Last Vision〜忘れ去られた物語〜















 

「まさか、新造戦艦一隻相手に全滅とは……」



 薄暗い部屋の中で、一人の男が苦々しくその言葉を口にする。

 男の目の前のディスプレイには、一隻の戦艦の主砲の一撃で爆散する自軍の機動兵器の映像が映し出されていた。



「地球人の技術も侮れんと言う事か……」



 先程の男とは別の白い服を纏った体格のいい男も、同じように呟く。

 この男も同じ映像を見ているようだった。



「おのれ……地球人め……」




 そして、部屋中の男達が、口々にそんな言葉を口にしだす。

 部屋の中は、そんな雰囲気でざわついていた……



シュンッ!!



 不意に扉が開き、部屋の中に光が差し込む。

 入り口に立つ人影は、この場にそぐわないものであったが、その事を口にするものは誰もいない。



「地球連合軍唯一の相転移炉搭載型宇宙戦艦 撫子

 全長298m、時空歪曲場装備、重力波砲1門、

 前方に突き出た時空歪曲場発生装置に左右それぞれ16門ずつのミサイル発射口と思しき物が確認済み。

 有人の小型機動兵器を現在の所一機搭載している模様。

 搭乗員のほとんどは民間人だが、『人格より実力』ということで他業種からのスカウトによって集められた玄人ばかり。

 地球で現在勢力を伸ばし、俺達の援助者のライバルともいえる企業ネルガル重工の新造戦艦……

 多分、この一隻で『ゆめみづき級』を沈める事も可能だってんだから驚きだよな」



 凛とした声を響かせて会議室に入ってきたのは年端も行かない少女だった。

 他の男達と同じ白い制服のような服を着ていたので分かりにくい事もないが、体格と声で直ぐに女だと判別できる。

 少女はその紫色の瞳で会議室を一瞥しながら先程の事を口にした。

 口にしている内容とは裏腹に、口調は至って明るいものだった。



「なんだと!?

 我が艦が地球人に遅れをとるとでも言うのか!?」



 白い服を着た青年が、その言葉に思わず大声を上げる。

 恐らくは、少女の言った『ゆめみづき級』の艦長か何かであろう。



「俺はただ、『それだけの戦力を持っている』といっただけだろうが……

 あんたが負けるとは言ってないさ。

 純粋な戦艦の力の話、それだけで勝敗が決するわけじゃないだろ……違うか?」



 少女はそんな青年に、冗談でも言うかのように返した。

 青年は「俺としたことが、女性に対して……」とかなんとかゴニョゴニョと言って黙ってしまったが、

 実際彼女の言った事が事実なら、恐ろしい新戦力だと言う事だ。会議室の面々はそれを思って押し黙っていた。



「確かに……

 恐ろしい力を秘めた戦艦だということは、今回の戦闘を見る限り十分に分かった。

 この『撫子』、今までの様には行かない相手であろう……」



 これまで黙って会議の流れを見つめていた、紫色の軍服を着た男が、鋭い目つきで重い口を開けた。

 会議に参加している全ての人間が静まり返る。



「して、朧よ……

 お前はどう考える?」



 先程入ってきた少女を見つめ、男は静かな声でそう言った。

 『朧』と呼ばれた少女はにんまりと笑ってこう答えた……



「まかせとけ……いい考えがあるんだ」






 真っ暗になったディスプレイに作戦は映し出された。






「ま、上手く行かないのは、分かってるんだけどな……」



 そう呟いた朧の声は誰にも聞かれる事なく闇の中に消えていった……












 


 

 

 

第二話.「緑の地球」はまかせとけ なんてな♪

 
 
 
 俺は何とかエステから脱出して、デッキの上に足を下ろした。

 何だか不思議な気分だ。エステのコックピットに閉じ込められた事は何回かあったが、今回のようにふざけた状況じゃなかったと思う。

 不思議な感覚に捕らわれながら、思わず半壊しているエステを見上げてため息をついた。



「はぁ〜……

 こんな事で、俺はやっていけるのか?」



「やっていくって何を?」



「うわぁっ!?

 ゆ、ユリカっ!! 何でお前がここに!?」



 気が付けばユリカの顔が目の前にあった。

 気付けなかった、少しなまっているのかも知れないな、俺。



「べ、別に……

 何でもいいだろ、そんな事」



「えぇ〜っ!?

 気になる気になるっ!!」



 幼い子供が駄々をこねる様に言うユリカ。

 その姿は、俺の知っているユリカを同じだった。



「それより、何しにきたんだよ?

 艦長なんだろ、お前? こんなところで油売ってていいのか?」



 俺はそんなユリカを適当にあしらう。

 正直言って、余りユリカと話をしたくは無かった。



「あ、そうだったっ!!

 アキトっ!!

 無事でよかった、心配したんだよ!!」



 顔中に微笑を浮かべて、俺の無事を喜んでくれるユリカ。

 変わらない、純粋で無垢な笑顔……



「ああ、何とか生き延びたよ」



 不意打ちのユリカの笑顔に俺は軽く答えを返すことしか出来なった。


 自分の中の箍が外れて、抱きしめてしまいそうになる両腕を……



「どうしたのアキト?

 顔色がちょっと悪いよ?」



 押さえつけるだけで精一杯だった。



「大丈夫? 医務室に行く?」



 そんな俺を、ユリカが覗き込むようにして見る。

 大きな瞳は、親愛の情を……俺に向けて告げていた。



「生まれて初めての戦闘だぞ。

 安心したら気が抜けて、気分が悪くなったんだ。

 お前の言うように医務室に行くから、お前はブリッジに戻ってろ」



 適当に言い訳を並べてついて来ようとするユリカを制すると、俺は医務室に向かった。

 ……ただ、ユリカの前から逃げ出したかっただけだ。

 俺を気遣うユリカを残し、俺は医務室に足を速めた。









 ピッ!!



「アキトさん……」



「……ルリちゃん、かい?」



 周囲に人がいないことを確認して、素早く物陰に隠れるとコミュニケの画面を展開する。



「はい、そうです……お疲れ様でした」



 あっけらかんとした態度でいるルリちゃん。

 その顔には『オモイカネに隠蔽させてますから大丈夫です』と書いてあった。



「止してくれよ……あんな戦いは、俺にとって戦闘の内にも入らないさ」



 ルリちゃんの言葉に皮肉を言って答える。

 何だかルリちゃんにはこんな風に皮肉を言ってばかりだな。

 墓地でも、過去に跳んでしまったあの時も……そして今も………

 そして寂しげに笑う俺を見て、ルリちゃんも顔を少し顰めた。



「戦闘よりは、その後の回収騒動の方が……ですね」



 そんな俺にルリちゃんは苦笑いを浮かべながら、冗談の様にそう言った。



「なるほど、あれは確かに困ったよ」



 ルリちゃんの気遣いに感謝しないとな。

 そんな冗談のような言い回しに俺も冗談を言うように返した。少しだけ気持ちが軽くなった。

 一瞬の沈黙。

 その一瞬の迷いの後、ルリちゃんは真剣な眼差しを俺に向けてきた。



「ユリカさんにも……事情を話されないのですね」



 真剣な表情。

 俺の答えを待っているルリちゃんの視線に自分の視線を正面から合わせて、自分の考えを言い切る。

 

「ユリカには、このままの関係で接するつもりだ。

 そうすれば過去への干渉を、少しは防げると思うんだ……

 余り大きな干渉をしてしまって、予測出来ない未来を招きたく無いからね」



 そうだ、下手に干渉をして、肝心なところで失敗はしたくない。

 それこそ愚かな事だ。

 いや、過去をそして未来を変えようという行為こそが愚行なのかも知れないな。

 これは今考える事じゃない。



「……アキトさんがそう言われるなら、私は何も言いません。

 ですが……アキトさんは死ぬ事が解っている人を前にして、助けずにいられますか?」



 俺の言葉に、『嘘は許さない』……そう言った目で俺を見つめるルリちゃん。

 俺ですら、息を呑むその視線はルリちゃんの成長をはっきりと表している様だった。

 成長したね……本当に……



「……ごめん、正直言ってその事には自信が無い。

 ガイ、白鳥九十九、サツキミドリの人達、火星の生き残りの人達……

 俺は……理解していても、実行する事は出来ないかも知れない。

 いや、実行出来ない」



 矛盾している。それは解ってる。

 でも、彼等を見捨てる事は出来ない。

 全てが、未来の悲劇に続くものだから。

 未来の悲劇を引き起こさない為に、目の前で起こる悲劇を見捨てるような自分にはなりたくない。



「それでいいんですよ、アキトさんは。

 私はそんなアキトさんだからこそ、支えてあげたいと思うんですから」



 柔らかな優しい笑顔。

 自然と俺も笑顔になる。



「ありがとうルリちゃん……心強いよ、本当に」



 お互いに本心からの笑顔を交わす……

 まさか、俺がまたこんな風にルリちゃんと話す事になるなんて……

 あの時は想像も付かなかったな……



「そうだっ!! 早速だけど相談があるんだ」



「何でしょう?」



「実は……」



 俺はラピスも過去に戻っている事を、ルリちゃんに説明し……

 ラピスとルリちゃんの二人で、ある計画を実行する事を頼んだ。



「……と言う事なんだけ」



「……結構悪知恵が働くんですね……アキトさんって」



 俺の提案にルリちゃんは例の冷めた目で一瞬だけ睨み……



「勿論、その計画には参加させて貰います。

 ……それにラピスには、一人補佐を付けましょう」



 今度は手の込んだ悪戯を見せる時の表情で、俺にそう提案した。



「補佐? しかし、俺達の話を信じてくれて、しかも信用の置ける人物なんて……」



 俺は考えられる限りの人物を思い浮かべてから、その中にこの場合に適した人物を検索できなかった。

 一体誰がいると言うのだろうか?

 そんな俺の考えを悪戯な妖精は楽しそうな顔で見つめている。



「いますよ、ハーリー君が」



「!?」



 何だって!?

