第三話

「アキトォォォォォォォォォッ!!」

それを見るや否や、アキトは一瞬にして顔を恐怖に染め、

追いついてきたブリッジクルーと整備班の見る前で、思いがけないことをした。

「く、くるなっ!」

――――――ドガッ。

頭にハイキックを食らったユリカは、静かに崩れ落ちた。

一コックが艦長を、しかも顔面を足蹴にしたことで、ブリッジにてアキトはプロスに説教をされた。

「・・・しかし、テンカワさんの言いたいことも解りますが・・・。

 さすがに艦長に対してのあの行動は・・・。」

が、プロスのセリフには、少しばかり温情が含まれていた。

これが軍の戦艦なら自分の命は、と恐ろしい想像をしつつも、アキトは弁解をしていた。

「俺も悪いとは思っているが・・・ユリカを見ると、体が勝手に反応するんだ!

 う・・・まだ寒気が・・・。」

まるでユリカを怪物のようにいいながら、声を震わせるアキト。

「まあ・・・さっきのを見ていれば、納得もできましょうか・・・。」

ユリカが顔に足型をつけながら、床と熱烈なキスを交わす。

いち早くそれに気づいたプロスと、ユリカへの想いなら誰にも負けない(自称)アオイジュン副長が、同時に犯人に叫ぶ。

「「テンカワ(さん)、何をしている(んですか)!!」」

が、その言葉が終わる前に、ユリカはびっくり箱もビックリのスピードで跳ね起きる。

それにヒイッ、と思わず退いたアキトを見て、ユリカは再び叫ぶ。

「んもぅ〜、アキトったら〜!

 いくら恥ずかしいからって、いきなりそんなことしちゃ、ユリカプンプンだからね!」

「だから、ちーかーづーくーなー!!」

完全に腰が引けているアキトと、徐々に距離を詰めていくユリカ。周りはその奇妙な光景に、唖然としていた。

「頼む・・・寄るな・・・。」

「何も恥ずかしがる事はないよ、アキト!アキトは私の王子様じゃない!」

「何ィィィィィィィッ!!」

と外野の男約一名が絶叫するが、周りは無視。

「・・・ヒッ!」

自分がさっき降りたエステに追い詰められ、アキトはチーターに狙われたうさぎの気持ちを理解した。

「あう・・・あうあうあ・・・。」

そして、ユリカの毒牙(違)がアキトに襲い掛かった!

「ぎゃああああああああっ!!」

「アキトぉ〜!!」

「アキト〜!やっぱりアキトのにおいだ〜!」

意味不明なことを口走りながら、ユリカはアキトを思いっきり抱きしめて頬摺りしだした。

「は・・・う・・・。」

対するアキトは、痙攣して焦点が虚空をさまよっていた。

さっきまでただの痴話話だと思っていた外野も、アキトの思わぬ様子にいろんな意味で騒然とし始める。

その時、ゴートが無音でユリカに近づき、

「・・・むん!」

ユリカの首に手刀を軽く当てて気絶させた。

「・・・ただの峰(?)打ちだ。生きているか?テンカワ。」

ユリカの戒めから解かれたアキトは、息も絶え絶えにカクカクと頷くのみ。

――――――と、起こった事件の顛末である。

「テンカワ君、大丈夫〜?」

操舵手ハルカミナトが、アキトに心配の台詞を放つ。

「・・・ん・・・だいぶは・・・。」

いまだふらつきつつ、アキトがうめく。

「テンカワさん、艦長が嫌いなんですか?」

通信手メグミレイナードが好奇心から訊ねる。

「いや・・・嫌いではないんだが・・・。

 昔・・・ちょっと・・・。」

と、あまり話さないゴートが口を出す。

「・・・テンカワは、女に触れられるのが怖いのではないか?」

「・・・(コク)。」

「「「ええ〜っ!!」」」

ジュンとミナトとメグミが3人同時に叫んだ。

「とまあ、こんなところにしまして・・・。」

「・・・流すの?」

「はい。」

ミナトのツッコミをさらりと流すプロス。そのままアキトに提案した。

「テンカワさんの行動には情状酌量の余地がありますが、さりとて完全になかったことにするわけにはいきません。

 そこで提案ですが、なかったことにする代わりに、パイロットとコックの両方の仕事をしませんか?

