惑星
 遠い昔、これを最初に発見した人間が、
 他の星とは全く違う軌道を走る事から迷い星
 惑う星………惑星と名づけられた。
 そう、そこに住まう全てのものの宿命を表すように。
 ………時は過ぎ、今この青色の惑星の傍で………
 1つの命が業火の中に消えようとしていた………

 

 

 大気圏………
 この星が青いのは……命にあふれているのはこれのおかげといっても過言ではない。
 それはまるで青色のカーテンのように星を包み込んでいる。
 だが、この美しさとあいまって、この星への外からの来訪者へは、
 業火の試練が待ち受ける。
 この試練に打ち勝てないものは、その身を業火に焼かれ灰も残らないであろう。
 そして………今ここに、その試練を受け、燃え尽きようとしている命があった。
 その鉄の塊には二つの命があった。
 1つはその鉄の塊の守護を受けて、試練をくぐり抜けるだろう。
 だが、もう1つの方はその守護を受けていない。
 その鉄の塊に、まるで磔られたように四肢を固定されている。
 このままでは、その命は業火にその身を焼かれてしまうだろう。
 鉄の塊が、いよいよ青色の大気の壁に本格的に衝突しようとするその時、
  

 

 輝く翼が現れた。

 

 

 とはいっても、輝いているわけではなく例えて言うならガラスで出来ているように
 向こうの景色が少しゆがんで見え、その輪郭が巨大な翼に見えるのだ。
 翼は、まるで卵を抱くように黒い塊を包み込みむ、
 すると今度は、塊の上に人が立っているではないか。
 姿をみるなら10代中期頃の少女だ。
 驚くべき事に、彼女のシンプルなだぼっとしたスカートをはじめとしたシンプルな
 服装は、超高温の中でも焦げ目1つなく、風になびいていた。
 少女は6千度を超える炎の洗礼をまるで潮風に当たるように、流れる髪を軽く手ですく。
 やがて、スカートの中から何かを取り出した。
 長さは30センチほどの細長いもの……

 

 魚肉ソーセージである。

 

 少女はそれの表面の皮をむくと、おもむろに前方……地球に向って投げる。
 ゆっくりと前の方に飛んでいくそれは、やがてガラスの翼の守る領域を越えた。
 刹那、ソーセージの表面が焦げる。
 瞬間的に焼かれたそれは少女の方に戻ってゆく。
 それをキャッチした少女は、それを口に放り込む。
 数秒後、かなり熱いはずのそれを食し終わると、
 足元のそれ………宇宙服に目を向ける。
 しゃがみこむと、それの顔を覗き込んで、顔をしかめた。
 右手を数回握り締めると、超高速でそれを振るう。
 すると、宇宙服の前面がまるではじけたように破れた。
 中には、少女がいた。
 この最悪的状況の中で、信じられないような安らぎの微笑をたたえていた。
 ゆっくりと少女を抱えあげる。
 そして、なにやら唱え始める。
 数秒後、彼女の姿が消えそれに連動したようにガラスの翼も掻き消える。
 残った鉄の塊は、再び洗礼を受け、その表面に張り付いた宇宙服は
 一瞬で燃え尽き、塊の表面に人の形の焦げ後をのこした………

 

 

 幾数の星を散りばめた、銀幕の夜空。
 それを広大な海がその美しさを真似るかのように映し出す。
 とある見知らぬ地の砂浜………
 限りなく美しい自然物の集まりの中に、その断りに全く反した
 明らかに人工物と思われるそれは、白い煙を所々からふきだしていた。
 それは先程少女を縛り付けていた鉄の塊…脱出ポッドであった。
 炎の先例を切り抜け、大地に降りる事を許されたのだ。
 今はその疲れを癒しているかのように静かにたたずんでいた。
 突如。
 ポッドのそばに炎が上がる。
 全く突然に前触れもなく。
 紫……緑……青…
 本来美しいはずの色は、無秩序に混じりあい不気味さをかもし出した。
 炎が収まると、そこには………
 それは人の姿をしていた。
 銀色の長髪。
 堀の深い顔立ちを隠すような仮面。            
 がっしりとしたまるで修道僧が着るような服を着込んだ体。
 それらをまとめ包み隠すかのように、闇色のマントが男を包んでいる。
 不意男は空を見上げた。

