Last Vision〜忘れ去られた物語〜










 





「……機動戦艦ナデシコか……」



 暗い部屋の中で、一人呟く男……

 今までの地球軍の戦艦とは戦力的に大きく異なるあの新造戦艦……

 小型とはいえ跳躍門を破壊するとは……奴の言うように今一番侮り難いのはあの戦艦と言う事になりそうだ。



「でも、鬼の居ぬ間にって言葉があるだろ?」



 一人だった筈の部屋に別の声が響く。



「朧か……なにが言いたい?」



 発言の意図を測りかねて、男は現れた声にそう問うた。

 朧と呼ばれたその声は、実に楽しそうに「ははは」と笑ってから、



「お前、それ解って言ってるだろ、草壁?」



 なんて、まるで友に冗談でも言うかのように言っていた。

 草壁……草壁 春樹。

 木連中将。地球侵攻艦隊総司令長官。

 木連の実質的リーダー……

 曰く「正義を愛する熱血漢、理想の為なら死ねる男」。

 この木連において、今彼を越える権力者は居ない。

 その草壁 春樹に堂々とため口をきくこの朧と言う人物は別の意味で大物かも知れない。

 

「お前の言う事は、常に唐突過ぎて意味が解りかねる……

 『鬼の居ぬ間に』とは、一体何についての事だ?」



 朧の態度など歯牙にもかけず、その発言の意図を計りかねてそう聞き返す草壁。

 厳粛な態度を崩さない草壁と、ふざけた態度の朧……

 どちらも相手の態度などお構い無しに会話を続ける……



「あのなぁ……お前の目的は、いつから火星の『アレ』を押さえる事になったんだよ?

 お前さんの目的は、地球圏の侵略……いや、征服じゃないのか?」



「む……」



 朧は言う、『目的を見誤るな』と……



「確かにナデシコは強敵だ。

 真正面からやりあえば、こっちもただでは済まないだろうな……

 でも、それだけだ。何を考えているか知らないが、その地球圏最強の船は自軍を離れ、火星に向かっている……

 だったら、強敵の居ない地球をこの期に乗じて攻め落としちまえば良いだろうが……違うか?」



 まるで友人のちょっとしたミスを指摘するように、『今の内に侵略してしまえ』と告げる朧に、草壁は薄ら寒さすら感じた。

 朧の言う事は尤もだ。

 草壁の目的は地球圏の制圧であり、現在最も脅威に成り得るであろう新造戦艦はその地球を離れているのだ。

 この期に、一気に攻勢に出てしまえば地球に対して大きな打撃を与えられるであろう。

 それは言われるまでも無く、自分も考えていた事だ。

 しかし、地球とて甘くない。そう簡単には落ちないだろうし、それ以上に火星にある『アレ』は重要なものだと草壁には感じられてならなかった……



「もちろん、地球に攻め入る事はする。

 しかし、火星を目指し、『アレ』を『都市』を手にしようとする奴らの動きを捨て置くわけにもいかん……

 違うか、朧よ?」



 草壁が感じた薄ら寒さ……その正体は草壁自身には解らない。

 しかし、本能的な部分で感じているのだ。

 どんなに作戦に失敗してもうろたえず、常に前を向いているこの人物は、我々には及びもつかない何かを掴んでいるのではないかと……

 少なくとも、目の前の朧と言う人物は我らの持たない力を一つ持っているのだ。

 それだけで、この人物は油断なら無いと同時に手放せない戦力である。



「まぁな……あの船には、どうもきな臭い奴も乗ってるし……

 確かに、放っておけばおいたで痛い目を見せられるかもな……」



 朧はにやりと笑って、そんな事を言っていた。

 『どうもきな臭い』……前にもそんな事を言って、この人物は件の『ナデシコ』の位置を割り出したのだ……

 論理的な根拠など無い。

 直感……もはや予知ではないかと思うその直感も、この人物を恐ろしいと思わせる要因の一つかも知れない。



「………きな臭い?

 何を『視』た、朧よ?」



「はっきりとは解らねぇ……

 でも、あのナデシコの機動兵器のパイロット……只者じゃない」



 そう言って朧はある作戦を提示してきた。

 草壁は、それをすぐさま実行に移していた………




 



 

 

 

 

第四話.水色宇宙に「ときめき」……い、息が…

 

 

 



「そうだよね!! ジュン君はユリカの一番大事な友達だもの!!!」



 俺の目の前では、前回と同じような会話が繰り広げられている。

 そして、そんなユリカの発言で、ジュンは滝のような涙を流しながらその動きを止めていた。

 ……哀れジュン。

 ここに永遠の『お友達』宣言をされてしまった訳か……

 いや、そのジュンの対応から言ってこんな発言を常日頃されていたのかも知れない。

 いや、流石の俺も、同情せずには居られないんだが……



「ユ、ユリカ……そうじゃなくて」



 力なく語りかけるジュンの声は、その手と同様虚しく空を切るだけだった。



「心中お察ししますよ」



 その肩に手を置きながら、ハンカチで涙を拭う……フリをするプロスさん。



「……ま、まぁ人生先は長いんだし」



 あはは…と少々引きつった笑顔で笑いながら言うのはミナトさんだ。



「今後の活躍に期待する」



 とはゴートさん。

 いや、それ以外にいうこと無いんですか?…ってゴートさんだもんなぁ……

 

「負けずに頑張ってくださいね」



 最後に落ち込むジュンの背中を軽く叩きながら、元気良く励ますのがメグミちゃんだった。



 ……以上がジュンのナデシコ入隊歓迎式だった。いや、復帰ではないのか?








