大分時間を使ったせいか、ユリカの車は俺の目の前を通らなかった。

 それでもスーツケースを落とした跡か、俺とユリカの子供のころの写真が落ちていた。

 ……大事なものだったらこんな所に忘れておくなよな。

 

 

 

 時間が遅れたということもあって、急いでドックに向かった。

 

 でもシュウの身体って、動きが軽いな。

 

 シュウが言うには

「『魔導師』だからって身体も鍛えておかないとな…それに俺達は『魔導』にばかり頼ってる訳じゃないんだ」

 ……だそうだ。

 

 それにしては俺が『漆黒の王子』と呼ばれてた頃の身体より動きがいいんだが。

 

 それだけ鍛え方が違うのか? シュウにどうやってここまで鍛えたのか訊ねてみたら、

 

「聞かないでくれ……」

 と、遠い目で答えられた。

 

 どうやらそうとう厳しい訓練を受けたらしい。

 

 

 

 

「はてさて…
 貴方は何処でユキさんと知り合いになられたんですかな?」

 

 俺達は軍の見張りに連行され、今プロスさんと話をしている。

 知り合いなのは『俺』の身体に入ってるアキトなわけで、俺はユリカという人のことは知らない。

 母さんはナデシコ艦内にいて、この人は関係者みたいだから……母さんに会いたいと言えば大丈夫だろう。

 すぐ戦闘になるみたいだし、ネチネチと艦内に居座ったら出港してしまうだろう。

 俺が狙うのはそれ。

 このプロスさんという人は中々抜け目が無さそうだから出港後に
 連れてきてしまった俺達をネルガルっていう企業に仮であろうと就職させるだろうしな。

 

「由希先生は俺の恩師です。こないだ、戦艦に乗るって連絡が届いたから
 一言挨拶にこようと思ったんです」

 

「ほぉ……貴方はユキさんから何を習ったんですか?」

 

「戦闘術を少々……ですね」

 

 これは嘘じゃない。

 他にも色々と教えられてはいるが。

 

「ふむ……そうですか。
 ……おや?全滅した火星から、どうやってこの地球に来られたんですか?」

 

 俺のDNA判定結果を見て驚くプロスさん。

 ちなみにプロスさんは舌で判定しようとしたが、俺が咄嗟に腕を出したので腕で判定してもらった。
 だってなんか嫌な予感がしたんだぞ。

 

「……記憶にないんです。
 気がつけば、地球にいました」

 

 俺の話を信じたかどうかわからないが(俺だって知るか!)
 これ以上聞いても大した情報が得られないと思った(だろう)
 プロスさんは話を切り替える。

 

「あいにくユキさんは多忙な上、重要人物なんですよねぇ……
 医療班に整備班副長、コック手伝いにパイロットの戦闘術教官……
 とてもではないですが出港までにはお会いできません。
 ……あ、そちらの方はどういった経緯でここにいるのですか?」

 

 

 母さん……何考えてるんだ? ……四足の草鞋履くなんて。

 

「え……と」

 

「あ、彼は愁。
 由希お母さんの息子でわたし達は愁の従兄妹なの。
 わたし達も由希お母さんに会いに来たんですけど……」

 

 

「ふむ……それはそれは。
 ユキさんのご子息ですか。……おや?
 おかしいですね。ユキさんは24歳の筈ですが……」

 

 

「……あ、それ事実です」

 

「……」

 

 ……プロスさんもアキトも何固まってるんだろうか?
 そんなに変な……って二人は知らないんだっけか。

 

 マジマジ。でも5歳で身体、精神共に年齢が16いってたそうだぞ。

(『刻』の悪戯のひとつだ……)

 

(そ、そうか……)

 

「……ま、まぁそういうことは置いておいて……」

 プロスさん、逃げたな。

 ……まぁ、普通はそうだろうが。

 

「……やはりご家族の方でもユキさんとお会いするのは……
 しかし、ネルガルの社員の一員としてならば、問題は有りません
 実は我が社のあるプロジェクトでコックが不足しておりまして。
 テンカワさんはコック、シュウさん達はとりあえずは清掃班ということで。
 ……どうですか皆さん、この際ネルガルに就職されませんか?」

