アカツキの決断








「・・・なんの用だ?」

ディスプレイに映し出されているのは相変わらず黒尽くめの格好をしているアキトだ。

「あら、随分と冷たいのね。ただの世間話じゃ駄目なの?」

アキトと通信を行っているのはエリナだった。
火星でユリカを助け、復讐の対象であった北辰を倒したアキトは何処へともなく飛び立った。
それでもエリナが連絡を付けられるのはエリナがネルガルの一部の人間のみが知っているアクセスコードを使って通信を行っているからである。。

「用件がないなら切るぞ。」

ついこのあいだまで多大な世話を受けていたエリナ相手でもアキトの反応は薄かった。

「復讐は終ったのに態度は変わらないのね。用件なんてあなたにもわかってるんでしょ。あなたこれからどうする気なの?」

前半部分こそやや呆れながらであったが、後半のエリナは真剣そのものだった。

「俺はもう二度とユリカ達の前に立つ気はない。」

「そう言うと思ったわ。でも本当にそれでいいの?」

「ああ、俺がいてはユリカ達を不幸にするからな。」

「あなたなら彼女達のしつこさは知っているでしょ?
しばらくは待っているでしょうけどあなたが帰ってこないとわかったらルリちゃんはすぐにでも追いかけに行くわよ?
ユリカさんはしばらく入院生活だけど退院したら当然追いかけに行くでしょうね。」

火星の後継者達に攫われ、遺跡と融合させられていたユリカはアキトとルリに助け出された。
しかしさすがに無事ではなく、命に別状はないものの入院生活を余儀なくされている。

「それでも俺には二人の前に立つ資格はない。ユリカ達が諦めるまで待つさ。」

「そういうことを言ってるんじゃないわ。彼女達が追いかけることの意味を貴方本当にわかっているの?」

自分の気持ちを落ちつけるためにエリナは一呼吸置いた。

「ルリちゃんが貴方を追いかけるとしたらナデシコCを使うことになるわ。
でもルリちゃんもナデシコCも軍の所属、動くにも動かすにも許可がいる。
ルリちゃんが口実として期待していたテンカワアキト逮捕命令は
結局宇宙軍には出されなかったのを貴方知ってる?
もっとも統合軍全軍には既に出されているけどね。」

多くが火星の後継者反乱に参加したとはいえ、依然として圧倒的な戦力を保持している統合軍に指名手配されたと聞いてもアキトの表情は何一つ変わらなかった。

「・・・予想はしていたことだ。ルリちゃんもミスマル提督も俺に関係が深すぎる。
それに統合軍としては今回の後始末は自分たちでつけないといけないだろうからな。」

「じゃあルリちゃんはどうやって貴方を追うというの?軍に逆らってまで探せというの?
あの子ならやりそうなことよね?」

このままいけばルリも反乱者となる。アキトとルリの関係を考えれば十分脅迫になり得る言葉である。
アキトにこれ以上責任を押し付けるのは心苦しい。しかし出来ることならば帰ってきてほしい。
相反する感情が乱れ入っているエリナの心情はいかほどのものか。

「ルリちゃんは馬鹿じゃない。ミスマル提督に頼めば誤魔化しながら俺を追うことなんて簡単なはずだ。
エリナ、俺にそんな脅しは効かないぞ。」

「・・・そう。でもそこまでわかっているなら大人しく帰ってきたらどうなの?」

「そうもいかないさ。」

「ユリカさん達を不幸にしたくないから帰りたくない。ユリカさん達があなたを追いかけてもつかまる気はない。
彼女たちの貴重な青春の時間を奪うことは不幸にしていることにははいらないのかしら?」

「自分の身体は自分が一番わかる。俺の寿命はそう長くない。そう長い時間無駄にしないさ。」

自分の死、それも遠くない時期に確実に訪れる死を語るにしてはあまりにも淡白な言い方である。
もっとも復讐を終え、愛するユリカを救ったアキトには当然の言い方とも言えるかもしれない。

