Side Dia

 『ふぇ〜〜、まさかこっちの世界のアリサさんが男の人だったなんて……』

 今回の防衛戦が終わった後、あたしはそうもらした。

 『そうだよね。でも……』
 『でも、何よ?』
 『いや、男のジェイドさんの方が、女性のアリサさんより、おとなしいというか、おしとやかというか……
 なんか、どっちが女の人なのやら、って感じがするんだけど。』

 う〜ん、思い当たる節があるようなないような。

 『多分、アリサさんがルリ姉みたいになっちゃったからだと思うけど。』
 『……ブロス、あんたね、この世界にルリ姉がいないからって、思い切った事言うわね。
 確かにあんたの言う通りだと思うけど、でも、アリサさんは初対面のアキト兄に抱きつくって事はしなかった筈よ。』
 『いや、あんな人生送ってたら、誰でも抱きつきたくなると思うけどね。
 アリサさんがサラさんとごっちゃにされるのとは、訳が違うし。』

 う〜〜ん、確かに。

 「無駄話はそこまでにしておけ。お前達の存在は、まだ秘密なんだからな。」

 あたし達の話は、このβさんの一言で中断され、ブローディアは基地に帰投していった。


明日も知らぬ僕達外伝

 鈍色の龍騎兵

第参話 その英知は誰の為に

Side β

 「グラシス中将は、既に故人……か。
 あわよくば「前回」同様に接触したい、と思っていたんだがな。」
 「あまり、「前回」や「前々回」の事は、アテにするな、と言う事なんだろう。」

 俺と北斗は、少し前の新聞を見て唸っている。
 飯時にグラシス中将が亡くなった事を耳に挟み、その時の新聞記事を探し出して読んでみたのだ。

 「それにしても乱暴なやり方だな。当時中将がいた基地ごと消し飛ばすとは……」
 「規模から察するに、暴走した相転移エンジンを爆弾に見たてた、相転移爆弾のようだな。
 そんな物、どう考えても持ち込めん筈なんだが……」
 「こんな事が可能な奴は、木連には深遠一人しかいない筈だ。
 相転移エンジンを使った乱暴なやり方は、生体ボソンジャンプの記録を残さない為……か。」

 まあ、考えてみれば、深遠は北辰の配下。
 テロリストという前歴を考えても、暗殺や大量破壊はお手の物なんだろう。

 「この分だと、地球側のマトモなお偉いさんは、近い内に皆殺しにされるな。
 そうなったら、俺達末端の人間の運命は決まったような物だ。
 その前にケリをつけられれば良いんだがな……」
 「オペレーション・メリークリスマス。
 俺は内容を聞いてないが、こいつが発動さえすれば、なんとかなるんだろう?」
 「ああ。だが、発案者本人が「過大な期待は禁物」とも言っていたしな。
 他に打てる手があるなら、打っておいた方がいいだろう。」

 「なら…………是が非でも、八雲に協力してもらうしかなさそうだな。」

 その北斗の答えに、俺は首を縦に振った。

Side Yakumo

 「すみません。この基地から食材の注文があったと思ったんですが。」

 私は、トラックの窓から顔を出し、守衛さんに言った。
 この基地では、うちの店の食材を個人で注文する人が少数ながらいるので、この守衛さんとも既に顔なじみだ。

 「ん? ああ、話は来てるぜ。通りな。
 あんたんとこの果物は、かなり美味いからな。そいつをこうやってすぐに届けてくれんのは、正直ありがたいぜ。」
 「はははっ、褒めてもまけませんよ。」
 「ちっ、まあ、美味いから良いけどよ。」
 「それでは、また帰りに。」
 「おうよ。」

 そういって、私はいつものように、基地の敷地内に入っていった。
 思い出せない過去が、とんでもない事実が、待ちうけているとも知らずに。

Side Hokuto

 「最後に、これがオオサキ少佐ご注文のリンゴ1ダースです。
 間違いはありませんか?」

 βの奴と通路を歩いていると、聞き覚えのある声が、こう話しているのが聞こえてきた。
 この声は……間違いない、八雲だ。
 俺はそのことをβに話し、奴と連れ立って声のしたほうに行ってみる。

