そうか、俺は――――

12月26日

――――目が、覚めた。

気がつくと、泊り先のベッドの上。どうやら、戻ってくる事が出来たらしい。

やることは、もう決まっている。

――――戻ろう。もう、逃げない。

殺した人の分だけ、いや、それ以上の人に、俺が作るラーメンで人に喜んでもらいたい。

妄想の中に、篭ることはもう、したくない。

俺のやる気と努力さえあれば、地球だって、宇宙だって、どこでも屋台は出来るじゃないか。

みんなが追いかけるから逃げているだって?

くだらない、いい訳だ。

俺が自分から、逃げているだけじゃないか。

――――彼女たちは、賛成してくれるかどうかわからないけれど。

――――世界をまたに、屋台とコンビの二人?旅も悪くない。

昔と違って、今の俺には五感があるのだから。

それにしても、あの少女は大丈夫だろうか・・・。

「世界が、消えるね。」

少女の声に思考の渦から引き上げられた俺が見た時、彼女は既にもやがかかったように薄くなっていた。

「君は、この世界が消えたら、どうなるんだ・・・?」

「大丈夫だよ、アキたん。

 ココは、お兄ちゃんに視点を借りて、ここに遍在してるだけだから。」

「視点・・・?」

「だから、ココはアキたんの事を少し知ってるの。

 だって、ココはちょ〜の〜りょくしゃなんだから。」

えっへんと小柄な胸を張るココと言う少女。

彼女の言う事はさっぱり理解できなかったが、この世界が消えても問題ないだろうということは理解できた。

「じゃあね、アキたん。

 もし向こうで会えたら、ラーメン食べさせてね・・・

 あっ!」

「・・・?」

ふと、ココはやばそうな表情をした気がしたが、世界は光に包まれ、よく見えない。

「もしか・・・ュ・・・ルス・・・つっちゃい・・・い・・・」

「何て、言ってるんだ!?」

「・・・ち・・・た・・・。」

やがて人影も見えなくなり、光の渦に巻き込まれたかと思うと、

――――真っ黒いカーテンを引いた如く、視界が暗転。

(どんなラーメンを作ろうかな・・・。)

全く関係ないことを考えつつ、俺の意識は暗黒の世界へと落ちていった。

○月×日

火星・新ユートピアコロニー

新ユートピアコロニー。

ネルガルによって戦後に落下地点のチューリップが撤去され、整地されて建造された火星最大規模の都市である。

内部は快適な生活を出来るようにされており、20世紀のNYやトウキョウ、パリやロンドンに匹敵するといわれている。

「裏のネットの噂で、流れのラーメン屋の屋台がこの街に来たと聞いたんだがな・・・。」

広く舗装された4車線の街中を、ロングコートを風にはためかせてバイクを疾走させる男が、独り言を言いながらグリップを握り締める。

彼は、全世界で有名ながら絶えず移動しているために全く所在がつかめないラーメン屋台が近くに来ているという噂を裏世界の情報で掴み、探し続けて既に3日。

持ち帰りも商品化もなく、ただメニューだけがあり、目の前で宇宙最高峰のラーメンを食べさせてくれる屋台。

1回逢えただけでも、一般人には幸運の証。

「研究所のみんなには悪いけど、見つけた者勝ちってね・・・・・・お。」

男はふとバイクを路肩に止めて、何かを見つけた細い路地に視線を通す。

それは、本当に偶然だった。

目を良く凝らさなければ見えないような路地の暗闇の奥に、一つの木造建築の屋根が見えた。

「いや・・・あれは・・・。」

否、その屋根は家にしては低すぎる。

そもそも、この時代、木が少ない火星の家は木造建築は金持ちのすることだったし、そもそも普通の家にはタイヤなんかついている筈が無い――――

「まさか・・・。」

言いかけてハッとし、男はバイクのエンジンを再び吹かせ、狭い路地へと突撃させた。

屋台に着いた男は側にバイクを止め、降りてのれんに顔を隠された主に尋ねる。

「ダンナ、ちょっと聞いていいか?」

「・・・何だい?」

返って来る声は、なかなか若い声。

噂のラーメン屋ならやってるのは年季の入ったおっさんかと思っていた男は、違うかなと落胆しつつ、続ける。

「此処が、噂の、滅多に逢えない移動式屋台かい?」

「噂かどうか知らないけれど・・・。」

主は少し考え込む姿勢を、のれん越しに見せていた。

「滅多に逢えないってのは、正しいかもね。」

男は、何かの直感で確信した。これが、噂のラーメン屋だと。

(少ちゃん、そこだよ。)

