でもアリシアちゃんは、微妙な顔をした私達を置いて、感激した表情でお兄さんに抱きついた。

「わ〜〜いっ!
お兄〜ちゃん、大好き〜〜〜っ!!」

半分透けていても、すり抜けたりはしないらしい。
私は、ちょっと安心した。

落ち着いて周りの事をゆっくり考える事が出来るようになった時、不意に気付いた。

「なぁ、
ところでお兄さんの名前って、なんて言うの?」

出会ったばかりでなんやけど、自分はちゃんと名乗ったのに相手の名前は知らんって悲しいと思う。

私の言葉にまず、フェイトちゃんが反応した。

「え?
……あれ?
えっと…………兄さんの名前??
え、……まさか!!」

フェイトちゃんの疑問に頷いて答える。
でも、フェイトちゃんは何故か焦って答えない。

埒が明かんから、アリシアちゃんへ視線を向ける。

アリシアちゃんは「何か知ってるけど、話したくない」って表情になった。
う〜〜む、アリシアちゃんは表情豊かな分、隠し事が出来んタイプやなぁ。

アリシアちゃんが抱きついたままのお兄さんは……呆然としてた。

「……、
……なんで、自分の名前が……出て来ない……」

頭に手を当てて、蒼白な顔で呟くお兄さん。

あ……、
ひょっとして、私、要らん事してもた?

あっちゃ〜〜っ!
なんか最近、私って要らん事ばっかしとるやん!!

アカンでコレ!
責任取らなっ!!

せ、責任…………結婚?

名付けから始まる恋っ!?

ああっ、何をアホな事考えとるんや、私っ!
そもそも、歳の差考えろっちゅうねん。
こんな子供に「結婚しましょう」言われても一笑に付されるんがオチやん。

「ああっ、もうっ!
お兄〜ちゃん酷いよ!!
優しい言葉をかけられたら決意が鈍っちゃうじゃない!!」

一人焦る私を他所に、お兄さんに抱き着いたままプンスカ怒る半透明アリシアちゃん。
しかし……さっきの言葉って、優しかった……のかなぁ?

「……お前は何を言っている」

「いい加減、思い出して。
お兄〜ちゃんが何者なのか。
元の身体に戻れたから、今までの事を忘れたくなるのは仕方無いのかもしれないけれど……。
でも、お兄〜ちゃんが思い出さないと、私達は一歩も先に進めないんだから」

「……何を、言っている……」

「判ってるんでしょ?
元の名前が思い出せない理由……それはもう、永遠に失われてしまったから……」

「っ!?
黙れっ!!」

「っ……、
黙らない。
だって、私は……、
貴方と同じ、死んだはずの人間だもの」

「……っ!」

「夜天の書に取りこまれてしまった貴方を拾い上げる為にフェイトを利用した。
夜天の書の『箱庭』も利用して、貴方の魂という解析不能なモノを修復する為に出来うる限り生前に近い状況を作った。
その為に貴方とフェイトの記憶も弄った。
はやてちゃんまで巻き込んだのは想定外だったけど、
だから後は……、
貴方が、今の名前を思い出すだけ……。
そうすれば、全て、元通りだよ?」

「元通り……?
駄目!
アリシア!!
消えないでっ!!」

アリシアちゃんの言葉にフェイトちゃんが何か気付いて声を張り上げる。

アリシアちゃんはお兄さんからフェイトちゃんへ顔を向けた。
その瞳には……涙?

「ありがとう、フェイト。
でも、私はいつもフェイトと一緒だよ?
こうしてお話する事はもう出来ないだろうけど、
私はフェイト・テスタロッサに与えられた、アリシア・テスタロッサの記憶なのだから……」

「だから二人分、幸せにならないと駄目だよ?」と微笑むアリシアちゃん。
そしてお兄さんへ視線を戻した。

「さあ、思い出して。
……ううん、やっぱり、私が呼ぶべきかな?
だって、名前が力を持つのは、
周りの皆が、心を込めてその名前を呼んだ時だけなのだから……」

そしてアリシアちゃんはゆっくりとその言葉を口にした。

「目覚めて……『フラット』……」

次の瞬間、アリシアちゃんとお兄さんが光に包まれ、一つになった。

そして、その光の塊から小さな光が飛び出してフェイトちゃんの胸に飛び込んだ。

光の塊が銀色に輝くと、次第に人の形になっていく。

最後に一際明るく光が輝くと、そこには夜天の書に取りこまれたはずのフラットちゃんが立っていた。

 

 

 ◇ クロノ ◇

 

 背後で響いた異音に振り返ると、装甲に包まれた触手のようなものが自分目掛けて飛び出したのが見えた。

!?
何だ、これはっ!!

「プロテ……」

くそぉっ、間に合わないっ!?

その直後、

僕は血を浴びた。

衝撃は無かった。

苦痛も無かった。

……、

たった一撃で終わるほど、僕は弱かったのか。

なんて無様。
こんなに大量の血を失ってしまえば、もう動く事も出来ない。

目の前を何かが塞いでいる。

チッ、目に血が入ったか?

袖で顔を拭う。

でも、目の前の何かは消えない。

??

今、動けた?

いや、待て。
そもそもの前提がおかしい。
血が噴き出したでなく……『血を浴びた』……だと?

