「艦長に代わって命令する。

 艦内防衛体制2を発動、

 メインブロックを中心に隔壁を閉鎖、やつらを追い込め」



 「艇長、隔壁が・・・」


 「ええい、うろたえるな。

 チャーリー、『そよかぜ』中核をハックしろ。

 掌握できなくてもいい、とにかく時間を稼げ」



 「キム中尉、ブリッジで指揮系統の中継を頼む。

 サカイ少尉は私と共に現場に赴こう」


 「「了解、副長」」



 艦長の「好きにしろ」という伝言から始まった一連の流れ。

 その流れは『そよかぜ』の全乗組員を巻き込み、戦局を拡大させていく。

 その張本人は・・・。















 <<アキト様・・・大丈夫ですか?>>


 流れから取り残され、いや唖然と見守るしかなかった。


 (大丈夫そうに見える?)


 穏やかに揺れる淡く輝く海の中で俺は溜め息を吐く。

 何故このような事態になったのか・・・。


 (とりあえず艦内の状況を教えてくれ)


 <<はい、現在『そよかぜ』のメインブロックを中心に交戦が行われています。

 武器管制システムと防御システムを中心に被害が拡大、防御システムは全滅。

 武器管制システムは前方の光子魚雷発射管一門を残して全て制御不能・・・、

 すみません。たった今、残りの一門も制御不能になりました。

 武器、防御管制システム、共に全滅>>


 あまりの内容に頭を抱えて俯きになる。

 頭痛もして来た。


 (動力機関は?)


 <<亜空間タービンおよび各種推進機関、主動力炉は奇跡的に無傷。

 ですがこのまま放置するのは危険です>>


 最悪の事態は免れたようだ。

 しかし、彼女の言うと通りこのままだと拙い。


 (『そよかぜ』が発艦して9時間・・・

 人の気も知らないでよくもまあ、短期間でここまで暴れてくれるものだよなあ)


 <<全面的にアキト様が悪いのでは?>>


 他人事のように呟く俺の言葉が気に入らなかったのか彼女が呆れたように軽く睨む。

 その視線が痛い。


 (・・・確かに言葉が足りなかったのは認める。

 だがこんな事態になるなんて誰が予想できる?

 しかもあのお堅いヤマモトまで一緒になりやがって・・・)


 <<確かに普段の彼にしては珍しく熱くなっていますね。

 もしかしたら周りの言葉に少なからず影響を受けたのかも知れません>>



 (熱くなりすぎて家を燃やしちゃ世話ないだろう。

 いい大人が揃いも揃って・・・戦争しているという自覚あるのかね?)


 <<自覚はあったんですね>>


 (どういう意味だ?)


 彼女の皮肉にすかさず突っ込む。

 いくら俺でもあいつ等と同レベルに見られるのは不愉快だ。

 とはいえ、前科があるのは確かで・・・。


 (はあ〜、確かに俺もふざけている所はあるけど

 これでも自覚しているんだよ。・・・この艦に乗った瞬間からね)


 そう、この艦に乗った時から覚悟と誓いを立てたのだ。

 想い出の艦に乗艦したその瞬間から・・・。


 <<・・・ごめんなさい・・・>>


 俺の想いが伝わったのか彼女が心から謝る。

 そんな彼女の申し訳なさそうな姿が何故か可笑しい。


 (別にいいよ。怒ってないから、しかし、これからどうしようか・・・)


 <<本当に逃げますか?>>


 などと彼女が真顔で提案する。

 しかし、その言葉に俺への皮肉が込められているのは間違いない。


 (・・・とても魅力的な提案だけれど、それを本当にやっちゃおしまいだからね。

 ちなみに前に話したことは冗談だから真に受けないでね)


 言っておかないとずっと言われ続けそうだから一言付け加える。

 そんなことされたら幾ら図太い俺でも結構堪えるからだ。


 <<アキト様、やはり『そよかぜ』の全てを私に委ねるしか・・・>>


 彼女も本題に戻し、遠慮がちに・・・それでいて以前から進言し続けたことを云う。

 先ほどまで暢気に構えていた俺も、その言葉に眉間にシワを寄せる。


 (頼むからその件からは遠さがってくれ。そんなに俺が信用できないのか?)


