玄武戦記〜玄武結託〜




ナデシコと戦神は無事合流を果たし…敵を殲滅しつつ、包囲を突破した。

そして、今、ブリッジで今後の方針が話し合われている。


「ナデシコは、元々火星で設計した物だわ。ネルガルは、地球より火星にその頭脳を集めていたのだから当然ね。
 つまりナデシコに搭載されている新技術、その殆どに私は関わってきたわけ。相転移エンジンもそう、
 ディストーション・フィールドもそう。だからこそ、分かるのよ。今のナデシコ一隻では、火星から脱出するのは、
 不可能。無理。そういう訳でナデシコに乗る訳ないの、分かる?」
「そんな事ありません!そんな…」

艦長、無謀だな。あのドクターイネスに口をはさむなど。
奴は、全天候型説明感知大気順応ナノマシンの統治者。奴の前に時空間すら意味を成さぬというに…

奴は、ある意味特級危険人物の上、その意味特A級危険人物でもある。

「何、艦長黙ってるんだよ!俺たちは連戦連勝でここまで来たんだぞ!」

赤い子猫よ、黙っておれ。…赤…赤い……と言えば、一部の影衆で人気爆発の金の奴の得物……
今のうちに手を討つか……適任者はウリバタケか…

「そうね。楽な戦いだったでしょう? 相手は様子見で戦力を小出しにしていたでしょうから。
 こちらは、まかりなりにも最新式。そう作ったのだしね」
「な、なんだと!」
「さっきの戦闘をもう忘れたのかしら。逃げたばかりでしょう。敵にもディストーション・フィールドがあるのは
 わかったでしょう。そもそも、あれが木星蜥蜴にあったから宇宙軍なんてあっさり逃げ出したのだから。
 ナデシコのグラビティ・ブラストも一撃必殺でない。敵はフィールドを張れる戦艦級の増援を呼び続ける。
 この現状のどこをどうしたら勝てるのかしらね?」

スバルの反論というよりもただの掛け声にもドクターイネスは捲し立てる。
反撃の暇も与えず口撃する。相手に何も考えさせない速さ。連撃。終焉。

む〜あの間合いと押しで攻撃をしかけられたら、我といえども只では済まされぬな…危険すぎる…

しかし、我々も確か別に様子見だった訳ではないと思うが…

たしか、何と言ったか、……百武、白丈、赤竹、江の岳、他家、タケ、たけ……忘れたが、火星方面戦略の奴が
罷免され、修練場に下げられてきた覚えがあるな。

成人男子で鍛えてもおらん下らん奴だったから、まだ狩りの経験の無い小僧共に与えたのだったか?
いや、それとも虎か熊の餌にしたか? いや、いや、紫苑家に釘バットとともに恩賞で与えたか?
引き出物として人改研に贈答したか? 待てよ、一時、鬼と呼ばれた舞歌の実戦闘力を試すのに
使った奴もいたな?あれは、だが葵系か中里系か。となると、針系、山だ系は人気が高く入荷待ちだから…
もしや、我が寝ぼけて……



ピキッッッッ!!

ぬ!我が感傷に耽っているうちにブリッジにおかしな氣が満ちた。

「さ、さあ、イネスさん!食堂はこちらですよ!!」
「え、ええ、じゃあちょっと食事に行ってきます」

戦神とドクターイネスが逃げるようにブリッジから出て行った。

また、会おう、テンカワ・アキト!ふはっははははははははは……
って、ではない。

いってらっしゃい、婿殿!だ。年増に吸い尽くされんようにな!

「アキト…ふふふ、逃げられると思っているの?」
「アキトさん…そう言えば前回の釈明がまだでしたね」
「アキトさん…また逃げましたね」

「「「ふふふふふふふふふふふふふ」」」

艦長、妖精、通信士が発生源か…

それにしても電子の妖精よ……我すら知らぬ間に腕を着々と上げておるな!
何時の間に嫉妬の妖精弐型にレベルアップしたのだ!!
ふ、人の成長とは、早い物だ…
我は成長のピークは過ぎたというに…


プロスさん、また、お茶しましょうか?
そうですな、約束の物でも持ってきますかな

ミナトとミスターは現実逃避をしていた。ぬ〜虎屋か我も……

 

 

その後、再び、戦神とドクターイネスを呼び出し、会議を始めた。

ドクターイネスと艦長が討論し、次元跳躍門、護衛艦クロッカス、提督の話と人間をいろいろ巻き込んで、
脈絡も無く話し続け、一応、結論が出た。

ぬ〜しかし、こういう時、いつも思う。
何故、戦神は主導権を取ろうとしないのだ!

