第4話

「ねえ、お父さま?

 火星で昔お隣だった、テンカワさんのアキト覚えてる?」

「ああ、覚えているとも。」

ユリカの問いに、カイゼル髭を蓄えたミスマルコウイチロウは、首を縦に振った。

「だが、テンカワさんの両親はかなり昔にテロで亡くなっていて、アキト君も火星にいたからのう・・・。」

「アキトのご両親・・・もう死んでしまっているんですか?」

「うむ。一説には彼らの研究を邪魔に思った組織の暗殺とも言われておるが、詳細は不明じゃ。」

その時、トビウメの士官がチューリップ出現を知らせてきた。

と同時に、ユリカが席を立ち、プロスと艦を出ようとする。

「ゆ、ユリカ!父さんのところに戻って来ないのかい!?」

「私、お父さまが教えてくれた、艦長たるもの自分の艦を見捨ててはいけないという教えを守るだけです!

 それに、今日はこれを聞きにきただけだから!」

「む・・・。」

だが、次のセリフにコウイチロウは驚愕した。

「それに、ナデシコには私の大好きな人がいるから!」

「なあにぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

「パイロットの皆さん。」

待機中の艦内に、ルリの通信が届く。

「艦長達のヘリが帰ってきます。近くにチューリップが出現していますので、ナデシコとヘリを護衛して下さい。

 ・・・以上、フクベ提督からの伝令でした。」

その時、ブリッジのモニターでは、クロッカスとパンジーがチューリップに飲み込まれていた。

「よっしゃあ!行くぜっ!」

自室でゲキガンガーを見ていたガイが、やっと出番かとばかりに駆け出していく。

「今日こそ、俺の実力を見せてやるぜ!」

「マニュアル発進の仕方・・・よ〜い、ドン・・・。」

「ち、ちょっと待て、テンカワ!」

ガイが格納庫に着いたとき、アキトがウリバタケの静止も聞かずに飛び出していったところだった。

「どうした、博士!」

「博士じゃねえ!

 ・・・ちょうどよかった!テンカワのやつ、陸戦フレームで出やがった!」

「何ィ!博士、俺の空戦フレームはどこだ!」

博士といわれるのに諦めたのか、ウリバタケは無視して答える。

「今準備してる!3分待ってくれ!」

「おう!」

というわけで、陸戦が空を飛べるわけがなく、かろうじて海面からぴょんぴょん跳ねながらアキトはライフルでチューリップに攻撃をしていた。

やっぱり射撃は全然当たっていなかったが、その動きからチューリップはエステに興味を示して、奇跡的に囮の仕事を果たしていた。

「何故だ・・・?何故、飛べんのだ・・・?」

説明を受けていないアキトには、理由を知る由もなかったが。

「上にはチューリップが見えるのに・・・。

 ・・・くの、くの!」

むやみやたらにライフルを連射するが、大きな敵にすら当たりはしない。

「やっぱり、銃の才能ないんだろうな・・・。」

既に跳ねるのも危うくなってきたとき、アキトの頭は1つの思考に行き着いた。

(あいつの上からなら・・・当たるかな・・・。)

そして、水面から跳ねるとき、アキトは思考をもう一つ。

(とべ――――――)

その時、ブリッジは騒然となった。

アキトのエステにボース粒子反応が発生し、次の瞬間エステが消え去るのを確認した。

ブリッジクルーはもとより、普段無表情のルリでさえ表情が少し固まっていた。

「ボ・・・ボソンジャンプ!?」

「しかも、有人で単独・・・。

 本社でさえ、未だ成功していないと・・・おっと。」

ゴートの絶句に続いて、プロスが小声で呟く。

後半はうっかり呟きすぎ、慌てて周りを見渡すが、誰も聞いてはいなかった。

その5秒後、ルリの僅かに固まった声が膠着状態を解く。

「チューリップの垂直上、距離にして1000m上にボース粒子反応。機動兵器規模。」

「つっ・・・。」

(何だ・・・?

 いきなり光が眩しくて・・・。ここは・・・何処だ・・・?)

アキトは朦朧とした意識でレーダーを確認して、一気に目が覚める。

「って、何ぃ!チューリップの・・・。」

と、エステのバランスが崩れるのを感じる。

「真上だとぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

速度をどんどん上げながら落ちるエステのモニターには、チューリップの側面が近づいていた。

「ええい・・・どうとでもなれい!」

フィールドを発生させたまま、重力の助けでスピードを倍加させてチューリップに突撃、触手を引きちぎる。

威力は空戦の比ではなかったが、それでもダメージは与えられた。

そして、視界の端にヘリが着艦するのを認め、正面に視線を戻すと――――――

「――――――〜〜!!」

接近してくる海面からの衝撃に耐えるべく、アキトは心の準備をした。

・・・が、思ったより衝撃は軟らかく、まるで何かに受け止められたようだった。

前を向くと、蒼のエステがそこにあった。

「ったく、陸戦でどうやったら空から落ちるんだ?しかも勝手にゲキガンフレアーしやがって!

 またお前がヒーローかよ!」

「いや・・・何故だろうな・・・。」

ガイのエステとともにアキトのエステが帰還してから、ナデシコはチューリップの内部でグラビティブラストを撃つという荒業を見せ、撃破した。

そして、トビウメが見守る中、ナデシコは宇宙へと旅立ち始めた。

「・・・助かった・・・ガイ・・・。」

「おお!いいって事よ!