「これがジュンの歓迎式?」



「そうですよアキトさん」



 そうですよと淀みなく答えるルリちゃんに限っては、そのジュンに声すらかけていない始末だ。

 こんなので歓迎式なんて呼んで良いんだろうか?

 俺は改めてジュンに対して同情の念を抱いた。


 俺が前回の戦闘後、疲れから昏睡してから、大体一日が経つ。

 その間に何か変わった事は起きなかったかと聞いた所……

 先程のジュンの歓迎式の映像と、ビック・バリア突破の瞬間の映像を見てくれた。



「そういえば、アキトさん。

 ラピスからのデータ受信は終わりました」



「オモイカネ単独で出来そうかな?」



 おそらくは頼んでいた例の設計図だろう。

 

「不可能では無いと思います。

 それと、例のプロジェクトの進行率は10%に進みました」



 プロジェクトの方は順調みたいだ。

 その進行速度たるや、俺の予想を上回る早さだった。



「ふふふ……私が資金を提供したんですよ。

 ナデシコに乗っている限り、それ程お金は必要ありませんから」



 ルリちゃんはくすくすと楽しそうに笑うと悪戯顔でそう言った。

 ……思い切り失念していたが、齢6歳では越えられない大きなハードルがあったのだと気が付く。

 これでは無理難題を押し付けていたと言う事ではないか……

 大分根本的な見落としをしていたな……と反省する。



「そうだったのか……一番肝心な所を見落としてたな俺は」



 恥ずかしくて少し顔が上気しているのが分かる。



「アキトさんらしいです」



 何だかしてやったりと言った顔のルリちゃん。



「ま、悔しいけど否定はしないよ。

 ……さて、ここからが正念場だな」



 そんなこんなで俺とルリちゃんはブリッジにたどり着いた。

 なんでもプロスさんがお呼びだそうだ。

 用件には想像はつく。

 恐らくは……

 はてさて、何処までごまかせるやら……



「では、私は傍観させてもらいますね」



 冷たい一言。



「……助けてくれないんだ」



「私、少女ですから」



 微笑みながらそういうルリちゃんは先にブリッジに入って行き、俺は深呼吸してからその後に続いた。










「さてさて、……テンカワさんの戦闘記録を今先程、ブリッジ全員で拝見させて貰いましたが……」



 プロスさんはその意図がいまいち分からない神妙な面持ちでそう切り出し……



「正直言って、信じられん程の腕前だ」



 ゴートさんが代表してそう誉めてくれた。いや、手放しには喜べない雰囲気だけど……



「やっぱりアキトは私の王子様だから!!」



 ユリカの発言は無視だな。悪いけど……

 っていうか、それ以外台詞知らないのか?

 前もその前もその台詞を聞いた気がするぞ……

 馬鹿の一つ覚え……いや、洒落にならないから止めておこう。


 しかし、そんなユリカをプロスさんは一言でピシャリと黙らせる。



「艦長は黙っていて下さい」



「……はい」



 ……なぁ、ユリカ。お前の艦長って役職は肩書きだけか?

 にしても、何だか何時に無く気合の入ってるなぁ、プロスさんもゴートさんも……

 なんていうか……そこはかとなく、身の危険を感じると言うか……



「しかし……何故です?

 これ程の腕を持ちながら、今までテンカワさんが軍に所属していた記録は無い。

 はっきり言えば、テンカワさんの実力を持ってすれば……」



 そこまで言って言いよどむプロスさんのメガネは、いつものように怪しく光っていた。

 メガネの下の眼光は、しっかりと俺を見据えている。……あれ? 睨まれてる?



「装備が揃えば……コロニーですら単独で落とせる。

 ましてやナデシコを落とす事など造作ない……と言う事だ」



 そこまで正確な分析が出来るとは……少しだけ二人の裏の顔が伺えるな……

 しかし、コロニーか……

 そう、コロニーすら落とした……あんな事には……あんな事は二度としないつもりだが、前回の罪は忘れられない。

 そして、それは現実俺の力を図るのに相応しい例えなのだろう。

 俺は再び自分の罪を確認した。


 さて、結構いろいろ考えたんだけど……とりあえずプランAで行ってみるか……



「俺は……両親にその手の教育を受けたんですよ。

 両親は何かに怯えていました。

 そして、自分の身は自分で守れる様に、と……

 火星のある場所に、俺専用のトレーニング機を作ってました。

 でも、俺は両親の言う事なんて信じてなかった」



 やっぱり、苦しいよな……

 ユリカは……泣きながら「うんうん」と頷いてる……

 でも、こいつは目安には出来ないな。なんて言うか、こういう奴だから……

 あの、ルリさん……肩が笑っていますよ?



 ま、しょうがない。このまま行くか。今更後には引けないしな。

 要するにヤケクソだ。



「だけど、両親がテロで殺されて、その話を信じる事にしました。

 俺は火星に居る間は、そのトレーニング機で練習をしてたんです」



 ……どうかな?

 結構真剣に演技したんだけど……

 あのルリさん、呆れ顔でこっち見ないで……

 自分でも無理してるのは分かってるんだからさ……



「……確かに、テンカワ夫妻なら可能な事かもしれませんな」



「プロスさん!! アキトのご両親をご存知なんですか!?」



 ……ユリカ、それは俺の台詞……

 俺の言う事無くなっちゃったし……



「えぇ!? アキトって、あのテンカワ夫妻のご子息だったの!?

