「お主、何時の間に武器を拾ったのじゃ?」


 本当にどうでもいいことに突っ込むハナー。

 勿論、今の俺にその言葉を真面目に聞き入るだけの理性は残っていない。

 気が付けばブラスターで映像機器を木っ端微塵にした自分がいる。

 当然、無意識だがそんなことは些細なことでしかない。




 一体何処で道を踏み外したのだろう。

 冷静に考えてみる。



 ハナー提督が五体満足で動き始めた所からか?

 その通りかも知れないけど多分違う。


 ハナー提督が男相手にふざけ始めた所からか?

 ペースが狂い始めたのかも知れないけどそれも正解ではない。



 どうやらかなり錯乱しているようだ。

 彼を外して考えることが全く出来ない。

 元凶をハナーと決め付けている分、

 否、正解だろうけどそこから離れて考えられない分、

 現状に対する異常性への原因究明が次々と迷宮に陥る。



 落ち着け!とりあえず深呼吸。


 スー、ハー、スー、ハー・・・。


 よし!深呼吸完了。

 では考えてみよう。


 ハナー提督が始末してくれと頼んだことか?

 だあ、もう彼から考えて・・・ってこれじゃないか!


 そうだよ、何で今更始末されなければならないんだ!!


 事態は収束した。

 後はこの男を捕らえて身柄を引き渡すだけでことは済むはずだった。

 それを生放送で中継されているにも関わらず何故軍がここまで暴走するのか・・・。


 口封じという言葉が思い浮かんだ。


 普段見る新聞の不祥事関連、

 その一面をヤマモト・マコトが飾ることは間違いないだろう。

 乱心、若さの至り、軍国主義に憧れて、一度ミサイルを発射してみたかった、

 等と三流スキャンダル雑誌の頭の悪い理屈をデッチ上げられては

 トカゲの尻尾のように見捨てられる彼の姿が脳裏に映る。


 彼の不幸を考えたところで何の慰めにもならない。


 何より全く解せないことがひとつ・・・。







































 何故、ハナー提督がこんな茶番に付き合ったのか?





 「・・・って、提督、貴方一体何しているんですか?」


 俺がこれほど真剣に悩んでいるというのに何を考えているのか、

 ハナーはノソノソと医療用ベットに歩み寄り布団をかけて

 そのままベットに潜ろうとしていた。


 「何とは?御覧の通りじゃよ。

 この歳じゃ、最期位はベットの中で迎えたいしのう」


 ブチ


 シリアスモード強制終了。

 血液循環率異常上昇・・・。





 「ふざけないでください!!

 そういう問題じゃないでしょう!!



 このままじゃ、皆死ぬんですよ。

 人生が終わるんですよ。

 貴方や俺だけじゃない!

 貴方の大切なご令嬢まで巻き込んじゃうんですよ。

 貴方は心が痛みませんか?



 「何故?」


 「な、何故って・・・??」


 「ユミィー、エミィー、おいで」


 「「はい!お父様」」


 ハナーの言葉に応え、傍に歩み寄る二人、

 その姿を唖然と見詰める。


 「君達・・・」


 「タイラーさま、お気遣いはありがたいですが・・・」


 と、エミィー。


 「お父様を置いて行くなど私達にはとても・・・」


 そして、ユミィー。



 「うんうん、ありがとう、二人とも、

 こんな親孝行で可愛い娘達と一緒に最期を迎える事などそうそうない。

 ワシは幸せじゃ」



 彼等の行為を眺める内に頭が冷静になる。



 何かが違う。

 俺の知る常識とは何かが違う。

 何だろう・・・でも、それを考えている暇はない。


 そう、こんなところで死ぬ訳にはいかない!

 それだけを第一に考えなければならない。



 「お戯れはやめてください。

 先ほどの茶番もそうです!!

 事態は無事に収束しかけたというのに・・・

 何もかも終わったというのに・・・

 何であんなふざけた真似を・・・

 おい!貴様もこのモウロクジジイになんとか言ってやれ!

