明日も知らぬ僕達

第壱話 それぞれの始まり

 

Case Akito

 ユートピアコロニーにチューリップが落ちてからどのくらいの時がたったのだろう……

 分かっている事はコロニーが、俺の所属していた部隊が、皆が死んでしまった事だけ……

 「また……なのか……親父、お袋……隊長、皆………アイ、ちゃん………みんな、みんな俺の手からこぼれおちていく………」

 廃墟と化したユートピアコロニーを、のろのろとマトモに動かないエステでさ迷う、俺。

 その俺の前に、真っ黒な機動兵器が降り立つ。

 「な、なんだ? こいつは……」

 奴は、俺の戸惑いを無視するかのように、俺に語りかけてきた。

 「矢尽き、刀折れし者よ。汝に問う。力が欲しいか?
 「ち、力?俺に力をくれるっていうのか? お前は?」
 「我は汝の決断に従おう。今一度問う。
力が欲しいか?
 「ああ……俺は、
力が欲しい!! もう…守り切れないなんて御免だ……」
 「ならば、今この時より、我等、汝が力となろう……」
 「お前は……一体何者なんだ?」
 「我が名はブラックサレナ。復讐の騎士が身に纏いし漆黒の鎧にして、闇の皇子が携えし暗黒の剣なり。」

 そう言いながら自らのコクピットを開く機動兵器には……誰も乗ってはいなかった…

 

 それから10ヶ月。俺はブラックサレナと、奴の仲間である二隻の戦艦「ナデシコC」と「ユーチャリス」(もっとも、正確には搭載されているAIの名「オモイカネ」と「オモイカネダッシュ」で呼んだ方が良いだろう)の下で狂気とも思える戦闘訓練に明け暮れた。 勿論、木星蜥蜴……いや木連の無人兵器を潰しながら……だ。

 奴等は、この戦争の真実を過去の記録として、俺に知らしめた。
 その記録の中には復讐鬼と化し、ブラックサレナを駆る俺自身の姿もあった。
 だが、それは俺であって俺ではない。
 記録にあるような穏やかで優しい男ではないのだ、俺は……
 第一、ブラックサレナと接触する随分前の時点で、俺と奴等の「テンカワアキト」の人生は全く違う物になっている。
 奴等が俺に干渉しようとしまいと、俺が「プリンス オブ ダークネス」と呼ばれる、この男になる可能性はゼロなのだ。
 奴等が俺に未来の事象を教えたのも、「どう転んでも、同じ歴史にはなり得ない」という確信に基いての事だろう……

 そして………

 「これより、汝を地球に送る。成すべき事はわかっているな?」
 「ああ。ナデシコを守る。そして、死にゆく命を一つでも多く拾い上げる……!!」
 「しからば……我等は、この火星にて汝を、そしてナデシコを待とう。」
 「また会おう、ブラックサレナ……ジャンプ!」

 

Case Jun

 ここは……俺の家? 俺は地球の衛星軌道上にいた筈なのに……

 あれからどうなったんだ? テンカワのブローディアと一緒に、予備のエステで遺跡を運び出そうとして、テンカワと一緒に遺跡に侵食されて………!!

 「アイツと同じ……精神だけのジャンプ!?」

 もしそうなら……

 「あのカレンダーが、「あの日」のままなのも納得できるな……」

 俺の視線の先には、あの日のままのカレンダーがあった……

 

 そんな感慨に耽っている俺の耳に、聞き覚えのある男の声が聞こえる。

 「オイ! 遅刻するぞ、アオイ!!」
 「カシワギ! お前一体どうしたんだ?」

 軍学校時代の友人カシワギ コウイチだ。
 ゲリラ戦や対多数戦をやらせれば、ユリカさえ及ばない戦術を披露する男だ。
 ある意味、ナデシコのような運用をする艦にはピッタリの艦長と言えるかも知れない。