 テンカワ夫妻って言えば、すっごく有名な科学者じゃないか!!」



 今度はサクヤがプロスさんの台詞取ってるし……



「ええ、タチバナさんもおっしゃる通り、テンカワ夫妻は高名な科学者でした……

 ……それが、まさかテロなどでお亡くなりになるとは……」



 ルリさん、そこでふきだしたら台無しですからね……それに両親の事は事実なので笑われるとやっぱりショックですよ。

 あ、さっきの嘘が我慢できなくなってるだけだな、ただ。

 まぁ、それは置いておいて、ブリッジは同情ムード全開だ。

 後は……そう、押しの一手だ。



「俺も最初は信じられませんでした……

 でも、あのトレーニング機だけが両親の形見だったから。

 俺、一生懸命練習したんです」



 震える声に涙のおまけ付きだ。

 これでもう勢い身任せてこうガーッっと……

 ルリちゃん……分かったからそんな顔は止めて……視線が痛いよ。



「では、テンカワさんは『エースパイロット』としても働ける、と言う事ですな」



「え、ええ、まあそういう事になりますね」



 嫌に素直に信じてくれるプロスさん。でも、その言い方って……



「丁度良かった。

 ヤマダさんは常にあんな状態ですからね……まともなパイロットが欲しかったんですよ。

 では、今までのコック兼パイロットと言う形から、パイロット兼コックと言う形に変更させていただきます。

 簡単に言えば、コック業務よりもパイロットの仕事や出撃を優先して頂く形になりますが……構いませんか?

 よろしければ、この契約書にサインを……」



 そう、嬉しそうに言って、用意がいい事に懐から契約書を出すプロスさん。

 あの、……その笑顔、何だか恐いです。



 あれ?

 もしかして、これって墓穴掘った?

 あれれ?



 結局俺は、正式にエステバリスのパイロットとなり、過去と同じようにコック業務よりもパイロット業務の方が優先と言うことになった。

 前回と若干違うのは『書類上もパイロットを優先する契約になった』事だけだ。結局前回もどっちかと言えばパイロットメインだったもんな、俺。

 本当にホウメイさんごめんなさい。

 いや、目的を考えると、あまり目立ちたくなかったんだけど……

 まぁ、不可抗力とはいえ、ミサイル衛星相手にアレだけ立ち回ればねぇ……



 まぁ、前回と同じ状態の方が、きっと歴史に影響が出なくて良いよね。多分……

 え? 今更?










 
プシューッ!!



 俺は、そこにルリちゃんしかいない時間を見計らって、ブリッジを訪れた。

 まぁ、予想通り、ブリッジにはルリちゃんしか居ない。

 これならいいか……



「ルリちゃん……」



「何ですか、アキトさん?」



 俺が来るのが分かっていたのか、ルリちゃんは驚く事無くにこやかに微笑んで振り返る。



「どの位の距離まで行けば、サツキミドリにハッキング出来るかな?」



 サツキミドリにハッキング……

 ナデシコはもうじき、補給とパイロット補充の為にサツキミドリに着く……

 前回と同じように襲撃されるのであれば、それまでにやっておきたい事がある。



 戦艦、それも有人型の戦艦が相手となれば、流石のルリちゃんでもナデシコC並の装備が必要だが、無人兵器やサツキミドリクラスのの制御コンピュータなら、今のルリちゃんなら自力でハッキング出来るだろうと思う。

 

「ギリギリの通信範囲からならあるいは……ナデシコCであれば、かなりの距離から出来ますが……

 しかし、コロニーの管理制御コンピュータのハッキングとなると、時間がかかってしまいますよ……

 コロニーの住人の命を預かるコンピュータ……結構デリケートですから。

 ……でも、サツキミドリをハッキングしてどうするんですか?」



 コチラの意図が掴めないのだろう。

 不思議そうに俺に質問するルリちゃん。

 通信距離が足りないのか……それに良く考えてみれば、戦艦なんかより凄い制御コンピュータが必要だよな……うん。



「…じゃあ、サツキミドリのエマージェンシーコールを鳴らすウィルス、作れないかな?」



 俺の言葉をそこまで聞いて、ルリちゃんの表情が驚きと言うか、何かそれだけではない顔に変わった。

 多分、俺の意図に気が付いたみたいだ。



「それは、また……大胆な作戦ですね。

 とても先程の嘘を考えた同一人物とは思えませんね……」



 誉められてるのか……貶されてるのか……いや、呆れられてるのか……



「まあ、要するにサツキミドリからクルーが脱出すれば良いんだ。

 で、ウイルスは出来そうかな?」



 まあ、一応悪い事なんだけど、戦時だし……人の命には変えられないしね……



「ええ、この手の悪戯はよくハーリー君とやりましたから……」



 クスクスと悪戯な笑みを浮かべるルリちゃん。


 ……何処に悪戯していたんだろう?

 考えると恐いが、聞き出すのはもっと恐いだろうし、後悔しそうだ……

 俺の本能は『やめておけ』と言っているので、止めておこう。



「……お陰で、ラピスの実力が良く分かりました」



 俺がそうやって悩んでいると、ルリちゃんが婉曲的な解答を提示してくれた。

 俺の知らないところで二人…いや、三人と、二つのスーパーコンピュータの戦いは行われていたらしい。



「では、早速サツキミドリに仕掛けをしておきます」



 心底楽しそうに、そう笑いながら言うルリちゃん。

 正直少しだけ恐いぞ……なんでだろう?



「ああ、頼むよ……

 俺はトレーニングルームに行って来る。

 まだ思う様に身体を動かせないんだ」



 ここに居るのは、邪魔になるかも知れないし、毎回毎回出撃の度に倒れる訳にはいかない。

 それこそ、日々の鍛錬が大切だ。緩んだ筋肉や感覚を、早く取り戻さなくては……



「そうですか?

