「愚か者の悲鳴」

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャレにならんぞこれは!」

 

思わず男はそう叫んだ。

男はヨシダ・ヒロフミ、軍務省政務次官として辣腕を揮う男である。

彼は、どんな時でも冷静さを失わない、というのが信条であった。

しかし報告された事態は彼にそんな信条を守らせてはくれなかった。

 

「コロニーを、たった一機のエステバリスでか・・・・・」

 

「ハイ、テンカワ・アキト専用機ブローディアが地球に落ちかけた、

 コロニー、サツキミドリ二号を完全に破壊したもようですね・・・・」

 

そう応えたのは彼の側近の一人、カシム・セガール大尉である。

目の前の映像はもはやコミックの世界であった。

 

巨大なコロニーがまさにこれから地球に落ちようしていた。

大きさは約直径10km。

しかし大きさだけではない。

すでに地球の引力圏入っている。

そうしてバーニアで加速しているのだ。

相対性理論を考えると目まいがする。

もし地球に落ちたら・・・・想像したくない。

しかし、突然あるエステバリスが現れたのだ。

 

 

 

そしてその後のことは・・・・・・もうコメントする気すらおきない。

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「本当にたちの悪い冗談ではないのだな・・・・・」

 

「自分もそう信じたいのですが・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

「セガール大尉」

 

「はっ、何でありましょうか。」

 

「君もエステバリスライダーだ。それもかなり優秀な・・・・

 もし"あの機体"に乗るとしたらアレを使いこなせるか?」

 

これは重大な質問である。

それはどれを脅威と見るかである。

単純にあんな破壊力をもった、あのエステバリスを脅威と見るか、

それともやっぱり脅威は"彼"なのか・・・・

 

「・・・・もし乗れと言われれば自分は軍人です。命令に従います。

 しかし、私見では私、イヤおそらく、どんなエステバリスライダーも

 アレを乗りこなすことはできません。常識レベルの中でのエステバリスライダーにとって

 "アレ"は空飛ぶ棺桶以外の何物でもありません。

 それに最後の最後に見せたアレはもはや人間技ではありません。」

 

「そうか・・・やはり彼しか"アレ"を乗りこなすことは出来ないか。」

 

このことはヨシダをさらに憂鬱させた。

 

 

 

「この話は後回しにしよう・・・」

 

ヨシダは彼らしくない行動に出た。

しかしそんな彼を責めることはできない。

 

 

 

「取りあえず今後の設定だ。

 統合作戦本部の馬鹿どもを首にしなれば。」

 

この事件は軍にとっては大失態である。

大幅な人事異動はこの事件を世にばらしかねない。

しかし、恐竜の悲劇の一歩手前まで追い込まれたのだ、トップの何割は責任を取らなければならない。

失態をすれば責任を取らなければならない。

それが健全な組織である。

しかしまだ軍には濁った血が入り混じっており、これを機にヨシダは軍の手術をするつもりであった。

 

 

 

 

 

「それが・・・・」

 

「なんだ。」

 

「統合作戦本部ではテンカワ・アキトの審問会を開くようです。」

 

「審問会?」

 

眉をひそめるヨシダ。

 

「今までのテンカワ・アキトに行動ついて疑念アリ、

 とのことでナデシコ提督オオサキ・シュンを呼びつけていろいろ

 やるつもりだそうですが。」

 

 「ほ〜う。」

 

冷たく頷くヨシダ。

 

「実際のところはテンカワ・アキトの問題を使って責任問題を有耶無耶にするつもりだな。」

 

心の中の怒りを必死に抑えるヨシダ。

それ故に表情はいつもの冷静なヨシダである。

 

「この問題はあまり公けにしてはいけない。穏便に、そして・・・・・」

 

それ以上、ヨシダは何も言えなかった。

それ以上言ってはならないとも思った。

 

「しかしテンカワ・アキトを利用して自分達の責任逃れをしようとするなんて、どうしようもない無能な連中ですな。」

 

一応自分の上司でもある軍上層部をけなすカシム。

 

「そんなアホどもは後で目に物見せてやればいい。

 しかし厄介なのは本気でテンカワ・アキトを危険視している連中だ。」

 

「そうですな。」

 

そう言ってまた黙ってしまう。

 

 

 

「私はテンカワ・アキトをジャンヌ・ダルクにしたくない。」

 

 

ジャンヌ・ダルク。

 