「…………」

目の前の何かから声が聞こえる。

「……け、クロノ」

目の焦点が目の前のソレに合わさった。

「……もう、持たん。
行け、クロノ……」

僕の目の前には、背中から硬質の触手を生やした……グレアム提督が居た。

両手で触手を押さえ、血を失った蒼白な顔で僕に声をかけている。

「っ、提督!!
何故っ!?」

「……さあなぁ……、
気が付いたら……飛び出した、後だった……。
ゴフッ……、
ともかく、クロノ。
……行きなさい……私の計画は……失敗してしまったようだ」

口から血を吐き出し、口元を歪ませるグレアム提督。

「なっ!?
今の貴方を見捨てて、何処に行けと言うんです!
貴方にはこの事件の後始末をする責任があるんだっ!!」

「……やれ、やれ……、
瀕死の老人を、まだ……働かせようと……言うのかね、君は……」

「ともかく、
貴方にココで死んでいただく訳には行きません!!
……スティンガー・ブレイドッ!!」

魔力で剣を一本創り出し、射出。

触手を切断する。

「っ、ガハッ……」

提督は切断時の衝撃からか、膝を付いて血を吐き出した。

くっ、早急に治癒を開始しないと命に関わる!
だが僕達の事情など気にも止めない触手達は次々に僕達へと襲い掛かる。

僕は触手の迎撃で手一杯。
提督を連れて安全圏へ逃げる事すら出来ない。

どうする。
この状況下で、どうすればいい。
どうすれば、切り抜けられる。
考えろ、クロノ・ハラオウン!!

その時、遠くから声が聞こえた。

「「お父様ぁっ!!!」」


リーゼ姉妹が居た!

手練の二人なら、瀕死のグレアム提督を治癒しつつ守るのも簡単なはずだ。

「バインド解放っ!
リーゼロッテ、リーゼアリア!!
グレアム提督を守れっ!!
武装隊の諸君は、この得体の知れない敵を結界で拘束しろっ!!
……早くっ!!」

今までリーゼ姉妹を縛っていたバインドを解放、一気に指示を出す。
僕の言葉に弾けたように皆が動き出す。

「……ゴフッ、クロノ……」

背後で提督が身じろぎする音が聞こえたが、
振り返らずに触手を撃ち、叩き潰し、弾き返しながら僕は言った。

「貴方は動かないで下さい。
今、死なれると、この騒動の責任が夜天の書の所有者一人の肩に圧し掛かってしまう」

「……フ……、
フハハッ……グハッ……、
確かにな、
自分の……起こした騒動の……尻拭い……はしないと……な」

血を吐きつつも笑うグレアム提督。

文字通り飛んできたリーゼ姉妹が、提督の側で治癒を開始する。

良し、
この様子なら、死ぬ事はないだろ。

そうして飛び出そうとした僕を、グレアム提督が引き止めた。

「待て、クロノ……、
持って行け……。
凍結魔法に特化……した、最新鋭ストレージ・デバイス……デュランダル……だ。
状況次第では、まだ使えるチャンスが……あるはず……」

震える手で右手の短槍を突き出すグレアム提督。

逡巡は一瞬。

僕はデュランダルを受け取った。

「色々と言いたい事があります。
ですから、話の続きはまた後で……」

再び提督へ背を向け、
右手にデュランダル、左手にS2Uを持って一歩前に進む。

次々に牙を向ける触手達をスティンガー・ショットで撃破しながら、僕は急変した状況を見渡した。

眼前には人だろうがビルだろうが遠慮無く喰らいつこうとする触手の群れ。
その中心は触手による球が形成され、次第にそのサイズを増していく。

辛うじて被害者はまだ、出ていない。

コレが何なのか判らないが、結界内でコレが動き出した事は唯一の幸運と言える。
もし、人の行き交う街中でコイツが暴れていれば未曾有の大惨事となったのは間違い無いだろう。

脳裏を掠めた想像に思わずゾッとする。

と、

武装隊の強装結界が完成し、夜天の書を飲み込んだ触手の化け物の拘束に成功した。

「良し、
コレで最低、時間は稼げる。
問題は対応策をどう捻り出すか……か。
そういや、守護騎士の連中はどうしたんだ?」

夜天の書にもっとも詳しいであろう四人組を探そうと周囲を見渡す。

……居た。

触手から離れたビルの屋上で、呆然としたまま突っ立っている。
辛うじて攻撃から逃れたものの、これからどうするべきか見当もつかない様子だ。

ちっ、
呆ける暇があると思っているのか!?

一発、張り倒してでも目を覚まさなければっ!

「お前達!
何を呆けている!!
そんな余裕が許されると思っているのかっ!!」

連中に向って飛びながら声を上げる。

クソッ、
何で僕が敵だった者達にまで活を入れなきゃならないんだよっ!!

守護騎士達の視線が、触手の塊から僕へ移動する。

「……っ、
はやてを氷漬けにしたお前等がソレを言うのかよっ!!」

赤色がメインのバリアジャケットを着た少女……確か『ヴィータ』が僕に噛み付いた。

よし、
少なくとも思考停止状態からは解放されたな。

「アレは、1将官の暴走だ。
管理局の総意じゃない。
そして、あの中には僕の仲間達も取りこまれてしまっているんだ。
あの触手をどうにかして、君達の主と僕の仲間を救出しなくてはいけない。
その点において、僕と君達は協力しあえる……と僕は思うんだが?」

「なっ、なにおうっ!
誰がお前等なんかとっ!!」

「待て、ヴィータ」

赤い少女・ヴィータが僕に飛びかかろうとするのを剣状デバイスを持った女が押し留め、僕に問い掛けた。

「貴様等が我等の主を救出するという確証は?」

「それは君達が僕達を信じるしかない。
だが、君達の主と僕達の仲間は一蓮托生の状況下にあると僕は見ている。
故に僕達が君達の主をどのように思っていても、
君達の主を含めて仲間達を救出しなければならないのは絶対だ」

