「あ、お前暇そうだな。良し、じゃー頼みがある。
 あのエステのコックピットに行って、馬鹿の忘れ物を取ってきてくれ。
 五月蝿くてかなわん」

「え?は、はぁ」

漸くの思いで辿りついた格納庫。
格納庫には人の姿は殆ど無く、巨人達だけが立ち尽くしている。
本来は頼もしい筈の巨人の姿が、何故か、おぞましい。
メカニックに掛けられた言葉にも、意識せずに相槌だけを打っている。
頭の中には、先程から疑問だけが流れている。
何故俺は、こんなにもあの巨人を恐れているのか。

「あの青いエステな!
 多分、すぐ分かるもんだと思うぜ。ゲキガンガーとか言ってたし」

「ゲキガンガー?」

思わない言葉に、意識が引き戻された。
先程までの方向に思考が向かない様、全力で逸らす。
そう、ゲキガンガーといえば、ガキの頃に見ていたアニメだ。
もう、10年以上前にやってた筈のアニメが、なんで最新鋭の戦艦。
しかも、よりによってロボットのところで出てくるのか。
せり上がってくる嫌な予感を押し殺し、聞いてみる。

「…あの、まさか、パイロットの人の忘れ物じゃないすよね?」

「…悪いが、そのまさかだ。気持ちはわかるが、腕は確か…な、筈だ…多分」

擦れるような声に、諦めが滲んでいた。
嫌な予感が倍増。が、不安がっていても仕方ない。
他の人に期待する事にする。

「あ、じゃーコックピットに昇って、なんかを取ってくればいいんですね?
 取ったらどうすれば?」

「医務室に来てくれ。
 連絡つかなかったら、そこらにおいといてくれるだけでいいからよ」

医務室には辿りつけません。
そんな思いが顔に出たのか、最後に苦笑いしながら付け加えてくれた言葉に、心から感謝。
リュックを脇に置き、エステバリスとか呼ばれてたロボットの梯子に、足を掛ける。
そのままコックピットへ。

「…おいおい、マジでゲキガンガーだよ」

ガキの頃に持っていた、ゲキガンガーの人形を見つけてげんなりとする。
勘弁してくれ。そんな事が意識せずに口から出た。
アニメみたいな事があるのならば、俺達はあんな思いなんてしなかった。
ギリ、と唇を噛んだ痛みで我に返る。
いけない、我に返れ。
こんな事で、熱くなってどうする。

「ほんと、病気だな」

呼吸を整える。
何故か、息苦しい。
懐かしさすら感じる息苦しさの正体に思い当り、全身に汗が浮かぶ。
辺りの気配を探りながら、自嘲した。
また、思考が火星時代に戻った。
頭の中で先程から嫌になるほど、自分自身の声が繰り返されている。
止めろ、お前はそんな事を考えるな。
お前は誰かを守る事などできない。お前にできるのは、自分だけが生き延びる事だけだ。
選択肢を違えるな、お前の行動は間違っている。
お前は、大人しくコックをやっていればいい。コックは立派な仕事だ。
だから、エステバリスに乗ろうなんて考えは捨てろ。

結局何をしても、お前はまたアイちゃんを見捨てるだけだ――!

「うぶっ!?」

喉まで込み上げた汚物を、必死に飲み下す。
喉が、熱い。その熱さが全身に回って行く。
心臓が他人の物みたいに、狂ったリズムを刻んでいる。
目の前は、もう格納庫ではない。
俺の目に映るのは、火星でのあの瞬間。
アイちゃんが抱きついてくる感覚までが、リアルに感じられた。
瞬間。世界が揺れた。

「…はっう…なんだぁ?」

一瞬幻想が感覚にまで来たのかと思ったが、違う。
これは、格納庫が、本当に揺れている?
まさかと思考を浮かべるが、頭を振って掻き消した。
木星トカゲが、こんな所まで攻めてくる筈が無い。
ゲキガンガーの人形を掴んで、コックピットから出る。
梯子に足を掛ける。その瞬間、警報が鳴り響いた。
警告。散々聞きなれた甲高い音。思考が、過去に戻って行く。
違う。違う。違う。違う!
こんな所に、木星トカゲがいるはずはない。
これは、避難訓練だ。
これは、敵襲なんかじゃ無い。
これは、只の回想に過ぎないんだ。