 全く予想外の人物の名前に、俺の顔は正に驚愕を表していただろう。

 しかし、だとしたら……



「まさか、彼……マキビ ハリ君も……」



「ええ、覚醒してからすぐに私に連絡をしてきました」



 俺がうろたえているのを楽しそうに見ながら、ルリちゃんはさらりと肯定の意の返答をする。

 悪戯が成功して嬉しいのか、その時のことを微笑みながらルリちゃんが俺に話してくれた。

 
 過去のこの時点では、お互いに全く面識が無いはずだろうに……

 俺は彼の純粋すぎる真っ直ぐさに、本気で羨ましいと感じた。

 俺が彼の立場だったらどうしただろうか、シュミレートしてみる……

 ………

 ……

 …



『る、ルリさん、はじめまして。

 ぼ、僕マキビ ハリです。

 まずはお友達からで結構です、僕とお付き合いして下さいっ!!



『ばか?』


 …

 ……

 ………

 なんだか悲しい結末だった気がするので、忘れよう。

 そういえば、もし過去のルリちゃんだったら、間違いなくこんなリアクションを下だろうなぁ……

 俺は彼の勇気に心の中で拍手を送った。

 と、少し何処かに飛びかけていた意識を現実に戻した。



「……出来れば直ぐに連絡を取って、ハーリー君にラピスの補佐を頼んでくれないか?」



「解りました……それと……」



 俺の頼みを快諾してくれたルリちゃんだが、その後少し歯切れが悪く呟いた。



「ん? なにかな、ルリちゃん?」



 俺は良く聞こえなかったので、そう聞き返すと……



「先程の整備員。 タチバナ サクヤさんなんですが……

 結局何も聞き出せませんでした。」



 言いにくそうに、いや悔しそうにそう言った。

 タチバナって、あの整備員の……あの彼だよなぁ……?



「何も聞き出せなかったって、話をしたの? ルリちゃん」



 どうも話が見えてこなくて俺はそのまま疑問を口にした。

 ルリちゃんはこっくりと頷いてから、話を続けた。



「はい、前の歴史に、彼のような人物はいませんでした。

 今となっては前の歴史で彼が何をしていたかは解りません。

 ですが、いくらなんでも今のアキトさんにエステバリスの性能を幾分か追いつかせるなんて……

 おかしいです。怪しすぎです!!」



 そう言いながらルリちゃんにしては珍しく声を荒げる。

 何かあったのだろうか?


「いや、そうだけど……

 落ち着いてルリちゃん、彼と何かあったのかい?」



「いえ、別に……

 オモイカネに色々調べさせて解ったんですが、おかしいんです。

 あの若さでネルガルに一目を置かれる技術力とその技術を生かした企業の立ち上げ。

 信じられない学歴と数々の業績……

 これだけの人物が、前回の歴史では、名前すら聞いた事が無いなんて……

 それに何よりもそれ程の力を持った人物が、何故“整備副班長”としてナデシコに乗っているのか……

 いくら調べても、怪しいと言う事しか解らないのなら、いっそ直接話した方が……

 そう思って話をしたんですが、結局何一つ聞き出せませんでした」



「そ、そうなんだ……」



 普段では想像できないルリちゃんの姿に戸惑いながら、俺はタチバナと言う人物に興味が湧いた。

 ルリちゃんでも何も聞き出せないなんて……

 会社の社長で、ネルガルも一目を置く技術者で、なのに整備班副班長……

 ルリちゃんで無くとも、怪しんで当然だろう。



「気をつけて下さい。

 あの人の技術は何かおかしいです。

 もしかしたら、あの人も私たちと同じように、未来から逆行してきたのかも……」



「俺達と同じ……か、分かった、気をつけるよ。

 でも逆行者は大げさじゃないかなぁ……

 ともかく、得たいが知れないのは変わらないんだから、ルリちゃんも気をつけてね」



 ルリちゃんの話は大げさじゃないかなぁと思う。

 でもそれを頭から否定する事も出来ずにお茶を逃がすような形で会話を終える。



「はい。

 大丈夫です、アキトさん。

 絶対に尻尾を掴んで見せます!!!

 ではまたブリッジで……」


 
 ピッ!!



 何だか最後にルリちゃんらしからぬ叫びにも似た言葉を残して通信は途絶えた。

 うーん、自分自身手玉に取られたのがよっぽど堪えたみたいだなぁ……

 ルリちゃんでもあんな風に悔しがるんだなぁとか、

 何だか少し場違いな事を考えながら俺は思わずくすくすと笑いながら歩き出した。

 目的地は言うまでも無い、自室だ。



「よく考えたら、まだ私服だったんだよな。

 これじゃ、何時までたってもナデシコの部外者だよな……

 ってだとしたら……ははは」



 目的地変更。

 俺はまだ制服もらってもいないじゃないか……

 俺はルリちゃんに通信でプロスさんとゴートさんの居場所を聞いて二人のいるプロスさんの自室に向かった。



「失礼します、テンカワ アキト入ります」



 一言断ってからプロスさんの部屋へと足を踏み入れる。

 部屋の中にはプロスさんとゴートさんがいて、なにやら話しているようだった。

 恐らく時期的にスキャパレリプロジェクトの話を、みんなにするかしないかでも話し合っていたのだろう。



「おやおや、テンカワさん。

 ちょうど貴方をお呼びしようとしていた所なんですよ。

 こちらとしても、中途半端な契約をするわけにはいきませんので……

 そちらにかけて頂けますか?」



 プロスさんはいつも通りの雰囲気で俺をソファーに座らせると、早速本題に入る。

 ゴートさんは、その横で直立不動で事の成り行きを見守っていた。



「はぁ……契約ですか?」



 ここはプロスさんの話しに合わさるのが懸命だろう。



「まず、ロボットを勝手に動かした事ですが……

 確かに問題行為です、本来なら何らかの処罰を与える所ですが、

 非常事態でしたし結果的にはテンカワさんに助けられる形となりました。

 それに我々は軍人ではありませんから……」



「お咎め……なしですか?」



「そういう事になりますな」



「はぁ……」



 極力自然に受け答えをする。

 前回も同じような事を言われたが、改めてナデシコのアバウトさを実感する。

 でも、こんな船だから護りたいと思えるんだ。



「次ぎに契約についてですが、テンカワさんとは『コック』としての契約を結んでいますね?」



「はい、その筈ですね」



「しかし、今回のように何時木星蜥蜴に襲われるかも分からない状況で、

 現在ナデシコにはパイロットが、いえ、使えるパイロットがいない。

 これはいけません。

 と言う事で、よろしければ、このまま補充があるまで、もしくは山田さんが復帰するまでの間、

 パイロットとしても働いていただきたいのです」



 プロスさんの言う事は最もだ。

 この後もどう考えても戦闘行動は避けられない状況で、パイロットがいないというのはまずい。

 前回は、流れに流されるままにパイロットになって、そのままなし崩しにずるずると……

 って感じだったから考えもしなかったけど、もしかしてナデシコってこの時すっごく危なかったんじゃないのか?



「はぁ……パイロットですか?」



 ここで快諾してもいいのだが、一応戸惑う演技をしておく。

 何か意味があるのかと言われれば、無いとしか言えないのだが……



「お給料の方は……こんな感じで」



 いつもの電卓にはあの時と同じような金額が記されている。



「こんなに!?」



「ええ、まぁ。

 そんなに緊張する事は無いですよ、直ぐにパイロットは補充する予定ですし、

 それまでの一時的なものですから……」



 と言うプロスさんの言い分を受け入れる形で、俺は前回と同じようにもう一つの仮契約書にサインをした。

 そして制服を受け取って、俺は自室へ向かった。



「さてと、ついでにシャワーでも浴びちゃおうかな……」



 俺は手早く服を脱いで、部屋に備え付けのバスルームに滑り込む。

 思えば、サセボドックまで自転車で全力疾走したし、起動停止してしまったサウナのようなアサルトピットに閉じ込められていたし……

 結構汗をかいたのにシャワーを浴びる暇もなかった。



 ジャアァァァァ……



 暖かいシャワーが俺の体に打ちつけ、お湯が伝い落ちてゆく…



「汗臭いコックなんて、流石にな……」



 思えば、こうしてシャワーを浴びるのも本当に久しぶりだ。

 もう随分とお湯の温かさや、シャワーの打ち付ける感触を感じた事が無かった……



「感覚が……戻ったんだよな……」



 その幸福を噛み締めるように呟いた。

 触角も、視覚も、嗅覚も、聴覚も、そして味覚も……

 俺は数奇な運命の元、取り戻す事が出来たんだ……

 だったら……



「俺はともかく、せめて大切な人達の幸せを取り戻さないとな……」



 プシューッ!!



 タオルで頭を拭きながらバスルームから出てくると、服に着替えようと服を……



「………あ…………」



 制服に手を伸ばして……



「………ん?」



 今誰かの声がした気が……

 俺は声が聞こえた方に首ごと振り向く。



「失礼しました、アキトさん。

 呼びかけても返事が無かったので、オモイカネに頼んで開けてもらったんですが……

 シャワーを浴びていたんですか、突然押しかけてしまって、申し訳ありません」



 そう言って闖入者は扉を閉めてしまった。

 え…っと、今のはルリちゃんだよな?

 何でルリちゃんが?

 俺は素早く制服を着込むと、扉を開けて外に出る。



「ルリちゃん!? どうしたんだい?

