第6話

「・・・・・・ガイ!!」

アキトは今まで無かったような大声で叫び、仰向けに倒れていたガイに駆け寄る。

「・・・・・・・・・。」

アキトはガイの様子をしばし呆然としたまま眺め、あらん限りの大声を出した。

「ガィィィィィィッ!!」

「うるさいぞ、アキト。」

「・・・・・・!?」

某3機変形合体スーパーロボットパイロットもかくやの絶叫をあげたアキトに、死んだはずのガイの声のツッコミがどこからか飛ぶ。

アキトは慌てて周りを見回す。が、誰もいないのを確認して、

「ガイ・・・、まだ成仏出来んというのか。

 お前の墓にはお前のゲキガンガー人形を忘れずに入れてやるからな。」

「だから勝手に殺すなっての!!」

ガイが怒声とともにいきなり飛び起き、アキトにパンチをかます。

アキトは落ち着いて受け止めながら、

「・・・・・・途中から冗談だ。何故銃弾を食らって生きている?」

「ああ・・・それはな・・・。」

ガイは答えながら懐を探り、やがて銃弾が突き刺さった、紙の束を出す。

「当たり方がよかったのと、このゲキガンガーレア鉄製カードの束があったからだな!

 ――――――のわっ!?何をする、アキト!

 そ、その消火器は何だギャアアアアアッ!!

「・・・バカばっか、です。」

「ねーねーアキトー!」

食堂にて、ユリカがアキトにいつものように寄っていた。

「・・・ユリカか・・・。仕事はどうした?」

「あ〜と〜で〜!」

アキトは反射的にユリカにチョップのツッコミをかましていた。

今回は女性に対する恐怖よりツッコミ心が上回ったようだ。

「痛いよアキト〜!」

「仕事ぐらい真面目にしやがれ。」

「真っ先にアキトに会いたかったんだもん!」

と言いつつ、ユリカはカウンター越しにアキトに抱きつこうとする。

アキトは一瞬反射的に体が痙攣しかかるが、すんでの所でユリカの頭を押さえて食い止める。

ユリカはむー、と顔を膨らませながらも、渋々とこの場は引いた。

「つれないよ、アキト!

 昔は私の後ろをユリカ、ユリカってついて来るくらい可愛かったのに!」

「逆だろ、おい。」

「あ、そだっけ?あはは・・・。」

思い出し、空笑いするユリカ。

普段ならこの五分五分の状況で終わる、もしくはユリカに押し切られるのだが、今日のアキトには新技があった。

アキトはユリカから視線を外し、後ろを向く。

ちょうどそこにいたホウメイが、アキトの視線を受けて、偶然のように訊ねる。

「テンカワ、アンタノ好ミノ女ノタイプッテ何ダイ?」

「ソウッスネ・・・。『仕事をする時にちゃんとする人』ッスネ。」

余りに白々しく、棒読みの会話に、食堂にいた人々はこれは芝居だな、とすぐに理解した。

せめてユリカに少しでもブリッジにいてもらうためにアキトとホウメイが仕掛けた三文芝居だったが、対象の当人は、

「そうなのアキト!?じゃあ私、艦長さん頑張るから!!」

と一方的に叫んで、走って去っていった。

注文した料理を一口も食べずに。

「・・・極端なんだよ、あいつは・・・。」

大成功だったにもかかわらず、何故か複雑な心境のアキトであった。

ちなみに、これが原因でズレを引き起こすのだが、それは後の話である。

「ナデシコ、全速力でサツキミドリへ出発進行!」

ブリッジに戻って開口一番、ユリカはこう叫んだ。

ビックリしてズレた眼鏡を直しつつ、プロスペクターが振り向いて訊ねる。

「艦長、いきなりどうしてそのようなことを?」

「だって、この船ってまだろくに慣熟航行とか、宇宙空間の航行してないじゃないですか?

 だから、一回本気の速さって見ておきたいんです!」

さすが士官学校トップ、と思ったプロスペクターの感動は、しかし次のユリカのセリフに粉々に打ち砕かれる。

「私、アキトのためにいい艦長さんになるから!」

(これさえなければ・・・。)

心の中でさめざめと泣くプロスペクター。

「アキト君って、幸せ者ねえ。」

一人呟くミナト。

「・・・バカばっか。」

毎度のルリ。

てな訳で。

全速力でサツキミドリコロニーに着いたナデシコが見たものは、ちょうどチューリップに襲撃されていたサツキミドリの姿だった。

既に多くの無人兵器と防衛部隊が戦闘を始めており、チューリップはサツキミドリの少し離れたところに位置していた。

「エステ隊発進!敵を迎撃します!

