第15話

「というわけで、なぜなにナデシコの時間です。

 実況は私、イネスフレサンジュ。」

「解説は、ホシノ『おねーさん』ルリと、」

「特別ゲストの、アオイ『うさぎ』ジュンです。」

「今回は、最近ナデシコ艦内を騒がせている私物消失事件についてよ。」

「被害者はスバルさん、ヤマダさん、ウリバタケさんを筆頭に、20人以上に上っています。」

「これについて実け・・・コホン、調査した結果、意外な事実が判明しました。」

「それは何でしょうか、フレサンジュ博士?」

「説め・・・・・・ゲフゲフ、解説をお願いします。」

「私の予想によると、ボゾンジャンプはただの空間移動ではないわ。

 あくまで予想だけど、空間は勿論、もしかすると時間や、次元の壁も越えるかもしれない。

 やり方さえわかれば、ね。

 だから、多分ボゾンジャンプで、他の平行世界のナデシコとナデシコだけが入れ替わったのよ。」

「・・・それだけに考えを集中させるのは早計じゃないですか?

 第一、平行世界なんて、SFじゃないんだし・・・。」

「ええ、だから考えの一つよ。

 犯人が、艦内にまだいるかもしれないしね。

 今日は、これで終わり。」

「・・・イネスさん、帰っちゃいました。」

「問題が宙ぶらりんなのが、気に入らないのかな?」

「なあ・・・俺達って、あんまり目立ってないよな。」

地球へと進路を向けるナデシコのとあるシミュレーターの近くで、リョーコを筆頭とする3人と、ガイがくつろいでいた。

「アキトとゼロの奴が目立ちすぎてたからな。」

リョーコの主張にガイが返した。それにヒカルも乗ってくる。

「けど、二人とも今はいないから、私たちが何とかしないと。」

「血を吸う虫を割る・・・蚊、割り・・・代わり・・・いまいちね。」

「よっしゃあ、今こそヒーローの腕の見せ所だぜ!」

「そんな君達に朗報さ。」

と、突然アカツキが現れた。

「どういう意味だ?ロン毛。」

「ロン毛って・・・まあいいや。

 ここらで心機一転して、各人に合わせた機体設計をしてみようと言う事になってね。

 ナデシコ当初の目的を達成できたおかげで、色々と余裕が出来たからその一環さ。

 まず今から入力するシミュレーターのデータと今までの戦闘データから、ウリバタケ君とフレサンジュ君が設計してくれる。

 ウリバタケ君、いきなり創作意欲が沸いたとか言って、やる気満々だからねえ。」

「・・・なあ、ロン毛。」

「・・・なんだい?」

「それはいいけど・・・。

 話、長い。」

「・・・ほっといて。」

そして、実験開始。

「でえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「スバル君は・・・近接戦闘系で、ナイフを使う傾向多し、と。」

「いっくよ〜!」

「アマノ君は・・・格闘も射撃もまあまあこなす、と。」

「油断してると・・・死ぬわよ。」

「マキ君は・・・変則タイプ、かな。」

「ゲキガンフレアーッ!!」

「解っちゃいたが・・・・・・ヤマダ君は近接戦闘の殴りが主だねえ。」

実験終了。

「じゃあ、ウリバタケ君にこのデータを渡しておこう。」

ディスクを持って、アカツキは去っていく。

その後しばらくして、またシミュレーターに入っていたガイが出てきて、驚きの声を上げた。

「おい、いつの間にか新しいメニューが増えてるぞ!

 エースパイロット推奨だってよ!やってみねえか!」

「へえ?」

「どんなのだろ?」

「・・・面白そうね。」

「増えたメニューは・・・3つか。」

「なになに・・・VS『古鉄&白騎士』、VS『7人衆』、VS『黒百合』ってあるな。」

「変な名前だね・・・。」

4人は知らないが、このプログラムはアカツキが新たに製作してもらったメニューだった。

『7人衆』の機体は北辰と六連のもの、『黒百合』はブラックサレナだ。

「難易度が緩い『黒百合』からしか出来ないようになってるわね。」

「さっさと・・・済ましてやるわ。」

「よし、行くぜ!」

1分後。

「ま、負けた・・・。」

「完膚なきまでにだね・・・。」

「フィールド・・・硬すぎ。」

「おまけに速いし・・・。」

「くっそおっ!ヒーローが1度や2度の敗北で諦めてたまるかあっ!!」

「今度は作戦を立てて攻めるぞ!ヤマダも作戦を守れよ!」「わーってらあ!!」

「今度は、僕も入ろう。」

『って、いつの間にっ!!』

「人を幽霊みたいに・・・。」

かくして、訓練はナデシコが地球に着くまで、ずっと続いた。

いや、これからも続くわけではあるが・・・。

二週間後、地球でナデシコBに乗り換えた後、次の目的地へ向かっていた。

「ナデシコへの軍の今回の作戦依頼じゃ。」

久方ぶりのフクベ提督が、地球に降りたばかりのナデシコクルーに伝令を伝える。

火星で死にぞこなった彼は、そのまま軍とナデシコの作戦伝達役になっていた。

「今回は、親善大使の救助じゃ。」

モニターには、親善大使のいる場所である、北海付近が映し出されている。

「どうして、こんなところにいるんですか?」

裏事情を知らないものにとって、メグミの疑問は当然のものだった。

(親善大使って・・・。)

