そして時間は過ぎる。
 とっくに日も暮れ、日付が変わろうかという時刻。
 建物の入り口全てにセキュリティチェックがかかり、IDカードと指紋の2重認証をクリアできないと入り口は通れない。その先のさらにセキュリティが厳しい研究開発ブロックには1時間ごとに組み替えられる16桁の暗証番号が設定されている。
 これだけのことがしてあれば大丈夫。
 得てして、このような錯覚を人間は抱くものだ。

「けれど、機械は完璧ではないんだな、これが」

 背後からの手刀の一撃で正門の守衛を打ち倒したアクセルは、そのまま手早く両手足を拘束して詰め所の奥に蹴り転がしている。

「欺瞞プログラムの差し込みに成功。1時間程度なら監視モニターをだますことができるはずだ」
「さすがだな、ラミア」
「そのためのWシリーズだ」

 アキトが感心するのを見ても、特に感慨もなくラミアがつぶやく。
 メインコンピュータのデータベースにアクセスするわけでもないのだ。物理的にネットワーク回線に侵入して、偽の情報を流し続けるプログラムを割り込ませることぐらい、ラミアは簡単にこなしてしまう。

「俺は何もしてないけどな」

 アキトが苦笑を浮かべつつつぶやくが、

「いや、その一見善良そうな顔立ちは十分すぎるぐらい武器だと思うんだな、これが」
「相手に警戒心を抱かせないというのは潜入任務において重要なファクターだ」
「……おいおい」

 アクセルとラミアに口々に言われては、さすがのアキトも眉間にしわが寄る。
 そもそも、アクセルが守衛の背後を取れたのは、何食わぬ顔でアキトが近くに迷い込んでしまった一般人、というそぶりで道を尋ねに行ったからである。

「じゃ、一気に突入と行こうか」

 最後に、万丈が周りを見回しながら3人を促した。
 そこからは、巡回の警備員をやり過ごしながら目標まで駆け抜ける。
 薬品プラントのブロックを一気に抜けると、あまり背の高くないビルの正面に出た。
 戦闘行動でもないので、誰も息を切らしたりはしていない。
 目の前のビルを見上げて万丈がいう。

「事前に入手した情報だと、ここが研究棟だってことなんだけど」

 周りを警戒しながら、アクセルがそれに答える。

「んじゃ、手はず通りにここからは手分けして」
「そうだね。ラミア君は右ブロックのサーバールーム、テンカワ君はアクセル君と一緒に強化人間開発のファクトリーブロックへ突入、僕はこのままここを突っ切って機動兵器の開発プラントを押さえる。おそらく、あと15分もすれば警備システムの欺瞞がばれる。それまでにケリをつけよう」

 まかせろ、と言わんばかりにアクセルたち3人が無言でうなずく。

「頼んだよ」

 万丈の号令で4人が3方向に散る。
 未だ、世界は静まり返っていた。

Next