 グラビティブラスト、スタンバイ!」

ナデシコが攻撃準備を整える間に、サツキミドリから雑音混じりの通信がナデシコに届く。

「こちらサツキミドリ!誰か、この通信を聞いているか!?」

「こちらナデシコです!これよりそちらに向かいます!」

「あ、有り難い!早く来てくれ!こっちは長くは持たない!」

「重力カタパルト、オン。エステ隊、発進します。」

「いいか!空戦フレームは宇宙用じゃねえから、あまり無理はするな!

 0Gフレームを回収できたら、一旦戻って来い!」

「・・・・・・了解。」

「解ったぜ、博士!」

「博士じゃねえ!」

「・・・・・・行くぞ!」

「ゲキガンガー、GO!!」

「エステ隊、サツキミドリまで後15秒。

 ・・・・・・艦長。」

「何?ルリちゃん。」

「前方より、未確認機が数機。」

すぐにモニターに映し出されたのは、4機の人型機動兵器だった。

それぞれ色や細部は違うが、ほとんど同じ形状。

「通信、応答ありません。」

「大丈夫、あれは味方です!」

「艦長、何故解るのですか?」

「だって、ほら・・・。」

ユリカが指差したのは、前に1機、後ろに3機、そしてその間にコンテナが、さらにはそれらとの間に白い大きな布が巻かれてあった。

「白い布を使うのは、車の運転のときではなかったか?」

「木星蜥蜴なら、あんなことはしないわよねえ。」

そして、ガイが未確認機を認め、向きを変える。

「ヤマダ機、反転。戻ってきます。」

「そのまま、ナデシコに入れてください!