 「……ええ、確認しました。全て注文通りです。
 それでは、確認の為お会計の方をお願いします。」

 が、行ってみただけで、向こうの話が終わるのを待ってから、八雲と接触してみる事にした。

 「おい、久しぶりだな八雲。」

 八雲がトラックに戻ろうとした時に、俺は奴にそう話しかけてみた。
 すると、八雲は怪訝な顔をして、

 「? あなたは? 何処かでお会いしましたか?」

 と聞き返してきた。
 ひょっとして演技しているのか? とも思ったが

 「北斗、演技という感じはしない。
 相応の訓練を積んでるならともかく、彼の専門が戦術や戦略なら、これが演技って事はないだろう。」

 とのβの耳打ちで、その考えを改める。
 改めて八雲の様子を伺うと、成る程、βの言う通りだ。
 北辰によって施された訓練の成果に頼るのは気に食わないが、暗部としての訓練を施された感覚が、八雲の言葉に嘘がない事を俺に告げる。

 「何故、私の名前を?」

 が、こんなに似ている同姓同名など、βとアキトのような同一存在でもなければありえない。
 どうしたものだろう、と考えていたが、とりあえずは……

 「とりあえず、お前と話がしたい。時間はあるか?」
 「え、ええ、まあ。」
 「なら、立ち話もなんだからな、ちょっと来てくれ。」

 場所を変える事にした。

Side Yakumo

 「さて、と、八雲、何か飲むか?」
 「いえ、お構い無く。」

 私は、男言葉で話す北斗という少女と、彼女と同程度の年齢と思しき青年に連れられて、少女が使っているという部屋に通された。

 「なあ、本当に俺の事を憶えてないのか?
 顔を会わせたのは、一度や二度ではないんだが……」
 「そういわれてもですね……一年前以前の事がどうしても思い出せないものですから……」

 と、ここまで言って気付く。
 彼女は、もしかすると、私の過去を知っているのかもしれない!!

 「なっ、記憶喪失だとでもいうのか?」
 「あの、私の事を知っているなら、教えてもらえませんか?
 記憶を失う前の私は、一体何処の誰だったんです?」

 困惑気味だった彼女は、更に困惑した顔で青年の顔を見やる。

 「俺は……話しておいた方が良いと思う。ショックはでかいだろうけど……」

 その青年の答えを聞いた彼女は、何かを考える様に俯き、やがて意を決した様子で口を開く。

 「……よし、お前の素性を教えてやる。
 お前は、木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星国家間反地球共同連合体所属優人部隊先代司令官東八雲……早い話、敵軍のお偉いさんだ。」

 「なん……ですって? 木…………星?
 それでは、まるで……」
 「……まるでもなにも、木星には人間が住んでいる。
 この戦争をしかけてきたのもそいつらだ……当然、お前もその中に含まれる。」

 「――――――っ!!
 それではっ、テレジアさんもっ、レジィさんもっ、アレンもっ、シェンナもっ、他にも沢山っ、皆、皆人間に殺されてっ! 私がその一員だって言うんですかっ!!

 テレジアさんはレジィさんとの赤ん坊を抱いて、こんな世の中でも家族三人で幸せになってみせるって言っていたのにっ!!
 アレンは、素性の知れない私に良くしてくれて、私のここにきて初めての友人でっ!!
 シェンナは、メティとあんなにも仲が良かったのにっ!!