「では、艦艇装備を研究していたネルガル研究所にエステバリスにて先行偵察してもらいましょう。
 人選は…、北辰さん?」
「うむ、テンカワ、スバル、マキでどうだ、ミスター?」
「いいでしょう」

又ですか!!

我が人選でマキを選んだ時、妖精がギンっと鋭い視線を向けて来た。

ふっ、まだまだ若いな妖精よ。もう、マキ・イズミは手遅れなのだ。

戦神に触れた者がどうせ皆落ち、離れることが出来ないのなら、極力接触する者を減らせ!!

未来のお前が某同盟で提唱した論理を実行したのだ。我も先日の山崎並マキ・イズミの件で大いなる失敗を
しでかしてしまったからな。研究し検証し、同じ結論に達したのだ。

今はわかるまい。だが、眼鏡っ子までも増やす事を考えれば、そのうち我に足を向けて寝れぬぞ!
奴も早いうちにヤマダとくっつけてしまわねばな!危険は排除だ!!

ふっ、ナデシコの恋愛状況など我ら木連の手にかかれば、
入らぬ情報は無い!
くらい、皆、精通しておるぞ!!

……仕事先にも、舞歌ちゃん速報!『東方見聞録』の同報送信メールが届くからな。


それに、この機会に我はせねばならぬ事がある!

そう、戦神がナデシコを離れ、妖精が外の戦神に気を取られるこの隙にな!!

常識人を装う山崎とも言われるドクターイネスと決着をつける!!

 

 

我は、扉越しに気配を伺った。近くに一名。遠くに一名。
さらに、辺りを警戒する。おそらくこの時間、妖精は戦神のエステバリスの通信傍受で手一杯であろう。
なら、後は、目撃者を除けば済むことだからな。ふふ。

うむ、思った通り、医務室の中は、ドクターイネスとヤマダだな。ヤマダの気配は寝ているな。

ドンドンドン

「失礼」

一息入れ、我は医務室に入った。

「あら、何用かしら?」
「大事な用件だ」

あまり広くない医務室でドクターイネスと相対する。

「仮面を付けてるシークレットサービスさんが何用かしらね?」
「これは顔にひどい火傷があるから付けている」

いつもの言い訳をする。それにしても一目で見抜くか、我を。

「それで、口止め、それとも口封じかしら?」

うっすらと微笑すら浮かべて聞いてくるドクターイネス。
流石の度胸と言うべきか。まぁ、山崎も我が本気の殺気をぶつけてもヘラヘラ笑っている事を思えば当然か。

「医務室は、防諜できたはずだな」
「ええ、プライバシーの観点からね」
「お願いする」
「……いいわ」

ドクターイネスが端末相手に操作をした。我では、どうせ分からぬ。信用するしかない。

「簡単な話だ」
「そう、何かしら?」

ドクターイネスと我の視線が交錯する。

「我も既に成長期を過ぎている」
「そうでしょうね」
「最早、このままでは更なる高みを望めぬのだ」
「は〜それで?」

我は、一気に言い放った。

我を強くして貰いたい

「………」

手段は問わん!我に力を与えろ!!
                                                           「…うるさいな……
「………」

「交換条件を言おう。耳を貸せ」
「……何かしら?」
…人……好……
……実…!?
そ…………
…当……
………





「……貴方が力を欲する理由を教えてくれないかしら? 貴方が普通でない事くらい私にもわかるわ」

ドクターイネスが静かな目を向けてくる。だが、返答次第では…と目が言っている。
我は、思っていることをそのまま語った。

「我には、娘がいる。一人娘だ」
「………」
「いずれ、この数年以内に男と一緒になる」
「……そうかもしれないわね」

いや!絶対そうなる!!これは、もう決まったことなのだ。だが、ここで問題がある。

 この男は強い!我より強いのだ!!
                                                「……ダイゴウジ・ガイだ!!むにゃむにゃ……
「は〜、それでその男を倒したいのね、娘を守るために?」

あからさまに呆れた顔と声で聞いてくるドクターイネス。何を馬鹿な想像をしているやら。

「違う!我は、その男を気に入っている!!奴こそ我が一族の婿にふさわしい」
「は〜? じゃあ、何でよ?」

そんなこと、決まっておろうに。

 

婿殿が『娘を嫁にくれ』と頭を下げに来た時、

 父親が『娘が欲しければ我を倒してみろ!』と返し、

 婿殿と一騎打ちをし敗北後、共に酒を酌み交わす!

