第十一話

【ブリッジ:ホシノ・ルリ】

今回の任務は、木星蜥蜴の新兵器の破壊。
現在、ナデシコの皆を集めて解説している所です。

「そこでナデシコの登場! グラビティ・ブラストで決まり!!」
「遠距離射撃か!」
「その通り!!」
艦長の作戦に皆が納得しかけた時、ラズリさんが質問しました。

「新兵器ってどんなのですか? 射程とかわかりますか?」
「強力な砲台らしい…それぐらいしかわからないのよ。
 何せ軍は三回とも新兵器を作動させる前に、大量の敵戦力に退却しちゃってるから」
困ったような提督の返答。
「大量の敵戦力?!」
何故か驚いて聞き返すラズリさん。
「新兵器が設置された場所は工業地帯。敵さん、そこを利用して戦力増強しているのよ。
 まぁ、出てくるのは地球の兵器だっていうのが不幸中の幸いかしら。
 木星蜥蜴の戦艦とか大量生産されたら、堪ったもんじゃないからね」
提督の返答に、ラズリさんは不安な表情になりました。
「やっぱり、グラビティ・ブラストの遠距離射撃が良いって事ですか……。
 でも、敵の新兵器がこっちの射程より長かったらまずいですよね。何せ敵の新兵器ですから。
 幾らナデシコでも、喰らったら持たないかもしれませんよ」
不安そうなラズリさんに、艦長は自分の作戦を説明します。
「山陰を利用して敵の視界に入らない様に近づけば、相手が反応する前に攻撃できると思うんだけど」
「確かに、それはその通りですけど……」
艦長の言葉に、彼女は言葉を止めました。
ですが、まだ不安そうな感じは拭えません。

「いや、俺も何か心配だよ」
その時アキトさんがこう言ってきました。
「あいつがどんな攻撃をするか、何か調べた方が良いんじゃないか。
 向こうの攻撃がどんな物だかわかんなくて、いきなりナデシコに喰らって、俺達一巻の終わり、なんて嫌だぞ」
アキトさんまでそう言った事で、艦長も考え始めました。
「確かに敵の力がわからないのは不安だよね。安全に新兵器の攻撃を誘える方法があれば良いけど……」

皆もその方法について考え始めました。
「あ、こんな方法はどうでしょう」
声を上げたのはラズリさん。

【ブリッジ:テンカワ・アキト】

今回の任務、ユリカや皆はグラビティ・ブラストで大丈夫だって言うけど、何だか俺にはそうは思えないんだ。
何故か、あの砲台にナデシコが落とされてしまう様な気がしてならない。

だから俺は、ついユリカに忠告していた。
その甲斐あって、ユリカはより安全な方法はないか、考え始めてくれた。
皆も考え始めた。俺も考えているが、まだ何も思いつかないでいた。
そんな時、ラズリちゃんがいい方法があると声を上げた。

で、今は彼女がそれを見せようとしているんだ。
彼女は専用機体ダンシングバニーに乗って、ナデシコの艦首にいる。
あ、機体はもう変身してるから、今の機体はアマノウズメだな。

「さ、いってみましょうか」
ラズリちゃんが、ナノマシンの文様を光らせつつ、気合いを入れたのがコミュニケ越しに見えた。
「ミラージュモード、スタート」
アマノウズメが、柔らかく舞い始めたとたん、その周りに浮いている羽根が、エステの姿になった。

「「「「「「「「「「おおおおおおおおおーーーーっっっ」」」」」」」」」」
いきなり現れたエステ大部隊の姿に、皆が感嘆の声を上げた。
「光学迷彩のシステムを応用したのね。
 でも、光学迷彩って、前はナデシコ本体にしか使えなかったと思うんだけど?」
「あはは、ちょっと改良したんですよ」
イネスさんの質問に、ラズリちゃんは笑って答え、ウズメの手を振る。
振った先に、柔らかく光る球が現れた。
「これだけで、光学迷彩出来る様になったんです」
バニーの時は尻尾の部分だよな、あれって。
「情報処理自体はオモイカネとやってるんで、ウズメはナデシコに居ないといけないんですけどね」
「なるほどね。で、どう、向こうが引っかかってくれそう?」
イネスさんはそれで納得したらしく、ルリちゃんに性能を聞いている。
「そうですね、木星蜥蜴の無人兵器なら騙せると思います」
ルリちゃんの返答を聞いてラズリちゃんは微笑み、こんな作戦を提案してきた。

「この偽のエステ部隊で、あの砲台の攻撃を誘うんです。
 あの砲台がこれに向かって攻撃している間に、ナデシコがグラビティ・ブラストで攻撃するんです。
 砲台の構造から撃てる範囲は決まるでしょうから、死角から撃てますよね」
彼女の作戦を聞き、ユリカは満足そうに頷いた。
「その作戦はいいですね。それで行きましょう」

【ハンガー:スバル・リョーコ】

今度の作戦の場所まで移動しているオレ達。
その開いた時間を利用して、ウリバタケから例の武器の説め……レクチャーを受けている。
受けているのはパイロット全員だ。
で、例のっていうのはこの間ラズリが使った武器DFS。
色々データ取りとかやらされたけど、やっと実戦で使えるって訳だ。

「こいつは切れ味は抜群だし、フィールドを収束した物だから木星蜥蜴のフィールドにも対抗できるって代物だ。
 バニーの羽根に付けていた時は、投げナイフみたいな使い方をしたせいでバッテリーの問題があった。
 だが手持ち武器にする場合は、エステ本体からエネルギーを供給する事により、その問題はなくなった」
「やっぱり、ビームサーベルみたいだよねー」
「いや、ゲキガンソードだな!!」
「諸刃の剣……手も血ふぶき……手持ち武器……くくく」
「だー、やな事言うなよ」
イズミの駄洒落に顔を引きつらせるウリバタケとラズリ。
ん? なんかあんのか?