「おい、エステは出れないのか!? 木星トカゲが来たらしいぞ」

頭が、漂白された。

「んな事言ったって、さっきヤマダが怪我しちまったから、動かせる奴なんていないっすよ!」

意味が分からない。
ヤマダ。それは、ゲキガンガーを忘れていった奴か。
それが怪我をしたならば、動かせる奴がいない。
意味が分からない。
この戦艦は、最新鋭の戦艦ではないのか。
火星まで辿りつけるのではなかったか。
意味が分からない。
何故地球に木星トカゲがいる。
何故俺はエステバリスに乗っている。
何故俺は梯子に足を掛けている。
何故、俺はまた逃げ出そうとしている。

「…くそっ」

体は震えている。
意思は萎えかけ、眩暈は増すばかり。
心拍数は、臨界を突破。
生臭い匂いに下を向けば、既に服は反吐に塗れていた。

「――はっ」

逃げる事も、宛ら行く事もできず、動きを止める。
足が震える。
力が抜ける。
涙がせりあがる。
半泣きのまま、梯子に必死にしがみついた。
気が、狂いそうだ。
ただ、この感覚は、懐かしかった。
ああ、これは。
そうだ。火星は、いつもこんな地獄だったんだ。

「…貴方、誰ですか?」

「…な」

気付けば、目の前に人の顔。
戦艦には似つかわしくない、小さな女の子。
黄金色の瞳に、銀の髪。
妖精みたいだと、思った。

「ああーー!俺のエステじゃねえか!
 お前、何してくれてるんだぁ!?」

「誰よ、アンタ?」

「君。所属と名前は?」

次々と、顔が現れる。
訳が分からない。訳が分からないが、目の前の爺の言葉には、何か、迫力があった。
反射的に、声が出る。

「…テ、テンカワアキト。ユート…違う!コックっす」

完全に、火星の頃に意識が戻っていた。
途中まで出た言葉を飲みこむ。
ユートピアコロニー等もう、無い。

「おや、テンカワさん」

「知り合いか」

「先程私がスカウトしたんですよ。
 ナデシコ専属のコックとしてね」

「そのコックが、何故エステバリスに乗ろうとしている」

「さぁ…そこまでは。
 それよりも彼は、シェルショックを患っています。囮なんて、無理ですよ」

プロスペクターさんの声が、何処からか聞こえる。
そうだ、俺はPTSDなんだ。
戦闘なんて、怖いんだ。
木星トカゲを見るだけで、反吐を吐きながら、泣き叫ぶんだ。

「ちょっとアンタ。なんでコックがロボット乗ろうとしてるのよ?」

五月蝿い。お前の意見なんて、知らない。
俺は、俺の世話だけで精一杯なんだ。

「シカトしてるんじゃないわよ!? 大体、アンタどっからはいったのよ?
 勝手に軍のロボット乗りまわして、軍法会議物よ!?」

「でも、結構カワイイ顔してるわよね」

「君、操縦の経験は?」

「俺のエステ返しやがれーーー!!」

五月蝿い五月蝿い五月蝿い。
お前等は誰だ。ごちゃごちゃ五月蝿いんだよ。
俺は、早く、避難しなきゃいけないんだ。

「無理だろうが、やってもらわなければ始まらん。いいか。命令はこちらから出す。君は我々の指示通りに…」「ああーー! 俺のゲキガンガーじゃねえか!? 返せよなぁ!?」「そこにいると、危ないみたいですよぉ」
「だからアタシは民間人を戦艦に乗せるのなんていやだったのよ!」「そうですよね、戦争嫌ですよね」「何分、ナデシコは戦艦ですから。それよりも、コックには危険手当でないんですよねぇ」

五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!
早く、早く逃げなきゃあいつ等が来る。
そうしたら、また皆殺される。
だから、早く逃げなきゃいけない。
そんな事は分かっている。
とうの昔に決まっている事実なんだ。
なのに。
なのに、俺の足は動いてくれない。
逃げるのは、もう嫌だと言う声が、聞こえた気がした。

