幕間〜ナデシコクルーV〜<アカツキ編>










「隠れる?」

アカツキの言葉の意味がわからず、ユキナが聞き返した。


ユキナの問いには答えず、アカツキは電気を消す。


「ちょ、ちょっと何で電気を消すのよ。」

「そうよ、真っ暗じゃない!」

突然電気を消されたミナトとユキナが抗議の声を上げる。


「来ればわかるよ。」

アカツキはそれだけ言うと、一人隠し扉の方に向かった。



しかし、なぜアカツキは暗い中を歩けるのだろうか。

それは謎であるが、光る歯は関係無いとだけ言っておこう。


アカツキが隠し扉を開けたことで、真っ暗だった部屋に一筋の光が差し込む。



アカツキは今度こそは場所を取られないようにと、しっかりと場所を確保している。

もちろん体勢は既に覗きの体勢だ。


(怪しいわね。)

(怪しいわ。)

ミナトもユキナもそう思った。

当然と言えば当然である。


「私達も早く行きましょうよ。」

メグミはそう言いながらミナトとユキナを引っ張っていく。

メグミはどこか楽しそうにしている。


ユキナとミナトもよく分からないまま付いていった。



(邪魔ですね。)

アカツキを見たメグミはそう思った。


(今度は負けないよ。)

アカツキも闘志満々だ。


第二次覗き場所争奪戦勃発である。



ドン!


メグミが押すが、アカツキは踏みとどまる。

純粋な力ではアカツキの方が上なので当然だろう。


(勝った!)

アカツキが心の中でそう誇る。


ドン!


ドン!!


ガン!


三つの音が終わった後、アカツキがまたしても床に倒れていた。


(よくわからないけど押せばいいのよね?)

(フッ、悪は滅びたわ。)


メグミの行動を見たミナトとユキナが真似をしてアカツキを押したのだ。

しかもユキナはアカツキの行動を悪と判断したらしく、強めに押している。


なお、最後の音はアカツキが床に叩き付けられた音である。



メグミは床に倒れるアカツキを目で笑うと、覗きの体勢に入った。

どうやら覗きを気に入ったようだ。


ミナトはメグミの行動を見習って覗きの体勢に入る。

ユキナも躊躇うことなく覗きの体勢に入った。

アカツキが行うと悪なのだが、自分が行うのは良いらしい。


そんな女性陣の行動に僅かに冷や汗を流しながらも、アキトは先程アカツキの使った台を使って
自分も覗きの体勢に入る。

さすがに女性が三人が覗いているため、台を使わないと覗けないのだ。


ちなみに床に倒れているアカツキはもちろん無視だ。



(テ、テンカワ君・・・)

アカツキは自分を無視するアキトの行動に心中涙を流している。


それでもなんとか立ち上がると、何処からともなく台を二つ持ってきてその上に登った。


・・・台の多い部屋である。



それはともかく、五人とも覗きの場所についた。

上からアカツキ、アキト、ミナト、メグミ、ユキナである。


暗い部屋の中で、五人の男女が縦に連なり隣を覗いている。

・・・もはや何も言うまい。




扉の向こうにブリッジを見たミナトとユキナは自分が覗かれていたことを知った。


(私達の時も覗いてたの?)

(ひどいよ。)

二人とも責めるような口調で文句を言う。

(アカツキさんに言われて・・・すみません。)

メグミはそう言ってアカツキに罪を擦り付けた。


(人のせいにするのは・・・)

アカツキの言葉は最後まで続かなかった。



ドン!


ガシャン!


部屋に大きな音が響き渡った。


覗きをアカツキのせいだと思ったユキナがアカツキの台を蹴飛ばしたのだ。


その結果、台は崩れた。

当然上に乗っているアカツキも床に落ちることとなった。



(やりすぎよユキナ。)

(天誅よ。)

さすがにやり過ぎと感じたのか、ミナトがユキナをしかろうとするが、ユキナは気にしていなかった。



(哀れだな・・・)

アキトは冷や汗を流しながら、アカツキの冥福を祈っていた。


(・・・さすがに今のは効いたね。)

心の中でそんなことを考えながらもアカツキは再び立ち上がり、再び台の上に上った。

その根性は見上げたものである。


根性の使い道を間違っているような気もするが、気にしてはいけない。


ユキナに文句を言わないあたり、無駄だと悟っているのかもしれない。





「なんで〜、誰もいねえじゃねえか。」

「ほんとだね〜。」

五人がしばらく覗いていると、誰も居ないブリッジに不満を漏らしながらリョーコ達が入ってきた。

イズミも一緒にいるのだが、何も言わない。



(リョーコちゃん達もか・・・)

アキトはため息をつきながらそう言った。

(一流が条件だからね。)

アカツキが当然とばかりに答える。

(わざとじゃないのか?)

