第二話

「・・・奇妙な形だ。」

「いやはや、手厳しいですな。」

飛び出した2本のブレード、白を基準とした戦艦を見て、まずそうコメントする俺。

「これが、我らがネルガルの誇る最新鋭戦艦、『ナデシコ』でございます。

 そして、これから私たちと生活を共にする空間であります。」

プロスはメガネを押し上げ、自慢げに解説する。・・・説明好き?

「木星蜥蜴と戦う為に造られただけあって、ディストーションフィールドやグラビティ「ちょっと待て。」・・・はい?」

「別に俺が直接戦うわけじゃないから、知る必要はないと思うが・・・。」

「はあ・・・・・・。」

何故か深々とため息をつき、プロスは再びメガネを押し上げてから、

「・・・それでは、参りましょう!」

そして、俺は人生初めて戦艦の中へ入ることとなった。

『だーっはっはっはっはっはっ!!!』

「・・・あれに見えるは、ロボットか・・・。

 ・・・で、あれ、何だ?」

「あ・・・あの人は・・・一体何度言ったら・・・。」

まず格納庫に入った俺たちを迎えるは、無茶苦茶な体勢で動き回る巨大なロボットと、どこからともなく聞こえるやかましい男の声。

プロスは何故か頭を抱えてうなっていた。

「・・・何だ?このロボット?」

声は無視して、とりあえず俺は率直な疑問をぶつけてみる。

「これは、ネルガルの新型機動兵器『エステバリス』です。対木星蜥蜴の主力となりうる、ナデシコの兵器ですな。

 今ならお買い得です!ぜひ一家に一台、いかがですか!?」

「いや、俺ロボットはいらねえし。というより使わねえし。」

「・・・そうでございますか。」

と、前に向き直ると。

「あ・・・・・・。」

ズドォォォォォォォォン!!

動き回っていたロボットがぶっ倒れて、格納庫はほこりまみれ。

ロボットの中から濃い顔の男が現れ、今だとばかりに整備班がわらわらと黒ありの如くそれにたかって引っ張っていく。

「アンタ、足折れてねえ?」

「ん?なんか痛むような・・・つあっ!!」

・・・訂正、タンカで運ばれていった。プロスは俺の横でため息をついていた。

「・・・・・・新種の芸・・・か?」

「・・・食堂に、向かいましょうか・・・。」

どうやら格納庫は単なる通り道だったようで、俺はそのまま職場となる食堂に案内された。

カウンターの向こうには、少し年を食った感じの女の人が・・・女ァ!?

「おや?この若いのが後1人の新人かい?」

「はい、ホウメイさん。前に言った、テンカワアキトです。」

プロスが先に俺の名前を紹介する。前、と言うことは前もって言ってはいたようだ。

「あんたがテンカワだね?プロスの旦那から聞いてるよ。

 これからビシバシしごいてあげるからね!」

「・・・ハイ。」

まずい・・・。

「ん?・・・あ、少しお待ちください。

 ・・・なんですって?それは本当ですか?」

プロスが懐から何かの機械を出し、後ろを向いて誰かと話し始めた。

「・・・しかし、助かったよ。男手があって。

 力仕事は男に任せるに限るからね。」

・・・ホウメイさん、とかいったな。今何つった?

「男手って・・・ホウメイさん、男の働き手は・・・いる・・・の・・・か・・・?」

「いや、あんただけさ。」

――――――ビシッ。

何故か空間が割れたような音がした。

その時、その空気を断ち切るように、プロスが俺を呼ぶ。

「テンカワさん!少し訊ねたいのですが?」

「・・・なんだ?」

プロスの顔には深刻さがにじみ出ていた。

「貴方は、IFSを持っていましたね?」

「・・・それが何か?」

む・・・何か・・・嫌な・・・プレッシャーが・・・。

「現在ナデシコがあるこの基地は、木星蜥蜴に襲撃されています。

 それで、この艦を今すぐ発進させたいのですが、なにぶん発進条件の艦長がさっき到着したばかりで、発進に時間がかかり・・・。」

「・・・簡単に頼む。」

「おっと。

 つまりは、さっきのエステに乗っていただきたいのです。」

――――――はあ!?

