――――西暦2195年10月1日――――

 

 

 

――――火星軌道上 連合宇宙軍火星駐留艦隊旗艦リアトリス 艦橋――――

 

 

 

 

 

 

「敵母艦、移動を開始!火星への侵入コースを取っています!」

「艦隊戦力、60%を割りました!」

「――――――ここまでか。…………全艦隊に撤退命令を。総指揮は第一戦隊のフォーラ准将に任せる。本艦は前進、奴にぶつけるぞ。全乗組員に退去命令を出せ。……スレイ君、ムネタケ。君達も脱出したまえ」

 

 

 


機動戦艦ナデシコ

 

猛き軍神の星で

 

序章


 

 

 

「提督!?」

黙然と頷いた参謀長 ノーマン・スレイ少将とは対照的に、艦隊司令 フクベ ジン中将のその言葉にムネタケ サダアキ主席副官は思わず振り返った。

「何をおっしゃいます!私もお供します!!」

予想していたその言葉にフクベは苦笑したが、それを認めるわけにはいかなかった。

「軍の高官ども相手に奴らの脅威を伝える人間は多ければ多いほどいい。……そのルートもな」

暗に自分の父親のことを言われていると悟ったムネタケだったが、なおも食い下がる。

「…………ですが!」

「聞け。特攻を仕掛けたとしても奴を沈める事はできんじゃろう。だが大気圏突入前に体当たりをかけて分離した艦橋ブロックでこちらも突入したなら、シャトルを使ったり艦ごと降りるよりは奴らの目をごまかす事ができるはずじゃ」

「…………残って火星軍に発破をかけられるおつもりですか?」

リアトリス副長、ショーン・ウェブリー少佐が話に割り込んできた。

「うむ。火星出身の中堅以下には活きのいいのが育っているが、上層部は辺境の閑職扱いでろくな奴がおらん。下手をすれば民間人も部下も見捨てて自分たちだけ逃げ出しかねんからな。誰かが喝を入れてやらねばなるまいよ」

そう言うと、片方の眉を上げて軽く笑うフクベ。その言葉に笑い声をもらすと、艦長のダイテツ ミナセ中佐はムネタケの肩を軽く叩いた。

「そういう事だ。さあムネタケ、早く行け」

「何を言っとる。ミナセ君、君も脱出するのだ」

予想だにしなかったフクベの言葉に愕然として振り返るダイテツ。

「なっ……、提督!」

「例のマオ社の新兵器が予想外の働きを見せてくれた。火星での戦いは機動兵器が主役になるじゃろう。今地球では一人でも多くの優秀な艦長が必要とされとるのだ」

「しかし!」「これは命令だ、ミナセ中佐。スレイ少将、ムネタケ中佐と共に艦を退去せよ」

その人生のほとんどを軍に捧げてきた老提督の眼光に反駁の言葉を封じられ、ムネタケと共に項垂れるダイテツ。そんな二人に一転して軽い調子でフクベは言葉をかけた。

「二人ともなんじゃ、その後ろめたそうな態度は。わしはお前たちに無理難題を吹っかけておるのだぞ?」

「「は?」」

「このぼろぼろの艦隊を無事地球まで連れて帰って、軍の脳足りんどもを説き伏せて、奴らに勝てる戦力を整えて一刻も早く戻って来いと言っておるのだぞ、わしは?こうして残るのが申し訳ないくらいじゃわい」

フクベはそう言ってからからと高笑いした。つられて苦笑する二人。

「……確かに。大変な仕事を押し付けてくださるものですわね」

「ずるいですぞ、提督。面倒な仕事は部下に押し付けて自分だけ楽をしようなどと」

「何じゃ、お前たち、上官の命令に逆らう気か?」

にやりと笑うフクベに同種の笑みを返す二人。同時にかかとを合わせてぴしりと敬礼する。

「……御武運を」

「必ず、戻ってまいります」

「…………うむ」

全く発言のチャンスが無かった事に苦笑しながらも、必ず上層部を動かしてみせるとの決意を胸にノーマン参謀長もやや遅れて敬礼し、一人一人の目を順に見据えながらフクベも答礼を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総員退艦完了。さて、参りますか、提督?」

「副長。残れと言ったつもりはないが?」

「お一人ではこの艦の制御は無理ですよ。それに、降りた後にも気の利く副官は必要でしょう?」

「ふん、何を言っておる。秘蔵の酒をわしに横取りされるのが我慢ならんだけのくせに」

「いや、これは……、ばれましたか。提督には敵いませんな」

「ふふふ…………。では、行くとするか」

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦2195年、第一次火星会戦勃発。

突如火星を襲った謎の無人兵器の大群により、連合宇宙軍火星駐留艦隊は壊滅的打撃を被り火星より撤退した。

その会戦の終盤、後にチューリップと呼称される事になる敵母艦が火星ユートピアコロニーに落着する軌道を取る。

艦隊旗艦リアトリスの特攻により直撃は避けられたが、敵母艦はコロニーの郊外20kmの地点に落下。その衝撃波とそれに伴う地震により市街に壊滅的被害をもたらした。

時をほぼ同じくして火星地上軍の高官たちが自分たちと家族のみでの逃亡を図る。

各地で善戦していた火星地上軍は指揮系統の乱れと士気の崩壊により一時壊滅の危機にさらされたが、撤退を良しとせず残留した駐留艦隊司令フクベ中将の一喝によりどうにか各戦線を縮小しながらの撤退に成功。

地表部分の60%を敵に占拠され、以後、戦線は膠着状態に入る。

 

 