 もちろん、正規のパイロットが入るまでで構いません。その分の給料も払います。

 罰せられるより、随分ましと思うのですが、いかがでしょう?」

プロスの魅力的な悪魔のささやきに、アキトは二つ返事でOKした。

――――――ちなみに。

「という事は、テンカワが怖がったら、その人は女として認識されてるということだよね?」

というジュンの余計な一言で、アキトはさらに苦しむこととなった。

ギュウッ。

「ぬわあっ!」

ミナトは無論。

ギュッ。

「うわっ!」

メグミも認識内。

キュ・・・。

「・・・・・・。」

「「「あれ?」」」

ルリは認識外。

「どうやら、子供には反応しないようだな。」

「・・・私、少女ですから。」

「それとも、テンカワが特殊な趣味か・・・ゴホゴホ。」

ゴートのこの分析によって、『何故か』アキトがロリコンという誤解が艦内を瞬く間に駆け巡ったというのはまた別の話。

ジリリリ・・・。

「・・・・・・。」

ジリリリリリ・・・。

「・・・・・・てい!」

バシッ。

・・・テンカワアキトの朝は早い。時計は、朝6時。

元から早起きの性質ではあるのだが、今日からパイロットの訓練が待っている事もあり、いつもより早く起きた。

いや、これからしばらくは早く起きることになるだろう。

とすると、やることは一つ。

「・・・ユリカが来る前に、逃げるか・・・。」

数分後、自室からこそこそと出てくるアキトの姿を、オモイカネは見ていた。

まずアキトが向かったのは、シミュレータールーム。食堂の仕事前に、軽く運動する為だ。

今日は、そこには先客が待っていた。

「おう!お前がテンカワアキトか!俺はパイロットのダイゴウジガイだ!

 昨日はお前にヒーローの座を明け渡したが、真のエースであるこの俺が戦い方をバッチリ教えてやるぜ!」

「・・・ヒーロー?」

そう言いながらガイは嬉々としてシミュレーターに乗り込み、アキトも呆気にとられながら乗り込んだ。

>アキト

俺もガイも、機体はノーマルエステ空戦型。俺がピンクの機体に対し、ガイのそれは蒼。

特に性能の違いはないらしいが・・・。

「・・・フラフラする・・・。」

「当然だ!普通の人間は空なんか飛べやしないからな!

 イメージができなくても、当たり前ってこった!」

「なるほど・・・。」

さすがは一流のパイロットだが・・・。出す声出す声大声なのは控えてほしいところだな。耳に響く。

「さあ来い!アキト!」

「・・・行かせてもらう!」

多少ふらつきながらも、俺のエステが緩めに前に突撃する。

相手がライフルなりフィストなりで迎撃してきた時に回避できるようにしたのだが――――――

「ゲキガンフレアーッ!!」

何と、フィールドを纏い、いきなり全身を弾丸のようにさせて突っ込んできた。

「なっ・・・!」

思いもよらぬ攻撃に回避し損ね、左腕を持っていかれる。

「このっ・・・!」

苦し紛れのバックナックルは命中はしたが、フィールドに阻まれて効果なし。

向こうから反転して再びこられたら、今の俺ではかわせない。

――――――が。

「はーっはっはっはっ!!

 どうだ、ゲキガンフレアーの威力は!」

ガイは俺を通り過ぎた後、少し向こうで止まっていた。

俺は無言でミサイルポッドを作動。火薬沢山の矢がガイに向かう。

「次はゲキガン・・・ぬおっ!

 ひ、卑怯だぞ!技の口上中に攻撃しないのはお約束!いや!不文律だろうが!!」

「戦闘中に卑怯もへったくれもあるか。」

とは言ってみたものの、俺のミサイルはガイに当たる以前に、あらぬ方向に飛んでいた。

ロックオンまで確認したのだが、ガイは避けることすらしていない。

「それにしても、動いてねえのにあたらねえのは、重症じゃねえか?」

「・・・ほっといて。」

・・・・・・俺って、才能ないのかな、やっぱ。

「大体、ゲキガン・・・何だっけ?」

「ゲキガンフレアーだ!」

「そう、それ。何か元ネタでもあるのか?」

無駄にやかましいし。

「なっ・・・お前、ゲキガンガーを知らんと言うのか!?

 ああ・・・何とかわいそうなやつだ!!」

「そこ、勝手に同情するな。」

「今度俺の部屋に来い!全話見せてやろう!」

もしも〜し・・・。

結局、今日はトレーニングにあまりならなかった。

しかも、シミュレーターから出てきたとき・・・。

「手を上げろ!」

「・・・は?」

>????

その頃、ブリッジでは、今後のナデシコの進路が話題となっていた。

「ナデシコの本当の目的地は、火星です!」

プロスの言葉に、反発する者。

「それじゃ、地球にいる木星蜥蜴はどうなるんですか!」

「いやはや、もう軍とは話がついているわけでして。」

知りたがる者。

「火星に行って、何をするんですか?」

「火星民の救助を主に、後は研究所のデータを回収ですな。」

相変わらず無口な者。

「・・・む。」

そして、反乱を起こす者。

「そうはさせないわ!」

突然、ムネタケ他一群の軍人が、銃を構えてブリッジに押し入ってきた。

「血迷ったか!ムネタケ!」

フクベの一喝は、銃を構える音に止められる。

「この艦の各所は、私の部下が占拠したわ!大人しく、この艦を渡しなさい!」

「・・・そうでしょうか?」

ムネタケの得意げな口上を、ルリが遮る。

「・・・どういう意味よ?」

「・・・モニターをご覧下さい。」

そこには、各所で軍人が縛られて捕獲された図が映し出されていた。

「いやはや、ご協力ありがとうございます。」

プロスの礼に、各所から返事が返ってくる。

「・・・と言うわけです。ホシノさんが事前に発見してくれましたので。」

「・・・暇でしたから。」

キィーッ!役立たずね・・・ん?