(さあね。)

やや棘を含んだアキトの言葉もアカツキはあっさりと流した。


(うわ〜、リョーコさん達は久しぶりです。)

(私はナデシコCで会ったわよ。)

(私も、私も。)

アキトとアカツキの会話の一方で、女性陣は女性陣で盛り上がっていた。




「人をわざわざ軍から引き抜いたくせに、迎えがいねえってのはどういうつもりだ?」

リョーコは随分不機嫌のようだ。

「私は編集者から逃げれればいいんだけどね〜。」

対してヒカルは軽く言った。




(あれ?イズミさんは?)

アキトはアカツキとの会話に気を取られた隙にイズミを見失っていた。


(いないねえ。何処に行ったんだろ。)

アカツキも不思議そうに言う。


女性三人はいまだに盛り上がっていて気付かない。




シュッ。



突如隠し扉が開かれた。






扉に寄り掛かるように覗いていた五人は突如支えを失った形となった。




ガターン!!




当然五人は前に倒れこんだ。



「あ〜!!お前等何やってんだよ!」

「あれ〜みんなひさしぶりだね〜。」

倒れてきた五人を見てリョーコとヒカルが声を上げる。


どうやらアキトがいることには気付いてないようだ。



イズミは隠し扉の傍で五人を見下ろしていた。

隠し扉を開けたのはイズミだったようだ。


何故イズミが隠し扉に気付いたのか。

それはもちろん謎である。



「お、重い・・・」

覗いていた位置上、一番下になってしまったユキナが悲鳴を上げる。


「は、早くどいてください・・・」

二番目であるメグミも辛いようだ。


「ちょっと、アキト君・・・変なところ触らないでよ。」

ミナトが身を捩じらせながらアキトに言った。


「ご、ごめん。」

アキトは慌てて謝ってはいるが、上にアカツキが乗っているため満足に動けない。


「こ、これは予定と違うねぇ。」

アカツキはそう言いながらなんとか立ち上がった。


アカツキが退いたことで、アキト達他の四人も身体を起こすことに成功した。



「ああ〜〜!!アキトじゃねぇか!!」

アキトの存在に気付いたリョーコが大声を上げた。

「ほんとだ〜!なんでこんなとこにいるの?」

ヒカルも驚いた表情をしている。


イズミは何も言わない。

アキトを見ても全く驚いた表情を浮かべない。


実に謎の多い人物である。



「久しぶりだねリョーコちゃん、ヒカルちゃん、イズミちゃん。」

なんとか気持ちを取り直すとアキトは二人に向かってそう言った。


「ひさしぶりじゃねえよ!」

リョーコがアキトに詰め寄る。

「まあまあ、事情は僕から話すよ。」

そう言いながら、アカツキが間に入って遮った。


「んじゃとっとと話せよ!」

やや不機嫌になりながら、リョーコがぶっきらぼうに言った。

「もう少し後でね。」

しかし、アカツキは話をはぐらかす。

「んだと!」

元来気の長い性格でないリョーコが大声を上げた。

「落ち着きなさい、リョーコ。」

そんなリョーコをイズミが止めた。

「チッ!」

リョーコは不満そうだ。


「どうせなら一度で済ませたいからね。あと一人来てくれないと困るんだよ。」

リョーコを宥めるためか、アカツキは皆にそう説明した。

「あと一人?だれだ?」

アキトが不思議そうに聞いた。

これ以上は差し当たって思い浮かばない。


「もうすぐ来るよ。」

アカツキはそれだけ言った。



「でもアキト君元気そうだね〜。」

どうやら話が終わったようだと感じたヒカルがアキトに話し掛けた。

「まあね。」

まったく普通に自分に接してくるヒカルに感謝しながら、アキトも返事を返す。


