Side Akito

 『あのさ、今自己診断プログラム走らせて分かったんだけどさ……』
 「発信機かなんかがブローディアに付いてたってんだろ。」
 『あれ? なんで分かったの?』
 「分からいでか。 そうでなくちゃ、あんな危ない奴がいきなり出てくるわけ無いだろ。」
 『まあ確かに。』
 「とりあえずソイツはウリバタケさんにでも取ってもらってくれ。
 アジトの場所が草壁やら北辰やらにバレると何かとまずい。」
 『うん。』
 「ああそうだそうだ。
 「プリンス オブ ダークネス」が使ってた漆黒のブローディア、アレも発信機の有無を確認してからかっぱらっちまおう。」
 『おいテンカワ、それならもう済んでるぜ。』
 「……手が早いですね、ウリバタケさん。」

 『……それとね、もう一つ分かった事があるんだ。』
 「? なんだよ?」
 『ブローディアのデータが、僕達が自閉モードになっている間に誰かにコピーされた形跡があるんだ。
 多分、そのコピーはヤマサキが持っていると思うけど……』
 「どんなデータがコピーされているんだ?」
 『ブローディアの仕様と設計図、必要な資材とその製造法etcetc。
 まあ、ブローディアっていう機体を作る為のデータだね。』
 「だからレプリカなんか作れたワケか。」
 『でもおかしいよ。 今の技術じゃブローディアの再現なんてできる訳無いのに…』
 「けど、向こうには時間があった。一年か半年かは知らないけどな。
 ブローディアの性能と使われている技術を考えれば、木連とクリムゾンの技術陣が総力を結集してその再現を試みてもおかしくはないさ。
 ………正直、イネスさんが当初考えていたのよりも、もっとデカイ技術格差が地球と木連の間にあると思った方が良さそうだな。
 この分だと、良くて夜天光の大群、最悪だとブローディアの群と戦う羽目になるだろうな……」
 『え、えらく心臓に悪い想像だね……』
 「ただの妄想で終わって欲しいよ、全く。
 ……そういえばディアはどうした?」
 『ルリちゃんがあまりにもルリ姉とかけ離れているのにショックを受けてて、まだ立ち直ってないよ。』
 「……あっそう。」

 

明日も知らぬ僕達

第八話 火星-牙を研ぎ続ける刻-

 

Side Kouiti

 「ウ、ウウ……」
 「気がついたか、カシワギ。」

 そうアオイに呼ばれ、そちらを向く。

 「あおい、アノ世ッテ奴ハ存外コノ世ト変ワラナイモンミタイダナ。」
 「なに寝ぼけてんだよ。俺達は死んじゃいないぞ。
 お前が身を呈して護ってくれたおかげだな。 ブリッジクルーなら全員無事だよ。」
 「ソンナハズハナイダロウ。 オレハ枝織チャンニ負ケタンダゾ。
 彼女ハオレヲ殺シテ、ソノ後ニミンナヲ殺スハズダ。」
 「テンカワが助けてくれた。」
 「あきとガ? ダッテアイツ、自分デ枝織チャンノ足元ニモオヨバナイッテ言ッテイタジャナイカ。」
 「枝織ちゃんな、笑い上戸らしくって、ギャグ一発で戦闘不能になったよ。
 笑い死に寸前で失神したのを、船外に放り出してトンズラした。」
 「ナントイウカ……オレノ苦労ッテ一体………」
 「いいじゃないか、助かったんだし。
 ……あと、カシワギ、まだ人間に戻ろうとするな。
 今はまだ怪物の生命力で持っているような状態なんだからな。
 今人間に戻ったりしたら、良くて意識不明に逆戻り、下手をすればそのまま死亡だ。
 ………もっとも、お前が人間に戻れるかどうかは分からないけどな。」
 「!!!!!」

 今のセリフを聞いて気付く。 俺は、まだ怪物の姿のままだった、と言う事に。

 「あおい、オレノ事ガ怖クハナイノカ?」
 「生憎と、なりは人間だがお前なんかよりずっと化け物じみた奴等が知り合いにいるもんでね。
 連中に比べれば、お前なんか一般人の範疇だよ。」
 「…………「ぷりんす おぶ だーくねす」カ?」
 「……ああ、他にもいるけどな。
 アイツはナデシコCとユーチャリスのランダムジャンプの後、俺が以前乗っていたナデシコに乗艦したんだ。」
 「…ソウカ…… ダガ、「ぷりんす おぶ だーくねす」ハアレデモ一応人間ダゾ。
 マルッキリ人間ジャナイオレトハ……違ウ。」
 「似たような事、ルリちゃんも思っていたみたいだぞ。」
 「何?」
 「彼女はずっと自分の事を人間とは違う、「マシンチャイルド」という名の「人形」、通常の人間とは異質の存在だと思っていたらしいんだ。」
 「デモアノ子ハ、マルッキリ人間ジャナイカ!!」
 「そんな事、彼女を「研究」していた連中には関係無いよ。
 彼女を「研究」していた連中は、ルリちゃんの事を「実験体」としてしか見ていなかったらしい。
 自然、ルリちゃんが自分の事を異質な存在だと思い込むようになったんだ。
 彼女が「人間」になれたのはナデシコに乗ってから。 ……ごく最近の事なんだよ。」
 「………」
 「だから、ルリちゃんは自分と同じく「異質」な存在であるお前を放ってはおけないらしい。
 彼女にとってお前は、自分を人間にしてくれた人達の一人、だそうだからな。」