「・・・俺が?何故!?」

「わが社のエステバリスは、IFSを持っていないと動かせないのです。

 そして、それを持っているのは今この艦では貴方だけなのです。

 契約も危険手当をプラスします。

 ――――――お願いしますね?」

断っても、断らずとも、俺の命はないのか・・・。

「――――――やる、か・・・。」

その後、整備班のウリバタケという男から装備の簡単な説明を受ける。

「機械は替えがきくが、人の命は1つきりだ!

 無理はするなよ!」

「・・・了解。」

そして、ライフル1丁を持ってエレベーターに乗る。

してほしい事の説明は、エレベーターの中で通信で説明するそうだ。

俺は銃なんか使った事はないといったが、プロス曰く、

「オモイカネというナデシコのAIが照準をサポートしてくれますから、ご安心を。」と言っていたので、気にしない。

さすがに命の心配はするが。

そして、モニターが開く。

「誰だ君は!パイロットか?名前と所属を言いたまえ!」

結構な年寄りの男が出てきた。

この者が艦長なら、やはりプロスが言っていた「性格はともかく腕は一流」に当てはまるのだろうか。

「・・・アキトだ。

 本来はコックだが、パイロット不在につき代理を務めることになった。それよりご老人、貴方が艦長か?」

俺が尋ねると、画面が一瞬切り替わって、青い長髪の女性が現れた。

後ろでかすかに見える、「コック!?素人じゃない!そんなもん乗せて大丈夫なの!?」と騒いでいるマッシュルームカットの男は無視する。

「私が艦長のミスマルユリカです。

 これより本艦は、海中を通って発進、敵勢力の後ろに回って、主砲のグラビティブラストで攻撃します。

 これは連射ができませんので、その際撃ち洩らしが有れば反撃を受けるかもしれません。

 一斉に殲滅したいので、貴方は敵機をできるだけ一箇所に引き付けて下さい。」

「了解。素人ながら努力させてもらう。」

見たところ真面目な艦長のようだ。これから命を預ける艦の責任者だからな、ありがたい。

「・・・あれ?アキトって、どっかで・・・。」

(・・・ん?こいつ、どこかで・・・。)

ふと、艦長の顔に見覚えがあることに気づく。

あれは・・・いつだったか・・・。

「プロスさん、あのコックさんのフルネームは何ですか?」

と、ブリッジに戻ってきていたプロスが答え・・・思い出した!こいつは!?

「はい、あの人は・・・。」

言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

「テンカワアキトさんです。」

――――――まずい。言ってしまった。

こうなりゃ最終手段だ!

「あ〜っ!アキトだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

モニターごしに見えるは、気絶したりやかましさに顔をしかめたりしている人々。

俺はこんなこともあろうかと、用意していた耳栓でガードに成功した。

「・・・ふう、叫ぶ癖は変わってなかったか。」

ユリカの奴はうるさいんだ昔から。うん。

後ろの席で「バカばっか。」と言ってるアッシュブロンドの髪の少女よ、俺もそう思う。

そして、2次災害を防ぐために通信をOFFにする。聞くべき作戦は聞いた・・・と思う。

・・・まあ、プロスさんが「能力は一流」でスカウトしたんなら、文句はないが・・・。

もうすぐ、地上に出る・・・。火星で見た、あの虫たちと戦うのか・・・。

エステが地上に出て、俺は作戦の役目を果たしていた。

・・・逃げていたと言うのが微妙に正しいのだが。

(・・・多すぎるっ!)

心の中で愚痴をこぼしつつ、俺は必死に目的地へとエステを走らせる。

立ち止まれば、後ろから追いかけてくるバッタの群れが、俺を違う場所へ運んでしまう。

行き先はもちろん、黄泉の国。

(残念だが、まだ現世に未練が多くてね!)

時々横から前に回り込もうとするバッタを、ライフルで目くら撃ちで威嚇する。

「しつこいな・・・今宵の月の夜に、蜥蜴どもも気を良くしたとでも言うのか?・・・ってぇっ!?」

レーダーが、前から飛んでくる3つのバッタを捕捉する。

バッタが連射したミサイルは、俺のエステを潰さんと群がる。

「オモイカネのサポート・・・これか!」

ロックオンの表示を確認し、左手に持ったライフルを連射する。

細い筒から飛び出る銃弾が、ミサイルへ――――――

「・・・ん?」

当たらない。明後日の方向へと弾は飛んでしまっていた。

そして、そのまま向かってくるミサイル達。

「――――――くおっ!」

ドォォォォォン!!