 それから、チューリップ周辺に味方はいませんか?」

「いません。艦長。」

「ミナトさん、バ〜ンとやっちゃって下さい!」

「りょ〜かい〜。ポチっとね。」

宇宙空間に出てやっと本領発揮した相転移エンジンが生み出すグラビティブラストが、遙か彼方のチューリップを飲み込んでいく。

「チューリップ、消滅。エステバリス、テンカワ機を除いて帰還。

 未確認機はエステバリスの0Gフレームと判明。」

「換装させて、また出撃を・・・・・・え?」

指示を出そうとしたユリカが、ふと固まる。

「・・・ルリちゃん、今何て?」

「テンカワ機を除いて、エステ隊は帰還しました。」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

ブリッジ内に、木星蜥蜴より恐ろしい超音波兵器が炸裂した。

一方、サツキミドリに突入したアキトは、奥の倉庫に到達していた。

「誰もおらんな・・・どういう事だ?」

アキトは与り知らぬ事だが、只でさえ外部の守備隊と交戦していた無人兵器は、

アキトが突入する前のグラビティブラストでのチューリップ撃破によってナデシコに目標を変えたため、中にはほとんどいなかった。

どちらにしろ、アキトの入り込んだ場所が元から余り人のいないところであるのだが。

「しかし空戦じゃ、動きにくいな・・・。

 ん?あれは・・・エステ?」

アキトが見た先には、倉庫の奥の壁に埋もれるように存在していた、紺色のエステがあった。

「これが0Gフレームって奴か・・・。」

アキトが近づくと、エステは急に瞳を赤く光らせた。そして、頭の上にある、幾つかの赤い光点。

「!?」

見覚えのある光点にアキトが後ずさると、案の定立ち上がってきたエステの頭上にケーブルを通した、数匹のバッタ。

「人形!?奇怪な・・・。」

そのエステは、バッタによって操作系を乗っ取られ、右腕にもバッタがくっついていた。

アキトはすぐさまサイドステップ。

一瞬まで影の場所を、エステが腕のバッタのバルカンで叩く。

「――――――せい!」

反撃のワイヤードフィストを敵エステは悠々とかわし、バッタのミサイルを発射させてくる。

「なんのっ!」

アキトはミサイルをすんでのところで回避、再度距離をとる。

「燃料が心配だな。だが・・・。」

アキトが見るエステは、両腕を再び前に掲げていた。

「逃がしては・・・くれなさそうだ。」

微妙にピンチな割に、アキトの顔には笑みが浮かんでいた。

同じ頃、換装の終わった4機のエステが、サツキミドリの人々を助ける為、再び出撃していた。

「アキトの奴も、まだ戻ってこねえし!」

「そのコックの奴、もうバッタどもにやられてんじゃねえのか!?」

「本当のパイロットじゃないんだよね?」

「・・・だめ、思いつかない。」

サツキミドリからのパイロット、上から男勝りなスバルリョーコ、固くなったピザの端が好きというマンガ好きなアマノヒカル、

意味不明なギャグを飛ばしまくるマキイズミとともに、ガイはエステを飛ばす。

リョーコからのぶしつけな問いに、ガイは自信と信頼の声で返す。

「あいつの腕は問題ねえ。あるとすれば・・・。」

「エネルギー切れ?」

「・・・そういう奴だな。

 幾らゲキガンガーでも、燃料が無かったら、只の鉄の塊だからな。」

「・・・ゲキガンガー?何だそりゃ?」

「わお!ゲキガンガー仲間!」

怪訝な顔のリョーコと、仲間を見つけた喜びのヒカル。

「・・・敵、来るよ。」

その空気を、シリアスなイズミの声が切り裂く。

「よっしゃ、ヒカル、イズミ!いつもの行くぜ!!」

「おーっ!」

「くっくっくっ・・・。」

「俺のゲキガンガーの力、見せてやるぜっ!!」

三者三様の三人娘といつも通りのガイは、サツキミドリ外周にいる無人兵器の残党を叩く為に突撃していった。

一方のアキトは、内部で未だ交戦していた。

「――――――!!」

刹那前にアキトがいた空間を、鉛玉の列が猛スピードで行進していく。

「ン野郎っ!」

スラスターを全開にして、右腕にフィールドを収束。

突進の勢いを乗せて、拳の一撃をふり抜く!

「――――――ふっ!」

バキイッ!

直撃は逃したものの、アタックは相手の右腕をバッタごとまとめてえぐり飛ばし、一気に爆発へと導く。

後は頭部を乗っ取るバッタを壊せば、相手は止まる。

だが、宇宙用ではない空戦故に攻撃後のバランスが崩れたのを、相手は見逃さなかった。

返しとばかりに左の一撃を、右腕を引くアキト機の喉元に。

「――――――っ!」

グキッ!

固い物どうしがぶつかる音。だが、ぶつかったのは敵エステの拳とアキト機の左の手のひら。

まさにギリギリのタイミングで、受け止める事に成功した。

が、まだ終わってはいなかった。

ズバアッ・・・!

「なっ・・・!?」

アキトは気づいていなかった。それが、0Gフレームでは無かった事に。

右腕にバッタがついていたように、左腕にも特別なユニットがついていたことに。

そのユニットから飛び出した銀色の刃がふり抜かれ、手のひらから肘の部分まで傷が走る。

「フィールドを・・・無視した・・・!?」

「――――――剣撃フレーム・・・ですか?」

「はい、艦長。」

同じ頃、ブリッジにてプロスペクターの説明が始まる。

「ネルガルのコロニーであるサツキミドリでは、様々な研究をしていたわけですが、

 そのうちの一つに戦艦級のフィールドに対抗できるフレームというのがありました。」

「それが、さっき言ってたやつですか?」

「艦長、じきに掃討が終了します。」

「ありがと、ルリちゃん。

 あ、プロスさん、続きどうぞ。」

「どうも。しかし、その計画はすぐに中止されました。

 ナデシコ級戦艦の建造に予算が回されたのと、予定の出力が出なかった事、

 何より、このナデシコがチューリップ等を撃破出来る力を持っていることが証明されたからです。」

「はあ〜、そうですか・・。

 ちなみに、装備は何なんですか?」

「今のエステと変わりはしませんが、一番の変化はワイヤードフィストを無くした代わりに、」

指をピンと立てて、プロスペクターは一言。

「フィールドカッターです。」

「フィールドをも切り裂いたのか・・・。」

切れ味も申し分ない、とアキトは判断。

防御手段が失われ、命の危険をより強く感じる。

「――――――だが!」

アキトは目の前の障害を潰すことを選択する。

まず前へ。敵エステが突き出すカッターを、損傷のある左の手のひらで受け止める。

金属のこすれ合う音とともに、ズブズブと刃が先から腕の中に入っていく。

「・・・・止めたぞ。」

防御が出来ないのなら、攻撃出来無くすればいい。そう判断したアキトは、左腕を捨てた。

刃が根元まで刺さったと同時、ライフルを右手で構える。

目標は、敵頭部のバッタにゼロ距離で。

ようやく敵もたくらみに気づき、まず逃げようとするが、カッターが刺さって動けない。

「此処なら、外さん・・・!」

ズダダダダダ!!

ライフルの一斉射撃が唸り、バッタが爆裂し、エステが沈黙する。

と同時、アキト機にもエネルギー切れを知らせるアラームが鳴る。

「・・・・・・やばいやばい。」

そして、アキトは内部探索に来たガイ達によって、剣撃フレームともども回収されていった。


コメント

・・・近頃、自分の執筆速度の遅さに対して腹が立っておりますです。

さて、次回はどうなるのでしょうか?

・・・いえ、中身じゃないです。次の投稿日時です。これの。

だって、今Moonlit Loversを懲りずに書いてるんですから(ヲイ

 

 

管理人の感想

ヴェルダンディーさんからの投稿です。

・・・生きてたんだ、ガイ(笑)

まー、そう簡単にくたばる男じゃないですがね。

それにしてもレア鉄製のカードって・・・・・・・束になると重いだろ?w