とりあえず何もなかったかの様に咳払いして、レクチャーを続けるウリバタケ。
「だがDFS本体のフィールド発生装置は、無理矢理小型化したせいで出力も小さく、バッタとかならともかく、戦艦のフィールドを切れる様にするには、収束率をかなり上げないといけないはずだ。使い手の技量にもよるがな。
 しかし、収束率を上げると制御が難しくなって、ラズリちゃん以外にはまず扱えない代物になる」
そうだよな、何度か試したけどあれ、制御が凄く難しいんだよな。
オレやヤマダで何とか一撃できるぐらいで、残りの奴等なんて、剣を作り出す事すら出来なかったんだ。
後、謎なのがアキト。制御できる時は凄えのに出来ない時は全然なんだ。
でもやっぱり、ラズリみたいに何本も出せる奴なんて、かなり人外だと思うんだよな。

ついオレはラズリの方を見てしまう。
視線に気づいたのかオレの方を向いて聞いてくるラズリ。
「どうかしましたか?」
「いや、何でお前はあんなに何本も使えるのかなって思ってな」
「うーん、とりあえずボクがIFS強化体質なのと、ナノマシンの性能の差だと思います」
オレの質問に、少々考えてからラズリは答え始めた。
「コンピュータを操る時、ボク達マシンチャイルドの思考ってコンピュータの速度に負けない様、高速化してるんです。言語も専用の高速言語が主ですし。
 ですから、制御用の情報を皆さんよりしっかり送れるんです」
「オレ達も、戦闘中は一瞬がすげぇ長く感じる事があるが、それみたいなもんか?」
「ええ、そんな感じで良いと思います」

「なるほど、マシンチャイルドはそんな高速の世界で周りを見る事が出来るのか。
 じゃあ、格闘なんかも強くなるのかい?」
と、この話にはアカツキも興味が出てきたのか、割り込んできた。
「格闘とかに使うのはまだ無理じゃないかと思います。……少なくともルリちゃんレベルでは、ですね。
 ルリちゃん達の高速化は情報伝達だけですから、見る事は出来ても、肉体が追いつきません。
 それどころか、高速化があるせいで、とっさの肉体反応が遅れる傾向があるみたいですね。
 ここら辺は、イネスさんに聞いたらしっかり教えてくれると思います」

と、ラズリがアカツキに向かってにっこり微笑む。
「でも何故かボクのナノマシンは、高速時に肉体動作の方もフォローするんで、えっちな事しようとしても、返り討ちですからね」
「はっはっは、覚えておくよ」
冷や汗を流しつつ答えるアカツキ。こいつ、なんかやったのか?
そう思った時、ラズリの顔が嫌そうな表情になる。
「だけど、高速時に感じる痛みは、肉体が痛みを感じている時間続きますから。
 もし怪我したら大変ですから、あまり使いたくないですけど」
うぇ、例えば骨を折られたりしたら、その折れる痛みがスローモーにやって来るって訳か。
拷問に近いな、それ。

「こっちの話、聞いてくれないか?」
恨めしそうな顔でウリバタケが割り込んできた。
ああ、DFSの話してたんだっけ。

「……えっと、DFSのみだと出力の問題があるって所だったよな。
 それをエステ本体のフィールド発生装置を使う事で、出力の問題を解決したわけだ」
そこまで言って、ウリバタケが口ごもった。
「……が、これ、剣の出力を上げると機体の防御力が下がるんだな」
へぇ……っておい、何だよそれ!
「そんなあぶねぇ物、使えるかよ!」
「あ……図星だった」
「ちょっとハイリスク過ぎだねー」
声を上げるオレ達に、頷きつつ答えるウリバタケ。
「まずいのはわかってる。基本的には、チームを組む事で使用時の危険を減らしてから、使う武器だからな」
使う時は周りのみんなに、フォローしてもらえ、と。

「で、剣本体のフィールド発生装置で作るDFSを、安全を重視してリミッターが掛かっている状態、LDFS。
 エステのフィールド発生装置を使う状態をDFSって呼ぶ事にした。
 一応、DFSの時も剣自体のフィールド装置が防御用にちょっとした盾を作っているんだが、機体全体を覆う程じゃない。せいぜい手甲程度の大きさしかにならない。
 剣の鍔というかナックルガードというかそういうレベルだ」
DFS同士で鍔迫り合いする時には役立つかも知れないが、そんな事起きるはずないしな。
「だから、あまり使わずにすめば良いんだが」
……まぁ、周りの奴のフォローがあって、でかくて小回りの利かない相手には有効な武器になるか。
だから、戦艦とかの相手なら役に立つな。

でも、あの切れ味は惜しいなぁ。いつか、居合い斬りとかやって見てぇな。
危険は、速度でカバーできるかも知れない。
少し、訓練でもしてみるかな?