 ・・・ん?そうか!ピンチの仲間を助けるのもヒーローだった!ふはははは・・・!!

と一人で笑いながら格納庫を出て行くガイを見て、苦笑しつつアキトは懐を探り――――――

「・・・ない。」

慌ててポケットというポケットを探すが、

ない!ない!ない!ないっ!!

 お守りのあの石がない!10個も入れてたのに!

 ・・・まさか?」

と、アサルトピットに取って返すが、見つからない。

「・・・ない・・・。何故!?Why!?

その時、コミュニケからプロスの通信が入る。

「え〜、テンカワさん。

 お疲れのところ申し訳ありませんが、ブリッジに来ていただけますか?

 お伺いしたい事がございますので。」

プロスの言葉に、アキトは少し間を空けて答えた。

「・・・ん、解った。

 ・・・・・・はあ。」

がっくりと肩を落としながら、アキトはとぼとぼとブリッジに向かった。

「では、テンカワさん。

 まずは、この映像をご覧下さい。」

プロスの合図で、モニターにさっきの映像が出る。

桃色の陸戦エステが水面を跳ね回り、その後急にエステが光をまとって消失し、5秒後にチューリップの上から現れる一連の様子。

「これが、先程のあなたのエステに起こった出来事です。

 ――――――結論から言いましょう。テンカワさん、これはボソンジャンプです!ジャンプの際に観測されるボース粒子も確認しています!

 テンカワさ・・・・・・。」

と、プロスは振り向いてから固まり、次に思いっきり怒鳴った。

「艦長!テンカワさんに抱きつくのはやめていただきます!!」

「え〜!!」

そこには、抱き枕よろしくアキトに抱擁するユリカと、痙攣して再び三途の川へ逝こうとするアキトの姿。

「テンカワさん・・・。」

「可愛そうに・・・。」

「・・・バカばっか。」

「コホン、話を戻します。

 テンカワさんもご存知の通り、ボソンジャンプは木星蜥蜴の技術です。火星や地球では未だ使われておりません。

 何か、心当たりはありますか?」

フクベも含めた周囲の疑惑の視線に、アキトははっきりと答える。

「知らん。俺が一番驚いてる。」

「オモイカネの簡易嘘発見器にも、嘘はないと出ました。」

ルリの言葉で、一旦は疑惑が緩む。

が、アキトは言ったら疑惑を深めるようなことを考えていた。

(・・・それに、ジャンプの技術は木星蜥蜴の物じゃなくて、木連ってとこの物だろ?何でそうなってるんだ?)

>アキト

・・・・・・で、何故か場所を食堂に移して話の続きになった。

といっても、俺の仕事がてらで、聴衆はハルカさん、レイナード、ホシノの女性3人組。話のネタは、俺の話。

「そういえば、テンカワさんって、女の人苦手なんですよね?」

「・・・ああ。触れるのは無理だが、こうして話す分には問題はない。」

と、ホウメイ師匠がレイナードに加える。

「食堂は女しかいないからねえ。昨日働いてた時なんか大変だったさ。

 これからどうするんだろうねえ・・・。」

「・・・死にかけた・・・。」

「大げさねえ、テンカワ君。じゃあ、艦長はどうして避けるの?」

「・・・あいつが突進してくるから。」

「え?」

「ああいう行動系は一番苦手だ・・・。

 もう少し慎ましさを覚えて、いきなり抱きつくのを止めてくれれば、そんなことも無くなると思う。

 ――――――それに、俺がこうなったのは、昔のあいつのせいだからな。」

「あらまあ。」

と、静かに焼き飯を食べていた(ジャンクフードばかりを食べているのを見かねたハルカさんが連れてきた。ちなみに注文もハルカさん)も質問に乗ってきた。

「・・・じゃあ、テンカワさんは好きな人はいないんですか?」

「――――――なっ!なっ!なあっ!?」

俺は自分でも解るほどあからさまに動揺し、洗っていた皿を落としそうになった。

はあはあと動揺をおさえ、その後に聞こえるかどうかの声で呟いた。

「・・・・・・いる。いや、いたと言うべきか・・・。」

「「へえ?」」

急に、ハルカさんとレイナードが詰め寄る。

「どんな人?」

「過去形なのは何でなの?振られちゃったとか?」

「いつ頃ですか?」

って、ホシノ、お前もか・・・。

「・・・私、少女ですから。」

いや、関係ねえ。

「「どうなの?テンカワ君(さん)?」」

う・・・。答えねば・・・・・・ならんのだろうな・・・・・。

・・・・・・失敗したか・・・。

「・・・解った。言うから、少し下がって・・・ぬおっ!?」

後ろに気配を感じて振り向くと、食堂の女性陣がみんな仕事そっちのけで覗いていた。なんでじゃあ!!

ホウメイ師匠もニヤニヤしたまま止めてくれないし!四面楚歌だ・・・。

「・・・聞いても、面白くないっすよ・・・。えっと・・・・・・。」


コメント

最近このアキトが本当に女に弱いのかがはなはだ疑問に思われる今日この頃。

次回、ついに置いていかれたあの人が!!

・・・・・・忘れてたというほうがひどく正しいです(苦笑)

 

 

 

代理人の感想

う〜む。

原作ではエステやカキツバタの周囲にCCをばら撒いてジャンプさせてましたが・・・・

まぁこう言うのもありか。

 

>置いていかれた人

・・・まぁ、そう言うキャラだし(爆)