>????

巻き起こる爆風。吹き上がる熱波。エステは一瞬にしてその中に飲み込まれていった。

「やっぱり!素人なんか乗せるから、やられちゃったじゃない!」

してやったりといった表情のムネタケ。

「テンカワの奴、攻撃はさっぱりだったようだな・・・。」

唸るゴート。

「いやはや、エステの被害額が・・・あ、いや、失礼。

 ――――――おや?・・・どうやら、まだお金と撃墜の心配はしなくてよさそうですな。」

つい本音を言ってしまい、残りのクルーから睨まれるプロス。

そんな様子をよそに、モニターは炎の中から1機のエステが飛び出してくるのを映していた。

あーぶねっ!!・・・やばかった・・・。」

アキトは銃弾が当たらない(単に銃の腕が初心者なだけだが)と判断するや、すぐにライフルを投げて銃弾がわりにミサイルにぶつけた。

一つの爆発が残りに誘爆して赤い壁がアキトの視界を塞ぐが、それを無視する。

直撃するよりは衝撃が少なく、その衝撃もフィールドがカット。

結果的に無傷のまま、前のバッタに肉薄。

「一匹!」

初めの一機をすれ違いざまに甲で殴り、

「二匹!」

ジャンプして、低空で突進するバッタを踏みつけ、

「以下略!」

少し離れた三機目をワイヤードフィストを伸ばして打ち抜き、着地する。

そして、リズムを持って更に前進。力強い金属の巨人が虫の海を駆け抜ける。

そして、海の近くにたどり着いた。

「――――――ユリカ!もう海しかないぞ!」

「――――――跳んで!アキト!」

(跳ぶ?・・・飛び込むって事か?

 ええい・・・ままよ!)

「たあっ!」

ユリカの言葉を信じて、アキトがエステを海に飛び込ませた。

浮くことのできないエステは、哀れ暗い海の底に沈・・・・・・む事は無かった。

エステを水面で受け止め、空中にせり上がってくるのは、巨大にして白き戦艦、ナデシコ。

「そんなとこから・・・?」

「貴方のために急いできたの!」

ナデシコの上で体勢を立て直し、振り返ったアキトが見たものは、ナデシコの2本のブレードの隙間から放たれる、黒い光の矢。

エステを追いかけて固まっていたバッタの群れが一気に歪み、休み無く爆発音の合奏が夜風に乗って響く。

一匹分も逃すことなく、徹底的に。

「う、嘘!まぐれよ!」

「ムネタケ、この艦は我らの想像以上に強力な艦らしいぞ。」

「・・・テンカワは銃の腕を重点的に鍛えてやるか。」

「単艦でこれだけの数の無人兵器を破壊可能・・・経費が随分と浮きますなあ。」

ブリッジに、ユリカの声が響く。

「機動戦艦ナデシコ、発進!!」

後に伝説となる機動戦艦ナデシコの初陣は、大勝で幕を下ろした。

帰還したエステの中から、整備班の歓声に包まれながら出てくるアキト。

汗だくだったが、命がけで任務を果たしたことに対して、満更でもない表情だった。

「俺は・・・まだ死にたくはないらしいな。」

その時、格納庫に乱入者が現れた。

恐らくは戦闘終了後にブリッジからすぐさま走ってきたユリカが、アキトの姿を認めるや否や、嬉々とした表情でアキトに飛びかかる。

「アキトォォォォォォォォォッ!!」

それを見るや否や、アキトは一瞬にして顔を恐怖に染め、

追いついてきたブリッジクルーと整備班の見る前で、思いがけないことをした。

「く、くるなっ!」

――――――ドガッ。

頭にハイキックを食らったユリカは、静かに崩れ落ちた。


コメント

・・・ユリカが嫌いなわけではありません。

次回、アキトのこの行動の理由の一端が明らかに!・・・そんな大層なものじゃないですがね。

 

 

 

代理人の感想

いや、ユリカヘイトの人たちでもここまで直接的な実力行使に訴えることは少ないような(爆)

 

・・・やっぱギャグ?