会えて良かった!

 

風を……顔に感じた……

草木の匂いを……嗅いだ

風の音、虫のさえずり、草が揺れる……音が聞こえる


芸の細かい夢だ。

それだけ五感に未練があったか…

そっと目を開くと白銀に月が見えた。
バイザーはしていないことが分かる…

「何故、月が見える…」

「視覚が戻っている……聴覚も触覚も臭覚も…」

手近の草を口にくわえる……苦い…

「五感がある…」

「いや……」

思い出した……ナデシコCごとランダムボソンジャンプをした瞬間のことを…

又、巻き込んでしまったと慙愧の念が俺を襲う中、

俺は見たんだった…

聞いたんだった…
































俺は、神を見た!!

そして、神に聞いた!!

汝、白い鰐を獲れ!!!





白い鰐といえば、木星名物の食材。これを獲る為には、どうすれば…

その時、俺の脳裏に懐かしい声が聞こえた。

(アキト!!)
(…ラピスか?)
(うん!今わたし、むかしの研究施設にいるの…どうしてなの?)

昔の研究施設だと!!
まさか、過去に戻ったというのか!
しかし、ラピスと繋がっているのは何故だ?

はっ、神の御加護か!!

(…アキト、わたしの体が6才に戻っちゃてる)

そのラピスの言葉で、俺は確信した。
俺は…俺達は過去に戻ったんだ。

(そうか…どうやら、ある御方のおかげで過去に跳んだらしい)
(アキト、あるおかたって?)
(ラピス、今からイメージを送る。読み取ってくれ)
(うん)

俺は強くイメージした。あの神々しい姿を、後光に霞む雄々しい姿を。
そして、『汝、白い鰐を獲れ!!』という詔を。

(……アキト……)
(ラピス……これが事実だ)
(……アキト)

ラピスの驚愕がダイレクトに俺に伝わってくる。










アキト!あれが神なんだね!!

(そうだよ、ラピス)

うん!白いワニさんを狩らないといけないんだね!!

ラピスは分かってくれたようだ。そう、俺達は繋がっている。
でもな、ラピス、『狩る』じゃなくて『獲る』だぞ。

(ラピス!頼みがある、今の年月日を教えてくれ)
(うん、えっと…今日は、2196年の…)

やはり、あの日か……ユリカと出会い、ナデシコAに乗ることになった、あの運命の日…

過去の二の舞はしない!!今回は、白い鰐を獲るんだ!!

(ラピス…必ず北辰より先に、研究所から助け出してみせる!!
 だから、これから頼む事を、地球で実行してくれないか?)
(うん、わかったよ。わたしはアキトをしんじる。神をしんじる)
(…済まない)

そして、俺はラピスにある計画を託した……この先どうしても必要になる事を。
そして、俺は自分の考えをラピスに語った。

(…以上だ。俺はこれからナデシコAに向かう)
(うん、いつでも、はなしかけていい、アキト?)
(ああ、いつだっていいよ)

寂しいんだろうな……済まない、今は側にいることは出来ない。必ず、一緒に白い鰐を獲ろうな。

(じゃあ、行ってくる…)
(がんばって、アキト。神はみまもってくれてるよ)

ああ、神よ!ご照覧あれ!貴方の戦士が白い鰐の元に向かいます!!

そして、俺はユリカとの再会の地に向かった。

 

ブオオォォォォンンンン!

自転車を走らせる俺の目の前を、一台のリムジンが走り抜ける。
そして、車のトランクから、一個のスーツケースが俺に向かって落ちてくる。

「ここまで、再現されるとは…」

当たり前か過去をなぞっているのだから。
凄い勢いで、スーツケースが向かってくる。

過去を再現させる為に、思いっきりぶつかってみた。

ドゴォォォンン!!

「てててて……」

過去の俺よ、神の御加護もなく、よく無事だったな…

「すみません、すみません。…怪我とかありませんでしたか?」

俺の中で時が止まった。逢いたくて、逢いたくて……逢えなかった人…

「ああ、大丈夫だ。これ、君の?」
「はい……ああーーっ!拾わなきゃ!!」

荷物を拾い集めるユリカは……相変わらず家事能力の無さが伺えた。
ジュンもいっしょになってやっている……ユリカの家事壊滅の元凶の一人……

「手伝うよ」





「ありがとうございました。…あの〜ぶしつけな質問ですが、どこかでお会いしたことありませんか?」

俺の顔を覗き込みながらユリカが聞いてくる。

「気のせいですよ」

その視線に耐えることが出来ず、横を見ながら答えた。心が痛む。

「そうですか?」
「ユリカ、急がないと遅刻するよ!!」

いや、既に遅刻してるだろう。

「わかったよ、ジュン君。では、ご協力に感謝します」

そう言い残し、ユリカとジュンは去った行った。

俺は…自分の意志に反して、ユリカを抱きしめてしまいそうになる両腕を、必死に抑えていた。

「ふはは…体は正直だな…ユリカを求めている…ユリカと白い鰐を獲りたいって……
 だが、まだ早いんだ、ユリカにすべてを打ち明けるには……
 まだ、あいつは神を見ていないから。こればかりは言葉では言えないんだ!」

