「ふー、長かったぜ。やっとアメリカ大陸だ」
大気圏内飛行も可能なシャトルの、特別仕様のシートで大きく伸びをして、ほっとしたようにチボデーがつぶやく。
「俺もほっとしてるよ。大気圏突入時だけは、どうがんばっても守りようがないからな」
チボデーの向かいで腕を組みながら悠然と座っている青年……というより少年であろう……が、苦笑を浮かべながら相槌を打つ。
星条旗をプリントしたジージャンとジーパンといういつもの格好のチボデーと、真っ黒のつなぎに黒い帽子、背中に１本おさげの茶髪という格好の少年。
とても、大気圏突入時の姿とは思えない。
「ったく、守ってくれる必要なんてないって何度もいってるのによ」
なっちゃいない、と首を振りつつ、チボデーがつぶやくが、少年の方はひょうひょうと取り合わない。
「まぁまぁそういいなさんな。ネオアメリカにしても、国の代表がつまらないことで怪我したりしないようにって保険をかけてるだけなんだし」
「俺をどうこうできるような奴がいると思うか、ボーイ？」
親指で自分を指さしながら強気の発言をするチボデーに、黒つなぎの少年は帽子のつばを横に向け、真正面からチボデーを見据えていった。
「ガンダムファイターのあんたをぶっ壊すのは難しいだろうね。俺だって、生身であんたと闘いたいとは思わない」
「だったらよぉ」
「けれど、例えばサポートクルーは？ シャリー達の誰か一人でも誘拐して人質にとってみるとか、さっきも言ったけど、このシャトルに時限爆弾を仕掛けてみるとか。チボデー・クロケットを無力化する方法はいくらでもある。手段を選ばなければね」
底光りする瞳で、少年がチボデーを見据える。
それを見て、チボデーは悟る。
こいつ、俺と同等か、それ以上の修羅場をくぐってきて、生き残っていやがる。
ファイターの気迫とは違う、生き残った兵士の気。
なるほど、こいつが一緒にいるならめったなことで殺されることはない。
正反対の考えに行き着かないのは、きっとこの少年の持って生まれた性格のおかげだろう。
だが、チボデーも国を背負ったガンダムファイターだ。気圧されたりするわけにはいかない。
「けっ、ボーイに守られるほどチボデー・クロケットは落ちぶれちゃいないぜ」
「だーかーらーよぉ、俺のことを
「女の味も知らないようなボーイは、ボーイで十分なんだよ！」
「なんだよそのオヤジな発言は！？」
ボディガードは未だに必要だと思っていないが、この出会いにだけはチボデーは感謝した。
「縁があったらまた会おうぜ、ボー……いや、デュオ」
「あんまり死神に縁のある人生ってのも楽しくないと思うけど。じゃあな」
死神を標榜する少年、デュオとネオアメリカのガンダムファイター、チボデー。
この二人の再会は、実はさほど遠い出来事ではなかった。