The answer

天使編第八話

タクトとレスターは、エンジェル隊に連れられて、エルシオール内を歩いた。

数分して、ブリッジに近い、とある部屋のドアの前までたどり着いた。

「マイヤーズ司令をお連れいたしました。」

フォルテがドアをノックし、声をかけると、男の声が返ってきた。

「失礼します。」

フォルテはドアを開け、タクト達に振り返る。二人も頷き、中に入るが、エンジェル隊の皆は入らず、そのままドアは閉まる。

と、部屋の主人が奥のデスク前に立っているのに気づく。

初老の老人。二人はその顔に見覚えがあった。

ルフト・ヴァイツェン。二人が士官学校生の頃、教官であった人物である。

「お久しぶりです、ルフト先生。」

タクトは笑顔を浮かべ、敬礼する。前のときも合わせて、尊敬できる数少ない軍人だからだ。

レスターもタクトに倣ったが、

「おい!今はルフト准将だ!近衛軍に所属し、白き月の基地司令の任務に就いておられるんだ!」

「・・・・・・そうなの?」

タクトが驚き顔で返事をする。

「おぬしらも相変わらずじゃのう。」

昔の師にこう言われ、苦笑するしかない二人。

「皇都は今、どういう状況なんですか?」レスターが尋ねる。

「第一、第二方面軍、および近衛艦隊が全滅したとの噂があるのですが・・・。」

ルフトは、うむと頷き、

「本当じゃ。皇都トランスバールは、既にクーデター軍の手に落ちた。」

「!!」顔を強張らせるレスター。

「衛星軌道上からの攻撃で、首都は壊滅したのじゃよ。」

「それでは、皇宮は?ジェラール陛下は?」タクトもさすがに驚く。

「真っ先に破壊された。陛下や皇族の方々も、その時にな・・・。」

「・・・・・・。」

タクトは言葉を失った。いつの時代でも、命が失われるのはつらいものだった。

「首都壊滅後、エオニアは皇位を継承するとの声明を出しておる。」

「一応、皇国は継承するつもりか・・・。」タクトはつぶやく。

(俺が言える事ではないが、無関係な人までも巻き添えにするとは・・・。)

「エオニアには、皇国軍を圧倒する武力がある。どこでそれを得たのかは謎だがの。」

「ええ、一戦しました。紋章機が来てくれなければ、危なかったですね。」

(または、どっちかのマシンが直っていれば・・・。)

「それより、白き月と月の聖母の警備が任務のエンジェル隊が、どうしてここに?」レスターが問う。

「その前に、白き月の状況は知っておるかの?」

「はい、シールドに覆われ、手出しできないとかで・・・。」

レスターの答えに、ルフトはうむと頷く。

「その際シャトヤーン様は、白き月にいた今や最後の皇族、シヴァ皇子をエンジェル隊と共に安全な場所まで護り通せ、という任務をわしは受けたのじゃ。」

「・・・・・・ん?シヴァ皇子は母親の素性が明らかにされていないのではありませんでしたか?」

「そうじゃ。陛下が庶民の女性との間にもうけられた方でな。余り皇族の中では重きを置かれていなかったようじゃ。」

「そうですか・・・。」

「本題はここからじゃ。」ルフトの声に気合いが入る。

「タクト、レスター!」

「はい?」

「何でしょう?」

「おぬしらに、この艦と、エンジェル隊の指揮をしてほしい!」

「うおあえ!?」

「何ですと!!」

ルフトの発言に、驚くタクトとレスター。

「シャトヤーン様から皇子を頼まれたのは、先生では?」

「確かに頼まれはしたが、引き受けてはおらん。正確には、適任者が見つかるまで、預からせていただいておるだけじゃ。」

「あらまあ。」

いったんは納得したタクトだが、

「・・・・・・適任者って、俺?」

「うむ。お主なら、適任かと思ってな。士官学校での戦術では、好き勝手に飛び回る五機の紋章機は使いこなせん。」

遠回しに常識外の存在と言われているようなものである。事実だが。

「部下なら、命令すればよいのでは?」

レスターが驚きの表情で尋ねる。

「そうもいかん。無闇に命令すれば、テンションを下げてしまう。それでは、紋章機の性能は完全には発揮できん。」

「要は、彼女らの機嫌を損ねるな、と?」

「そうじゃ。」

ルフトが苦笑して頷く。

「簡単に仲良くやればいいんだろ?簡単じゃないか。」

タクトは平然としたものだった。まあ、昔あれだけ女を(以下略)

「そんな事ぐらいなら、引き受けさせていただきます。」

「そうか!これで、やっと肩の荷が下りたわい。それでは、エルシオールとエンジェル隊を頼むぞ。」

満面の笑顔でルフトが言うと、いきなりデスクの端末を操作する。

と、入口の扉が開き、エンジェル隊の5人が転がり込んでくる。

バタン!!

「いったーい!あご打っちゃいました〜!」

「いきなりドア開けないでよ〜!」

「フォルテさん、重たいですわ〜!」

「すまないねえ。」

「おケガは・・・ありませんか?」

四人が倒れていて、ヴァニラ一人だけが涼しい顔で立っている。

「こんな隊員達だが、よろしく頼むよ・・・。」

ルフトが呆れ混じりの声でつぶやく。

「そなたが、新任の司令官か?」

タクトへの仕事の引継ぎや細かい仕事を済ませ、三人はシヴァ皇子に謁見すべく、エルシオール内の神殿に向かった。

そして、今、目の前にシヴァ皇子がいる。

美しい顔立ちをした、蒼い髪の少年である。雰囲気も、そういう雰囲気を持っているが、さりとて威張っている様子はない。

「タクト・マイヤーズと申します。遅れまして、まことに・・・。」

タクトが挨拶を言上しようとすると、

「お前だったのか?てっきり、隣の方だと思った。」

少し落胆した様子で、シヴァ。

「隣は、副官のレスター・クールダラスと申します。」

「お見知りおきを・・・。」

レスターの挨拶が済むや否や、シヴァがタクトに告げる。

「では、マイヤーズ。命令する。直ちにエルシオールを転進させよ!

