人類が宇宙に進出するようになって7000年、

 銀河を一つに繋ぐネットワーク技術は時代と共に驚異的な発展を遂げた。


 その内のひとつ、量子共鳴通信方式。

 俗称、亜空間通信とも呼ばれるこの通信方式は、誤差0秒という驚異的なリアル通信を可能とし、

 設備さえ整えば230万光年離れたアンドロメダ星系は勿論、

 100億光年と離れた名も知らない星系にまでリアル通信を可能とする。


 ただ、人類およびラアルゴン人が100億光年遠くの星系はおろか、

 230万光年離れたアンドロメダ星系にも進出するのが叶わなかったので上記の話は机上の空論に限が・・・。


 今のところ量子共鳴通信方式による銀河規模の広大なネットワークを所有した民間組織は三つのみ。


 一つは全銀河(惑星連合を含む)に影響力を持つ超巨大多星系企業『トライアース』(ラアルゴン系)

 もう一つは1億2000年の歴史を誇る超巨大多星系企業『クラウンソード』(こちらもラアルゴン系)

 最後の一つはここ数十年で頭角を現した『UNKNOWN』という未だ全貌の見えない、唯一惑星連合系の企業がそう。


 その噂の『UNKNOWN』で私は従軍レポーターとしての話を持ちかけられていた。

 場所は応接室。



 「軍艦にですか?」


 「そう。貴女の名声を見込んで折り入って頼みたいのです。

 将来有望な方を戦場に送るのは大変戸惑われますが・・・」


 「いいえ、やらせてください!

 こちらこそ、よろしくお願いします」


 老紳士はそんな私を見返して穏やかに微笑む。


 「助かります。機材、バックアップスタッフはこちらで全て揃えさせていただきました。

 貴女の局長にも事前に話を通しておきましたので、書類手続きの確認のみお願いします」


 「・・・随分用意周到なんですね」


 手際の良さに少し複雑な気持ちになるユリコ。


 「無礼を承知で強攻策をとったことをお詫び申します。

 貴女は前の報道で宇宙軍にマークされていたので妨害される前に手続きを踏む必要がありました」


 宇宙軍の妨害、その一言で全てを察する。


 「恐れ入ります。そうとも知らず・・・」


 「いえいえ、お気になさらずに、それだけ貴女の尽力が必要だということです」


 と微笑む紳士。

 妨害を切り抜けてまで私を乗せたかったという彼の話に疑問はあったものの、

 先ほどの件もあったのであえてそのことは触れずにおく。

 話は続く。


 「・・・ですが軍から貴女への数々の妨害が続くことが予想されるので

 バックアップスタッフ以外に我が社から腕利きのスタッフを一人付けることにしました。

 ホワン君、入ってきたまえ」


 ブシュー


 という扉が開く音と共に入ってくる至って平凡なサラリーマン。


 「初めまして、派遣要員として一緒に乗り込むことになりました、黄(ホワン)と申します。

 いや〜、光栄です。有名なユリコ・スター嬢とご一緒出来るとは・・・と、どうなされました?」


 「いえ、いいんです。お気になさらずに・・・」


 平凡な外見とは別の陽気で軽薄そうな雰囲気、

 私の手を両手で握り締める彼に対し張り倒しそうな気持ちを必死に抑える。


 「とりあえず離してもらえないでしょうか?」


 「ごめんなさい、どうも美人には弱いものでして」


 と笑いながら手を離す黄(ホワン)さん。

 そんな彼を呆れながら眺める。


 (大丈夫かしら?)