会戦から一ヵ月後、地球圏にも謎の敵が襲来。各地で軍の敗退が続く中で、地球連合政府代表大統領ブライアン・ミッドクリッドは政府安全保障委員会のカール・シュトレーゼマン委員長の反対を押し切ってある声明を発表する。

それは、火星を襲い、今地球圏にも飛来して来た謎の敵勢力が百年前の月の独立運動強硬派の生き残りであり、火星が襲われる直前に連合政府と彼ら、『木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家反地球共同連合体』を名乗る集団との非公式な接触があった事を公表するものだった。

 

 

『百年前の行為への公式な謝罪、彼らの火星開拓地や月への移住の支援などは宜しい。当然の事です。ですが、ご覧の通り、それ以外の要求は到底受け入れられたものではありませんでした』

『地球圏の武装放棄、財閥の解体、政治理念の転換……。これでは無条件降伏です。このような要求をのむ事はできないと問題点を指摘した上での回答をおこなった一週間後、彼らは宣戦布告も無しに突如火星に押し寄せました。それから今日までに生じた被害の規模は皆さんご存知の通りです』

『過去の経緯がどうであれ、このような無法を許しては長く将来に禍根を残します。市民の皆さんに更なる犠牲を強いなくてはならない事は誠に慙愧に耐えませんが、どうか、ご協力をお願いいたします」

 

 

 

この声明によって世論が沸騰するなか、連合軍は先の火星での会戦において唯一大きな戦果を挙げ、駆逐艦程度のバリアなら破り得るパワー、バッタの火力など寄せ付けない装甲、状況に合わせて様々な武装を使いこなす柔軟性などにより、少数ながら現在火星軍の中核となっているマオ・インダストリー製の新型機動兵器、『RPT−007 ゲシュペンストMk-U』を正式に採用、量産し、各地で反抗を開始した。

しかし、いかにゲシュペンストといえども戦艦を沈めることは難しく、そのため地球においても戦線は各地で膠着状態に陥り、火星に対しては敵の哨戒網の隙を突いた無人高速船による細々とした物資の補給が精一杯という情況のまま、いたずらに時は過ぎていく。

いつしか前線の兵士達の間では、幾ら潰しても沸いて出て来ることや何もかも無人兵器任せで自分達は安全な所でぬくぬくとしている事から、敵を『木星蜥蜴』の蔑称で呼ぶ事が流行りだしていた。

そして、開戦から一年が過ぎ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――火星 ホウライシティ防衛線――――

 

 

 

 

 

「敵主力……、撤退を開始しましたの……」

『アサルト1了解。残敵を掃討しつつ、帰投する。……ご苦労だったな』

「いいえ……。どういたしまして……」

『ちょっとキョウスケぇ、フィーにはそんなに優しいくせに私にはいっつもどうしてそっけないのよ〜〜』

『相手による。……行くぞ』

『ああん、もう、待ってってば!』

『ちょ、ちょっと二人とも置いてかないで下さいよ』

『だいたいキョウスケは……』

『あの、少尉?聞こえてます?』

『諦めろ、ブリット。夫婦喧嘩は犬も喰わねえってな』

『あらん、やっぱりそう思う?』

『聞こえてんじゃねえか!!』

 

 

「やれやれ、皆、緊張感の無い事じゃな」

「ふふっ、だからこそ、頼もしいですわ」

「…………そうかもしれんの」

 

 

 

 

 

 

 

――――時に 西暦2196年――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――火星は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――いまだ 戦い続けている――――

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                続く         

 


後書き

「…………何ですかこれは」

…………いや、何と聞かれても新連載としか答えようがないが。

「『嵐』だけでもあっぷあっぷしてる癖に……、少しは身の程をわきまえたらどうです?」

いや、その『嵐』が今すっかり煮詰まっててな〜〜、どないもこないもならん状態なんだわこれが。参ったねこりゃ。はっはっは♪

「笑い事じゃないでしょう!」

まあそうなんだが。この際何でもいいから文章書いてガス抜きでもせんとどうにもならんような気がするんで前から考えてたネタの一つを引っ張り出して来たわけだ。

「もう…………せっかくアキトさんとラブラブになれたのに…………いつまでお預けなんですか…………」

ん?

「何でもありません!……ところでどうしてキノコさんが偉くなってるんです?オフィシャルでは主席副官の中佐のはずですが?」

それはわかってるんだがな。副提督はいなかったらしいし当然いるはずの幕僚団は名前すらわからんしでしょうがないからとりあえず名前のわかってるキノコを使ったわけだ。

「ですけど推定三十代前半で准将ですか?ちょっと早すぎません?」

これでも抑えたんだぞ?参謀長なら普通少将なんだから。だいたいどっちの世界も十六の少佐や十九の中佐がまかり通ってるんだ。いいじゃないかこれくらい。

「それを言われると本人としては……(苦笑)」

まあ、メイン連載はあくまで『嵐』のつもりなのでそれほど頻繁に更新は出来ないと思いますが。

「今後とも、よろしくお願いします」

 

 

 

改訂版後書き

掲示板で色々ご意見を頂きましたので少々前半を弄ってみました。

ただ、一つ良くわからないのですが、階級が同じ場合司令の主席副官と旗艦の艦長とではどちらが偉いんでしょう?

とりあえず年上という事でダイテツが上位という事にしてみましたが。

 

 

 

 

 

 

代理人の感想

む、オリジェネ風味ですかw

スパロボを知らないとちと苦しいかもしれませんね〜。

 

 

・・・・駐留艦隊と地上軍じゃ指揮系統が違うんじゃないか、というツッコミは無しかな?