「アマテラスでの決着は付けるからな。逃げるなよ。」

リョーコもひとまずアカツキを置いておくことを決め、アキトに話し掛ける。

「はは・・お手柔らかに。」

非常にリョーコらしい言葉にアキトは苦笑している。

「アンタも大変だったみたいね。」

まるで全てを知っているかのような口調でアキトに話し掛けるイズミ。

「・・・ああ。」

アキトも真剣な表情に変え、答える。


イズミとの会話だけシリアスだ。



「みなさん、久しぶりですね。」

アキトと三人の会話を見ていたメグミも話に加わる。

「あ〜、メグミちゃん。久しぶり〜。」

ヒカルが嬉しそうに答える。


「私達もいるよ〜。」

メグミに続いてユキナとミナトも会話に入っていく。

「おめえらも来てたのか。」

口調は荒いものの、リョーコも嬉しそうだ。


ブリッジはすっかり同窓会状態になっていた。


アカツキだけは話に加わわらずにその光景を眺めていた。


(やっぱり、彼女達といればテンカワ君も昔に戻れるんだね。)

アカツキは質問攻めを交わすのだけで精一杯のアキトを見ながら嬉しそうにしていた。





「そろそろ来るみたいだね。」

しばらく経った後、アカツキが言った。

その言葉に全員が注目する。


「だれが来るんだよ。」

気になるのか、リョーコが聞いた。

「それは来ればわかるよ。」

アカツキはまだ答えを明かさない。

「それじゃあ早く隠れないといけませんね。」

メグミがどこか楽しそうに言った。


やはり気に入ったようだ。


「いや、演出を変えよう。」

いそいそと隠し扉の方へ向かったメグミをアカツキが止める。


「テンカワ君はここに居たまえ。」

そう言うと、アカツキはアキトを扉の真ん前へと連れて行った。

「きみ達はこっちね。」

女性陣は扉のすぐ横に連れて行かれる。

状況がよくわからない一同はアカツキの言うことに大人しく従うことにした。



これだと、入ってきた人間はアキトしか見えない。



「これでいいんですか?」

メグミが不安になって聞いた。


「大丈夫だよ。それに次に来る人にはこの方が面白そうだしね。」

アカツキは笑いながらそう言った。



その言葉に、アカツキを覗く全員が不安を覚えていた。








「ここがブリ・・・」

扉を開けて入ってきたジュンの言葉が止まった。


決して戦艦内にブリがいたわけではない。

正面に立っていたアキトを見て驚いたのだ。


「ジュン!」

アキトも驚いた表情をしている。


まさか生粋の軍人であるジュンが来るとは思っていなかったのだ。


「テ、テンカワ!なんでこんなところに!」

「それは・・・」

大声を上げるジュンにアキトは口ごもる。


「いや、そんなことはどうでもいい。」

しかし、ジュンはそんなアキトの態度は気にせずに言った。



女性陣とアカツキは扉の陰で黙っている。

ジュンは気付いていないようだ。



「テロリスト、テンカワ・アキトお前を逮捕する!」

突如ジュンは懐から銃を出すとアキトに向け、そう言った。

「お、おいジュン・・・」

アキトが慌てる。


「確かに、きみを逮捕すればユリカは悲しむかもしれない。」

アキトの言うなど全く無視してジュンは勝手に話を進める。


「元ナデシコクルーも悲しむかもしれない。」

アキトの困惑を無視して、ジュンの言葉は続く。


「だけど、だけど僕は軍人としてきみを逮捕しなければならないんだ!!」

ジュンは銃を持っているにも関わらず、ポーズを付けて大声で宣言した。




ガン!

サグッ!

ベシッ!


ドン!

ゴン!


バタン!

バン!!


カーン!

