スーパーロボット大戦 exA

 

第20話 ミーニング・オブ・ファイト


「レーダーに反応あり。極東地区に新たな勢力が現れた模様。前後に行われた強力な電波ジャックによる宣誓から、以前に接触のあったバーム星人であると推測」

 ルリからの淡々とした報告と共に、ナデシコ船内にエマージェンシーコールが鳴り響いた。
 それと同時に、それまで暇そうにしていたメグミ・レイナードのコンソールで通信のコールが入った。

「はい、こちら機動戦艦ナデシコ」
『ガッツィー・ジオイド・ガード長官、大河幸太郎である!』
「はっ、はい! 少々お待ちください〜」

 いきなりの大物からの通信にややビックリして、あわててメグミは通信をメインモニターに転送する。

『ミスマル艦長、状況は把握できているかね?』

 濃い顔立ちの幸太郎が大写しになると、メグミはちょっとだけ身構えてしまう。表にまったく出さないハルカ・ミナトやプロスペクターとは社会経験に差があるということだろう。

「レーダーは確認しています。母艦クラスの戦艦が突然現れたみたいですけど、ビッグバリアにはひっかからなかったんですか?」

 あごに人差し指を当てながらミスマル・ユリカが首をかしげている。
 それに関しては幸太郎のウインドウに割り込むようにオービットベースの猿頭寺耕助から回答があった。

『バーム星の戦艦は空間転移の技術を独自に保有しているようです。ビッグバリアには干渉の形跡が見られませんし、レーダーに連動したセンサーが重力震を感知しています』

 ふむ、と一つうなずき、ユリカはルリに尋ねる。

「連邦軍に何か動きはあった?」
「……極東基地から戦闘機による迎撃は行われたものの、効果はなかったみたいです。ピンピンしてます」
「だとすると、ただの先遣部隊って思っちゃうと足元をすくわれるってことか……」
「あ、ちょっと待ってください」

 熟考モードに入り込もうとしたユリカの思考をプロスペクターが引き戻した。

「ナデシコは独立運用の許可をいただいておりますので、こちらに干渉しないのであれば迎撃の義務は発生しません。関わりあう必要はありませんよ?」

 GGGとの通信が切れていないのを承知でプロスペクターはあえてこう発言した。確かに、ネルガルのスキャパレリプロジェクトはGGGの表の顔である宇宙開発公団から多大な援助を受けているが、行動を束縛するようなものではない、と公言してみせたのだ。
 ところが、

「あ、そうはいかないと思いますよー?」

 のほほんとユリカがこう言い切った。
 人の話聞いてます? とプロスペクターがつっこもうと思ったと同時に、ルリが新たな展開を報告した。

「バーム星の戦艦、東京湾入口に遷移。連邦軍極東方面部隊からの要請を受けて、ガードダイモビックから特機が発進。データ照合……ダイモスです」
「ほら」

 やっぱりね、とうなずくユリカに対してプロスペクターは眉をひそめる。

「これから乗せようと思ってた特機が出撃してるんですから、落とされないように支援するべきだと思うんですけど」

 こう言われてしまうとぐうの音も出ない。

「……ですが、この(ふね)は軍事行動を前提にしていません。クルーは一流ですが、戦闘経験があるのはパイロットの方々ぐらいで」

 だが、慣熟訓練も完了していない、艤装も完璧ではない戦艦で実戦はあまりに無謀である。プロスペクターは未だ躊躇があると主張した。

「それはわかってます。ですので、今回はナデシコは見学のみです」

 お気楽にユリカが言い切る。それを聞き、プロスペクターは眉をひそめた。

「は? 見学、ですか?」
「ナデシコは接敵せずにトウキョウから100Km圏で待機。機動兵器に先行してもらってダイモスをサポートしてもらいます。エステバリスは直衛となるので……テンカワさん?」

 コミュニケ越しにユリカがパイロットのテンカワ・アキトを呼び出すと、即座にウインドウが開く。

『テンカワだ』
「待機中ですか?」
『俺とラミアはブリーフィングルームで待機しているが……』
「出撃していただきたいんですけど、何か問題でも?」
『ハンガーに聞いてみてくれ』