 これぞ漢の浪漫なりけり!! バーン!
                                                         「うお!なんだ!……

そう、このままでは、我と戦神では勝負にならん!父親として一生に一度の晴れ舞台を無にすることになる。
それでは、我も北斗も戦神もかわいそうではないか!!

その為にも我は力を得ねばならないのだ。

故に我は、謹んで更に人の道を踏み外さねばならんのだ!!


ドクターイネスはこめかみを抑え、苦悶の表情を浮かべ固まっている。
ふむ、婦女子には難しい話であったかも知れぬ。

「……わかったわ。私が貴方を強くしてあげる!

「うむ」

聞くけど、手段は問わないのね?

「任せる!」
「交換条件は、無期限有効なのかしら?」
「我がナデシコにいる限り!」

ふふふふふ、私が貴方を最強にしてあげるわ!!
                                                               「おい!
我とドクターイネスは再び視線を交わした。
思わず笑いが漏れる。

うふふふふふふふふ
くくくくくくくくくくくくくく
                                                              「やめろ!
ほほほほほほほほほほほほほほほほほほ
けけけけけけけけけけっけけけけけけっけ」
                                                           「やめてくれーー!

ひひひひひひひひっひひひひっひいひひひひい
けひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあ
                                                          「ぬにぃぃぃぃいい!!

ふふふふふふふふふふふふふふふ
ははははははははははははははは
                                                  「ひぎぇぇぇっぇぇひぎょみゅうぅぅぅ……パタン



「ははははっはあぁぁ……ゴホン、ゴホ、ゴホ……」
「あら、大丈夫かしら。意外に呼吸器系が弱いのね」

こ、この外面の良い山崎級…いやいや……こういう輩はひたすら勘が良いのが相場だ。
下手な事は、考えぬが吉だな。

「…いや、大丈夫だ。それよりもサービスだ。これもつけてやろう」
「何をかしら?」

我は、奥を指差した。ヤマダ・ジロウが寝ている。

「………?」
「あれは、害といって、医務室の主だ。全治二ヶ月の骨折を二週間で完治させる男だ。
 しかも、パイロットでIFS仕様の優れ物でもある。更に居なくなっても、誰も分からん」

ドクターイネスの目が光る。

「うむ、好きにしてくれ」
「ありがたくいただくわ。でも、たまには、使うのかしら?」
「極たまにだ。気にする必要無い」

 

 

我は、今、爺の下に向かっている。次なる手駒の為だ。もっともこっちは使い捨てだがな。

ふ、こういう時、仮面は便利な物だ。先程のドクターイネスとの交渉に成功し、頬が緩んでいるからな。
ペチペチ叩かなくても済むというのは、楽だな。

「提督いるか?」
「うむ。入るが良い」

爺の言葉に部屋に入った。

「何の用かな、北辰君」
「別に用などない。これを届けに来ただけだ」

清酒『羅刹』を差し出した。爺はじっとそれを見ている。

「私は、もう酒はやめたのだがね」
「碁と茶の礼だ。死ぬ時に使え」

爺が我に暗い目を向けて来る。

「ふっ、死にたいのなら死ねばいい」
「……君も何人殺したのかね」
「今まで息をしてきた回数や食事の回数を覚えていろとでもいうのか?」
「……私は、まだ人のようだ……」

当たり前だな。あらゆる意味で人を超えて、違う物になりえるのだ。
我、外道しかり。修羅しかり。羅刹しかり。

「悪いが時間が無い。本題に入ろう」
「うむ、言いたまえ」
「手話はできるか?」
「………いや」
「モールス信号はどうだ?」
「いや」
「手旗信号?」
「読む方は、たぶん、大丈夫であろう。海軍伝統は、宇宙軍にも通じておるからな」