「死出の旅立ちというわけね。・・・決意は堅いのね。」

ナデシコ時代に好意を寄せていた相手、復讐鬼時代に影で支え続けた相手の死の話題であったが、
既にイネスに話を聞いていたためエリナは意外と冷静であった。

「ああ。」

「仕方ないわね。ユーチャリスも充分実戦データがとれたことだし、テロリストの使っていた船が
あってはネルガルにも不利になるからその船は餞別代わりにあなたにあげるわ。」

アキトが自分の身体の事を知っている。知ったうえでの行動ならばと、
エリナは妙にさっぱりとした口調でアキトに告げる。

「おいおい、そんな重要なことを秘書が勝手に決めてもらっちゃ困るな〜。」

二人の会話が一息つくのを待っていたのか、タイミングよくアカツキが現れた。

「あ、あんた、いつからいたのよ?」

あまりにタイミングよく現れたアカツキにエリナは驚きを隠せないようだ。

「最初からいたさ。きみたちの最後の別れを邪魔しちゃいけないと思って待っていたんだよ。」

「余計なお世話よ!」

無意味に髪をかきあげながら言ったアカツキにエリナは軽く頬を赤らめながら言い返した。

「まあそれはいいとしてテンカワ君、僕もユーチャリスはきみにあげるつもりだったんだけど
そうも行かなくなっちゃったんだよ。」

「どういうこと?」

エリナにはアカツキがいまさらユーチャリスを惜しむ理由がわからないようだ。

「いや〜、ルリ君にネルガルがきみを支援していたことがばれちゃってね。
テンカワ君の逃亡に手を貸したらネルガルの裏情報をばらすって言うんだよ。」

とんでもない内容をアカツキは平然と言った。

「ためしにどんな裏情報を握っているか見せてもらったんだけど、
あれを公開されたらネルガルが終わっちゃうんだよね。」

「うちでは重要情報は全てネットから切り離しているんじゃないの?」

アカツキの言葉を信じていないのか、エリナは平然とした態度を崩さない。
悪い言い方ではあるが、ルリを作ったのはネルガルである。
その後ナデシコ時代を経て、火星の後継者による蜂起による戦いなどを見て
ルリの実力を一番把握しているのもネルガルである。

ルリが今すぐ敵に回る可能性は低かったが万が一のことを考え対策を執っていた。
それがネットからの物理的な切り離しである。
物理的に切り離し、電子ネットワークから完全に独立させておけば
いかに電子の妖精といえども進入することは出来ないはずである。

「それがどういうわけか洩れちゃったみたいでね。」

「みたいってあんた・・・」

アカツキの能天気さにエリナが思わず頭を抱える。

「まあそんなわけで一応そのユーチャリスは返しておくれ。」

「構わないさ。戦いが終わった以上俺には必要ない。ついでにサレナも返そう。
ユーチャリスがないなら逆に邪魔だからな。俺にはCCがあればそれで十分だ。」

「CCくらいならばれないだろうから準備するよ。じゃあ、待ってるよ。ルリ君にばれないうちに早くおいで。」

「わかった。」

ユーチャリスとの通信が切れるとエリナが口を出してきた。

「ルリちゃんに脅されたからといってユーチャリスなんていまさらどうするのよ。
統合軍にばれたらただじゃすまないわよ?」

「それくらいいくらでも使い道があるさ。ま、多分大幅に改造を施してナデシコC二番艦として作り変えられると思うよ。一号機はルリ君専用みたいなものだから二番艦はハーリー君専用になるんじゃないかな。」

「ハーリー君専用?あの子はまだ子供・・・でもしょうがないわね。
ルリちゃんを相手に出来る船を軍は望んでいるでしょうし。」

ナデシコC二番艦、それは軍にとってはどうしても作らなければならない船である。
火星宙域に集まった火星の後継者達の船、それは優に四桁を数えた。
それら全てのシステムを掌握した「電子の妖精」ホシノ・ルリとナデシコC。
その力は軍にとって切り札を越え脅威に値する存在なのだ。

抗う術がないわけではない。かつてフクベ提督は不完全ではないものの、一人でマニュアル操作をし、船を動かし攻撃まで行った。しかし今の時代、電子機器を使えない状態では戦闘能力は極端に落ちる。標準を目算で合わせなければならなくなる上に、通信回線すら開くことが出来ないのだ。組織戦闘など不可能に近い。

