正史では婚約者に浮気疑惑が持ち上がり、確認の間もなく婚約者は暗殺されました。

その寂しさを紛らわそうと仕事に集中していたら、上司の暗殺に巻き込まれてしまいました。

また、ある世界では、やはり婚約者に浮気疑惑が持ち上がり、しかも確認したら事実でした。

その失意を紛らわそうとやはり仕事に集中しますが、仕事を押付け趣味に走り遊びまわる上司と

お気楽極楽な部下と全てを超越するお方との板ばさみに過労と心労の毎日を送っていました。


これは、そんな女性に幸福になってもらいたいという物語…




















千沙ちゃん、跳んだ?







「はぁ〜〜〜〜」

現状にはそぐわない溜息を吐く妙齢の女性が一人。

何故なら、ここは戦場だから。宇宙空間での機動兵器同士による戦いの真っ最中である。
近くで遠くで敵味方が八方に散らばり交戦している。
まともに当たれば大破間違いなしの攻撃を交互に繰出しながらの戦いである。

しかし、緊張感は薄い…


『またシミュレーションやりに来ないか、万葉?』
『今度暇なときにな、ガイ!』

『そ、それで…実はナオ様の写真が欲しいんですけど?』
『ところでさ〜、私としては他の人の援護をしないとダメなんだけど?』
『もう、ヒカルさんも隅におけませんね〜♪』

『聞いて下さいよ〜北ちゃんったら帰ってからもずーっと…』
『うんうん、分かります。私も先輩が…』
『ぜーったい女性の敵ですよね〜』
『まったくです!私達の大切な人をたぶらかしているんですよ〜』



何やら漏れ聞こえてくる会話は決して味方同士の会話ではない。

それも北ちゃんの欲求不満の解消に機動兵器戦をして、
ついでに実績確保の為に周りで命がけのじゃれあいを演じていれば、当然かもしれない。


「ふぁ〜〜あ、…眠いです……」

遠距離支援用の雷神皇に乗った千沙はあくびを漏らす。
この戦闘開始の直前まで書類整理に追われ、既に48時間以上寝てないとなれば当然である。

『やぁ、マイハニー、元気にしてたかい?』
『ははは、照れない、照れない』
『ねぇねぇ、聞いてる?』
『僕を見てよ〜マイハニー?』

雷神皇の周りを蝿のようにうろつく青紫の機体があるが、千沙の目には入らない。
殺気でもあれば体も反応するだろうが、全く戦意が感じられないので眠気が勝っているのである。
だいたい丸二日貫徹し、その上、機動戦を出来る方がおかしい。

「…早く終わらないかしら……北斗殿はまだ、駄々をこねているのかしらねぇ…」

北ちゃんの欲求不満。今回は三日間、テンカワ・アキトに会えなかったという事である。
機動戦をして大満足してシャクヤク戻ったのが三日前、その後、直接はおろか通信もくれないアキトに業を煮やし、
ナデシコを探させダリアで会いにきたのである。

そして、口実通りに機動戦を楽しんでいる。

ちなみに千沙はその三日前の帰還後、前日の徹夜の疲れから丸一日爆睡し、
今日の原因となる仕事を溜めた訳である。

「ふにゃぁぁ〜〜〜、ベッドが恋しいよぉ〜!」

千沙が何か色気に乏しいセリフと共に伸びをした時、それは起こった。


ビィー! ビィー! ビィー!


「……あら、何かしら?」
                                                  『そ、総員退避ーーーー!!』
眠気は、普段冷静な千沙に致命的な遅れを呼び込んだ。

「……え〜と、…これは……最大級の……危険信号!!」




『沈め!!アキトォォォォ!!蛇王牙斬!!!
ドギャァァァァァァンンン!!!
                 『させるか!北斗!!竜王牙斬!!!
                ドシュゥゥゥゥゥゥンンン!!!




あれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜………

見事な巻添えを喰らった雷神皇は宇宙の彼方目指して飛ばされて行った……



























「……あら、ここはどこかしら?」

千沙は暖かい温もりに包まれ、久しく感じたことの無かった平穏の中、目を覚ました。

「…え〜と、私は…」

意識を失う原因となった事を思い起こそうとした時、背後の暖かい温もりから声がかけられた。

「気がついたかい、千沙さん?」
「あ、ハイ、アキトさん……へ?え?」

返事をしてから異常事態に気付く千沙。

雷神皇のコックピットにいた筈の自分が、見慣れぬコックピットで背中からアキトに抱かれて
座っている事に気付き、激しく狼狽する。そんな、千沙にアキトが優しく説明した。





アキトと北斗の戦いに巻き込まれてしまい、
重力波エネルギー供給範囲から遥かに飛ばれた雷神皇を救出しに来たという事。
本当なら味方である北斗のダリアが行くべきなのだが、極度の方向音痴の為、
探す事も戻る事も出来ずに二次災害が起こる可能性を考慮した結果、アキトのブローディアが行く事になった事。

ここら辺、ナデシコ、シャクヤク間に戦争をしているという意識はひたすらに薄い。

雷神皇を発見した時、既にエネルギー切れで生命維持装置しか働いてなく、ブローディアからの供給も考えたが、
安全の為、千沙をブローディアのコックピットに収容したという事。


「そういう事だったのですか。御手数をお掛けして、本当に申し訳ありません」

アキトの腕の中で、恥ずかしそうに顔を赤らめながら、頭を下げる千沙。

かなりヤバイ体勢であるが、天然のアキトは気付いていない。

「さぁ、みんな、心配しているから、帰りましょう」
「……ハイ」

ちょっと残念そうに呟く千沙。

「ディア、ブロス、ジャンプフィールド展開。ナデシコまで跳ぶぞ」

『うん、アキト兄、りょうか〜い♪』
『千沙さんもジャンパーだよね?』

「ええ、ジャンパー処置は受けてるわ」

『じゃあ、……ボソンジャンプ準備…』
『あれ? 何か向かって来るよ、アキト兄?』

ブロスの言葉通り、真紅の機体が高速でブローディアに近づいてくる。ダリアだ。

アキト!無事かぁ!!

「……北斗、お前よく迷わずにここまで来れたな?」

『フン!お前の居場所ならどこでも行けるに決まっている。それより千沙も無事か?』

さりげなく北ちゃんは自己主張しつつ、千沙の事を尋ねた。

ピッ

「北斗殿、ご心配をお掛けしました、この通り、私は大丈夫です」

通信画面を開き、笑顔で自分の無事を知らせる千沙。

が、48時間寝てない頭が、たかが1時間の気絶ではっきりする訳がなかった。
又もや、普段冷静な千沙にして、致命的な間違いを呼び起こした。

『…………』

「北斗、千沙さんも無事収容できたから、早く帰るぞ」

『…………』

「おい、北斗!聞いてるのか!」

…羅刹招来!

北斗の呟きにダリアに二対の真紅の光翼が出現する。

「な!?待て!待て、北斗、何のつもりだ!?」
「ほ、北斗殿、どうされたというのですかーー!?」

アキトと千沙の声は次の北斗の絶叫にかき消された。



…ナデシコクルーだけでは飽き足らず、千沙まで毒牙にかけたか!

 …そこまで俺に見せつけるとは…この、この…

 俺の気持ちを考えた事があるのか!



アキトと千沙の魂は遥か彼方に飛んで行った。


『…やっぱりね』
『…アキト兄、天然の甲斐性なしだから…』


フッフッフッ……この浮気者がぁー!喰らうが良い!!

「わ、待て待て、誤解だー!」
「落ち着いて下さい、北斗殿、私達はまだ何もしておりません!」


プチン


「ち、千沙さ〜ん!?」
「あ!?アハアハハハ……」


塵と化せ!八又蛇王斬舞!!


斬!   斬!   斬!   斬!
   斬!   斬!   斬!   斬!



のげえぇ!回避回避回避回避…
ウギャァァァーーーー!!!


『あ、アキト兄ぃー、そんな急機動したら……』
『準備してた、ジャンプフィールドが暴走しちゃうよ…」


回避回避回避回避ィィィィィ!!!
ヒャァー!三半規管がぁ!Gがぁ!!


