明日も知らぬ僕達

第参話 ムネタケの叛乱

 

Side Free

 「急遽ナデシコ乗艦が決まった、パイロットのテンカワアキトだ。」

 ここはナデシコの格納庫。アキトは、整備班には既に済ませた自己紹介を今度はブリッジ要員にしていた。

 「……テンカワ君、久しいな。」
 「提督こそご健勝でなによりです。」
 「……? 君は提督との面識があるのか?」
 「アオイ、お前な……「メタルファング」テンカワアキトっつったら有名じゃないか。」
 「……記録では、最後のシャトル打ち上げまで生き延びた火星最強のエステバリスライダーだとされています。」
 (歴史が…大分変わってきているな………「あの」テンカワが、この時点で名の知れたエステバリスライダーだなんてな……)
 「単純に、最後まで生き延びただけだ。最強なんかじゃないさ。」
 「でも……最後のシャトルを送り出した貴方が、何故地球にいるんですか?」
 「……気がついたら地球にいた。その時の記憶の前後が不明瞭だから、それ以上は言えないな。」
 「そうですか…」
 「…君達には、辛い思いをさせてしまったな……」
 「しかし提督、一番惨めだったのは貴方だったはずです。」
 「……惨めでもなんでも、私は生きている。生きて……いるのだよ……」

 当時の火星を知っているアキト、フクベ、ムネタケ以外には理解できない会話を続けるアキトとフクベ。
 ジュンとても、かつて垣間見た「戦神」の記憶にユートピアコロニーのくだりが無かった為、本当の意味でこの会話を理解することはできない。

 「あともう一人、パイロットになっていただきたい方がいるのですが…」
 「カズキ君……ですか?」
 「ええ。あの腕前を今回だけのイレギュラーとしてナデシコから降ろしてしまうのは大変惜しい。
 それに艦長の友人ですから、後ろ暗い所も無いでしょうし。」
 「でもアイツ承知しますかね?」
 「なに、私は交渉のプロですよ? ちょちょいのちょいで了解をとりつけて見せますよ。」
 (そりゃあ、彼は火星生まれみたいだし、行先を明かすだけで簡単についてくるだろうな。)
 (凄い、凄いわ!! あの「メタルファング」とさっきのカズキとかいう男、あんな強さのパイロットが二人も揃っているだなんて…艦だけ接収する予定だったけど、この二人も一緒に確保できれば、アタシの出世は間違い無しよ!!)
 「ま、とりあえずはアイツが起きてからですね。多分、明日中には起きてくると思いますけど…」
 (…明日、センドウカズキが起きてくる前にカタをつけたいわね……)

 

 ちなみにその頃、くだんのカズキは……

 「ムニャムニャ…ミズキ、おかわり……」

 未だにアサルトピット内で眠りこけていた…何故かゲキガンガーのぬいぐるみを抱えて………

 なお、

 「はやく返してくれ……俺のゲキガンガー………」

 などとうめくミイラ男の姿が医務室で見うけられたが、これらは完全に余談である。

 

Side Jun

 「さてと、ムネタケの叛乱はとりあえず放っておくとして…」

 テンカワ(と言っても俺の知っているテンカワではなさそうだが)の自己紹介が終わり、皆とブリッジに戻った俺は、これからの方針をアレコレと思案していた。

 ムネタケは、まあ前回通り叛乱の直後につまみ出してしまえば、前々回の悲劇は防げるはずだ。

 ビッグバリア攻略は……俺があんな馬鹿な真似をする道理がないので、前回、前々回と同じにはなり得ない。
 もしかするとデルフィニウム部隊出撃自体が無いかもしれないし、キチンとした正規の隊長に率いられてくるかもしれない。
 まあ、いずれにしてもテンカワがそこそこ強い今回は問題にならないだろう。

 その次のサツキミドリ2号は………

 「チハヤ……」

 ちぃ、嫌な事を思い出させてくれる。

 それに、当面のところ一番の問題が、このサツキミドリ2号だ。
 前回のテンカワと違い、ルリちゃんは「この世界」のルリちゃんな筈だから、あんな無茶な頼みをする事は出来ない。
 重力波ビームが無ければ動けないエステでは予め先行させておくこともできないし、そもそも宇宙で使用できるフレームが手元にない。
 だからといって、ノーマル戦闘機なんぞで突っ込んでいった日にはバッタに返り討ちにされるのは目に見えている。