パサパサ。



突如ブリッジに鳴り響いた一連の音が終わった後、そこには床に倒れるジュンと冷や汗をだらだらと流すアカツキの存在が認められた。

よく見るとジュンは痙攣しているようにも見える。



「まったく、あんたは何してんのよ!」

最初の音の犯人であるエリナがジュンに向かって怒鳴りつける。

ちなみに音はエリナの持っている書類をジュンに投げつけ、命中させた音だ。

この書類は読みやすいように、板が添えられているタイプの物である。


「峰打ちにして上げたんだから感謝してほしいわね。」

二番目の音の犯人であるイネスがメスを光らせながら言った。

ちなみに音はイネスがジュンにメスを投げつけ、ジュンに刺さった音だ。

メスに、しかも刺さっている物に峰打ちがあるのかは謎である。


「アキトの敵は私の敵だよ。」

三番目の音の犯人であるラピスが倒れているジュンを踏みつけながら言った。

ちなみに音はラピスが持っていたドラ焼きを投げつけ、命中させた音だ。

ラピスはドラえもんに続き、ドラ焼にはまっているため常に持ち歩いているのだ。


この三人はジュンの少し後にやって来たのだが、ブリッジ内の状況を見て慌ててジュンを止めたのだ。


止めたというよりも攻撃のような気もするのだが、結果オーライである。



「いきなりアキトさんを逮捕するだなんて、何考えてるんですか!」

四番目の音の犯人であるメグミが冷たい目でジュンを見下ろしながら言った。

ちなみに音はエリナ達の攻撃でふらついたジュンをリョーコの方へ押した音だ。


「まったく、バカ野郎が。」

五番目の音の犯人であるリョーコが呆れながら言った。

ちなみに音はメグミに押されてきたジュンの頭を殴りつけた音である。


アイコンタクトを交わしたわけでもないのに、いいコンビネーションである。



五人の攻撃を受けたジュンは床に倒れた。

それが六番目の音である。



その時の衝撃で、ジュンの持っていた銃の引き金が引かれた。

それが七番目のである。



そして、その弾がブリッジの壁に当たった。

それが八番目の音である。



銃弾はアカツキを掠め、アカツキの髪をいくらか舞い散らせた。

それが九番目の音である。


五連撃を受けたため、ジュンの持つ銃の銃口は当然アキトから逸れており、たまたまアカツキの方を向いていたのだ。

間近を銃弾が掠めていったアカツキはかなりの冷や汗を流している。



「ちょっとラピス、ドラ焼きはおやつの時だけだって言ってるでしょ!」

「そうよ、言いつけはちゃんと守りなさい。」

そんなジュンとアカツキの状態は全く気にせず、エリナとイネスがラピスがドラ焼きを持っていたことに気が付き、注意した。


実はラピスが余りにも頻繁にドラ焼きを食べるのでおやつの時以外は禁止という約束を作ったのだ。

二人ともすっかりラピスの母親役になっている。


「だって食べたかったんだもん。」

ラピスは頬を膨らませ、そっぽを向いてそう答えた。


ちなみにラピスはジュンを踏みつけたままなのだが、誰も気にしていない。



「ジュ、ジュン君!」

いや、一人だけいた。

ユキナである。


「大丈夫ジュン君!」

ユキナは慌ててジュンに駆け寄った。

そしてジュンの惨状を見て、エリナ達に怒りの声を上げる。


「ちょっと!ジュン君になにするのよ!」

ユキナの声にエリナ達がユキナの方を向いた。


「何って、止めたのよ。」

エリナはあっさりと言った。


「それにしたって酷すぎるわ!」

「あら、アキト君に銃を向けたのよ?軽い方だわ。」

イネスがユキナに言い返す。


「テンカワさんはテロリストなんだから仕方ないじゃない!」

「アキトは悪くないもん!」

アキトを悪者扱いされ、ラピスが怒りの声を上げる。


「ジュン君はもっと悪くないわよ!」

「でもいきなり銃を向けるのはひどいですよ。」

メグミがエリナ達に加勢する。


「極悪テロリスト相手なんだからひ弱なジュン君が銃なしでかなうわけないじゃない!」

ユキナはジュンを庇っているのだか、貶しているのだかわからないことを言う。


「じゃあ、俺達の行為も正当防衛で仕方ないよな。」

リョーコが法律を持ち出す。

「犯罪者にそんなもの無いわよ!」

「法律ではそうなっていないんだよ。」

リョーコが余裕を見せながらそう言った。


意外なことに法律に詳しいようだ。


(街で喧嘩するときは相手から売らせるのが基本なんだよな。)