 いつものように突き返そうとするが今回は彼女も譲らなかった。


 <<そんなことないです。アキト様のことは信頼しています。ですが・・・>>


 そこで言葉を濁す彼女、しかし直ぐに意を決し力強く言い放つのだった。



 <<ですが私には力があるんです。私の存在意義なんです。

 なのに何も出来ないままなんてもう嫌なんです。

 もう嫌・・・あの時のようにただ見守るだけなんて・・・。

 私が全ての権限を開放すれば・・・>>


 (・・・璃都ちゃん)


 あのことを気にしていたのか・・・。

 いや、もしかしてそれ以前からずっと・・・。


 確かに彼女には力がある。

 それも桁外れに魅力的な・・・人が一度は夢見る力を・・・。

 その夢のような力を、この小さな少女は秘めている。


 知られてしまうと危険だ。

 そう思ったからこそ俺は何があっても干渉するなといった。


 これは命令。

 プログラミング的な存在である彼女はその命令には逆らえないはずだ。

 しかし、彼女はその制限の許す限り、意思を持って干渉しようとしている。


 存在意義、レゾンテートル。

 例えシステムの根元にそのようなモノが書き込まれたとしても

 彼女の抵抗は人の感情のように熱を帯びていた。


 そんな彼女と接していると逆に自分が機械のように

 冷たく無機質な存在に思えるのだから不思議だ。

 まあ、人としての俺はあの時死んだも同然なのだが・・・。


 彼女を見返す。


 失ったモノ、二度と取り戻せないモノ。

 故に人のように豊かな感性を持った彼女が余計に眩しく映るのかも知れない。



 もう、限界か・・・。


 そんな彼女を見て俺は改めて覚悟を決めたのだった。


 (・・・わかった。だったら手伝ってもらうよ。

 今から指定する宇宙図の最新情報を更新、そして今から言うプログラムツールの作成。

 最後にやってもらいたいことがあるけど、これはまあ後に・・・)


 <<アキト様>>


 (どうした?)


 <<今までと変わらないじゃないですか!私は・・・>>


 (璃都)


 駄々こねる彼女を見つめ諭すよう話す。


 (ひとつだけ断言しておくよ。

 『そよかぜ』乗組員の命と璃都の存命、

 どちらかを選べといえば俺は迷わず後者を選ぶ。

 存在が少しでもバレそうになれば

 俺はお前を連れて『そよかぜ』からも軍からも逃げる。

 この世界でお前以上に大切な存在はいない。

 故に存在が漏れる可能性があるとすれば俺は何が何でも避けて通る。

 例えどのような結末が待ち受けても・・・)


 <<アキト様・・・>>


 その大胆な告白に耳までトマトが沸騰したよう、赤く染めて俯く璃都。

 例え秘密を守るために我慢しろと言われても

 こう言われたら彼女に反論など出来はしない。


 (わかったね)


 と微笑みながら釘を刺す。

 そんな俺を拗ねた眼差しで見上げるのだった。


 <<うう、なんだか前の時といい、騙され続けている気がしますけど・・・わかりました>>


 (別に騙していないよ)


 言ってまた笑う。

 そう、本題はこれからだった。


 (いくら馴染みの艦でも『そよかぜ』に対して

 直接権限を解き放つことは許さない。

 でも『俺』を通して振舞う分には全く問題ない)


 <<えっ!アキト様・・・それは・・・>>


 彼女の瞳が驚愕に揺れる。

 だが最後まで言わす気はなかった。


 (言いたいことはわかるけど却下。

 言われた通り、今の『そよかぜ』はとてつもなくピンチだ。

 誰かさん達が俺たちの気持ちなど知らず暴れているのを差し引いてもだ。

 ただ、どのような事情だろうとお前の存在が知れ渡るのは避けなければならない。

 しかし、それでもこの事態はなんとかしなければならない。

 まあ、妥協案だ。とにかく俺が少し我慢すればいい)


 <<ですがアキト様が・・・>>


 (そんな顔をするな、全ての問題を一気に解決出来る素敵な名案なんだ。

 一つの決断を迫ったと考えるとあいつ等の好き勝手な振る舞いも

 何かの意義を持っているような気がするから不思議だ)


 <<・・・わかりました、決意は変わらないのですね>>


 (ああ、俺の全てをお前に預ける。存分にやってくれ・・・)


 <<・・・・>>


 (どうした?)