ナデシコCを解体すればいいのだが、それでは切り札を失うことになる。しかしそのままでは脅威となる。
そこで軍はナデシコCに対抗しうる船、ナデシコC二番艦を望んだのだ。
ついでにマキビ・ハリをホシノ・ルリの下から離す切っ掛けとなる。

「まあ今すぐにってわけじゃないんだし。軍としても彼をいつまでもルリ君の下においておく訳にもいかないでしょ。
ルリ君がいる船には彼はもったいないし、脅威が大き過ぎるよ。」

「でもあの子がルリちゃんから離れることを認めるかしら?」

「そこまで子供の我侭を聞いていられないでしょ。彼も軍人なんだし。」

(ま、引き離したところでハーリー君がルリ君と戦うとも考えにくいけどね。)

実際のハーリーを見れば誰もがそう考えるだろう。それでも軍としては二人を引き離しておかないといけないのだ。

「さて、そんなことよりテンカワ君を迎える準備をしないと。ジャンプで来るなら一瞬だしね。」

話がアキトのことから離れつつあったのを感じたかアカツキは話題を元に戻した。

「そうね。」

「というわけでエリナ君、きみCC持ってきてよ。いくつでもいいからさ。」

「はいはい。わかったわよ。」

(エリナ君がいるとうるさそうだしね・・・)



エリナが部屋を出て行くとアカツキはどこかへ通信を繋いだ。

「あ、僕だよ。準備は出来てるかい?・・・じゃあよろしく頼むよ。」

短いやり取りを終えるとアカツキはユーチャリスを迎えるためにドックへと向かった。

「さ〜て、テンカワ君はどうでるかな?」

そう呟いたアカツキの声は非常に楽しそうだった。




月にあるネルガルの秘密ドッグ。かつてアキトが復讐の力を求めた時にアカツキが建造させた戦艦ユーチャリス――復讐のために造られ、最新技術を駆使して造られながらも決して表に出る事を許させなかった、そしてこれからも許されない悲劇の戦艦――その誕生の場所である。

ユーチャリスを迎えるためにドックへ移動し、待機していたアカツキの目の前の空間が歪みはじめた。

「おっと、来たようだね。」

 空間の歪みが収まると、そこには一隻の戦艦が現れた。
 ユーチャリス、統合軍の間で復讐鬼と呼ばれ、忌み嫌われたテンカワアキトの乗艦だ。

(ユーチャリスか・・・エリナ君の願いも適わなかったみたいだね。)

この戦艦に「ユーチャリス」という名前をつけたのはエリナである。当時のアキトには名前を気にしている余裕はなかったし、あったとしてもなんでもいいと言っただろう。そこでアキトの世話係をしていたエリナに命名権が回ってきたのだ。

そこでエリナが付けた名は「ユーチャリス」。「清らかな心」を花言葉に持つ花の名前である。復讐のための戦艦に付けるにはあまりにも似つかわしくない名前である。しかしそれは復讐をやめ、清らかな心を取り戻してもらいたいというエリナの願いの表れである。

結局その願いがかなうことは無かった。アキトは自分の身を省みず復讐に身を堕とした。エリナもイネスも何度説得したかわからない。
 
それでもアキトは止まらなかった。身体はぼろぼろであったが元々五感はないに等しいのだ。それを補うためのラピスとのリンクだったが、アキトは敢えて痛覚だけをリンクしないことで復讐を続けた。

痛覚のみリンクしないという方法を最初イネスは当然の如く拒否をした。しかし、それならばとアキトは痛覚をリンクした状態で限界を超えた戦いをして帰ってきたのだ。想像を絶する痛みの中で。

それを知ったイネスにはもう拒否し続けることは出来なかった。少しでもアキトの苦痛を取り除こうと言われる通り痛覚のリンクを解除した。人間の身体は痛覚を感じるからこそ限界を知ることができ、限界を超えないように無意識的にセーブする。。その痛覚を無くしたアキトの身体はますますぼろぼろになっていった。