「……なるほど。
確かに闇の書が貴様の仲間を取りこんだ以上、主と闇の書の確保は絶対条件か。
……いや、闇の書ではなく夜天の書……だったか?」

女剣士が頷くようにして答える。

と、
僕の背後から声が響いた。

「クロノ君!
グレアムさんは大丈夫なのっ!?」

振り返ると、なのはとユーノ、アルフが僕の目の前に着陸した。

「ああ、ロッテ姉妹が治療してるから死ぬ事は無いはずだ」

「そっか、よかった〜〜」

なのはが安堵の溜息を吐く。

「テメッ、タカマチぃっ!
アイツはっ、はやてを氷漬けにしたんだぞっ!!」

「……だからって、死んで良い訳じゃないと私、思うっ!」

ヴィータがなのはに突っかかり、なのはが胸を張って反論する。

む、どうしようと思ったら、隣に立ったユーノが二人を諌めた。

「まぁまぁ、
もう一度、力を合わせなきゃならないんだし、そうツンケンしないで欲しいな。
冷静にならないと、彼女達を助ける事も出来ないよ?」

「と、言う事だヴィータ」

ユーノの言葉に頷く女剣士。

「……ちっ、
は、はやてを救い出すまでなんだからなっ!!」

なのはに不満そうな表情を向けた後、そっぽを向いてそう言うヴィータ。

……う〜む、なぜだろう。
ヴィータを見ていると、フラットが脳裏に浮かんでくる。

「あ、クロノ君もそう思った?
私もなんだよね、何でだろ?」

いつの間にか思った事を口に出していたらしく、なのはが僕の意見に同意する。

「それは……、
きっと二人ともツンデレだからですね〜」

今まで黙っていた緑色主体の守護騎士が口を開いた。

「「「「おお、ナルホド!」」」」

彼女の台詞に、僕となのはとアルフとユーノが納得。
青色主体の守護騎士の男……たしか『ザフィーラ』と女剣士は意味が判らないらしく首を傾げる。

「っ!
誰がツンデレだっ!!」

そして、先の発言で自慢気な緑色の彼女へヴィータが突っかかる。

「……君な、
そーいう行動は肯定してるのと同じなんだぞ?
って、和んでる場合じゃない。
今はアレをどうにかしないと……。
君達に何か意見はあるか?」

直接顔を合わせた事の無い者がいるので、
自己紹介と自分の対応策を発言しつつ、この場にいる全員を見渡す。

ちなみに僕の案は「このまま拘束しておいて、アースラでアレの術式解析をして元の状態に戻す」だ。
暴走さえなんとかしてしまえば、夜天の書自体は対処に困る存在ではない……と言うのが僕の見解。

なのははジュエルシード事件の時を参考に、
「強力な魔力攻撃を全員で叩き込めば暴走なんかどっかに飛んで行っちゃうと思うの」と強気な発言。
ユーノは術式解析の点において、僕と同意見。
アルフは「フェイトと……ついでにフラットを救う為ならなんだってするさ」と判断を僕達に預けた。

対する守護騎士側は、

赤色の鉄槌少女・ヴィータが「はやてが傷つく可能性があるのは駄目だ!」と攻撃案に全面反対。
紫の女剣士・シグナムが「夜天の書に接触出来たら活路を見出せるかもしれない」と攻撃と解析の中間の意見。
青い護衛獣・ザフィーラは「動きが読めない以上、解析の間、拘束の維持に全力を尽くすべき」と僕の意見に賛同。
そして、
緑の……何?「ひっ、ひどい!」……シャマルが、
「私達には夜天の書暴走時の記憶が無いので、場当たり的行動に出るしかない」とある意味重大で残念な見解を出した。

「……ふむ、
多数決の結果、解析を最優先とする。
その間、現場の僕等はアレを拘束し続けるってとこでどうでしょうか、リンディ提督」

僕がそういうと、すぐ側に通信用魔法陣が展開する。
所謂、空間モニター、
繋がる先は時空航行艦アースラの艦橋。

『そうね。
既にエイミィを筆頭に夜天の書の解析作業に当たらせているわ。
何か新しい状況が発生したら話は変わるけれど、判断は現場に一任します。
……、
それとアルカンシェルの準備も出来ているわ。
万が一、夜天の書の暴走が食い止められなければ、「皆」を連れてアースラへ退避しなさい』

言うべき事を言い切ったリンディ提督は魔法陣を閉じた。
まぁ、通信を閉じただけで僕達の会話はしっかり聞いているのだろうが。

「?
アルカンシェルって何??」

先の話で知らない単語が出たのだろう、なのはが疑問の声を出す。

「魔導砲・アルカンシェル。
普段は取り外されているL級次元航行艦の主砲さ。
放てば百数十キロを空間歪曲、消滅させる事が出来る。
……逆に言えば、それ以下の事は出来ない」

「……はえ?」

いきなり規模の大きな話を持ってきたので、なのはの想像力がパンクしたらしい。

「ちょっ!
お前っ!!
あんなの地表に向けて撃ったらどうなるのか判って言ってるのかっ!!」

反対にアルカンシェルを知っていたヴィータが僕の襟首を掴んで吼える。

僕はヴィータの手を掴んで、ゆっくり答えた。

「判っている。
海鳴市は跡形無く消滅、
更に一瞬で大質量が消滅した余波で、広範囲の衝撃波と大規模な地震が誘発されて日本と周辺国が崩壊するほどの大被害を受ける。
ああ、信じられない規模の津波も発生するから太平洋沿岸の国々も飲み込まれるな。
そして、下手をすれば大陸プレートに甚大なダメージを与えて地球規模の地殻変動が起きるかもしれない。
更には重力異常が発生し、地球が自壊する可能性も無くはない」