 私が……その幸せを理不尽に破壊した蜥蜴の…………一員だな……ん、て……

 私は……頭を垂れ、打ち震える事しかできなかった。
 それ以外には、涙を流す事さえ……

Side β

 「…………何か、話がとんでもない方向に行ったな。」
 「……ああ。」

 あの後、ある程度落ち着いてきた(といっても表面だけだろうが)八雲に、北斗もまた木星の人間であり、彼が木星にいた頃の知り合いなので、この辺りの事情に詳しいと話した所……彼はいきなり北斗に掴みかかってきた。
 無論、木連最強と謳われた北斗を相手に、優人部隊最弱の男が敵うはずも無く、北斗は苦も無く八雲を無力化すると、話を続けた。

 何故、木連側の人間である北斗がこの場にいるのか、を説明する為、北斗が俺をヤマサキラボから連れ出してからの出来事をかいつまんで話した。
 下手に隠すと碌な事がなさそうなので、枝織ちゃんの事も隠さずに話す。

 枝織ちゃんの事もあって、彼の北斗に対する不信感はかなりの物のように見えたが……

 これらの話を聞いた時点で、彼の頭は混乱の極みに達したらしい。
 彼は頭を抱えて、今日のところは帰らせてくれ、と言って出ていった。
 本来、彼ならばありえない話かもしれないが……流石に、自分が憎んでも憎みきれない相手の一員である、と聞かされたのはショックが大きすぎたのだろう。

 「考えてみれば当たり前な話だな。
 あの街に住んでいて、ああも街に溶け込んでいる男が、街を襲った木連を恨んでいない、なんて普通なら有り得ない話だからな。」
 「……俺達は、あいつが元は木連側の人間だった、という事で、その事に気が回らなかったのか……」

 …………正直、東八雲がああも木連を憎んでいるとは思わなかった。

 ブレーン的な役割はもとより、ともすれば地球側に寄りがちな判断を下しかねない俺達にエクスキューズを投げかける存在として、味方に引き入れたかったんだが……

Side Yakumo

 私は、ベッドの上で天井を見上げていた。 眠れない。

 原因は判り切っている。昼間に聞かされた話だ。

 「私が、蜥蜴だというなら……どんな顔をしてテレジアさん達の墓前に立てば良い?
 アレンの家族に、シェンナの孤児院の子達に、なんて詫びれば良い?
 私は…………木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星国家間反地球共同連合体所属優人部隊先代司令官東八雲……」

 そう口にして気付く。司令官……司令官?
 何故、そんな立場の私がこんな所に? やはり彼女の話は、壮大な法螺話なのか?

 「は……ははは……質の悪い冗談、そうだ冗談なんだ…………」

 そうだ、嘘だ。私が司令官などという立場な筈が無い。
 まして、蜥蜴だなんて。

 そう思うと、心がいくらか軽くなったような気がした。
 それがまやかしであり、翌朝には砕け散ってしまうなどとは気付きもせずに。

 ほんの数回聞いただけの、「木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星国家間反地球共同連合体」などという長く覚え辛い名前を、今、澱みもせずにスラスラと口に出来た、その事が意味する事実に気付きもせずに……

 翌朝、居候先のテア家の人達との朝食の時に、私は何気なく昨日聞かされた話をした。

 「馬鹿げているとは思いませんか? 何故、敵の司令官がこんな所に来なければならないんです?
 彼女がどうやって私の名前をしら……べ……」

 私は、話を聞いた家長のアルドーさんの顔が険しくなっているのに気付き、それ以上言葉を続ける事ができなかった。

 「お父さん、どうしたんですか?」

 長女のミリアさんがそう声を上げる。妹のメティも怪訝そうだ。

 アルドーさんが重々しく口を開いた時、私達は信じられない、いや信じたくない言葉を聞いてしまった。

 「……恐らく、その北斗という少女の話は、大体が本当の事だよ、八雲君。」
 「ちょっ、どう、いう事……ですか…………?」
 「それじゃ、何、お父さん……八雲さんは、本当に、敵って……事?」

 アルドーさんは黙って席を立ち、戻ってきた時には白いガクランと金属片を持ってきた。

 見ると、ガクランの胸の部分と金属片には穴が穿たれていて、ガクランは恐らく血であろう物で赤く染められていた。

 「これは?」
 「アレン君が君を発見した時に、君が身に着けていた物だ。
 君は銃で撃たれたらしく、胸から血を流していたが、認識票らしいコレのが楯になって助かったんだ。」