 心の中でため息。

 これから軍艦に乗って戦場に赴くというのに・・・いきなり不安な気持ちに駆られる。

 しかし、今更後に引けないのは確かで・・・気持ちを改め再度誓う。


 お父様・・・どうか私を見守ってください。




 UNKNOW 


第3話

〜そよかぜという名の艦〜









 幼い頃の夢。

 たまに見る夢の中の私は小さな子供で、

 郊外に少し大きな洋式の家で

 仕事帰りのお父様を何時までも待ち続けた。


 今でも夢見る。

 家族が揃うことを願う少女の夢を・・・。

 そして私は20歳を迎えた。













 宇宙暦6999年12月31日、13時41分。




 「まさか、貴女たちと一緒に乗り込めるとは思わなかったわ」


 空母鳳凰に収容された軍艦に向かう内火艇の中で

 私は親しくなった双子の姉妹達に話し掛ける。


 「私たちもユリコさんと御一緒できて嬉しいですわ」


 操縦桿を微調整しながらユミィ。


 「色々とよろしくお願いします」


 と、エミィ。


 「よろしくね。でも貴方達は何のために軍艦へ・・・?」


 ちょっとした疑問。

 何故今更という気持ちが確かにある。

 それに対して二人は・・・。


 「お父さまからお兄さんのことをよろしくと頼まれました。

 そして私達にも恩がありますし・・・」


 ハナー元提督からタイラーさんのことは聞いていた。

 でも何故そこで頬を染めるの?ユミィ。


 「受けた恩は尽くして返すのが私達の流儀ですわ。

 そしてお兄さまと仲良く・・・」


 とユミィより更に全身で恥ずかしさを表現するエミィを見て

 やっと彼女たちの気持ちを察することが出来た。



 お兄さまね・・・。


 前回の事件での出来事を思い出し含み笑い。


 「そうね、恩は尽くして返さないとね。

 特に今のタイラーさんは環境の変化に戸惑っているはずだわ。

 そんな時、貴女たちがタイラーさんを上手く支えないとね」


 微笑みながらウィンク、彼女たちにエールを送る。


 「「はい!」」


 そんな私に彼女たちは喜んで頷いた。



 カッコいい異性に惹かれる年頃。

 私もそんな時期を過ごしたのだからよくわかる。


 過去の苦しい想い出。

 その頃を思い浮かべるだけで胸が痛む。

 結ばれることはおろか、生きているかどうかさえ確認できない想い出の人。

 私にはもう叶わない夢だけれど、幸せになれる人たちにはやっぱり幸せになって欲しい。



 「皆さん、まもなく目的の艦に到着しますよ。着艦の用意をしてくださ〜い」


 私達と共に乗艦するホワンさんの陽気な指摘。

 その言葉で意識が切り替わり外に注目し・・・そこで呆けてしまった。



 私だけではない。

 初めて見る乗船予定の船にユミィ達も私同様に唖然と見続けるのだった。


 整備が行渡っているのが疑問な錆び様。

 あれに乗って戦場に行きたいとは・・・少なくとも私は思わない。



 「指定座標に間違いありません。あれが駆逐艦『そよかぜ』です」


 呆然と見詰める私達を他所に、ホワンさんが何事も無かったかのように締めくくるのでした。








 駆逐艦『そよかぜ』格納庫 同日14時15分。



 問題の軍艦に到着した。

 格納庫の中央にシャトルを降ろし着任する。

 そこで私たちを迎えたのは・・・。


 「ユリコさん・・・恐い」


 「鬼気迫る感じですわ」


 「一体何が・・・」


 私たちを迎えたのは規則正しく整列する『そよかぜ』乗組員76名の姿。

 その彼らが、不動の姿勢で一言も発することなく私たちを迎えていた。


 個人的には好感の持てる対応ではあったが、事情を知らない人達にとって困惑極まりない。

 少なくとも私たちを迎えるにしては・・・。



 「お待ちしておりました」


 整列した群衆から一人、士官服を着こなした青年が私たちの前に歩み寄り、凛とした声で迎える。



 「この艦の副長を務めることになったヤマモト・マコト大尉であります。