 ……あの時のアキトさんは身体を鍛えてられましたからね」



「そういう事。

 せめて、自分の考える無茶なイメージを再現できる位にはトレーニングしておかないと……

 いざと言うときにね」



 自分のイメージ通りに体が動かないのでは、機動兵器戦は何とかなっても白兵戦に支障を来たす。

 いや、何が起きるか分からないし、備えるに越した事は無いと思う。



「頑張って下さいね」



「ああ」



 ルリちゃんの声援に送られながら、俺はブリッジを後にして、トレーニングルームに足を向けた。








「さて、基礎からみっちり鍛え直さないと……

 過去の自分がどれだけ鍛えてなかったかが、はっきりと解るわけだけど。

 はぁ……もう少し、鍛えて置けばよかったな」



 基本の型の確認から、足腰を重点的に鍛えておく。

 何をするにも、運動の基盤となる足腰を鍛えて置かないと……



「突然の攻撃とかでナデシコが揺れても、微動だにしない……は無理でも、

 せめてふらつかない程度にはして置かないと話にならないな」



 独り言が多いのは自覚しながら、しっかり確認しつつ筋トレを行う。



「うわっ!?

 アキト、筋トレか?」



「ん?」



 気が付けば入り口付近にサクヤ。

 ……どうでもいい事だけど、コイツって本当に気配を感知しにくい奴だよな。

 上手く気配を消しているとか、そう言うのではなく。

 なんというか、自然な気配過ぎて見逃してしまうと言うか。



「『ん?』ってそれ答えになってないし。

 まぁ、エースパイロットなんて大層なものになったんだし、鍛え直したくなる気持ちも解らないでもないが。

 お前の場合、今のままでも十分じゃないのか?」



 ゆっくりとこっちに近づいてきながら、そういってくるサクヤ。

 その立ち振る舞いに無駄はない。



「今はそうかも知れないけど、今のままじゃどうにもならない敵に出会った時に備えて……

 ウリバタケさんやサクヤじゃないけど『こんなこともあろうかと』ってやつかな?」



 本音も交えつつ冗談で返しておく。

 北辰や木連式柔、それら後の脅威となる物の事は、当然伏せておく。

 今はまだ、誰にだって明かせないし、ちらつかせる事もなんかいけないと思う。



「それはそうと、アキトってなんか武術やってるのか?

 さっきから、おかしな動きをしてるから古武術か何かの類かと思うんだが」



「あ、あはは……

 おかしな動きって『コレ』とか『コレ』?」



 俺が月臣から受け継いだ牙。木連式柔。

 確か日本の古武術を源流としているんだったはずだ。



「そうそれ、えーと確か『ナンバ歩き』だっけ?

 小さい頃、運動会とかで緊張して手足一緒になって行進しちゃった時みたいな……」



「お、良く知ってるな、サクヤ。

 そう言うサクヤこそ、なんか武術とかやってるのか?

 なんて言うか、気配の消し方とか異常に上手いだろ?」



 それとなくこの機会に一つの疑問を解消しておこうと質問してみる。

 ルリちゃんから彼の諜報能力の話は聞いているが、それにしたって一流すぎる。



「あー、えーと、アレだ。

 昔さ、必要になって身につけた。

 前にガイの時に見たと思うけど、拳銃の扱いと気配の消し方だけ。

 それ以外は、向かないのかからきしだったけどな」



「ふむ、そうか。

 俺も武術は、昔人に教わったんだ。

 かじっただけだから、そう大した物じゃないけどね」



 なんだか誤魔化されてしまったので、こっちも誤魔化して置く。

 実際極めたわけではないし、嘘じゃないしな。



 その後、軽く話しをしてから、サクヤとは分かれた。

 立ち去り際にサクヤは一言。



「今のアキトは左右の筋肉のバランスが少し右よりだから、左を重点的に鍛えた方がいいかもな」



 なんて、しっかり助言までして去って行った。








 その後、原因不明のエマージェンシーコールにより、緊急避難するサツキミドリの人達と、ナデシコはすれ違った。

 後日、この謎のエマージェンシーコールは、木星蜥蜴の奇襲によるものだとか、誤作動だとか色々疑惑は呼んだものの、地上での木星蜥蜴の活動の活性化に伴いそれどころではなくなってうやむやとなった。



「……確信犯」



「それは秘密だよ、ルリちゃん」



「何が秘密なんだ、アキト?」



 近頃ルリちゃんの突っ込みが、類を見ない厳しさを呈しているのは、俺の気のせいだろうか?

 それとサクヤ、人のことは言えないけど、お前もブリッジに入り浸りすぎじゃないのか?

 いや、本当に人のことは言えないけど……












「はじめまして!! 新人パイロットのアマノ ヒカルでぇ〜っす!!」



「おおおおおおおおおお!!!」(男性クルーの魂の叫び)



 まるで地響きのような叫び声に、少々圧倒される。

 たかが女の子三人の補充に、どうしてここまで熱くなれるんだろうか?

 正直分からない。

 確かに三人とも可愛いと思うけど……

 ん? ……ルリちゃん、その視線は何?