 このままじゃ俺達は・・・」



 話が終わる前に待った!をかけるバラゴム、

 右手を俺の目の前に突き出し・・・泣いていた。


 「・・・何も言うでない。我は敗れたのだ。

 勝者が最期を迎えるのなら敗者もそれに従うのが理、

 ここが我の終極也」


 それは歓喜の涙、感動の涙、

 バラゴムが流している涙はそういったモノ。



 もしかして必死に足掻いているのは俺だけ?

 そう考えると己が酷く滑稽に思えるから不思議だ。



 俺が間違っているのか?


 勿論、そんなことはない。

 提督もご令嬢もそしてこの敵だった男でさえ

 ここで死なせる訳にはいかない。


 なにか手はないのか・・・なにか・・・。




 「もうよいのじゃ、少年」


 まるで俺の考えを見透かしたようで子供を諭すような、静かで滑らかな声。


 心地いい、

 嘗ての想いが蘇る様で気持ちいい。

 しかし、そんな心情とは裏腹に理性は警戒と疑惑に満ち溢れていった。

 その訳は一つに限る。


 ・・・何故今頃になって俺のことを少年と呼ぶのだろう・・・と。





 「もうよいのじゃ、少年、

 今まで本当に御苦労じゃった。

 ワシは少年に怨まれておると思っていた・・・、

 例え、本音はどうあれあんな仕打ちをしたんじゃ。

 少年は許しはしまい、と思い続けていた」



 この者は何を言っているのだろう・・・

 否、分かり過ぎるほど分かっていた。

 しかし、それを認めてしまうと今の己が壊れてしまうような予感がした。


 それは己とハナーの過去。



 「じゃが少年は許してくれた。

 雨の日も、雪の日も、

 少年は日々を欠かさず刺客からこのオイボレを守ってくれた。

 寝たきりのフリは少々疲れるが少年がワシを付け狙う刺客を追い払ってくれると考えると

 演技も苦ではなかった。

 おかげでワシはここ10年間は身の危険から解放されてグッスリ眠れたものじゃ」



 フリ?・・・演技?・・・何それ?

 過去の出来事とは違う、己の予想を越えた言葉、

 しかし、そんな理性とは裏腹に数々の心当たりが思い浮かび、消える。


 そんな俺を置いてハナーの話は続くのだった。



 「本当に感謝しておるぞ、

 だが、この世での世話はもう充分じゃ。

 ここで一緒に死のう」



 ナニヲイッテイルノデスカ?コノヒトハ??



 「一緒に死のう、

 生まれて69年、思えば後悔に満ちた人生じゃった・・・。

 宇宙の塵になることも叶わず、こうして無様に生き延びて来たワシじゃが

 今、軍はこんなワシに華々しく散るチャンスを与えてくれようとしている。

 ワシは幸せじゃ。

 軍人として華々しく散れることも、娘達と共に去ることが出来るのも

 全ては少年のおかげじゃ。

 少年のことは忘れない。

 死して尚もあの世でもワシのために尽くしてくれい」


 ベットで娘達の肩を抱きながら号泣きするハナー。

 その姿を見詰める内に己の理性が一つ一つ剥がされていく。




 ・・・やっと理解した。

 何が間違っているのかを・・・その違和感を・・・


 とても簡単なことだった。

 俺は生き延びることを第一に考えていたが

 このジジイは華々しく散ることばかりを考えていた。

 その違いが現状の異常事態を招いているのだ、と。


 世代の違い?年の差?目指すゴールの違い・・・

 ともかく盲点だった。


 要はこの男に任せた時点で俺は既に間違っていたのだ。


 本当にやってくれる・・・本当に・・・ふふふ・・・。




 「・・・ふふふ・・・提督」


 乾いた笑いを上げながらハナーに歩み寄る。



 そうですか、そんなに華々しく散りたかったのですか・・・。

 無関係の人を・・・敵も親類も・・・しかも俺をも巻き込んで・・・

 俺の気持ちまで弄びやがって・・・ふふふ・・・裏切りやがって・・・

 俺がそんなことを・・・。




 「させるとでも思っていたのか!!

 ふざけるなよ、このクソジジイが!!!