そう、彼女も言ってるし――――

「ダンナ、ラーメン貰えるかい?」

「毎度。」

男はのれんをくぐり、屋台の椅子に腰掛けた。

屋台の中にいた主は、見た目20代前半の若者。だが、話し方は少し年上を思わせた。

「お客さん、運が良かったね。

 後5分経ってたら、場所移動してたところだったから。」

「あ、あぶねえ・・・。

 仲間と妻には悪いけど、幸運を食べさせてもらいますか。」

「仲間?」

「仕事場の仲間と妻が、この移動式屋台のラーメンを滅茶苦茶食べたがっててな。

 散々みんなで探して、俺が鬼を捕まえたって所だな。」

「捕まえられました。

 はい、醤油ラーメン一つ。」

置かれたラーメンは、とてもうまそうだった、と男は後に語った。

「ふう・・・食った食った。

 噂にたがわず、いや噂以上にうまかったぜ、ダンナ。」

「ありがとう。」

礼を言いながら、主は下のほうから一升瓶を引っ張り出し、客のコップに注ぐ。

その酒を一杯あおりながら、ふと思い出したように、皿を洗う主に尋ねる。

「そういやダンナ、知ってるかい?」

「何だい?」

「今日は、かの有名な機動戦艦ナデシコが出航して、ちょうど百年目の日なんだとさ。」

ビクン、と僅かに主の皿を持つ腕が震えるが、男は気づかない。

「ま、それも昔の話だな・・・。」

「・・・そうだな。」

ほんの少し震える声で、主は答えた。

「少ちゃん!」

「げっ!やっぱり見つかったか!?」

その時、男が弾かれたように振り向いた先には、桃色の髪をした見た目十代後半の女性が少し荒く息をさせつつ、男をじっと見つめる。

その視線に怒りは無く、むしろ小さな子供が少しすねたような感覚。

「はあ・・・はあ・・・ひどいよ少ちゃん!

 ラーメン屋さん、近くに来てるなら来てるって教えてくれたらいいのに!」

「ごめん、ココ。

 見つけたから、つい・・・。」

(ココ?)

聞き覚えのある名前に首を傾げる主を置いて、のれんをくぐるココと男は屋台の中で夫婦漫才を繰り広げる。

「つい、で3日も探すんだ〜?」

「あ、また使ってたのか!?

 プライバシーの侵害だ!」

「少ちゃんが最近動きが怪しいから、浮気でもしてるかと思ったの!

 それに、お兄ちゃんが教えてくれただけだもん!

 アキたん、テンカワ特製ラーメン一つ!」

「よし、テンカワ特製・・・・・・へ?」

「・・・ココ?」

ココのあまりにも不自然な注文に、二人は硬直する。

片方は、名前と声と雰囲気に。もう片方は、メニューの名前に。

「もしかして・・・。」

「もしかして・・・。」

「うん、もしかして。」

二人の声がハモる。

そのまま、タイミング抜群のユニゾンを発生させた。

「あの妄想世界に出てきたあの女の子か!?」

「このダンナ、ナデシコのテンカワアキトか!?」

言う事は激しく違ったが。

「そう、あの妄想の中のココで〜すっ!

 それでねそれでね少ちゃん、この人は元ナデシコの漆黒の戦神、テンカワアキトさんだよ!」

「マジかっ!?」

「マジかよっ!?」

「・・・なるほど。

 百年前の人間が生きているはずが無いと思ったが・・・そういう事情か。」

「そういう事情らしいです。」

「ま、これから先も、苦労するだろうけど。」

「がんばってね、アキたん!」

「ココのおかげで、もう逃げずに済んでる。

 ありがとう。」

アキトが手を振ると、ココは満更でもない笑顔を見せ、男はギロリとアキトを睨む。

「・・・人の妻を、取るんじゃねえぞ。」

「いや、取るつもりは無いんだが・・・。」

「冗談だ。ココを信じてるからな。」

「ははは、ごちそうさま。」

「じゃあな、ダンナ。」

「おいしかったよ〜!」

「まいど、どーも。」

客が手を振りつつ去ってから、アキトは店を片付け始めた。

「次は、木星でも行ってみるかな・・・。」

既に、俺の知る仲間はいないこの時代。

あの頃には、もう戻れないけれど。

俺は、これからも生きていく。

命、ある限り。

生きていける限り、ずっと――――


コメント

キュアドリームエンドです。

相変わらず、何が言いたいのか自分でも解ってないものになってしまいました。

アキトに何をさせたかったかも、はっきり出来なかったです。

今度、長編で作り直そう・・・。

 

 

 

代理人の感想

二つあるんで、まとめてあっちでってことで。