 <<い、いえ・・・何でもありません。では・・・>>


 恥ずかしさのあまり慌てて返事し、急いで俺の意識から離れようとする、

 が唐突に立ち止まって心配そうに見上げる。


 <<あの・・・アキト様、大丈夫です・・・よね?>>


 離れ間際に放つ彼女の言葉。

 その問いに俺は微笑みながら返すのだった。


 (ああ、大丈夫だ)


 <<わかりました。では>>


 そんなアキトを見て安堵の表情を浮かべた彼女が今度こそ立ち去ろうとする。

 そんな彼女をずっと見続ける俺。



 融合してわかったこと。

 それは彼女が俺にさえ見せるのを拒む心の傷、

 深い闇を人知れず背負っているということだ。


 彼女は俺を慕っている。

 それは間違いない。

 しかし、その心の赴くまま俺に尽くし、全てを見せているようでも

 深い一定の領域には如何なる者の進入も許さない鋼鉄の扉がある。



 拒絶。

 そのことは融合以前から薄々感じていた。

 しかし、不思議とそれが不愉快だとは思わなかった。

 それこそが彼女に惹かれた理由でもあるのだから・・・。


 わからない。けれど興味はある。知りたいと思う。

 多分俺が強く命令すれば泣きながら語ってくれるだろう。


 だが、そんなことはしない。

 似たような傷を持つ者としてそのようなことなど出来やしなかった。


 融合する遥か以前から気付いた彼女の傷・・・背負うべき使命・・・。

 それを感じてしまったから、俺は心に一定の境線を引いて

 今まで距離を置いたのかも知れない。


 そう、認めてしまうのが恐かったのだ。

 認めてしまったら自分が自分でなくなる。

 知ってしまうと全てを受け入れてしまう。

 そして迎えるべき終焉。


 それがわかったのだからこそ彼女は俺に対して隠し通そうとするのだろう。

 無駄に付き合いが長かっただけにそんな気遣いがわかってしまう。


 だから俺もそのことにあえて触れない。

 融合以前と同様、知らない振りをする。


 いつか彼女も己の存在意義により俺の傍から離れる日がやって来る。

 それは生まれながら使命を与えられた者の宿命。

 だが、あえて止めたりはしない。


 本来ならとっくに離れてもおかしくなかったのに、ずっと傍にいてくれた彼女。

 権限の許される限り俺に尽くした彼女に俺が出来るのは受け入れることのみだ。


 彼女の幸を願う。

 彼女を縛る全ての戒めを解き放つことが出来れば・・・、

 彼女の存在を脅かす全ての脅威を取り払うことが出来れば・・・。

 俺は悪魔にさえ魂を売る。



 「悪く思うなよ」


 未だ争いを繰り広げているヤマモト達を意識しながら呟く。

 その呟きの意味は語った本人しか知らない。






























 『そよかぜ』各ブロックでの交戦は大規模な被害を被りつつもヤマモト達に軍配があがろうとしていた。

 クーデターの首謀者ともう一人は逃したものの、殆どの叛乱勢力を抑えることに成功したヤマモト達。


 「サカイ少尉、貴方のおかげでここまで無事に事を運ぶことが出来た。礼を言う」


 「よせよ、副艦長殿にそのように言われると痒い。

 俺はやることをやっただけだ」


 野性味あふれるルックスで屈託のない笑みを浮かべるサカイ・コジロー少尉。

 その姿をヤマモトが複雑な面影で見る。


 「しかし、何故君ほどの者がこの『そよかぜ』に・・・」


 「上司との衝突」


 ヤマモトの疑問に即答するサカイ。

 その言葉を聞いて唖然とするヤマモト。


 「それだけの理由で惑星連合宇宙軍きってのエースパイロットがここに・・・」


 とそのまま嘆く。


 「それを言ったら副艦長の方がずっと酷いんじゃないのか?

 惑星連合全仕官学校の筆頭、そしてあの格闘術・・・、それが『そよかぜ』だもんな〜。

 クックック、しかし、あいつ等の顔は見物だったぜ」


 そう言って笑うサカイ。

 そんなサカイを置いて暗い顔で物思いにふけるヤマモト。


 「副長?どうかしたのか?」


 「いや、なんでもない。少し考え事をしただけだ」


 「はあ、・・・じゃそういうことにしておくか・・・」


 釈然としない態度でサカイ。

 そして気持ちを変えるよう悪態つきながら次のような事を語り始めた。


 「しかし、うちの艦長ってそんなに凄いのかね?