 「………ソウ、カ。」

 俺は、頭を垂れる。
 ルリちゃんは俺が怖くないのか?
 俺自身、自分の事が怖くて堪らないというのに……

 「デモナあおい、ヤッパリオレハ……るりチャントハ違ウヨ。
 オレノ中ニハ、血ニ餓エタ獣ガイル。 ナニヨリモ殺戮ヲ好ム獣ガナ。」
 「え?」
 「タダ快楽ノ為ダケニ人ヲ殺セル、オレノ……一側面サ。
 枝織チャント戦ッテイタ時ニハ、「ニゲロ!!」トカ「シニタクナイ!!」トカ弱音ヲ吐キマクッテ、何トカ身体ノ主導権ヲ奪ッテ逃ゲヨウトシテイタケド……ソレデモヤツノ狂性ハ………」
 「カシワギ……けどお前は戦っただろ?」
 「アア。 ソイツヲ無理ニ抑エツケナガラ戦ッテイタラ……何時ノ間ニカ「奴」ノ声ガ聞コエナクナッテイタ。
 オレハ、彼女ヲ食イ止メル事デ頭ガ一杯ダッタカラナ。
 デモ「奴」ガ……ソレデ消エテシマッタ、トイウ確証ハ、ナイ。」
 「…………………」
 「何時、自分ノ快楽ノ為ニくるーヲ殺シテシマウカモ分カラナイ奴ニ、艦長ナンカ務マラナイヨ。
 コレカラノ指揮ハオマエニ任セル。 オレノ事ハ……死ンダ事ニシテクレ。」
 「カシワギ!!」
 「モウ、イインダ。」
 「何がもういいんだ? もう少し自分を信じてみたらどうだ?
 そんな風に抱えこんでいったら……っ!!」
 「……ソウイエバオマエ「ぷりんす おぶ だーくねす」ヲ直接知ッテイルンダッケナ。
 奴モコンナ風ダッタ、トデモ言ウノカ?」
 「ああ。 しかもアイツは、お前と違って実際に数万の命を奪っている。
 自分が血に狂った化け物だと思えた事も日常的にあったらしいぞ。
 …お前に囁く「獣」とアイツが隠し持つ「闇」、どちらの凶気がより強いと思う?」
 「……敵ウワケナイヨナ。 地獄ノ闇ト、タカダカ獣ノ本能ジャ比ベ物ニモナリハシナイ。
 …………ヨクモマア、ソンナ奴ニ狙ワレテ助カッタモンダヨナ、オレ達。」
 「今の奴は煉獄の炎を身に纏った……俺の知るアイツじゃないからな。」
 「ソウ、カ。
 ………アレ、オマエサッキ「奴等」トカ「連中」トカ言ッテイタヨナ。
 オレヨリモ化ケ物ジミタ奴ガ「ぷりんす おぶ だーくねす」以外ニモイルッテノカ?」
 「ああ。 俺が以前乗っていたナデシコのヤマダと、テンカワ…「プリンス オブ ダークネス」と一緒にランダムジャンプしてきたハーリー君にあの世界の枝織ちゃんと北斗、そして………ヒロユキだ。

 ヤマダとハーリー君はどういう経緯でそうなったのか、人知を超えた生命力を持っている。
 あの二人の生命力たるや、お前と比較しても圧倒的に上だ。

 枝織ちゃんの力は、今回の事でよ〜〜く分かっているだろう?

