ナデシコ艦内 副提督室

ブリッジでユリカを拒絶したアキトはその足で自分の部屋に向かい、ベッドに腰掛ける。
しばらくするとルリが訪れ当然のようにアキトに寄り添う。
狂おしいほどの激情はすでに去り、アキトの心には虚脱感のみが残っていた。
そんなアキトを察してルリは声をかける。

「アキト、どうしました?」

「これからの事をな」

「ムネタケ副提督の反乱ですか?」

「ああ、こちらの手勢は潜り込ませてある、ムネタケの部下の目星もついている、あとは・・・・・」

「私達が動くかどうか、ですね」

その言葉にアキトは軽く肯く。

「歴史どうりに動いた方が有利なのは確かだがな」

「やりましょう」

きっぱりとしたルリの声が薄暗い部屋に響く。

「私達はこの1年間様々な事をしてきました、すでに歴史は変わっています、それなら不確定要素は可能な限り排除し有利な状況を作るべきです」

「そうだな・・・・・・・・・・・・ルリ、指示のほうは頼むブリッジは俺がやろう」

「はい、各部署の鎮圧の指示を出して起きます」

それで打ち合わせは終わったのか二人間に沈黙が訪れる。
やがてアキトはベッドに横たわりルリはその上に跨る様に重なっていく。
二人の夜はまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

『艦長のミスマル・ユリカです。これから重大な発表があります。みなさんそのままでお聞き下さい。…プロスさんお願いします』

ウィンドウの中ではプロスペクターが火星に向かう件について説明している。


ナデシコ食堂

「へ〜、火星かい」

食堂でホウメイは軽く驚きの声を上げる、最もその声に戸惑いの色は全く無い。

「さて、仕込み仕込み」

そういうとホウメイは何事も無かったかのように仕事を再開する。
しかしその足元にはアキトの部下によって拘束されたムネタケの部下たちが転がっていた。


格納庫

「おらおら!!手動かせ!手!」

ウリバタケの威勢のいい声が広い格納庫に響く。

「たく、しっかし邪魔だなこいつら」

その視線の先には食堂と同じ様に拘束された軍人達が転がっていた。


ブリッジ

「本艦はこれよりスキャパレリプロジェクトの一環として火星に向かいます」
「火星〜?」

「そうです火星です。かつて木星蜥蜴が侵攻してきた際、連合軍は火星から撤退しました。ですが火星に残された人たちは?」

「…死んじゃったんじゃないですか?」

「わかりません。本艦はそれを確認しに行くわけです」

「火星ねぇ」
 
「そうはさせないわよ」

「ムネタケ!?」

「ふふ。提督、この艦をいただくわ」

自信満々で宣言するムネタケ。背後に数人の武装した兵士が配置につく。

「血迷ったかムネタケ!?」

「その人数で何ができる?」

特に身構えるでもなくムネタケの背後に視線を向けているゴート。

「おあいにく様、出航前に潜入した私の部下がとっくに…」

「とっくに眠っている」

「なっ!?」

いきなり背後から聞こえた声に飛び上がるムネタケと手下達。

「アキト!」

嬌声をあげるユリカ。
そこには黒衣を身にまといバイザーをつけたアキトが立っていた。

「あたしの部下を眠らせたなんてはったりはやめなさい!」

「はったりかどうかはすぐわかる。…セイヤさん?」

スパナを構えたウリバタケのウィンドウがともる。

「おうテンカワ。こっちは異常ないぜ」

ウリバタケの背後には拘束された男達が転がっている。うなずくと別のウィンドウを呼び出すアキト。

「ホウメイさん?」

「「「「「いじょうありませーん!!」」」」」

ウィンドウいっぱいにホウメイガールズの顔が表示される。

「………」

しばし、無言になるアキト。
五人の顔が別々の方向に消えると、まとめて縛られた男達のそばにフライパンをもって立つホウメイが映る。

「まだお昼の仕込みが終わってないんでね」

そう言ってホウメイは豪快に笑った。
ついと顔だけムネタケに向けるアキト。

「他も見るか?」

「ぐぐぐ!ならここを制圧するまでよ!あんたたち!」

ムネタケの号令一下、兵士達がライフルを構え直す。だがそれよりも早くアキトが動いた。

「ぐぇ!」「がっ!」「ごほっ!」「ぎぇぇぇーっ!」

ガッ、ドサッ、バサッ、ゴン

ゴートの足下に男達が次々と積み重なる。手早く、いや足早くライフルを蹴飛ばすゴート。

「さて、ムネタケ副提督、死を覚悟した事はあるか?」

ムネタケの顔が恐怖に引きつった。

 