・・・どうやら実務的に学んだらしい。


「む〜〜!!」

五人に次々と反撃されてユキナは言葉に詰まる。

「はいはい、両方とも落ち着いて。」

今まで黙っていたミナトが仲裁に乗り出した。


「ユキナ、ちょっと言いすぎよ。アキト君暗くなってるじゃない。」

そう言われてユキナがアキトを見ると、確かにアキトは暗くなっていた。

というよりも、辛そうな顔をしている。


「あ、ごめんなさい。私・・・」

そんなアキトを見てユキナが慌てて謝る。

「いや、いいんだよ。本当のことだしね。」

ユキナの言葉を手で制しながらアキトが言った。



「あなた達もよ。ジュン君をこんなにしてどうするのよ。」

ユキナを反省させたミナトは今度はエリナ達に向かって言った。


「何かあっても私が治すから心配要らないわ。」

ミナトは自信を持って言うイネスにため息をついて黙った。


どうやらエリナ達は「攻撃→治療→攻撃→治療」というパターンを使っているらしい。

やられる方はたまったもんではないだろう。


ちなみにジュンはいまだラピスに踏まれている。




騒動に参加しなかったヒカルは楽しそうに一連の光景を眺めていた。

イズミは特に興味が無いようだ。




ジュンに関する事で一同盛り上がっている中、アカツキは完全に忘れ去られていた。

アカツキの膝はいまだに微かに震えている。




「さて、ブリッジ要員も揃ったことだし、次は厨房に行くよ。」

冷や汗を拭き、何とか膝の震えを抑えたアカツキは賑やかに話している皆に向かって言った。


「ジュンはどうするんだ?」

いまだに倒れている、というかラピスに踏まれているジュンを見ながらアキトが言った。

「きみが担いで来てよ。今のテンカワ君なら簡単でしょ。」

「分かった。」

アキトはそう言うと軽々とジュンを担ぎ上げた。

どうやらジュンは意識を取り戻していないようだ。


「へ〜、テンカワさんって力強くなったんですね。」

すっかりアキトと和解したユキナが感心したように言った。

他の女性陣も感心している。


「まあ色々あってね。」

アキトは苦笑しながらそう言った。



「さあ、行くよ。」

そう言うとアカツキは隠し扉の方へと向かった。


一同ぞろぞろと付いて行く。


「こんなもんがあったのか。」

初めて隠し扉を潜ったリョーコが扉を見回している。

「まだあるみたいだよ?」

一つ目の部屋を横切り、二つ目の隠し扉を開けたアカツキを見てヒカルが言った。



その後、アカツキは次々と部屋を潜っていった。



「ここってなんなんですか?」

四つ目の部屋を通っている時にメグミが聞いた。

さすがに全ての部屋に抜け穴があるとは考えていなかったのだ。


「テンカワ君が誰にも見られないようにブリッジと厨房を行き来するための通り道さ。」

アカツキは自慢気に説明した。


「もっと他のやり方は無かったの?」

エリナが呆れながら言った。

「時間が無かったからね。仕方ないんだよ。」

エリナの言葉にアカツキは一応の弁明をする。


「じゃあ途中の部屋は全部空き部屋なのね?」

ミナトが疑問に思ったことを聞いた。

さすがにアキトが通り抜けていく部屋というのは住み辛いだろう。


「そんなことしたら怪しまれるじゃないか。ちゃんと住んでもらうよ。」

しかし、アカツキはあっさりとミナトの言葉を否定した。


ナデシコDにはオモイカネ級のコンピューターが積まれて居ない。

そのため、従来のナデシコよりも乗組員の数は多いのだ。

六部屋も開けておける余裕はない。


「え〜、こんな所住みにくいよ〜。」

ユキナが不満そうに言う。

他の女性陣も頷く。


もちろんジュンは頷ける状態ではない。


もっともラピスだけは頷いていない。

アキトへの依存が強いラピスは全然平気なのだ。


「でもメリットはあるよ。」

アカツキがおもむろに言う。


「給料が高くなるとか?」

ミナトが常識的な判断からそう聞いた。


「違うよ。」

しかし、アカツキはすぐに否定する。


「じゃあ何なの?」

自分も知らないことが気になるのか、エリナが急かすように聞いた。


「食事はテンカワ君が直接部屋に届けてくれることさ。」

アカツキは満を侍してそう言った。



確かに、厨房へと直接続く通り道があるのだ。

食堂よりも近いくらいである。


「仕方無いわね。ネルガルの社員としてこの部屋で我慢して上げるわ。」

アカツキの言葉を聞いたエリナが真っ先にそう言った。

声が全然仕方無い、といった感じではないが気にしてはいけない。


「私も医務室が使えるからこの部屋で我慢するわね。」

イネスも続く。

確かにイネスはその気になれば、医務室に入り浸っていられるのだ。


「私もここで良い。」

ラピスが言った。


ネルガル製の戦艦の不備は社員である自分達が負おうというのだ。

実に感心な心掛けである。




(上手くいけばアキト君と一緒に食事が出来るわ。)

(当然アキト君の手作りよね。)

(アキトと一緒。)