 北斗は枝織ちゃんの別人格、というよりも枝織ちゃんという擬似人格と「男」として歪められた本来の人格の狭間で苦しんでいた少女だ。
 まあ「プリンス オブ ダークネス」のおかげで救われたんだけどな。
 単に戦闘能力だけなら枝織ちゃんより数段上の存在だよ。
 もっとも、純粋戦士なんで暗殺には向かないけどな。

 最後にヒロユキなんだけど……アイツは攻撃力だけなら、生身でナデシコを大きく上回る。」
 「ハイ?」
 「プロスさんの話によると、アイツは「見よう見真似でなんでもできる」らしい。
 それこそ「見よう見真似で回し蹴り」から、「見よう見真似でIFS強化体質」といってルリちゃんの代わりにナデシコのオペレートをする事もできるし、果ては「見よう見真似でグラビディブラスト」と言って生身でグラビディブラストを放つ事もできるんだ。」
 「無、無茶苦茶ナ奴ダナ。」
 「俺もそう思う。
 でも、流石に「勘と経験」はどうしようもないらしくってね、枝織ちゃんあたりが相手だとちょっと勝てないみたいなんだ。」
 「……ナルホド、確カニコンナ連中ト比ベタラ、オレナンカ一般人ノ範疇ニ入ッチマウンダロウナ。」

 世の中、中々に奥が深い。 そんな事をしみじみと実感しながら……苦笑する。
 ほんの少しだけ心に余裕が持てたような気がした。

 

 その後、アオイが持ち場に戻ってからしばらくして、今度はミナトさんが俺の病室に入ってきた。

 「艦長?」
 「み、なと……サン?」
 「ええ。 さっき副艦長から「艦長が目を覚ました」って聞いたから、来てみたんだけど……」
 「……ナゼ、オレナンカノ見舞イニ来タンデスカ?
 みなとサンハ……オレノ事ガ怖クナインデスカ?」
 「それは………怖くないって言ったら嘘になると思う。」
 「…………………」

 当たり前といえば当たり前の答えが返ってくる。
 「プリンス オブ ダークネス」をはじめとした俺以上の「化け物」数人と知り合いであるアオイや、俺と自分のことをある種の同類と捉えているルリちゃんは特殊なケースなんだと、今更ながらに思い知る。

 でも……

 「でもね、私は………艦長の事を信じたい。

 ……艦長が医務室に運ばれていった後も、私やメグミちゃん、副提督なんかの顔には恐怖が張りついていたの。
 そんな顔で食堂に行ったらね、ホウメイさんが私達の事、諭してくれたのよ。
 「そりゃ、あたしだって艦長の事が怖くないって言ったら嘘になるよ。
 でもね、艦長が必死になってあたし達の事を守ってくれたのは事実じゃないか。
 艦長は確かに恐ろしい怪物かも知れないよ? でもね、あの子は人の為に命を張れる子さ。
 だから……せめて信じてあげようじゃないか。」ってね。
 それで、私……艦長の事、信じてみたいって………
 まだ、怖さが先に立ってしまっているけど、いつか…きっと……」

 そのミナトさんのセリフがあんまりにも嬉しくって、

 「みなとサン…ヒック…オレ…オレ…なでしこニ乗ッテ良カッタ……ウワァァァ――――――、ア――――――――ッ!!

 俺は泣いていた。 みっともなく。 盛大に。

 ホウメイさんの言葉が嬉しくて。

 俺の事を受け入れようとしてくれているミナトさんが嬉しくて。

 ただ、ただ、泣き続けた…………

 「艦……長……………」

 

Side Minato

 艦長は泣くだけ泣いた後、泣き疲れたかのように眠ってしまった。
 私は、恐ろしい怪物の姿で、まるで小さな子供のように泣きじゃくっていた艦長を見て、ただ、こう思った。

 この人だけは……裏切りたくない、と。
 この人の事を………信じたい、と……

 

Side Akito

 ふぃ〜〜〜、流石に戦艦を三隻立て続けにジャンプさせたのはきつかったな。
 カズキやコウイチさんあたりにでもジャンプの練習をさせて、こういう時に手伝わせてみようかねえ。

 そんな事を考えている俺の所にプロスさんとウリバタケさんがやって来た。

 「珍しく…ないか、この組み合わせは。 二人ともどうしたんですか?」
 「いえ、ちょっとテンカワさんにご相談したい事がありまして……」
 「ナデシコとナデシコC、ユーチャリス、三隻ともひでぇ状態だってのは、お前も承知してるだろ?」
 「ええ。 特にナデシコ以外の二隻は船としての体裁を保てているのが奇跡って状態ですよね。」
 「そこでですね……このまま三隻とも修復するには資材や人手が足りな過ぎます。」
 「……だから、比較的被害の少なかったナデシコをベースに、無事だったパーツをツギハギして一隻の戦艦をでっちあげよう、って言うんですか?」
 「ええ、まあそういう事です。」
 「それでナデシコCやユーチャリスに使われている五年進んだ技術を、うやむやの内に俺から戴いちまおうと?」
 「いや〜これは手厳しいですな。」
 「まあ、確かに俺個人の持ち物として戦艦二隻ってのは無理があり過ぎですし、そちらも商売ですから、とやかく言うつもりはありませんけど。
 それに動く戦艦がなければ、俺だけならともかく他のみんなが地球に帰れませんからね。」
 「と、いう事は承知して戴ける、と?」
 「ええ。 でも、「無償供与」するつもりはありませんよ。
 とりあえず「貸し」って事にしておいて下さい。」
 「分かりました。」
 「オモイカネ、今プロスさんの言質は取っただろうな?」
 『うん、キッチリ録画しておいたよ。』
 「これはまた用心深いですな。」
 「あなた相手に油断なんか、したくてもできませんからね。」
 「まあ、ともかくこれで商談成立ですな。
 それではウリバタケさん、早速作業の方に取り掛かってください。」
 「おうよっ!! か〜〜〜、腕が鳴るぜ〜〜〜〜!!
 しかもこの後はブラックサレナやブローディアの修理も待ってるしな!!
 くっくっくっく……未知なる超兵器の数々が、俺の血をたぎらせるぜっ!!!
 「そうだそうだ。
 ウリバタケさん、手が足りなかったら、整備作業用のバッタがありますから、それ使ってください。」
 「了解了解、くっくっくっくっく、ハーッハッハッハッハァ――!!
 「……燃えてますね。」
 「……燃えてますな。」