 

「闘星31織天………ファウナの犬どもめ………余計な事を」

 

 忌々しげに言うと男はポッドに近づく。

 

「ふむ………」

 

 男はポッドの表面………人形の焦げ後を指でなぞる。

 

「………これでは、少々足りぬか」

 

 そういうと、ポットから少し距離を取った。

 

「***********************」

 

 人間の扱うどの言語とも違う奇怪な言葉を紡ぐ。
 詠唱が終わると、地面から何かが現れた。              
 それは人の形を取っていた。
 まるで雑に作った人形のような風体をしたそれは、
 ぬたりと脱出ポッドの人形(ひとがた)の焦げ目の後と重なるように張り付く。
 それを確かめた男が手をポッドにかざす。
 水が岩から湧き出すようにかざした手から漆黒の炎が現れた。
 一気に膨れ上がった黒い炎の奔流は、ポッドを包みこむ。
 暫くして炎が収まると、そこには先程の人形(にんぎょう)の姿はなく
 代わりにポッドの表面に人形(ひとがた)の焦げ後がくっきりと現れていた。

 

「…これぐらいなら丁度良いだろう。ゴーレムの焦げ後にしては上出来だ」

 

 満足そうに頷く。

 

「あとは………」

 

「SFADFAGAEDVAREAGAEVZDFVERVESRHYUAHEG……」

 

 再び男は詠唱を始めた。
 今度はポッドの周りに黒い光のサークルが幾つも重なって現れた。
 それは暫くそこに在ったが、すぐに消滅する。

 

「これでさらに面白くなる……」

 

 満足極まりなしといった顔で頷くと、男が炎に包まれた。

 

「恨むが良い。
 呪うが良い。
 殺すが良い。
 おまえは殺せば殺すほど呪が増え、強大なものとなるのだ」

 

 その顔は気の弱い人間が見れば、ショック死するほど凄惨な笑顔に満ちていた。

 

「そして私を楽しませてくれ」

 

 その言葉を最後に、炎がひときわ大きくなり唐突に消滅する。
 まるで何もなかったかのように………
 再び、夜の静寂が戻った。
 星の光を受けて鈍く輝くポッドは、まるで奇怪な生き物の卵のようにも見えた………

 

 

                                        
 赤黒の女神 今語り 『DeadConductor』

 

 

「マスター、エバグレイが救出を終えたそうです」

 

「ん、んんんんんんん〜ん」
 (うん、わかったわ。)

 

 ………歯磨き中なんだってば。
 やっぱり日々の手入れは肝心よね。

 

「この後彼女はどうなさいますか?」

 

 私は歯ブラシを洗うと、コップの水ですすいで吐き出す。

 

「っぱ!! …私が直接話に行くから………いや、カスパーに任せましょう。
 第四病院へ運んで治療を……くれぐれも変なお香は使わせないように。
 素の人間がかいだら鼻が壊れるからと病院の連中に伝えておいて。」

 

 あそこの所長がどうも妙なお香にこりだしているのを知っているからだ。

 

「はい………それとマスター。
 救出した少女の相方なのですが……」

 

「ああ、あの存在感のうっっっっすいの…それがどうかした?」

 

「……『笛吹くもの』が接触した模様です」

 

「………何をしたか分かる?」

 

「一瞬ですが、呪印系の起動を確認しました。
 内容は高確率で呪印使用願式です」

 

「…大量虐殺をさせるつもりか」

 