 「どうする……?」

 俺は思案の海に身を沈めていった……

 

Side Akito

 「さて、ナデシコには無事乗れた。次は……」

 俺は割り当てられた部屋の中で一人ごちる。
 ちなみに二人部屋で、「プリンス オブ ダークネス」が救う事の出来なかった人間の一人「ヤマダ ジロウ」と相部屋らしい。
 この辺は「プリンス オブ ダークネス」の人生を踏襲しているようだ。

 俺はこれからの方針を考える。とは言っても、サツキミドリ2号まではまあ問題は無いだろう。

 そして、最初の問題であるサツキミドリ2号。
 これについても、オモイカネから秘策が授けられているので、いざとなればそれを使うまでだ。
 もっとも使った後が面倒なんだが……

 「「秘策」を使うとして、ホシノ ルリや「こちらの」オモイカネをどう言い包める?」

 いくら考えても…答えは出ない。しかし……正直「秘策」以外の手段が俺の手元にない。
 いざとなれば……「秘策」を使う他無い…

 

 Side Kazuki

 「我々の目的地は………火星だっ!!」

 俺が起きて初めて聞いたのは、そんなフクベ ジンの宣言だった。

 どうも艦内の全通信が強制的に開かれて、そこからブリッジの様子が流れているようだ。

 「火星…か……」

 モニターの向こうでは色々と議論が交わされているようだが、俺個人としては火星行きは願っても無い事だ。
 もっとも乗組員でないから、この場で降ろされてしまうだろうが…

 「おまけに勝手に使っちまったもんなぁ、この機体。」

 そう、俺は何故かコクピットの中で寝ていた。
 更に謎な事に、ゲキガンガーのぬいぐるみを抱えている。

 「…こいつのおかげで、ズブの素人の身で木星蜥蜴の大群と戦う羽目になったんだよなぁ。」

 俺がぬいぐるみを眺めながらそんな事を考えていると……

 「その必要はないわよ!!」

 きのこ頭の男がそう怒鳴りながら、数人の男達と共にブリッジクルーに銃を突き付けている映像が出る。
 何の必要が無いのかは、マトモに話を聞いていなかった俺には分からないが、大体の見当はつく。
 グラビディブラストやのディストーションフィールドやのといった、問答無用なシロモノで武装しているナデシコを奪って、出世やの、利権の確保やのに使うつもりなんだろう。

 そんな俺の推論を裏付けるような会話がブリッジで繰り広げられている。

 「…………? なんで俺、コクピットにいるんだ?」

 連中のやり方でナデシコを制圧したければ、全ての乗組員を「銃で脅せる」状態にしておくのが好ましいはずだ。
 確かに、他の乗組員を人質として活用してその辺をカバーする事もできるが、行動の制限が著しく緩くなるのは連中としては面白くないだろう。

 で、俺は今コクピットにいる訳で……連中が構えているサブマシンガン程度はへっちゃらだったりする。

 なんでだ?

 いくら考えても、答えは出てこなかった。

 

Side Free

 ムネタケとブリッジクルーが騒いでいる中、突如海中から連合宇宙軍の戦艦が3隻、姿を現す。
 と同時にブリッジに戦艦からの通信が入る。

 「ナデシコの諸君につぐっ! 直ちに停船し、軍の徴用に応じよっ!!」
 (ミスマル提督、前回や前々回とはえらい違いだな。
 まあ、今回はユリカがいないんだから当然か。)

 そのいきなりのミスマル提督の弁に反発を覚えるクルーだが、プロスペクターはあくまでも交渉してみるつもりのようだ。
 彼とミスマル提督が2,3言葉を交わした結果、艦長であるカシワギと交渉役であるプロスペクターがミスマル提督の艦に交渉しに行く、という線に落ち着いた。

 だが、ミスマル提督は更なる爆弾を投下した。まあ、「ジュンの知っているテンカワアキト」の1度目、2度目の人生両方にあった「マスターキーを外せ」という指示なのだが……
 艦長がユリカでない以上、その展開は異なってくるわけで……