 「でも、まずは設計だよな〜〜〜。
 まずはナデシコCとユーチャリスの設計図と仕様を確認して……」

 

Side Kazuki

 「で、今回俺は何日寝てたんだ?」
 「……八日だ。」
 「………最長記録だな。」
 「とりあえず、飯食ってきたらどうだ?」
 「了解。」
 「あと、「祝・生存記念 第一回ゲキガン祭り」を午後からするんだが……」
 「あのなガイ、俺は今何時なのかも分からないんだが……」
 「10時だ。」
 「了解。」
 「ゲキガン祭りは13時、食堂でやる予定だ。 来てくれよ。」
 「善処するよ。」

 そう言いながら俺はアサルトピットから抜け出す。
 よくよく見てみると、アサルトピットに数カ所の風穴が空いているのが分かる。

 「敵の攻撃……俺のアサルトピットにも命中してたんだな……」

 で、俺自身には当たらなかったと。
 これらの風穴を見ながら、俺は冷や汗をダラダラと流していた。

 それはさておき、俺は食堂へ……

 「って、どこだ、食堂って?
 それに、ここ、ナデシコじゃないぞ!?」

 そして俺は迷子になった……

 コミュニケ使ってオモイカネに道案内してもらえばいい事に気が付いたのが、11時半なのは俺だけの秘密だ。

 

 「ホウメイさん、ここって何処ですか?」
 「何処って食堂じゃないかい。」
 「いや、そうじゃなくてですね……」
 「で、なんにするんだい?」
 「ああ、ラーメンをお願いします。」
 「あいよ。」

 ズルズルズル………

 「で、ホウメイさん、ここって何処ですか?
 さっきみたいなボケは無しですよ。」
 「なんでもテンカワのアジトらしいよ。」
 「アキトのアジト?」
 「ああ。ナデシコCやユーチャリス用に地下に建造した秘密ドッグってとこらしいんだよ。」
 「へ〜〜〜、どっからそんな労働力調達したんですかね、アイツ。」
 「ユーチャリスにはバッタのプラントが積んであるらしくってね、作業用のバッタを生産してこのアジトを建造させたらしいよ。」
 「……さっきから「らしい」を連発してますね。」
 「あたしはテンカワの説明を聞いただけだからね。そこら辺はしょうがないさ。」
 「説明?」
 「「うわっ!!」」
 「……二人とも妙に気になるリアクションね。」
 「い、いやぁ別にねえ、センドウ?」
 「そ、そうですよ。ホウメイさんのいう通り、別になんでもありませんって。」
 「………まあ良いけどね。」

 いきなり話に入ってくるんだもんな、そりゃ驚くって。
 なんぞという本音はおくびにも出さずにそう答える。
 その辺はホウメイさんも一緒のようだ。

 「ところでカズキく……」
 「そうだ、イネスさん。 怪我人の具合はどうなんですか?」
 「怪我人って、あの化け物……艦長? それとも……」
 「コウイチさんとリョーコ、ヒロユキ、それと……アキト達が拾ってきたっていう「生存者」です。」
 「…艦長ならもう二日前に意識を取り戻して、今では普通に活動できているわ。
 リョーコさんは両足首ともに繋がって、今リハビリを始めたって所ね。
 ヒロユキ君はまだ意識が戻っていないけど、とりあえず峠は超えたわ。
 それで「生存者」なんだけど……出血が酷かったけど、ユートピアコロニーまで輸血用の血液を貰いに行って事無きを得たわ。
 後は意識が戻るのを待つだけって所よ。
 でも……」
 「でも、なんです?」
 「彼、異常にアキト君に似ているのよ。
 それで、気になって彼の遺伝子を調べてみたら、アキト君の物と全く同じと言って良いほど似ていたの。
 つまり、彼は……」
 「アキトのクローンかなにかって事ですか?」
 「もしくは本人ね。
 「プリンス オブ ダークネス」が、確かにアキト君本人であるように……」
 「別の世界から流れ着いてきた、その世界のアキト?」
 「ま、本人の意識が戻ったら、直接聞いてみましょ。
 そっちの方が、ここで議論しているより確実だわ。」
 「ですね。」
 「ところで……カズキ君?
 私ね、あなたやアキト君には初めて会った気がしないんだけど……」
 「……気のせいじゃないんですか?」
 「そうかしら?
 ………まあ、いいわ。それよりもカズキ君、私ね、あなたの生態についてちょっと興味があるんだけど、一緒に医務室に………」
 「丁重にお断りさせて戴きます!」
 「残念ね……」