「18歳、独身、女、好きな物はピザの端の固くなった所と、両口屋の千なり。

 あ、あと、山本屋の味噌煮込みでぇ〜す!!」



 ヒカルちゃん、変わったもの好きなんだな…・・・



「おおおおおおおおおお!!!」(男性クルーの血の叫び)



 うん、狂おしい限りだな……本当に血でも吐かなきゃいいけど……


 ……因みに、前回と違って、このパイロット3人娘達とは無事に合流出来た。

 とは、言っても、サツキミドリからの避難組から、彼女達を引き取っただけだが……

 自分達の機体はそれぞれが避難時に持ち出したようだけど、0Gフレームを一体置いてきてしまったらしい。


 ご多分に漏れず、取りに行くんだろうなぁ……はぁ……



「よぉ、俺の名前はスバル リョーコ 18歳、パイロットだ。

 これからよろしく」



「うおおおおおおおお!!!!」(男性クルーの魂の叫び)



 ……本当に大丈夫かな、この船?

 さっきから、恐ろしいまでにそのボリュームが跳ね上がっていく。

 その内ガイとか、ミスマル提督の声帯兵器に届きそうな勢いだ……

 あ、いや、この場合驚愕すべきは逆か。

 この人数、この狂乱をもってしても、一個人の発する声量に届かないなんて……

 ガイ、コウイチロウさん……貴方達何者ですか?



「特技は居合抜きと射撃。

 好きな物はオニギリ、嫌いな物は鳥の皮、以上」



「うおおおおおおおららららららっ!!」(男性クルー…狂う)



「愛想が悪いよリョーコちゃん」



「けつ!! 自己紹介に愛想なんかいるか!!」



「じゃあ私が代わりに、色々リョーコちゃんの秘密喋っちゃおうっと!!」



「何だとヒカル!! てめー勝手な事するなよな!!」



 もう何だか分からない状態になっている男性クルーを無視して、仲良さそうに言い合う二人。

 何だか変な言い方だけど、相変わらずだなぁ……うん。


 あれ? イズミさんは?



ベベベンンッ……



「おわぁっ!?」



 突然背後から変な音。

 お、俺の後ろを取るとは……何奴!?



「こんにちわ〜〜」



 振り返るとそこにはイズミさん。

 今まで気配すら感じなかったのに……改めて、彼女の不可思議さを目の当たりにしたみたいだ……



「どうも、新人パイロットのマキ イズミです」



 この人も相変わらず……



「うおおお………???」(帰ってきた男性クルー)



 って!? 相変わらずって事は!!!



「ふふふふふふ……ヒカルとリョーコ……二人揃って……」




「………………」(全員凍結)










 はっ!?

 今一体何が???

 確か、イズミさんが何かを喋って……それで?

 駄目だ、全然思い出せない……

 まるで本能か何かが思い出すことを拒否しているみたいだ……



 辺りを見渡すと、イズミさんが心底楽しげにウクレレをかき鳴らしてる……



 ユリカ、ジュンのフリーズも確認。



「イズミさんの話を聞いていたクルー全員が、現在意識不明です。

 ……どうしますか、アキトさん?」



 周囲の状況を確認しようと視線を巡らせていると、ルリちゃんがそれとなく声を掛けてくれた。

 ……あれ? ルリちゃんは平気だったのか?



「ルリちゃんは聞かなかったの?

 ………もしくは効かなかったの?」



「耳栓してましたから」



「なるほど、賢明な判断だ」



「二回目ですからね」



「ですよね……」



 流石と言うかなんと言うか…用意良いねルリちゃん。

 そんな用意があるなら、俺にも貸して欲しかったな…なんて……


 と、思わず遠くを見ていたらもう一人の生存者を発見。



「サクヤも平気だったのか?」



 その人物、タチバナ サクヤに声を掛ける。

 …………返答なし。



「おいってば!!」



 全く反応しないので、近くに行って肩を揺さぶってみる。



「ん? ああ、アキトか、何か用か?」



 すると耳栓をとりながら俺の方を向き直るサクヤ。

 コイツもまた用意の良い事で……



「なんで耳栓なんてしてるんですか、タチバナさん?」



 そんなサクヤにルリちゃんは疑惑の眼差し。

 確かに、前回の歴史には存在しなかった不可思議な人物とはいえ……

 なんでルリちゃんはここまでサクヤに絡んでいくんだろうか?

 なんか珍しいよな、ルリちゃんがここまで何かにこだわるのって……



「さっき新しいパイロットの娘達が自己紹介した時、男連中が五月蝿かったでしょ?

 あんまり五月蝿いんで、常備してた耳栓してたんだけど」



 そんなルリちゃんに気圧されたのか、少し後退しながら「何かおかしかった?」と答えるサクヤ。

 確かに整備班は耳栓持っててもおかしくないしなぁ……

 ……だからね、ルリちゃん。その顔はちょっと恐いなって。



「そうですか……」



 何とか納得してくれたのか、引き下がるルリちゃん。

 いやぁ、サクヤも大変だよなぁ……






 結局、ナデシコが通常勤務に戻るまで、約一時間の時間を労した。

 ははは…よく木星の無人兵器に攻撃されなかったものだ……












 その後、俺達パイロットを含めた主要なメンバーはブリッジに集合していた。

 一応作戦会議なのだが……



「ねぇねぇ!! この船に乗ってる二人のパイロットって誰なんですか?」



 何故か挙手して、元気良くユリカに質問するヒカルちゃん。



「え〜と、一人は名誉の負傷の為入院中です。

 もう一人は……」



 その質問に対して、俺の方を向いて笑顔でヒカルちゃん達に紹介をするユリカ。

 プロスさん辺りが怒らない事も祈るばかりだ……

 それにしても、名誉の負傷……か。

 ガイ、お前の名誉はなんとか守られたみたいだ……



「ナデシコの誇るエースパイロットのテンカワ アキトです!!