【ブリッジ:ホシノ・ルリ】

予定の場所に到着して、作戦を開始した私達。

「ミラージュエステ隊、配置完了です」
先ほどまでくるくると踊っていたアマノウズメの舞が止まり、ラズリさんから報告が届きました。
「敵砲台、エネルギー上昇」
ラズリさんの偽エステ部隊に、気づいたようですね。
それを確認して、艦長が命令しました。
「グラビティ・ブラスト、チャージ開始。山陰から出ると同時に目標に攻撃します」
これが当たれば、今回の作戦は終わりですね。
簡単ではありますが、まあ、ナデシコでないとこんな遠距離射撃出来ませんから。

ですが、事態はいきなり大変な方向に向かいました。
偽エステ隊に向いていた砲身が、いきなりこっちを向いたのです。
「……敵、こちらに向けて発射しました」
「嘘!!」
艦長が思わず叫びます。
周りの皆も、私も含めて同様の思いです。

隠れていた山陰を削り、ナデシコに直撃する敵の一撃。

「御免なさい! だましきれなかったみたいです!!」
「というより、エステより戦艦の方が脅威だと判断したみたいね」
ラズリさんの言葉に対して、イネスさんは説明します。

「相転移エンジン停止!」
「被害は22ブロックに及んでいます」
「操舵不能、墜落します!」
被害状況が次々届き、ミナトさんの叫びと共に、墜落し始めるナデシコ。
「あの砲台。ナナフシと命名しましょうか。あれは、超小型のブラックホールを発射する物ね。
 でも、ブラックホールの生成には時間がかかるようね。
 だから、しばらくは撃ってこないと思うわ」
ナデシコが墜落する中、冷静に説明するイネスさん。
「せ、説明は後にしてくださーい!」
艦長用パネルにしがみつき叫ぶ艦長。
何故か艦長にはしっかりした椅子がないので大変ですね。私、オペレータで良かったです。
……墜落中にこんな事考えるなんて、私、結構余裕かも。
まあ、その理由は。
「私の腕に賭けて、ちゃんと不時着させるからね! みんな、安心してよー!」
そう言っているミナトさんがいるからなんですが。

で、ちゃんとナデシコは不時着して、みんな無事。
流石です、ミナトさん。
でも、ナデシコは手酷くやられて、飛ぶ事も、ディストーションフィールドを張る事もできません。
ウリバタケさんも、修理にはかなり時間が掛かるって言ってます。

……結局、ラズリさんが危惧した状況になりました。
これは、彼女の戦術眼が凄いと言うだけなのでしょうか。
何となくですが、そうじゃないような気がします。
それに、アキトさんも、なんで今回あんなに気にしたんでしょう。普段、そんな事言う人じゃないんですが。

【ブリーフィングルーム:テンカワ・ラズリ】

「エステバリスを地上から進撃させナナフシの破壊を行う。砲戦を二機、陸戦を三機のフォーメーションで行く」
ゴートさんが「記憶」と同じ作戦を説明している。
出てくる敵はやっぱり戦車だろうし、戦力としては十分だね。
「作戦指揮はアカツキ。作戦に参加しないヤマダとテンカワ・ラズリはナデシコの守備」
「ラズリちゃんは行かないんですか?」
ボクが行かないのを疑問に思ったのか、アキトが聞いてきた。
「バニーちゃんって直接戦闘には向いてないんだ。今回は隠密行動だけじゃなくて、ナナフシの破壊もあるから攻撃力がいるんだよ。
 それに、ナデシコを空っぽにするのもまずいでしょ」
用意していた答えを返す。

本当は、ちょっと気になるんだ。
「記憶」にあるより敵の戦力が多いみたいなのが。
もし何かあった時は、やっぱりウズメを使いたいから。
アキト達が出会う敵へのフォローは考えてあるし。

「作戦開始は一時間後だ」
ゴートさんが説明を終えた時、ガイさんが叫んだ。
「俺がナデシコの守りってのはどういう事だ!」
やっぱりそこが気に入らないんだ。
「敵地に進入し悪の新兵器を叩きつぶす! まるでゲキガンガーみたいな燃えるシチュエーションじゃねぇか!
 なんでだ!」
でもねぇ、ガイさんってこういう潜入作戦って向いてないと思うんだよね。
一応聞いてみようか。
「潜入時に前に川があったら?」
「かまわず進む!」
「地雷原があったら?」
「踏みつぶして進む!」
「敵が待ちかまえていたら?」
「全て叩きのめして進む!」
はぁ……。ガイさん本当に隠密行動に向いてないんだね。

「ガイ……やっぱりお前ナデシコの守りをしてた方がいいよ」
アキトが呆れた表情でそう言うと、他の皆も深々と頷く。
「確かに皆が言いたい事はわかってはいる!
 だがこの燃える状況、わかってはいるがわかるわけにはいかんのだ!!」
ガイさん、一体何を言っているのかなぁ?? ボクにはよくわかんないよ。

「ヤマダ、お前は待機、命令だ」
騒ぐガイさんを、ばっさりゴートさんが切り捨てる。
「……わかったよ。だが、俺の名前はダイゴウジ・ガイ! だ!」
やっぱり、そこだけは譲れないのね。

【休憩所:テンカワ・アキト】

作戦会議が終わって、戦闘準備までの待機時間。
短い時間だから、俺達パイロットは皆ここ、ハンガーの側の休憩所にいる。

「アカツキさん、今回の作戦、上手く行くと良いですよね」
「君達が協力してくれれば大丈夫さ。僕が指揮官なんだしね」
ジュースを買いなから声を掛けるヒカルちゃんに、自信ありげに答えるアカツキ。
「あー、それってボクの今までの戦闘指揮が駄目だったって事ですねー」
そこへ突っ込みを入れるラズリちゃん。
アカツキは苦笑いを浮かべつつ答える。
「いやいや、そんな事はないさ、ただ今回は僕の指揮官ぶりを見ていてくれるかな?」
「あはは、アカツキさん、ちゃんと指揮官やって下さいね」
「任せてくれたまえ、僕はこれでも優秀なつもりだよ」

