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 木連聖戦記  01:行き遅れ?






「お〜い、行き遅れ。お前の兄貴はいるか?」

がるるるぅぅぅーーーーー


俺の優しい言葉は、唸り声に出迎えられた。


「どうした? 狂犬病か? ただでも行き遅れてるのだから、その辺は注意しろよ」

「あ、あなたね〜何処の誰が行き遅れだというのよ!」

「俺の目の前に立つ推定年齢22歳が」

がるるるぅぅぅーーーーー


 やたらと剣呑な表情でこちらを睨んでくる。う〜む、将来が心配だから声をかけてやったというのに恩知らずな奴。


「おい、舞歌をあまり刺激するなよ。真実は耳に痛いだろうから」


 俺の後ろをぴったり付いて来ていた北斗からお声がかかった。世間様一般に無関心な北斗だが、相変わらず舞歌は数少ない例外のようだ。

 ふむ、なら──


「悪かったな、舞歌。俺はただ花が枯れるのは早いと言いたかっただけなんだ」

きーーっ!香気22歳の乙女を捕まえて、何て事言うのよ、あなたは!」

「木連の平均結婚年齢は、女性なら20歳を下回るぞ。入植当時なら知らず、今は産めや増やせやが奨励されているからな。3人以上子供のいる家庭に議会が援助をしているのを知らぬ訳じゃあるまい」


 100年前の事は資料でしか知らないが、現在の木連では食料も住居も十分に確保できる。その結果、今問題なのが人口の少なさである。未だ正式には地球連合に対する態度を決めかねている状態だが、強行融和どちらの路線を取るにしろ、後々ネックになる事が容易に想像出来る。その為の政策なのだから。


「そんな事知ってるわよ。でもね、私はまだ22歳なの。三十路の声なんか全然聞こえない乙女を捕まえて、中傷するのは止めて欲しいわ」


 しかし、少なくとも俺が知る8年間、全く男っ気がないから心配してやってるのだが。と口に出さずに呟いた時、北斗の呟きというには大きな声が耳に入った。


「舞歌は未だに乙女なのか?」


ピキーーン


「──北斗の言葉は、意外にふくよかな舞歌の胸に突き刺さったとさ」


 固まった舞歌を見て、昔話口調で言ってみると、後ろから反応があった。


「ふくよかなのか?」

「ああ、舞歌は着痩せするタイプだな」

「ほ〜う、それは初耳だな」


 北斗はそう言うと、硬直している舞歌の全身をジロジロと遠慮の無い視線で観察しだした。そして、見るだけ見てから尋ねて来た。


「平均はあると思うが、特に大きくは無いだろう。さらしでもしてるのか?」

「さらしはお前だけだ。枝織ちゃんが苦しいって嘆いてたぞ」

「ふん」


 鼻を鳴らして、そっぽを向く北斗。微妙に可愛かったりするが、俺も命は惜しいので顔には絶対出さない。ましてや、言葉にしようものなら大変だからな。だが、面白いので代わりに、正確な情報を伝える事としよう。


「舞歌は小さめのブラで無理矢理抑えているだけだ。まぁ、形が崩れるという意味では、大差ないとは思うがな」


 す〜っと北斗の視線が胸元に落ちるのを感じた。

 まさか、本気で気にしていたのか?

 予想外だ。完全に予想外だ。北斗と枝織ちゃんの違いを男女の性的な意識の違いによる二重人格と教えられていただけに驚きである。北斗の技量が急上昇しているのは、ある意味今の身体を受け入れた事による事なのかもしれない。だとすると、最近鍛錬をさぼりがちな身としては辛いものがあるな。

 う〜む、このままではまずい。北斗が俺の影に入っているのは、互角に戦える事で、北斗曰く『渇き』を癒しているからにすぎない。置いていかれないように自らを鍛えねば、あの外道に何を言われるか分かったものではない。

 鍛えよう。そう決心した時、ようやく頬が真っ赤に染まっている舞歌が再起動を果たした。


「や、約束の時間になったから、お兄ちゃんの所に行くわよ。付いて来なさい」

「で、舞歌は未だに乙女なのか、明人?」


 こちらを見ずに足早に歩き始める舞歌を見て北斗が再度呟いた。


「想像に任せるよ」


 舞歌が背中を妙にピクピクさせているので、何かフォローしようと思った俺の口から出たのは、そんな言葉だけだった。って、全然フォローになってないな。




















「草壁少佐をお連れしました」

「入りなさい」


 ノックの後の舞歌の言葉に、おだやかな返答があった。扉を開けた舞歌の傍らを抜け部屋に入ると、優人部隊の制服に身を包んだ八雲が執務机の向こうに座っていた。


「こんにちは、久しぶりですね、八雲さん」

「やぁ、本当に久しぶりだね、明人君」


 本来ならビシッと敬礼の一つも決めて、『草壁明人特務少佐入ります』とでも優人部隊司令官に挨拶しなければならない所だが、か〜るく挨拶した。八雲さんもか〜るく返してくれるからいいだろう。む〜ぅな視線をやや後方から感じたりもするが、特には問題ない。


「随分私の時と態度が違うわよね」

「俺は人を見て挨拶するからな」


 聞こえるように囁かれた独り言にシレッと返すと、む〜ぅな視線が強まるのを感じたが、更に八雲さんが笑いながらシレッと言い放った。


「ははは、明人君、舞歌をあまりからかわないであげて貰えるかな。正式に明人君のモノになったら、いくらでも可愛がってあげていいから」

「お、お、お兄ちゃん!?」


 あたふたあたふたする舞歌を横目に、俺は本能の赴くままに八雲さんに答えた。


「行き遅れの商品を俺に処理させる気ですか?」


 ここで敬語になっている辺り、俺は八雲さんには逆らい難い事が身に染みているのかもしれない。


「何の問題もないよ」

「俺が24の時、舞歌は大台に乗りますが?」

「そこは気合で補って貰うよ」

「何とかなるんですか?」

「何とかなるさ」

「ちなみにブラコンというのは欠陥にはなりませんか?」

「────(汗汗)」


ジト〜〜〜ッ


 続く会話は、粘度と湿度のこもった視線に遮られた。そろそろ潮時かもしれない。俺は八雲さんと視線を合わせた。うん、頃合のようだ。


「さて、冗談はこの位にして、本題に入ろうか。座りたまえ」


 八雲さんは立ち上がると畳敷きの応接セットに誘導して、舞歌にお茶を煎れるように頼んだ。視線は変らなかったが舞歌が断れる訳もなく、ぶつぶつ文句を言いながら手際よく準備をする。そんな舞歌を見つめる俺に、八雲さんが言ってきた。


「明人君は知っていると思うけど、舞歌は料理は得意だし家事全般も申し分ないよ」

「少ししつこくないですか?」

「お・に・い・ちゃん!」

「コホン。では、地球連合軍の各方面軍の戦力分析から始めようか」


 八雲さんは俺と舞歌の非難の視線に一度空咳をすると、雰囲気を怜悧なものに変え話し始めた。

















<あとがき>

純正アキト×舞歌がない? それはこの私への挑戦と見た。受けて立ちましょう。

でも、木連視点で成り立つこの話は、純正とは言わないのかな? 性格かなり違うし。


ここでの舞歌追加設定は一つだけ。

他人の恋愛は蜜の味、自分の恋愛は初体験。ソレだけです。










 

 

 

代理人の感想

・・・・・・・一応私だって書いてるんだけどなぁ(爆)。>アキト×舞歌

やはりらぶらぶ物は私には無理なのか?