第八話

アキト達エステ隊5人は、高速で敵の群れに飛び込んでいく。

「どらあっ!」

リョーコがフィールドで穴を開け、

「え〜い!」

「ニュースキャスターが無い・・・アナ、空け・・・穴あけ・・・。」

ヒカルとイズミが残りをライフルで吹っ飛ばす。

「むう、俺の出番がねえ!!」

「・・・温存しておけ。」

はやるガイと、かったるそうなアキト。

そのまま、調子よく進むと思いきや――――――

ドシュウウウウウウン・・・。

しばらく進むと、突然、前方から高出力のエネルギーが突き抜ける。

「うわあっ・・・危なっ!!」

「あっ、あれ見て!!」

ヒカルが指差す先には、多くの密集した、カトンボ級戦艦。

いかにも殺る気満々といった感じで、次々とレーザーを溜めている。

「死神が・・・迎えに来たわね。」

『来てない!!』

イズミのシリアスに、同時にツッコム娘二人。

「けど、戦艦をエステで倒すのは酷だよ?」

「そこで俺の出番さあ!!」

突如顔をどアップにして、ガイ。

ガイは自分のエステをフィールドを纏って猛スピードで突撃しつつ、ナイフを引き抜いて前に構える。

「ゲキガンシュート!!」

鋭い一点突破が戦艦のフィールドを突き破るかと思いきや、エネルギー不足かパワー不足か、弾き飛ばされてしまう。

「いきなりあぶねえだろ!ヤマダ!」

「惜しかったね〜。」

「くっ・・・一度や二度で、ヒーローが諦めてたまるかっ!」

三人のやり取りを耳の端に留め、アキトは一人考える。

(・・・本当に、破れんのか?

 正面は無理でも、他なら・・・。)

少し考え込むと、アキトはフィールドサーベルを出し、突撃を敢行する。

「おいテンカワ!」

「特攻?」

「死に水は・・・とってあげるわ・・・。」

「期待には添えんが、無駄に死にに行くわけではない・・・!!」

左のサーベルをガイのように前に構え、アキトは敵艦フィールドの接線を描くように突入。

刃先が触れ、衝撃が伝わる。

そのタイミングで、アキトは刃を押し込み、フィールドに干渉していく。

しばらく拮抗していた力のバランスは、しかしエステがサーベルの効果によって少しずつ押していく。

フィールドを押し切ることに成功したとき、フィールドを断つ刀はそのまま装甲を断つ刀となる。

突撃の残った運動エネルギーで、紙のように破れていく敵艦装甲表面。

更に、アキトは運動エネルギーを停止させ、切り刻んだ後の敵艦の穴に右腕のシールドガトリングを向ける。

「やらせんと言ったあっ!!」

大気中ならば大地を揺るがす轟音とともに、3門の火器の筒が火を吹く。

対艦用のフレームであるこれは、弾にも内部で爆発しやすい素材を使っている。

よって、たった数秒ぶち込んだだけで。

「アキト、爆発するぞ!!」

「解った、ガイ!」

一瞬花火を思わせる光と炎を放ちながら、敵艦は周りの艦をも巻き込んで沈んでいった。

「敵部隊、消滅を確認。」

「エステ隊、帰還してください!」

格納庫に降り立つアキトを迎えるは、ガイ達からの賞賛の嵐だった。

「まさか入射角を考えるとはなあ!

 奢るぜ、テンカワ!」

「・・・すまない。」

基本的に女性は苦手なアキトだったが、リョーコとは性格からか、あまり苦手意識は感じていなかった。

「だがようテンカワ。前から思ってたんだけど、お前本当に素人か?」

「そーそー、エステの使い方も私たちと比べても遜色ないし。」

「そういや、アキトは初めから少しも戦場で混乱したことがなかったな?

 経験者か?」

3人の質問にアキトは首を横に振る。

「・・・本当に、素人さ。

 火星生まれだから、IFSの使い方も慣れているだけだ。

 格闘の仕方も、基礎を教えられただけ。現に、射撃だけは零距離で撃たないと今でも当たらないしな。」

「・・・確かに。」

アキトの射撃音痴は、ガイはもとより、3人娘やオモイカネが教えても、一向に治ることは無かった。

「案外、俺よりスーパーロボットのパイロット向きかもな!」

「・・・それについては否定したい。」

わはは、としばし笑いのときが訪れる。

同じ頃、ブリッジでは火星に下りる準備をすべく、ある行動がなされようとしていた。

「ルリちゃん!」

「グラビティブラスト、スタンバイ。

 目標、チューリップを中心に地表にいっぱい。」

「グラビティブラスト、艦首を地表に向けて発射!!」

火星の地表にあるチューリップを駆逐する為にグラビティブラストを放ったのだが、重力制御をしないまま艦の向きを変えたらどうなるか。

例えば。

「どわあっ!」

「きゃあっ!」

「・・・・・・!」

格納庫にいた3人娘は、滑り落ちないように慌てて何かにしがみつく。

「なっ・・・!?」

そのしがみつかれた本人のアキトは、伝わる感覚に懸命に(精神的に)耐えながら、近くの取っ手に掴まる。

――――――下に落ちる前に、精神が落ちそうだがな・・・。

「ぬわぁぁぁぁぁっ!!」

ガイは坂になった床を滑り落ち、

「何の!!負けるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 とおっ!!」

途中でギャグマンガよろしく坂を駆け抜けて上り、エステコクピットに避難する。

「何であいつばっかり・・・うわぁぁぁぁぁぁ・・・。」

ウリバタケは一人怒鳴るものの、途中で落ちていってしまう。

さて、落ち着いてから。

いつもならジュンに仕事を押し付け、自分はアキトの元に走っていたユリカだったが、

さすがにジュンがいない今はサボるわけにはいかず、今まで艦長としてこなすべき仕事はこなしてきた。

アキトの例の言葉に触発された、と言うのが大部分の理由ではあるが。

その折、ユリカには気がかりなことがあった。

――――――相転移エンジン。

宇宙では無敵、とまでは言わないが強力なエネルギー供給手段であるが、大気圏内ではその利点も失われる。

ましてや目的地は敵の密集地。用心に越しておくことはない。

恐らく、火星は重要拠点、もしくは地球への足がかりとして、蜥蜴は攻めてきたと推測する。

なら、そこには地球にまだ来てない新兵器があるのではないか?