「でも、指揮官だけじゃ勝てないと思うけど。もっと他に何かあるでしょう」
何となくアカツキが指揮官を強調するするのが納得行かなくて、つい俺はこう言っていた。
俺の台詞に、アカツキは俺の方を向き、興味深そうな表情で聞き返してきた。
「ほう、そりゃいったい何かな?」
え……。いきなりそんな事言われても。

「仲間……とか」
結局、こんな言葉しか思いつかなかった。
俺がそう言ったとたん、アカツキとヒカルちゃんが顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
「じゃあ、お仲間のテンカワ君は補給物資担当だ」
それって荷物持ちの事じゃねぇか。
「何でそうなるのさ」
「そうなるの」
俺が言い返すとイズミちゃんにも横からニヤケ顔で言われた。
「……ばか」
リョーコちゃんも呆れた顔。
「素直にそんな事言えるから、アキトなんだけどね」
ラズリちゃんはフォローをしてくれたけど、困った顔をしてる。
一体何でだよ。
そう思った時、後ろから肩を叩かれた。

「違うぞアキト。
 勝利に必要なのは、ただ仲間がいるから、じゃない。
 事前の準備や、日頃の訓練なんかも大事なんだぞ。
 そして、いざ戦う事になった時には、仲間が一人一人出来る事をやる事、それも大事なんだ。
 例えば今回は、アマノやスバルはナナフシ破壊用の砲戦フレームの護衛。
 アカツキも砲戦だが、小隊長である以上、スバル達のフォローもするかもしれん。
 そしてお前はナナフシを倒すのが役目だ。
 だから最後まで残っていられる様に、戦闘よりも、バッテリーを運ぶ補給物資担当なんだぞ。
 ……まあ、アカツキ達の台詞に、お前をからかう部分があるのは認めるがな」
ガイ?! またいきなり真面目な台詞を。
さっき出撃させろって騒いでいたのと本当に同一人物か?

ふと周りを見ると、全員が驚きの表情でガイを見つめている。
ガイは決まりが悪くなったのか、そっぽを向いてこう言った。
「だからさっきも言ったろ、わかってはいるがわかるわけにはいかんって。
 もう出撃できなくなった以上、親友の心配をして何が悪い」
その言葉自体は嬉しいんだけど、さっきの言動と今のが結びつかなくてさ……。

「でもジロウ君、そこまでわかっているのに、何でエステに乗る事が絡むとああなの?」
だが、ヒカルちゃんがこう聞いたとたん。
ガイ!! 俺の名はダイゴウジ・ガイ!!
 それに、ゲキガンガーは、今の俺が存在する理由!! そして魂の約束!!
 何人たりとも止めさせん!!」
熱血馬鹿モードに突入するガイ。
何となく安心しつつ俺は思った。
これが無きゃこいつ、本当、いいパイロットだと思うんだが……。

【アキト機:テンカワ・アキト】

出撃の前、ユリカとメグミちゃんの応援の通信がバッティングしてしまい、俺はどうしたもんかと考えていた。
「アキトー、何やってるのー」
いきなり目の前に現れた、責めるようなラズリちゃんの顔。
「お、俺が悪かった。人として間違ってた。許して下さい!」
思わず謝ってしまう俺。
「何言ってるの? さっきからホウメイさんが呼んでるよー。
 戦闘食じゃ味気ないだろうから、この材料持って行きなって」
「え?」
モニターの前でホウメイさんが手を振っている。
通信のせいで全然気づかなかったな。

とりあえずホウメイさんへの応答を済ませて一息ついた時、ラズリちゃんが聞いてきた。
「ところで、ボクの他にも通信が繋がってるみたいだけど?」
「何でわかるの?」
「通信探査はお手の物だもん。中身はプライバシーだから聞かないけどー」
そう言いながら、猫のような表情でこっちを見る彼女。
「ユリカ艦長だけならいいけどさ、二股は良くないよ〜」
ぐっ、ばれてる……??
彼女はその猫の様な表情で慌てる俺を見ていたが、溜息をつき何やら呟く。
「全くもう。アキトがそんなんだと、ボクも……」
「え、なに?」
「何でもないよ! じゃ!」
慌てた様に通信を切るラズリちゃん。
何なんだ、一体?

【ハンガー:ウリバタケ・セイヤ】

「アキト、ちょっと待って」
出撃するテンカワを、ダンシングバニーに乗ったラズリちゃんが呼び止めた。
「お守りだよ」
彼女はそう言って、テンカワの機体にダンシングバニーの羽根を数枚取り付ける。
確か、あれって……。
「これはね、アキトが危なくなった時、正義の魔法少女が助けに来てくれるための物なんだよ」
つまり魔法少女ってのは彼女の事だよな。
「はぁ? 何それ?」
テンカワ、理解してないぞありゃ。
「あはは、いいからいいから。じゃ、いってらしゃーい」
「ちょっとラズリちゃん、出撃するパイロットを激励するのは私の仕事よー」
「アキトさん、頑張って下さいね」
「メグちゃんまで! ……アキト、無事に帰ってきてね!」
「テンカワ、早くしろ! 置いてくぞー!」
……ラズリちゃんに艦長にメグミちゃんにリョーコちゃんか。
何であいつあんなにモテモテ君なんだろうな。
黙って見ているのもアレなので、整備班員達とやっかみの声援を送ってやる。
「「「「「うらやましーぞ、テンカワアキトー!」」」」」