 いたって真面目に答えるアキトだったが、要領を得ないユリカはそのままハンガーデッキのウリバタケを呼び出した。

『おおっ、艦長いいタイミングだぜ!』
「どうかしたんですか? 2種警戒で発進準備を頼もうとは思っていましたけど」
『あんたらのボディガード、えーっとなんていったかなあの黒尽くめ』
「キョウヤ君のことですか?」
『そーそー! そいつ、いきなりラミアのアンジュルグに飛び乗ってハッチ開けってうるさいんだよ! そっちで出撃命令出したのか?』

 そんなわけがない。
 警戒警報は鳴らしているがまだ誰にも出撃命令は発していない。
 いぶかしみながらユリカは当の本人を呼び出した。

「キョウヤ君、キョウヤ君?」

 程なく、コクピットシートに収まったキョウヤのウインドウが開く。

「何をしているんですかそこで?」
『空は落ちてしまった。急がないと特機とはいえ、沈むぞ』

 行く気満々のキョウヤを見て、ますますワケがわからなくなり、ユリカは首をかしげる。
 レーダーの情報も、幸太郎からの通信も、すべてキョウヤがブリッジを離れてから入ってきている。
 外の情報……それも1000km先のことなどわかるはずもない。だが、コミュニケなどである程度の情報は検索できる。そう思ったユリカは渡りに船とばかりにキョウヤに出撃を命じよう、と思ったのだが、

「あの、キョウヤ君、機動兵器の操縦、できるの?」
『出来ないことをやろうとするのは時間の無駄だと思う』

 ばしっと言い切られて一瞬ひるむが、できるんならいいか、とお気楽に思考回路を切り替えてユリカは言い放った。

「わかりました! キョウヤ君は先行してダイモスの援護をおねがいします! その間にナデシコはトウキョウに向かいます。他のパイロットの皆さんは出撃体制で待機。各員、戦闘態勢に入ってください!!」
『ナデシコの運用についてはGGG長官の名前で連邦議会より独自行動の許可を得ている。頼んだぞ、ナデシコの諸君!!』
「了解しました!」

 元気印で敬礼を返すユリカを見て、幸太郎は満足そうにうなずいた。そこで通信が終わるかと思ったが、幸太郎の背後の耕助が割り込んできた。

『ミスマル艦長、できればボルフォッグも先行させてください』
「はい? 何でですか?」
『ボルフォッグの強化パーツがガードダイモビックに向かっているので、受け取って使って欲しいんです。こんな状況なので』

 ぼりぼり。
 頭をかきながら耕助が手元の端末を操作すると、ルリのウインドウに情報が転送されてきた。

「……ボルフォッグ用強化パーツ。自律行動可能なAI搭載の1人乗りバイクと小型ヘリコプター……GGGアメリカ支部とテスラ・ライヒ研の共同開発。ネルガル本社に昨日納品済みですね、艦長」

 送られてきた情報を淡々と読み上げるルリの声を聞いて、ユリカはふむ、と少しだけ考えると、コミュニケ越しにアキトとボルフォッグを呼び出した。

「ということで」
『……前後の経緯がオープン回線で流されてなかったらなんだかさっぱりわからないぞ……』
『それを見越してこれまでの通信を全てのコミュニケに転送していたのでしょう』

 あきれるアキトと感心するボルフォッグに、ユリカは出撃の前倒しを命じる。

「ヴァイサーガでボルフォッグを持っていってほしいんですけど」
『車一台なら不可能ではないな。了解した』
『申し訳ありません。この状態では私も1000kmを踏破することは出来ません』
『気にするな』

 二人の了解を得て、ユリカはよろしくお願いします、と頭を下げた。
 その背後から、ジュンが大きく手を振りかぶって全艦に命ずる。

「総員、第1種警戒態勢!」

 大気中で全力を出し切れない相転移エンジンが大きくうなる。
 一息ついていた状態のナデシコが、戦闘のための雄叫びを上げた。

『よーし、お許しが出たぞ。後でラミアには謝っとけよ! 俺はそこまで責任は持たねえからな!!』

 ウリバタケがそういって、ハンガーデッキの整備員に退避の指示を出す。
 本来、ラミアの機体であるアンジュルグのコクピットには、黒尽くめのキョウヤがついていた。

「帰ってきたらどうにかする。タカマチキョウヤ、アンジュルグ、出る!」

 銀の羽を大きく一つ羽ばたかせて、アンジュルグがナデシコのカタパルトから打ち出された。

「……空を落とす奴は、僕が許さない……!」

 射出のGをまったく意に介さず、キョウヤは一気にアンジュルグをトップスピードに乗せた。
 目指すは、戦場になろうとするトウキョウである。

 