 「では、マスターキーを抜いてもらおうか。カシワギ君。」
 「承知しかねます。ミスマル提督。」
 「何故かね? 事と次第によっては…」
 「この海域に、休眠状態とされているチューリップがあるからです。」
 「それがどうしたというんだ。
 いくらチューリップといえど、休眠中の物はそう危険な物ではないだろう?」
 「「休眠中」というのは、連合宇宙軍の勝手な推測に過ぎません。
 ただ、落ちた場所が戦略的に価値の薄い場所であったために、木星蜥蜴が使用していないだけかも知れません。
 そして今、この海域には連中に対抗し得る戦艦ナデシコと貴方がいます。
 これは、この海域の戦略的価値が一時的に跳ね上がっている事を示しています。
 俺には艦長としての責任があります。
 無防備な乗艦を、いつ動き出してもおかしくないチューリップの傍に置いておく事などできません。」
 「なにを馬鹿な事を……まるで木星蜥蜴が……」
 「戦略眼を持っていないと、何故言いきれます?
 連中の無人兵器の完成度は連合宇宙軍も承知しているはずです。
 あれほど高度なシロモノを扱える連中、もしくは無人兵器だけの存在だったとしても、木星蜥蜴にはある程度以上の知能があってしかるべきです。
 そんな連中に戦略眼なんて物がない、と考える方がどうかしてますよ。」
 「うだうだ五月蝿いわねっ! 自分の立場って物を分かっていっているのかしら?」
 「「ムネタケ君、静かにしてくれたまえ。」」

 フクベとミスマル、両提督によるツープラトン攻撃に沈黙するムネタケ。
 二人とも、カシワギの話に聞き入っているようだ。

 (カシワギ…随分しっかりした考えを持っているんだな。
 それに引き換え、この時期の俺といったら……やめよう。虚しいだけだ。
 しかし……まるでテンカワだ。歴戦の経験と風格がある……何故なんだ?)

 「おい、おいっアオイ!!」
 「え? ああ、なんだ?」
 「これからプロスさんと交渉に行ってくる。その間、お前を艦長代行に任命する。
 万が一の時は頼むぞ。」
 「…分かった。 任せておけ……と言いたいところなんだがな……」
 「そうは問屋が降ろさないわよ。今、この艦の統率者はアタシなのよっ!!」
 「とまあ、こういうわけだ。ま、お前の読み通りチューリップが動き出したらそうも言ってられないだろうがな。」
 「? アオイ、お前変わったな。
 まあいいさ。今はミスマル提督との交渉が先だ。」

 そういいながら、カシワギはプロスペクターと共にブリッジから出ていった……

 

 所変わって、ナデシコ食堂。ここでは、囚われの身にも関わらず熱い祭りを繰り広げている男達、否、漢達の姿があった。

 「「うぉぉぉっ! レッツ、ゲキガイン!!」」
 

 暑苦しい事この上ない。伝説の名作「ゲキガンガー3」のビデオを見てヒートアップしているのは、パイロットのダイゴウジガイことヤマダジロウと……「メタルファング」テンカワアキトの二人である。

 「フッ、子供だましだと思っていたさ。とうの昔に卒業したと思っていたさ。
 だが俺はここに宣言しよう!!
 面白い物は面白い!! 熱血万歳!! レッツゲキガイン!!

 「俺の思った通りだ! お前はまだ熱い漢の魂を失っちゃいねぇぇぇっ!!」

 (主に女性が)近づきがたいフィールドを形成しつつ咆哮する二人の男、否、漢。

 その声は廊下にも聞こえていたらしく

 「るせえんだよ。撃ち殺されてえのかっ!!」

 耐えかねた見張りの兵士が、食堂に突入する。が…

 「男子として生を受けながら、ゲキガンガー3の面白さを理解できんとは哀れな…」

 アキトは、一瞬にして兵士との距離を詰めると、一撃でその兵士を沈める。

 「さて、続きを見るか……」

 アキトはゲキガンガー3を見るために、いそいそと体勢を立て直した。

第参話その2に続く

あとがき(つーか なかがき)

 アキトが馬鹿になってます。まあ、このアキトは未来を知ってはいても体験したワケではありませんからね。
 あそこまでヘビーな性格ではありません。

 カズキがコクピットにいるのも、実に馬鹿げた理由からです。

 ジュン、一応主人公の一人なのに目立たない…まあ、しばらくは解説役に徹してもらうことにします。

 で、今回一番目立っている人物が…カシワギ艦長。いっておきますが、彼は逆行者ではありませんし、経歴にも嘘はありません。
 では、この経験は何故? それはおいおい……