走り続ける。

 幾層ものグロックを走り抜けては突き進み、5分も経たぬ内に格納庫へ到着する、

 一際目立つ己の僕(しもべ)、整備の行き届いた漆黒のボディー。

 科学が急速に発達したはずの者たちでさえ未知なる技術と云わしめた相転移エンジン搭載型の人型兵器。

 普段なら根堀足堀で問い詰められるはずの宝物なのだが、

 そのことで彼らから問い詰められたことは余りない。



 提督曰く、「気にはなるが余裕がない」だそうだ。

 いくら革命的な発見をしたとしても即戦力として使えなければ手に余る荷物でしかない。

 生きて帰ればじっくり解明してやるぞ、ガハハ、と笑われた時のことを思い出す。



 ボディーの関節に巧みに足を引っ掛けては目当ての場所まで登り切る。

 コックピット入室、手馴れた手付きで機械を操作し相転移エンジンを始動させる。

 <・・・システム・・・各部電動系のブートアップ開始・・・>


 次々と開かれるオーロラ-ウィンドウ。

 そこに表示されたデータ-を確認しながら機器を巧みに扱っていく。


 彼らは生きて帰れるのだろうか?

 俺がここで頑張っても彼らとは二度と会えなくなるのではないだろうか?

 不吉な予感が脳裏に霞んでは消える。



 <ブーティング終了・・・システムオールグリーン・・・ログオンお願いします>


 考えるのはよそう。

 目の前のことに集中するんだ。


 IFSを起動、己のイメージをサレナの中核と同化させる。


 <<初めまして、アキト様>>


 不意に表れた見慣れない乱数。

 腰まで届く長い銀髪をポニーテールで纏めた

 発育のよい16歳前後の小娘。


 (誰だ?)


 己のイメージに割り込んだ情報に不愉快な思いを込めて問う。


 <<"璃都”(リト)と申します。アキト様のサポーターとしてハナー提督より遣わされました>>


 (AIか?)


 昨日までなかったプログラムに戸惑うが璃都と呼ぶものはその疑問には答えなかった。


 <<時間がありませんので詳しいことは後に述べます>>


 機体が揺れる。

 正確には足元の床が自動で動き、素早くカタパルトの発射台に乗せられる。

 そして目の前に写る格納庫のハッチが前後に開かれた。

 どうやらこのAIは旗艦と繋がっていたらしい。


 <<カタパルトの与圧が始まりました。カウントダウン開始します。10,9,8,7・・・>>


 末恐ろしく早いスクランブル発進だな、と思いつつ発射後のGに備える。


 <<0、発射します>>


 勢いよく弾かれる愛機、想像通りの・・・いや想像以上のGが全身を蝕む。

 その状態が暫く続き苦しみに悶える。

 そんな中で見渡す宇宙は流星のように己の周りを凄まじい速さで通り過ぎてゆく。


 <<高機動ユニット1、分離>>


 何かが弾かれるような音と共に身が軽くなる。

 加速は続いていたが先ほどのように息苦しくない。

 全身を仰け反らせ酸素を求めて呼吸する。

 気が付けば漆黒の海、辺りを見渡しても惑星連合の艦隊は一隻も見当たらない。


 (一体、俺の居ない間に何をした?)


 理不尽な思いに身を任せイメージの向こう側の少女に怒鳴りつける。


 <<失礼しました、ドック様がお別れのプレゼントだということで

 内密にブースターを改造したの報告するのを忘れていました>>


 改造ね・・・まるで誰かさんみたいだ。

 ウリバタケさんを思い出す。

 もっとも彼はパイロットの安全を優先するので比べたら失礼だろう、

 ジョーク爆弾を送りつけるだけのことはある。

 人体の影響を考えないところが憎たらしい。



 <<その状態のままでよろしいので聞いてください。

 今から3分後に敵ラアルゴン艦隊の第一波と接触します。

 アキト様の任務は全速力で攻め寄せる敵第一波を10分間ギリギリまで足止め、

 頃合になりましたらジャンプで戦場から離脱してください。

 第二波も続いていますがこちらの方は相手にしなくて結構です>>



 参った。

 まさかブラック・サレナのジャンプフィールドの存在を感知していたとは・・・。

 案外、俺の予想以上に調べ尽くされたのかも知れない。

 まあ、考えても仕方ないか。



 雑念を取り払い、己の意識を広範囲に解き放つ。

 ブラック・サレナの感覚センサーを通して周りの情報を取り込み、イメージに変換させる。

 近くに漂うゴミ屑を始め徐々に・・・徐々に・・・。

 やがて目標の26の固体まで補足しそれらをイメージとして認識させようとするが、

 唐突に不快な乱数がイメージに割り込み、強制的に閉ざされる。


 (何をする!?)