○  ○  ○  O  O  O  ・ ・ ・  O  O  O  ○  ○  ○

 

『双ぉー竜ぅー剣っ!』

 ダイモスが胸の前で腕を組み、胸部装甲から1対の手持ち剣を取り出す。
 握りの左右から直刃が飛び出し、手をガードするように半月の刃が2つ反り返っている。
 空手の達人であるダイモスのパイロット、竜崎一矢がこれを使えば拳は暴虐的な刃の旋風と化す。

『ぅおあったぁっ!』

 バームの戦闘メカ・ズバンザーのボディを一撃の下に斬り伏せる。
 ミサイル1発の直撃にも耐える装甲を紙のように易々と斬り割いていくのだ。

「ええいおのれぇっ! かくなる上は……戦闘ロボ・ダリを用意しろ! 俺が出る!!」

 たった1機のロボット……ダイモスのために上陸が阻まれている状況に業を煮やしたバルバスは、部下に出撃の準備を命じた。
 だが、今のバルバスは1隻の戦艦を任された艦長である。そう簡単に出撃が許される立場ではない。

「おやめくださいバルバス様! バルバス様が出撃されては、誰がガルンロールの指揮を執られるのですか!?」
「ふん、そうは言うがな、AI制御の戦闘ロボでは奴を倒すことはできんぞ。あの地球のロボット、パワーだけは大したものだ」

 ブリッジにいた部下に制されて、バルバスは気を取り直す。彼はこれでも1艦をまかされ、将軍と呼ばれるほどの戦士である。理不尽ではあるが、あの特機は戦況をひっくり返すだけの力があると認めていた。

「宣戦布告だけでろくな戦果もなくてはリヒテル様に顔向けできん。どうしてくれよう……」

 そのとき、右手であごをなでつつ思案にふけるバルバスの背後から別の男の声が聞こえてきた。

「お困りの様子だな、バルバス殿」
「……何っ! 誰だ!?」

 バルバスが振り返ると、そこにはしなやかな体躯のバームの青年が立っていた。いぶかしむバルバスを意にも介さずそのまま歩み寄ってくる。

「リヒテル様よりバルバス殿の力になれと命じられ、今の今までそこで控えていたのだ」
「ハレック……いつの間に」

 質素な生成りの衣装に身を包む黒髪の青年……ガーニー・ハレックは、艦長席の前に回ると、そのまま片膝をついた。

「我が主リヒテルより、バルバス将軍、貴公への助力を命じられはせ参じた次第。バームの宮中武術指南を務めるこの腕前、存分に使われよ」
「はせ参じた、というが……」

 時代がかった挨拶をするハレックに対し、バルバスはその相貌を一にらみすると、あきれ返るようにため息をついた。

「ハレック、お主、出撃時にもぐりこんでいたのであろう? しかもこの俺に断りもなく、だ」
「ふっ、切り札は隠し持っておくのが定石というものだ」

 リヒテルの下に集う者たちの中で武を競う2柱が、視線を交わし、にやりを笑みを浮かべ、やがてそれはかんらとした哄笑に変わった。

「なればハレック、お主の力借り受けよう。あの地球のロボットを完膚なきまでに粉砕して見せよ!」
「心得た!」

 力強くうなずき、ハレックがブリッジを後にする。
 堰を切ったように飛び込んでくる戦況報告を聞きながら、バルバスは全ての情報を記録しておくようにと部下に命じた。
 一方その頃、

『あらかた片付いたようだな』

 ふーと1つ大きく息を吐き、呼吸を整える。そして一矢はああ、と京四郎からの通信にうなずいた。

「さて、あとはあのデカブツだが……む?」

 最後のズバンザーを鉄くずに変えて、ガルンロールをにらみつけるダイモスのカメラアイが、その戦艦から1機の戦闘ロボが飛び出すのを見て取る。

「新手か!」

 ダイモスが大地を蹴る。空高く舞い上がった巨体の目の前に、獣のような身体を持った2足歩行型の戦闘ロボが立ちはだかった。

『闘将ダイモス……なかなかの使い手とお見受けする』
「このロボット、パイロットが乗っているのか!?」
『ふっ、戦闘ロボ・ダリはお前が蹴散らしたズバンザーとは違うぞ。我が名はガーニー・ハレック。お前の名を聞かせてもらおう』