 俺には副長やアンドレセン達が入れ込むほど凄い人には見えないんだけどな。

 副長は艦長の何に入れ込んでいるわけ?」


 「・・・一度じっくり話す機会があればわかるさ・・・」


 「そんなものかね」


 と能天気に返すのだった。

 そして暗く自嘲的な表情を浮かべるヤマモトを見てこの話はここで締めくくろうと決める。


 「まあ、とにかくこれで私たちの役目は終わった。

 後は掃討戦、残りは他のクルーに任せて私たちはブリッジに・・・」


 と、この話は終わったとばかりに気持ちを切り替えようとするヤマモトだったが・・・。


 「残念だが俺たちの勝利だ。副艦長殿」


 強制的に繋げられた艦内回線にヤマモトの表情が強張る。


 「アンドレセン!」


 「正直、副艦長殿がここまでやるとは思わなかったぜ。

 就任してきた今までの艦長たちよりも遥かに優秀だ。

 だが迂闊だったな。ここは俺たちの艦だ。

 副長が味方だと思ったクルーの中にも俺たちの仲間はいる。

 あんたの云う組織力にはハナッから穴があった訳だ」


 「他の人たちは無事だろうな」


 「ああ、今のところ手出しはしていない。

 だがそれもあんたの態度次第だ。

 とにかくブリッジに来い、話はそれからだ」


 睨み付けるヤマモトを涼しげに受け流すアンドレセン。

 とりあえず彼の言う通りヤマモト達はブリッジに赴くしかなかった。





























 私たちにはどうすることも出来なかった。

 隔壁閉鎖で海兵隊を少人数で孤立させ、ヤマモト大尉達が各個撃破していくまではよかったけれど

 その内一部のクルーがアンドレセン中尉達と通じて一部の隔壁をオープン、

 ヤマモト大尉達が他の海兵隊の方たちと渡り合っていた時に

 アンドレセン中尉の別働隊がブリッジに殺到、

 何も抵抗出来ないままブリッジは制圧されてしまった。

 ブリッジで捕らえたクライバーン特務曹長らは開放され、

 変わりに私たちが銃を突きつけられて自由を失う。



 「ようこそ、副艦長殿」


 勝者の余裕とばかりのアンドレセン中尉にヤマモト大尉が彼を見上げ。


 「で、一体どうするつもりだ?

 言っておくが貴様らの要望には応えられないぞ」


 勝敗が決しても強気なヤマモト大尉。

 アンドレセン中尉はそんな彼を涼しげに見下す。


 「相変わらず固いね。副艦長殿、

 なに、聞きたいことがあるだけだ。

 今回はあんたの頑張りに免じてそれで勘弁してやる」


 「聞きたいことだと?」


 真顔で聞き返すヤマモト大尉。

 これだけ大掛かりな事をしでかす者達の聞くことが穏やかなことであるはずがない。


 「ああ、聞きたいことさ、副艦長殿は一体上層部からどんな命令を賜ったのか?とかな」


 「アンドレセン中尉、ふざけているのか?