もっとも地球の中心部を狙わない限り、明確な重力異常や自壊まではいかないだろうが、
……撃てば、この星の人類文明を確実に衰退させるだろう。

「テメッ!
そこまで判っててっ……なんでっ!!」

ヴィータの怒りはまだ収まらない。

「それでも夜天の書を自壊させるよりよっぽど良いからさ。
何より、アルカンシェルは最後の切り札だ。
何の為に今、アースラでアレの解析をさせていると思っている。
アルカンシェルを撃たなくてすむ為に、だ。
あまり僕達を舐めるな。
初めからアルカンシェルを撃つつもりだったなら、
僕達、時空管理局は今、この場に命を晒していない!」

僕の言葉にヴィータの手がようやく緩んだ。

「〜〜っ!
その言葉っ、(たが)えるなよっ!!」

そっぽを向いて僕から離れるヴィータ。

……本当にフラットみたいな奴だ。
いや、フラットよりも可愛いんじゃないか?
アイツは憎たらしいだけだもんな。

ウムウムと自分の考えに頷くと、シグナムが頭を下げた。

「済まんな。
不器用な奴で」

「いや、気にしていない。
むしろ聞き分けの良さに感謝したいくらいだ」

そういう僕の言葉に苦笑するシグナム。

「……えっとぉ〜〜、
つまり!
私達があの子をぶっ飛ばしちゃえば、万事円く収まるんだねっ!!」

ニコニコと物騒な事をいうなのは。
……極論すればその通りではあるのだが、なんだか頷きがたい雰囲気がある。

「なのは、なのは。
ぶっ飛ばすのは最後だよ?
今はフェイト達を助けるのが最優先なんだからね?」

両手を握り締めて今にも飛び出しそうな、なのはの袖をひっぱって押さえるユーノ。

「さて、話はそのくらいにしておいて、
バインド系魔法が使える者は、彼等の手助けをした方が良いのではないか?」

と、ザフィーラが武装隊の面々へ手を差し向けて言う。

今も拘束されているアレに目を向けると、
触手の動きこそ押さえつけられているものの、今もその成長ぶりは収まる所を知らないようだ。

最初見た時の三倍以上に膨れ上がり、
今にも強装結界が砕けそうなぐらいに負荷が掛かっている。

しかも、初めは触手の毛玉みたいな感じだったのが、なんらかの生物のような雰囲気になっていている。

「これは……、
そうだな。
僕、アルフ、ザフィーラ、シャマル、ユーノで追加の結界を張る。
なのは、ヴィータ、シグナムはアレが暴れだしたら迎撃して、僕達が後退する隙を作り出してくれ。
じゃ、
行くぞっ!!」

その場で決めた雑な編成だが、流石は歴戦のプロ達と言うところか。
合わない歩調を技術と経験で補い、あっと言う間に結界を作り出す。

さて……、
夜天の書と主をアレから引きずり出さない事には、フェイトとフラットも身動きが取れないはず。

今、アースラの総力を挙げて解析しているのだろうが、
そんなに簡単にアレの暴走原因を突き詰める事は叶わないだろう。

つまり、
その間は、あの暴走体を拘束しつづけないといけない。

いざとなれば、サンプル採取も行なう必要がある。

……長丁場になるな……。

 

 

 ◇ フラット ◇

 

 目を開くと、闇の中に浮かぶ金色の巨大魔法陣の上に立っていた。
『知らない天井』なんて目じゃない。
一体、何がどうなってやがる?

さらに、目の前には金髪少女と茶髪少女。

は?

なんじゃこりゃ?

「……フッ、フラット〜〜〜〜っ!!」

唐突に金髪少女に抱きつかれる。

誰だコイツ……、
って、フェイトか。

あっちの魔法陣の上に座りこんでる茶髪は八神はやて……。

んん〜〜?
なんで、こんな所に居るんだ?
なんで、こんな面子なんだ?

なんか記憶が変になってやがる。

ええっと、
たしか、リンカーコアを抜かれて、

右腕がアルギュロスと一緒にもげて、

ソコで一度、意識が飛んで、

今、ココで目覚める前に何かあったような……。

「うう〜〜っ、
アリシアが、
アリシアが消えちゃったよ、フラットぉ〜〜っ!!」

あん?
アリシア??

聞き覚えの有るような無いような……。

そんな疑問を頭の片隅に置きながら、
俺の肩に顔を伏せて泣くフェイトの頭をぎこちなく撫でていると、唐突に脳裏に声が聞こえた。


 ―― 私は、いつも、フェイトと……共に…… ―― 


「「今の声は!?」」

咄嗟に顔を見合わせる俺とフェイト。
はやてには今の声は聞こえていなかったらしく彼女は首を傾げてる。

……ん、
今の『声』で思い出した。
『箱庭』での短い出来事を。

くそっ、せっかく男に戻れたのに一瞬で終わりかよっっ。

現状を認識したら、今の体も実感を持って確認できた。
むしろ、フェイトに抱きしめられる感触で、色々と悲しい事実が突き付けられている。

思わず悔し涙が流れた。

「ああっ、フラットも悲しいんだね……っ!」

勝手に涙の意味を取り違えたフェイトが俺に抱きついて号泣する。

うう、鬱陶しい。

おい、そこの茶髪、
「フラットちゃん生きてて良かった」って一緒に泣くんじゃねぇ。

はやての背後にいきなり現れたお前もだ、巨乳女。
脈絡無く現れて、場の空気を読んだ上で貰い泣きするんじゃねぇよ。
しかし、この女、
銀髪といい、目付きの鋭い赤目といい、身長と胸囲以外はまるで鏡を見ているような印象を受ける。

