「うわ、真っ白」
「綺麗な船ですねぇ」

 まずは実際に乗り込む戦艦をご覧にいれましょう、とプロスペクターがミナトとメグミを案内したのは係留ドックだった。
 そこには、まだ傷一つついていない純白の戦艦が巨体を横たえていた。
 やや横に張り出した流線型の艦体の後方にブリッジがそびえ立つ。
 3連装の砲門が幾つか並ぶ辺りを見ると、確かに戦艦に見えるのだが、鏡のように磨きこまれた表面装甲のおかげで傍目には超大型の豪華客船にも見える。
 そこまで見ていくと、前面の艦底部から張り出している触角のような2本のブレードが、素人目にも違和感をかもし出す。

「なんだか、面白い形の(ふね)ですね」
「前の両側にくっついてる棒2本、あれは?」

 メグミはよくわかっていないのか率直な感想だ。
 それに対してミナトは異様な存在のブレードに関心を持ったらしい。少なくとも、あんな華奢なパーツがついているのならば、操船時に多少なりとも気を使わなければならないのかもしれないからだ。

「あれこそが我がネルガルの最新技術の結晶とも言える画期的な装置、ディストーションブレードです」
「ディストーション……ブレード?」
「この戦艦全体を覆い、光学兵器の類から完全に守りきるバリア、または大気圏内の空力特性を高めることのできる重力波制御による歪曲場、すなわち、ディストーションフィールドを発生させるために、あのブレードは装備されています。これさえあればこの戦艦はまさに無敵! あなたの軍にも一艦いかがですか? というのが売り口上でして」

 プロスペクターの立て板に水のごとき説明を、ミナトとメグミはほえほえと聞き流していた。
 はっきりいって、よくわからない。

「うーん、バリアなんだ。ということは、衝撃を受けるとぱりーんって割れちゃったりして?」
「ああっそれ知ってますミナトさん。確か光子力研究所のバリアですよね? 攻撃を受けると割れちゃうのって」
「意外と詳しいのね、メグちゃん」
「巨大ロボットものって元々アニメでやってたじゃないですか。だから、一年戦争や極東地区の侵略戦争のドキュメンタリー番組で、何度かナレーターをやったことあるんです。一度、光子力研究所のアフロダイAのパイロット役もやったことあるんですよ」
「なるほどぉ」
「あー、おほん」

 さすがに自分の説明をここまで無視されると温厚なプロスペクターもちょっと黙ってはいられない。
 咳払いをすると、ミナトとメグミは肩をすくめて小さくなった。

「無限のエネルギーを生み出す相転移エンジンと、無敵のバリアであるディストーションフィールドを搭載したこの戦艦、機動戦艦ナデシコこそ、我がネルガルが世界に自信を持って売り出す新製品なのです。お二人には、この戦艦のプロモーションスタッフとして乗り込んでいただくことになります。よろしいですかな?」
「「はーいっ」」

 しゅたっと右手を同時に上げて、プロスペクターに向けて二人は元気よく返事する。
 苦笑を浮かべるプロスペクターの肩に、ほんの少しだけ中年男性の悲哀が見えていた。

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