 「何寝ぼけてるんだよ。俺達さ、今日からネルガルの戦艦に乗る事になってるじゃないかよ。」
 「…へ?」
 「おまけに俺達が艦長と副長なんだぞ。着任早々遅刻なんかしてみろよ」
 「え〜〜〜〜と、俺が副長で……艦長はユリカじゃなかったっけ?」
 「そういう話もあったらしいがな、いくら「能力第一、性格は二の次」でも、さすがに彼女を艦長には出来なかったらしいぞ。って前にもしなかったか? この話。」
 「は、ははは…」

 思い当たる節が……ありすぎる。マトモに動けば良い艦長なんだけどなあ…

 

Case Kazuki

 ついてなかった。いや、ついていたんだろう、俺は。
 全く、地球〜火星間のシャトルに「こみパスペシャルチケット」だなんてアホな物が無かったら……みんな、こいつ等の攻撃で死んでしまってた筈だ。

 いきなり火星に攻撃を加えてきた無人兵器の群。こみパが終わって、みんなより一足早く戻ってきてみれば……こいつ等に襲われて、ユートピアコロニーは消えて無くなるわ、あちこちから嫌な匂い…死臭、なんだろう…がしてくるわ、目の前で人間が虫けらのように死んでいくわ……一緒に帰りたがっていたミズキやアヤちゃんを猪ノ坊旅館に置いて帰ってきて正解だったな…………

 そんなこんなで、俺は今、ユートピアコロニーのシェルターの一つに逃げ込んでいる。もっとも、いつ奴等が押し寄せてくるのか、分かったものじゃないけどな。

 

 「カズキお兄ちゃん?」
 「え、と君は…斜向かいのアイちゃん?」
 「うん!!」

 はは、元気がいいよなアイちゃん。…まだ……8歳だってのに……

 「アイちゃんは怖くないのかい?」
 「怖いけど…アキトお兄ちゃんが守ってくれるから大丈夫!! だから、カズキお兄ちゃんも元気出して!」

 強いな……アイちゃん……でも……

 アキトの事は知らない訳じゃない。洒落になってない強さのエステバリスライダーだって事も知ってる。だが、無人兵器の数はまさしく「雲霞の如く」。いくらあいつの強さが出鱈目だといっても、この数の暴力の前には無力だろう。

 でも、それをアイちゃんに言うわけにはいかない……

 ガシャン!!う、うわぁぁ…きゃぁぁ………

 大きな音と悲鳴が聞こえる!俺が視線を向けた先には……金属製のバッタがいた……

 人々が混乱し、浮き足立つ中、奴はバルカンで人間を物言わぬ肉塊に変えていく。

 「アイちゃん! 物陰に隠れていて!! 闇雲に逃げるよりは安全だ!!」

 俺はそう叫ぶと、近くにあるフォークリフトでバッタに体当たりをぶちかます!!ちなみに操縦はIFSを使っているから、楽勝だ。

 俺はバッタを壁際まで追い詰めると、何度も何度も、バッタを壁に叩きつける。
程なくバッタは沈黙したが………

 次の瞬間、シェルターの入口の方から、無数のバッタの足音が聞こえてきた。
 あれほどうるさかった、パニックになった人達の声は聞こえず、彼等がどうなったかは……嫌でも察しがついた。

 「そうだ! アイちゃん!!」

 そう叫んで、アイちゃんの所に駆けつけて……それから、何がどうなったのか。俺は、地球の空を眺めていた………

 

 俺は、悲しいと思った。悔しいと思った。そして、力が欲しいと願った。

 あいつの気持ちが、少しだけ分かるような気がした……

第弐話「ナデシコ浮上」に続く

あとがき

 はじめまして。ナデシコSSを書くのはこれが初めての平成ウルトラマン隊員軍団(仮)と申します。
 「精神だけのボソンジャンプ」で、元々の身体は消滅してしまうとして、乗っていた機体は?そう思って、(この世界の)アキトとブラックサレナのくだりを書いたのですが、これだけ書いてハイさようなら、は出来なさそうなので、本当に続くかもしれません。
 拙い文章ですが読んで頂けて幸いです。それでは。

 

 

代理人の感想

うあ、ハンドル長い(爆)。

 

それはともかくユリカ不在ですか?

その内連合軍の船にのって出て来たりして(笑)。