 そしてそして、アキトは私の王(モガァッ!!)」



「……艦長、今はそんな事を言っている場合ではないでしょう?

 サツキミドリに残された、0Gフレームの回収の話を先に決めて下さい」



 ミナトさんに口を抑えられながら、目を白黒させるユリカは、何だか壊れた人形のように何度も頷いた。

 なんて言うか……成長しないな、お前は……



「ごめんねぇ〜艦長、プロスさんって怒ると恐いんだもん」



「……で、結局は回収に向かうんだろ?」



 不機嫌そうにそう言うリョーコちゃん。

 本当に、うちの艦長があんなんで申し訳ないです。



「ええ、それは是非ともお願いしますよ」



 そんなリョーコちゃんの発言で作戦会議のかたがついてしまった。

 結局、テストも兼ねてパイロット全員で回収に行く事になったのだ……

 艦長を無視して、パイロットの意見で話を決めてしまうって……

 ……ユリカの立場って、一体……



「クスンッ……ルリちゃん、皆が私を苛めるの……」



「私、少女ですから」



 ……二人とも、意味わからないぞ。















 俺達は、ベットの上にガイを置いて、サツキミドリに向かう……

 流石と言うかなんと言うか……0Gフレームの整備も完璧だった。

 完璧だったが、何かメモが張ってある。



『アキトヘ、

 今日は夜食に炒飯が食べたいです。

 サクヤ』



 ははは……


 思い切り呆れていると、リョーコちゃんから通信が入る。



ピッ!!



『お前、テンカワ……って言う名前だっけ?』



「ああ、そうだよリョーコちゃん」



 俺がそう言うと、何だか不機嫌疎な顔をするリョーコちゃん。

 む、俺なんかまずい事言ったかな?



『けっ!! なれなれしい奴だな、会ってから二時間でもう呼び捨てかよっ!!』



 あはは……失礼な考えかもしれないけど、相変わらず気性が荒いなぁ、とか思ったり……

 でも、リョーコちゃんもリョーコちゃんだな。

 なんて意味も無く嬉しくなってしまう。



「気に障るんだったらスバルさん、って呼ぶよ」



『……リョーコでいい。

 一応パイロット同士だからな。

 ……それに、他人行儀なのは何か嫌いだ』



「了解」



 多分照れ隠しだと思う。

 リョーコちゃんは素直じゃないんだよなぁ……

 なんか初々しいな……当たり前か、こっちでは初対面みたいなもんだしな。



ピッ!!



『じゃあ私もヒカル、でいいからね、アキト君!!』



 と、突然割り込んでくるヒカルちゃん。



「はいはい、了解しました」



『……リョーコ、テンカワ君に何が言いたかったの?』



 ……やっぱり本当はこの表現は相応しくないんだけど……

 相変わらず、心臓に悪い登場をする人だな、イズミさんは。

 通信ウインドウが展開される時、音がしなかった気がするんだけど……気のせいかな?

 もしかして、キャンセル設定とか出来るのか?

 イズミさんの言葉を聞いて、リョーコちゃんは何かを思い出したように言った。



『そうそう!! テンカワ、お前本当にとんでもない腕持ったパイロットだよな!!

 地球圏脱出の戦闘記録、見せてもらったぜ!!』



『そうだよねぇ〜、とても人間業とは思えない腕前よね』



『……同感』



 三者三様の言い回しで、とりあえず誉められてると思うことにする。



「誉めても……何も出ないよ。

 あ、サツキミドリが見えてきたな」



 俺はその話題から逃れるように、三人の意識を任務に戻す。



『よっし!! 俺が戦闘で案内するからな!!

 後続はしっかりと警戒しながらついて来いよな!!』



 勇んで飛び出すリョーコちゃんに、続いて、俺達は視界一杯に広がるサツキミドリに向かった。













『っしゃあ!! 次、次ぃっ!!』



 襲い掛かるバッタを薙ぎ払って、威勢良く叫ぶリョーコちゃん。

 うん、やっぱりこの三人は優秀だな。確認するまでも無いけど……

 動きに淀みが無いし、判断も早い。



『リョーコ、まだ着かないのぉ〜?

 近道じゃなかったの、ねぇ、リョーコ?』



 ヒカルちゃんが非難の声を上げる。

 まあ、本来ならもう目的の格納庫に着いててもいい時間だしな……



『迷ったわね、リョーコ』



『あはは……んな事ねぇよ。

 もうそこの角曲がれば、すぐだって……多分』



 思い切り迷子じゃないのか、リョーコちゃん?

 いや、エステの操縦技術は一流なんだよ。

 ……ほんとだよ?



『あれ?

 っかしいなぁ……』



 結局目的地に着いたのはそれから重数分後だった……南無。













『デビルエステバリスだ―!!!』



 ……いや、漫画家志望の割には、随分と安直なネーミングですね、それ。

 デビルエステバリス(特に他に名前が思いつかないので)は、身体の至る所に取り付いたバッタの触手を利用して、ウンテイの要領で移動していく。



ヒュン!! ヒュン!!



 なかなか素早い機動を見せるデビルエステバリス。



『くそっ!! 何て速さで動くんだよ!!』



『見かけは重そうなくせに!!』



 ふむ……前回では俺はこの時外で遊んでいた気がする。いや間違いなく外だったな、うん。

 ……エステバリスに遊ばれていたと言うか、翻弄されていたと言うか……



『っく! 素早くて、照準が……』



 みんなにはアレでもう速いのか……がんばれ、がんばれ……

 ……しかし、いつまでも遊んでいる訳にもいかないか……

 ふむ、取り合えずライフルで……



「もう少しパターンを増やさないと……」



 コイツの行動パターンは、もう俺には読めている。 



「そこ」



ドンッ!!