(・・・全く。)

知っているルリとアカツキは呆れるだけだったが。

「それはよく解らぬが、軍はナデシコの戦力を改めて調べたいようじゃな。」

「それと、軍に対して反逆の意思がないか、もね。」

アカツキの少し鋭さを帯びたセリフに、クルーは気おされる。

「まあ落ち着きたまえ。

 確かにネルガルと軍は組んでいるとはいえ、ナデシコは強力だ。だからこそ、再び軍から離れるのを恐れているのさ。

 とはいっても、軍の全戦力を持ってすれば、ナデシコ一隻ならわけもないだろうけど。

 ま、とりあえずは、大人しく言う事を聞いておこうじゃないか。」

「いいなあ・・・アカツキの奴、専用機があって・・・。」

「何なら、君も作ってみるかい?アオイ君。」

「ぬおっ・・・何だ、脅かさないでくれよ・・・。」

「君に似合うと言えば、そうだね・・・魔を断つ剣なんてどうだい?」

「なっ・・・・・・つ、造れるのかい?」

「冗談だよ。データが足りなさすぎる。武御雷並みに不可能さ。」

「激しく微妙な表現だねえ・・・。

 おっと、もうこんな時間だ。じゃ、ブリッジにでも寄ってくるよ。」

腕時計を見てから、ジュンは去っていく。

「・・・僕は、どこへ行こうかねえ。」

一方、ブリッジでも女性陣が話に花を咲かせていた。

「ねえルリルリ、アキトがいなくなって淋しい?」

いきなりのミナトの問いにドキッとしながらも、ルリは平静を装って答える。

「み、ミナトさん!?何をいきなり・・・。」

「図星ね。」

「わ、悪いですか・・・?」

「べぇつぅにぃ〜?」

「ミナトさん、あんまりルリちゃんいじめちゃ可愛そうですよ。」

「だって、ルリルリからかってたら、楽しいから・・・。」

まさにかしましい状況の3人。そんな様子をよそに、上の段で戦闘待機のエリナ。

下を覗き込んで、軽く叱る。

「ちょっと、貴方たち!今は戦闘待機中なのよ!」

『は〜い!!』

のんびりとした時が流れるナデシコのブリッジであった。

「・・・で、うまく吹雪の合間をぬって、ナデシコは熊さんの救出に成功した、と。

 戦闘も無かったし、めでたし、めでたし、と。」

「やっぱり、実験動物だったわけですが・・・。

 アオイさん・・・報告書、適当ですね。」

「何をおっしゃるホシノさん。このくらいが、ちょうどいいのさ。

 それより・・・。」

と、ジュンは艦長席を回転させ、ルリの方、銀色の髪がなびく頭のほうに振り向く。

ルリの頭の上には、白い小動物が腹を伏せて寝転び、こちらをつぶらな瞳で見ていた。

「くう〜ん・・・。」

「確か、白熊の子どもだったっけ?」

「はい。任務は実験装置をつけた白熊だけですし、文句も言われる事は無いです。

 それに、女性陣は満場一致で可決しました。」

「アンアン!!」

「何だか、犬みたいに鳴くねえ・・・。

 しっぽも、まるでたぬきみたいだし。」

「可愛いからいいんです。

 ところで・・・。」

と、ルリは頭から小熊をかつぎ上げ、目の前に持っていく。

「名前が決まらないんです。

 メンチって名づけようとしたら・・・。」

ルリが話す途中、小熊はビクーンと体が震え、イヤイヤと全身を振って拒絶の意思を示す。

「はいはい、そんなことしませんよ。

 ・・・とまあ、こんな風に嫌がります。」

「まあ、そうだろうねえ・・・。」

ジュンの顔が目に見えて引きつる。

「声が声だし・・・。」

「何か言いましたか?」

「いいえ、何も。

 まあ、その熊は飼ってもいいと思うよ。世話をする事と、食堂に連れて行くときは気をつけること。

 後、その小熊に冗談でもおいしそうとか言わないよーに。」

「はあい。」

楽しそうな表情で、ルリは出て行く。

「ふう・・・さて、次はどこだろね・・・。

 ・・・それにしても、ユリカはどこ行っちゃったんだろう・・・。

 逢いたいなあ・・・。」

木連の草壁邸、その中に、草壁しか知らない様な地下の場所で、草壁を含む数人の人影が身をとどめていた。

その部屋は、さながら会議室で、豪華な調度品などは殆ど無い質素な洋室。

中心には豪華な長い机が置かれ、4つの椅子もそばにある。

椅子には各人が既に座っており、今から話し合いを始めようという雰囲気であった。

「草壁よ。」