「アキトッ! アキト! アキトでしょ! アキトアキトアキトッ!!」

キンキン声が、脳味噌を止めた。
目の前に広がる、どでかい画面に広がる女の顔に目が行く。
…見覚えが、無い。

「…誰だ、あんた」

「うんうん。いいんだよ。知らない振りなんかしなくても。
 アキトは、ユリカがピンチの時に駈けつけてくれる王子様だもんね!」

ユリカ。王子様。
単語が結びつき、映像を成す。
ミスマル ユリカ。
火星で、隣にいた女の子。
いつも振りまわされていた娘。
それを思いだした瞬間、急激な吐き気が、感触ですらなく物体で来た。
アイちゃんの声が、脳に響く。
最後の瞬間の考えが、そのままフラッシュバックしてくる。
頭の中に、草原が浮かぶ。
視界が狂う。手足の感覚が、トンで行く。
意識が遠のく。真っ白になった意識の中、それでも、意識を完全に手放す事はできない。
それじゃ、今までと同じじゃないか。
サイゾウさん達に、何を習ってきたんだ。
こんな所で簡単に意識を手放すような、半端な覚悟はしていない――!

「分かってる分かってる。アキトは逃げるフリして、敵をおびき寄せてくれるんだよね」

「……は」

聞こえない。意味が分からない。
何の事だ。囮?
囮とは、あの時の様な事か。
幻想が更に強くなる。
現在と過去が交差し、頭が溶けて往く。
俺は今、トラクターに乗っているのか。それとも、俺は。

「逃げるんですか?」

その声は、氷の冷たさで俺を貫いた。

「また、貴方は逃げるんですか?
 今度は、もっと多くの人を見捨てて」

他の人間とは違う、頭の中に直接響くような声。
辺りを見まわすが、そんな声が出ている画面など何処にも無い。
だが、声は響く。静かに、冷たく、致命的に。
俺を、突き刺していく。

「まぁ、それも貴方らしいですね。
 この一年、逃げてしかいなかった貴方らしさそのもの」

「黙れ…! お前に、何がわかる」

思わず、声が出た。
周りの声なんか聞こえない。でも、この冷たい声は脳に潜りこんでくる。
周りの状況など、知らない。自分の状況も知らない。
だって、世界はドロドロで、感覚なんて、とっくに壊れている。
それなのに、この声は聞こえてくる。逃れ様も無く、ゆっくりと、だが確実に。

「簡単な話ですよ。貴方はいつもみたいにここから逃げ出せば、この戦艦は壊されて終り。
 火星にもいけない。 そうして、貴方はまた(・・)アイちゃんを見捨てるんですね」

時間が止まる。
今、こいつはナニを言った?

「だって、そうでしょう。この船の目的は、火星の生き残りの探索。
 それに貴方が生きているのならば、アイちゃんだって生きている可能性がある。
 ならば貴方が今逃げ出す事は、 アイちゃんを今度こそ見殺しにする(・・・・・・・・・・)って事じゃないですか」

「ふざ…っけるなよ…!?」

他の事はいい。
でも、でも。それだけは、聞き逃せない。
誰が、誰を見捨てただと?

「俺が、アイちゃんを見捨てたとでも言うのか…!?」

「ええ、だって。貴方はいつも一人で助かってきたじゃないですか」

巫戯けるな。
俺は、誰も見捨てない。
誰一人見捨ててなんか、なるものか…っ!