 あ、危ない危ない。 危うく人体実験の餌食になる所だった……

 「大体、コウイチさんやヒロユキと違って、俺なんか普通の……」
 「「どの口が言う、どの口が!!」」

 さっき食堂に入ってきたらしいアキトとリョーコが口をそろえてツッコミを入れてくる。
 ちなみにリョーコが車椅子に座っていて、アキトがそれを押している格好だ。

 「あの二人に比べれば……」
 「お前の方が人外だな。」
 「オイコラ待て。」
 「……自覚がねえって罪だよな。」
 「同感だ。」
 「お、お前等な……」

 

 12時をまわった頃から、食堂の人口密度が上がり始める。

 「あれ? これから食堂でなんかあるのか?」
 「センドウ、ヤマダから聞いてないのかい?
 これから食堂で「祝・生存記念 第1回ゲキガン祭り」を開催するって……」
 「ああ、確かにそんな事言われましたっけね。」

 と、俺はこの場にいたら非常にヤバイ女の子の気配を感じる。
 これは……通気孔からか………
 気のせいであって欲しいと思いつつも、俺は気配の主に声をかけてみる。

 「し、枝織ちゃん、君さ、なんでそんなところにいるの?」
 「「「「「「「え?」」」」」」」(その場にいた俺以外の全員)
 「あれ、なんで分かっちゃったの?」
 「「「「「「「どぇぇ〜〜〜〜〜!!」」」」」」」(俺と枝織ちゃん以外ほぼ全員)

 みんな脱兎の如く逃げる!!
 コウイチさんも復帰早々、また半殺しにされては堪らないだろう、一緒になって逃げる!!

 そんな中、彼女に敢然と立ち向かう勇者が一人!!

 

べべンッ!!

クックックックックッ………

 

 その時、何が起きたのか正確に記憶している者はいない。
 ただ、全てが終わった時、枝織ちゃんが凍死寸前になって震えていた事だけは確かだ。

 俺、その場にいた筈なんだけど、どうやっても何が起きたのか思い出せん……

 何が、一体何が起こったんだっ!!

 知らない方が身の為のような気がするけど……

 

 「………で、あの後帰り方が分からなくって、火星をさ迷い歩いていた所を、料理の匂いに引き寄せられて通気孔からこの中に入ってきたと?」
 「うん……えっぐ、えっぐ……お腹空いたし、助けも呼べないし、枝織方向音痴だから何処に跳躍門があるかも分からなくて……びぇ〜〜〜〜ん!!」
 「……で、どうするんですか? この殺人笑い袋の処分。」

 殺人笑い袋ってルリちゃん…………
 それにしても、生身でチューリップに突っ込もうと考える辺り、相当追い詰められているな、枝織ちゃん。

 「そうだな……そうだ、枝織ちゃん、ちょっといいかい?」
 「ぐすっ、何? コーくん。」
 「俺のお願いを聞いてくれたら、俺達の食料を分けてあげるよ。」
 「え、本当? なになに?」

 追い詰められてる、追い詰められてるよ枝織ちゃん……
 敵ながら不憫な…………

 「枝織ちゃんって俺達を皆殺しにしろって言われてるよね?」
 「うん♪」

 はい、そこで元気に頷かない!!
 メグミちゃんとかホウメイガールズとか凄い勢いで引いてるよ〜〜〜!!