 極限まで精神を集中する行為を邪魔されて苛立ちが募る。

 その激しい怒りをモノともせず少女は淡々と事務的に語る。



 <<アキト様、イメージを全方位で補足するその方法では長時間保ちません。

 何より弱りきっているアキト様の現在の体調では神経が焼き切れる恐れがあります>>



 (じゃあ、どうすればいいんだ!)


 <<私を上手く使いこなしてください>>


 AI如きに振り回される現状に苛立ち、反発するが、

 イメージ越しの彼女は俺の瞳を真剣な眼差しで見詰め返す。


 <<アキト様は機体の制御のみに集中なさってください。

 周囲と敵の状況は私がアキト様のイメージに重ねる形で支援致します。

 まず、サレナの四股のみに意識を集中させてください>>



 始めは何を云っているかわからなかったが

 先ほどの真剣な眼差しを思い出し、云われた通り周りのイメージを閉ざし・・・

 ブラック・サレナのボディーにのみ意識を集中させる。


 己以外は漆黒の闇。

 電動系の各部振動と鼓動が手に取るように伝わる。

 光の信号でさえダイレクトに感じることが出来る。

 極限まで支配が進む。


 刹那の瞬間、唐突に漆黒の闇が振り払われた。



 勿論、俺は何もしていない。

 ただ、目を通して普通に覗くような感覚でイメージが勝手に飛び込んでくる。


 その意識の中央にただすむ、ひとりの少女。


 <<お疲れ様でした。前方より敵ラアルゴンの戦闘機12機を補足。

 戦闘領域に突入しましたので頑張ってください>>


 まるで何処かに遊びに行かせるような手軽さで戦に誘(いざな)う。

 その言葉に釣られる形で訳もわからず戦闘に挑むのだった。










 敵の動きが完璧に読める。

 俺の中で彼らの動きが正確にトレースされ、

 攻撃、運動性等の細かいデータ-がイメージに再現される。


 パイロット達の呼吸が読めた。来る!!

 6・3・3の陣列を組んでは高速移動で攻め寄せる。

 俺も彼らに合わせてバー二アを吹かした。



 初列の6機がサレナーのコックピット目掛けてレーザーを放つ。

 ピンポイント射撃!

 だが、彼らの腕が余りにも良過ぎたことが不幸の始まりだった。

 イメージで彼らの射的ピットポイントを紙一重でズラしてはかわす。

 第2、3列からの援護射撃。

 反撃を防ぐための保険だったのだろうが全て予測済みの俺には虚しい足掻きでしかない。



 今度はこちらの番だ。

 体勢が殆ど崩されなかった状態で12機の戦闘機とすれ違う。

 第1列の2機を至近距離から射撃、共に撃破。

 第2,3列目はすれ違いざまに1機ずつ。

 最後に離れ様から放った長距離射撃で3列目のもう1機を爆破させる。



 残り7機がチリジリと離れた。

 退却では無い。俺の力量を正確に把握した上での一時的な撤退。

 惑わすようにクルクル回る飛行を維持し離れた所から徐々に体勢を整える。


 どうやらこちらの機動性の乏しさを見切られたようだ。

 瞬時に5体を失ったにも関わらず大した者たちだ。

 狙ってもよかったが折角もらった時間を有効に活用しない手は無い。



 レーザーライフルを片付け、テールバインダーを通してグラビティーカノンに持ち替える。


 (喰らえ!)


 相転移エンジンから搾り出した重力波を手前の巡洋艦に向けて解き放つ。


 黒い奔流の一閃、


 その奔流がバリアーを突き抜け敵巡洋艦を両断、爆沈させる。


 素早くレーザーライフルに切り替え呆然としている7機をロックオン、



 バンバンバババババーン



 七連続射撃、造作なく爆破させる。


 (まだまだ、いくぞ!)