「逃げないんですか?」

「巫山戯ろっ…!」

「では、エステバリスに乗って下さい。大丈夫。指示は此方が出します」

頭の熱さが、バラバラの感覚を繋げた。
頬に伝わる暖かさは、きっと悔しさ。
自分の無力さが、悔しかった。木星トカゲになにも対抗できなかった、自分達の無力さが悔しかった。
ならば、エステバリスに乗ることで、この悔しさは無くなるのだろうか。
歯を食いしばって、コックピットに這い上がる。
口を満たす、反吐と血の味。感覚が、少しずつ戻ってきている。

「…むかつくが、今はアンタを信じる」

「それでいいです。私の指示と、艦長の作戦。信じれば、生き残れます」

「…ア、アキト? 大丈夫なの?」

「ああ。お前を信じる」

もっとも、昔のままだとしたら俺は死ぬけど。
そんな苦笑いは、胸の中に止める。
視界は、元に戻った。眩暈は続いているけれど、こんな程度どうとでもなる。
吐き気は片端から飲みこみ、言葉は聞こえるようになった。
ならば、もう問題は無い。
後は、精一杯戦えば、それでいい。

しばしのリフト上昇。
周りで画面が騒いでいたけど、相手なんかしてやらない。
俺は、あの声の相手だけで手一杯だ。

「貴方の任務は囮です。
 いいですか? エステのプログラムを、貴方用に最適化しました。
 貴方が思ったとおりに動かせます。だから、落ちつき此方の指示に従ってください」

「…ああ。だが、何モンだ。アンタ」

良く分からないけど、最適化とか普通じゃない気がする。
いや、マテ。俺は、この声を聞いた事がある。
それも、ごくごく最近…いや、アレは

「では、地上に出ますよ。活躍を、期待します」

そんな言葉と共に、景色が切り替わる。
広がったのは、木星トカゲばかりの港。
萎えかける気を張って、声に出す。
吼える自分の声を聞きながら、俺は敵に飛びこんだ。














早い。速い。疾い。はやい!
それが、始めの印象だった。
景色は飛ぶ様に流れ、木星トカゲを引き離す。
ホイールの振動が、心地いい。軋む機体を尚前傾させ、バーニアを吹かす。
最初の指示通り、必死に機体を制御しながら叫ぶ。

「次はっ!?」

「2秒後に右に旋回。左方向からのミサイル攻撃はDFが防ぎます。
 視界にだけ気を付けながら、全速で突っ切ってください」

言葉が終らぬ内に、右に転進。
砂埃を上げながら尚速度を上げる。
左を見れば、言われた通りのミサイルの雨。
アドレナリンが全身を流れていくのが分かる。
暴走しそうな興奮の中、口がつりあがって行く。

「――ははっ」

「そのまま、倉庫などの建造物を壁にして下さい。
 いいですか?囲まれて集中攻撃をされない限り、DFは破れません。
 落ちついて、囲まれない様にだけしてください」

目の前には、ミサイルの雨。
俺なんて一発でミンチになるミサイルが数十発。
白き煙の軌跡を引き摺り、雨粒みたいに降り注ぐミサイルを、避ける事無くむしろ突っ込む。
分かる。この程度じゃ、この機体を傷つけられないのが、伝わってくる。
着弾。振動。だが、ただ煙が広がっただけだ。傷など何処にも付く筈が無い。
この機体ならば、無人兵器など敵ではない。

「…は」

煙が晴れる前に、拳を飛ばすイメージ。
ワイヤーを引き摺りながら飛ぶ、鋼鉄の拳。目標など、いらない。
だって、周り中敵はいたのだ。それならば適当に打てば、当る。
何かを掴み取った感覚が、IFSから伝わった。瞬間、ワイヤーを引き戻しながら、倉庫群に向かう。

「…はははっ! なんだ、弱いじゃないかコイツらっ!」

「無駄な攻撃は避けてください。
 攻撃は、無駄な隙を作るだけです」

「んな事言ったって! 逃げまわるだけじゃいつかやられるだけじゃないか!」

倉庫の壁にホイールを滑らせ、一気に左へ方向を切り替える。
その際に、上から降り注ぐミサイルには、右手に掴み取った無人兵器を叩きつけておく。
爆発を背に、更にバーニアで加速。
速度は、既に疾風。
前に展開している無人兵器を、そのまま踏み台にして空へと跳ぶ。
眼前に在った無人兵器に、再び拳を打ちこみ粉砕した。

「ははははははっ!」

なんだ。なんだこれは。
火星で、アレだけ苦労した無人兵器が、こんなにあっさりと壊れていく。
敵する事も無く、ただ狩られて行く。
抵抗も、攻撃も全て無意味。圧倒的過ぎるその戦いは、もはや陵辱。
まるで、象にたかる蟻。
まるで、猛獣と獲物。
まるで、無人兵器と人間――!