 「その言い付けを守らないで、俺達の事殺さないって約束してくれたら、食料を分けてあげるよ。」
 「え? う〜〜〜〜〜ん。」
 「ちなみに俺達を殺して奪うってのは無しだよ。
 もしそうしたらここからニ度と出られなくなるからね。
 それに、万が一脱出できたとしても、どうやって木連の人と連絡を取り合うつもりだい?」
 「殺さなかったら連絡できるの?」
 「俺達を殺さないって約束してくれたら、ナデシコに乗せてあげる。
 ナデシコは常に最前線に回されると思うから、比較的早い時期に木連の有人兵器と戦闘する事になる筈なんだ。
 その時に余裕があったら、君の身柄を木連に引き渡してあげるよ。
 どうする?」
 「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。」

 可愛らしく小首を傾げながら、思案する枝織ちゃんだったけど……

 グゥ〜〜〜〜

 お腹の虫がないた時、彼女は三大欲求の一つの前に屈した。

 「……うん分かった。みんなの事殺さないから、ご飯頂戴。」

 最強の暗殺者も空腹には勝てなかったってワケか。

 

 「ところで艦長。 彼女、私達を殺そうとした暗殺者ですよ?
 信用しちゃって大丈夫なんですか?」
 「そこら辺は大丈夫だよ、ルリちゃん。
 話を聞く限りじゃ、彼女は「殺しの道具」としては優秀でも、「暗殺者」としては失格だからね。」
 「?? どういう事です?」
 「彼女は精神的に幼くて、小さな子供が虫を惨殺するノリで人を殺すって話だったよね?
 それって殺気を出さないとか、潜伏に有利って利点があるから、そんな精神構造にされていると思うんだけど……
 でもね、ルリちゃん。
 そんな精神構造だからこそ、彼女には相手を騙すとかそういう能力はほとんど無いと思うよ。
 普段の潜伏任務では、無邪気な性格が充分過ぎるほどのカムフラージュになるからなおさらだよ。」
 「ん〜〜〜……、でも可能性は0じゃありませんよ?」
 「でも、彼女の弱点は分かっているからね。
 それに幼い性格が暗殺の役に立っているみたいだから、その性格が偽りって事は無いと思うよ。」
 「その彼女が約束を反故する可能性はない、と?」
 「そういう事。」

 「艦長、ルリ坊、そういう事は本人の前では話さない方がいいと思うんだけどねぇ…」

 「「あ。」」

 

 そして始まったゲキガン祭りだったが……ヒカルちゃんとホウメイさん以外の女性陣がグロッキーになってしまったのは何故?
 イズミさんや木連出身者の枝織ちゃんまでダウンしているってどうしてだ?

 「だ、第壱話からフルマラソンなんて聞いてません……ガクッ。
 「う、うにゅ〜〜〜〜〜」
 「暑っ苦しいんだよ……」
 「「「「「「「「う〜〜〜ん私、もうダメ……」」」」」」」」
 etcetc

 何故に? やっぱり女の子には理解し辛い世界だったのか? ゲキガンガー3って?
 身近にレイコちゃんとかスバルちゃんとか、喜んでゲキガンを見る女の子が結構いるもんだから、感覚がおかしくなっているのか、俺って?

 

Side Akito

 ゲキガン祭りから二日後。

 「やった俺たちゃ生きてるぜ、って生きている実感を感じて喜ぶのも良いけど、そろそろ訓練を再開しようと思ってね。」
 「で、なんで集められたのがこの面子なんだ、アキト。」

 そう、やや不満げに声をあげるカズキ。

 ここはトレーニングルーム。
 今、俺の前にはコウイチさん、枝織ちゃん、そしてカズキの三人が立っている。
 呼び出したのは勿論俺だ。

 「この面子でトレーニングするからに決まってるだろうが。」
 「ねえ、なんで枝織もいるのかな?」
 「ま、飯代のついでとでも思ってくれると嬉しい。
 第一、なんにもやらなかったら暇でしょうがないだろ?」
 「うん。でも、こういうのって、どちらかというと北ちゃんの方が枝織より好きそうなんだけど……」
 「……北ちゃんって、影護北斗の事?」
 「うん…でも、あの日から全然出てこないんだ……なんかずっと泣いていて、出てこようとしないの……」
 「え、と北斗って誰? 出てくるってどういう事?」
 「……後で枝織ちゃん本人か、ジュンにでも聞いてくれ。
 北斗が泣いているってのが気がかりだけど、とりあえずは訓練だ。」
 「…うん。」「「ああ。」ってちょっと待ってくれアキト!! 俺、この面子に混じって訓練するのか?」
 「当然だろ?」
 「……ちなみにどんな訓練?」
 「格闘訓練に決まってるだろう。 コウイチさんや枝織ちゃんはIFSもってないんだからな。」
 「………お前、何か恨みでもあるのか?」
 「いや、別に無いけど……どうした?
 まあいい、とりあえず俺は枝織ちゃんと組み手してるから、お前は怪物になったコウイチさんをなんとかして倒してみろ。
 じゃ、枝織ちゃん、いこっか。」
 「うん♪」
 「まてぇコラッ!! 殺す気かっ!!」
 「ああ、そうそう、俺の所に怪物の姿で気絶したコウイチさんを引きずって来るまで、お前飯抜きだから。
 修羅場モードは使うんじゃねえぞ。」
 「お前、絶対俺に恨みあるだろ〜〜〜〜っ!!」