 目前の敵を消し去り今度は余裕を持って武装を切り替える。

 そして2射目の重力波が手頃な駆逐艦に向けて解き放たれた。








 敵艦隊は混乱を極めた。

 初めて見る惑星連合軍の人型兵器に戦闘機が虚しく撃破されたこともさることながら

 たかが小型兵器に一撃で巡洋艦と駆逐艦が沈められるのを見て形振り構わなくなってきたのだ。

 全ての艦載機を急いで放出する。

 その数122機。


 しかし、数が多いと云って必ずしも有利という訳ではない。

 限られた戦闘領域、その全ての空間を完璧に掌握したアキト機と

 混乱して他の部隊との連帯も取ること無く数で押し込めようとしたラアルゴン。


 物量で押し切れたら何も問題なかっただろう。

 しかし、結果として彼らは悪夢を見る。



 降り注ぐ粒子の雨を可憐に舞うように避け続け、一機ずつ確実に葬り去る黒い影、

 時間が経つにつれ興奮気味の兵士達は黒い影を死神として捉えていく。



 恐怖は伝染する。

 味方のみが撃破され圧倒的な銃弾の嵐を見舞っても敵の兵器は無傷でかわし続ける、

 そして死神に魅入られた者たちは確実に葬られ、運悪くすれ違った者たちは死に誘われる。

 時間が経つに連れ、その思いは確かな形で現実となり、

 戦闘機乗りを中心に死神の恐怖が伝染し始めた。


 艦隊の者たちも例外では無い。

 戦闘機乗りたちの悲鳴、嗚咽、嘆きの声に乗組員達の理性が狂わされ

 隙をついて放たれる敵の新型兵器はバリアーごと艦を両断する。

 その信じられない位の常識外れの出来事に一部の艦長たちが理性を失っては暴走し、

 黒い死神に向けて対宙砲火を乱発するが、当然死神にはかすりもしない。

 逆にラアルゴン戦闘機が味方の対宙砲火の巻き添えにあい、同士討ちの恐怖にも震える。




 交戦開始から7分12秒。

 旗艦らしき戦艦を重力波砲で撃沈することによって

 ラアルゴン艦隊第一波は部隊としての機能を完全に失った。

 巡洋艦2隻、駆逐艦5隻、護衛艦4隻が未だ健在とはいえ交戦意志は感じられない。

 戦闘機は撤収している。



 <<お疲れ様です>>


 (初めから戦艦を狙えばよかったね)


 一対多数の圧倒的な物量差。


 正直、ブラック・サレナの性能がこの世界の科学水準より上ということはない。

 相転移エンジンから繰り出すグラビティーブラスト、ディストーションフィールドが

 彼らの目に注目されることはあってもその他は乏しい。


 俺でさえこのような結末は期待していなかった。

 とにかく動いて動き回って時間をかけて足止めする事しか考えてなかったのだ。


 だが、蓋を開けてみると完全なる勝利だった。

 このような反則的な展開を可能にしたのは彼女のサポートのおかげ、

 決定的に欠けたものを完璧に補った彼女だからこそ可能だったのだ。

 正直、これほどの技術を持つ惑星連合がラアルゴン帝国に敗退され続けたという

 事実が信じられなかった。


 (君は一体何者なんだ?)


 穏やかに問う。


 膨大な情報を瞬時に処理する演算能力。

 人格を有しているとしか思えないほどの豊かな感性。

 それでいて長年付き添った仲のような親しさと馴染みやすさ。

 彼女と一体化した時の俺は確かな安らぎを覚えた。



 この感覚には見覚えがある。

 この全てを把握する力は

 あの時、提督を助けた時と酷使しているような・・・。



 <<生き残った時のご褒美として取っておきます♪>>


 彼女は俺が何を考えているかなど気にすることなく、

 ただ弾けるような微笑を浮かべて問い返すのだった。







 
バアァァーン



 サレナーの真上を一閃する光の奔流。

 気持ちが冷めるほどの粒子の流れが漆黒の空を貫通する。

 ラアルゴン帝国砲撃艦から放たれた長距離砲火。




 その光景に身震いした。

 旗艦に居た時はわからなかったが間直で見ると凄い迫力だ。






 「遅かりし復讐者よ」




 ドクン



 唐突に始まる不快な脈動。

 彼らは大丈夫だ、と理性で訴えても弾き出された感情は元に戻らない。



 「ククク・・・怖かろう、悔しかろう、いかに鋼の鎧を纏おうと心の弱さは護れないのだ」



 ドクン



 <<アキト様!?>>


 異変を察知した彼女が俺の意識に強制介入するが逆に彼女のイメージを食い破る。



 「叶わぬ夢を抱きながら滅せよ」




 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン・・・




 数々の映像が浮かんでは消える。



 <<アキト・・・アキト・・・>>



 彼女の声はもう届かない。




 「
北辰!!