 ・・・まだ、制圧されてない場所があるわよ。」

と、ムネタケがモニターの一つを指差す。そこは、シミュレーターのある部屋だった。

アキトとガイは背中合わせで両手を上げ、周りを5人の銃を持った軍人に包囲されていた。

(・・・おい!こいつら、この艦を奪おうとするキョアック星人に違いないぞ!)

(・・・まあ、艦を奪おうとしているんだろうな。何でか解らんが・・・。)

(どうする、アキト!)

(・・・決まってる。俺は無謀なことが好きなんでね!

 ガイ、俺が1、2、3と言ったら俺の手首を握ってくれ。)

(よく解らんが・・・解ったぜ!)

「何をぶつぶつ言っている!」

兵士たちが少しずつ包囲を狭めてくる。

が、その顔には武器を持たない者への油断がありありと見て取れた。

(・・・1・・・2・・・3!)

(よし!)

同時、ガイの握った腕を支点として、アキトは前方の男の顔面をサマーソルト気味に蹴り飛ばす。

「なっ!」

兵士たちが驚く、秒にも満たない間にアキトは次の叫びをあげる。

「離せ!」

「おう!・・・そりゃ!」

アキトの腕を離すとともに、ガイは正面の兵士の急所へ足を蹴り上げる。

勿論骨の折れてない方だが、当人はその事はすっかり忘れていた。

「うがっ・・・ぐえっ!」

屈みこんで悶え苦しむ表情の顔へ拳で一撃。

銃を奪ってそのまま縦殴りでもう一人の銃を叩き落とし、隙なく突きつける。

「観念しやがれ!悪党ども!」

そういいつつガイは確認の為、軍人の方は機体をして見た先には、アキトがサマーソルトの途中で蹴った相手を踏み台にして、地面と体が平行のまま『横に』飛び、

「ぐふっ!」

そこにあった顔を顔面から踏みつけて180度反転宙返り跳び、

「がっ・・・!」

最後の相手の首元を撃つ蹴りを放っていたところだった。

「なっ・・・!」

「アキト、お前凄い動きするなあ!」

ガイの賞賛に、当人は意外にも息を切らせて言った。

「はあ・・・はあ・・・おかしい・・・はあ・・・

 昔は・・・もっと・・・簡単に・・・体が動いた・・・筈なんだが・・・はあ・・・

 まるで・・・そのコツの記憶が・・・無くなってるように・・・動かない・・・。」

「とりあえず、お前も準エースとしては認めてやるか!」

「ふっ・・・。」

と、アキトはそこに倒れて眠りだした。これ幸いと見た兵士がアキトに銃を突きつけようとするが、

「ゲキガンアッパー!!」

「・・・制圧は、無くなったようですな。」

「な・・・何よあいつ!ネルガルは人間じゃない生き物も雇ってるの!?」

ムネタケのキーキー声にも、もはや誰も耳を貸さない。

「やっぱりアキトは私の王子様なのね!」という奇妙なBGMの中、

「・・・むん!」次々と流れる軍人の悲鳴を楽器代わりに、

ゴートが反乱鎮圧という名のオーケストラを指揮していった。

軍人をみんな牢に放り込んだ後、更に3隻の地球軍戦艦、トビウメとクロッカスとパンジーが挨拶に訪れた。

「ユゥ〜リィ〜カァ〜!!」

「お父さま!!」

超音波兵器のダブルインパクトで、艦全体の機能が一時マヒした。

「――――――はっ!ユリカ!?」

アキトは逆に目を覚ましたが。

「綺麗になったな、ユリカ!」

「嫌ですわ、数日前に別れたばかりじゃない!

 ・・・で、私に会いに来た訳じゃないんですよね?」

やはり優秀なのは伊達ではなく、ユリカは核心をさっさとつく。

「うむ、実はな・・・ユリカ。何も言わず、ナデシコを渡してくれ!」

「おや?軍とはもう話はついておりますが?」

「それでも、現在の状況で強力な戦力となりうる戦艦を、むざむざ火星に行かせるわけにはいかんのだ!

 ユリカ、せめて話し合いに、エンジンを止めてこっちへ来てくれんか?」

「は〜い!」

ユリカがマスターキーへ手を伸ばす。会長と艦長しか抜けないという条件がある物だ。

「いかん!やめたまえ!」

フクベの叫びにも耳を貸さず、ユリカはキーへと手を伸ばした。そして、エンジンが止まる。

「お父さま、これからそっちへ行きます!聞きたいことがあるの!」

「私も、交渉させてもらいますよ。」

「あっ!僕も行くよ、ユリカ!」

そして、ユリカとプロスとジュンが、ヘリでトビウメへ乗り込んでいった。


コメント

今回はキリが悪いところで終わってしまいました。

アキトがユリカを蹴った理由の一端は、これでした。・・・ありがちかな?

PS 約5000文字以上打てる某携帯バンザイ!(爆)

   何てったって、1つのメールで一話分打てるんですから(核爆)

 

 

代理人の感想

・・・・まぁ、なんと言うか・・・・

救いがたいですねぇ。(色々な意味で)