っと、ともかく今はフェイトを宥めないと。

「落ち着けフェイト。
お前がいつまでも泣いていたら、アリシアが凹むぞ?」

「……ううっ、
うん。
……判った、泣かない……ぐすっ……」

なんとか涙を堪えてくれたフェイトの頭を撫でつつ、身体を離す。

さあて、
落ち着いた所でこの不思議空間から脱出する手立てを考えないとな。

って、
今、なんか居なかったか?
具体的には長身巨乳で銀髪赤目。

「なぁフェイト。
この場に居るのは、俺とフェイトとはやてだけ……だよな?」

「?
そうだけど、それがどうしたの?」

……やはり、気のせいじゃない。
今も、俺の目はその存在をしっかりと捉えている。

「……ちょっと振り向いてみろ。
一人増えた……」

「「へ?」」

二人が背後に振り向くと、目尻に残っていた涙を拭った銀髪赤目の長身巨乳女が軽く頭を下げた。

「初めまして、私は夜天の書の管制人格です」

「「えっ!?
えええっっ〜〜〜〜っ!?!?」」

「……」

「「「……」」」

「……」

「「「……」」」

「?
えっと、人がする挨拶は先ほどので間違っていなかったはずですが……」

表情の乏しい顔で首を傾げる夜天の書の管制人格。

「ちげぇよ。
今までコンタクトすら取れなかったテメェが、いきなりアッサリ現れたのに驚いたんだよ」

俺の言葉にコクコクと頷くフェイトとはやて。

管制人格の奴は先ほどと逆方向に首を傾げて疑問顔。

「ふむん?
つまり、冗長的な演出を凝らした登場を心がけたら宜しいのでしょうか、
主はやて」

そのまま、はやてに質問した。

「へっ?
いや、今更したってもう遅いやろ?
そんなんいらへん、いらへん。
ってぇか、夜天の書ってそんな顔しとってんな〜」

「フラットちゃんみたいや〜」と、片手を左右に振りながら答えるはやて。

「はい。
今まで、主のお言葉に答える事が出来ず申し訳有りませんでした」

「それもエエって。
今、こうして話出来るんやったら、今までの事なんかどうでもええ。
それよりも、今の私等の現状を教えて貰えへんかな?」

「はい。
現在、夜天の書は管制人格である自分が管理局の凍結攻撃により行動不能に陥った為、
防衛プログラムが暴走している状態です。
本来ならば、私も主を含めたこの場にいる者達も防衛プログラムの侵食に晒されているはずですが、
凍結攻撃の影響で封印されているような状態に保たれている結果、その影響から逃れられています」

「……えっ、
管理局の攻撃って……リンディ艦長達が暴走を誘発させるような行為、許すはず無いと思うんだけど……」

フェイトがどこか申し訳無さそうな表情で言う。

「む、同胞の制止の言葉を振り切って斬りかかってきた貴様の台詞とは思えんな」

「う、
それは……ごめんなさい……」

夜天の書の言葉に、俺に抱き着いたまま器用に謝るフェイト。

「まぁ、
責任だのなんだのは、クロノの仕事だ。
とりあえず今考えるべき事は、ここからの脱出なんじゃねぇ?」

なんだかめんどくさそうな雰囲気がしてきたので、現状で一番大切な事を指摘してみる。

「うっ、
そ、そうやな。
夜天の書は、なんかアイディアある?」

「そうですね……、
残念ながら、今の私は封印されたも同然ですので身動きが取れません。
なので、主達の独力によって事を成して頂くしか……」

「封印ねぇ。
そーいうのは、一発ドカンと魔力にモノを言わせてぶっ飛ばすのが簡単なんだがな」

「でも、この場にあるデバイスはバルディッシュだけだよ?
この子と私の全力だけで夜天の書にかけられた封印と暴走中の防衛プログラムっていうのを貫けるのかな……。
封印だけ壊す事が出来ても、防衛プログラムをどうにかしないと、元の木阿弥っていうのになるんじゃないかな?」

「おお、フェイトちゃんは物知りやなぁ。
でも、防衛プログラムかぁ……。
具体的にどんな強さなん?」

「はい。
AAA級魔導士の全力攻撃でようやく貫けるレベルの障壁が常時、四重にかけられています。
そして、防衛プログラムも夜天の書の一部なので私が使える魔法を行使する事が可能です。
何より最大の脅威は周囲のモノを取り込み、損壊を修復し、次元震を起こすまで肥大化し続ける事でしょう」

「「……」」

夜天の書の管制人格の言葉に沈黙する俺とフェイト。

「あれっ?
いきなり黙ってどうしたん??」

はやてが不思議な顔をして俺達を見る。

「主はやて、彼女等が沈黙するのも無理はありません。
二人も腕の立つ魔導士のようですが、結界を貫くには人が足りません。
そして何より、
魔導士の力を十二分に引き出すデバイスがここには一機しかないのが問題なのです」

管制人格の言葉に頷きそうになって、ふと気付く。

「いや待て、お前もデバイスだろうが。
封印で外に干渉出来ないって話だが、じゃあ中には干渉し放題じゃねえのか?
自分の主によ」

「「おおっ!」」

俺の言葉に手を打って驚くはやてと管制人格。

「そうや!
シグナム達が言っとった!
管制人格が目覚めたら、私も魔導士として動く事が出来るかもって!!」

そのまま盛り上がるはやて。
管制人格も表情に乏しいながらも、興奮した様子だ。

「その通りです、我が主。
私は魔導の蒐集に特化したユニゾン・デバイス。
主と正しくユニゾンすれば、主はやては多種の魔導を十全に操る優秀な魔導士となるでしょう。
夜天の書の管理者権限で、防衛プログラムを切り離す手も有ります。
……ただ……」