重々しく答える爺。何かを感じとれたらしいな。

「では」

我は一声かけ、靴の底から手旗を抜き、オモイカネに見えない位置についた。さて、やるか。


パタパタパタ(盗聴、可能性、有り)
「うむ」
パタパタパタパタパタパタパタパタ(木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び)
「なんだと!?」
パタパタパタパタパタパタパタパタ(他衛星小惑星国家反地球共同連合体)
「ぬう」
パタパタパタパタパタ(出身、四方天、北天、北辰、なり)
「……四天王のことか?」
パタパタパタパタパタパタパタ(うむ、我、10年前、地球、潜入、ネルガル、入社)
「………」
パタパタパタパタパタパタパタパタ(戦争、回避、目的、失敗、開戦、政府、無視、経過)
「…おそらく、その通りだ」
パタパタパタパタパタパタパタパタパタ(今、遅い、ない、和平、道、模索、我、使命、必)
「……北辰君が……」
パタパタパタパタパタパタパタパタ(天河、地球、英雄、木連、北斗、愛娘、英雄、結婚)
「……?」
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ(近道、和平、両、勝敗、無、双、立、心、通、一)
「……可能性はあるが……」
パタパタパタパタパタパタパタパタ(しかし、我、被、嫌、天河、故、助力、必要)
「……うすうすな」
パタパタパタパタ(頼、口添、それとなく!)
「………」
パタパタパタパタパタ……パタ(秘密、漏洩、禁、故、言、……頼)
「………」
パタパタパタパタ…パタ(全、地球、木連、為、…、頼)
「…よかろう。私の最後の仕事だな」
パタ(謝)

ふへ〜…ゴホンゴホン、伝統は廃れていなかったようだな。非常に疲れたが…

死に行く者の言葉なれば、戦神も耳を傾けるであろう。
言えぬことも多いが、爺は必ずや、我のプラスとなることを伝える。

「戦神のこと、頼んだぞ」
「……戦神?」
「テンカワ・アキトのことだ」
「…言いえて妙だな…」
「……さらばだ」
「………うむ

 

 

先行偵察の戦神達が戻り、三度、会議が始まった。

「研究所の周りにチューリップが五個、か。どうします、艦長?」
「私は…これ以上クルーの皆を危険にさらすのは、嫌です」
「でも、皆さんは我が社の社員でありますから…」
「俺たちにあそこを攻めろ、って言うのか!」




艦長、ミスター、スバルの議論は、白熱している。
しかし、何故、戦神がズバッと話を決めないのだ。攻撃が無茶なことなど当然。策も決まっておろうに。
…分からぬ、何故、この無駄な時間を過ごさせるのだ。その間も木星からの増援が来るだろうに。

「よし、あれを使おう」

そんな中、爺が言った。手は打った。







ズドォォーーン!

クロッカスがナデシコ近くを攻撃した。驚き慌てるブリッジ。

「クロッカス、浮上します。…クロッカスより通信入ります」
『艦長、前方のチューリップに入れ!』

爺の目…結局、人としての最期を望んだ訳か。
成功したかどうかは分からぬ。

「提督!そんな、どうしてですか?」
『ナデシコのディストーション・フィールドがあれば、チューリップに侵入しても耐えられる筈だ』

この時点では、可能性など半々でしか有り得ぬものを。よくよくナデシコは運が良いのか悪いのか。

ズガアァァーーーンン!!

「艦長!木星蜥蜴の攻撃です。後方より左右両方向にも反応あります」
「フィールドは持つの、ルリちゃん?」
「相転移エンジンが完全ではありません。それ以前に、時間の問題です」
「ミナトさん、チューリップへの侵入角を…」
「艦長…」

我は、ミスターを止めた。一刻の猶予もなかろう。

「北辰さん…」
「あれを」

我はクロッカスが敵艦に砲撃している姿を指差す。

「クロッカス、反転、敵に攻撃をしかけています!」

妖精の報告が入る。

「無人兵器は、攻撃する兵器に引き寄せられる…」
「提督は、自分が囮になることを話してくれた。ナデシコが助かる道は、最早一つだけだ!!
 ユリカ、行け!」
「クロッカスより通信入ります」

『…アキト君。私は君の言葉に救われたよ。そして、もう、私のことはいい。これからは、君達、若い世代が
 必要な者達だ。戦神よ…何を恐れ、何を考え、何を求めているか、私は知らん。だが、そ…人……ば……』

爺の言葉は最後までは伝わらなかった。
それも、また、本望だろう。
所詮、……よ。

むう、光に包まれ…我の…意識が……遠のく…





北…………………………ち・ゃ・ん

 

<あとがき>

北辰パパ・ドクターイネス相互利益供与条約締結。それが、すべてです。
これで、パパが三面六脾になろうが分裂しようが巨大化しようが、すべてに合理的な説明がつくというものよ。
パパは、ブーステッドには負けん!!

 

 

代理人の「パパは仮面のサイボーグ」のコーナー(爆)

 

合理的か!?

合理的なのかっ!?

・・・・・・まぁ、納得力だけは嫌というほどありますが(爆)