もし世界のスーパーヒロインを五人挙げろと言われたら、

必ず名前が挙がるフランスの聖少女である。

その彼女が成し遂げたことは正に奇跡と言ってよい。

当時フランスはイギリスとの100年戦争の真っ只中。

しかしフランスはイギリスにパリを奪われ、半独立し信用ならない大貴族ブルゴーニュ公などによって

滅亡の危機に立たされていたのである。

そこに神のお告げ受けたという16歳の一人の少女が現れた。

それがジャンヌである。

そして神のお告げに従いフランス王シャルル7世のもとに向かったのであった。

彼女は当時フランス王シャルル7世(確かこれで良かった筈)はジャンヌを自分のもとに呼び寄せたのである。

下手したら、ただの少女の戯言か知れないことにまですがろうとする、

そこまで当時のフランスは追い込まれていたのだ。

しかし、シャルル7世はジャンヌを試した。

玉座には偽者を座らせて、自分はその他のギャラリー達に紛れ込んで様子を窺っていた。

16歳の農民の小娘がどのようなことをするのか確かめみたかったのだ。

しかも農民の小娘が国王の顔など知ってる訳がない。

しかし、そこに現れたジャンヌは国王の影武者を一発で見抜き、

ギャラリーの中に紛れていた国王の元に行き国王の前でひざまついたのである。

その事は周り驚愕させた。

ジャンヌはシャルル7世の顔を知ってる訳がない。

しかしジャンヌはシャルル7世の試しに予想もしない形で応えたのだ。

このことでフランスはジャンヌに一軍を預けた。

そしたらなんとその軍は連戦連勝を重ね難攻不落と言われた城を落とすほどであった。

間違いなくフランスが100年戦争でイギリスに打ち勝てたのはジャンヌの力によってであろう。

しかもこれでフランスはついでにブルゴーニュ公などの信用できない有力貴族を排斥でき、

絶対王政の基礎が出来たのである。

 

しかしその功績が悲劇を生む。

 

そう彼女はフランスの勝利を見届ける事はなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

「そう彼女は戦いの途中ブルゴーニュ公によって囚われた・・・」

 

「・・・・・・」

 

「そうして、ブルゴーニュ公はジャンヌを人質にしてフランス国王に莫大な身代金を要求した。

 当時貴人はたとえ囚われても身代金を払えば釈放されたからな。」

 

「・・・・・・・・・」

 

「しかし、フランス国王は・・・身代金出さなかった。

 ジャンヌ・ダルクを見捨てたんだ。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

「そしてジャンヌ・ダルクはブルゴーニュ公によってイギリスに売り渡され・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「魔女裁判にかけられ有罪。

 魔女として火あぶりにあい死んだ。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「しかし問題はここからだ。

 フランス国王はジャンヌの死を大きく公表した。

 自分が見捨てたことをおくびにも出さずにな。

 さらにジャンヌの死を全てイギリスのせいにするすることに成功した・・・・このあたりはなかなかの政治家だな。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「そして怒りと"正義"に目覚めたフランス軍はイギリス軍を圧倒し 

 ついにパリを奪い返し、大陸からイギリスを追い出すことに成功した。

 返し刀でブルゴーニュ公などの大貴族もついでに倒すことができた。

 そうしてフランスでは絶対王政の基礎ができた。

 無論シャルル7世は再び宗教裁判を起こしジャンヌの無実を証明し彼女を救国の英雄とし、

 最大の栄誉を与えた・・・・・。

 死人にどれだけ栄誉を与えても生者の腹は全然痛まんし、

 無用な軋轢も起らんしな・・・・」

 

「そうですか・・・・・・」

 

 

 

 

 

「考えられる手段はテンカワ・アキトに"不慮の死"をとげてもらってそれを"連中"のせいにする。」

 

「そしてテンカワ・アキトには文字道理"英雄"となるというわけですか。」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「取りあえず私も審問会に出よう、

 こんな時代に魔女裁判を復活させる訳にはいかない。

 出られるかどうか解からないが何もしないよりかはましだ。」

 

「解かりました。各方面に手を打っておきます。」

 

カシム・セガールそう言って執務室を出て行った。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

ヨシダは少し考え込んでからрかけた。

 

「はい、もしもし。」

 

「私だ。」

 

「はい。」

 

出たのはもう一人の側近ミキ・ユウジロウ中佐である。

 

「巷の様子はどうだ。」

 

「取りあえず、平穏です。どうやら例の発表を信じたようですね。」

 

「そうか・・・」

 

