喜劇の裏側

 

 

 

ここはある執務室。そこに二人の男がいた。

一人は三十代後半と見える痩せすぎの男。

その男はジョセフ・フーバー、この執務室の主である。

もう一人は、やや年齢不詳の男であった。

この男は三十代とも二十代ともとれた。

しかしこの男を見てもあまり人は印象に残らないだろう。

特徴といえば、その俗に日本的と呼ばれる柔和な笑み(あまりい

い意味ではないが) と眼鏡ぐらいなものだろう。

それ以外は特に印象に残る男ではない。

男のは東洋系の顔をしながら名をリチャード・ロウといった。

ちなみに役職はない。

しいて言うなら政府直属の何でも屋だ。

そうこの男は何でもやる。

非合法の調査、誘拐、盗聴、暗殺、テロ、なんでもこいである。

それゆえに彼は幽霊でもある。 

そう、実在しない人間なのだ。

 

記録上は。

 

それゆえにいかなる法も通用しない存在でもある。

この男の口癖のはとつに、

 

「私はリチャード・王ではありません。」

 

という訳の解からないものがある。

こんな風な男であるが名は明らかな偽名である。

リチャード・ロウとは身元不明の被疑者に対する一般名詞である。

日本と呼ばれる地域では山田一郎と名乗っているようなものだ。

 

 ・・・・この例あまり適当でないかもしれない。

実際、山田一郎なる人物は実在するのだから。

そう今彼らが問題としているナデシコの身内に・・・・・

 

閑話休題            

 

フーバーはロウが提出した報告書をじっと眺めていた。

それは、いま政府をもっとも悩ましている人物テンカワ・アキトについてのものである。

そして、静かにロウに問い掛けた。

 

「ここに書いてあることは事実なのか」

 

「一応見たことは全て書いたつもりですが」  

 

またもだっまてしまった。

(しかし、だまりたくなるでしょうね。)

実際そこに書いている出来事は政治家として看過できないことであった。

 

そう、連邦警察長官であるフーバーにとってはとくに。

 

テンカワ・アキト

人間の常識を超えた男。

いわく、たった一機で、チューリップを破壊できる。

いわく、その戦闘力はいち方面軍に匹敵する。

いわく、謎の機体を作り出す。

いわく、人並みはずれたスケコマシである。

 

(すかなくとも、6歳の幼女にまで手を出す時点で常識を超えてますね)

 

テンカワ・アキト本人が聞いたら間違えなく地獄を見るような台詞を心の中でいっているロウであった。

 

「テンカワ・アキトをどう見る。」

 

突然フーバーがきりだした。

 

「そうですね。少なくとも生身の生物では史上最強でしょうか。

 もしあったらすっ飛んで逃げたくなるような。」

 

「テンカワ・アキトは猛獣か?」

 

「猛獣の方がまだマシですな。猛獣ならまだ勝てますので。」

 

笑いながらそんなことを言うロウ。

 

実際ロウは猛獣どころか、1個中隊くらい笑いながら軽く殲滅する

ことが出来るくらいの強さをもっていた。

しかしだからこそ、自分とアキトとの実力の差を正確に把握できた

ロウの特技の一つは殺気なしに人を殺すことができること。

しかし、あのピースランドのパーティに現れた赤毛の少女は自分と

同じ特技をもっていながら、暗殺を果たせなかった。

となるとあの少女にすらおよばない自分など論じる価値すらない。

そういう意味ではテンカワ・アキトはどうしようもない存在である。

結論から言えば、テンカワ・アキトの暗殺は不可能にちかい。

無論フーバーもそのことをすぐに察することが出来た。

 

「それにヤルにしてもいま現在では難しいですな。」

 

にやにや笑いながら言うロウ。

 

「すくなくとも漆黒の戦神が広く知られしまった現在では。」

 

実はテンカワ・アキトはその非常識ぶりから実在すら疑われた存在であった。

まあ普通の感覚ではエステ一機でチューリップを破壊できるなんて信じられる訳がない。

こんなものは戦場でよくでる怪談やよた話としか認識されない。

そう、普通ならそうである。

 

政府や軍もテンカワ・アキトがなにも言わないのをいいことに、積極的に、情報操作など行った。

ちなみに、この情報操作の責任者がフ−バーであり、フーバーの命でこれを実行したのがロウである。

これは、結構上手くいっていた。

 