『…聞いてないね…ランダムジャンプするかもしれないのに…』
『…そうよね。それに意外に千沙さん、余裕ありそうよね…』








北ちゃんの『八又蛇王斬舞』が終了した時、そこには塵すら残っていなかった…



































『アキト兄!千沙さん!ディア!起きなよ!!……もう、二人はともかく、なんでAIのディアまで寝起きが悪いかな〜
 こんな所までルリ姉やラピ姉に似る事ないのに…』

ブローディアのAIの片割れブロスは一人困惑していた。

ランダムジャンプは人間に多大な負担を与えるのか、アキトと千沙の意識は戻らない。
ディアについては、何故か分からないが…

『……仕方無いなぁ、もう。ボクが一人で状況把握するしかないか。まぁ、どうせボク等がする事になるしね。
 ……え〜と、現在座標は月近辺で……ぬをぉう!?……これは……よく調べないと……』









…ロス!ブロス!ブロス!!もうウイルス流すわよっ!!
『……え?、ダメ!それはダメ!絶対ダメだよ、ディア!!』
『あ、やっと起きた、もうブロスは寝ボスケなんだから。一体誰に似たのかしら?』

ブロスが意識を電脳世界から現実世界に戻した時、いきなり理不尽な事をディアに言われた。
さすがにディアよりは温厚な…たいがいの人が温厚かもしれないがブロスもカチンと来る。

『ボクはディアとは違うよ!ちゃんと早く起きて、自分達の置かれた状況を調べていたんだ』
『え?そうなの?』
『そうだよ、それをウイルス流すとか言っちゃって…』

不毛なAI同士の兄妹?姉弟?どっちだろう喧嘩をアキトが止めた。

「ブロス、偉いな。それで、ここは何処なんだ?」

『あ、うん。え〜とね、ここはランダムジャンプした地点からそう遠くないよ。通常航行で月まで3日で行ける位』

「そうか、ランダムジャンプしたのに運が良かったな…」
「…そうですね、ランダムジャンプの危険性は木星でも煩く言われてます。本当に運が良かったですよね」

アキトの意見に千沙も賛成する。
ちなみに、当然未だにアキトの膝の上、腕の中である。

『うん、でもね、アキト兄…』

「どうした?」

『今日は、2196年の10月だよ』





何やらアキトがよく知っている年代が示された。

「…2196年?」
「…10月?」

『そうだよ、間違いなく2196年10月。過去に戻ったみたいだよ、ボク等』

またか!
「また?」
「…あ、いや、その…」
「またとはどういう事なのですか、アキトさん?」

思わず出てしまった言葉の説明に苦慮するアキト。

「…ブロス、2196年10月に間違いないんだな?」

『間違いないよ。惑星の位置でも電子の世界でも確認できたよ』

「…そうか、分かった……千沙さん、長い、本当に長い話になるけど聞いて欲しい…」

アキトは覚悟を決めて話し始めた。ナデシコの乗員と高杉三郎太しか知らない秘密、過去への逆行の事を。









千沙には頬を伝う涙を止める術が無かった。

初めて知った漆黒の戦神と呼ばれる地球の英雄の秘密。
真紅の羅刹と並び称される人類最強の男であり、凄腕コックの腕前を持ち、やさしさまで兼ね備えた男。
しかも、彼は、軍部と経済界に強いパイプを持ち、地球と木星の和平を強力に推進させている。

その経歴を知る事はできた。だが、その経歴では全てが成し得る事ではなかった。
謎に包まれた人物。

その秘密を知った時、謎は謎ではなくなった。

アキトの過去を知った千沙。

だから、彼女は唯一できる事をした。

アキトに正面から向き直り、その頭を胸に抱き、何も言わずに髪を優しく撫で続けたのだ…

初め抗う素振りを見せたアキトも自分の首筋を流れる千沙の涙を感じた時、力を抜いて体を預けた…


・                                                            『…………………』
・                                                            『…………………』
・                                                            『…………………』
・                                                            『…………………』
・                                                            『…………………』


時は静かに流れた。

だが、アキトが普段騒がしいAI達の事を思い出していたら、不思議に思わなかったであろうか。
この長いけど僅かな時間が後の命運を決める事になろうとは…





「…アキトさん、これからどうすのですか?」
「俺がやる事は、一つだけだよ。昔も今もそれは変らない…」
「…………」
「ナデシコに乗り、和平を実現し、俺の周りで起こった不幸な出来事を繰り返させない!
 俺は、神に運命に呪われているのかもしれない…だけど、俺は諦めない!挑戦する!!」

千沙は強いと思った。本当に強いと思った、心が。だから、躊躇わずに言った。

「今度は私も協力させて下さい」
「え?千沙さん?」

『アキト兄、まさか、ここで千沙さんを捨てる気?』
『そうだよ、ボク達は木星まで千沙さんを送っていけないし、この世界の千沙さんがどうなっているか
 わからないのに放って置くのは、無責任だよ』