 エステバリスを操っている無人兵器を、その頭部ごと打ち抜いた……



『……嘘?』



『一発で……終わりかよ』



『信じられない腕前ね』



 驚く三人を見ていると、ちょっとした隠し芸を披露した気分になる。

 

『ま、こんなもんかな』



 驚愕の声に対して、俺は少しだけおどけて見せてから、ナデシコに帰艦した。









「ふぅ……」



 ナデシコの格納庫の床に下りて、エステを見上げて一息つく。

 すると……



ピッ!!



『お帰りなさいアキトさん……

 もう手加減無用で倒されてますが、それでいいんですか?』



 何だか不機嫌そうなルリちゃんからの通信が入った。



「ん? ああ、戦闘記録を見たんだね。

 ……どうせ素性は疑われてるんだから。

 せいぜい、役に立つところを見せておかないとね」



 あんだけ白々しい嘘ついたんだ、ゴートさんやプロスさんがそれに気がつかないはず無い。

 あの嘘でだまされたのは、恐らくユリカ以外はいないだろう。

 ユリカは俺の事を無条件で信じてくれるからな……
 
 それがどんなに疑わしい嘘であろうとも、絶対に……



 皮肉だな……そうだって信じてる、信じられる自分が居る。



『……そうなんですか。

 私はリョーコさん達に、自分の実力をアピールしているのかと思ってました』



 先程より一層不機嫌さをあらわにするルリさん。

 どうしてその様に思われるのでしょうか?



「………もしかしてルリちゃん、戦闘前の会話も聞いてたとか?」



『ええ、艦長と一緒に』



「……ああ、それでか」



 ふと見ると、格納庫に向かって一直線に走ってくるユリカを確認。

 ……前回はメグミちゃんが優しく迎えてくれたんだけど。



『後で私も行きますからね』



 突き刺さるような視線で俺を射抜いて、死刑宣告のような言いぶりで言い放つルリちゃん。



「俺は別に悪い事は、何もしてないじゃないか」



『そんな事言っているから……過去と同じ状況になるんです!!』



 そんな俺の言い分に、珍しく声を荒げるルリちゃん。

 ………?

 何が言いたいのか、いまいち分からない俺が居た……



『んもう!! 知りませんからね!! アキトさんの馬鹿ぁっ!!!』



ピッ!!



 そこでルリちゃんの通信は途絶えた。

 後には頭を捻っている俺と……

 俺の横で仁王立ちしているユリかが居た。












 


 ピッ!!





『タチバナさん!!』



 突然開くウインドウに映ったのは、怒りの形相のルリちゃんだった。

 俺、何か悪いことしたかなぁ?



《白々しいことを言わないでください、マスター》



 心当たりがありすぎて、どれだかわからんだけだ!!



「な、なんだい? ルリちゃん」



 思わず後退してしまう俺。



《何だか情けないですね、マスター》



『もう、まどるっこしいのは止めます。

 あなたは一体誰ですか!! 何者ですか!?』



 何だか本当に怒ってるみたいだな。

 何か嫌なことでもあったのかなぁ?



《100パーセントアキトさん絡みでしょうね……》



 やっぱりなぁ…



「『タチバナ サクヤ

 生年月日 2178年9月13日
 
 年齢 17歳

 国籍 日本  

 出身地 京都

 2年前15歳の若さで上京、親の遺産他を全て売り払い兄妹二人で個人事業――』」



『そんなことが聞きたいんじゃありません!!!』



 俺が言葉を言い切らない内に叫ぶように否定される。



「じゃあ……『タチバナの家は祖父の代から続く名のある『何でも屋』で、そこの息子である俺──』」



『その話はもう聞きました!!!』



《マスター、いい加減にしないと、本気で――いえ、もう遅いですね》



「ほ、他に一体何を言えと?」



 ルリちゃんの迫力に気圧されながら、俺が答えられたのはそんなことだった。



『自分の胸に手を当ててよく考えてください!!!』



 もう論理もへったくれもない。

 言っていることがむちゃくちゃだ。



《電子の妖精も年頃の女の子ですから》



「思い当たる節がありすぎて……

 俺何かしたっけ? ごめん、全然思いつかない」



《貴方まで妖精に引きずられてどうするんですか、マスター?》



『思い当たる節って……何ですか?(怒)』



 ルリちゃんの怒りメーターが急上昇したような気がする。



《墓穴を掘りましたね、マスターらしくない》



「あんな事とか、そんな事とか……色々?」



 あ、ルリちゃんがプルプル震えだした。

 さ、寒いのかなぁ?



《マスター、現実を直視してください》



『あんな事? そんな事? ……もう少し具体的に言ってくれないと分かりません……』



 俯いて震える声でそう言うルリちゃん。

 心なしか声のトーンも1オクターブ位下がっている。かな?



「いやぁ…

 アキトのブロマイドを艦内の女性クルーに無料でばらまいたりとか…

 秘蔵『アキトの寝顔』を艦長とメグミちゃんに売ったりとか…

 他には──」



『……………………………………

 そんなことをしていたんですか♪』



 俯いていた顔を上げたルリちゃんは、何だか楽しそうに嗤っていた。

 背中に冷たい汗がダラダラと流れる。



《遺言はどうされますか、マスター?》



『一体何のためにそんな事をしているんですか!!