 医療ベットを両手に鷲掴みにし一気に頭上まで持ち上げた。


 「わ、わ・・・」



 「見たか!、貴様にに見捨てられて20年、

 銀河を渡り歩き・・・生活のために肉体労働で鍛え上げた我が力・・・、

 誰が貴様の夢見る最期などもたらしてやるものか、

 このまま・・・17階から突き落としてやる・・・




 「少年・・・お主・・・踏んでおるぞ・・・」


 頭上からハナーの震える声。



 「今更命乞いか?

 だが、もう遅い!!!

 俺が今までどんな思いで見守ったかも知らずに

 寝たきりのフリをするのも苦じゃなかっただと・・・


 ふざけやがって!!

 もう許さん!絶対に許さん!!


 一人で堕ち、一人寂しく死んでしまえ、

 俺を巻き込んだ罪、

 数十年間俺を騙した罪、

 そして20年前に貴様に見捨てられ

 今の今まで俺が味わった惨めな思いを噛み締めながら懺悔して死ね!!




 「おい!やめろ!!」


 窓際まで寄り本当に突き落とそうとしている所でバラゴムが止めにかかる。



 「うるさい!!俺の邪魔をするな!!!


 ドカ、と邪魔する者を軽々と振り払う。

 これで邪魔するものはいない。



 このまま、奈落の底に突き落としてくれるわ!!!






 ガシャーン

















 ・・・ってちょっと待て!俺はまだ突き落としてないぞ。



 一瞥すると床が窓ガラスを突き破って外に・・・。




 床?なんで??


 その姿を唖然と見送っていた。









 「ドアァァーーー助けてーーーーーーーー


 よく見るとこちらから死角になっている所からバラゴムが顔を突き出し

 涙を浮かべながら俺に向け必死に手を伸ばしていた。

 先ほどの涙とは当然天と地の差がある。


 だが、俺はというと、その姿が視界から消えるのを眺める位しか出来なかった。



 当然男は爆弾を張り付かせたままでいる。

 その結果・・・。







































 ドーガー嗚呼アアアアーン








 結果はご覧の通り・・・。

 男がマントに張り付かせた高性能爆弾群がミサイルと誘爆を起こしたのだろう。


 フラッシュオーバー

 その被害は・・・考えたくもない。



 「よっこらしょっと」



 持ち上げられた医療ベットから軽々と飛び降りるハナー、

 その様子を俺はベットを持ち上げたまま呆然と見詰める。



 「さすが少年じゃ!

 ワシの仕掛けた秘密兵器パート4、空飛ぶ床の存在に気付き、

 敵を巧みにトラップゾーンへと押し込めるとは・・・。

 一時、少年がトラップ発動の床を踏みつけた時はどうなるかと思うたが見事じゃった。

 あれはじゃのう・・・」



 仕掛けのタネあかしを始めるハナー。

 それを聞き入れるだけの理性は・・・俺に残されていなかった・・・。




 徐々に・・・風を切り裂く音が大きくなる。

 外を一瞥するとマスコミのヘリが段々と近づいてくるのが分かる。

 ミサイル発射のために一時退避していたものが騒ぎの終結を嗅ぎ付けて舞い戻ってきたのだろう。

 宇宙暦7000年を迎えようとしている時にプロペラ式で飛ぶ飛行物というのも珍しい。

 そのヘリから馴染みの美人アナウンサーがマイクを片手に空を飛んできた。




 えっ?空を・・・。


 その様子を呆然と眺めた。

 ヘリからここまでは20メートル以上は離れていた。

 彼女はそれを物ともせず自然に跳躍し、割れたガラスから中に無事着地する。



 「こんにちは!

 こちらは銀河スター・チャンネル、レポーターのユリコ・スターと申します。

 ハナーさん、そしてタイラーさん、ご無事で何よりです」



 空を飛んできた・・・生身の人間が・・・。


 「あの〜タイラーさん?」


 空を飛んできた・・・生身の人間が・・・。


 「タイラーさん?ベットは重くありませんか?