「どうなされた?Σ殿。」

草壁にΣと呼ばれた男は、闇に溶け込むようなマントが目立つ、禿頭の大男だった。

それはまさしく、一度火星上空にて、ゼロにやられたはずの、かの存在。

「このように異世界にて、ワシらの目的に手を貸してくれることは感謝する。

 だが、そもそもワシらイレギュラーと貴様ら人間は相容れない存在。とはいえ・・・。」

と、感情を断ち切るように一旦言葉を切る。

「今までの義理もある。

 今回のナデシコとやらへの侵攻は、ワシらの部下から援軍を出させよう。」

(ふん・・・地球を手中にした後は、貴様らも滅ぼしてやるわ。)

「これは心強い。

 地球征服完了の暁には、以前からの約束どおり地球でのレプリロイド王国を認めましょう。」

(しょせん地球など足がかりにすぎんわ・・・。

 それに、機械人形の国など、認めてやるものか。)

心中では双方腹黒く考えながら、互いに友好の手を握る。

「しかし、Σ殿。

 貴方は8ヶ月前、火星上空で撫子に負けたと報告がありましたが?」

「心配は要らぬ。

 所詮、あれは劣化コピーだからな。」

「なるほど・・・。」

「そのナデシコだが、現在は北海付近にいるようだ。」

別席から男、これは見た目人間の、170cmほどの背の青年だ、がよく通る声で割って入る。

細めだが細すぎる事はなく、むしろ整った体型である。

「このままいくと、あの島に行くんじゃねえかな?」

「ふむ・・・。」

青年の言葉に、草壁は思案する。

「ワシらの部下に行かせよう。

 ナデシコのデータ取りにもなる。」

「ふむ・・・任せたぞ、Σ殿。」

解散してから、廊下を歩く先程の青年。

だが、一人ではなく、隣には僅かに背の低い、黒いゴスロリ風の服を着た少女がついていた。

カーペットの敷かれた廊下を、二人は音も立てずに進む。

「お兄様、あんな機械にナデシコを任せてよろしいのですか?」

「・・・大丈夫さ。

 あの部下程度に、主人公二人がいないとはいえ、ナデシコはそうそうやられはしないさ。」

それに、と続ける。

「俺の目的は・・・奴だ。」

「確か、サツキミドリで交戦した、テンカワアキトですか?」

「奴はあれから地球で、神に匹敵する力を手に入れた。

 コピーとはいえ、俺の神に対するための装備で、どこまでやれるか試してみたい。」

「以前は、ギャグまがいに終わってしまいましたものね。」

「う・・・・・・。」

以前の戦闘を思い出し、青年は顔をゆがめて頭を抱える。

「私達とて神ではありません。

 死にますし、怪我もします。それを忘れないように。」

「・・・うい。」

「現に、文明の無いほどの遙か昔に追放されるはずが、事故でこの時代に来た犯罪者たる私達。

 その未来の技術を持ってしても、今は戻れないのですから。」

「いや・・・戻る気がない、の間違いだろう?

 ここで、世界を手中にするために。」

青年がニヤリと黒い笑みを浮かべると、少女も黒い笑みを浮かべる。

「・・・そうですわね。

 それに、最終兵器は捕まえてきていますから。」

その笑いはひどく暗く、御伽噺の魔女が浮かべるようなものだった。

「・・・ゼロ・・・。」暗い研究室のような場所で、Σが何本ものケーブルを全身から生やしていた。

まだ直りきっていない全身の修理と、改造。

「・・・カナラズ・・・タオシテヤルゾ・・・。」

彼の頭の中には、本当はレプリロイド復興もイレギュラーの支配も二の次で、復讐心が大部分をしめていた。

「グオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

大気を引き裂く程の咆哮が、部屋中に木霊した。


コメント

4話辺りで出てきたORの男が、やっと再登場。

長かったですねえ・・・。

あ、少女の方は1話以来出てきてなかったし。

デモベは出ません、出しません、出せません。

作者が知らないので。

 

 

管理人の感想

ヴェルダンディーさんからの投稿です。

何だかアカツキが、要所要所でガイ達を上手く操ってますねw

さすが大企業の会長様だ(爆)

それにしても最近はシミュレーターが大人気だなぁ・・・

ま、実際に怪我をするリスクを減らして、実力が上がるなら誰でも使いますよね(苦笑)