 ここで、貴様らに名乗る名などない、と切って捨てるのは簡単だったが、何故か一矢にはそうできなかった。相手は父を殺したバーム星人だというのに。

「……俺の名は、竜崎一矢。貴様らバーム星人に濡れ衣を着せられ殺された竜崎(いさむ)の息子だ!」
『なれば、我が拳は父を殺されたバームのリヒテルに成り代わったものと思われよ。そして、この拳にはバーム10億の民の命もかかっている。不退転の覚悟の拳、受けてみよ!!』
「侵略者の拳にどれだけ殴られようと、ダイモスは倒れない!」

 双竜剣を目前にかざし、ダイモスが一気に踏み込む。
 ダリは右拳を顔の前に構える右半身のファイティングポーズでそれを待ち受ける。

「おうりゃあっ!」
『甘いっ!!』

 切っ先のわずか先を見切り、ダリの右拳がダイモスをいなし、カウンター気味に左の手刀が首に入る。

「ちいっ!」
『この程度か竜崎!』
「うるさいっ! 貴様らに負けるわけにはいかないんだ!!」

 ダイモスが右拳を打ち込むがダリはこれをダッキングでかわす。だが、これは一矢の誘いだった。すかさず右のローと左の上段回し蹴りを打ち込むが、

「なにっ!?」
『……翼のない地球人は、大空での戦いは慣れていないと見える』

 地上でなら、ローキックで足を払われ転ぶか、これをかわしたとしても次の上段回し蹴りに対応できない。
 ところが、ここが空中であることを生かして、ハレックはダリの体を右ローのベクトルにあわせて空中でそのまま反時計回りにひねったのだ。
 これで、次に来る左回し蹴りもベクトルに逆らわないことで威力を殺ぐことになった。

『中々のコンビネーションだが、お前の拳は殺気で満ち満ちている。そんなことではこのハレックは倒せん』
「くっそぉ……父さんを殺したバーム星人が何を言うっ」
『怒りの拳に、義によって支えられるこの拳が負けるはずがない!!』

 天地が逆転したままのダリが一気にダイモスへの間合いを詰める。
 これ以上近づかれては、直接殴られても内蔵火器の攻撃でも致命傷になりかねない。

『ここまでだ、ダイモス!』
「この野郎ぉぉぉぉっ!!」

 だが、その必至のダリの踏み込みは、

『やらせん!』
『お兄ちゃん!!』

 さらに上空から真下に目掛けて放たれたガルバーFXIIのミサイルによって阻まれた。

「京四郎! 手を出すな!!」
『何を言っている! やらなきゃやられてたのは一矢だぞ!!』
「だが!」
『一矢! お前、何のために戦ってるんだ!? 復讐のためか! それで先走って死ぬのか! だったらそのダイモスを降りろ! 斬艦刀でも打たせて俺が乗る!!』

 何のために闘うのか。
 私闘か、復讐か。
 戦争か、平和のためか。
 拳士との闘いで忘れていたが、そもそもこれは侵略戦争なのだ。
 敵討ちだってやらずにはいられない。だが、果たしてそれだけでいいのか?
 戦いに対する覚悟への揺らぎは、ダイモスの動きを止めてしまっていた。しかも、味方の言葉でそうなるとはなんと言う皮肉か。

『下がれぃハレック! ガルンロールで止めを刺す!!』

 今の今まで後方に控えていたガルンロールが前に出てきた。

『全砲門開けぃ! ミサイル、一斉発射!!』

 バルバスの命令でガルンロールのあらゆる砲門からミサイルが発射される。

『迎撃……わんっ、間に合わないよぉ!!』
『一矢、避けろぉ!!』

 ガルバーFXIIがありったけのミサイルをばら撒くが、数が違いすぎる。
 半分と減らせずに怒涛の勢いでダイモスにミサイルが襲い掛かろうとした、そのとき!

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