 もしも〜し、タイラーさん、やほ〜〜」


 空を飛んだ・・・人が空を・・・。



 「その辺で勘弁してくだされ。

 彼は精魂尽きたのじゃ、

 こんなオイボレのために・・・

 ワシはもう・・・ワシはもう・・・(涙;)」



 「ベットを持ち上げたままですか?」


 あんな遠い空から人が・・・。


 「そうじゃ、ミサイル発射に我を見失った敵の工作員から

 ワシを・・・このオイボレを・・・敵の凶器から守るために

 ベットを盾にし、凶器ごと敵を押し退けた。

 じゃが押し退けた場所が悪かったんじゃ・・・結果はご覧の通り・・・

 事故とはいえ引き起こしてしまった事態に彼は自らを責めている」


 「そんな事情が・・・」


 人が空を・・・ってマテ!

 それはどういう意味だ。



 「じゃが彼を責めないでおくれ。

 全てはワシを守るために起こしてしまったこと。

 本当はワシ一人が死ねばよかったのじゃ・・・

 じゃが・・・それを言ってしまうと彼の行為が・・・

 いや・・・彼の行い其のものを汚してしまう・・・

 全てはワシのせいなんじゃ・・・」



 ふ・・・

 ふふ・・・

 ふざけるな!!


 何が全てワシのせいだ!!!

 モロモロ貴様のせいじゃないか・・・。


 あれ?・・・声が・・・。



 「そうですね確かに・・・下の被害を考えれば素直に喜べないと思います」


 「下の被害はどうなっておるのじゃ?」


 「街道封鎖のおかげで民間人には被害が出ておりませんが、下の関係者達は・・・」



 「うう・・・ワシが宇宙の塵にでもなっていれば

 このような惨事も起きなかったろうに・・・

 じゃがそれをいってしまうとワシのために・・・

 ワシのために爆弾を抱えた工作員を突き落とした彼の・・・

 彼の想いを否定することになる・・・すまない・・・うう(涙;;)」



 マテ!

 俺なのか?

 俺のせいなのか?

 全て俺が悪いのか?


 ふざけるなよ・・・ふざけるなよ・・・。


 「タイラーさん?どうしたんですか?」


 「かわいそうに・・・自らが引き起こしたことの重さに

 耐え切れなくなっておるんじゃ。じゃが、安心せい」


 と俺の両肩をガシッと掴む。


 「少年の行いは間違っていない。

 例え、取り返しのつかない結果になっても・・・

 ワシは少年がどのような目に遭おうとも全てを受け入れる」


 ヤマモトに使ったのと同じようなベタな台詞で

 俺を・・・俺を・・・

 これ以上・・・これ以上・・・。








































 これ以上、俺の人生を弄ぶな!!


 声にならない、魂の叫び。


 「うわあああああああぁーーーーーーーーーーーーー




 ダダダダダダだダーーーーガシャンーーーーダダダダダーーーー



 世の中の不条理と理不尽を悟り

 我を忘れて現実逃避、その場を走り去って逃げる。


 ベットを持ち上げたまま・・・。



 「タイラーさん?」


 その後姿を呆然と眺め呟く。

 勿論、彼から返事が返ってくるようなことはない。


 「ちとイジメすぎたか・・・」


 「ハナーさん、今なんと・・・?」


 「いやこちらの話じゃ。

 ところで先ほどのヘリからのここまで飛ぶのに何か仕掛けでも?」


 「ハナーさんもご冗談を・・・

 滞空時間を長時間伸ばす新素材、

 空軍と宇宙軍で愛用されているこの服の存在を

 ハナーさんが存じないはずは・・・」


 「ガァハハ、ワシも年でボケておるということじゃ、

 とはいえ、一番聞かせたかった者はこの場に居ないがのう」



 「はあ・・・ところで彼、

 タイラーさんとは顔見知りなのでしょうか?