この事件以降エリナとイネスはアキトを止めることはなくなった。それどころか全面的に協力しだしたのである。アキトを止めるのが無理なのなら、一刻も早く復讐を終えさせることで結果的にアキトの身体を守ろうと考えたのだ。

(確かにテンカワ君は復讐を果たした。けれど僕達の選択は本当に正しかったのかな・・・)

アキトに復讐のための力を与えたアカツキにもそんな考えが浮かぶ。

アカツキがそんな考えを巡らしていると、アキトがラピスを連れて降りてきた。
黒尽くめの男と少女の組み合わせは怪しいことこの上ないが、ここでは誰も気にする者はいない。
この二人の組み合わせはここでは当然のことなのだ。

「やあテンカワ君。直接会うのは久し振りだね〜。」

先ほどまで考えていたことをまったく感じさせないあたりはさすがと言える。

「そうだな。」

「無事にユリカ君も助け出されたし、きみも北辰を討てたようだね。万事解決じゃないか。」

「CCはどこだ?」

アカツキの言葉を無視するかの如くアキトは目的のCCを要求した。

「・・・いきなりだねテンカワ君。少しは戦友である僕との会話を楽しもうという気はないのかい?」

ここまで無視されるとさすがに辛いのかアカツキは顔を引き攣らせる。

「早くしないとルリちゃんが来る。彼女の行動力は侮れないからな。」

「それもそうだね。CCはもうじきエリナ君が持ってきてくれるよ。」

「そうか。」

「ところでラピス君はどうするんだい?一緒に連れて行くつもりかい?」

「いや、出来ればネルガルに預けたい。俺の復讐が終った今これ以上付き合わせる必要はないからな。」

アキトの言葉に傍らの少女が身体を強張らせる。

「アキトハモウ私ノコトイラナイノ?」

「そんなことはない。だが、ラピスには普通の生活を送ってもらいたい。」

「私ハアキトト一緒ニイタイ。」

ラピスに普通の生活を送ってもらいたい。それはアキトの偽らざる気持ちである。今まで自分の復讐に付き合わせ、戦艦ユーチャリスを駆って多くの人を殺させた。それはアキトにとって大きなしこりとして残っている。

ラピスは嫌がらずに協力してくれた。自分には他に方法がなかった。言い訳の仕方はいくらでもみつかるだろう。それでもアキトは考えずにはいられなかった。自分はラピスを不幸にしているのだと。
ラピスはただアキトの傍にいたかっただけなのだ。それを復讐に利用してしまった。アキトの頭を駆け巡るのはそんな考えだ。

研究所で酷い扱いを受けた心を閉ざしていた中で、初めて優しくしてくれたアキトの存在はラピスの中で非常に大きいものにだった。そういった状況の中行われたアキトとラピスの五感リンク。これによってアキトにとってラピスは絶対に必要な存在となった。

誰かに必要とされる、人はそれによって自分に価値を見出すことが出来る。そしてそれは精神的に大きな支えとなる。それまで利用されるだけだったラピスにとって自分を必要としてくれるアキトはまさに自分の価値そのものとなった。だからアキトに必要とされなくなるということはラピスにとって最大の恐怖なのだ。

「俺はもうすぐ死ぬ。これからの旅は死に場所を見つける旅だ。ラピスを連れて行くわけにはいかない。」

アキトにはラピスの気持ちがよくわかっている。アキトもまた自分の居場所を見出せなかったときがあるのだ。その後、ナデシコという居場所を見つけたアキトはその居場所を守るために戦った。元来戦いが嫌いなアキトであったが、それは木連が人類であるとわかっても変わらなかった。だからこそラピスの気持ちはよくわかるのだ。

それでもアキトはラピスを連れて行くわけには行かなかった。これからアキトは死に場所を見つけにいくのだ。それも誰にも知られないように。ラピスを連れて行ったとしてもすぐに別れは訪れる。
しかもアキトの死をまじかに見ることになるのだ。アキトに依存しきっている今のラピスではそれに耐えられないだろう。