【ブリッジ:ホシノ・ルリ】

「新手のコスプレか何かか?」
「まぁ(はぁと)」
呆れ顔のゴートさんと妙に嬉しそうなエリナさん。
その理由は、今の私達の格好。
私達、昔の軍服でコスプレ状態ですから。
「この方が気分が出るからって、ウリバタケさんがコレクションから貸してくれたんです。ビシ!」
ポーズを決めて格好の理由を言う艦長。
ところで、ゴートさんはともかくエリナさんの反応はいかがな物かと。
皆がビシっとしているので喜んでいるならいいのですが……。
でも何故私だけ何で鎧武者なんでしょう。

と、私の顔を見て、ジュンさんが聞いてきました。
「もしかして、本当は嫌?」
「私、大人ですから」
「でも、ルリちゃんって本当に嫌だったら「嫌です」って言うと思うんだけど」
割り込んできたラズリさんのコミュニケ。
「聞いてたんですか? それに、今居ないのは、この事に気づいてたからですか?」
「ううん、そんな事無いよ、ボクそういうの嫌いじゃないもの。何だかお祭りみたいで楽しいじゃない」
と、そこで彼女の表情が少し曇りました。
「それに皆との新しい思い出が出来るんだよ。ボク、そこにいられないのはとっても残念」

思い出……ですか。

彼女は記憶喪失のせいか、そう言う事には人一倍こだわります。
例えば、私達はオモイカネから艦内の出来事の情報が色々入って来るんです。
この艦の人達は何故かよく色々お馬鹿な事をしでかすんですが、私は端からそれを冷めた目で見ていたんです。
でも彼女は直接見に行ってしまうんですよ。
「やっぱり、体験できる物は体験しなくちゃ」
私が理由を聞くと、彼女はこう答えました。
「それに、みんながお馬鹿な事をやっているのを見る事が出来るっていうのが、何だか本当に嬉しいんだ」
嬉しい、そう言った時のラズリさんの表情は、本当に優しく、でも何か寂しそうで、妙に心に残る物でした。

結局、艦内で何か騒ぎが起きると、二人で見物に行く様になってしまいました。
その騒ぎの大部分がアキトさん絡みなのはちょっと問題な気がしますけど。

「大丈夫だぞラズリちゃん! 君の分もちゃーんとある!」
私がそんな事を思っている間に、ウリバタケさんが入ってきました。
「本当ですか!! ウリバタケさん!!」

ちなみにラズリさんのは、何故かパイロットスーツを弄ったバニースーツでした。
元がパイロットスーツですから、一応肌の露出は無いんですけど、ちょっとえっちだと思います。
でも、ラズリさんは嬉しそうだったので、何も言えませんでしたが。
「ほらほらルリちゃん、ウサ耳ウサ耳〜。IFS対応で動かせるんだよ〜」
いえ、確かに似合ってますけど……。

【山中:スバル・リョーコ】

オレ達は、ナナフシに向かって、それなりの苦労はあったが進んできている。
で、現在は休憩中。

テンカワが今、オレ達の料理を作っている所だ。
「「「ねぇ、御飯まだ〜」」」
「ちょっと待って! ……やっぱ、中華鍋は火の回りが良いなぁ」

ほんと、テンカワの奴、楽しそうに料理するよな。
オレ、料理あんまり出来ねぇから、何で楽しいのかはよくわからない。
でも、こいつが楽しそうだと、何でかこっちも嬉しくなる。
こいつの笑顔を、もっと見ていたい、なんて思っちまうんだ。

……何考えてる、オレ。
少し、頭を冷やしてこよう。

【河原:スバル・リョーコ】

休憩していた所から少し歩くと、小川に出くわした。
オレは何となく川岸に座り込んだ。

どうしちまったんだろうな、オレ。
自分より強い奴じゃなくちゃ、駄目だったはずなのに。

「テンカワ……」
「リョーコちゃん?」
つい口に出してしまった言葉に返事が来て、オレは思いっきり驚いた。
「うわああああああっ!!」
「ど、どうしたの?!」
「脅かすんじゃねぇよ、こんちくしょう!」
怒りと、何かよくわからない感情に押されて、アキトを怒鳴りつけてしまうオレ。
「ご、ごめん。冷めない様にって持ってきただけだったんだけど」
謝りつつ、美味そうな料理が乗った皿を差し出すアキト。
「はい、リョーコちゃんの分」
「お、おう、サンキュな」

オレが料理を受け取り食べ始めると、アキトは皆の所に戻ろうとしたので、ついオレは呼び止めていた。
「一人で食っても味気ないから、お前もそこにいてくれ」
アキトはちょっとだけ不審な表情をしたが、結局オレの横に座った。

「やっぱり、お前の作る飯は美味いよな」
「ありがと、そう言ってもらえるのが一番嬉しいよ」
オレの言葉に照れた様に笑ってから、言葉を続けるアキト。
「でも、まだまだだよ。ホウメイさんには良く叱られてるしね」
そう言いつつも、こいつの表情は嬉しそうだった。

オレは、その笑顔のせいか、何だかこいつがパイロットをやっているのが似合わない様な気がして、聞いていた。
「お前、何でパイロットなんかやってるんだ?」
苦笑しながら答えるアキト。
「最初は成り行きだったんだけど。……でも今は」
笑みが消え、アキトの顔が真剣な物になる。
「こうやって俺が戦う事で、皆を護れて、この戦いが終わった時、皆が俺の料理を食べに来てくれたらいいな、なんて思ってるんだ」
ああ、前もそんな事言ってたよな。
自分の料理を美味しいって言って食べてくれる人のために戦ってるって。
「そうか、ならオレがそんときゃ一番最初に食べに行ってやる」
でも、この戦いが終わった後の事か……。あんまりしっかり考えた事無かったな。

「……何だったらオレ、その時はお前の店を一緒に手伝ってやってもいいんだぜ」
何故かわからないが、ついオレはこんな事を言っていた。
な、何言ってる、オレ?!