 例え指令が下されたとしても軽はずみに打ち明けるとでも思ったのか?」


 おどけるように打ち出すアンドレセン中尉に、ヤマモト大尉が静かに怒りをあらわにする。

 まさかこんな不毛な問いを軍人である者が尋ねてくるとは思わなかったばかりに・・・。

 同じ軍人としてアンドレセン中尉も、その点に気付いて話を切り替える。


 「あ〜、わかったわかった、

 どうやら質問の仕方が間違ったようだ」


 と観念したように左手のひらを振るい笑うアンドレセン。

 しかし、その瞳は笑っていなかった。


 「じゃ、改めて問う」


 それを証明するよう、アンドレセン中尉の表情から笑みが完全に消えた。


 「この『そよかぜ』が本来の姿に戻る時が来たのか?」

















































 「・・・意図することが見えんな、一体どういう意味だ?」


 何のことだ?とばかりに問い返そうとするヤマモト大尉。

 しかし、驚きは隠し切れていない。


 「あんたが正直者で助かったよ」


 その態度から満足のいく答えを得たとばかりにアンドレセン中尉。

 ヤマモト大尉もそのことを認め、誤魔化すのを諦める。


 「本当だとしたらどうする?」


 先ほどとは打って変わったヤマモト大尉の真摯な問いに

 アンドレセン中尉はその答えを溜め息と共に返すのだった。


 「・・・非常に残念だが今度こそ本当のクーデターになる。

 副艦長殿、艦の進路を変更しろ。副長殿の権限でも針路変更は可能なはず。

 ちなみに今度は冗談じゃ済まない」


 ブラスターを取り出し脅す。

 先ほどのやり取りが全て遊びだとばかりのアンドレセン中尉の気迫、

 背けば文字通り無事では済まない事が感じられた。

 しかし、ヤマモト大尉の言葉は変わらない。


 「断る」


 躊躇うことなく即答、その返事に海兵隊員の雰囲気が険しくなる。


 「きさま〜、どうやら痛い目に遭わないと気が済まないようだな」


 クライバーン特務曹長が怒りに震えるが・・・。


 「まあ、ミッキー、とりあえず落ち着け、話はまだ終わっていない」


 アンドレセン中尉がやんわりと抑える。

 そしてヤマモトに視線を戻し冗談を打ち消した真剣な面影で語りだした。



 「副艦長さんよ。あんたは本当に偉いよ。

 この『そよかぜ』のたどる末路をを知っても尚、乗艦してくるのだからな?

 だが俺たちはどうなる?あんたと違って選ぶ権利の無い俺たちは?

 運命だと思って受け入れろってか?

 ・・・冗談じゃないぜ。何故俺たちがこんな目に遭わないといけない。

 何故俺たちが選ばれなければいけないんだ!