例の発表のとは"あの事件"の政府の公式発表である。

公式発表では故障したコロニーが地球落下コースをとり、

コロニーは軍の手によって"余裕をもって"爆破解体されたとなった。

まあ何一つ被害はなかったのだから、それほど騒がれなかった。

そこら辺にもテンカワ・アキトが行った奇跡の凄さうかがえる。

滅亡寸前までいったのに庶民は昨日と全然変わらない生活をしている。

普通なら考えれないことだろう、そう普通なら。

もはや、テンカワ・アキトは人間の想像限界をも超えた存在になってしまった。

 

 

 

 

「しかし、またやっちゃいましたね。」

 

また何をやったかと言うとテンカワ・アキトの功績をかくしてしまったことである。

しかし公表することは"あの事件"を公表しなければならない。

しかしこれは公表出来る訳がない。

なぜならこんな事を公表すれば世の中が恐慌をおこしかねない。

内閣も一瞬で潰れかねない。

だからこその情報操作であった。

 

 

 

「"彼女"黙っていますかね〜。」

 

"彼女"とはマリア・ウェンリークの事である。

今まで彼女は政府のテンカワ・アキト隠しをなんどもすっぱ抜いてきた。

ミキの懸念はまた彼女が動き出す事であった。

 

「"彼女"に関してしては心配するな"彼女"は動かんよ。」

 

「そうですか?」

 

「間違いなくな。

(マリア・ウェンリークは正統派のジャーナリストだ。

 この事態の重要性は理解してるはずだ。

 もし公表すればどうなるか・・・・・・・それが解からない三流ブン屋とは訳が違う。

 イヤ、彼女の本職はカメラマンだったな。

 何よりテンカワ・アキトのためにもこの事態は公表してはならない!)

 その件に関して心配しなくていい。」

 

「解かりました。

 もうちょっとに巷の空気を吸って帰りますので。」

 

「ああ。」

 

そう言ってр切るヨシダ。

かれはテンカワ・アキトに好意的である。

できれば最悪の事態だけはさけたい。

しかし、事態はそんな彼の希望通りにはなかなかいかなかった。

 

 

 

 

さらに書類を見て考えるヨシダ。

 

(おかしい、どう考えても)

 

何がおかしいのかというと、今まで敵の行動と今回の作戦とのギャップがあったからである。

 

敵の行動を説明するとそれは冷徹なまでに合理的、というところである。

敵は今まで、このような暴挙に出る気配すらなかった。

例えば敵は軍事施設と金融都市(ピースランドのような)を別にすれば都市を無理に攻撃しようとはしなかった。

それどころか工業生産都市や資源産出都市には極力攻撃を避けている節すら窺える。

これは、自分達が地球を占領する時のためにモノを直接生み出す施設を、

できるだけ残しておこう言う態度に他ならない。

また軍事施設を攻撃するのは普通であるが、生産都市を攻撃しないで金融都市を攻撃するのは

敵は大企業を生かすつもりはなく、モノを生み出さない金融都市など生かしておく価値はなかったのだろう。

 

また金融都市は破壊されればこちらのダメージも計りしれないので敵はこぞってそこに襲いかかった。

そしてその時に生み出される民間人の犠牲者にはなんの躊躇ももっていなかった。

更に敵のとった戦法は地球の流通機構を分断するということであった。

この方法はかつてドイツが世界大戦でとった、Uボートでの無差別爆撃、それである。

この戦法はチューリップからでるバッタというバッタが軍艦、民間船関係なく襲った。

これによって数多くの民間人が海で宇宙で命を落とした。

これならいくら資源を産出しようとも、いくら部品つくったりしようともそれらを効率的に流通させなければ、

モノを作り出すことは出来やしない。

無論地球連邦は大打撃を受けた。

軍がそれに対して取った対策はセオリー通り護送船団方式であった。

 

これは船団を作り常に軍がそれをガードし目的地のまで誘導するものだが、この方法は明らかに非効率である。

しかも軍はナデシコが火星から帰ってくるまでは連合軍は負けこんでおり、

いずれは護送船団方式も護衛する軍艦も足りなくなりジリ貧になることは目に見えていた。

あのまま行けば間違いなくこの戦争は負けていただろう。

無論のジリ貧を打破したのはナデシコ及びテンカワ・アキトである。

 

(そういう意味でもナデシコ、いやテンカワ・アキトの功績はこうゆうところでもすごいな。

 まあ彼がチューリップ潰しに躍起なったのは、敵の無差別攻撃によって犠牲になる民間人を

 これ以上作らないためであって、我々のような人間を助けるためではないがな。)