「転進?」

「そうだ。反逆者の手から本星と白き月を取り戻す!」

意気揚々と告げるシヴァに、慌てた様子でルフトが諌める。

「い、いけません、皇子!今は安全な所まで逃げて、態勢を立て直すのが先決かと・・・。」

「逃げるだと?何を!

 我らが軍を持ってすれば、反逆者など簡単に!」

少し様子がおかしいと思い、タクトはルフトに耳打ちする。

「もしかして・・・今の軍の状態を知らせていないのですか?」

「うむ。流石にな・・・。」

(おいおい・・・。)少し呆れるタクト。

「ローム星系まで行けば、多くの味方もおります。それまでご辛抱を・・・。」

「ならぬ!マイヤーズ!今すぐ転進させろ!」

シヴァの命令に対し、タクトは少し考え込み、そして告げる。

「お言葉ですが皇子。現在我が軍は、壊滅状態であります。」

「な、何だと!でたらめを言うな、マイヤーズ!」激昂するシヴァと、

「タ、タクト!」慌てるルフト。

「先生は黙っていてください。事実です、皇子。仮に今転進し、近隣の味方に呼びかけをしつつ向かおうとも、集まるのは敵ばかり。

 そうなれば、本星や白き月を取り戻すどころか、皇子を護ることすらかないません。されば、本末転倒でございます。

 ですので、今は味方のいるところまで戻り、力を集めてから、戦いを挑むのです。」

タクトの説得に、シヴァも落ち着きを取り戻していくが、不安そうに一言。

「・・・シャトヤーン様は、大丈夫であろうな・・・。」

タクトは自信ありげに、

「白き月は、現在シールドで守られております。大丈夫です。」

「・・・そうか・・・。

 もうよい・・・下がれ・・・。」

多少疲れた声で、シヴァが告げる。そして、三人は部屋から出て行く。

「やれやれ・・・一時はどうなることかと思ったわい。」

ルフトがほっと一息つく。

「それにしてもタクト。随分子供の扱いがうまいじゃないか。」

レスターの問いにタクトは首を横に振り、

「子供扱いしてないさ。皇子は、自分の境遇をしっかり理解しておられる。家族を皆殺しにされ、命を狙われていることも。

 それでも、自分の使命を果たそうとしている。立派じゃないか。」

「なるほどのう・・・。」

教え子の成長ぶりに、感心するルフト。

だが、その時、敵艦襲来の警報が鳴る。

「マイヤーズ司令!クールダラス副司令!今すぐブリッジへ来てください!」

「おおっと、何だ?」

「行くぞ、タクト!」

「わしも行くとしよう。」

三人は急ぎ足でブリッジに向かった。

「どうした、アルモ少尉。」

レスターはブリッジに入ってきてすぐ、通信オペレーターの女性に呼びかける。

先程の引継ぎの際、レスターはブリッジのクルーの名と顔をもう覚えてしまっていた。

「敵巡洋艦を、無人哨戒機で確認しました。

 今は向こうは気づいていませんが、このままではどの進路をとってもまず気づかれます。」

「確かに、このままでは、クロノドライブもできんな。」

レスターのセリフで、タクトは対処法を考える。

「・・・おとりがあれば、そちらに気が向くだろうけど・・・。」

「それなら、わしがおとりを務めよう。」

「え!先生が!?」

ルフトの思わぬ発言に、驚くタクトとレスター。

「あ、いや、しかし・・・・・・それしかないか。」

「何、わしとてそうそうやられはせんよ。」

「・・・そうですね。」

ルフトの指揮能力は、士官学校時代の教官の中でも、飛びぬけていたとタクトは記憶している。

貴族の出ならば、今頃は軍の総司令になっていたかもしれない。

「タクトよ。お主の部隊の艦を、少々借りるぞ。」

「・・・先生もご無事でありますよう。」

「ローム星系で再会しましょう。」

ルフトが、タクトやレスターとガッチリ握手を交わし、ブリッジを後にする。

数分後、敵艦隊は、ルフト達の艦隊の方に進路を取っていった。

エルシオールはこの隙に、クロノスペースへと突入、味方の集結ポイントであるローム星系へと急ぐべく、進路を取った。

「・・・・・・あ・・・。」

「どうしたタクト。何か忘れ物でもしたか?」

何か思い出した様子のタクトに、レスターが尋ねる。

「・・・キリュウと、夜天光改を、向こうに忘れてきた・・・。」

「――――――アホかーっ!!」

エルシオールを揺らすほどの大音響が、ブリッジに響く。

「全くお前は・・・ん?夜天光改とは何だ?」

「俺のアルティメットゼロと、キリュウの夜天光をばらして、一つの機体に再設計しなおした物だ。両者に比べて、能力アップしてる。

 周りの大きさが2、30M台だから、小さいあいつでも、小回りが利く分十分活躍できるさ。」

「ということは、実質上戦闘指揮は俺、普通の仕事も俺がするから、お前はサボるわけだ。」

レスターの冷ややかな視線に、タクトはうぐぅの音も出なかった。


作者代理のコメント

プチ風邪引きさん、作者代理です。

紋章機の全高は平均20m台・・・。

ナデシコに入んないじゃん!?

まあ、今回は淡々と、面白みも何もないという事で・・・。

 

感想代理 皐月

 

……うーん、ここら辺になると話がわからないですね。

ま、次回に期待ということで。