GBや、フィールドに対抗できる手段を持っているのではないか?

「艦長、まだ眠っていなかったのですか?」

プロスが、資料室にこもりっきりのユリカを見つけ、訊ねる。

「はい、もう少し・・・。」

ユリカは事前に、火星に突入する前に全員休息を取らせていた。

その間に、いやむしろそのずっと前から、ユリカは徹夜していた。

「お気をつけてくださいね。

 戦闘中に艦長が倒れるようなことになれば、それこそ一大事ですから。」

「はあい。」

プロスが出て行った後も、ユリカは資料とにらめっこを続けていた。

結局、ナデシコをとりあえずは大気圏に下ろし(しかし地表までには下ろさず)、火星民を探すのにどこを調べるのかと言う会議になった。

「ナデシコは、オリンポス山に向かいます。

 そこには、ネルガルの研究所がありますので、そこのシェルターにわが社の生存者がいる可能性があります。」

その時、アキトはプロスに頼み込んだ。

「・・・俺に・・・エステ一機、貸してください。」

「・・・どうしたんですか、いきなり。」

いきなりこんなことを言うアキトに疑問に思いつつ、さりとて敵の密集地でエステを1機失いかねないと言う問題に、

とりあえず訳は聞いてみようとプロスは思った。

「・・・俺は、火星生まれで・・・。

 ユートピアコロニーを・・・見に行きたいから・・・。」

「う〜む・・・。」

少し渋るプロスを押さえるように、後ろから大声。

「構わん、行きたまえ!!」

「フクベ提督・・・。

 ま、いいでしょう。

 ですが、敵を見かけたら逃げてください。」

「解った、無理はしない。

 ・・・ありがとうございます、提督、プロスさん。」

「故郷を見る権利は、誰にでもあるからな。」

「アキト・・・私の分も、故郷を見てきてね!」

「・・・ん。」

「お願いね!!」

「だから・・・抱きつくな・・・グフ。」

「はいはい、艦長。

 では、ナデシコ自体は、オリンポス山に向かってください。

 テンカワさん、連絡を忘れずに。」

・・・しばらくして、ユートピアコロニー跡に着いた。

エステを近くの岩場に隠し、荒れた台地に足をつける。

コロニー跡の真ん中に、高く高くそびえ立つチューリップ。

あれが落ちて、コロニーは壊滅した。

・・・だが、ネルガルによると、火星の各地にはまだ大丈夫なシェルターがあるらしい。

少なくとも、火星民救助を目的と公言しているネルガルが言うことだ。裏に何があるか知らんが、俺にはあまり関係ない。

――――――俺の目的は、あの人が生きていればいいのだ。

その為に、俺は火星にいくナデシコに乗ったのだから。

しばらく歩くと、ふと懐かしい廃墟の場所が目に入る。

それは、元俺の家の場所だった。

近くの立ち並びや風景から、ようやく判断できた程度だが。

(そういや、地下室に忘れ物があったな・・・。

 少し、取ってくるか。)

幸いにも、完膚なきまでに外側が吹っ飛ばされていたせいで、比較的地下室に入りやすかった。

少し入っていき、5分後に白い大きめの、詰襟がついた服を羽織って、手には小刀、ポケットには大量のお守り。

数が多かったらお守りとはいわないだろ、とは思うなかれ、どれも俺には大事な形見の物なのだ。

・・・・・・その後、1時間ほどかけて近所を回ったが、辺りを見ても廃墟、廃墟、廃墟。

何をしているんだと思い、エステの近くに戻ってきた。

――――――ミシッ。

(・・・・・・ん?)

自分の真下からの、先程とは違う感覚。

まるで、地面が沈む感覚。ベクトルが、抵抗を素通りしていく。

「――――――ぬおっ!?」

気がついたときには、俺は地下へのダイブを敢行していた。

「――――――ふんっ!!」

空中で体勢を整え、足から着地。捻挫などの損傷もない。

「あら、いらっしゃい。

 それとも、歓迎すべきではないのかしら?」

いきなり声をかけられ、驚いたアキトが振り向いた先。

長い金髪の、白衣を羽織った女性。

「ようこそ、火星へ。

 こんなとこだけど、コーヒー1杯ぐらいはご馳走するわ。」

その女性、イネスフレサンジュは手に持ったコーヒーの入ったビーカーを掲げ、こう言ってのけた。


コメント

最近自虐的なコメントが多いですが、私はではありません。これだけはいっておきます。

――――――むしろMSです。

だからMなんだってツッコミは無しの方向で。

 

 

管理人の感想

ヴェルダンンディさんからの投稿です。

う〜ん、特に話の進展はありませんでしたね。

唯一変わっている点といえば、アキトが大漁にお守りを手に入れていた事でしょうか(苦笑)

このままイネスさんに会わずに帰ると、意外性があったんですけどねぇ・・・(話は破綻するかもしれないけど)

 

PS

――――――むしろMSです。

えっと、モビルスーツなんですか?

代理人の従兄弟くらいの関係ですか?(爆)