 聞こえない聞こえない。

 別に恨みなんかないって。
 ただ、ちょっと先に枝織ちゃんの存在を察知されたのが悔しいだけだって。

 ちょっとした悪戯なんだから、お前も絶叫するなよ……

 この事はコウイチさんにも話をつけてある。

 あとは「どっきり」と書かれたプラカードをもってアイツの前に現れるタイミングだよな………

 

 ふぅ、やっぱ自分よりハイレベルな奴がスパーリングパートナーだと違うな。

 「でも、アー君強いよ〜〜〜!!
 ちょっとでも気を抜いたら枝織負けちゃう所だったよ!!」
 「……思っていたより、差が無いな。」
 「でも、まだまだ枝織の方が強いもん♪」

 

 そして。

 俺の部屋の前に、完全にキている目つきのカズキが、怪物の姿で気絶しているコウイチさんを引きずって現れたのは四日後の事だった。

 「事と次第はコウイチさんから聞かせてもらった。
 覚悟はできてるだろうな、この野郎っ!!

 「分かった。分かったから飯食ってこい。」

 その俺の言葉を聞くと、コウイチさんとのバトルで負ったダメージのせいか、おぼつかない歩調で、食堂に向かっていった……

 「こ、怖ぇっ!! 人間、飯が関わると変わるもんだな……」

 その後、「カー君怖いよ〜〜〜っ!!」を連発して泣いている枝織ちゃんを保護した俺は、アイツとは時間帯をずらして飯にする事にした……

 ちなみにカズキの奴、休眠状態にならずに翌日も普通に活動していた。
 どうやら、本当に修羅場モード無しでコウイチさんをたたんだらしい。
 そういう事ばっかしてるから、人外呼ばわりされるんだってぇの。

 ちなみに俺は、次の日に奴の部屋にプラカードを持って押し入るつもりだったんだが……

 

Side Ryo-ko

 「フッ、皆よく集まってきてくれた。」

 俺、ヒカル、イズミをシミュレータに集めたバカが咆える。

 「で、何の用なんだ、ヤマダ?」
 「ちっが〜〜〜う、それは世を忍ぶ仮の名だっ!!
 俺の魂の名、真実の名はダイゴウジガイだっ!!

 ふう、話が逸れたな。」
 「お前が勝手に脱線しただけだろうが……」
 「そっちがわざと間違えたからじゃないか!
 ………まあいい。
 皆に集まって貰ったのは他でもない。あの戦闘以来、使えなくなっていたシミュレータが復旧した!!」
 「「「おおっ!!」」」

 コイツは嬉しいな。このバカも無駄に俺達を呼んだワケじゃないって事か。

 「そこでだ。久方ぶりにシミュレータを使った模擬戦をこの面子で行おうと思う。」
 「へぇ、いいじゃねえか。」
 「あれ? でもアキト君やカズキ君は?」
 「その二人なら、艦長と枝織さんと一緒に格闘訓練をしてたわ。
 カズキ君なんか……」
 「ストップ!! 事情は分かった。」

 ふう、危うくイズミの駄洒落をモロに食らうところだったぜ。
 お〜〜い、イズミ〜〜〜〜。
 お前、何いじけてんだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!

 「しくしく敷くしくしく…………」

 一部漢字変換が違うような……ハッ、ツッコむな、ツッコむんじゃない、スバルリョーコッ!!

 「平和だね〜〜〜〜〜」
 「そうっ!! その平和を守る為に、俺達は戦わなければ……
 って言えれば良いんだけどな…………」

 

Side Uribatake

 「さて、と、これでナデシコの方はバッタ共に任せて大丈夫だろ。
 後は、ブラックサレナとブローディア……くっくっくっくっく、血沸き肉踊るぜっ!!
 「あの〜〜〜ウリバタケさん?」
 「おう、何だテンカワ♪ 俺はこれから、ブラックサレナとブローディアのオーバーホールをしなくちゃなんねえんだがな♪」
 「浮かれまくってますね……」
 「おうよ♪ タニさんに任せてもいいんだが、こんな美味しそうなもん人任せにできるかってんだ♪」

 ちなみにタニさんというのは、イネスさんが輸血用の血液を貰いに行った時に連れてきた研究者で、こういった方面のスキルが高い。
 他にも医者の手が足りない、と言う事でイネスさんの養母イリスさんと、試作型のマシンチャイルドらしいフィリスさんが、イネスさんに連れてこられている。

 「あっそうですか。」
 「で、何かようか?」
 「ああ、そうだった。
 あのですね、ウリバタケさん、ブラックサレナの改良をお願いしたいんですけど……」
 「ブラックサレナの改良ね……まあ、任せてくれ。
 どんな感じの機体にして欲しいんだ?」