「私ガイナイトアキトノ五感ハ・・・」

「ジャンプが出来れば十分だ。場所の記憶はあるからな。」

「ソンナ・・・」

取り付く島の無いアキトの言葉にラピスの顔が悲しみに歪む。          

「大丈夫だよラピス君。」

重苦しいムードが漂い始めた中でアカツキが口を挟んだ。

アカツキとの面識はあるものの、いまだアキト以外には懐いていないラピスはさきほどまでの言い合いを忘れたかのようにアキトのかげに隠れる。しかし、ラピスの性格を知っているアカツキは特に気にしないようだ。

「テンカワ君はどこにも行かない。いや、どこにも行かせやしないからね。」

「・・・なんのつもりだ?」

しばらくの間アカツキのセリフと何かを企んでいるような表情の真意を掴めずにいた
アキトであったが、何かを感じ取ったのか突如殺気を漂わせ始めた。

「ようやく気付いたのかい?復讐が終わって気が抜けてるんじゃないかい。」

どこかからかう様な口調のアカツキに対してアキトの身体から漂う殺気は徐々に強くなっていった。

「もう隠れている必要はないよ。出ておいで。」

アカツキの言葉と共にドッグのあちこちから銃を構えた戦闘員が出てきた。

「・・・ネルガルのSS。」

多くの銃が向けられているにも関わらずアキトの口調に変化はみられない。

「ご明察。僕も一応ネルガルの会長だからね〜。会社のためになることもしないと。ま、そんなわけでテンカワ君大人しくしてくれると嬉しいんだけど。」

「俺を統合軍に突き出す気か?」

アキトはいま史上最悪のテロリストとして指名手配中であり、統合軍は躍起となってその行方を追っている。そんな状況でアキトを統合軍に突き出せばネルガルの株も上がるだろう。しかしアキトの口からネルガルとの関係が洩れるようなことがあれば逆に苦境に追いやられること必至である。
 
「さあて、それはどうかな?このまま統合軍に突き出してきみに証言されると困るからね。」

「ならば死体でか・・・」

相変わらず抑揚のない口調で話すアキトであったがその殺気はますます高ぶりをみせている。そんなアキトの後ろでは多くの銃を向けられている恐怖と、アキトの殺気を受けてラピスが小さな身体を震わせていた。

「・・・大人しくしてくれるかい?」

ラピスを庇う体勢と取りつつ油断なくSS達を見回しているアキトに対しアカツキは最後通牒に近い言葉を投げ掛ける。

アカツキの言葉を聞いたアキトは、周りを見回していた視線をアカツキに向けた。その視線は常人なら怯まずにはいられないほどの鋭さを持っていたがアカツキは柳に風とばかりに受け流している。

「・・・本気か?」
  
「きみ相手に冗談でこんなことしないさ。」

無表情のままのアキト、笑みを浮かべているアカツキ。二人の表情こそ変わらないものの、間に漂う雰囲気は険悪の一途を辿っている。

「それにしてはこんなに俺に近づいているとは無用心だな。SSが俺を撃つのと俺がお前を捕らえるのとどちらが早いと思う?」

先ほどまで普通に話していただけに二人の距離は近い。アキトの実力を持ってすれば一瞬の間にアカツキを捕らえることができるだろう。

「ご心配なく。」

それはアカツキにも当然判っているはずであるが距離を取ろうとする動作は見られない。そればかりか余裕の態度を崩す気配すらも感じられない。

「彼らの狙いはきみではなくラピス君に向けられている。きみは彼女を犠牲にして僕を攻撃できるかい?」

「なるほど。」

悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべるアカツキに対し、アキトの顔は忌々しげに歪んだ。

「・・・いいだろう。」

少しの時間をおいてアキトは静かな口調でそう答えた。その言葉と同時にアキトの身体から漂っていた殺気が消える。

「この世に未練もない。ネルガルにも世話になったしな。」

天井を見上げながらそう言うアキトの表情は驚くほど穏やかだった。

(今まで協力してくれた者に殺される。復讐鬼には相応しい最後だな。)