 何か用があって来たんじゃ……ない……の?」



 扉を出てすぐのところにルリちゃんが真っ赤な顔をして立っていた。

 俯いているので、表情は分からない。



「あ、はい。

 本当に申し訳ありませんでした。その、お風呂上りだとは思いもよらず……

 その、………見てませんから。見てませんから安心してください


 なんだか恥ずかしそうにそういうルリちゃん。

 見てないって言うのは、恐らくそういうことなのだろう。

 俺ももう、深く考えないぞ!! うん。



「あ、うん……それでさ、ルリちゃん。

 何か用が合ったんじゃないの?」



 何かこの雰囲気に耐えられなくなって、話を先に進めることにする。

 ルリちゃんは、まだ顔は赤いながらも、努めて冷静に受け答えしてくれた。



「用事といってはこれといっては無いんですが、

 自由時間を貰いましたので、少し今後の話を出来たらと思って……

 流石に秘匿通信とはいえ、ブリッジで早々アキトさんと相談は出来ないですから」



 なるほど、そういう事か。

 そうだよな、いくらなんでもブリッジで密談って……それって全然秘密になってなもんな。

 あそこ程知られてまずい連中が集まるところも無いんだから……



「そういう事か、俺はこの後ホウメイさんとかに挨拶があるからそう長い時間は無理だけど、

 それまでで良ければ……」



「それで十分です。

 それと、私の部屋へのシークレットコードも教えておきますね。

 オモイカネ、アキトさんのコミュニケにコードを登録よろしく」



『了解、ルリ』



「えっと、じゃあ中にどうぞ……

 何も無い所だけど、今回は一人部屋にしてもらってるから、

 少しの間だけだけどくつろいで行ってくれ。

 それと……」



 ルリちゃんを部屋に招き入れながら、最後に一言。



「先ほどは、見苦しいものを……

 本当に申し訳ない」



「いいえ、私の方こそ、確認もせずに勝手にお部屋に入ったりして申し訳ありませんでした。
 
 以後気をつけます」



 お互いに謝罪を述べて、これからの事を話し合う為俺の部屋で座談会という事になった。

 今後のことといっても、実は先程の通信でほとんど話してしまっていたので、特にこれといった事は無かったが……

 


 そうして、ホウメイさん達に挨拶を済ませて、大勢のギャラリーの中で自分の料理の腕を披露した後、

 ルリちゃんの可愛い悪戯で俺はブリッジに来ていた。

 ルリちゃんが俺を指名して出前を頼んだのだ。


 まぁ、そこで……

 ムネタケの叛乱が起こった。

 前回と違って、俺はブリッジにいるが、まぁそんな大きな変化ではないだろう。

 クルーたちがムネタケに向かって抵抗していると、すぐに連合軍の戦艦が姿を現す。

 俺とルリちゃんは、目の前に戦艦との通信画面が飛び出した瞬間、両手で耳栓をした。



「ユリカァァァァァァァーーーーーーーーっ!!!」



 ガイの叫び声同様の『声帯』兵器は変わらない様だ。

 それより……相変わらず元気そうですね……お義父さん……いや、ミスマル提督、か……



「お父様!?」



 流石は親子。

 あの死の怨霊(音量)の攻撃を受けてもびくともしないとは……

 慣れというものは恐ろしい。

 ちなみに始めのミスマル提督の一声で、ブリッジの半分位の人が意識を手放しかけていた。(ムネタケを含む)

 故に、誰もユリカと提督の親子の会話を止めるものはいない。



「ユリカ!!

 おお、久し振りだなこんなに立派になって………胸が(号泣)



 おいおい、提督……

 娘に久々に会って、まず言うことがそれですか……



「そんな、お父様とは昨日も一緒に食事をしたじゃないですか」



「そうだったかな?」



 ……アルツハイマー症候群になるには、早すぎやしませんか提督?

 この様な発言を声に出して言ってしまう程俺は愚かでは無いと言って置こう。



「これはこれは、ミスマル提督……一体どの様なご用件でしょうか?」



 このまま放って置くといつまで経ってもおとぼけ親子の会話から抜け出せそうも無いと判断したのだろう……

 いや、絶対に正しい判断だと断言できるが……
 
 早々復活したプロスさんが、二人の会話に無理矢理割り込んでいった。



「うむ、……オッホン……

 では、こちらの用件を言おう。

 機動戦艦ナデシコに告ぐ!! 地球連合宇宙軍提督として命じる!! 直ちに停船せよ!!!」



 流石と言うかなんと言うか……単刀直入ですね提督……

 要するに、軍にナデシコを寄越せ……と言う話だ。



 よくよく考えれば、本当に虫の良い話だよな……

 まぁ、それだけ宇宙軍には、いや地球には戦力的余裕が無いという事なのだろう。

 確かにナデシコの有する戦力は、現在の宇宙軍にとって魅力的に映ったんだろうな……

 ディストーションシールドにグラビティーブラスト……ネルガルの新兵器、『機動戦艦ナデシコ』か……



「……どうします、アキトさん?」



 物思いに耽っている俺にルリちゃんは控えめに声を潜めて話し掛けて来た。 

 どうするか?……要するにこの叛乱に対しての俺の対応についてだろう。



「……今回も動くつもりは無いよ、ルリちゃん」



 そう、これが俺の答え。

 下手に動いて、何かあっては……

 ガイの命がかかってる……



「二人して、何の相談ですか?」



「「!!?」」



 不意に俺達の会話に無理矢理…いや、結構自然に割り込んでくる奴が居た。



「………タチバナさん、何故…何故貴方がここにいるんですか?」



「あはは……

 班長のお使い……だったんだけどね。

 まさか、こんな事になってるとは思わなかったよ。って奴?」



 ルリちゃんはお昼ご飯にと俺にオーダーしたチキンライスを食べる手を止めて、タチバナを訝しげに見つめた。



「それで、動くとか動かないとかって何の事なの?」



 それにもめげずに質問している辺り、結構凄いと思う。

 いや、ルリちゃんの嫌そうな顔って、結構堪えるんだけどなぁ……

 強いのか、それとも鈍いのか……



「別に……タチバナさんには関係ない事ですので……」



 ルリちゃんもあからさまに嫌そうだなぁ……

 それが分からない訳でもないだろうに……



「冷たいなぁ〜ルリちゃん」



 もしかして嫌われたいのか、あいつ?

 それにしても、タチバナ……だっけ?

 俺も声かけられるまでは全く気がつかなかったぞ……

 何者だ、一体?

 ルリちゃんじゃないけど、ちょっと怪しいって言うのは分かる気がして……きた……

 うん、怪しいよな。



「あ、テンカワさん?」



「え? な、なに、タチバナ……君」



 そんな光景を、色々ボーっと考えながら眺めていたら、不意にタチバナは俺の方に向き直った。

 妙に親しげに声をかけられたので、怪しいとか関係なく、何も考えずに応対してしまった。

 ルリちゃん……

 そんなに睨まないで……(汗)

 

「あ、テンカワさんとは二度目ですね、改めて自己紹介させてもらいます。

 俺はタチバナ・サクヤ、17歳。テンカワさんとは年近いですよね?

 整備班所属で、一応副班長なんてやってます。

 もちろんテンカワさんがパイロット続けていくんだったらこれからも色々とお世話になると思うんで、よろしくお願いします!!

 って、とりあえずこれが表向きの自己紹介です。

 俺としては雪村食堂の常連として、テンカワさんの炒飯、また食べられると思うと嬉しいです。

 そっちではお客として、お世話になるつもりですのでよろしく!!」



 元気良く自己紹介をして、右手を差し出してくる。

 俺もとりあえず、その右手に自分の右手を重ねてしっかりと握手を交わす。

 いろいろ気になる事はあるけど、その辺を調べるのは俺じゃなくてルリちゃんの方が向いてるし……

 後で彼のこともう一度調べてもらうように頼んでおこう。



ピッ!!



 すると突然俺とタチバナとの間にコミュニケのウインドウが開く。



『こらっ!! タチバナ、何してやがる!!!』



「うわぁっ!? 班長!!?」



 そこにいたのは、何だか怒っているウリバタケさんだった。

 うーん、こんな時だってエンジン全開だなぁ…ウリバタケさん。



『何だよ、まだブリッジにいたのかよ、お前は……早く帰って来い!!

 こっちは初戦闘後の各部メンテナンスと、お前のせいでいかれたエステの修理が残ってるんだ……』



「あ、はいはい、今すぐ戻りますってば」



 その後しばらくの間コミュニケ越しに説教されているタチバナ。

 それに俺が呆気にとられていると、いつの間にかチキンライスをたいらげたルリちゃんが再び小声で俺に話し掛けてきた。



「ハーリー君に連絡入れておきました。OKだそうです」



 口元をハンカチで拭きながら、そう報告するルリちゃん。



「……そうか、ラピスにはもう連絡してあるから、後は大丈夫なだ」



「……まだ繋がってるんですか?」



 一人納得していた俺に、何故か悔しそうな目で俺を見るルリちゃんだった。



「え? あ、ああ、そうだけど……?

 何からぴすに伝えることあるの、ルリちゃん?」



「あ、いえ、別にありません、すいません」



 不審に思ってルリちゃんに確認してみたが、何だか真っ赤な顔してボショボショと否定された。

 とりあえず、そこでルリちゃんとの秘密の会話は終わった。



「それではテンカワさん、ルリちゃん♪ 俺呼ばれてるみたいなんで行きますね。

 ではまたあとで」



 やっとウリバタケさんの説教から開放されたタチバナは、俺たちにそう声を掛けてからさっさとブリッジを後にして行った。



 え?

 あれ? ちょっと待て。

 俺はさっきから不思議に思っていた事に気が付いて、出入り口付近に視線を巡らした。

 予想通り、出入り口はムネタケの部下がしっかりと守っている。

 そもそも、格納庫だってもうとっくに占領済みの筈じゃ?

 どういうことだ?

 これに関しては流石に放って置く訳にも行かないので、ルリちゃんに確認してもらう。



「ルリちゃんルリちゃん、今タチバナどうやってここ出でったか分かる?」



 俺が確認するように聞くと、ルリちゃんも気が付いたらしくはっとしてから、オモイカネに確認させる。

 もちろんムネタケ達に分からないようにこっそりと。



「オモイカネ、ムネタケ叛乱によるブリッジ制圧後の出入り口から出入りした人間は何人ですか?

 それと、各所の制圧状況を教えて……」



 それに対するオモイカネの返答は俺達を驚かせるには十分過ぎる内容だった。










 それから、俺達がそんなやり取りを終えた頃、ユリカが皆の静止を聞かずにマスターキーを抜き、

 それによってナデシコは操作不能になった。

 そしてユリカはプロスさんにジュンを連れて、提督の待つ戦艦に乗り込んで行った。

 この辺りは前回と一緒だ。

 ……いや、今更だけど、一体何しに行ったんだユリカは?