 そういって、金属片を私に差し出す。それには私の名前が書いてあり、「東」と「八」の間に穴が穿たれていた。

 「それで、これがなんだというんです?」
 「認識票と、それにガクランのここに付いている連合軍のそれとは異なる階級章らしい物。
 そして、ガクランのここに付いている製造元。血で読めなくなっているが、無事な部分には「木星」「エウロパ」と書かれている。
 にわかには信じられなかったが、私とアレン君は君が木星蜥蜴、いや木星軍であると結論付けるしかなかった。」

 それを聞いた瞬間、何かが体から頭に上って来た。

 「んなっ、なんで話してくれなかったんですかっ!!」
 「知らなければ、知らないままの方が良いと思ったからだ。
 現に、今君は普段では考えられないほど動揺しているじゃないか。」

 そう切り返されて、言葉も出ない。

 「……アレンは、私が敵だと知っていて、それで何故あんなにも良くしてくれたんです?
 あなただってそうだ。 何故……なんですか?」
 「君が記憶喪失だという事を信じたからだ。
 記憶喪失の者に対して恨みつらみを言い募っても始まらない。」
 「敵の暗殺者なのかも知れませんよ?」
 「その時はまあ、私達の見る目がなかったという事だな。」

 その答えを聞いて、私はありがたさにむせび泣いた……

 ミリアさんも、メティも、この話を聞いた後も「八雲さんは八雲さん。」と言って、私を受け入れてくれた。

 私は……幸せ者だ。本来なら、徹底的に拒絶されて然るべき筈なのに…………

 ―――――――そして。

 「お前から顔を出すとはな。どういう心境の変化だ?」
 「あなた達が木連軍人としての私に、何をさせたいのか?
 それを聞かせてもらいに来ました。」
 「そう、か。 だが、俺達にはもう、ただの記憶喪失にすぎん今のお前に執着する理由はない。
 それに俺達の話を聞けば、逃げられなくなるぞ。 それでも聞きたいか?」

 「是非、お願いします。」

 全てを、ナデシコの目的を聞かされた私は、微力ながら協力したいと申し出、彼等はそれを受け入れてくれた。

 だが、私の目的は他にある。

 木連にあの恐怖を。 自分達が一体何をしたのかを判らせてやる。
 百年前の、当事者のもういない出来事が、ついこの間の宣戦布告無し、陸戦協定無視、民間人虐殺に対して、何の免罪符になるものか。

 例え私もまたその裁きを受ける事になるとしても。
 一方的な正義を振りかざすなどという下劣な行為を行った者達に、報いを。

 後日、私は北斗達と行動を共にする為、アルドーさんの了承を受けた上で、基地でオペレーターとして働かせてもらう事になった。

第四話「除草屋」に続く

あとがき

 ミリア&メティスの親父さんの名前、特に決まってないようで。とりあえずアルドーさんとしました。
 八雲さんが色々と人名を並べ立てていますが、故人で回想にも出てこない予定ですので気にしないで下さい。

 で八雲さんです。記憶喪失で、かなーり木連に対して悪印象をもってます。
 ナデシコの中では、アキト、イネスといった火星組に次ぐ勢いかも。
 しかも、現状では一般人に対しても怒りが向いてますので、権力者にターゲットを絞っている火星組よりも性質悪いです。
 まあ、舞歌をはじめとする優人部隊の説得があれば、もう少し態度が軟化するでしょうが。

 さて、次回からはMoonNight編です。
 と言っても、部隊名は全然違いますけどね。この話では、「除草屋」と呼ばれる事になります。
 いやだって、そんな気取った名前を付けられるような感じにゃなりませんから。
 ジェイド君、男だし。

 今度は、もう少し間隔を空けないで投稿できれば良いと思います。
 では、また。

 

 

代理人の感想

おー。

確かにこれはアリですねぇ。

地球人として暮らしていて、木星蜥蜴に反感を持たないはずがない。

ただ、もっと理性的な男だと思っていたので、あそこで簡単に激昂してしまったのはちょい違和感が。

記憶を失うとやっぱり性格も変わるんでしょうかね。