スーパーロボット大戦 exA

 

第9話 ザ・プレジデント


 絶体絶命。
 満身創痍。
 現状を表現するならこの4字熟語が適切であろう。
 D−3のレーダードームには亀裂が走り、所々で紫電が光っている。
 D−2のショルダーキャノンは右側がひしゃげ、左足の姿勢制御用バーニアは沈黙している。
 D−1に至ってはキャバリアーもシールドもなくなっている。

『これは、いよいよもってダメかなぁ』
『だから止めとけばよかったんだよぉぉぉぉ』
『うっせえ! 最後の最後まであきらめるんじゃねえ!』

 シニカルな笑みを浮かべるライトと半べそのタップに向かって、ケーンが檄を飛ばす。
 が、ファルゲン以下、プラクティーズのカスタマイズされたゲルフ3機に一般兵用のゲルフが8機。何機かは落としたものの、多勢に無勢である。
 小型艇をかばうようにドラグナー3機が背中合わせに取り囲んでいる。
 最初、一番足の速いファルゲンに追いすがられたとき、小型艇だけ先に逃がそうとしたのだが、それを読んでいたマイヨがプラクティーズのカスタムゲルフを先回りさせていて、退路を断っていた。
 人質を取られたに等しいケーン達は、小型艇をかばうことを優先していたため満足な反撃ができず、じり貧となっていたのだ。

『……もう一度言う。降伏せよ、ドラグナーのパイロット達』

 オープン回線でマイヨが降伏勧告を行う。
 先ほどは一言で切って捨てたケーンだったが、今回はさすがにそうもいかない。
 ここまでか……?
 頭を一つ振って意を決し、降伏する、と言おうと思ったケーンを、

『……ちょっと待て』
「なんだ、ライト?」
『こっちに高速接近する機体……地球方向から、4機の機動兵器?』

 制しつつ、ライトが目を見開く。
 それもそのはず。その4機はただ高速接近してきただけではなく、レーダーの範囲内にいきなり現れたのだから。

「ワープ……なわけないか。だとしたらどんなジャミングをしてたんだ、こいつら?」

 と、ライトがつぶやいている間に、その機動兵器たちは戦場に姿を現した。
 軽装甲の格闘戦仕様の機体。
 女性を思わせるフォルムに白銀の翼を備える機体。
 赤いマントに細身の実剣を佩いた機体。
 それら3機より一回り小さい、ハンドガンを携行した軽装の機体。
 居合わせたメタルアーマーたちよりも圧倒的な存在感を放つそれらを見て、

「見たことのない機体……連邦の新型か?」

 マイヨも突然の闖入者に戸惑いが隠せない様子だ。
 だが、少なくとも味方ではない。警戒を怠るわけにはいかない。

『未確認の機動兵器のパイロットに告ぐ。私はギガノス帝国機動部隊隊長、マイヨ=プラート大尉だ。我々は戦時の作戦行動中である。現状への介入は我々への敵対行動と見なすことになる。これが偶発事項であるならば、速やかにこの宙域から退去願いたい』

 オープン回線で、マイヨは警告を発した。
 この警告に対して返答したのはアクセルだった。

『少し前から救難信号を捕らえていたのだが、それが突然途絶えた。最終発信地点から予測進路を割り出してトレースしてきたところに貴官がいたのだが』
『作戦行動中故、多少のアクシデントはやむを得ない』
『救難信号を発している機体に起こったアクシデント、と聞いたら、看過できないと思わないのか?』
『そちらの所属は?』
『答える義務はない』

 きっぱりと拒絶したアクセルの台詞に対して、マイヨはほんの少しだけ目を見開いた。

『ならば、速やかにこの宙域から立ち去ることを勧める。これ以上は、作戦遂行のための排除対象とせざるを得なくなる』

 必要以外の戦闘は極力回避、か。
 そう思いながらアクセルはアキトへの秘匿回線を開く。

『アキト』
『なんだ?』
『全力移動で割り込んでくれ』

 独特の緊張感が漂うこの宙域で、何のためにそんなことをするのか。
 だが、アクセルが口の端に浮かべた薄い笑みが、仕掛けようとする意図を感じさせた。

『了解した』

 だから、アキトはその思いつきに乗った。
 スロットルを全開にして、シールドマントを翻し、ヴァイサーガが疾駆する!