 大体、なんであなたがアキトさんの生写真やあまつさえ寝顔の写真なんて持っているんですか!!

 最近女性クルー内でアキトさんの人気が急上昇していておかしいと思っていたら……

 あなたがそんな事をしていたんですね……

 これは由々しき事態です。

 ええ、本当に……』



 ルリちゃんが何処だかわからない遠くを見てぶつぶつと何か言っている。

 流石にこんなルリちゃんを見るのは初めてだ。



《遺産は物体Xが相続するんですか、マスター?》



 お前にやるよ、ウィス。



《それはどうも》



 俺はウィス相手に頭の中で漫才をしてみる。

 何の解決にもならないのは分かっている。

 分かっているとも!!!

 

「る……ルリちゃん?」



 何となく、この沈黙か怖くて声をかけてしまう。



『なんですか? タチバナさん?』



 晴れやかな笑顔でいつもより優しい声で答えるルリちゃん。

 ちなみに眼だけ笑ってない。



 ここは逃げよう。

 俺の本能がそう言っている。



《そういった本能があったんですね、マスターにも》



 俺はそろーりそろーりと自室の出口に向かって忍び足で移動する。

 距離を測って……

 ここだ!!

 俺は出口に向かって一気に跳躍した!!!



 ピッ!!



 軽い電子音がした。



 グシャッ!!!



 俺は扉に激突した。



『どちらにお出かけですか?』



 目の前にはルリちゃんの顔。

 ウインドウ越しだけど……


 
「い……いやちょっと……

 班長が呼んでたような気がし……て」



 苦し紛れの言い訳。



『ウリバタケさんはもう眠っているようですが?』



「さっき出撃して還ってきたアキトのエステバリスの修理がまだ……」



『アキトさんの機体は、無傷でしたが?』



「じゃあ、ガイの……」



『じゃあってなんですか……そもそもヤマダさんは出撃すらしていませんが?』



「しまった!! リョーコちゃんとか言えば良かった!!」



『言い訳は終わりましたか?

 それでは私はそろそろ眠いので、今日はこの辺で……

 さようなら♪』



 最後にさわやかに微笑むと通信は切れた。



「何か息苦しいなぁ〜……」



《この部屋の酸素濃度が急激に低下していますよ、マスター》



「い…息が……」



《このままだと、真空になるまで後3分ですが……》











「──────────ッ!!!(死んでたまるかぁ〜っ!!!)」




















 ──翌朝



「おはよう、ルリちゃん♪」



 元気に挨拶してくるタチバナさん。



「………………」



 多分疲れているのでしょう。

 彼は昨日不慮の事故で……

 

「あれ? ルリちゃん? 

 おーい、ルリちゃーん!!」



 これは幻覚ですね。幻覚。



「おはよう、サクヤ!

 ルリちゃんもおはよう!!」



「おはようございます、アキトさん。」



 アキトさんが廊下の向こうからやってきました。



「サクヤは相変わらず元気だなぁ〜」



「窒息健康法って知ってるか、アキト?」



「なんだそれ?」


















「タチバナさん……アナタ一体何者ですか???」




















あとがき


はぁ、やっと四話だ……

去年の8月からだから実に10ヶ月ぶりになるのかな?

いや、9ヶ月ぶりかな?

結局大した成長も見られないまま、執筆を再開した盈月です。

本当はもっと前作業に入りたかったのですが……Fate/stay nightに時間を取ら、大学のテストや課題に追われました……あはは……


結局改善したのはテキスト流用だけで、内容に大した変化はありませんが……


2話、3話も一応全て書き直してみました。どうなったかなぁ……

それに伴う、ストーリーの変化はありません。ってか、当分は時ナデのストーリーに沿います。

蛇足はいろいろつけるつもりですが……



≪蛇足だと思うなら付けなければいいではないですか≫



いや、そしたら書く意味なくなっちゃうでしょ……



タ「そもそも書く意味なんて無いんじゃないのか?」



う……

……結局自己満足なのかなぁ……なんて、暗くなるのは良くないですね。

とりあえず、頑張って書いていこうと思っています。

拙い文章だとは思いますが、拙いなりに面白くなるように頑張ろうと思いますので、

気がつかれた点、思ったことを率直に指摘していただければ幸いです。



タ「そう言って、ぼろくそ言われたら凹むんだから言わなきゃいいのに」



凹んでも、こんな私の話が少しでも面白くなるなら、必要だと思うんだよ!!



≪何だかまとまりませんが、次回『ルリちゃんの『航海日誌』……見せてよ、ルリちゃん♪』でお会いしましょう≫





P.S.

因みに、某仮面ライダーは全く関係ないですよ?

名前一緒ですけど、彼『タチバナ サクヤ』はギャ○ンに変身したりしません。

オンドゥル語も使いませんので……あしからず……


まぁ、ネタとしていつかは使ってもいいかなぁ……とは思いますが……

 

 

ダイディルンドカンゾル

タディャーナザン・・・・ア゙ナタイッタイナルボドディスカ!!!

ヅ-カ、ゾリバゾリドゥジデ、ゴヴィベババッタグゾドババドヨルナギガスヅンディスガ?

ヴドッドゥボ、ムンヂョルボ、ドゥギナディドババディバ、ヂョルヂギヨヴギガオギバゼン。

ルヂゾルザァグドゥイルドバ、ゲンザァグオ゙ゾドババカギルヅスボドディバナイドゥオボルドディスガ。

 

ディバ。

 

ヅイジン

ルオンゴディヨヴィタイビィドゥバ、ゾ-スオ゙ザァンヂョルジデグダザァイ。