 この時俺は知らなかったが、どうも俺の両親の死の真相をミスマル提督に聞きに行く事が目的だったようだ。なんてプロスさんはおかしそうに話していた。

 これに関しては、全くユリカらしい……そう思った。


 そして、俺達の目の届かない所で、戦艦クロッカスとパンジーがチューリップに吸い込まれていた……

 ジャンパー処理を受けていない者のジャンプ。

 助かる筈が無い。

 クロッカス、パンジーのクルーを助けられなかった事は、少しだけ俺の心に暗い陰を落とさせた。

 少しづつ変わりつつある歴史の中でも、やはり変えられない大きな流れはあるのではないかと……

 でも、すぐに考え直す。

 今回の2隻の戦艦を俺は見殺しにしたんだ。

 俺達がもっと何か行動を起こしていれば、きっと彼等を助けれ事も出来た。

 歴史なんて関係無しに、俺が彼等を見捨てたんじゃないか……

 そうだ、ここでクロッカスがチューリップに吸い込まれて居なければ、俺達が火星で……

 そう、自分達が、ナデシコが生き残るために、彼等には犠牲になって貰ったんだ。

 色々な事を考え出す頭を振って、ひとまず嫌な自分を振り払う。

 俺は何をしにナデシコに乗ったんだ?

 あの最悪の未来を変えるためだろう?

 だったら、そろそろ覚悟を決めるべきなのかも知れない。

 俺は俺の望む未来の為に、多くの命を踏み越えて行かなくてはならないんだって事を……




 
 

 
 
 さて、何時まで経っても食堂に移動を命じられない俺達はブリッジでボーっとしているしかなかった。

 先程調べてみて分かった事だが、ムネタケの部下によって制圧(?)されている各所では、平常通りの仕事が行われているのだ。

 確かに出入り口はしっかりと兵士によって固められているが、声を掛けて用件を伝えれば、彼らは普通にそこを通してくれる。

 格納庫ではいつも通り慌しくエステの整備が行われているし、食堂ではホウメイさんが忙しそうに鍋を振るい、みんなも忙しそうに注文を受け付けている。

 良く見れば、兵士も一緒になって食事をとっているみたいだ。

 以下、ナデシコ艦内、何処もかしこも、『出入り口に兵士が立っている』という所以外は普段通りのナデシコだった。

 ガイに至っては……



『どうした!! お前等、暗いぞ!!

 俺が元気の出る物を見せてやる!!』



 とか言いながら、医務室の警備(?)に当たっているであろう兵士を捕まえてゲキガンガーのビデオを見せている始末だった。

 ……その元気の良さは相変わらずだな、ガイ。

 懐かしさと共にガイを眺めるのを止めて、俺はルリちゃんに再び話し掛ける。



「ルリちゃん、この兵士達の不可解な行動についての調査は任せるから、俺はそろそろ行動に移るよ」



 兵士達の不可解な行動、その理由は分からないけど、今俺たちにとってはむしろ好都合だ。

 

「分かりました……

 でも、これは一体どういうことなのでしょうか?」



 オペレータ席のコンソールを操りながら、少々戸惑った表情でそう聞いてきた。

 戸惑って当然だ。

 事実俺だって戸惑ってるんだ……

 俺達はまだ特に何かした訳ではないにも拘らず、歴史は明きからに俺たちの知っているものとは変わって来ている。

 

「俺にも分からない、でも、俺達の知っているものと歴史は変わって来ている……

 だから、これからはルリちゃんの情報が頼りだ。

 今回の件、タチバナの件…色々負担かも知れないけど、調査はルリちゃんに任せるよ。

 俺はとりあえず、そろそろ動き出すチューリップを牽制しに行こうと思う……」



 俺は艦長席で踏ん反り返っているムネタケをちらりと見てから、ルリちゃんと視線を交わして頷いた。

 ムネタケがどう思っているかは知らないが、彼の部下達は何故か俺達に危害を加えるつもりがない様だ。

 何故なのかは今は分からないが、案外スムーズにムネタケを縛り上げて、エステバリスで出撃出来るかも知れない。



「あ、アキトさん。

 ヤマダさんが……」



 と、俺が色々と考えている内にガイが動き出したようだ。

 ルリちゃんが見せてくれた映像では折れた足を引きずりながらエステバリスに乗り込むガイの姿があった。

 ガイ、それは陸戦フレームだぞ……



「ルリちゃん、俺はエステで出る、とりあえず、ムネタケを何とかしてから、格納庫へ急ごうっ!!」



「はいっ!!」



 俺とルリちゃんがそんな事を話しているとミナトさんが話しかけてきた。
 


「あれ〜、ルリちゃんってアキト君と仲がいいんだ?」
 


「はい、そうなんですミナトさん」



「でも、俺とも仲が良いんですよ、ミナトさん♪」
 


 ……俺はどう返事をするべきなんだろう?

 一瞬悩んでいたが、また前触れもなくまたブリッジに現れたタチバナに思考を遮られた。

 今出入り口開いたか?



「えっと……、ルリちゃん、こちらの陽気な方は?」


 
 流石のミナトさんもたじろいでいるな……恐るべし、タチバナ。

 あ、ルリちゃんも呆気にとられて何も言えなくなってる。



「あ、俺はタチバナ・サクヤです。一応整備班副班長です。以後お見知りおきを」



 恭しく一礼をして、自己紹介をするタチバナにかわいた笑いをするミナトさん。



「……アキト君も艦長とルリちゃんを、天秤にかけたりしないわよね〜」



 
 とりあえず不可解の塊であるタチバナは無視する事にして、ミナトさんが真剣な瞳で俺に話しかけてくる。

 懸命な判断だと思います。

 でも、少し怖いです、ミナトさん。
 


「アキトさんはそんな事しませんよミナトさん」
 


「ふ〜ん、アキト君の事には詳しいんだルリちゃんは」
 


 今度は優しい目でルリちゃんを見詰めるミナトさん。

 ……そう言えば過去でもミナトさんが、一番ルリちゃんの面倒を見てたな。
 


「ええ、アキトさんの事には詳しいですよ私は」


 
 ルリちゃんも、ミナトさんに微笑みながら返事をする。

 そんなルリちゃんの返事と表情に、驚くミナトさん。


 
「初対面の時は、あんなに無表情だったルリちゃんが……

 そうか、これも全部アキト君のお陰なのね」
 


 ……ミナトさん……全部って、まあ間違っては無いか。

 ……いや、やはりルリちゃんの成長には、ミナトさん貴方も関与してますよ。


 
「そうですね。

 最初の時は実は緊張してたんです。

 アキトさんと、再会出来るかどうか解らなかったので……」


 
「ほぉぉぉぉぉぉ!! 言うじゃないルリちゃん!!」


 
 ……もう勝手にやってくれ。
 


 そういえば……

 俺はふと思い出して、タチバナの姿を探す。

 タチバナはブリッジの隅の方で膝を抱えていじけていた。

 結局最後までタチバナを無視したままルリちゃんのその言葉を最後に、ミナトさんは食堂に食事をしに行った。

 やはり警備員は笑顔でミナトさんに道を開け、「お気をつけて」等と言って見送っていた。

 いや、だからお前等兵士は何の為にそこにいるんだよ……?

 そんな疑問に支配されつつあった頭を振る。

 ふとタチバナの視線を感じてそちらを見ると、その手には何故か縄が握られていた。



『テンカワさん、あのキノコ野郎をこの縄でふん縛ってやりましょうっ!!』



『え? あ…いや…… 何が言いたいんだろう?』



 無言のアイコンタクト。

 彼が何を言いたいかは全く分からないが、恐らくあの縄でムネタケを拿捕しようと言いたいのだと思う。

 とりあえず、それ以外の用途を考えてあの縄を持っているんだとしたら、俺には想像がつかない。



「ルリちゃん、これから俺はムネタケを捕まえる、

 一応念の為、ムネタケの通信が部下達に行かないようにしてくれ」



 小さな声でルリちゃんにそう言ってから、俺はタチバナに向かって頷いて合図する。

 同じようにタチバナも頷いた。

 この際、ルリちゃんの視線は無視だ。

 彼が誰かとか、怪しいとかは今は忘れよう。

 今俺がすべき事……それは……


 ナデシコを守ることだ。



バッ!!!



 俺とタチバナによるムネタケ捕獲作戦は、本当にあっさりと終了した。



「ちょっと、あんた達なにす―っ!!」



 ムネタケ、抵抗もむなしく俺の首への手刀で黙らされる。



「よし、一丁上がりっ!!」



 タチバナは手をパンパンと合わせながらそう言うと、楽しそうに笑っていた。



「まさかこうも簡単に行くとは、

 テンカワさんって強いんですねっ!!」



 そういいながら背中を叩いてくるタチバナ。

 正直ちょっと痛い。



「…………………」



 ルリちゃんの視線も痛い。


 それにしても、自分達の司令官が目の前で拿捕されていると言うのに、助けようともしない彼らはなんなのだろう?

 かなり大きな疑問だ。大きな疑問なのだが……



「アキトさん、敵チューリップ、目標をナデシコに変更っ!!

 急がないと無防備なナデシコは沈みますっ!!」



 今は、それどころじゃなさそうだ。



「テンカワさん、エステの準備出来てますよ。

 俺はそれを伝えに来ました。速く行って下さいっ!!」



 なるほど、だからタチバナはここにいる訳か。




「ちょっとごめんね、ルリちゃんっ!!」



ヒョイッ



「っえ?」



「あ、テンカワさん、ずるーいっ!!」



 タチバナの言葉を聞いて、俺はルリちゃんを抱えて走り出した。



「サンキュウ、タチバナ。

 俺達は急いで格納庫に向かうよっ!!

