「あ、阿重霞だ。おーい、やっほ〜〜〜」

「アルクェイドさん……、そんな大声を出さなくても聞こえます。あまり廊下で大声を出すものではありませんよ?」

「あはは、怒られちゃった。」

「……いつお会いしても本当に楽しそうですね、貴方は。」

「うん。すっごく楽しいよ?」

 

 

「地球にいた頃もね、志貴の家でみんな一緒に暮らせたらそれはきっとすごく楽しいだろうなって、そう思ってたの。」

「だけど、こっちに来てからの毎日の方があの頃想像してたのよりもずっとずっと楽しいんだよ。」

「おもしろい知り合いも大勢できたし、毎日いろんなことが起きて全然飽きないし、なんだか毎日お祭りみたいでさ。何より、志貴といっしょに暮らせるし。」

「明日はなにがあるだろう、どんな騒ぎがおこるだろうって寝る前から楽しみでしょうがないんだ。」

 

 

 

 

 

「お祭り、か…………。」

「石頭連中が何と言っても外からのスカウト中心にした初音さんの気持ち、なんとなくわかるような気がするわね……。」

 

 

機動戦艦ナデシコ

嵐を呼ぶ乙女達

 

いんたーみっしょん

vol.3 ウサギネコと子猫

 

 

かつて銀河辺境宙域において「黒い破壊」の二つ名で恐れられ、現在は樹雷皇太子の(自称)第一夫人の専用船である生体宇宙船、魎皇鬼。

彼女の主が樹雷入りした際、「あたしには魎皇鬼がいるから」と樹選びの儀を拒否し、相当の悶着を巻き起こした事もあるのだが、実際彼女の能力はかつての十分の一にも満たない力しか出せない現状においても第二世代皇家の船に勝るとも劣るものではない。

そんな彼女の至福の時間はいつかと樹雷皇宮に出入りする百人に聞いたら百人が同じ答えを返すだろう。

現在お昼時。庭園に面した日当たりのいいお気に入りのバルコニーで魎皇鬼は大好きなにんじんを口一杯に頬張っていた。

 

 

「みゃっ?」

視線を感じて魎皇鬼は顔を上げるとあたりを見回した。

かつてのような子供の姿だけでなく、今では大人のヒューマノイドタイプの姿でも安定していられるのだが、にんじんの量は同じでも体が小さい方が長く味わっていられると、食事中はいつもネコウサギとでも言った褐色の小動物姿の彼女である。

そんな魎皇鬼の低い視点から見てもその視線の主は小さかった。

何時の間に現れたものか、少し離れた所に黒い子猫がちょこんと座ってじっと彼女の食事の風景を眺めていたのだ。

黒い大きなリボンを首に巻いたその姿に魎皇鬼は見覚えがあった。

(確か……、レンっていったっけ。)

少し前に初音の所に来た相当個性の強い人々と一緒にいるのを何度か見かけた事がある。まあ、個性という点では自分の身内もあんまり人のこと言えないのであるが。

身じろぎもせずに自分を見つめているレンの姿に、既に他界したかつて大晦日の日に拾った弟分の姿がだぶり、少し考えた魎皇鬼はキャロットジュースの満たされた皿を器用にくわえ上げるとレンに近付き、彼女の目の前に置いた。

「みゃ。」

実は内心かなり断腸の思いなのだが、お近づきの印のためと必死に自分に言い聞かせてレンに皿を勧める魎皇鬼。

だが、レンは終始無言のまま皿と魎皇鬼を交互に見つめると、皿に口もつけずにそのまま走り去っていってしまった。

 

 

 

「……ふられちゃいましたねえ。」

ちょっと呆然としていた魎皇鬼に苦笑混じりの声がかけられた。

「みゃう?」

目を向けるとショートカットの眼鏡の女性が少し困ったような笑顔で近寄って来ていた。

(シエル……だったかな)

レンと一緒に来た一行の中でも、いつもカレーの匂いをさせているため一番早く覚えられた女性である。

実務能力も水準以上の彼女は、樹雷に来てからは共通語の読み書きの勉強のついでにイツキの補佐のような事もしていた。

この日もちょっとしたお使いで皇宮のほうに来ていて、たまたまこの場を通りがかったのである。

シエルは魎皇鬼のすぐ傍まで歩いてくるとしゃがみこんで視線を合わせた。

「レンの事、あまり気を悪くしないであげてくれませんか?あれでも結構長く生きてるんですけど、つい最近まで自分の意思で動くという事を知らずにいた子ですから……。他人の好意にどう対応したらいいか、わからないんですよ。」

「みゃ〜ん。」

どうやら事情があるらしいので怒っていない事を態度で示す魎皇鬼。

「ありがとうございます。……といってもこのまま放っておくのもあの子のためになりませんよねえ…………、そうだ!!」「みゃ?」

嬉しそうに笑ったと思ったら急に考え込み、魎皇鬼の昼ごはんのにんじんの山に目を止めるといきなり両手を打ち合わせるシエルに、魎皇鬼は不思議そうな目を向けた。彼女に楽しそうに笑いかけるシエル。