だが、オレが思いっきり動揺しているのに気付いてないのか、アキトはこんな答を返してきやがった。
「ありがと、リョーコちゃん。……でも、手伝うなら料理の腕前、もうちょっとあげないとね」
「な! ば、馬鹿やろ、人が好意で言ってやってるのに」
「はははっ、ごめんごめん。でも、その気持ちだけでも嬉しいよ」
謝りつつ、こいつは笑顔を浮かべた。
その笑顔に、つい目を奪われてしまう。
頬が熱く、赤くなってきているのが感じられる。
「テ、テンカワ……」
オレは、何かに引き寄せられるかの様に、テンカワに体を寄せていってしまう。

と、何やら後ろの草陰から物音がした。
「何だかいい雰囲気ですねぇ、イズミさん(ひそひそ)」
「そうですねぇ〜。解説の、大関スケコマシさんは、どう思われますか?(ひそひそ)」
「テンカワ君、見事な天然だね。リョーコ君の攻撃を意識してないね。彼はもう少し乙女心を理解した方が良いと思うな」

「おまえらー!! 何言ってるー!!!」
ドガアアアン!!
にやけた表情で覗き見していたこいつらに向かってオレは叫んだ。
オレの叫びに呼応するかのように、響く爆音。

……爆音?
「敵襲か!!」

【ブリッジ:ホシノ・ルリ】

アキトさん達は、ナナフシに向かって、それなりの苦労はありましたが進んでいってます。
で、現在は休憩中なんですが。
『『『ねぇ、御飯まだ〜』』』
『ちょっと待って! ……やっぱ、中華鍋は火の回りが良いなぁ』
何を言ってるんですかアキトさんは。
それにアカツキさん達もアキトさんに料理任せちゃって。
「あはは、やっぱりアキトは根っからコックだね〜」
「……馬鹿」
ラズリさんと一緒に状況確認しながら呆れる私。
敵地に進入しているのに、どうしてうちのパイロットはお気楽なんでしょう。
「休むときは休む、真面目なときは真面目、しっかり分けないと持たないから、別に良いんじゃない?」
そんな物ですか?

私の答は爆音によってうち消されました。
「ナデシコの周囲に敵反応です」
「やっぱり来たか……」
イネスさん?
「多量の敵機動兵器がいたら、その母艦の所に戦力送り込んでもおかしくないわよね」
「なるほど……ミラージュモードはそういう問題があるか。
 相手の戦力を見極めてから使わないと敵を呼び込んじゃう事もあるんだ」
イネスさん、そういう事は早く言って下さい。
ラズリさんも納得していないで下さい。

「ルリちゃん、敵の数と配置、報告して」
真面目な表情で命令を出し始める艦長。
「敵、戦車部隊、その数数百、前方からナデシコを包囲するように陣形を展開しています」
「戦車?」
「二世代前の陸戦主力兵器だ。旧式とは言え、これだけの数がそろえば脅威になる」
不思議そうに聞いたミナトさんに答えるゴートさん。
そこへ開かれるウリバタケさんからのコミュニケ。
「そう、ハイカラに言えばAFV!アーマード……」
「はいはい、マニアは黙ってなさい」
エリナさんがウリバタケさんの暴走を止めた所に、艦長が質問しました。
「ウリバタケさん、ディストーションフィールドは張れますか?」
「応急修理は終わったんで一応張れるが、強度は弱いぞ」
きっちり答えるウリバタケさん。この人も、仕事はしっかりしている人なんですよね……。
ウリバタケさんの返答に艦長はちょっと考えて、次の命令を出しました。
「エステ、ナデシコの防御を優先!
 戦闘指揮は私がやるから、ラズリちゃんに通常エステで出るように言って。今は戦力が必要だから」

ですが、パイロットさんに通信しようと回線を繋いだ時、聞こえてきたのは叫び声。
「俺一人でもナデシコは護る! おりゃああああああ!!!」
ヤマダさんが、そんな事を言いながら、発進したんです。

何も考えていないかの様に、敵に向かうヤマダ機。
幾ら時代遅れの戦車だからって、真っ正面から突っ込むなんて、正気ですか?

一分後。

「ヤマダ機、呆れるほど被弾。戦闘不能です」
艦長、ちゃんと指示してあげないと駄目じゃないですか。
もしかしたら、これで戦闘できるのはラズリさんだけですか?
……そのラズリさんはどうしたのでしょう?

「ここはボクの出番です! アマノウズメの舞、とくとご覧あれ!!」
艦首でモデル立ちのアマノウズメ。
「チャームダンス・モード、行きます!!」
その言葉と共に、アマノウズメはふわりと舞い始めました。
綺麗な動きである事は変わりませんが、今回は機体の動きが大きいです。
ハイ・ジャミングモードが和風の「舞」なら、今度は印度風の「舞踊」ですね。
何というか……色っぽい、です。
ですが、一番の特徴は、機体の羽根が敵に向かって跳んで行く所でしょうか。
一体、この羽根にはどんな効果があるのでしょうか?