 後のことは君とゴートさんに任せたからっ!!」



 叫ぶようにそう言い残して、俺達はチューリップを牽制する為に、エステバリスの格納庫に向かった。

 










「……今回もマニュアル発進ですね」



 何だか嬉しそうなルリちゃん。

 格納庫に着いてからと言うもの、終始上機嫌なのは何故だろう?

 そういえば、ウリバタケさんが目くじら立てて怒っていたけど、俺何かまずい事したかなぁ?



「……ちゃんと飛行ユニットといてるよ、今回は。

 流石ウリバタケさん達だね」



 流石に、もうあれをやるのは……勘弁してもらいたかったので、正直腕のいい整備士達に感謝だ。



「そうなんですか……じゃあヤマダさんは本当にイイトコなしですね」



「……だな」



 諸々の計器のデータを確認、うん、流石ナデシコ整備班。

 すまん、ガイ。

 何時の日かお前も、日の目を見る時がきっと来るさ……

 いや……多分……

 



 

 
 その後ブリッジに戻ったルリちゃんが……



「あれぇ〜、ルリちゃんどうしたの、急に笑ったりなんかして?」



「ええ、ちょっと良い事があったんです。

 それとちょっと意地悪をしてあげたんです……

 昔された意地悪の仕返し……かな?」



「誰に意地悪したの?」



「秘密です」



「教えてよぉ〜ルリちゃん」



「幾らメグミさんでも、これは絶対に秘密です」



「もぅ〜、ルリちゃんの意地悪!!」



 等とメグミちゃんとの会話があった事など、俺は全く知らない。

 知らないったら知らない。









 結局俺はこのチューリップと遊ばなければいけないらしい。

 とりあえず襲い掛かってくるチューリップの触手を紙一重でかわしつつ、若干おたおたしながら(実際には余裕を持ってなのだが)ディストーションタックルでそれを切り落としていく。



「さて、このままユリカが来るまで遊んでるか……」



 もう何回目に成るか分からない触手との攻防を繰り返しながら、独り言のように呟く。

 するとすぐに通信でユリカがナデシコに到着した事が報告される。

 後数分もすれば、ユリカがブリッジに到着、ナデシコがチューリップの中に頭を突っ込み、グラビティーブラストの一撃で決着が付くだろう。



 しかし、ここに来てチューリップに異変が起きる。



『アキトさん、チューリップより敵戦艦がジャ……現れますっ!!

 戦力分析中、気を付けて下さいっ!!!』



 ルリちゃんから予想外の報告。

 チューリップが戦艦を吐き出してきたのだ。

 前回ではここで戦艦など出てこなかった……

 俺はチューリップの触手攻撃を避けながらどうするべきかを考えた。

 今、このエステでも俺なら十分に敵戦艦を落とせるだろう。

 しかし、こんな所で俺の実力を明かすのは得策ではないだろう。

 敵と言ってもレーダーに映っているのはカトンボが数隻。

 ナデシコの戦力を考えれば、落とせない数ではない筈だ。



『敵戦力判明、無人駆逐艦カトンボ級戦艦6隻。

 ナデシコ既に敵の射程範囲内です。

 艦長、指示を……』



 ウインドウに映るルリちゃんの表情は余裕がある。

 彼女にもナデシコの実力は痛いほど分かっているんだ、焦る必要など微塵も無い。

 本当なら、彼女はもう的確な判断が出来ているだろう。ナデシコBでは彼女が艦長だったのだ。

 しかし、ここはナデシコA。艦長はユリカだ。



『ディストーションフィールド出力全開っ!!

 グラビティーブラストチャージ始めて下さいっ!!』



『グラビティーブラスト、チャージ』



『テンカワ機は敵の一斉砲火をナデシコが凌いでから、一度フィールドをカットするのでタイミングを見計らって帰艦して下さい。

 敵は無人兵器です、攻撃の後はその攻撃の成否を確認する為、行動を一瞬停止する筈です。

 船速はこのまま維持して、チューリップに向かって下さいっ!!

 敵の砲撃が来ます、総員衝撃に備えて下さい!!!』



 凛とした声が響く。

 すぐ後ユリカの言った通り、カトンボ共は一斉にインパクトレーザーとミサイルをナデシコに向けて発射する。

 その攻撃がフィールドに直撃すると敵艦隊は一瞬その動きを止める。

 これもユリカの言った通りだ。

 全く良い読みをしている……なんて感心しながらも、その一瞬だけカットされたフィールドのタイミングを図ってデッキに滑り込む。



「ユリカ、俺はデッキに戻ったぞっ!!」



 ユリカの腕を改めて実感しながら、言わなくても分かるだろう事を報告する。

 すると、ユリカの元気な声が返ってくる。



『テンカワ機帰艦を確認。

 おかえり、それとただいまアキトっ!!

 出力50%でグラビティーブラストを敵艦隊に掃射して、すぐに再びチャージ……

 船速を落としながらそのままチューリップに向けて直進して下さいっ!!』



『グラビティーブラスト、発射』



ズガアァァァアァァッァンッ!!



『敵全艦に命中、敵艦隊消滅を確認』



 警戒に出されるユリカの指示を、忠実に実行するブリッジクルー達。

 ルリちゃんの報告でカトンボ共を撃沈した事が分かる。



『艦長〜?

 このままじゃ、あのおっきいのの中に突っ込んじゃうわよぉ〜っ!?』



 ミナトさんの不安そうな声が聞こえてくる。

 当たり前だよな、良く考えれば随分と無謀な作戦だもんな。

 チューリップを内部から破壊しようなんて…・・・

 この頃はチューリップがどんな物かも、全く理解してなかった訳だし……

 いや、まぁ、無謀じゃないナデシコの作戦の方が珍しいと言えば珍しいが……

 この後ユリカの

『大丈夫です、古今東西あの手の硬くて大きい敵は内部からの攻撃に極端に弱いといいます』

 と言うむちゃくちゃな説明で押し切った後、

 ナデシコの船首をチューリップに突っ込んだ状態でのグラビティーブラストの一撃で過去と同様チューリップは爆散した。

 そんなこんなで前回と多少異なる展開は見せたものの、戦闘は無事終了したと言えるだろう。













ピッ!!



「ルリちゃん……ちょっといいかな?」



 戦闘も終わり、自室に戻った俺はルリちゃんに通信を送る。



『なんでしょうか、アキトさん?』



「叛乱の件……何かわかった事あるかな……と思って」



 俺は戦闘中ずっと気になっていた事をルリちゃんに聞いてみた。

 何故兵士達は俺達に向かって銃を向けなかったのだろうか?

 あの叛乱は何の意味があったのだろうか?

 考えれば考える程おかしな所ばかりが見えてくる。



『申し訳ないですアキトさん、今オモイカネに調べさせている所です。

 流石に戦闘中には調査は出来なかったので……

 何かわかり次第連絡しますね……

 後、アキトさん、先程の戦闘の事なんですが……』



 言われてみれば確かにそうだ。

 自分の迂闊さを少し呪う。

 時間的余裕を考えて、調査が出来る筈が無いじゃないか……

 そして、ルリちゃんは不安そうな顔をして続ける。



『どういう事でしょうか……

 私の知る限りでは、あの場面で戦艦は出てきませんでした。
 歴史はもう、変わり始めている……

 それはもう、間違いない事なのですが……』



 ルリちゃんが感じる不安。

 知っている筈の歴史と食い違う現実。

 見えている筈の未来が霞んでいく不安。

 生きていく上では当たり前の現実が、二度目の人生を歩んでいる筈の俺たちにとってはこの上なく不安だった。



「それは俺にも分からないよ……

 これについては、俺たちでは調べ様が無い。

 木連の出方に注意しないと痛い目を見るかも知れないね……」



 気休めみたいな事しかいえない自分が歯がゆかった。

 俺自身も、考えていない訳ではなかった。

 明らかに変化している歴史。

 これからどうなっていくのか、知っている筈なのに分からない。

 失敗は許されないのに、こんな事では、本当に先が思いやられるばかりだ……

 でも、さっきも言った通り、今の俺達にはどうする事も出来ない問題だってある。

 先を知っている事で、もしかしたら俺は油断していたのかも知れない。

 その油断に気付かされたと言うだけでも、今回の誤算にも意味があったのかもしれないな……

『そうですね……

 油断大敵、ということですか……

 それにしても、アキトさんもやっぱり不安だったんですね……

 いくらなんでも、そんなに沢山の事、私でもそんな早くは調べられません』



 何だか重くなる空気を何とか軽くしようと、ルリちゃんは努めて明るい口調でそんな事を言った。

 何だか、ルリちゃんに気遣われてばかりのような気がする……

 それに、短慮だった自分の行動も含めて、精一杯の誠意を込めて謝罪する事にした。

 そうだな、考えても分からない事を深く考えても仕方ない。

 少なくとも今は、そう思うより他無いんだから……



「ごめん、そうだよね。

 俺が考え無しだった。

 何か分かったら連絡よろしく。

 ……何だか面倒ごとを任せてばかりで……ごめんね、ルリちゃん」



 俺がそう言うと、ルリちゃんは何だか楽しそうに笑いながら、



『高いですよ、アキトさん……

 そうですね、今度一緒にバーチャルルームで遊んで下さい。

 それでチャラです』



 何て冗談を混ぜて返してきた。



「分かったよ、ルリちゃん。

 じゃあ、今度……約束だ」



『約束ですよっ!!

 では、何かわ分かり次第連絡をします』



 ルリちゃんは俺の冗談に乗りながら、最後にそう言って通信を終了した。



「しかし……ルリちゃんの成長には驚かされたな。

 ……そうだよな、ルリちゃんが俺のあの二年間を知らない様に、

 俺も知らない、ルリちゃんの2年間があるんだからな」



 あんな風に冗談まで言うようになったなんて……

 何だか無性に嬉しくなってそのままラピスに声を掛けた。



(ラピス……)



(何、アキト?)



(……頑張ろうな)



(……うん、アキトも頑張ってね。

 私もハリと一緒に地球で頑張るから)



(……ああ、じゃあまた)



(うん)



 ラピスも精神的に急速に成長している……

 俺の心残りは、段々解消されて行くだろう。



「後は……

 ……………………?

