チ ャ レ ン ジ ャ ー
   無謀な挑戦者?


キーボードを打つ手が滑っただけですぅ


















 孫   通信士外伝其の弐






北辰さん♪ 今日のお勧めは何ですか〜?


ナデシコ食堂のカウンター席に座ったメグミ・レイナードは開口一番尋ねた。

最近午後の休憩にデザートを食べるのが、通信士の日課である。

その高カロリー食品摂取の裏側では、夕食を減らしたり、ウォーキングをしたりと健康的な生活をしてたりもする。

そのおかげで毎日ケーキを食べる以前よりも肌艶などはよろしい。

これは早起きする為の早寝も効果を及ぼしているのかもしれない。


「今日はバナナのシフォンケーキだ」


いつもと変らぬ北辰が笑顔のメグミに答えた。


「じゃあ、それと紅茶をお願いします」

「諾」


北辰は一言答えると既に用意していたケーキセットを差し出した。

慣熟バナナをピューレ状にして練りこんだケーキから漂うバナナ特有の甘い匂いが、メグミの鼻をくすぐった。


「今日も美味しそうですね?」

「当り前だ。それに美味しそうではなく、美味いのだ」


キッパリと断言する北辰。

バナナの甘さにアクセントとしてラム酒を加えたお子様より上の年代向けの自慢の一品なのである。

更にシフォンとはフランス語で『絹』という意味で、その名の通りふわふわでキメの細かいスポンジケーキであるが、これは他のケーキより砂糖使用量がかなり少ない上に、バターを一切使っていない。

さり気なくカロリー少なめのケーキを選択している辺り、北辰も悪い気はしていないのだろう。


「北辰さん、聞いて下さい。今日、私、通信ごしにナンパされたんですよ〜♪」




















『北辰さん、聞いて下さい。今日、私、通信ごしにナンパされたんですよ〜♪』


「チェキ! 意外な光景も慣れると普通に見えるから凄いよね」


ウエムラ・エリは首を振って、視線の先の人物達の事を評した。

非日常の事でも毎日繰り返されれば日常と認識される。

もしくは風物詩と。


『君の声、可愛いね〜。今度デートしようか?って言われたんです』


「あんなおっちゃんのドコがいいんだろ?」


エリは心底不思議そうに呟いた。

エリが北辰に抱いている印象、それは腕の良い変なおっちゃんでしかない。


少し無口な部分はあるが、仕事上は何の問題もない、というか良好。

被保護者のラピスを猫可愛がりをしているのも、微笑ましいか不気味か判断に苦しむ所だが、児童虐待で問題になるよりよっぽど良い。

ラピスもなんだかんだと懐いてるようだし。

やっぱり、いくらチェキしても変なおっちゃんだよ、とエリは結論付けた。


『もういきなりなんですよ〜。困りますよね?』


「まぁ〜人それぞれだけどね」


と軽く呟くと手にしていた飲物を口にする。


グビッ


白と黒のシンプルなデザインの瓶を持つ手が暫し止まる。

一口だけ流し込み、余韻を味わうかのように目を瞑っている。


『北辰さんはどう思います?』


「ふはぁ〜〜〜」


エリは忍者くのいちのCMで大々的に広告された復刻版清涼飲料水を見やると、感嘆のため息を洩らした。


「──これは中々やるね」


メッコ○ルやドク○ーペッ○ーなんか目ではない。

まさにキング・オブ・──と言っても良い位。

人によって味覚に差異があるけど年間最優秀モノねとエリは感心し、同時にグロス単位で注文していた自分の目の確かさに誇りを覚えた。


『えーーーっ!?北辰さんは私がナンパされても何とも思わないのですかー!』


「あら、何飲んでるの?」


妙に悟った目でジュースを眺めていたエリを不信に思ったのか、テラサキ・サユリが訊いてきた。


「えっ、何って……」


ヒョイ


エリが答える前にサユリは小瓶、珍しいガラスの300mlボトルタイプを取り上げた。


『──いいんです。分かってました、北辰さんがそういう人だって事くらい』


「あら、これって最近随分とCMやってる奴じゃない」

「え、サユリも知ってるの?」

「そりゃ〜あれだけCMやってればね。ちょうど喉が渇いていたから一口貰うけどいい?」

「いいよ、勿論ね♪」


MJC会員は機会があれば一般人にMJCを飲ませ広めるという悪癖を持っている。

エリも例外ではなかったらしい。

それはもう満面の笑みでサユリを後押しした。


グビグビグビッ


『でも、私は負けません。必ず必ず振り向かせてみせますから♪』


その実情を知り恐る恐る飲んだエリと違い、サユリはかなり飲んだ。

途端音すら立てて固まった。


「やっぱりね〜。いきなりサ○ケはキツイか」


食堂から走って出て行くメグミを見ながらエリの発した声は、当然サユリに届く事はなかった。




















艦橋に向かって、軽やかに走る女性。

三つ編みをぴょんぴょんさせるメグミの顔には、食堂を出る時に浮かべていた決意と悲しみの顔が微塵も見られなかった事は言うまでもない。


それ故に、人は彼女を策謀の女帝と言うのだから。










     こうして今日も『孫ナデシコ』の午後は平和に続くのだった。

















<あとがき>

ホッ。骨は残るのか、良かった良かった。一安心ですにょ。





 

 

代理人の感想

いえ、保証はできませんが(笑)。

 

しかし、本気でこう言う展開に持っていくとは・・・・・勇者だ(爆)