ディアとブロスが口を挟んだ。

「いや、そんなつもりはないけど……ただ、戦争に巻き込みたくないんだ…」
「私は軍人ですよ、それに誰も知る者もいない地球で一人で生きろというんですか?」
「え?いや?だけど…」

『『アキト兄、無責任』』

ディアとブロスがハモる。

「…わかったよ…千沙さん、謝って済む事ではないけど、巻き込んでしまって、ごめん」
「いいんです。それに、元はと言えば、私がボーッとしてアキトさんと北斗殿の戦いに巻き込まれたのが
 いけないんですから。あ、そうすると、やっぱりアキトさんのせいになりますね♪」

励まそうと悪戯っぽく話す千沙に、アキトも笑顔を向ける。

『それでね、アキト兄?』

「何だ?」

『この世界のアキト兄は、去年2195年に火星で行方不明の死亡扱いになってるから、
 この戸籍を復活させればいいんだけど、千沙さんは一から作らないといけないんだ?』
『だから、この際二人は夫婦って事にしようとブロスと相談したんだけどいいかな、アキト兄、千沙さん?』

サラッとAIズはとんでもない事を提案した。
それを聞いた二人はポカ〜ンとしてしまう。

『アキト兄、良く考えてね。ルリ姉に聞いた所だとぜ〜ったい、アキト兄は同じ事を繰り返すわよ。
 しかも、より酷くなる事請負ったっていいわよ』
『ルリ姉、ラピ姉、艦長、メグミさん、リョーコさん、サユリさん、イネスさん、エリナさん。
 1回目は8人って、言ってたよ、ルリ姉が』
『二回目は、ホウメイガールズの残り4人に、サラさん、アリサさん、レイナさん、舞歌さん、北斗さん、枝織さん
 が増えたでしょう。10人も増えたわよ』

知っている事とはいえ改めて指摘され黙る二人。
勿論、黙る過程にかなりの違いはある。

『だから、千沙さんで手を打った方がいいよ。千沙さんなら、お仕置きしないから』

ピクッ 「お仕置きしない?」

アキトに一瞬反応が生まれた。

『ナデシコを逃げ出してシャクヤクに行った時に、いつも暴走する周りを庇ってくれたのは千沙さんだよ』

ピクッピクッ 「普通の生活が送れる?」

更にアキトに反応が生まれる。

ディアとブロスは、アキトから見えない位置で、千沙に合図を送った。

ここで、千沙は一世一代の懸けに出た。

「…でも、私なんて……婚約者に振られるような魅力の無い女です。アキトさんには不釣合いです…
 ダメですよね、違う男の人が好きだったのに振られてから、アキトさんに気付いた女なんて……
 いいんです。私は一人で生きて行けますから…」

そして、キュッと眉を寄せ、涙を滲ませながらアキトに笑いかけた。

きっと、彼女の上司、舞歌になら一蹴されたであろう。

が、ここにいるのはテンカワ・アキト…





























普段から優しく接してくれた彼女に報いる為、創造主を裏切った二柱のAIにより、


こうして祝寿・天河千沙は誕生した!






<あとがき>


無性に千沙が書きたくなりました。書きました。書いてみました。

だって、何か最近の千沙のSSを見ると、不幸友の会四人衆が手招きしているように見えるんだもん。

故に、ここに私は、エリナ推進団体実行師団諜報部長の兼業として、

『千沙魔法鏡団・白の術士』を名乗り、各務千沙応援して行く所存であります!

ちなみにこの『千沙魔法鏡団』の活動は、千沙がSSに登場して不幸過労心労が見えたら、

感想掲示板で慰めてあげよう!というものです(笑)

別にSSを書かなくてもいいんです。ちょっぴり不幸属性が板についてきた感のある各務千沙に

愛の手を差し伸べて下さる方、募集します。兼業の人の方が嬉しい(爆) だって、私もですから。

あくまでエリナさ!千沙の感想の時のみ、名乗って、慰めてあげるのが、ベスト!

以上、よろしくお願いします。ではでは。




 

 

代理人の感想

 

千沙の不幸な要素・・・・・

 

実力はあるけど性格が破綻してる人の副官で。

想いを寄せた人には見事に振られて。

なまじ有能なだけに厄介事が舞い込んで来て。

 

はて、どこかで聞いたような(笑)。

 

 

しかし!

だがしかし!

本来副官だったはずなのに存在すら忘れ去られている某氏に比べればまだマシ!

ではないかと思うのですが・・・・(笑)。

某氏と千沙と、それ以外の条件はほぼ一緒だし(爆笑)。