「こんなものかっ! お前等は、俺達をこんな風に見てやがったのかよぉ!?」

「熱くならないで下さいと言った筈です。
 すぐに左に廻って下さい。追いつめられますよ」

ギリと、自分でも驚く程大きく歯軋る。
奥歯が軋むのが、分かる。だが、そんな事には構わない。
バリアを纏ったままの拳を、進攻路上の敵に叩きつけた。
火花を散らしながら吹き飛んだ無人兵器には一目も送らず、再び加速する。
声の言う通り、囲まれる事さえなければ、無人兵器は敵ではない。
怖いのは只壱つ。火星で散々体験した、万歳アタックのみだ。

「…アレは、本当に質が悪かった」

だが、それさえ気をつければ、奴等の攻撃じゃこのバリアは破れない。
説明されたわけじゃないが、理解る。
証拠に、奴等は幾らやってもこの機体に傷一つ付けられていない。
再び掴み取った無人兵器を両手にぶら下げ、脇を駈け抜け様叩きつけながら叫ぶ。
沸き起こる爆発に誘発されたのか、声量は何処までも大きくなっている。

「クソ…くそくそくそくそっ! なんで、火星にこれが一機でもいいから無かったんだよぉ!」

「過去に拘る前に、生き延びる事を考えてください。
 さて、頃合でしょう。今から指定する地点に向かって、全速で向かってください」

あの時、コレが火星にあれば。
あの時、地球の奴等がすぐに撤退しなければ。
あの時、俺がコレに乗っていたならば。
俺達はあんな地獄を、味わわずに済んだ!
そんな思考が頭に満ちる。
分かっている。
そんな事は起こらなかった事は。
分かっている。
地球軍の撤退は、ある意味仕方なかった事は。
分かっている。
俺達が地獄を見たのは、単に運が悪かっただけなんて事は。
だけど、納得なんか出来ない。
出来る筈が無い。

「…っくしょー。ちっきしょぉぉ!!!」

頬が、冷たい。
こんなものに。こんなに容易く壊せる物に。
俺達は、地獄を見せられたのか。
頭の何処かで、違うと言っている声がある。
火星が落ちた理由は、飽和戦略なのだと。そう談ずる声がある。
だが、今の俺にそんな事は聞こえない。
逃げなければ、得る物が在ると信じていた。
恐怖が無くなり、勇気を得られると信じていた。
けれど、そんな物は何処にも無かった。
ならば、俺はどうすれば逃げない様になれる。
どうすれば、何かになれるんだ――!?

「…ぐっ!?」

「落ちついてくださいと言った筈です。
 戦闘中に余計な事を考えすぎると、動きが鈍ります。
 IFSの扱いは、慣れているでしょう? 後は指定のポイントから、ナデシコと合流すればいいんです。急いでください」

無人兵器2体の万歳アタックに、バリアが歪んだ。
始めて見る機体の綻びに、恐怖がせり上がってくる。
興奮状態が薄まり、眼前。特攻する無尽兵器を見る。
フラッシュバックする過去。沸き上がる吐き気を抑え切れず、反吐が零れた。

「う、うわぁぁぁぁ!!」

叫びは、動作となって敵を討つ。
両手が飛び、今まさに特攻してくる敵を掴むと、辺りの敵諸共投げ飛ばす。
大半は周りから離れたが、数体。残って銃口をこちらに向けている。
あの、懐かしさすら感じるレーザーの銃口を。
アイちゃんの感触を、抱えたまま。バリアは正面からレーザーを割り、銃口を踏み潰した。
そのまま、爆発に乗る様にジャンプ。
海へと、飛んだ。