 破壊の衝動に魅入られたまま獲物を目指す。





 その後の展開は一方的な虐殺だった。

 前の戦での後遺症を引きずった残存艦隊に戦意が残っているはずもなく、

 抵抗し様が逃げ続けようが彼の目に映った者は恐怖の中で死んでいった。

 悲鳴と嘆きが戦場を埋め尽くす。

 彼らが本当の安らぎを得るまでは・・・。






































 <<第一波、全滅しました>>


 無機質な声が響く。

 その一言で一応理性を取り戻すが暗闇が取り払われることはない。

 限りなく深い奈落の底に落ちていく。


 <<頭部中破、各部センサー小破、ジェネレーター小破・・・ジャンプフィールド大破しました・・・>>


 攻撃衝動に任せて守るという考えはなかった。

 何より彼女の支援を振り切った。

 それでも敵が逃げ腰だったおかげでやられはしなかったが・・・、

 流れ弾の当たり所が悪かったとしか言いようがない。




 大切な者のため・・・?

 血を求めていただけじゃないか?

 相手を呪いたかっただけじゃないか?


 所詮、血塗られた宿命。

 己の過去から逃れることは出来ない。

 この狂気こそがその証。



 ・・・もう疲れた。

 ジャンプフィールドが壊れたのも良い機会だ。

 迫り寄せる第二波を道連れにして最後を飾ろう。

 俺にはそれでも恵まれた結末だ。



 <<アキト様、提督より通信です>>


 (繋いでくれ)


 その一言で繋がる。


 映りだされるのはこの世でもっとも世話になった老提督。


 「気分はどうかね?少年」


 「まあまあ、です」


 本当は最悪の気分だが最後の通信だと思い、作り笑顔で応える。


 「そうか、とにかく少年のおかげで我が艦隊は無傷で危険領域を通過することが出来た。

 改めて御礼を言わせて貰おう」


 その一言だけで報われた気持ちになる。

 潔く終わりを迎えることが出来る。


 「寂しいがそなたともこれでお別れじゃろう。

 また縁があれば会えるじゃろうが、もう時間もあるまい。

 さあ、早く戦場から離脱してくれ」


 誤魔化してもよかった。

 けれどこの時の俺は最後くらい正直に生きたかったので本当のことを洩らしてしまう。

 そのことがあれほどの波乱を運んで来ようとは・・・。


 「そのことですが・・・

 肝心の切り札が壊されて途方に暮れている所なんですよ。

 ははは・・・」


 無意識に内容そのものが提督を試すような言葉になっていることに気付き、

 誤魔化し笑いと共に自分のドジで迷惑かけてしまったとフォローしようとしたのだが、

 提督から帰ってきた言葉は俺の予想を遥かに裏切るようなものだった。


 「むう、そうか・・・結局脱出来なくなったか・・・。

 仕方あるまい、少年には悪いが我々のためにもう人肌を脱いでくれ賜え」



 別に死ぬことに未練はない。

 だが、提督から伝わる異質な気配。

 本能的に知ってはいけないモノに触れているような危険な感覚。

 その感覚が今すぐ通信を切れと叫び続けている。



 「実はそんなこともあろうかと

 密かに少年の愛機に自爆装置を取り付けたんじゃ。

 恐ろしく強力な奴でのう。

 ひとたび爆発すれば少年の側に集結しつつある。

 ラアルゴン艦隊など軽く全滅できる位じゃ」


 自爆装置・・・。

 物騒な言葉を気軽に放つ見知りの提督。

 信じていた何かが粉々に砕かれ様としていた。



 「時間さえあれば我々のモノとなるものを・・・

 まあ、無い物ねだりをしても始まらんが

 だからと言ってやすやすと敵の手に渡す位なら

 自分の手で・・・と思うじゃろう?