・・・どうやら負うというよりも、得るつもりのようだ。



「そう言ってくれると思ったよ。」

アカツキは笑いながらそう言った。

エリナ達の反応は期待通りだったらしい。



「ブリッジの隣はアオイ君に決まってるからあと二部屋だね。」

「どうしてジュン君の部屋はブリッジの隣なの?」

決定事項だとばかりに言ったアカツキに対してミナトが聞いた。

「ブリッジの隣は鍵が付いていないんだよ。急いで隠れなきゃいけないことがあるかもしれないしね。」

アカツキの言葉に一同納得した。

さすがにいきなり入って来られるのは困る。


こうしてジュンは倒れている間に部屋まで決まってしまった。




「ね〜ね〜、リョーコ。」

ヒカルがからかうような口調でリョーコに話し掛ける。

「な、なんだよ。」

ヒカルの口調にリョーコは警戒を強めた。


「リョーコは立候補しなくていいの?」

「なんで俺がここに住まなきゃいけないんだよ。」

なんだそんな事かとばかりにリョーコが返す。


「このままじゃエリナさん達にテンカワを取られるわよ。」

イズミも話に参加してくる。

「バ、バッキャロ!なんで俺がアキトを・・・」

突然そんなことを言われたリョーコは口ごもる。


「だって〜、リョーコは自分より強い人がいいんでしょ?」

「アマテラスで負けたんでしょ?」

ヒカルとイズミはからかう口調で続ける。

「あ、あれは・・・そう!機体、機体の差だよ!」

アキトに負けたことを指摘されたリョーコが慌てて言い返した。


「三郎太君もまだリョーコより弱いみたいだし〜。」

「テンカワを狙ってみるのもいいんじゃない?」

ヒカルとイズミが畳み掛ける。

「三郎太は関係ねえだろ!だいたい、アキトは艦長と結婚してるんだぜ?」

三郎太の名前がだされたことに、リョーコが頬を微かに赤らめる。

相変わらず、恋愛関係の話には弱いようだ。


「アキト君も艦長も死んだことになってるんだから大丈夫だよ。」

「だ、大丈夫たって・・・」

ヒカルの言葉にリョーコが詰まる。


「それに死亡が取り消されても、テンカワから離婚は可能よ。」

駄目を押すようにイズミが言った。


どうやらイズミは法律にも精通しているようだ。

実に謎の多い人物である。




「・・・」

二人の連続攻撃にリョーコは黙り込む。

「それに〜、不便な部屋に住む代わりとしてアキト君に戦えってお願い出来るかもしれないよ?」

踏ん切りがつかないリョーコの背を押すようにヒカルが言った。


「そうか!そうだよな!」

ヒカルの言葉にリョーコが力強く頷く。

アキトと戦うというのに惹かれたのだろう。


「おいアカツキ!俺もここの部屋でいいぜ!」

そう言ったリョーコの後ろではヒカルとイズミが「ニヤリ」と笑っていた。



「そうかい?そう言って貰えると助かるよ。」

リョーコの言葉にアカツキは嬉しそうに頷く。


「リョーコちゃん、いいのか?」

アキトが不安がって聞く。

自分が迷惑をかけるだけに、気になるのだろう。

エリナ達とはそれなりに気心が知れあっているのでそれほど気にしないが、リョーコ相手ではそうもいかない。


「ああ。その代わり俺と戦ってもらうからな。」

笑顔でそう言うリョーコにアキトは苦笑するしかなかった。



「それじゃあ私もこの部屋でいいです。」

リョーコが立候補したのを見てメグミも立候補した。


「じゃあこれで決まりだね。」

アカツキは笑顔のままでそう言った。


「メ、メグミちゃん。」

アキトが慌てて詰め寄る。

「大丈夫です。その代わり私も色々聞いてもらいますからね。」

メグミは笑顔でそう言った。

メグミに笑顔で言われるとアキトは何も言えなくなってしまった。


(あのメンバー相手に遅れを取るのは危険ですね。一応同じラインに立っておきましょう。)

・・・メグミの策は止まらない。




そうこうしているうちに六つの部屋を抜け、アキト達は厨房へと入っていった。