 

「こちらこそ、願っても無い事です。
 さっき職場をクビになったところだし、
 挨拶ついでに先生と手合わせしたかったんですよ。」

 

「では、早速ですがお給料の方は・・・」

 

 こうして俺達は無事ナデシコに乗船した。

 

 そして……

 

 

 

 

「こんにちは、プロスさん」

「……あら。愁じゃない」

 

 聞きなれた声と聞いたことの無い声。
 それが俺達に艦橋を案内するプロスさんにかかった。

 

 あの声……母さんか。

 

「おや、ルリさんにユキさん。どうしてデッキなどにおられるのですか?」

 

 

 腰まで届くほどの黒髪。

 自分でもホントに親か?と疑いたくなるくらい若々しい顔。(いや、まだ24だけど)

 見間違えもしない。 俺の母さんだった。

 

「ええ。愁と教え子のアキト君の気配がしましたから、迎えにきたんです。
 ルリちゃんは愁とアキト君に興味があったみたいで、連れてきたんですけど」

 

 

(愁君愁君、クロノスだよっ♪)

 

 ……クロノスさんか。

 

(大体事情はわかってるわ。遠くから盗み聞きしてたし……とりあえず今は話を合せてね?)

 

 ……ありがとう、クロノスさん。

 

(ふふっ……どういたしまして)

 

「……こちらの方がシュウさんですか?」

 

「ええ、ルリちゃん。この髪が灰色の方が愁です。
 後ろの方にいるのが紗夜ちゃんと綾ちゃん。
 多分これから世話を掛けると思うからよろしくね?
 アキト君の紹介は……いりませんよね」

 

「はい。……皆さんはじめまして。
 アキトさん、お久しぶりです……」

 

 アキト……この娘と面識あるのか?

(いや、この時点では面識はなかったはずだ。
 まさか……あの事故に巻き込まれて、
 ルリちゃんも俺やラピスと同じく、過去に戻ってきたのか?)

 

「ふむ……私は邪魔者みたいですからここから去りますか。
 ルリさんにユキさん、皆さんにナデシコの案内をお願いしますね」

 

「はい、解りましたプロスさん」

 

「プロスさん、お仕事頑張って下さいね」

 

「……それでは」

 

 プロスさんは去っていった。

 

「……案内、しますかアキトさん?」

 

 ルリって娘は悪戯っぽく笑って俺に質問した……

 でも、相手が悪かった。

 

「う〜ん……俺は欲しいんだけど」

 

「……え?」

 

 だって、『俺』はアキトじゃなかったんだから。

 

 

 ルリちゃんに俺とアキトの精神が入れ替わってしまったことを説め……もとい詳しく話した。

 (説め……って言っちゃいけないそうだ。なんで?)

 ルリちゃんは「少し紛らわしいですね」と言ってそれきり。

 納得はしてくれたみたいだ。

 

 ルリちゃんは一ヶ月前に戻っていたそうだ。

 気がつけば、昔いた研究施設にいたらしい。

 そこで出会った母さんは、ルリちゃんを一目見て『過去に戻ってきた』と見抜いたそうだ。

 ルリちゃんの話を聞いた母さんはルリちゃんを手伝うことを約束して今にいたる、と。

 

 そして今まで準備をしていた。

 少しでも、未来を変えるため……。

 

 あ、ついでに母さんは俺達とすれ違いで一度家に帰ってきたそうだ。

 つまり俺達は探すつもりが逆に探されていたという訳。

 ……それでも一ヶ月以上前に出現した。

 その辺り、趣味の知識漁りでもしてたんだろう。

 

「へぇ……で、準備ってどういうことをしたんだ?」

「ええ、アキトさ……シュウさん。
 今回は換装済みのエステバリスが陸戦、空戦共に二機、
 未換装のものを含むと陸戦が6機、空戦が5機、データは未調整ですが零G戦が1機です。
 零Gはユキさんに持ってきてと頼まれました……あとパイロットはヤマダさん以外にもう一人います。
 ……はい、ここが格納庫です」

 

「へ〜……あれがエステ?」

 やっぱちょっと憧れるな、大型ロボットって。
 ……乗っても良いかな?