 という訳で保険をかけたんじゃ。

 それでも正直使わずに済ましたかった・・・」



 知らなければよかった。

 聞かなければ安らかに死ぬことが出来た。

 でも知ってしまった。知ったからには後には戻れない。

 開いてしまったパンドラの箱は閉じたからといって元に戻らないのだから・・・。



 「少年が悪いんじゃよ。

 私の云う通りに早く脱出しておれば

 直々に手を汚すこともなかっただろうに・・・

 なあに、寂しくはないさ。

 もう少しで少年の所にたくさんの者達を送ってあげるから

 先にあの世で待っておくれよ。

 では、さらばじゃ」


 画面がブラックアウトする。

 しばらく、虚空に染まった通信画面をぼんやり眺める。



 確かに勝手に暴走した俺の責任は重い。

 その余りにも馬鹿さ加減と、己の薄汚れた本性に死のうと思ったりした。



 でもあんまりじゃないか・・・。

 信じていたのに・・・信じていたのに・・・。



 <<敵第二波との戦闘領域に突入!!高エネルギー反応接近!!>>



 余りにも大きく響く声にディストーションフィールドを反射的に全開で張る。



 
バアァァァン



 勢いを殺しきれなかった衝撃が全身を隈なくたたきつける。


 <<ラアルゴン艦隊からの一斉射撃です。

 こちらからは射程外のため、反撃不可能です>>



 敵艦隊から放たれ続ける嵐のような対宙砲火。

 その圧倒的で容赦のかけらもないやり方に

 反撃はおろかその場から少しでも動くことを許さない。


 文字通りの嬲り殺し・・・まるで親の仇でも討つかのような勢いだ。

 バチがあたったのだろう・・・死ぬことに躊躇いはないはずだ。

 寧ろ、このような無様な死に様こそが俺に相応しいとさえ思う。


 しかし、現実の俺は操縦桿を強く握り締めて

 ディストーションフィールドの強化を強く念じ続けていた。

 焼け石に水でもひたすら・・・。


 いかにビーム兵器に強硬な特性を持つディストーションフィールドとはいえ

 数十隻にもおよぶ艦隊の集中砲火から無事であり続けるなど不可能なのだ。

 防ぎきれなかった余波がブラック・サレナの追加装甲にダメージを与え続けていく。


 <<高機動ユニット2,3共に大破、ジェネレーター中破、手腕部の追加装甲が剥がされます・・・>>


 次々と飛び交う絶望的な報告。

 その報告に対してまともな対応も取れず

 俺はひたすらディストーションフィールドの制御に捕われる。


 <<相転移エンジンに被弾、エンジン出力40%まで低下・・・>>


 最後の頼み綱さえも切れかけようとしていた。

 出力が落ちたことでフィールドの圧縮率もさがり、防ぎきれなかったエネルギーが

 そのままコックピットまで殺到する。

 破裂、殆どの計器のガラスが飛び散り、俺の体中の皮膚を鋭く切り裂いていく。



 痛い。

 痛みには慣れている筈だった。

 これ以上の苦しみも味わったはずなのにこの痛みは耐えられそうにない。


 とてつもなく惨めだった。


 彼だけは違うと思っていた。

 口ではなんと云おうと最後の最後では認めてくれると思っていた。

 受け止めてくれると思っていた。


 しかし、所詮は俺の秘密と技術のみが目当てだったのだ。



 <<相転移エンジン出力20パーセントを切りました。

 自爆装置稼動、カウントダウン始まります。10、9・・・>>


 運命の岐路に立たされた。

 自爆するか?敵の対宙砲火で殺されるか?の差でしかないが・・・。


 どちらも選びたくなかった。

 このような惨めな気持ちを引きずったまま死にたくなかった。


 生きたい、生き延びたい。

 復讐したい、見返したい。

 ジャンプさえ出来れば・・・せめてC・Cさえあれば・・・。



 無い物ねだり。

 自分でも都合よくC・Cが表れるとは思っていなかったが・・・。


 <<はい、C・Cです>>


 まさに都合主義、

 サイドボックスが勢いよく開かれ、C・Cが目の前に転がり込む。


 魅入られるようにゆっくりと、無造作に掴む。

 ナノマシンの紋様が全身に隈なく浮かび上がり

 激情に身を任せて大声で叫んだ。


 「首を洗って待っていろ!このクソジジイ!!」


 憎たらしい軍人顔の提督を明確に思い浮かべ、飛ぶ。

 青い光の奔流に包まれて消失、その2秒後にブラック・サレナーの自爆装置が作動した。

 広大な破壊の波が周辺を襲う。



 ラアルゴン艦隊第二波、全滅。







 あとがき



 元一、二話をプロローグに合併。

 次の一話からTV版に合わせて進めてみようと思いました。

 ・・・それ以外、大した変更はないです。




 最後にブラック・サレナの活躍に期待していた皆さん、

 期待に添えることなく爆破させてごめんなさい;;

 個人的に問答無用兵器は余り好きじゃないですし、

 何より清算の意味を兼ねてましたので黒アキト共々消させて頂きました。

 これからもよろしくお願いします。









代理人の感想

むーむむむむむ。

随分スッキリしたというか、行間が格段の進歩を遂げたような。

読んでて普通に面白くなってます。