 皆様の乗艦を一同を代表して歓迎します」


 そして一礼、それは私が今まで見た軍人たちの中で一番綺麗で様になっていた。


 「丁重なご挨拶ありがとうございます。私はユリコ・スターと申します」


 湧き上がる心を抑えて冷静に自己紹介。


 「初めまして、ユミィ・ハナーと申します。ヤマモト様」


 「エミィです。ユミィちゃんと姉妹ですの、よろしく〜」


 「彼女たち(?)のアシスタントとして乗艦することになりました。黄(ホワン)と申す者です。こちらに名刺を・・・」


 私に続くよう、それぞれ軽く挨拶を済ませる皆さん。

 これがシャトルに乗船した人たちの全て・・・。


 でも何故か格納庫の雰囲気がおかしい。

 規則正しく整列していた乗組員たちの間に走る動揺、ざわめく『そよかぜ』クルー。

 仕事柄、たくさんの場面に接してきたけれど彼らの動揺の原因がわからなかった。



 「あの・・・スターさん?内火艇の乗員は・・・これで全員なのでしょうか?」


 乗組員を代表するよう、ヤマモト大尉が私に問う。


 「・・・はい、私たちで全員ですが・・・?」


 格納庫に整列していた全乗組員の動揺が頂点に達する。

 何故そのように騒ぎ始めたのか・・・。



 「あの・・・艦長はご一緒なのではないのでしょうか?」


 そのヤマモト大尉の一言で私は全てを理解した。



 ジェスティ・ウエキ・タイラー。

 どうやら私たちというより艦長を迎えるために集まっていたようだった。

 ・・・すると艦長はまだ『そよかぜ』に乗船していない?


 「あの・・・少しよろしいでしょうか?」


 と考え事に没頭しかけたところで隣のホワンさんがヤマモト大尉に向け申し訳なさそうに尋ねる。


 「なん・・・いえ、失礼、どうぞ」


 「実は問題の艦長さんから伝言を預かっているんですよ。

 こちらに来る途中、偶然頼まれまして・・・」


 その言葉はさすがに予想外でした。


 「な・・・なんだと!?」


 先ほどの事務的な対応が嘘のようヤマモト大尉。


 「はい・・・これです」


 懐に仕舞い込んでいた一枚の書類様式を、驚きのあまり強張るヤマモト大尉に差し渡す。

 彼はそれを素早く奪い取り読みあげようとするのですが・・・。


 「面倒だから先にブリッジに行く。まあ、よろしく・・・・・・」


 徐々に浸水する険悪な雰囲気。

 誰もが怒りに狂い始める中、真っ先にメッセージを読みあげたヤマモトが怒りを爆発させた。


 「・・・ふ、ふざけているのか!!


 軍の命令書を握りつぶしながらヤマモト大尉が怒り狂い・・・、

 怒りの矛先を手短にいるホワンさんに向け、衝動のまま胸を掴んで、ぐい、と持ち上げる。



 「く、苦しいです・・・わ、わたくしに言われましても・・・」


 地面から離れ空中で両足をバタバタと振り回し始めるホワンさん。

 それでも掴んだ両手を離すことはなかった。


 さすがに彼の身が危険だったので急いで抑えようと制止の声を上げようとしたのですが・・・。






 ビィー、ビィー、ビィー




 私たちの運命を狂わすスクランブル放送がその時流れ始める。




 <<艦長より緊急命令、全乗組員は各自持ち場に急行せよ。

 繰り返す。艦長より緊急命令、全乗組員は各自持ち場に急行せよ。

 只今よりそよかぜは14:25(いちよんにいご)を持って緊急発艦します>>



 格納庫に響き渡るスクランブル。

 誰も事態を理解していなかったが、直ぐに何も考えず各自持ち場に急行する。


 未だ格納庫に残っている人は『そよかぜ』に着いたばかりの私たちと、

 ホワンさんを持ち上げたまま呆然としているヤマモト大尉のみでした。



 「そ、そんな・・・上層部への進言も、

 艦隊連携も、副長の私との相談も無く・・・

 艦(ふね)が・・・艦が・・・動いているだと!!



 彼の叫びが格納庫に響き渡る。


 一体どのような未来が訪れるのでしょう?

 お父様、私が着任したばかりの『そよかぜ』は

 とてつもない波乱に満ちていそうな気がします。




その2