 やけに親しかったような印象を受けたのですが・・・」


 一瞬の沈黙、

 再び舞い戻ってきたシリアスな展開。

 そして・・・。


 「・・・あれから20年か・・・」


 独り言のように呟くハナー、

 その独特の雰囲気にユリコは思わず期待してしまう。

 ジャーナリストとしての期待。

 そしてそれらの期待が裏切られることはなかった。


 「ユミィー、エミィーこちらに来なさい」


 「「はい、お父さま」」


 「これは君達にとって重要なことでもあるのだよ」


 「私達に・・・」


 「重要なことですか?お父さま?」



 「そうじゃ、何せあやつは・・・」


 一言間を置く。

 その時、ユリコもハナー姉妹も

 ハナーの瞳が怪しげに輝いたことを知らない。


 「血の繋がったワシの隠し子なのじゃからのう」


 マスコミの前に堂々と宣言した。

 ジャスティ・ウエキ・タイラー、もとい、テンカワ・アキト。

 彼はこの場を離れたことを一生後悔することになる。









 巡洋艦ドローメ、ブリッジ



 「艦長、バラゴム様は・・・」


 「云わずとも分かる。私も亜空間通信でそれらを見届けた所だ」


 「艦長・・・一体この任務にどのような意味が?

 私には例えバラゴム様が任務を成し遂げても惑星連合が分裂するようなことなどとは・・・」


 「ふふ、察しがいいな、バルサローム、その通りだ。

 この任務、成功すれば惑星連合宇宙軍の威信を益々高めることはあっても弱体化には程遠い、

 20年前、我が帝国の根底を揺るがしたラグーン会戦とは・・・それほど尊い価値があるのだ。


 「でしたらバラゴム様は何故このような茶番を・・・

 敵をみすみす強くするようなことを・・・」


 「バラゴム殿の・・・敗者の意地というものだ」


 「意地ですか?」


 「そう・・・、真の勝者に奉げる敗者の意地。

 バラゴム殿の命運はラグーンで尽きた。

 バラゴム殿もそれを受け入れている淵がある。

 だが、己の命運を奪った者達が己より更に卑しい立場に喘いでいる。

 しかも、取るに足らない者達にだ。

 許せなかったのだろう・・・真の勝者を侮辱した者達が・・・。

 そして己が敗れたのは貴様等ではない、とな・・・。

 見ようによっては取るにたらない、つまらない意地だが

 バラゴム殿にとっては己の全てをかける価値があったのだろう」


 「はあ、自分にはさっぱりです・・・」


 「心配するな、その気持ちは私にもわからぬ。

 羨ましいとは思うがな・・・」


 「羨ましい・・・ですか?」


 「ああ、羨ましい、

 なにもバラゴム殿に限らぬ。

 あの20年前、ラグーン会戦を体験したラアルゴン帝国軍人全てが羨ましく思う。


 大艦隊を手玉にとった軍団運用術、

 恐るべき力を秘めた地獄の兵士達。


 帝国に大きな傷跡を残した一戦ではあったが

 彼等は紛れもなく真の敵と戦えたのだ。

 後20年、いや10年早く生まれていれば・・・

 私もその真の敵と交えることが出来たものを・・・」





 「・・・まさか艦長はそのためにバラゴム殿の願いを許可したのですか?」


 その問いにドムは一時間を置き、両目を瞑る。


 「真の敵と巡り会えた者達の末路は二つ、

 生涯を負け犬のような人生を送り夜な夜な悪夢にうなされ続けるか、

 恐怖を振り払い己の全てを掛けて真の敵と立ち向かい会うかだ。

 バラゴム殿は紛れもなく後者・・・幸せだっただろう。

 その真の敵を目指し、己の全てを燃やし尽くせたのだからな・・・。

 敵とはいえ、あの者達がいなければ・・・真の敵たちと出会うことがなければ

 バラゴム殿は末端の兵士として頭角を現すまでもなく人生の終わりを迎えたであろう」


 「ですが、バラゴム殿の最期を考えればとても・・・」


 「バルサローム、その事は二度と口にするな。

 結果ではない、過程が大切なのだ。

 そして、彼の者の最期に関しては私とお主の胸の内にしまっておこう。

 彼は勇敢に立ち向かい・・・そして見事成し遂げて帝国の礎となり散っていったのだ」


 「はは・・・」


 「・・・とはいえ、私達が同情するのもバラゴム殿にとっては片腹痛いのかもしれん。

 彼の者は真の敵と巡り会えた。

 それに比べたら我等は・・・」