その効果はすぐに現れました。
「戦車、同士討ちを始めました」
こちらの味方をしている戦車には、羽根が刺さっています。
なるほど、敵の機体を操ってしまうからチャームダンス(魅了の舞)モードですか。
でも、流石ですねラズリさん。
私も、オモイカネと一緒なら味方の艦隊を掌握する事ぐらい頑張れば出来るかもしれません。
ですが、彼女は旧式戦車とはいえ、初見の、しかも敵が使っている機体を掌握してしまうんですから。

【アマノウズメ:テンカワ・ラズリ】

やっぱり敵戦力多くなっていた。
ナデシコの方にも攻撃を仕掛けてくるなんて。
「未来」とのずれって奴だな。
ま、ボクは未来を変えようとしてるんだ、このぐらいの苦労は仕方がない。

さてと、これでこっちはオッケーだから。あっちはどーなってるかな?

【砲戦フレーム:テンカワ・アキト】

ナナフシに向かう俺達の前に現れた大量の戦車軍団。
「こんなの一々相手してたら、きりがねえぜ!」
「どうするのアカツキさん?!」
「このままだと間に合わないわね……」
リョーコちゃん達の言葉を聞いてアカツキは少し考えて、こんな事を言いだした。
「僕達は、彼女らを置いて先に行くんだ」
何だと?
「彼女らが壁になっている間に、僕達でこの戦車の司令塔にもなっているはずのナナフシを破壊する」
でもそれって、リョーコちゃん達を見捨てて俺達だけ先に行くって事じゃないのか?!
そんな事、仲間を見捨てるなんて事が出来るか!
もしそんな事したら、また同じ事の繰り返しだ。
昔、俺は火星で誰も助けられず、結果的に一人だけ逃げてしまった。
だから、もう見捨てたくない!

俺は機体を反転させ、戦車の群に向かって連射する。
「止めたまえテンカワ君!」
「うるさい!」
「君一人で何が出来る!!」

その言葉が、俺の頭の中に衝撃を走らせた。

……連れ去られるユリカ……苦痛……立ち塞がる組み笠の男達……。

同時に心を占めて行く、憎悪と復讐心。

……俺に力がないから、あの時ユリカを護れなかったんだ……。

だから俺は、自分も、お前らも許せない!

【陸戦フレーム:スバル・リョーコ】

いきなりアキトの機体の動きが変わった。

「何だ、あの動きは?」
さっきまでは切れた奴が出鱈目に撃っていた状態だったのが、いきなり恐ろしいほどの精密射撃。
しかもあの連射速度でだと?

連射で作動不良を起こしたのか、それとも弾切れしたのか、あいつは銃を投げ捨てたと思うと、DFSを抜いた。
抜かれた刃は、長く、大きく、そして鋭い。
DFSの大太刀を手に敵陣に突っ込んでいくアキトの機体。

あの状態は……!

「あいつ、機体のフィールドをほとんどDFSに回しやがったのか!」
機動力の無い砲戦フレームでフィールドが無くなったら、しかも接近戦を挑んだりしたら、倒して下さいって言っているような物だ!

だが、アキトの機体は驚くほどの機動を見せた。
敵の動きを見切ったかのような動きで死角に入り込み、切り裂く。
砲撃を紙一重で避わし、時には同士討ちさえ誘う機体捌き。
それは砲戦フレームで出来るとは思えない、信じられないほどの鋭い動き。

砲戦フレームであの機動、間違いねぇ、あいつ、機体のリミッターまで切りやがった。
リミッターを切る事で機体は限界まで動かせるが、それは機体が持つ間だけだ。
いつ動けなくなるか、いやそれどころか、いつ爆発したっておかしくないその状態。
テンカワの機体はそんな中で、見ている者が恐ろしくなる様な戦いを見せる。

今のテンカワの戦い方、あれは、敵を破壊する事のみに集中した、鋭さと恐ろしさを合わせ持った機動。

アキト、どうしてお前にそんな事が出来る?

「う、嘘……、何であんな事出来るの……?」
「凄まじい腕前ね……」
「なるほど……ラズリ君が彼を鍛えていたのは、こういう訳か。彼にこんな力があったとは……」
ヒカル達も、テンカワの戦い方に驚きを隠せない。
だがオレは、テンカワのそんな行動を見ていられなくて叫んだ。

「あいつを止めろ! あいつにあんな行動はさせたくねぇ!」

アキト、てめぇは嬉しそうに料理を作ってるのが似合ってるんだ。
そんな戦い方は、お前には似合わないんだよ!!

