ナデシコの通路を、ユリカが機嫌よさそうに歩いている。
見た人が今にもスキップをするのではないかと思ってしまうような顔だ。
ユリカの向かう先はアキトの部屋。
そしてユリカが部屋の前に辿りつく。
コンコン、とノックをする。

「アキト!アーキート!」

名前を呼ぶがアキトはなかなか出てこない。

「そういえば私艦長だからマスターキー持ってるんだっけ」

ユリカがマスターキーを取り出し、取り出そうとしたその時。

「艦長さん、人の部屋を勝手に開けるのはよくないと思いますよ。それに艦長さんは若い女性なんですから男の人の部屋に入るのは危ないです」

ソラがユリカに話しかけてきた。

「ほえ?あ、ソラ君。どうしてこんなところにいるの?」
「…艦長さん、ボクはアキト君と同室ですよ」
「あれ?そうだっけ」
「そうですよ」

ユリカとソラがそのまま雑談していると、やっとアキトが出てきた。

「何だよユリカ。何か用か?」
「あっ、アキト!私アキトとお話ししに来たの!」
「お話しって…まあ、いいけど」




「それにしてもアキトいつ地球に来たの?きてたなら連絡してほしかったのに。私ね、何度もアキトに連絡しようとしたけどお父様がテンカワは死んだって…」
「よく言うよ」

ユリカの言葉を聞いた途端無表情になるアキト。
アキトはそのまま部屋を出て行ってしまう。

「アキト!」
「待ってください、艦長さん」

ユリカが慌てて追いかけようとするが、ソラに阻まれる。

「少しだけ、待ってください」




「アキト君、両親はもう亡くなってるんです。ボクもそんなに詳しくは知らないんですが、幼馴染の女の子が地球に行ったその日に空港がテロに遭って、一緒に見送りに来ていた父親と母親が亡くなったんだそうです。その女の子っていうのが多分、艦長さんのことだと思うんですよ。で、そのテロには貴方とお父様が関係しているのかもしれないとアキト君は思っている…というわけです。だから…その、誤解なら早めに解いたほうがいいと思います」

これくらいしか助言はできませんが、とソラは苦笑する。

「ソラ君…教えてくれて、ありがとう」
「どういたしまして。艦長さん、頑張ってくださいね」




アキトを追いかけていくユリカを見送った後、まだ勤務時間ではないソラは暇をもてあましていた。
流石に子供に長時間労働をさせることはどうかと思ったのか、ソラの勤務時間は他の人より短くなっている。
数分間部屋でごろごろしていたが、それに飽きたのか上半身を起こした。

「…少し早めですが仕事場にいってしまいましょう!食堂なら人も来るしここまで暇になることはないはずです!」

そう叫ぶと部屋を出ようと立ち上がる。
そのとき、突然部屋に数人の武装した男たちが入ってきた。

「大人しくしろ!」

銃を向け男たちは言った。

「…ふう。人の部屋に無断で入ろうなんていい根性してますね。しかも銃を向けるなんてね…」

クスリと笑み、言い放つ。

「とりあえず、邪魔です」

ソラの眼が、黒くなった。




ナデシコのメンバーたちは食堂に集められていた。
現在食堂ではガイことヤマダ ジロウの取り出した「ゲキガンガーV」が放送されている。
ガイと一緒にアキトも見ているのかと思いきや、アキトはソラの行方を尋ねていた。

「すいません、ソラって子を見ませんでしたか?」
「見なかったなぁ…すまんな、役に立てなくて」
「いえ。誰か…」

そのとき廊下から大きく、そして鈍い音が聞こえた。

「なんだぁ?」

するとドアが開き、自分の身長ほどもあるハサミを持った少年が現れた。
少年の足元には鼻血を出して気絶している軍人がいる。

「…ソラ?いままでどこに…っていうか、そこに倒れてる軍人はもしかして…」
「ボクが気絶させました。いままでずっと艦内の軍人さんを気絶させてたんです。残るはブリッジだけですので、ちゃっちゃと片付けちゃいましょう」
「そのハサミはどこから出したんだ?」
「ハサミ…ああ『スィンク』のことですね。どこから出したのかは内緒です。さて、鬼退治ならぬムネタケさん退治にでも行きますか」

そう言うとソラはスキップをしながら食堂を出て行った。
重そうなハサミを楽々と抱えながら。

「アイツ本当にウェイターかよ…」

一人の整備員の呟きは、そこにいたほとんどの人の心中を表していた。




「どうも、解説役のホシノ ルリです。ブリッジを取り戻した後、テンカワさんは艦長を迎えに行くと言い、一人出撃しました。けれどもチューリップが出てきて戦艦が食べられちゃったりとさあ大変」
「どうも、実況役のソラです。現在アキト君はチューリップ相手に一人で囮をしていますが、形勢は不利のようです。おおっ、触手みたいなのが一気に78本伸びてきました。一体どうやって回避するのでしょうか!?」
「よく78本だってわかりますね」
「動体視力いいんですよ。おっと、触手が一本足に絡みつきました!おーっ!チューリップがジャイアントスイングかましましたよ!吹っ飛ばされるエステバリス!どうにか水に落ちる前に体制を立て直しましたね…。ですがいまだピンチは続いています!」