 

「ルリちゃん、もう一人のパイロットって……
「ガァイ! スゥゥパァァナッパァァァァァ!!」

ガッシャーン!!きゃぁぁぁぁ!!

 

「……あ、こけた。
 しかももう一機巻き込んじゃったよ。
 なんか悲鳴も出てたけど……大丈夫かなぁ?」

 

「……アキトさん、そろそろ無人兵器が襲ってきます。
 私はブリッジに帰りますから、気をつけてくださいね」(汗)

 

「……ああ、解かった」(汗)

「おーい、この娘も医務室連れて行ってやれ!!」

 

「あ、あの娘医務室行きだって。怪我、大丈夫かな?」

 

 アキトは何事も無かったようにルリちゃんと別れ、
 エステバリスに向かって歩き出す。

 

 ナッパーの人とあの娘赤い制服着てたな。二人ともパイロット?
 いきなり二人とも脱落みたいだな。どうすんだアキト?

(フッ、やはり俺が出なくてはならないんだな……)

 

「でもアキト…操縦にはコレいるんじゃないか?」

 と、アキトを呼び止め左手甲のIFS(というらしい)を見せた。

 

「……あ、今の俺はIFS付けてないんだった」

 

 

 アキトはマニュアル操縦での行動は慣れていないそうで、

 アキトに簡単にIFSの使い方を教えられ、俺も協力することになった。

 

 IFSの手ほどきが終わった瞬間、艦橋内にエマージェンシーコールが鳴り響く。

 

「シュウ……」

 

「……ん、解かってる。
 で、どれに乗ればいいんだ?」

 

「換装済みのヤツなら何でもいいだろう……」

 

「了解。……んじゃあれで」

 

 そう言って俺は暗褐色の空戦フレーム(と、いうそうだ)に乗りこむ。

 

 ……おろ?

 

「なぁなぁアキト……刀とかないか?」

「……ないぞ」

 

 

 

 

「俺は、テンカワアキト……コックです」

 

 所属を聞かれ、答える。
 ……やっぱこういうときは自分の名前で答えたいなぁ。

「ナギリシュウ…清掃班です」

 

「もしもし、危ないから降りた方がいいですよ?」

 

「う〜ん……この状況でそう言う訳にはいかないだろ。えっと……通信士さん」

 

「二人とも、操縦経験はあるのかね?」

 

「俺はないけど……シュウはマニュアルでも行けるそうです」

 

「困りましたな……お二方共危険手当は出せないのですが」

 

「あはは……今回は要りませんよ、プロスさん。やらなきゃやられるんだから」

 

「愁、アキト君。パイロットは二人とも怪我しちゃったから後は頼みますね」

 

「了解、由希先生!!」

 

(相変わらず……騒がしい人達だ)

 

 そうか?俺はこういうの好きだぞ。

 

(……そうだな)

 

 そして。

 

「アキト!! アキト、アキト!! アキトなんでしょう!!」

 

 

「(えっと…)ユリカか?」

 

「大変!! そのままだと戦闘に巻き込まれるよ、アキト!」

 

「大丈夫だよユリカ。それにさっきプロスさんにも言った通り、
 やらなきゃやられるんだ。逃げるわけにはいかないよ」

 

「……うん、解かったよアキト!!
 ナデシコが準備できるまで囮をお願い!!
 怪我しないでね!私はアキトを信じるよ!!」

 

「OK、それくらいならなんとかなる」

 

(……)

 

 なんだ、アキト?

 

(……なんだろうな、この感じ。
 ユリカがシュウに話し掛ける度、シュウがユリカに応える度に酷く胸が痛むんだ。
 ……やはり俺はユリカを求めているのか?
 シュウが『アキト』としてユリカに接するのを見たくないのか?
 だが……俺にはもう、ユリカは相応しくない)

 

 ……どうしてそう思う、アキト?

 

(この手は血に染まりすぎたんだ!!
 だから、もう……俺には、ユリカは相応しくない……)

 

(……ふっ、甘いな)

 

(何っ!!)

 

 おい、焔……!