「「ただ?」」

先ほどまでの勢いが何処かに消え、
いきなり落ち込む管制人格の言葉に、フェイトとはやてが首を傾げる。

「現在、私が封印状態にあるのは変わらないので、下手をすれば主はやても身動きが取れなくなるかもしれません。
又、行動可能だったとしても、防衛プログラムの障壁全てを貫くには火力が足りません」

「「あーー……」」

盛り上がった気持ちが一気に急降下。

手元には魔導士3人とデバイス二機、障害を突破するにはAAA魔導士四人分の+αの魔力を必要とする、か。
まるでピースが足りないパズル。
問題点がハッキリしているからこそ、手が足りない事は明らかだ。

「ちっ、アルギュロスがあれば……、
いやアイツがあっても火力不足は変わらんか。
っつー事は発想の転換が必要だな」

「ん〜〜〜っ、
私らで手の出しようが無いなら、外に居る皆に助けを求めるとか?」

俺の呟きにはやてが挙手して発言。

「いえ、
残念ながら、私にかけられた封印をどうにかしないと外に声を届かせる事すら出来ません」

その言葉を管制人格が否定する。

「えっと、
それじゃあ、転移魔法でココから逃げ出すってのは……どうかな?」

続いてフェイトが、おずおずと挙手。

「凍結封印を解除出来れば、可能かもしれない。
しかし、防衛プログラムの侵食から術式が起動するまで身を守る術が必要だ」

再び、管制人格の反論。
……コイツ、敬語を使うのは主だけなのか?

いや、そんな事はどうでもいい。

「って事は、まずは夜天の書にかけられた封印を解除する必要がある訳だ。
その後、俺が障壁を張ってる間にフェイトか、ユニゾンしたはやてが転移魔法を使えば脱出出来るかもしれん……と」

「その可能性は高い。
しかし、私にかけられた氷結封印を内側から破るには、膨大な魔力を使って力技で破壊するしかないだろう。
更に現在、我々がこうしていられるのも偶然の産物。
下手を打てば……」

「俺達は防衛プログラムに食われて、一発でこの世とオサラバか」

「「……」」

管制人格の言葉を引き継いで言った俺の言葉に黙るフェイトとはやて。

「……膨大な魔力……力技……転移魔法……」

と、唐突にフェイトが何か思いついたらしく、呟き始めた。

「うん、ひょっとして、アレだったら……使うね、母さん……」

最後にコクリと頷いたフェイトが、
バルディッシュに格納していたモノを取り出すように命じた。

「そうか、それがあったかっ!!」

フェイトの考えに思い当たり、思わず声を出す俺。

そうしてバルディッシュから飛び出したのは透明な六角柱状の宝石。
かつて、崩壊する「時の庭園」でMrs.テスタロッサがフェイトに餞別代りに与えた代物だった。

もちろん、
彼女が与えたソレが、ただの宝石な訳が無い。

その宝石は超高密度情報集積体だった。

そして、その内容は……。

「これの中には『システム・ヒュードラ』……次元航行用魔力炉の各種資料一式が収められてる。
当然、炉心に使われる術式も構造も。
デバイスを形成するように、魔力で擬似的にヒュードラを形成すれば、
一瞬だけだろうけど絶大な魔力が得られるよ、次元を歪めるほどの魔力が……」

そう、Mrs.テスタロッサの人生転落のきっかけとなったらしい『ヒュードラ』。
彼女は、フェイトを生み出す事になったFプロジェクトの片手間に失敗に終わったヒュードラの改設計を行なったらしい。

その成果がフェイトが持つ宝石。

証拠物件扱いだったその宝石をフェイトに返す時、リンディが教えたのだ。
宝石が情報集積体である事と、その内容を。
今や同レベルの出力を出せる魔力炉が運用されてるので、それなりの価値しかないらしいが。

管制人格の奴がフェイトの差し出した宝石を手に取って、ヒュードラの情報を読み出す。
変化は即座に訪れた。

彼女の表情が驚きに染まったのだ。

「むぅ、なるほど、
確かにコレは使える。
主とユニゾンした上で使えば、封印を破砕する片手間で転移魔法を行なうことすら造作あるまい」

「貴様の母親は大したものだ」と薄っすら尊敬の表情すら見せてフェイトに宝石を返す管制人格。

受け取るフェイトは、それはもう嬉しそうな顔だった。

対して、魔導知識の有無で話に付いていけないはやてが膨れっ面で愚痴を零す。

「ふ〜〜ん、
夜天の書はご主人様の事無視して、フェイトちゃんにばっか気を使うんやね。
まぁ、仕方ないけどな〜〜。
私は下半身動かへん半端モンやし、魔法の事もな〜〜んも知らへんもんな〜〜」

「あっ!
ああっ、そんな事は有りません主はやてっ!!
下半身が動かないのは私の所為ですし、主が魔法を知らないのは育った環境故ですっ!
主は悪く有りませんっ!!
それに、私とユニゾンしてしまえば歩き放題、魔法も撃ち放題ですっっ!!!」

床代わりの魔法陣に手を突いて、シクシクと泣くはやて。
そんなはやて嬢の正面に膝を突いて、一生懸命慰めようとする夜天の書の管制人格。

「……なんだか、シリアスな雰囲気を続けるのって難しいね」

「……ああ、なんでだろうな」

思わずフェイトと、この世の不条理について語り合う。

「ふにゅっ!?」

そんな雑談も管制人格の奇声で中断される。

目を声のした方向へ向けると、
はやてに乳を揉みしだかれる管制人格の姿。

「ん〜〜っ、
シグナムのオッパイもけしからんかったけど、
夜天の書のオッパイもけしからんなぁっ♪
その乳をヨコセッッ!!」

「あ……あふっ、
くぅ………、
ふあっ!?」

…………、
なんか目の前で力一杯、乳が揉みしだかれてる。

たしかに、けしからんオッパイ。
はやての手が、オッパイに埋もれそうになってる。

なんて大きさ、ちょっと羨ましいかもしれん。

……はっ!?