 「ドムさま?」


 「・・・初め、無いモノをねだっても仕方ないと思っていた。

 だが、惑星連合宇宙軍があそこまで脆弱だと嘆きたくもなる」


 「確かにバラゴム殿一人にいいようにあしらわれましたな」


 「その通りだ。、

 あの大戦から20年、

 ロナワー提督閣下を筆頭とした・・・嘗ての地獄を体験した者達が

 ワングの下で戦わされる屈辱を味わうにも関わらず

 この日のために奈落の底から這い上がって来たというのに・・・敵は恥知らずなほど無知、脆弱、

 結局最後を見事収めたのはハナー元提督、今となっては生ける化石だ。

 その化石に依存する惑星連合・・・物量云々以前の問題だ。

 兵達の士気が違いすぎる。

 つまらない戦になりそうだ・・・」


 艦長席に深く沈みかけるよう座る。

 部下が隣り合わせにいるにも関わらず体を仰け反り両目を瞑る。


 「だが・・・」


 一人の男が浮かび上がる。

 バラゴム殿と互角以上に交じり合った下級兵士の存在を・・・。


 (ジャスティ・ウエキ・タイラーか・・・

 あの者が艦隊を率いるくらいの立場の者になればあるいは・・・)


 戦いは面白くなるかも知れない。

 しかし、それが適わぬこともドムは知っていた。


 彼の者が己と同じ立場まで上がってくるには年季がいる。

 例え何かの間違いで異例の出世を遂げてもせいぜい駆逐艦程度の艦長が関の山。

 だが、それすらも自由には扱わせてはくれないだろう。

 己の立場を脅かす英雄に与えられた物は名誉ある死のみ、

 捨て駒のような任務を与えられ・・・そして終わる。

 ラアルゴン帝国はここ20年間、惑星連合のあらゆる官僚システムを研究し尽くしていた。

 そしてそれを元にしたタイラーの未来図がドムの中で明確にシミュレートされ、切り捨てられる。


 (つまらん)


 要は・・・例え稀代の資質を秘めていても

 組織がそれを生かすどころか潰すような仕組みになっているのだ。

 英傑がないのではない。生み出させなかったまでのこと・・・。


 そんな腐り果てた敵。

 例えタイラーが上層部に可愛がられ年季と共に頭角を現すことになろうと、

 その頃には間違いなく戦は終っている。


 (つまらない戦になりそうだ・・・)












 少年は走り続けていた。

 繁華街を疾走、

 ベットを持ち上げ、奇声を上げながら人々の壁をすりぬける。

 たまにベットの端を避けきれなかった人たちが左右に飛ぶ。

 突然の嵐に大半の人々はそんな少年を急いで避け、

 消え去る幻影を怪訝そうに見詰めるが

 姿が見えなくなると何事もなかったように自分の道を歩く。


 少年は走り続ける。

 ベットは粉々になったのか、両手に握り締められたのは残骸のみ。

 そして人影の少ない個汚い裏通りに入ると

 曲がり角直ぐ近くのゴミ箱に当たって勢いよく転んだ。


 起き上がる気力がない。

 起き上がらなければならない理由もない。

 それでも止まるという偶発的な事故により理性は次第に回復していった。


 呼吸も整い始める頃、

 馴染みの気配が彼の意思を覆う。


 (璃都ちゃん・・・)


 <<はい、何でしょう?アキト様>>



 (忘れ物・・・それが何なのか余計わからなくなっちゃった・・・)


 次第に回復していく意識の中、

 当初の目的が更に遠さがったことを実感したアキト。

 しかし、この場での彼女とアキトの目的も

 見事なまでに一致していなかったことに気付かされることになる。



 <<アキト様>>


 (何?)


 <<とても言い難いのですけど・・・>>


 (ははは・・・何かいやなことでも?

 いいよ、今の僕は真っ白に燃え尽きたから大抵の事ではビクともしないから・・・

 どうぞ、遠慮なく)


 <<わかりました、では遠慮なく言わせて貰います>>


 (うん、どうぞ)


 <<年金をハナー元提督に渡すのを忘れてますよ>>


 (・・・)


 <<また戻って至急手渡してください>>


 (・・・)


 <<アキト様>>


 (・・・)


 <<アキト様、ボケたフリしても無駄です。至急・・・>>




 「いやだ!!!!!!



 魂の叫びが辺りを木霊した。

 しかし、彼が彼女に逆らえるはずは・・・ない。







おまけ