【砲戦フレーム:テンカワ・アキト】

「アキトの馬鹿ーー!!!」
その声と同時に機体のコントロールが奪われた。
「な、何だ??!」
驚く俺の前にコミュニケが開かれる。
そこには泣きそうな顔のラズリが映っていた。
「どうして……どうしてアキトがそんな風になっちゃうんだよ。
 ボク、そんなアキト、嫌だよ。アキトはそんな風になっちゃいけないよ。
 アキトがそんな風になったら、不幸にしかならないんだよ……」
本当に悲しげな、涙を堪えている様な、そんな彼女の顔を見て、俺の感情は静まっていった。

「ごめん……俺、皆を置いて俺だけ先に行けって言われて、皆を見捨てて行くなんてって思ったら急に……」
俺の言葉を聞いた彼女は、驚いた顔をした後、真面目な表情で語りだした。
「アキト、自分で「仲間」とか言ってて全然わかって無いじゃないか」
どう言う事だよ?!
「見捨てるんじゃなくて、信じて進むんだよ」
そこで彼女は少しだけ表情を緩める。
「それに、みんながこんな奴らにやられると思うの?」
「だけど、もし万が一の事があったら、俺は自分が許せないよ」
そう言った俺の顔を彼女はじっと見つめた。
暫くそうしていた後、彼女は軽い溜息をつき、柔らかな笑みを浮かべた。
「ふぅ、アキトはそう言う性格だよね」

と、その笑みがニヤリとした猫の様に変わる。
「でも、そんな事言うならこのままボクが操縦しちゃうよ」
その言葉と同時に、俺の乗っている機体が勝手に動き出す。
流石に敵弾が飛び交う中で機体が勝手に動くというのはぞっとしない。
「わ、わかったから」
「よろしい。じゃあボクが渡した羽根、敵に投げつけて」
羽根って、出撃の時くれた奴か。
言われた通り、俺は羽根を敵戦車に向かって投げる。
羽根は一枚一枚別の戦車に張り付き、羽根のついた戦車は他の戦車へ攻撃を始めた。
ラズリちゃん、あの羽根で俺の機体を操った様に戦車をコントロールしてるのか。
操った戦車がやられても、羽根が壊れない限り別の戦車を操ってゆく。
うーん、プロスさんが居たら効率が良いって喜ぶだろうな。

ラズリちゃんの羽根とリョーコちゃん達の攻撃で、見る間に戦車の数は減っていった。
「相変わらず反則っぽいね、ラズリ君」
呆れた顔でアカツキが彼女に声を掛けた。
「戦車は地球製ですから出来たんです。
 それに、戦車はフィールド持ってなかったんで、楽に羽根を打ち込めましたから。
 でも、アキトにお守り渡しておいて良かったです」
そこで彼女はこっちを見る。
「アキトが無茶するとは思ってなかったんだけど」
悪かったよ……。

【アマノウズメ:テンカワ・ラズリ】

とりあえず一段落して、ボクは安堵の溜息をついた。
でも、その代わりに疑問が浮かんできたんだ。

アキト、どうしてあんな戦い方したんだろう。
それに、何であんな戦い方が出来たんだ?
幾らボクと一緒に訓練していたからって、あの戦い方は、違う。

もしかしたら、アキトも?!

でも、そうだとしたら、ボクは「アキト」じゃない事になる。
だとすると、まさかボクは……?!

この世界に現れてから、いつも頭の隅にある疑問、それがまた重くのし掛かってくる。

ボクは、誰なんだろう……。

【砲戦フレーム:テンカワ・アキト】

戦車相手の戦闘から一時間。
ナナフシの破壊に成功。

「ま、ラズリ君の応援が有ったとはいえ、君も結構凄かったと思うよ? なかなか驚かされたよ」
作戦が終了して、アカツキが俺にこう言ってきた。
それなりに俺の事を評価した発言だったんだろう。
でも俺は悲しくなった。
「彼女の応援が有ったとはいえ」と言う言葉のせいだ。

何だか俺、ラズリちゃんに余計な世話ばかり掛けさせているんじゃないか?
彼女が遭難した時に俺はこう言った。
「ラズリちゃんは、自分も記憶喪失で大変だろうに、俺の事色々心配してくれた。
 戦い方も教えてくれた。ラズリちゃんが居なかったら、今俺ここには居ないと思う。
 だからその借りは返しておきたいんだ」
でも、その借りは返せ無いどころか、ますます増えている気がする。
俺はコックになりたいし、彼女にこれ以上苦労させたくない。

それに、今回の戦闘で起こった、あの憎悪と復讐心に取り込まれたかのような感情の嵐。
何故、俺の中にそんな感情がある?
しかも、そのきっかけとなった、俺の記憶な筈がないのに、だが俺の物だと感じられる「記憶」。
これは一体何なんだ?

……このまま俺、パイロットでいて良いのか? 






【後書き:筆者】

第十一話です。

アキトの行動はやっぱり難しいです。
何というか、アキト、思考や行動がかなり極端な人だと思います。

それはともかく、今回の話です。

やはり、ナナフシ攻略は、地上進行になるんですね。
不思議です(苦笑)。

しかしラズリ、そのうち劇場版のようなシステム掌握、出来そうですね。
チャームダンス・モードはオモイカネとリンクさせて、かつ羽根を操る相手に当てないと掌握できません。
ですので、羽根を落とせるような腕のいいパイロットや、強力なフィールドを持った戦艦にはまだ無理です。

それでは、また次回に。

 

 

 

代理人の個人的な感想

アキトの行動が極端から極端に走るのは、まぁ、平たく言えば「ガキ」だからではないかと。

自己と言う物を確立し切れていないので

目の前で起こっている現象なり強いショックなりに容易く影響を受けてしまう、

だから時としてエキセントリックな行動に出たり、

割にあっさりとゲキガンガーに絶望したりするんじゃないでしょうか。

やっぱりアキトって「流され主人公」なんですねー。

 

>イネスさん、そういう事は早く言って下さい。

いや、イネスさんは技術者であって軍人じゃないし(笑)。

むしろそう言う事は戦術技能を持ってる人たちに言うべきじゃないかな〜。