 って、ガイ!?

 ガイの回収まだだろっ!?

 ルリちゃんっ!! ガイを、ガイを回収してやってくれっ!!」



 ガイの回収を無事終えて、俺は宛てない未来を夢見ながら、エステバリスのコクピットを後にした……



















 ウインドウに映し出されている映像を見て、思わず私はため息をついてしまいます。



「ふぅ……」



 どうしてこう、この人は不可解な行動ばかりをとるのでしょうか?

 叛乱前後の艦内の監視カメラの映像を調べていたら、直ぐに見つかりました。

 不可解な、と言うよりは何だか訳の分からない映像が……



「オモイカネ、これで全部ですか?」



『全件再生終了デス。』



「ありがとう。」



 オモイカネが私に見せてくれた映像……



「やはり、今回もあの人に話を聞かないといけませんね……」



 少々頭痛を催す頭を抱えて、私はオモイカネに頼んであの人に通信を繋いでもらいます。



ピッ!!



「よろしいですか、タチバナさん?」




















『よろしいですか、タチバナさん?』



 今回もやはり、ルリちゃんから通信が入る。

 うん、そう来なくっちゃっ。



「どうかしたのかい、ルリちゃん?」



 彼女が言いたいことは分かりきってはいるが、敢えてはぐらかす。

 何故かと聞かれたら、そんなもの決まっている。

 ルリちゃんと沢山お話がしたいからだ。



《前回同様、白々しい発言ですね。》



 ウィスの突っ込み。

 いいからちょっと黙ってろ、ウィス。



『少し伺いたい事があるんですが……』



「うん、何かな?」



 やっぱりはぐらかす。

 理由は簡単だ…以下略。



《本当に嫌われますよ》



 ウィスの言葉には無視を決め込む。

 大丈夫だ、ルリちゃんはそんなに尻の穴の小さい人間じゃない。



《その言い回しは、卑猥です。訂正した方がいいと思います》



 大丈夫、気にしたら負けだ。



《負けで結構です》



 無視…出来て無いじゃん、俺……



『では、この映像を見てください。

 オモイカネ、再生お願いします』



 俺の思惑などお構い無に、ルリちゃんはそう言って別ウインドウに『何か』の映像を映し出す。



《何で消しておかなかったんですか? マスター》



 映像を見て驚くウィス。

 だって残しておけば、ルリちゃんがまた気が付いて通信してくるかなぁと思って。




《………………はぁ……もういいです》





 相している内に映像が再生される。




 ―――――――――――――――――――




『どうもどうも、任務ご苦労様です♪』


 
 白々しくも、アホみたいに声をかける俺。

 声をかけられた生活班所属アカザワ トモヤ(仮)はビックリした顔で俺の顔を見た。



『任務って何の事ですか?

 えっと……誰だっけ?』



 俺が言うのも何だが、白々しさ全開で爽やかに答えるアカザワ(仮)。



《自分で言っていたらもうお終いですね、マスター》



 うるさい。



「整備副班長タチバナ サクヤですよ、アカザワ トモヤさん。

 嫌だなぁ〜、知らばっくれないで下さいよぉ〜、俺知ってるんですよぉ〜

 懐のブラスターとムネタケ提督……これだけ言えば十分ですよね?

 それとももっと説明が必要ですか?」



 俺のその台詞を聞いて、驚愕の顔をするトモヤ君19歳。

 よく考えれば、今の俺より2歳も年上じゃないか。

 なんて失礼な奴だ、俺。



《精神年齢はマスターの方が一回り上ですけどね。》



 大きなお世話だ、ウィス。



「な、何故その事を………

 しょ、所属と本名を名乗れっ!!」



 と言うのがトモヤ君の反応。

 要するに、自分達の仲間だと思いたいのだろう。

 そうじゃなきゃ、自分の事が外部に漏れてしまったと言う事で責任問題になってしまうからだ。

 可哀想だけど、そうなんだよね。



《本当に可哀想だと思っているんですか、マスター?》



 全然っ♪



《………………………………》



『株式会社カーネリアンから株式会社ネルガル兵器開発部門への出向社員。

 新造宇宙戦艦ナデシコ整備班所属、整備副班長タチバナ サクヤ、本名同じ』



 正直に名乗る俺。

 それ以外に答え方があるなら、誰か教えて欲しいものだ。うん。



『そんな事は聞いてない。

 階級と所属部隊、そして本名を名乗れっ!!』



 いい加減諦めればいいのに、今だに自分の推論にすがるトモヤ伍長。

 その推論には無理があるとは思わないのかなぁ?



『だから今言ったでしょ?

 タチバナ サクヤ、本名同じ。

 階級なんてありませんよ、俺軍人じゃないんですから』



 現実を突きつける俺。

 彼が推論にすがれたのは、俺がしっかりと現実を突きつけてあげなかったからだ。

 突きつけられた現実に、さらに驚愕するトモヤ伍長、連合宇宙軍極東方面軍所属。



『………………アンタ……

 アンタ、何者だ?』



 懐に手を入れ、ブラスターをしっかり握りながら、震える声でそう言ったトモヤ伍長。

 ちなみにナデシコのクルーとしての名前はハラダ トモアキだそうだ。

 何というか安直な偽名だと思う。うん。



《偽名に拘るのもどうかと思いますが》



 そうなのか?

 まあいいや。



『同じ事を三回も言う趣味はないんですが。

 フッフッフッ……

 タチバナ サクヤ、探偵だっ!!!



『………………………………』



《………………………………》



 某少年探偵よろしく高々とたった一つの真実を名乗る俺。

 真実はいつも一つなのだ。



《改めて見ると、何というか……アレですね、マスター》



 五月蠅い、黙れ。



『た、探偵……?

 探偵が何故ここに?』



 素直にその冗談を受け止めるトモヤ伍長。

 とっても真っ直ぐな性格のようだ。要するにバカだ。



《ネタが通じなかっただけじゃないですか、マスター?》



『フッ……

 知れた事。それは三日前の夜の事だ……

 出航前にエステバリスの整備をしていて、

 疲れてそのまま格納庫で眠ってしまった俺の夢枕に

 二十年前に死んだじっちゃんが突然現れてこう言ったんだ……

 『シーフードヌードルのエビだけ集めて死ぬほど喰いたい……』

 となぁっ!!!』



『………………?』



 トモヤ伍長は呆れると言うよりは、何だか困っているようだ。



《困らなかったら、凄いですね。

 そもそも、何で17歳のマスターが20年前に死んでしまったお爺さんを知っているんでしょうね?》



『フッ、分からないのか?』



『ああ、全く訳が分からない。

 そもそも、俺達が何でこんな事を話しているかって事からもう、全てがわから──』



『謎は全て解けた……

 お前達の陰謀は、この俺が絶対に阻止してみせるっ!!

 じっちゃんの名に賭けてっ!!!』




 ババーンッ!!



 と言う効果音が欲しいところだ。

 それは今さら言っても仕方ないか。

 後で編集しておこう。うん。

 で、トモヤ伍長の反応だが、



チャッ……



『この際だから、君が何者であるかはもう聞かない。

 と言うか、もうあんまり付き合いたくない。

 疲れるから……だから、おとなしくしてもらおうか?』



 懐のブラスターを抜いて俺に向けると、冷静にそう告げてきた。

 少し格好良いぞ、トモヤ伍長っ!!



『抵抗するのなら……

 撃つっ!!』



 俺が抵抗する素振りなど見せる前から、指に力を入れ始めているトモヤ伍長。

 撃つ気満々だ。



《恐らく、自分の視界からこの不快な存在を早く消し去りたかったのでしょう》



 恐らく、そうだろう。



 それに対してこの時の俺は、



『……フッ』



 静かに笑うとこう言った。



カチャッ……



 言おうと思ったら、ブラスターの安全装置を外す音。



『まぁ、待て待て待て待て……

 俺は痛いのは嫌だ。

 ここは音便に話し合いで行こうじゃな──』



ゴリッ……



 額の真ん中に突きつけられる銃口。

 ヒンヤリして気持ちよかったなぁ〜。



『いい加減にしろ。

 このまま、おつむにのぞき穴を作ってやっても良いんだぞ……』



 とは、トモヤ伍長の台詞。

 いやぁ、穏やかじゃないですなぁ〜(プロス風)



《似てませんね》


 黙れ。



『良いんですか、そんな事して?

 さっきから大分時間が経ってますし、誰か来るかも知れないのに

 こんなところでそんなものぶっ放したら……ねぇ?』



 なおも俺の挑発は続く。

 我ながら命知らずな奴だ。

 しかし、伍長も負けてはいない。



『ここの通路の先には俺の自室しかない。

 俺以外は誰も通らないさ。

 お前もソレを知ってて、声をかけたんだろう?』



 ご尤もだ。

 こういう場所だから、俺も声をかけたんだもんな。

 この軍人もバカじゃないって事だ。



『それでも、銃声は響くし、血痕とかどうするんです?

 死体は?

 コミュニケだってありますし、ナデシコの艦内警備システムにだって引っかかってしまいますよ。

 そんな事になったら、艦内は警戒態勢になって、動きにくくなる。

 作戦自体見送りって事にもなりかねない。違いますか?』



 バカじゃないなら話は早い。

 こう言ってしまえば、彼なら動けなくなってしまう──



スッ……



 筈だったのだが、伍長はブラスターをしまうと、ゆっくりナイフを引き抜いて、俺の体に突きつけた。



『このまま心臓を一突きすれば、うめき声は上がってもそれ以上の物音はしない。

 それに、ナイフを抜かなければ殆ど血も流れない……そう言う刺し方だって身につけているんだ。

 残念だったな。タチバナ君』



 タチバナ君ぴんちっ!!

 どうするタチバナ、このままでは殺されてしまうぞっ!!

 とか言ってみるも、俺はこうして生きているので、安心して下さいね。



《誰に話し掛けているんですか、マスター?》



 さぁ、誰だろう?