「久しぶりだね、テンカワ。」

厨房に入ったアキト達の前にホウメイが立っていった。

「ホウメイさん・・・」

いままでの流れからホウメイが居ることを予測していたアキトであったが、実際に向き合うとやはり違うのだろう。

誰が見てもわかるほどに身体を強張らせている。


「あんたここ数年料理してないんだって?」

「・・・はい。」

ホウメイの問いかけに、アキトはやや俯きながら答えた。

「そうか。」

二人の間に重たい空気が流れる。



アカツキ達は何も口を挟まない。

料理に関しては二人の間に入ることは出来ないのだ。

ラピスは何か言いたそうであったが、エリナに止められていた。



「あんたはコック失格だよ。」

「!!・・・」

ホウメイの言葉にアキトは衝撃を受ける。


再び料理の道に戻ろうと考えていたのだが、厳しい現実を突きつけられたのだ。

それでも、自覚があるために何も言い返せない。



「仕方ないから見習としてまた一から仕込んでやるよ。」

少し時間を置いた後、ホウメイは笑顔になってそう言った。

「!!・・・ありがとうございます。」

アキトは涙声になりながらそれだけ言った。



(良かったじゃないか、テンカワ君。)

(アキト君・・・本当に良かった・・・)

(頑張ってね、アキト君。)

復讐に燃えるアキトを知っており、アキトが再び料理の道へ戻ってくれることを望んでいたアカツキ
とエリナ、イネスも涙目になっている。

実に感動的な光景なのだが、いまだにアキトはジュンを担いでいるので、傍から見るといささか間抜けな光景であった。




「「私達もいま〜す。」」

そんな空気をあっさりと破ってホウメイ・ガールズが登場した。


その激しいギャップにアキト達もすぐには反応出来ない。


「アキトさん、お久しぶりです!」

サユリが真っ先にアキトに近づいて言った。

「あ、ああ、久しぶりだねサユリちゃん。」

一気に軽くなった空気にアキトは戸惑っているようだ。


「あ〜サユリ抜け駆けなんてずる〜い!」

それを見た他の四人がサユリを責め始めた。

「そ、そんなんじゃないわよ。」

サユリが慌てて弁明する。

「嘘だ〜、狙ってたんでしょ。」

「「そうそう。」」

さすがにメンバーの息はピッタリである。

「そ、そんなことないって。」

「ほんと〜?」

メンバーの疑惑は晴れない。


「まっ、いいか。そんなことより私達も挨拶しないとね。」

しかし深入りすることなくあっさりと追及をやめ、アキトの方を向いた。

「「久しぶりです!テンカワさん!」」

「そ、そうだね。」

アキトも彼女達のエネルギーに押されているようだ。


「あ〜ミナトさんやユキナちゃんもいるよ〜。」

「エリナさんにイネスさんじゃないですか。」

「この小さい子は誰なんですか?」

「リョーコお姉様〜。」

アキトへの挨拶を済ませたホウメイ・ガールズはエリナ達にも目を止め、一気に歓談へと入っていった。

一人、怪しげな言葉を言っているが気にしてはいけない。



厨房には総勢18人、しかも女性が16人もいるためかなり手狭なのだが、そんなこと関係なく皆で騒いでいた。



結局そのまま一時間ほど賑やかな状況が続く事になった。







「さて、そろそろいいかい?じゃあアキト君のことを説明しよう。」

騒ぎに加わっていなかったアカツキが全員を見回しながら、おもむろにそう言った。














<続く>














<後書き>

どうも「やまと」でございます。


いきなりですが、どうもすみません。

<会長編>を楽しみにしてくださっている方にはなんと言ってお詫びをすればいいか・・・

決して、ネタが無いとか飽きたとかではないんです。ただ、書くことがないんです。

一応両作品は作品中の時間に関してはそれなりにリンクしているわけで・・・。片方だけ話が進んでしまうと、容赦なくもう一方のネタばれになるんです(泣)