「ただラピスは・・」

顔をアカツキに向け直したアキトのセリフをアカツキが遮った。

「ラピス君の面倒はしっかり見るから安心しておくれ。実験なんて絶対しないよ。」

「感謝する。」

唯一の懸念事項が解決したアキトは安心したような表情を浮かべる。

「感謝だって?僕はいまからきみを殺そうとしているんだよ?」

アキトのあまりに場にそぐわない言葉にアカツキは苦笑した。

「今まで随分世話になったからな。それらを含めてだ。」

復讐鬼に身を落として以来始めて聞くアキトの感傷的な言葉にアカツキは照れが混ざった嬉しそうな表情をしたが、緩み掛けた顔を締めなおすと銃を取り出しアキトに向ける。

しかしそんな二人の間に一つの影が遮った。

「アキトハ私ガ守ル!」

それまで周りの空気の押されて震えるだけだったラピスが突如として二人の間に立ちふさがったのだ。
ラピスは両手を大きく広げ、少しでもアキトを守ろうとしながらアカツキを睨みつけている。

「どけラピス!」

アキトの声にも耳を貸さずラピスはその場に立ちはだかり続ける。アカツキも銃口をアキトに向け
たままである。ドック中に緊迫感が漂い、だれも動かない。

そん状況の中ふいにドックの扉が開きエリナが入ってきた。

「ちょっとあんた!なにしてんのよ!」

ドック内の雰囲気に一瞬戸惑いを覚えたようだが状況を理解するとアカツキへ向かって怒鳴り声を上げながら詰め寄ろうとする。

「やれやれ、うるさい人が戻って来ちゃったよ。その前に片付けようと思ったのに。」

アカツキがため息とつきながらそう言うと突如ラピスの身体が崩れ落ちた。
どうしても退こうとしないラピスをアキトが気絶させたのだ。自分の死ぬ瞬間を見せないようにするというアキトに出来る最後の心遣いだ。

「ありがと、テンカワ君」

アカツキはそう言いながら躊躇いもなく引き金をひいた。

ドックに鳴り響く一発の銃声。

表情を変えないアカツキ、呆然としたエリナ、そしてネルガルSSが見守る中アキトの身体はゆっくりと崩れ落ちた。












<後書き>
どうも初めて投稿させていただいた「やまと」と申します。
SSを書くのは初めてなので不備も多くあると思いますが筆力UPを
目指しながら頑張って行きたいと思います。
目指せお笑い作家です!・・・ん?この小説お笑いか?
まあそんなわけで代理人様の厳しいお言葉待っております。
僕は代理人様の感想の大ファンなんです。投稿しようと思ったのも
感想を書いてほしいからだったりします。
あっ、でも決してMではないです(笑)

ちなみに今回のSS続くかもしれません。「かも」ですが。

それでは代理人様、感想楽しみに待ってます。

 

 

代理人の感想

感想の方のファンであって作品の方ではないのね、しくしく。(核爆)

 

・・・・と、かなり自虐的なネタでツカミを振った所で本題。(いや、どー考えても作品を書かない自分のせいだろう)

 

 

さて、「続くかも」と仰っておいでですが。

正直言ってこの作品、続きものにしか見えないんですなこれが(笑)。

理由は二つ。

まずきちんとした、明確なオチがついていないと言うこと。

アキトの生死は不明ですし、死んだにしても「アキトが死んでそれからどうした」という展開がありません。

アキトの人生自体は決着したかもしれませんが、周囲が(話の上で)決着してないんですね。

「アキトが死んだ」というのは単なる事実であり、物語を終わらせるだけの力を持った事件ではないんです。

次に解決されないままの伏線(らしきもの)が残っていると言うこと。

具体的に言うと、ルリへの機密漏洩の件ですね。

そして最後に、最初の理由とも被りますが、明確な結果を表示していないラストシーンが「ヒキ」にしか見えない事(爆)。

 

ひとつひとつなら「そういうこともあるかな」程度なんですが、

これだけ重なるとこれ以降の展開がある方がむしろ自然に思えるんですね。

と、いうわけで次を期待してますので(笑)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・あ、三つか。(遅い!)