「何を考えていた俺っ!?
フェイト、ヤルぞ」

「……うん」

阿吽の呼吸で俺の意思を読んだフェイトが、
俺と歩調を合わせて、一緒にはやての背後に立つ。

俺が左手を、フェイトが右手を振り上げ、

「「ええかげんに、せんかいっ!!」」

ラ○ダー・ダブルチョップがはやての脳天に綺麗に決まった。

「……っ、
痛ったぁ〜〜っ!?
何すんのん、二人ともっ!?」

「それは此方の台詞だ。
とっとと、ユニゾンしやがれっ」

頭をおさえて振り返るはやて、
急かす俺、
俺の言葉に頷くフェイト、
僅かながらも頬を染める管制人格……。

「……あーーー、そうやったー。
こほん、
それじゃあ、やる事済まそか」

「はい、
……とは言え、既にユーザー認証は済んでいます。
後は主はやてが一言、ユニゾンを宣言すれば、
我、夜天の書は貴女の物となります」

キリリと顔を引き締めるはやてと管制人格。

「いや、
もう一個、やる事があるで」

「は?」

はやての断固とした言葉に唖然となる管制人格。

「名前やっ!」

両手を握り拳にして、力説するはやて。

「「「???」」」

はやての唐突な発言に首を傾げる、俺達3人。

「なに3人揃って、可愛い顔して惚けとんねん。
名前や名前っ!
夜天の書の管制人格ってのは、唯の役割やんっ!!
私は、自分の名前も無い子と一緒になる気は無いでっ!!」

プリプリ怒るはやての言葉に、一気に失望のどん底に落とされる管制人格。

「はぅっ……、
……確かに、私に名前は無い……。
くっ、なんて事だ。
私は主に選ばれる価値も無いデバイスだったのか……。
……そもそも、いつの間にか闇の書とか呼ばれて本来の名前を忘れられてしまうし、
悠久を共にしたヴォルケン・リッター達すら闇の書呼ばわりするし……」

ガックシという擬音語が物凄く似合う勢いで手を突いて項垂れる、名無しの管制人格。

「あ〜〜、
違う違うっ!
私が言いたいんは、そういう事や無くてな?」

ワタワタと管制人格を宥めるはやての言葉に、涙を目尻に溜めた管制人格が首を傾げる。
……最初は表情に乏しい奴だと思ったが、意外と表情豊かな奴だなコイツ。

「……っつうか、
これ以上無いほど、お似合いな主従な気がする」

「うん、確かに」

CONSENT(同意します)

俺の呟きに、フェイトとバルディッシュが頷いた。

「つまりやな、
私が、名前をあげる。
だから、これから……ずーっと、一緒やで?」

言葉と一緒に右手を差し出すはやて。

管制人格は、どこか悲しそうな表情を浮かべた後にその右手を両手で握った。

「判りました、主はやて。
……この身、砕け散ろうとも、
御身と共に歩む事を……、ここに誓います」

「ん〜〜、
物騒な宣誓やけど、まぁええわ。
砕けるような出来事なんか、逆にぶっ壊したったらエエもん」

管制人格の言葉に少し膨れっ面になるはやて。

「……こほん、改めて仕切り直しや。
……、
夜天の主の名において、汝に新たな名を贈る!
強く支えるもの、
幸運の追い風、
祝福のエール、
リインフォース!!
ユニゾン開始やっ、リインフォース!!」

「Jawohl.
リインフォース、ユニゾン・システム展開。
管理者権限を主はやてに。
リインフォースは、主はやてに従います……」

膝立ちのまま大粒の涙を流した管制人格……、今からはリインフォースか。
彼女の体が光を放ち、
はやてを取り込んだ。

「フェイト、これから何が起きてもおかしく無いからな?」

「うん。
フラットも注意して」

光に包まれたはやてを挟んで背中合わせに周囲へ目を向けるフェイトと俺。

考えうる最悪の事態は、
リインフォースにかけられた氷結封印がそのまま持ち越しで、はやてにかけられてしまう事。
そして、その上で辛うじて俺達を守る結果になっていた氷結結界が破れ、暴走プログラムの侵食を受けてしまう事。
アルギュロスが無くても、一応、フォトン・ランサーやサンダー・スマッシャー、アーク・セイバーなどは使える。
フェイトから引き継いだ戦闘技能として、この身に染み付いていたからだ。
一応、フリーホイール・バーニングはアーク・セイバーの亜種だからなんとか使える。

だが、ライトニング・バスター系三種はアルギュロス前提の魔法だし、咄嗟にオリジナル魔法を即席展開出来るほど魔導の知識を習得出来てはいない。
以前使った、アペタイト・フォー・ディストラクションはアルギュロスに再計算させると「いつ暴発してもおかしく無い危険魔法」というツッコミを喰らってしまったし。

今の俺を例えるなら、
九九だけ暗記したものの、数学の基礎知識が足りない小学生という所か。
足し引きも未熟なものだから、電卓を手放してしまったら一桁の掛け算以外の計算が覚束無い。

最悪、フェイトの外部魔力タンクぐらいの役割しか果たせないが仕方あるまい。

と、背後で溢れだしていた光が収まった。

振り返ると、
バリアジャケットに身を包んだはやてが立っていた。

茶髪黒目だったのが、
淡いベージュ色の髪、蒼目に変化。

身長は変化無し。

黒に金の縁取りがされた上着とミニスカート。
外套を2分割した様に丈の短い白色のジャケット、腰のベルトに繋がれている外套の下半分は黒色だ。
肩パッドが増量気味なのは小柄な体付きにインパクトを持たせるためか?