 「う〜〜ん、そうですね…………



 ……ってぇ所でどうでしょうか?」

 「コンセプトが豪快に変わっているな。」
 「サレナ自体、様々な試行錯誤を繰り返して、その度に姿とコンセプトを変えていった機体ですからね。」
 「………そんな機体の元の持ち主と戦うのか、俺達は………」
 「厳しい戦いになるでしょうね……」
 「……ああ。」
 「ああ、あとカズキのバカ用に何か良い機体を作っておいてください。
 多分アイツの事ですから、スーパーエステもあっさり壊しちまうでしょうし…」
 「あいつなぁ…出撃の度に、フレームの関節という関節をガタガタにして帰って来やがるからなぁ……
 分かった。あのバカにピッタリな奴をこさえてやる。
 ま、後回しになるから、何時できるかはわからねえけどな。」
 「それで充分です。」

 そういってテンカワは行っちまった。

 さてさて、どう料理しようかねえ、ブラックサレナちゃん♪

 『な、なにか嫌な予感がするんだけど……』
 「お前等は大丈夫だよ。元々最強と言って良いスペックがあるからな。」
 『う、うん……』

 

Side Ruri

 とまあ、こんな感じで二ヶ月が過ぎました。

 皆さん、初めは艦長が怪物だと知って面食らっていましたが、既に慣れてしまったようです。
 タフな人達です。
 枝織さんは、もう完全にナデシコに溶け込んでしまっています。
 当初の目的なんか完全に忘れているかもしれません。
 テンカワさんは、その枝織さん相手の戦闘訓練に明け暮れる傍ら、センドウさんを徹底的にしごいています。
 センドウさん、「いつか死ぬ」って泣いてました。
 リョーコさんは最近ようやく自力で出歩けるようになりました。
 走るのはまだ辛そうですけどね。
 フジタさんは1ヶ月前に目を覚ましました。
 その後の経過も異様なほど順調で、もう普通に生活できています。
 ウリバタケさん、タニさん他整備班の人達は、破壊され尽くしたエステの修理とナデシコの改造に区切りがついて、今は落ち着いています。
 ……ミナトさんがよく艦長と談笑するのを見かけるようになりました。
 ……………なんでしょう、この胸の奥のもやもやは。

 そして……副艦長とテンカワさんが枝織さんやブローディアと一緒に保護して来た「生存者」さんが、目を覚ましました……

第九話「火星-戦神に供されし贄-」に続く

あとがき

 今回は、まあ繋ぎの回です。
 話は全く動いていませんが、ここを通らないと話の動かしようがない。 そんな回です。

 とりあえず、「ルリの反応の方がメグミの反応より異常だ」という指摘に対してですが……ジュンとコウイチのやり取りの内容で勘弁してください。

 で、影護姉妹ナデシコ乗艦。
 これは当初から予定していた事です。
 ただでさえ敵方には「プリンス オブ ダークネス」という超特級危険人物が所属しています。
 更に彼女達まで敵では、どう転んでも木連の圧倒的勝利、草壁は全人類の代表に……てな事になってしまいます。
 さすがにソレは拙かろうと言う訳で(他の思惑がないワケではありませんが)、彼女達にはナデシコに来てもらいました。

 それでも、パワーバランスが圧倒的に木連に傾いている感は否めませんが……

 後、パワーアップしたブラックサレナはどんなんでしょうか?
 一応どうするかは予定してあるんですが、所詮予定は未定ですから……

 人によってはカズキ専用機の方が興味深いかも知れません。

 それではまた。

 PS.
 ブローディアのレプリカの件ですが、本文中にあるようにデータが全て木連側にあり、木連とクリムゾンの技術陣が総力を結集して再現を試みているので、現時点でも、オリジナルよりかなり劣ったレプリカを造るくらいなら、一応できます。
 前回襲来したのは、その「かなり劣ったレプリカ」です。
 フェザーが付いているジャッジ程度のシロモノだとでも思ってください。

 

 

代理人の感想

取り合えずコウイチくんの件は置いといて。

ブローディアの設計図って・・・そんなヤバいもん、

いつ鹵獲されるかわからない機動兵器に置いとくなよ(爆)。

 

後、前回の感想を書いた後に、現時点でもブローディアのコピーを作れる可能性のある存在を

元々木連が保有していたことに気がつきました。

そう、「プラント」です。

そもそも古代火星人の作ったオーバーテクノロジーの塊、

設計図を初めとするデータさえあれば、ある程度の技術格差は覆せる可能性は大です。

ブローディアの技術だって、TV版からたかだか数年後の代物。

別系統とはいえレベルで言えば遺跡の技術の方が上な訳ですから。

もっとも、使う方に知識がなければ意味がないわけですが

それに関しては先述の通り全てのデータを保有しているのである程度はカバーできる物と思われます。