「一人殺すたびに、彼の怨念の度合いから見て
 30枚もの怨念呪符が作られてしまいます。
 下手をすれば………」

 

「……フォーリングダウン……」

 

 メルキオールは無言で頷く。
 もしもそうなったら………

 

「…VAの最下級完全開放級と同等。
 ……地球圏も木星圏も絶滅するわね。」

 

 私は思わず苦笑する。
 最下位のVAでさえも一人いれば世界を滅ぼせるとは……

 

「笑い事では……」

 

「もちろんよ」

 

 私は顔を洗い、タオルで拭きながら答える。

 

「…でも今回は不味いかもしれないわね。
 フォーリングダウンの前兆があれば……ヴァチカンが動くかも」

 

 こういう関係には問答無用で首を突っ込んで解決させようとするからな。
 ……『相手やその周りの安全危険を問わず』……
 少なくとも、彼の命は確実になくなるだろう。
 それは少々後味が悪い。

 

「取り合えずエバグリーンに警戒を促すように。
 下手に接触すると軽い『フォーリングダウン』がおこってしまう。
 特に『レイライン』への影響に気をつけるようにと伝えておいて」

 

「確かにお伝えいたします」

 

「今回のケースなら、最悪の場合ヴァチカンの聖騎士とやりあう事になるかもしれないから、
 強くはないけれど、手加減できる相手でもないし。
 第四階位まで開放してもいいけれど、決して大規模破壊をしないようにとも伝えておいて。
 あとGM(グレートミトコンドリア)の能力も最悪の場合使用を許可するとも」

 

「はい、お伝えします。
 ………しかし、わざわざ『闘星31織天』を監視に回さなくても……
 第七級でも十分すぎるほどなのでは?」

 

 もっともな質問である。
 第一級である『闘星31織天』が一人いれば、
 銀河系数個が支配できるだろう。

 

「……最近だらけ気味だったからいい機会かな? と」

 

「……今の話は聞かなかったことにします。
 ………失礼します」

 

 メルキオールは会釈をすると部屋から出てゆく。

 

 

「……今の本当なの?」

 

 そんなに睨まなくても良いのではないか?

 

「…ええ、そうよ」

 

「彼らの力なら慣らしにもならないんじゃない?」

 

 膝の上に抱いて座っている彼女はやはり腑に落ちないように聞いてくる。

 

「でも運動に代わりはないでしょう?
 少しでもやるのとやらないのとではぜんぜん違う」

 

「…まあいいけど。
 貴方なりの考えがあるんでしょうし」

 

 OK どうやら納得してくれたようだ。
 心でガッツポーズをとる。
 ……フォーリングダウンか……
 何の呵責もなく数千の命を奪うのだな。
 そう…… 
 あの時と同じように………

 

「この世に同じものという存在はないわ。
 似ているってことはあってもね。
 ……今のところは」

 

「私の思考を読まないでほしいんだけど………」

 

 私は多少あきれながら寄りかかる半身の汗ばんだ髪を撫で、
 ひと時の安らぎを感じた………

 

 

 

「後でシャワーでも浴びましょう」

 

「否定の要素はないわね」

 

 

 

 

 続く………

 

 

 

 

 後書き
 お久しぶりの天砂です。
 久しぶりなのに、いまいちな小説ですいません。
 もう少ししたら、ルミナスの後編が完成しますので、どうかご容赦を。

 

 それでは………

 

 PS:魚肉ソーセージを焼くとおいしいと知ったのは小学校の頃。
    このとき、やけどをしてしまいしこたま怒られたほろ苦い思い出があるんですよ。
    

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

天砂さんからの投稿第八弾です!!

う〜ん、例の場面ですね〜(苦笑)

そうですか、助かりましたか。

でも、なんだかジュンに悪戯が施されましたね〜

さてさて、今後どうなるのでしょうか?

 

では、天砂さん投稿有り難うございました!!

次の投稿を楽しみに待ってますね!!

 

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