「ちょっと思いついた事があるんですけど、よろしかったら少し手伝ってもらえませんか?」

「みゃ!」

なんだかおもしろそうな気がしたので、右前足を挙げて元気良く返事をする魎皇鬼だった。

 

 

 

 

時は過ぎておやつ時。

十一歳ほどの人間の女の子の姿で公園のベンチに座って静かに日の光を浴びていたレンの前に、今度は同じくらいの年頃のヒューマノイド姿で魎皇鬼がやって来た。今ではある程度外見年齢の調整もできるのである。

「みゃあ!」「…………」

元気良くあいさつする魎皇鬼を静かに見つめると立ち去ろうとするレンの鼻先に何かが差し出される。

「みゃ!!」

お近づきの印に食べ物を分け合う発想自体は悪くない。キャロットジュースが駄目ならレンが好きなケーキではどうかという事で、皇宮の厨房で魎皇鬼に手伝わせてシエルの焼いたアルミカップのキャロットケーキだった。

ちなみににんじんをどうこうする作業は全てシエル一人でやった。

自分でカレーを作る際、煮込む過程でいつも何故か鍋の中身の少なくとも三分の一がどこかに消えてしまう彼女は、好物を前にしたとき理性とか我慢とかいう言葉が如何に空虚なものか誰よりも熟知していたりするのである。

「…………」

目の前のキャロットケーキを目をぱちくりさせながら見つめるレン。

「みゃみゃ!!」

笑顔で迫る魎皇鬼。

「…………」

焼きたてのケーキから漂う香ばしい匂いに鼻をひくつかせるレン。

「みゃみゃみゃ!!」

更に迫る魎皇鬼。

「……………」「みゃあ♪」

おずおずとケーキを受け取ったレンに満面の笑顔を見せると、魎皇鬼はベンチの隣に座って自分のケーキを食べ始めた。

その幸せそうな様子を横目で眺めながら少しケーキをかじると、そっと笑顔をのぞかせるレンであった。

 

 

「―――とりあえず、うまくいってるみたいですね。」

物陰からのぞいていたシエルはひとまず胸をなでおろしてその場を離れた。

残りのケーキの入った折り詰めを見て呟く。

「さて、帰って皆でお茶にしましょうか。」

 

 

 

 

 

その次の日から、あちこちにレンを連れまわす魎皇鬼の姿がたびたび見られるようになった。

それを見かけた樟葉が「琥珀ちゃんと翡翠ちゃんみたいだね〜〜。」と言って眼鏡の青年とその妹に複雑な顔をさせたりするのだが、それはまた、別のお話。

 

 

 


後書き

むう……、ナデシコSSじゃありませんな、こりゃ。イツキの名前がちらっと出てきただけですよ。

まあインターミッションですし、固いこと言いっこなしと言う事で。

魎皇鬼の弟分については小説版を参照してください。

あ、レンの志貴との契約はまっとうに血を舐めさせた方ですからね?ティーンにも達しない娘にあんな事しちゃいかんでしょう。

「そんなことどうでも……よくないけど今はどうでもいいにゃ!!」

……おまえか、化け猫。

「シエルはあんなおいしい役にゃにょにあちしの出番はあれっぽっちか!!」

だって俺先輩贔屓だし。

「メインヒロインはあちしだ〜〜〜〜!!Fuckin!!Son of  a bitch!!」

あ〜〜、うるさい。

「まったくです。粗野で低俗なメ○ケン文化に毒されたあーぱーはとっとと消えてください。」

「あ〜〜〜〜!!こんなとこまででしゃばってきた〜〜!!知得留でしゃばり〜〜!!知得留でか尻〜〜!!」

ざくざくざく!!ドン!!ドン!!ドドドン!!

あの……、ブラックバレルは、ちと、やりすぎではないかと……。あの猫ももう不死身じゃないんですし。

「いいんですよ。ギャグキャラは何やっても死なないからギャグキャラなんです。忌々しい事に。ところでこんな事やらせて貴方ほんとに私のファンなんですか?」

……思い出は、いい事半分、そうでない事半分という言葉があります。

「……そのココロは?」

頼りになる優しくて素敵なお姉さんと言う側面だけ出してどつき漫才師な所を無視するのは片手落ちではないかと♪

「死刑。」 

おっと、その黒鍵はしまっていただきましょうか?さもないと……、こいつの命はありませんぞ!!

「っ!!……それは!!」

ふふふ……あなたに、こいつを見殺しにする事が出来ますかな?

「そんな……、なんて、なんて非道い事を!!」

さあ、こいつの命が惜しければそのまま後ろを向いて振り返らずに百歩歩いていただきましょうかな?

「くっ……、わかりました。そのかわり……。」

ええ。こいつは無傷で引き渡すと約束しましょう。

「約束ですよ!! 1……、2……、3……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かった……。貴方が無事で本当に良かった……。」

「メシアンの特製カレーパン(揚げたて)…………。」

 

 

代理感想 さっちん(皐月)

 

 

 

 

なんでレンたんの出番が少ないじゃぁあああああ!!