 

そうしてナデシコはピースランドの戦いなどによって地球上にある

チューリップほぼ一掃する事に成功し、地球の流通機構はほぼ回復したのである。

これによって軍の積極派は大反攻の時期の到来と意気込み積極的に各地に働きかけている。

 

 

(まるでジャンヌ・ダルクが死ぬ直前のフランスのようだな・・・・

 ここでもし"英雄"効果が加われれば・・・・・・・・・・・)

 

 

いやな予感がしたが吉田はひとまずそれを考えるのをやめて違う事を考えはじめた。

 

 

それはやはり敵のあの作戦についてである。

 

(やはりおかしい敵は今までこの星を占領することが目的であって地球を滅ぼすことではなかったはず。

 向こうの指導者が錯乱したいうのも考えにくい。

 いくらココ最近負け越しているからといって敵にとってそれほど絶望的な状況ではない。

 "漆黒の戦神"の件にしたってむこうにはそれに勝るとも劣らない"真紅の羅刹"がいるそうじゃないか)

 

さらにもうひとつのことに可能性についても考えてみた

 

(なぜこうもよく裏をかかれるのか?。

 すくなくとも敵の諜報員が地球に潜伏しているということはないはずだ。

 フーバーの作った諜報網をそう簡単には潜り抜けることはむずかしい。

 いやな奴だがあれほど警察長官として有能な男もいない。

 と、いうことはフーバーすら騙せる意外な人物が敵に・・・・)

 

その時、ピンとヨシダの頭に何かが閃いた。

 

(まさかな・・・・・しかし・・・・

 それにミキの報告書にピースランドでのことが書かれてあったな。)

 

ますます考え込むヨシダ。

 

(しかし何一つ証拠がない・・・・・

 こんなんでセガールやミキを動かす訳にはいかない。

 となると奴にたのむか・・・・・)

 

さっそくрかけた。

 

「はい、もしもし」

 

「私だ。」

 

「これはこれは。」

 

「今夜暇か、いい日本酒が入った枝垂桜のマスター言ってたからどうだ。」

 

「いいですね〜。

 今夜会いましょう。」

 

「ああ今夜な。」

 

「では。」

 

と言ってрフ相手は切った。

 

 

実はрフ相手はもう一人の側近の私立探偵であった。

カシム・セガールもミキ・ユウジロウも公務員である。

公務員である以上、感や憶測で動かす訳にはいかない。

そうゆう時に頼むのが例の私立探偵である。

ヨシダは非公式の調査を彼に頼むつもりであった。

 

 

(テンカワ・アキトの件にしろ敵のことにしろ打てるだけの手を打つしかない。

 やらなけならないやらなければ)

 

さらにヨシダはおもった。

 

(私は最悪の結末を迎えたくない。

 見極めなければ・・・・

 テンカワ・アキトを見極めなければ。

 そして来るだろうな・・・・・・・・

 ギリギリの時が・・・・・

 そして決断しなければならない時が・・・・

 人には心は大切だ。

 しかし政治家は時として冷酷なほど冷徹にならねばならぬ。

 政治家は善人ではいけない・・・・・・・・)

 

ヨシダはテンカワ・アキトを信じたかった。

政治家である以上そうゆう訳にはいかなかった・・・・・

 

苦悩し、そしてつぶやいた。

 

 

「テンカワ・アキトよ・・・・・

 きみはいったい何を見たいのだ・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

あとがき

槍です・・・・

この作品は第20話を読んですぐとりかかったのですが・・・・・

むずかしいな〜

ヨシダはいまでも迷ってます、悩んでます。

彼は理念の政治家です。

だから悩んでいます。

ちょっと今回はつらかった・・・・・

ここで政治家の仕事と言うもをいいます。

国内の平和、国際社会の安全、経済の安定の確保です。

さてこれからどうなるかな(無責任な奴)

では訳の解からないあとがきでした〜

 

 

 

管理人の感想

 

 

槍さんからの投稿です!!

ふふふ、政治家の苦悩が良く解りますね〜

まあ、Benもアキトみたいな人物が身近に居たら警戒しちゃいますよね(苦笑)

それに、バックには巨大企業がついてますしね〜

まあ、悩みは尽きない事でしょう。

しかし、ジャンヌダルクを引き合いに出されるとはね〜

 

では、槍さん!! 投稿有難うございました!!

 

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