オペレーター席に座るルリとその隣に立っているソラは、戦闘の様子を実況中継している。
ルリは無表情に、ソラはクスクスと笑いながら。

「心配じゃないんですか?」

唐突にルリが言う。

「んー…大丈夫ですよ。アキト君はボクが死なせませんから」
「でも、今はテンカワさん出撃してますから、貴方にはどうしようもないと思います」
「ボクが普通の人だったら。でもボクは…。いえ、どうでもいいことですね」

首をゆるゆると振って思考を0に戻すと、ソラはまた戦闘の様子を見る。
と、そのときブリッジにユリカとプロスペクターが帰ってきた。

「おかえりなさい、艦長さん、プロスペクターさん」

いつもどおりの笑顔で二人を迎えるソラ。
それにユリカも笑顔で返す。

「マスターキーいっきまーす!えいっ!」

気合(?)と共にユリカがマスターキーを挿す。
そしてブリッジのメンバーが一斉に仕事を始める。

「なんか…ナデシコが生き返る…ってかんじですね、ホシノさん」
「そうですね。それと、ルリでいいです」

そして、全ての機能が正常化する。

「それじゃあ…ナデシコ、発進!!」

ユリカの号令と共に、ナデシコは発進した。

「それにしてもボクがブリッジにいるのってちょっと問題ですよね」
「そうですね」
「んー…でもま、いっか。たった一人の家族を心配する健気な弟ってことで。それにプロスペクターさんも黙認してることだし」
「あんまりよくないと思いますよ」

一方アキトは…。




「うわぁぁぁぁ!!」

チューリップと一人で戦っていた。

「くっそぉぉ!!」

叫んではみたが、自分では勝てないことはわかっている。
そろそろ疲れてきた。
ナデシコは間に合うのだろうか…?
そんな考えが頭をよぎる。
それを消すためにまた叫ぶ。
さっきからこれのくり返しだ。
もう何分経ったんだろうか。
ちらりと頭の隅でそんなことを考えるが、すぐに意識を戦闘に戻す。
俺にはそんな余裕無い筈なのに、こういう時に限って余計な考えが頭を乗っ取る。

「うわぁぁー!!」

叫んではみたけれど、やっぱり余計な考えは消えてくれない。
と、突然頭の中に声が響いた。

『大丈夫にゃの?』
「ソラ!?」

それはソラの声だった。

『違うにゃー。我輩はこのエステバリスにつけられたAIである。名前は「にゃー」だにゃ。そしてこのにゃという口癖はわざわざプログラムされたものだから突っ込まないで欲しいにゃ』

ソラの声でこの口調は違和感が多少あったが、まあそれはおいておこう。
何故エステバリスにAIがついているんだ?

『にゃはは、ソラの兄さまが我輩をこのエステバリスにつけたにゃー。「どうやらアキト君はこれからもこの機体に乗らざるを得ないみたいですから、アキト君が死なないようにしてくださいね」って言ってたにゃ。それはともかく、ユリカの姉さまがナデシコについたのにゃ。だからあと少しでナデシコは来るはずにゃ』
「本当か!?」

あと少しなら持ちこたえられる。
そう思った瞬間、大量の触手が伸びてきた。
ほとんど避けたのだが、一本足に絡みついてしまった。

「ぐわっ!!」
『にゃー!!』

そのままぐるんぐるんと猛スピードで回され、海面に向かって投げられるが落ちる寸前でどうにか体制を立て直すことができた。
ふと、視界の隅にナデシコの姿が映る。
そしてナデシコはチューリップへと向かっていく。
慌てて通信をつなげる。

「おい!ちょっと待てぇ!!ユリカ何考えてんだ!!」

返事は返ってこない。
ナデシコはチューリップの中に飲み込まれ、チューリップが閉じていく。

「ユリカ!ソラ!」

するとチューリップの外殻に光の線が走ったかと思うと、内側から爆発した。

「内側からグラビティブラストだぁ?」

とっさに出てきたのは間抜けな声。

『にゃはははは!!さすがユリカの姉さまなのにゃ!』
「何がさすがなんだ…?」
『確かに内側からのほうが効く気もするけど、わざわざ捨て身でいくあたりがさすがだって言ってるにゃ。我輩も見習うのにゃ』

何か、頭が痛くなってくる気がする。
ユリカみたいのが二人もいたら、俺の精神もたねぇよ…。
アキトは思わず頭を抱えた。
そしてアキトは帰艦するのだった。




「アキト君!!」

エステバリスから降りた俺に向かってソラが走ってきた。

「すいません!まだにゃーさんの教育をしてないんですけど、邪魔になりませんでしたか?」
「にゃーさん?」
「あの語尾ににゃをつけるAIですよ。これからちゃんと教育して、役に立つようにしておきます。それと、このAI取り付けたこと、内緒にしておいてくださいね。ボクの能力、ばれるとホント厄介ですから」

珍しく真剣な顔をしたソラに、にゃーについて文句を言おうと思っていたアキトは何もいえなくなってしまう。
が、その表情もすぐにいつもの笑顔に戻り。

「それじゃあ行きましょう。艦長さんきっと待ってますよ?…って艦長さんは待つ人ではありませんでしたね」

ソラの見る先には、こちらへ手を振りながら走ってくるユリカがいた。

「アキトー!!」

アキトとソラは苦笑するのだった。

 

 

 

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代理人の感想

キャラクターが立ってない状況で追いかけっことかやられても読者は付いてきませんよー。

作者の脳内ではキャラが立ってるからやってて面白いんでしょうけど、

読者にしてみれば初対面の人が挨拶もなしにいきなり漫才をはじめるようなもんで、

「ああ、変な人だ」くらいにしか。