しかし、ある本とあるジャーナリストの登場で全てをぶち壊した。

本とは民明書房から出ている「漆黒の戦神 その軌跡」である。

この本によってそれまで噂の存在でしかなかったテンカワ・アキトを世に実在の人物であると、

ばらしてしまったのである。

しかもこの本はベストセラーとなりテンカワ・アキトの名は一瞬にして、地球全土それどころか、

月やすべてのスペースコロニーに知れ渡ってしまった。

 

ジャーナリストとはこの本にも出てくるマリア・ウェンリークである。

 

マリアは雑誌などに、積極的にテンカワ・アキトやナデシコの事など書き続けた。

しかも写真つきで。

 

〔彼女は何と電子の妖精の妨害も見事に切り抜けてのだ。〕

 

更に悪いことにこれまで政府によってテンカワ・アキトの存在が隠されていたことを匂わせながら。

この行為はマリアにとってアキトに対する援護射撃であった。

つまり、今まで噂の存在でしかなかったアキトを実在の人物であると世に認識させて、

政府がとんでもない行為にでないように楔を打ち込んだのである。

政府の存在を匂わせたのはもしアキトに何かがあったときそれを行う誰かを暗示するためだ。

こうして、テンカワ・アキトは知れない人などだれもいない超有名人になったのである。

もはや子供など首相のを知らなくてもテンカワ・アキトの名前は誰でも知っているほどに。

 

これによって密かに消すという作業は難しくなった。

いまもし実行したら、疑われるのは目に見えているからだ。

 

(まあ実行しても、成功する確率は限りなく0に近いですけどね)

 

そして、マリアは自分の身に何かあったときのためにもマスコミ関係各社に手をうっていた。

 

(まったく情報収集能力といい、見事な手のうちようといい彼女はすさまじいですね。 

 まったくスカウトしたいくらいですよ)

 

ちなみにナデシコ副提督が本の出版事業に協力したのは半分はマリアと同じ理由である。

 

〔ちなみにもう半分はむろん面白半分である〕

 

このような訳で、政府としたらうかつにテンカワ・アキトに手を出し難くなってしまった。

フーバーは報告書を見終え、考え込んだ。

考え込んだあとつぶやいた。

 

「あの事実をなぜテンカワ・アキトは知っているのだ。」

 

「どうしてでしょ〜ね。」

 

「あの事実しっているのは」

 

「現および旧内閣の閣僚、軍の総本部、もしくは・・・・」

 

「大企業・・・・・ネルガルか」

 

「そう考えるのが普通ですね。しかし・・・」

 

「しかしなんだ。」

 

「調べたところネルガルがテンカワ・アキトを操っている形跡はありません。

 むしろ操っているのは・・・」

 

「つまりテンカワ・アキトがネルガルを操っているのか・・・」

 

またも考え込んでつぶやいた。

 

「ネルガルはテンカワ・アキトにとって手駒の一つに過ぎないか」

 

(まったくあの大企業すら手駒の一つにしてしまうとはすごいの一言ですね〜)

 

ロウは他人事のように気楽に考えた。

 

(ここまで大掛かりなことをしておいて野望をもってないと疑うなという方が無理っぽいですね〜。

それにまだネルガルに操られいるのなら、対処しようがありますがネルガルすら取り込んでしまう

器量の持ち主となるとね。)

 

さらに考えを進めるロウ。

 

(権力欲はないらしけど、『無欲は大欲に通じる』といいますしね。

 うちのボスにしてみれば欲望だらだらのやつの方が対処しやすいでしょうしね。)

 

突然ロウはフーバーに言った

 

「長官、壇道斉という古代の軍人を知っていますか?」

 

「誰だ?。」

 

「東アジアブロックにある中国という地方に5世紀頃いた宋という王朝の軍人です。。」

 

「それがどうした。」

 

「じつはこの将軍は『三十六計逃げるにしかず』という故事が出来るほど

 逃げるのが非常にうまい軍人でした。

 結局敵は壇将軍に宋の敵陣深くに誘導されてのされて負けます。」

 

「・・・・・・・・」

 

「敵将達は『壇将軍は逃げるのが上手くてかなわない』と皮肉ったそうですが。」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「しかし宋の皇帝は日増し名声を上げる壇道斉に恐れをなし、とうとう壇道斉を処刑してしまいました。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「そしてどうなったかというと壇道斉の死を知った敵はすぐに攻めこんできて

 あっという間に都が敵に囲まれてしまいました。

 そして皇帝はこういったそうです。『壇将軍はどこにいるのか』と。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「あ、どうでもいい昔話なのできにしなくていいですよ。」

 

そしてまた執務室に沈黙が戻ってきた。

そのなかでフーバー口をひらいた

 