 

(お前の手は血に染まっているというが……
 彼女の指示で何人の人が死んだ?
 間接的に関わっているだけで彼女は一人も殺していない、
 そういう理論が通じると思うのか?
 『魂』の我から見たらお前達……
 いや、ナデシコクルー全員が罪人となりうるのだぞ?)

 

(……なりうる、だと?)

 

(全てのモノは生きているだけで影響を及ぼす。
 それが他の生命が消えようと、生まれようと……
 生命は生きているだけで罪なのだよ。
 我は全ての生命を管理する者と言ったであろう?
 その生命の罪は本来なら我が全て決めるのだ。
 我はその事実を認めず、
 罪を償おうとしない者こそ罪人だと考えている。
 だから、その程度で我は罪と思わぬ。)

 

(……)

 

(我が言った事の意を良く考えておくのだな。
 その上であのような戯言をぬかそうと別に我は気にせぬ。好きにするがよい)

 

(ああ、解った……)

 

 焔……。

 

(ふん、我は言いたいことを言ったまでだ。
 久々に腹が立った、寝る。勝手にしろ、愁)

 

 ……はいはい、勝手にしますよ……。
 ったく、気に入ったり怒ったり忙しいヤツだな……。

 

「……テンカワ機、ナギリ機地上に出ます」

 

 そして。俺の目の前に無人兵器の群れがいた。

 

 

「よっ……と、甘いっ!!」

 俺はバッタみたいなもんの攻撃を紙一重で避け、カウンター気味にパンチを打ち込む。

 刀がないと言われた時にはどうしようかと思ったが、無茶苦茶弱かったんで安心した。

 ただし、簡単にできるのは回避のみだが。

 ライフルの方は慣れてきたので、もう外すことはないが……

 いざ格闘戦になると技術が全く無いと自覚している。

 攻撃攻撃ごとに隙だらけになっているのだ。

 相手が弱いからこれでもいいんだけどな……。

 

「……囮と誘導だけ、ってのが有り難いな……っと!」

 

 ドン、ドン、ドンッ!!

 

 隙だらけの奴三体にライフルを打ち込む。

 頭部を狙った射撃。

 狙った無人兵器は二発目を打ち込むことなく、沈んだ……。

 

 ……ああ、鬱陶しいなあ!!

 機体の反応もなんか遅いし!

 ナデシコ〜! 早く来てくれ〜!!

 

 それでも俺とアキトは囮の役を果たし。

 ナデシコのグラビティブラストで無人兵器を一掃した。

 

「始まったんだな……」

 

「ああ……」

 

 そう、これは始まりだったんだ。

 もう一つの、未来への。

 


<灰色の守護者のあとがきっぽいもの>

 海です。

 初めましての挨拶はなかがきで書いちゃったんで
 今後の予定とか設定とかキャラ紹介しちゃいましょう。

 ・アキトと愁の精神が入れ替わった

  これは二話ですぐ治す予定です。
  余り意味はなかったのですが……愁にエステに乗っての実戦をさせておきたかったからです。

 ・四天

  『刻』のクロノスと『空間』のフィリア、『物質』のセラフィに『魂』の焔。
  これは焔の言う通り、天使です。
  ちなみに『刻』は由希、『魂』は愁、
  『空間』と『物質』は紗夜と綾に半々ずつ影響(精神の中に同居)してます。
  そして4人ともそれぞれの天使の力を元にアレンジした『魔導』を使います。

 

  

 キャラ紹介

 那桐 愁
 18歳
 灰髪灰眼の少年(?)魔導師。
 戦闘では根っからの刀使いの剣士なので素手での戦いは慣れてないです。
 中性的な顔立ちで女装すると本物の女の子のように見える。
 あと親の由希に色々叩きこまれているのでなんか余計なこともできる。
 (鍵開けとか縄抜けとか隠行術とか声音とか……)
 たまに発動する悪戯っ子モードではその技能と魔導をフルに駆使して相手をからかう。
 よーするに敵に回すとタチが悪いタイプ。

 

 

 読んで頂きありがとうございました。

 

 

代理人の感想

元に戻しちゃうんですか?

ちょっと勿体無いような気も(笑)。

 

 

>焔

最初声を聞いた時壊れゴートかと思った(核爆)。