『何っ!? 貴様、何を指示した!!』

 語気が強いものの、さほど慌ててはいない辺りマイヨの胆力も大したものだが、部下まではそうはいかない。
 ファルゲンとD−1とソウルゲインの3すくみのところに、ヴァイサーガが強引に割り込んで来たのだ。
 ええいやらせん、とばかりにプラクティーズのカスタムゲルフがレールガンを発砲する。

『馬鹿者! なぜ撃った!?』

 アクセルに向かって言い放った言葉よりも余裕がなくなっているマイヨの叱責を受けて、プラクティーズの面々は目を白黒させている。
 未だ、自分たちが何をしたのか把握していない証拠だ。
 だから、次の瞬間にアンジュルグの左の手甲から打ち出されるシャドウランサーと、アシュセイヴァーの携行火器であるガンレイピアが瞬く間に手持ちのレールガンだけを吹き飛ばしたことにもしばし反応できずにいた。

『……こっちは非武装のシャトルを保護すべく飛び込んだだけで、敵対行動の意志はなかった。それが証拠にあの機体はシールドマントは展開していても武器は持っていなかっただろう? そこに向かって攻撃してきたんだ、先制攻撃を受けた我々には防衛のための迎撃が認められてしかるべきだとは思わないか?』

 見事なまでのアクセルの詭弁である。
 事態が硬直したのを見て取り、自分に有利に傾くように動かしてしまったのだ。
 してやられたマイヨは一瞬悔しそうにするが、動いてしまった以上任務を遂行しなければならない。

『ちっ。だが、ドラグナー達は手負いだ。数で押せ。3対1以上で各個撃破だ』

 マイヨの指示でギガノスのメタルアーマー群が散開する。
 ギガノス側のメタルアーマーは10機残っている。
 ドラグナーとシャトルを戦力外とするなら、10対4。
 分断して各個撃破、というのがセオリーと言えるだろう。
 3対1以上、という指示も的確でそつがない。

 マイヨに間違いがあったとすれば、この未確認の機体4機のポテンシャルを大幅に見誤っていたことだけだ。

『あんた、隊長だな。部下を助けなくていいのか?』
『私1機で貴官を押さえておけるならば、彼我の戦力差は3倍。不意打ちでもなければ勝てないのは明白だ』

 ファルゲンと対峙するソウルゲイン、という構図のまま、アクセルとマイヨが名乗り合いもせずに語り合う。
 鉄面皮を通すマイヨに対して、アクセルはにやりとした薄笑みを浮かべている。

『まぁ、普通ならそうだな』
『……何が言いたい?』
『あんたの部下は、3機で戦艦が落とせるかな?』
『何!?』
『うちの連中は、1機でそれができるんだな、これが』

 そして、レーダーを見てマイヨが驚く。
 10機のメタルアーマーを相手にしているのは先ほど割り込んで来たマント付きの機体と、女性的な曲面と優美な白銀の羽で形作られた機体だけ。しかも味方は確実に数を減らしている。

『いくぞ、風刃閃!』
『ミラージュソード』

 メタルアーマーと同格かそれよりも一回り大きい機体が、ヒットアンドアウェイで複数の機体を翻弄しているのだ。
 あっと言う間に味方が半分になったのを見て取り、マイヨは刹那呆然としてしまったが、すぐに気を取り直す。

『これほどのパイロットがいたとは……貴官ら、連邦軍なのか?』
『それに答える義理はない』

 そういいながら、マイヨは隙をうかがう。
 だが、軽口をたたきながらもアクセルは隙を見せない。

『だが、ここでドラグナーを逃がすわけにも行かん。行かせてもらうぞ!』

 言うが早いか、マイヨはファルゲンを全速で下がらせつつ、ミサイルをソウルゲイン目がけて撃ち放つ。

『ちっ、思い切りのいい攻撃なんだな、これが!』

 アクセルは至近距離の誘導ミサイルを器用にさばき、致命的なダメージを被ることなく撃ち落とす。
 だが、さすがに挙動0でできるわけもなく、ソウルゲインが身を翻しているわずかな隙にファルゲンが一投足の間合いから抜きん出た。
 疾駆するファルゲンが小型艇を囲むDシリーズに肉薄しようとした刹那。
 目の前を極太のビームが打ち抜いていった。

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