俺は決意を新たにし、ナデシコAに向かい自転車を走らせた。

 

前回と同様、プロスさんにコックとして雇ってもらい艦橋に向かっている時、それは起こった。

「こんにちは、プロスさん」

余りに聞き慣れた声が聞こえた。

「おや、ルリさん、どうしてデッキなどにおられるのですか?」

ホシノ・ルリ……俺とユリカが引き取った子供…家族…妹…大切な…

「…こちらは何方ですか?」

プロスさんの質問を無視して、ルリちゃんが俺に視線を向ける。
え?何故?そんな目で俺を見る…そんな懐かしさに満ちた目で…

「ああ、この方は先程ナデシコに就職された…」

そういえば、前回俺はルリちゃんと何処で出会った…

「こんにちは、アキトさん」

余りに衝撃的な言葉が、ルリちゃんから発せられた。

「な!?」
「おや、ルリさん、テンカワさんとお知り合いですか?」
「ええ、そうなんですよ、プロスさん」

その弾む声や俺を知っていること、『アキトさん』と呼ぶことが教えてくれること、それは…

「ルリ…ちゃん、かい?」
「ええ、そうですよ、アキトさん」

俺の確認に、笑顔で答えてくれるルリちゃん。ラピスだけでなかったのか…

「どうやら本当にお知り合いのようで。私は邪魔者みたいですからここから去りますか。
 ルリさん、テンカワさんにナデシコの案内をお願いしますね」
「はい、わかりました、プロスさん」

「…はて、あんなに明るい方でしたかね、ルリさんは?」

頭を捻りつつプロスさんは去って行った。

「案内しますか、アキトさん?」

悪戯っぽく笑うルリちゃん。

「必要ないのは分かっているんだろ? 驚いたよ、ルリちゃんまで、過去にもどっているなんて…」

お互いの視線が絡み合う…

「私も驚きました…気がつくとナデシコAのオペレーター席にいましたから…」

時間のある時にルリちゃんに話さないといけないな…
話を続けながら、俺はルリちゃんを仲間、いや信者にする決心を固めていた。
そう、俺は神の期待に応えないといけないんだ!!

「ルリちゃん…戦闘が始まる」
「そうですね、ではわたしもブリッジに戻ります。気をつけて下さいね」

俺の言わんとしていることを察するルリちゃん。

「ああ、分かっているよ」

俺はルリちゃんと別れ、先程ガイが倒したエステバリスに向かった。

 

「俺は…テンカワ・アキト、コックです」

神の戦士と名乗りたくなるのを抑え、昔通りの言い訳をする。

「何故、コックが俺のゲキガンガーに乗っている!」

ガイ、お前にも神のすばらしさを教えてやるからな。

「もしも〜し、危ないから降りた方がいいですよ〜」

今度落ち込んだら、神の御言葉を教えてあげるね、メグミちゃん。

「君、操縦経験はあるのかね?」

何故か今まで感じたことのない親近感をゴートさんに感じる…

「困りましたな…コックに危険手当は出せないのですが」

お金なんかいりませんよ、プロスさん。神の為なんですから。

それにしても、相変わらず騒がしい懐かしい愛しい人達だ。
みんなに神の祝福を与えてみせるからね。

そして、

アキト!!アキト、アキト!!アキトなんでしょう!!!

「ああ、そうだよユリカ、久しぶりだな」

やっぱりアキトだ!ねぇ…







ナデシコの初戦闘はグラビティ・ブラストの一撃で勝利を収めた。

俺は、ナデシコのデッキに帰りながら、今後のことを考える。

「負ける訳にはいかない!!俺の、いや、俺達の白い鰐への挑戦は始まったばかりなんだ!!」



ルリちゃん、ラピス…

頼む、こんな俺だが支えてほしい…


すべての食材は、白い鰐を使ってあげる!一緒に白い鰐を獲ろうな!!

 

<あとがき>

続きません。ええ、続きませんとも。
短編です。はっきりと短編です。けっして、テンカワ・スマイルで信者を増やす物語なんて書きません。

掲示板で未だ出現していないアキトの話題を見て、90分で書き上げました。
たぶん、未出現だと思いますが、既存生物ならお知らせいただければ、謝りたいと思います。

 

 

代理人の感想

 

いえ、今の所「ナデシコ類アキト科時ナデ属」にはそのような生物は確認されておりません(笑)。

ですので安心して「新生物発見者」を名乗ってよろしいかと。

無論、学名をつける権利はあなたの物です(爆)。