 

「しかしやらねばならぬ。」

 

ロウが問う。

 

「テンカワ・アキトにどんな罪があるのですか。」

 

「法律上の罪でない。さりとて道義上の罪でもない。

 存在自体が政治上の罪なのだ。」

 

「テンカワ・アキトに何の野望がなかったとしても」

 

「そんなことたいした問題ではない。

 テンカワ・アキトは必ず地球連邦の害となる。

 本人にその気がなくても存在そのものが危険なのだ。

 彼を擁して権力への階段を登ろうとするものが現れよう。

 テンカワ・アキトをそのまま放任しておけば天下の安寧がそこなわれる。」

 

「それが政治上の罪ですか。」

 

「もしテンカワ・アキトが現在の政治に不満があり、心の中うち秘めた大望があるなら、

 決然と起って戦うべきだろう。」

 

ぎょっとするような事を静かに言うフーバー。

 

「闘わないがゆえに、テンカワ・アキトは罪に問われると。」

 

さらに冷ややかに問うロウ。

 

「無実の罪をを着せられても闘わないようなものは、自分の存在を否定したと同じだ。」

 

フーバーの声にはごくわずかの乱れもない。

 

「自分の地位が闘って守るに値すると思わないものは、どのような目にあってもしかたがない。

 自らが闘わないで、どうしてほかの誰かが闘ってくれようか。

 自らを守らないで、どうして他の誰かかが守ってくれようか。

 人が人として尊敬される所以はなにか。

 自ら闘い、自らを守りきることだ。

 そのような矜持がないなら人は人でありえない。

 ましては男と生まれたからには天下に志があって当然ではないか。」

 

「あなたはすべての人にそれをもとめるのですか。」

 

「民衆はそうではない。民衆は自ら闘うすべを持たない。

 ゆえに彼らを守ることも政治家の役目だ。この世に乱を起こさず起こさせず、

 平和を維持すること。

 ゆえに敵対するものはすべてこれを攻め降し、そして反乱を起こそうとするもの、加担するもの、

 利用されるものは未然に討ち滅ぼす。」

 

フーバーの両眼に冷たい青い炎が音もなくもえあがった。

 

「それが私の生涯の意義であり、生まれた所以だ。」

 

フーバーはそう言い切った。

 

(でもそれは、権力者の論理ですね)

 

ロウは心のなかで冷笑した。

 

(最大多数の最大級の幸福のためとはいえ犠牲にされる方はたまりませんね。

 しかしその身勝手な理屈も、私心の無さに裏打ちされたものならこれほど厄介なものあれませんよ。)

 

「では何時ヤルのですか?」

 

「今のところは様子見だ。」

 

「いまのところはですか。」

 

「とれあえずテンカワ・アキトについてさらに調べることだ。

 利用するにしろ、消すにしろ相手を研究しなければな。」

 

(さてとテンカワ・アキトはどう来ますかね。

 まあもし一人の人間によって転覆されるような政府は政府としての寿命が尽きているでしょうな。)

 

さらに不敵な考えを進めるロウ。

 

(まあどうなるにしろ今は間違えなく歴史の変わり目ですよね。

 そんな時代いるだけでも幸運ですねククク)

 

チャーリー・チャップリンいわく 『悲劇の極致は喜劇である』

さてこれは悲劇なのだろうか。

それとも下らない喜劇なのか。

それは当事者には解からないことだろう。

 

 

あとがき

 

どうも槍です。

どうも私にえせカグヤファン疑惑があるようです。

それは違います。たんにネタがないだけです。

それはそれとして設定ではこの話は本編18話のあとです。

リチャード・ロウは前回の私のSSに出てきた、ピースランドに派遣

されたフーバーの側近のことです。

はっきりいってフーバーもロウもいやなヤツです。

あまりそのいやさだせなったな〜。

ちなみにロウのモデルは、某化け猫駆除会社の漫画に出てくる眼鏡野郎と某機動警察に出てくる眼鏡課長です。

無論めちゃくちゃ有能です。

そして、民明書房とマリア・ウェンリークの名を使うことを許可してくれた黒貴宝さんありがとうございました。

 

ではあとがきにならないあとがきでした〜。

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

槍さんからのSS投稿です!!

さてさて、政治の世界の住人二人目です。

それとエージェントさんが一人(笑)

とことん、冷徹な政治家さんです。

冷めた目で、アキト君を監視してますね。

さてさて、今後はどう動くのでしょうか?

 

では、槍さん!! 投稿有難うございました!!

 

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