 

反乱を鎮圧しムネタケを拘束した後、緩みかけたブリッジの空気をルリの声が引き締めた。

「前方10キロの海中に金属反応・・・・浮上します」

皆が前方を注視すると、海面が隆起して何かが浮上してきて、そのまま空中に浮かび上がる。

「トビウメ・・・・」

ジュンがモニターを見て呟く。

「トビウメって言ったら・・・・」

アキトが先を続けるように促す。

「連合宇宙軍、極東方面隊の旗艦だ」

「ってことは・・・・」

そんな会話の中、トビウメを映しているモニターが切り替わり、立派なカイゼル髭を生やした宇宙軍の制服を着た男が映る。

「お父様!!」

ユリカが叫ぶ。

「ユーリカー!!」

画面の男性がアップになって泣きながら叫ぶ。

ミスマル・コウイチロウ連合宇宙軍中将。

ユリカの父親である。

「これはこれは、ミスマル提督・・・一体どの様な御用件でしょうか?」

プロスペクターが訪ねる。

「うむ、こちらの用件を言おう。機動戦艦ナデシコに告ぐ!! 地球連合宇宙軍提督として命じる!! 直ちに停船せよ!!」

「いやはや、穏やかじゃありませんね〜。軍とは話がついていたはずですが?」

「我々には余裕が無いのだよ、これほどの戦艦をみすみす見逃すわけにはいかん」

「流石はミスマル提督、話が早い。それでは交渉といきましょうか」

「よかろう、だがマスターキーはこちらが預かる」

マスターキーを手にするという事はナデシコの全権を握るという事になる。
これを抜かれれば最新鋭のナデシコといえどもただの鉄の固まりとなる。

「断る」

力強い声が響く、その声を聞いた全ての者が彼に引き寄せられる。

「マスターキーを預かるだと・・・・ふざけるな」

軍の重鎮であるミスマル中将をも圧倒する強烈な威圧感。

「君は誰だね?」

それでも問いを発するのは流石と言うべきだろう。

「ナデシコ副提督テンカワ・アキト」

「テンカワ・・・・・だと?」

何か引っかかるのか眉間にしわを寄せる。

「交渉には応じよう、だがマスターキーはわたさん」

そう言うとアキトは通信を切る様に指示を出す。

「ま、待ちたまえ。君は・・・・・・」

ミスマル提督は何かを言おうとしたがその前に通信が切れる。

「・・・・さてユリカ、交渉だ行ってこい」

「う、うんジュン君いこ」

アキトに促されユリカはジュンを連れてトビウメに向かう。

「ミスター、ついでだムネタケ達も連れていけ」

「ふむ、そうですな。その方が良いでしょう」

そう言うとプロスペクターもユリカ達の後を追う。









トビウメ艦内

「ふぐふぐ、はぐはぐ、んぐんぐ」

山と積まれたケーキを一心不乱に食べるユリカ。

「ユリカ、少し聞きたい事があるんだが」

「ほえ?」

「テンカワ副提督の事だ・・・・・彼はもしや」

「火星でお隣りだったアキトですよ」

「火星!・・・テンカワ夫妻の」

それきりコウイチロウは黙り込みユリカはケーキを食べつづける。

しばらくしてプロスペクターが訪れる。

「結論はでたのかね?」

「はい。ナデシコはネルガルの目的のために運用する、軍は協定を尊守する事を求める。との事です」

「そうか・・・・・・・・・・プロス君、彼はあの事を知っているのか?」

彼が誰を指しあの事が何を示すのか、彼らは知っているのだろう。

「ええ。彼は会長の友人でもありますから」

「そう・・・・・・か」

その時、艦がにわかに騒がしくなり来賓室に報告のための下士官が入ってくる。

「何、チューリップが・・・・・・・・クロッカスとパンジーが飲みこまれただと、ユリカ!!」

ナデシコの参戦を求めようとコウイチロウが振り返ったときすでにユリカとプロスペクターの姿は無かった。

 