 「やめろ!スターさん達の前でそのようなことを言うな!」


 アンドレセン中尉の話、ヤマモト大尉の制止、

 それらが意味すること・・・。








 「・・・一体どういう意味ですか?」


 聞かずにいられなかった。

 後ろから銃器を突きつけられたことも忘れ彼らに問う。



 ・・・『そよかぜ』が本来の姿に戻る時・・・


 その言葉が持ち出されてから彼らは変わった。

 いいえ、気付かされた。

 彼らが冗談で事に望んでいないことに・・・。

 不自由を強いられていたことさえ忘れてしまう。

 ジャーナリストとして使命よりも人として知らなければいけないような気がして・・・。


 「・・・そういえば部外者がいたな・・・あんたに梃子摺(てこず)ってすっかり忘れちまったぜ」


 そう言って苦笑、本当は私達の前で言うつもりはなかったのでしょう。

 しかし、アンドレセン中尉は最後に私の気持ちを認め、その疑問に答えてくれました。


 「お嬢ちゃん、人間魚雷という言葉は知っているか?」


 「人間魚雷?」


 「敵を沈める為の、爆薬を積んだ魚雷に命中度を増すため中に人間を入れる兵器、

 日本式で『回天』、まあお嬢ちゃんには『神風』の方がわかりやすいかも知れないが・・・」


 『回天』、『神風』

 共に敗戦間際の追い込まれた日本が生んだ特攻部隊。

 父が日本人だからそのことを知る機会はあった。

 話は続く。


 「20年前のラアルゴンとの戦いで惑星連合は存亡の危機に陥った。

 戦えば連敗、重要な要所は全て抑えられ、挙句の果ては最終防衛ライン突破だ。

 今思えば何で滅びなかったのか不思議だったよな」


 幼い頃見たラアルゴン侵略時の宇宙図を思い浮かべる。

 オリオン腕のあらゆる航路を深く根をおろすよう進出する赤く太い矢印達。

 殆どの宙域と要所を埋め尽くす赤い点、一部は地球の月軌道上まで到達していた。

 しかし、ある時を境にラアルゴン帝国軍は全て撤退する。

 その原因は未だわからない。


 「・・・っと、話を戻すぜ。

 『回天』と『神風』は日本独自のものだったが

 あの当時の惑星連合は色んな面で追い込まれていた。

 そんな心理的に追い詰められた一部のお偉いさんが

 日本の特攻隊の例を参考に極秘に建造した駆逐艦があった」


 まさか・・・。


 「それが『かみかぜ』、駆逐艦『そよかぜ』の本当の名だ。

 名付け親の神経を疑いたくなる名前だよな。

 9・19の奇跡以降、出番がなくなったので物騒な『かみかぜ』の名を『そよかぜ』に変えたわけだが

 戦争が始まった途端、また真の姿に戻ると言うわけだ。

 ただ、俺たちが玉砕して敵を上手く葬れば第二、第三の『かみかぜ』が建て続けて造られるんだろうな・・・」


 やってられないぜまったく、と悪態つきながら嗤うアンドレセン中尉に

 私はなんと声を掛ければいいのかわからなかった。


 「・・・詳しい原理はわからないが機関に対消滅反応を起こさせ半径1万キロ辺りの全ての敵を消滅させる。

 まあ、簡単に言えば動力機関に巨大な爆弾を積んだ現代版の『かみかぜ』だ。

 俺たちは敵の大艦隊に向けこの大型爆弾を至近距離まで安全に運び、運命を共にする。

 素直に任務を果たそうとすればそうなるな」


 等と嗤い続けるアンドレセン中尉を見て次々と理不尽な怒りが沸き起こる。


 私は真実を求めて軍艦に乗って来た。

 軍の黒い噂を突き止めるために私は乗船してきた。

 でも・・・、あの戦争から20年、『あの者達』は何も変わらず、

 相変わらず人々の犠牲の上に君臨し続けようとしている。

 それが何より許せない。

 するとアンドレセン中尉達の行動も好感が持てた。


 そして私との話は終わったとばかりに切り上げようとする。


 「俺たちも堅気の者にこんな話をする気はなかったがな・・・っと話は以上だ。

 副艦長殿、艦の進路は変える気はないか?」


 「・・・一体何をする気だ?」


 「惑星連合でもラアルゴン帝国でも無い第三勢力へと亡命する。

 一応の手筈は整えた。後は艦と俺たちだけ行けば受け入れてもらえる」


 「そうか、その様子を見る限りでは、かなり前から計画を立てていたのだな。

 しかし、残念だ。そこまで知っていたのなら何故私に相談に来なかったのか、

 まあ、上層部と繋がっていると疑われている私に相談というのも無理な話か・・・。

 非常に残念だが作戦が発動した今となってはどうすることも出来ない」


 ヤマモト大尉の気が変わることはなかった。

 様子だけ見たら彼が前向きに考え始めたというのはわかる。

 そして、本当にどうしようもないことも・・・。


 「・・・あんたを殺して艦長を脅してもいいのだぞ」


 ブラスターをヤマモト大尉の眉間に向け標準を定める。

 が、やはり彼の気が変わることは無い。


 「それが不可能であることはアンドレセン中尉、貴様も身をもって感じているはずだ」


 その言葉に歪むアンドレセン中尉。

 沈黙が辺りを包み込む。

 しかし、このままいけば確実に最悪の事態を迎える。



 お互い不器用な者同士、

 この後に起こる殺伐とした予感をブリッジの全ての人たちが抱いたその時・・・。





























 「あアァ〜!


 緊張したカトリ中尉の言葉に皆が操舵席に注目する。


 「ワープの兆候確認!!」


 続いてキム中尉が張り詰めた様子で叫ぶ。



 「「「「何!!?」」」」


 「至急ワープ制御の解除を急げ」


 驚く面々、指示を出すヤマモト大尉。

 しかし、カトリ中尉の返事は見事にヤマモト大尉を裏切るものだった。



 「駄目です。入力を受け付けません!!」


 「座標は?」


 「わかりません!」



 ランダムワープ。

 脳裏を掠る危険な不確定要素の空間跳躍。

 現在の科学力でも解明不能な4次元世界での空間跳躍は座標を固定しないと

 元の3次元世界に戻れず、そのまま亜空間の世界に閉ざされる恐れがある。

 仮に具現化出来ても、その場所に惑星やアステロイド群などと座標が重なってしまったら・・・。





 「全員、時空震衝撃に備えろ!」


 ヤマモト大尉の指示を最後に『そよかぜ』は跳躍する。









































 「・・・皆・・・無事か?」


 空間跳躍から無事だったのを確かめるが如くヤマモト大尉がブリッジの方々に声をかける。


 「ああ・・・助かったようだぜ」


 アンドレセン中尉がグッタリした様子で返事。

 ランダムワープの危険性を熟知しているだけに気疲れしたのでしょう。


 「「ええ、私たちは無事ですわ」」


 ユミィたちの無事も確認し。


 「俺たちも無事だぜ」


 サカイ少尉と海兵隊員の安否も確認。


 どうやら私たちは助かったようです。

 ですが本当の危険はこれからでした。



 「前方1万2千キロよりエネルギー反応、ラアルゴン艦隊です。その数32隻」


 そう、本当の危険はこれからでした。






その5