会長編の幕間は終了したのでアカツキ編の幕間が終了するまで待ってもらわないといけません。

でも「さぼってるわけじゃないぞ〜」ということで二作同時更新です。

そのわりにナデシコDが出発していませんが気にしてはいけません。

またしても終わり方が中途半端ですが、それは許してください。

というわけで次回もアカツキ編のみになると思います。

なにか<会長編>で書くことがあればいいんですが、今のところ思いつきません。



う〜む・・・何気にイネスさんがA○Rの霧○医師になっている。ラピスもなぜかドラ焼きだし・・

こういうのを壊れていると言うのでしょうか?まあ気にしないでおきましょう(笑)


さて、今回はリョーコに(街で喧嘩云々)を言わせる(思わせる)ためだけに法律を少し勉強しました(笑)

今回のジュン相手の場合は正当防衛は成り立ちません。なにせジュンの行為こそが正しいのです(笑)

それどころかエリナ達に公務執行妨害か犯人隠匿罪が成立するかもしれません。

まあネルガルには完全に犯人隠匿罪やら証拠隠滅罪やら成立しますが(汗)

さらに、リョーコのセリフも自招侵害として正当防衛が成り立ちません。

そこは勢いとお笑いで許して下さい。


さらに、ユリカとアキトの婚姻関係も調べてみました。もちろんこの小説のためだけにです(爆)

この場合、両者とも(おそらく)夫婦関係のまま死亡扱いになっています。

まあ婚姻関係がなくとも準婚としてほぼ同じ扱いがなされますが。

ということはアキト側としては、ユリカよりも先に生きていることを裁判所に訴え、ユリカの死亡を理由に離婚訴訟を起こせば離婚出来ます。

その後はユリカが生きていようと、財産上の問題はともかくアキトが独身であることには変わりません。法律は婚姻関係の復活を強制しませんから。

もっとも、両者の生存が認められてもアキトの行動を「婚姻に耐えがたい事情」としてアキト側から離婚訴訟を起こせば現在の判例上勝てそうです。

つまり、ユリカがどう出ようとアキトは離婚は出来るわけですね。

ちなみに全て素人考えなので間違っていても責任は持ちません。


いや〜実に勉強になりました。途中で(SS書くためになにやってんだ俺?)などと本気で考えましたが気にしてはいけません。

みなさんも後書きは気にしないでください(笑)



最後になりますが、浅川さん、karinさん、ジンさん、ラルさん、とっぱさん感想ありがとうございました。



それでは代理人様、今回も感想楽しみにしております。











代理人の感想

策士メグミは相変わらずですな〜(笑)。

おまけに本物を見たら焼けぼっくいに火がついたようで。

本気でユリカの立場なし・・・・・・・・は、まさかこの話のラスボスは嫉妬に狂ったユリカだったり(核爆)?

 

 

 

後書きですけど、物を書くために資料を漁ったり勉強したりするのはある意味当然です。

ナデシコSSを書く為に各種資料や劇場版のパンフを調べたり、Gナデシコを書く為にフルマラソンしたり、

サクラ戦神を書く為にわざわざソフトを買ったり・・・・最後のはちと違うか?

少なくとも上昇志向があるのであれば文章を書く為の勉強はいくらでもすべきだと思います。

今回も必要な辺りをちゃんとお調べになってるようで感心させて頂きました。

まぁ、ジュンに逮捕権があるかどうかは怪しいとか、

ユリカはユリカでそれなりに手が打てるとか(そもそも劇場版後ならとっくに生存確認→戸籍復活してるだろうし)

それなりにツッコミどころはありますが(笑)。

 

ちなみに相手が先に手を出してきたからといって正当防衛が成立するわけではないのはホント。

勘違いしてる方も多いようですが。