右手には夜天の書の表紙の剣十字をそのまま大きくしたような金色の杖、左手には夜天の書。

そして背中から黒くて小さな翼が三対六翼。

頭には白に黒のリボンが付けられた大きなベレー帽が乗っかっている。

ベレー帽は斜めに被った方が特殊部隊っぽくてカッコ良いと思うのだが、どうだろう?

【ユニゾン、成功しました】

「お〜、身体に違和感も無いし、良かった〜〜。
って、私自力で立ててるっ!!
やったーーっ!!」

リインフォースの言葉に、いきなり両手にそれぞれデバイスを持ったまま万歳するはやて嬢。

【感無量です、主はやて。
氷結封印の影響も見受けられません】

「ふん、たしかに幸運の追い風は俺達に吹いているようだな?」

「……なんでフラットは素直に褒められないのかなぁ。
ともかく、おめでとう!
はやて!!」

「うん、ありがと!
フェイトちゃん、フラットちゃん!!
って事で、
さっそく脱出の算段を始めよかっ!」

ニヤリと笑うはやて。

【了解。『システム・ヒュードラ』構成を開始します】

「同時進行で防衛プログラムの切り離しと、外への転移術式の展開も始めるでっ!」

【万事、抜かり無く】

さっきまでの無力な少女が一転、
テキパキと魔導のプロフェッショナルとして動き出す。

「……これがユニゾンか。
驚異的だな……」

「フラットも、はやてと同じぐらいに驚異的なんだよ?」

「はぁ?」

俺の呟きにフェイトが答える。
俺の疑問に溜息を吐きながらフェイトは言葉を紡いだ。

「あのね、
フラットだって、魔法を知らなかったはずだよ?
いくら私と知識を共有してたお蔭で魔法を振るう事は出来ても、
その魔法を、
私が考えもしなかった方法で駆動させてたのはフラットなんだから」

「そーなのかー?
手持ちの道具を最大限利用するのは当たり前の事だろう?」

「そーなのっ!
大体、なんで私よりも効率的に魔法を使えてるの?
あくどい戦い方はともかく、
腕から『アーク・セイバー』とか異常だよっ!?」

……いつぞやの訓練の事を今も引きずっていたらしい。

「しかも、アルギュロス作ってからは火力重視になっちゃったし!
デバイスは巨大拳銃だし、
バリアジャケットも私のと全然違う形だし!
しょうがないから、ライトニング・フォームでフラットのインナーとスパッツを真似たんだからっ!!」

……どうやらお揃いの格好と魔法で戦いたかったらしい。

「それからっ、それからっ……!」

今まで我慢して言わなかったのだろう不満が、一気に飛び出す。

……これが我慢強い奴が爆発すると手におえないって現象なのか?
うーむ、フェイトの奴は遠慮する性質だから、不満の濃縮度もかなりの様子だ。

まぁ、妹の不満を聞いてやるのは兄貴分として全然構わないんだが、
今は気を抜ける状況じゃない。

現にフェイトの背後からジト目で俺達を見るはやてが……。

「あーー、悪いんやけどお二人さん?
痴話喧嘩はここから脱出してからにしてくれへんかなぁ。
やないと、私、あまりの鬱陶しさに術式をワザと間違えてしまいそうやーー」

「「あ……、すいませんでしたッ!」」

思わず、二人揃って最敬礼。

あれ?
なんで俺まで謝ってるんだ??

【『システム・ヒュードラ』駆動開始。
定格出力まで後、30秒。
おそらく、ヒュードラが稼動に耐えられるのは1分弱という所でしょう】

「って事は、その間に転移してまわなあかんって事やね」

足元に転移術式を展開しながらリインフォースと相談を続けるはやて。

「ほらっ、そこの二人もボサッとしてないで、
さっさと障壁張りぃ!!」

「「は、はいっ!!」」

あっるぇ〜?
なんで無条件で従っちまってるんだ俺?
『強制』を何よりも嫌悪する俺が、なんでだ!?

何故か「調子乗っとると、口から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせるぞゴラァッ」というはやて声の幻聴が聞こえるし。

「そこっ、
首傾げる暇無い言うてるやん!」

「むぅ」

ともかく、今はここから脱出するのが最優先か。

転移までの時間を稼ぐ障壁を張り終わったのは、
俺達から離れた場所に作られた仮設魔力炉『ヒュードラ』から怒涛のような魔力が噴き出したのと同時だった。

【ヒュードラ、定格出力。
凍結封印への攻撃魔法陣、及び転移魔法への魔力供給開始。
封印破砕後、防衛プログラムを夜天の書から切り離します】

「よっしゃ、
一発大きいの行くでっ!
デアボリック・エミッションッ!!」

はやてが声を上げると、俺達の張った障壁の外を闇色の魔力が全包囲へと飛び出した。

全包囲攻撃魔法!?
なるほど、この領域ごと凍結封印を吹き飛ばそうって訳か。

【……凍結封印、破砕成功!
防衛プログラム、パージ。
主はやてっ!!】

「転移開始やっ!」

はやての威勢の良い声と共に、視界が暗転する。

果たして防衛プログラムとやらから無事抜け出せるのだろうか。
デバイスも無い今の俺では、次の瞬間に何が起きても良い様に身構える事ぐらいしか出来ない。

信仰心の篤い奴なら神に祈るのだろう状況。
だが、そーいうのは俺の柄じゃない。
そもそも祈る行為自体が俺に合わねぇ。

だから信じた。

俺の運を。

いつも肝心な所で運に見放されている俺が、
そんなのを信じると酷い目に合いそうだと言う事に気が付いたのは、全てが終わった後だった……。

 










後編へ続く










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