 謎だった。



『いいですか、アカザワ伍長。

 コミュニケーター、通称コミュニケは装着しているクルーの身体情報を常にメインコンピュータに送っているんです。

 突然心停止なんてしたら、それこそ非常事態だって事になっちゃいますよ、いいんですか?』



 どうやらその事実を知らなかった伍長は『っくぅ……』と小さく悔しそうに呻いてナイフをしまった。

 タチバナはその命の危機から、自らの機転で脱したようだ。



《脱したようだって、自分の事でしょう、マスター?》



『ああ、それと、もう一つ。

 この不肖タチバナが有力な情報を提供しましょう。

 今までの会話、全部俺の仲間にコミュニケで送ってあって、それを録音するように指示してあります。

 俺に何かあった場合、すぐにソレを艦内のクルーのコミュニケに送信されるんです。

 どうです?

 ためになったでしょう?』



 ブラフを交えつつ、だめ押しの牽制。



『っく…………

 貴様……こんな事をして、一体何が望みだ?』



 トモヤ伍長の苦々しい顔。

 相当に悔しそうだ。



『そう、ソレっ! その台詞を待ってたんですよっ!!

 いやぁ、その台詞が出てこなかったらどうしようかと思ってた所なんですよぉ。

 俺の目的はさっきも言った通り、“この叛乱の阻止”なんですけどね。

 もっと重要なのは、あの無能副提督ムネタケを陥れる事なんですよ。』



『……?

 どういう事だ?

 ムネタケを陥れる事が目的って?』



 俺の突然の言葉に少々戸惑いながらも興味を示すトモヤ伍長。

 彼がムネタケに対して不快感を越えた恨みを持っている事を知っていた。

 興味を示さない筈はなかったのだ。



『知ってますよ、貴方がムネタケにはめられた事……

 本当なら、エリートコースで今頃は奴なんかよりもずっと上の階級に上がっているはずだったのに、

 奴の陰謀にはめられて伍長止まり。

 さぞ悔しかったでしょうね。

 俺のオヤジもそうでした……

 奴の出世の為に切り捨てられて、軍を追われ、今ではただののんだくれ……

 お袋は俺と義妹をおいて他の男と逃げちまったし……

 奴のせいで、俺の生活はメチャクチャだっ!!

 俺の本当の目的は、ムネタケに復讐する事ですっ!!

 叛乱を阻止するのだってその一つに過ぎませんっ!!!』



 力説する俺。

 ちなみに大嘘だ。



《マスターのお父様は二年前にお亡くなりになっていますし、そもそも軍人でもありませんからね》



『……タチバナ……

 じゃあ、お前がこの船に乗った理由は……』



 俺の真に迫る演技に引き込まれるトモヤ伍長。

 いい奴なのだろう。

 俺はそんな優しい伍長にとどめを刺す。



『そうです、奴が……ムネタケがこの船に乗るっていう情報を入手したから……

 奴を陥れる為に乗船を決意しました。

 アカザワ伍長っ!!

 俺に力を貸してはくれませんかっ!?

 こんな風に貴方に話し掛けたのは、貴方の力を借りたかったから……

 アイツに……ムネタケに恨みを持つ貴方なら、力になってくれると思って……』



 悪魔の誘惑。

 上官を裏切り、この誰だかも知れない男に協力する。

 普通の頭を持った奴なら、こんな話にはノリはしないだろう。

 でも、興味は引く。

 興味さえ引ければいいのだ。



『……奴のオヤジは参謀長官。

 お前はそんな奴を陥れるのがどれだけ大変な事か分かっているのか?』



『我に秘策ありです。

 今回のナデシコ制圧作戦を失敗すれば、責任者であるムネタケはその経歴に泥を塗る事になる。

 但し、この時、部下に当たるあなた方が奴の指示を忠実に守っていた場合、

 奴はあなた方の失敗としてその責任を逃れるでしょう。それでは駄目です。

 では、どうすればよいか? 分かりますか?』



 伍長の言葉に対して、俺はそう切り出した。

 彼は俺の話術にはまっていた。



『…………一体どうすればいいんだ?』



 そして、もう逃れられなかった。



『簡単ですよ。

 部下であるあなた方が、まず奴を裏切ればいい。

 そうなれば、失敗は部下を管理できなかった奴の責任以外に理由は見つからないし、

 あなた方は一度裏切り者となるが、

 『民間人ばかりの船で海賊行為など、軍人としてのプライドが許さなかった』

 とでも言えば、彼の作戦が『海賊行為』だったという印象を与える事が出来、あなた方の正当性も獲得できる。

 どうですか、この作戦なら、あなた方は自分の地位を落とすことなく、奴だけを陥れる事が出来るんです』



 この時、もう彼の言葉は決まっていただろう。

 しかし、もう一押しをしておく俺。抜け目がないというよりは、鬱陶しいし嘘っぽいか?

 まあいいや。



『今までの失礼な態度は、貴方を試していたんです。

 無礼な態度、お許し下さい。

 …………お答えは?』


 恭しく聞く俺の質問にトモヤ伍長は、迷うことなくこう答えた。

 すっかり勢いに呑まれてるな、トモヤ伍長。

 後になって振り返って後悔するタイプだろう。



『その作戦。乗らせて貰おう』



 はい、契約成立。

 可哀想に俺の嘘に騙されて、軍を裏切る事に……



《詐欺師の才能がありますね、マスター》



 策士と言ってくれ。



ブツッ―――――



 再生終了。



『ここで語った過去に関して色々聞きたいところですが……まだまだあるので続けます』



 ルリちゃんはそう言って次々と映像を再生していく。











 まぁ、その後の映像も内容は一緒で、

 ナデシコ艦内にクルーになりすまして潜伏していた兵士達に何か話しかけ、

 最終的には俺と兵士が仲良さげに握手をしている。

 どれもしっかりと音声も入っていて、俺がムネタケの配下の兵士を説得し、

 叛乱時にナデシコの乗組員には手を出さないことを約束させていた。



 とまぁ、映像の内容はまとめるとこんな感じだ。



《妹の写真で釣る、反論無用の理詰めの論理、キノコの悪口……手口が汚いですよね》



 目的は果たせてるんだから、問題はない。

 とにかく、俺が事前に叛乱を察知し、その被害を兵士達も含め最小限(ガイのみ)に止めた事がしっかりと分かる映像だった。



「この映像がどうかしたのかい?」



《ここまで来ると、白々しいとか言うレベルではありませんね》 



 これだけの映像を見せられてもしらばっくれる俺にウィスは呆れっぱなしだ。

 大丈夫だ、俺はこういう奴だともう彼女にも思われてるからっ!!

 なんだか自分で言っていて悲しくなってきたが、きっと、多分気のせいだ。うん。



『どうもこうもありません、いったいどうしてこんな行動に出たんですか!?』



 当然ルリちゃんはかなり不機嫌な様子で俺に食い下がってきた。

 胡散臭い事は認めるけど、俺ってそんな不機嫌になるような事したかな?



《胡散臭いのが腹立たしいのでは?》


 なるほど。

 更に俺の胡散臭い弁明は続く。



「いや、艦内に不穏な気配を感じたから、予め手を打ったんだけど。何か問題でもあった?」



《この人は……言うに事欠いて『不穏な気配』ですか?

 貴方の方がよっぽど不穏です、マスター》



 黙れコンピュータ。

 俺の態度が悪いのか、ルリちゃんは見る見る内に白い綺麗な肌を赤く染めていく。



『不穏な気配って……

 それでは聞かせていただきますが、一体どうやってクルーと兵士を見分けたんですか?

 あなたは超能力者か何かですか!?』



 一気に言葉を吐き出すと、怒りの眼差しで俺を射抜くルリちゃん。

 もしかして、思い切り嫌われてたりするのかな?



《当然ですね。それだけのことやってますし》



 煩い。

 俺は嫌われてなんか無いやいっ!!

 取り敢えず、もう少し言い逃れをしてみる。



「まず動きの違う人を一人見つける。

 俺がそういうのを見分けられるってのは知ってるでしょ。この前話したし……

 “明らかに訓練された動きをしてる生活班”とか、怪しすぎるでしょ?」



《何度も言うようですが、マスターよりはましかと思います》



 黙れ。



「それからその人を説得して、あとはその人から他のメンバーを聞き出す。

 その人達も説得して回る。はい終わり。簡単でしょ?」



《マスター、妖精を舐め切ってませんか?》



 気のせいだ。

 俺はきちんと彼女を尊重してるぞ。

 心の中で。



《だから嫌われるんです》



 びきっ



 ウィスを握る手に力を込める。

 程良い快音が鳴る。



《きっと照れてるんですね。顔も赤いですし》



 我が身可愛さに言い直すこいつは本当にコンピュータAIなのか、作った俺ですら疑わしい。



『動きが違うって……ゴートさんやプロスさんすら見分けが付かなかったのに、

 どうして一整備員のあなたがそれを見分けられるんですか?』


 
 っう……!?