「…ご苦労様です。ナデシコ、浮上します」

海に沈む寸前、ナデシコが足場を成す。
自分が豆粒に思えるその巨体。幻想を振り払い、近づく敵を再び迎撃しようとIFSコンソールを握った瞬間。
声がした。

「グラビティブラストに巻き込まれたら終りですよ。
 大丈夫。安心して見ていて下さい」

「グラビティ、ブラスト?」

なんだろう。聞いた覚えはあるが、具体的には知らない。
と、ナデシコの前方部が開き、黒き光が漏れ出してくる。
不吉な光に、背筋に悪寒が走る。
本能が判断した。アレは、とんでもない。
アレは、人の扱うレベルの物じゃない。

「敵残存勢力。全てグラビティブラストの射程距離にはいってます」

「目標。敵纏めてぜ〜んぶっ!」

「グラビティブラスト発射」

能天気な声と同時。ナデシコの前方から発射された黒い光は、残った敵を歪め潰していく。
その圧倒的な力に、喜びよりも、驚きが先に来た。
なんだ、今のは。百体は残っていた無人兵器を、一発で破壊?
そんな威力の武器なんて、知らない。想像も出来ない。
ああでも。あんな出鱈目な木星トカゲに対抗するには、あの位しなきゃいけないのかもしれない。

「ありがとうアキト! 格好良かったよ! また助けてくれたんだね!」

「…は? いや、何が」

「ううん。いいの、照れてるんだよね。もう、アキトったら照れ屋さんな所は変わってないんだから」

訳の分からない事ばかり言っているユリカを意識から外し、アイちゃんの重さを確認する。
結局、見捨てないと誓った所で、俺は過去を振りきれてなどいない。
無人兵器への恐怖は未だに残るし、PTSDの克服など夢に近い。
確かに、逃げの気持ちは弱くなった。が、無くなったわけではない。
やっぱり、どうにかする為に、俺は火星にいかなきゃいけない。
今日、おぼろげながらも見えた現実をつかむ為にも。過去を清算しなきゃならない。
今まで向き合わなかった報いは、きっと来る。
それでも、前に進まなきゃいけないのを、理解できたから。

だから、俺は火星を目指すことにした。

過去は重く、現在を縛る。
未来など見当もつかず、目標ははなから無い。
それでも、歯を食いしばって進んでみよう。
それ位しか、今の俺には出来ないんだから。
















それはそうと、当たり前だけど、人間の精神力には限度がある。
例外など無く、勿論俺も人間だから限度があるわけで。
その上、俺は精神力だけで壊れた体を如何にかしていた訳で。
それが切れればこうなるなんて、馬鹿でもわかると思う。

「…うわっ!?臭っ…!」

「コイツ、吐いてやがるじゃねえか!」

吐いていたのは、乗る前からだ。
そんな事を考えたが、口は動かない。
とっくの昔に、言葉を吐ける状態なんかじゃなかった。
視界もグニャグニャで何も見えないが、周りが騒いでる事だけは理解できる。

「って、おい! やばいぞ。担架持ってこい! 痙攣起こしてやがる!」

「あああーーーー!? 俺のゲキガンガーがぁ!?
 ゲロまみれじゃ無えか…!?」

五月蝿い。さっきから聞こえていた声が、更に大きくなった。
体を担がれ、上を向かされるのが理解った。
何も見えない。だけれども、酷く眩しい。
嫌になる。なんで、こんな中途半端にまともな部分が残っている。
戦闘は終ったんだ、もう意識を手放して休んでもいいじゃないか。

「…大丈夫。安心して、眠ってください」

相変らずの、冷たい声。
だけど、何故だろう。
何かはわからない。何の事なのか、見当もつかない。
でも、思ったんだ。
許してもらったと。そう、思ったんだ。
小さな手が、そっと視界を塞ぐ。
その冷たさが、只心地よかった。










2話へ










後書き

ちゃんとしたのは連載が終ってから。
とりあえず、文体は見逃してください。
1話1話に時間が掛かりますが、完結はさせます。以上。





代理人の感想

んー、新鮮。

うじうじしてるのはTV版どおりですが、前向きになるあたりがリアリティと共に新鮮味を感じさせます。

続きが読みたいって気にさせてくれますねー。(ここ重要)

よませろー よませろー

 

 

あと文体に関してはノーコメントって事で(爆)。