 

 

 

 

ナデシコ ブリッジ

「動いたか」

「休眠中だったチューリップが活動を再開、護衛艦二隻を飲みこみ此方に向かってきます」

「ガイは艦長の護衛に俺はエステで出る、提督は指揮をお願いします」

一通りの指示を出すとアキトはフクベに一礼してブリッジを出ていく。

「ゴート君良いかな」

フクベは一応ゴートに訪ねる、それに対してゴートは軽く肯く。

「ふむ、総員第一種戦闘配置」

今まで全くと言って良いほど存在感の無かったフクベだが指揮卓について発する声には張りがあり辺りには不思議な安心感が漂った。

「テンカワ機出ます」

「ほう、流石に速いな」

ナデシコの前方をチューリップに向かって飛翔する漆黒の機体が見える。

「ミサイルを海中潜行でトビウメ前方へ、その後浮上しチューリップへ向かうようにセットしたまえ」

「提督、それは」

「何ちょっとしたお遊びだよ」

ナデシコから発射されたミサイルはトビウメの前方まで潜行しチューリップに向かって行った、あたかもトビウメが攻撃したかのように。
その攻撃に引き付けられたのかチューリップはトビウメに向かって進路を変更した。

「有人機ならこうはいかんのだがな・・・・・・・・・・チューリップ側面に回り込みグラビティーブラストで止めを刺す!!」

フクベの指示にしたがってナデシコはチューリップの側面に回り込み高重力の波を叩き付ける。

「あの時、この船があれば・・・・・・・・」

わずかにこぼれたフクベの言葉を耳に留めたのはゴートだけだった。

「提督」

「いや、すまん。年寄りの愚痴だよ、忘れてくれ」







エステバリス コクピット

「フクベ提督、流石だな」

フクベの手腕に感心しているとトビウメから通信が入る。

「アキト君か?」

「ミスマルの叔父さん・・・・・・・・」

「アキト君私は・・・・」

その言葉にアキトは首を振る。

「今は何も。ユリカは守ります、必ず」

そう言うと通信を切りナデシコに向かう。








トビウメ

「テンカワ夫妻、アキト君・・・・・・・・・・私は」

コウイチロウの眉間には深い皺が寄りその視線の先には上昇していくナデシコがあった。

「提督」

「アオイ君・・・・・・・・・置いて行かれたのかね?」

「ええ・・・・・・・・・・ユリカですから」

「そうだな・・・・・・・ユリカだからな」

おそらくはジュンを置いていった事に気が付いてすらいないだろう、悪気が無いだけたちが悪い。
二人はユリカのことを良く理解しているためお互いに苦笑が浮かぶ。

「提督、お願いがあるのですが」

「なんだね」

「僕を第3防衛ラインまで上げてください」

「アオイ君・・・それは」

「軍がこのまま大人しく引き下がるとは思えません、その前に止める必要があります」

コウイチロウはしばし無言でジュンを見詰める。

「それに僕はナデシコの副長ですから」

そう言うとジュンはほんの僅かに笑った。
その笑みがコウイチロウに決断させた。

「わかった、君を第3防衛ラインまで上げよう・・・・・・・・ユリカを頼む」

その言葉にジュンは敬礼を持って答えた、コウイチロウもまた敬礼をし二人は空を見上げた、その先にあるナデシコと彼らの戦場に思いを馳せて。

 

 

 

 

あとがき

ガイが出てこない・・・・・・・・・・・
次はジュンを活躍させます。
シリアスをやめたい・・・・・・・・

 

 

代理人の感想

 

おお、この設定のままギャグに移行ですか(爆)?

手始めとして次回のジュンを完膚なきまでに壊し、

壊れゴートに匹敵する人気キャラクターに仕上げるのですね!?

それはそれで見てみたい気もします(笑)。