《痛いところをつかれましたね、で、どう答えるんですか? マスター》



 確かに鋭い良い指摘だ。

 そう言えばそうだ。

 あの二人に見抜けなかったのだ。

 いや、見抜いていながら放置していたと言う可能性もあるが……

 これは言い逃れの方向性を帰る必要があるようだ。
 


「一整備員ならね……」



 俺は思わせぶりな事を口にする。



《マ、マスター!?》



 説明がないままなので、ウィスも驚愕しているようだ。

 今は放っておく。



『……!?』



 流石のルリちゃんも予想だにしない回答だったらしい。

 瞳を見開いてしっかり3秒沈黙していた。



『それは一体、どういう意味ですか?』



 ルリちゃんは押し殺しきれない期待の眼差しで俺を見つめている。

 その期待に応えてあげたいのは山々なんだけど……



「俺の経歴については知ってるよね? アレね、嘘じゃないけどちょっぴり不完全なんだよねぇ〜」



《マスター? あなたは一体何がしたいんですか!?》



 今は答えてあげられない。

 ウィスの方は面白いので放置する。



『不完全って……ネルガルを侮らないでください。

 そう簡単に過去をごまかせると思っているんですか!!』



 俺の台詞にいい感じに食いついてくるルリちゃん。

 思うように会話が進んで楽しい事この上ない。

 うん、素直ないい子は俺大好きだよ。



《11歳の少女にその台詞は倫理的にちょっと》



 可愛いから関係ない。



《…………………》



 どうやら呆れてものも言えないようだ。

 まだまだだね、ウィス。



「そう、ネルガルを侮っちゃいけないよね。」



『…………一体何が言いたいんですか?』



 ルリちゃんは訝しがりながら、それでも真実を見逃すまいと真剣な表情で俺の答えを待っている。

 俺がまだ真実を口にすると思っている辺り、若いよね。

 煙巻こうとしてるんだから、本当のことを言うわけ無いのにさ。



「そのネルガルが、俺の過去を誤魔化しているんだとしたら?」



『!?』



 ルリちゃんは驚きを隠せない様子で、少し黙ってから確認するように俺に聞いてきた。




『要するに、タチバナさんはプロスさんやゴートさんのように

 ネルガルから派遣されてきたシークレットサービスと言うことですか?』



「さぁ、俺の口からは何とも……

 にしても、ネルガルシークレットサービスを知ってるなんて、

 しかもあの二人の事も、

 ルリちゃんの方こそ何者?」




 白々しくしらを切りながら、攻撃してみる。



『…………

 私はナデシコまで護送された時に知りました。

 タチバナさんこそ……』



 あっさり返されちゃったよ。

 ま、当たり前だけど。



「いや、俺一応ネルガルの社員だし。

 社長さんだったりもしたから、知ってて当然でしょ」



『そういえばそうでしたね』



 無言。

 視線と視線ぶつかり合う。



「………」



『…………』



 ルリちゃんは少しだけ逡巡すると、おもむろに新たなコミュニケを開く。



 ピッ!!



『なんですかな? おやおやルリさん、私に何かご用ですかな?』



 新しいウインドウに姿を現したのは、やはりプロスさんだった。

 いつも通り胡散臭い笑顔で笑っている。



《マスターよりは――》



 ましだって言うんだろ、分かってるよ。



『こんばんわプロスさん。ちょっとお聞きしたいことがあるんですが……』



 ルリちゃんはそう一言確認を入れると、例の映像を見せる。



『おやおや、これはこれは……』



 プロスさんの反応を見る限り、多分知っているようだった。

 それを黙ってるなんて、人が悪い。



《マス―》



 俺の方が人が悪いですよ、そうですよっ!!


 一通りの映像を見せると、ルリちゃんはプロスさんの表情を十分に伺ってから、

 ネルガルが隠したという俺の過去についてプロスさんに質問した。



『タチバナさんは

 “ネルガルが自分の過去を誤魔化している”

 と言っているんですが……これは一体どういう事ですか?』



『タチバナさん本人がそうおっしゃられたんですか?』



 プロスさんは眼鏡を光せながらゆっくりとルリちゃんに確認する。

 どうやって光らせてるんだろう?

 俺の眼鏡も光ったりしたらカッコウいいのに。

 どうでもいい事を考えていると、



『はい、そうですよね? タチバナさん?』



 そのまま俺に確認をするルリちゃん。

 言いながら俺の方のウインドウにかかっていたシークレットモードを解除していた。



「ども。ま、こういう事になったんで……はい」



『おやおや……本人がそう言ってしまったのでしたら、話さないわけにはいきませんねぇ……』



 そこからの話をまとめると大体こんな感じだ。



 タチバナの家は祖父の代から続く名のある『何でも屋』で、そこの息子である俺もその生き業を受け継いでいた。

 諜報戦のノウハウは全てそこで仕込まれたもの。

 因みに両親の死後、さっさとその仕事をたたんで、遺産を全部売り払い自分の会社を立ち上げたんだが…


 その事実を知ったネルガルは、俺をネルガル兵器開発部だけでなく諜報部にもスカウトした、

 俺はそれには応じず元々の契約通り兵器開発部所属の整備員としてナデシコに乗り込むことになった。

 諜報能力云々は、取り敢えず他言しないと言うことをネルガル、特にプロスさんと約束していたので、

 公的文書にはそのような過去は一切載せられなかった…

 と言うことらしい。



《嘘くさいとか言うレベルではすでにないですね》



 ウィスが何か言っているような気がするが無視だ。

 それに嘘ではなくある程度は事実だ。



『そういうことだったんですか……分かりました。プロスさんどうもありがとうございました』



 ルリちゃんは礼儀正しくウインドウに向かってお辞儀する。



『いやいや……しかし、この事は……』



『ええ、分かってます。この事は誰にも言いません。……それで良いんですよね?』



『はい、ありがとうございます。と言うことでよろしいですね? タチバナさん?』



 ルリちゃんにもしっかりと口止めをして、今度は俺に確認をしてくるプロスさん。



「ええ。どうもお手数かけます」



 俺の答えを確認すると、『では』と一言を残しプロスさんは通信を切った。



「と、言うことなんだけど……納得してもらえたかな?」



 俺は少し間をおいてから、ゆっくりとルリちゃんに確認をとってみる。



『…………はい』



 なんだかとっても不服そうではあるけど、他ならぬプロスさんの言葉だ。

 一応納得してくれたようだった。



『今回の件は一応納得しました。一応は。

 ……では、今日はこの辺で……』



 早口にそう言うと、さっさと通信を切ろうとするルリちゃん。



「ん。おやすみ、ルリちゃん。」



『おやすみなさい』



 ピッ!!



 ほとんど棒読みに近い挨拶を最後にルリちゃんは逃げるように通信を切った。



《相当嫌われていますね、マスター》


 
 ピキッピシピシピシ……!!



「ま、その内どうにかするさ。その内ね……」



 怪しげな音を立てている勾玉を無視して、俺はそんなことを口にしていた。


















「ふぅ…………」



 思わずため息も出てしまいます。

 どうしてあの人はこうも不可解なんでしょうか?

 なんだか私はあの人が苦手です。

 と言うか嫌いです。




 それに……



「あなたは一体何者なんですか?」



 私の呟きは、誰に聞かれることもなくそのまま闇に消えていった……



 あ、アキトさんに報告しないと……



















あとがき


こんにちわ、盈月です。

何と言うか……ごめんなさい。

大学の忙しいこと忙しいこと、結局第二話を修正するのにこんなで長い時間を掛けてしまいました。

いろいろと皆様の意見を参考に、まずは脱コピペ!!という訳で……

一から書き直す作業にこんなに時間がかかろうとは……

これから、第三話に取り掛かります。


因みに、もう劇中でも出演中のツッコミAIウィステリアも今回はあとがきに参加です。

皆さんよろしく。彼等はアキトとラピスのように頭の中でも会話が可能ですのであしからず……


《タチバナ サクヤ専用汎用コンピュータ『ウィステリア』です。

 マスターに対するツッコミしか劇中ではしていませんが、

 本当はもっと色々な事が出来るスーパーコンピュータです。以後お見知りおきを…》


さて、紹介もすんだし、これ以上長くなるのはあれなので、説明を…

今回更にルリちゃんが(と言うよりはプロスさんが)明らかにしたタチバナの過去ですが……

一応事実です。一応は……

胡散臭い事この上ないんですがね……

彼にはそういう過去がありますし、そういう技術もしっかり持っています。

どんどん凄い奴になってゆく……最初からとんでもない奴なのに……(涙)


タ「まかせておけ」


ただし、それが全てではない。要するに、まだ謎は謎のままですね。


タ「男とは、謎をいくつも着飾って格好良くなって行くものだ……」


だそうです。彼の謎についてはおいおい明らかになってゆく事でしょう。


《また某少年漫画からネタをパクッて……知りませんよ、マスター》


それは言っちゃダメだよ、ウィス。

きっと彼だってわかってるから……

それと、冒頭の少女ですが、今はまだあまり触れません。

一応言って置くと、第一話にもちゃんと出てます。(何処だかは……分からないはずないか……)

名前は朧、性別は女。口調は男。(北斗とかぶりそうで怖い…)今明かせるのはそれ位です。


朧「えっ!?」


これ以上はもう少しいろいろ明らかになってから触れたいと思っています。


朧「……………TT」


《それでは、皆さん。

 次回『早すぎる『さようなら』! ってなんのこと?』でお会いしましょう。

 感想、批難、罵倒の言葉等々、メールなどを頂けると、作者は泣いて喜ぶそうです。

 よろしかったら何か一言でも言ってあげて下さい。

 では、また次回のナデシコで……》



>死ヌ程おかしい

ご指摘御最も。

彼が死ヌ程おかしいのには訳がありますが、今はまだ明かせません。

申し訳ありません。

ルリの台詞に関しては修正しようと考えています。

今度修正版をお送りしたいと思います。のでよろしくお願いします。

ではでは、次回もよろしくお願いします。


(2004.2.28 改訂)

 

代理人コメント

取りあえず未来云々についてはおいておくとして。

この話のもう一つの問題点を一言で言うと「死ヌ程嘘臭ぇ」って事になるでしょうか。

ルリの反応にしろタチバナの行動にしろ、リアリティと言う物が感じられないのです。

「こんなヤツ現実にいるか!」ってことではないですよ?

虚構世界の中の、虚構なりにあるべき現実感、統一感って物がないって事です。

例えばいきなりブリッジに現れたサクヤに対して、アキトが疑問を抱いただけで放置してる等の不可解な行動。

(普通状況を確かめようとするでしょう)

また反乱は事実上未然に防がれてるはずなのに話は原作どおりに進むとか。

(時ナデの丸写しと独自展開を融合できてないのではっきり言って展開が破綻してます)

 

それらの行動・展開に何らかの理由があるならあるで、キッチリと文中で説明しなければいけません。

言い換えると後書き等で追加説明しても駄目ということです。

 

長くなりましたが、ご一考くださればもっけの幸い。