第二十話  Aパート

【ナデシコシミュレーションルーム:ホシノ・ルリ】

「まだ遅い。これだけ時間があったら戦場のどこからでもやって来れます」
そう呟き、私は再びシミュレーション、この言い方は正確ではないですね、特訓用プログラムを起動しました。

『ルリ、休憩が必要』
視界の隅にオモイカネからの警告表示が映る。

確かにもう何時間もぶっ続けです。
だからと言って、今こうしている間にも「北辰」はラズリさんの体を使って、いいえ、もてあそんでいるのです。
そう思うと、いてもたってもいられません。

私には直接戦う力はない。
でも、相手が人間であり、機械を使うというのなら、やりようはあります。
「電子の妖精」なんて呼ばれるのは複雑でしたけど、そう呼ばれるだけの力が私には在る、そういう事です。
ラズリさんが残してくれた、ウズメの羽根のシステム。
ナデシコからこれが使えるようになっていたのは幸いでした。
これがあれば……。

「ルリ姉、私にも協力させて」
今度割り込んできたのは、ラピスでした。
「ラピスにはラピスのできる事があるはず。もし私一人で出来なかったら、ちゃんと協力を頼むから」
本当は、手伝ってもらいたいのは山々です。
もしかすると、彼女を私の手で助けたいという、私の我侭かもしれませんが。

「絶対、取り返してあげますから」
私はそう呟き、再び特訓を始めた。

【ナデシコブリッジ:ラピス・ラズリ】

……寂しい。
ラズ姉が居なくなってしまったから。
私と同じように[未来]から帰ってきた「北辰」、あの怖い人がラズ姉の体を乗っ取り、そのまま木連に行ってしまった。

ルリ姉は一人で何かしていて、私が手伝うって言っても「ラピスにはラピスのできる事があるはず。もし私一人で出来なかったら、ちゃんと強力を頼むから」というだけで、私と一緒にやろうとしない。

でも、ルリ姉が何をしようとしているかぐらい、何となくわかる。
私の事を気遣っていると言うのも。

どうしてだろうか、私、あの怖い人を目の前にすると、混乱してしまう。
なぜか、凄く悲しい事、怖い事が起きてしまうような気がして。

それなのに、あの時の事が思い出せないのも、苦しい。

だからと言ってオペレータの仕事は必要だし、なにもしないよりは気が紛れるから、私はここ、ナデシコのブリッジに居る。
私の横では、ハーリーをミナトがいじって遊んでいる。
普段なら私もそれを興味深く眺めるのだけど、今はハーリーの情けない顔を見ていたら、なんだか気分が滅入ってきた。
大体、ルリ姉が好きなら、こんな時にこそ何かしてほしいと思う。
これだからハーリーは。

……これはやつあたりという物だと思う。

「オモイカネ、サルタヒコはどう?」
よくない思いを払いのけ、ルリ姉の目的に協力するためオモイカネに頼んでいた調整について聞いてみる。
『もう少し掛かりそう』
「……そう」
上手く行ってないので、ますます悲しくなった。

「ラピラピ、髪の毛結構乱れてるわよ。
 女の子は特に、身だしなみはちゃんとしなくちゃ」
その時いきなり、ミナトが話し掛けてきた。
彼女は机の私物箱からヘアブラシを取り出し、私の背後に立ち、髪の毛を梳かしだす。
ミナトは洋服とか髪型とか、結構うるさい。
嫌なうるささじゃなくて、嬉しくなるというか、胸の中が温かくなるような、そんな感じだけど。
髪型とか色々教えてくれたり、綺麗な洋服着せてくれたりするのも、嫌じゃない。

「向こうには白鳥さんや月臣さんが居るんだもの。
 きっとラズリンは手厚く歓迎されてると思うから、大丈夫よ」

……あ、これって。
私の事、気遣ってくれてるんだ。
もしかすると、さっきハーリーで遊んでたのも、その一環だったのかも。

と、彼女の声の調子が呆れた様に変わる。
「でもさぁ、ラズリンってば、あんな鎖の手錠や首輪を、良い趣味しているなんて言っちゃって。
 私、「ラズリン、おしゃれ間違えてる!!」って叫んじゃう所だったわよ」
ミナトはあれがラズ姉じゃなくて「北辰」だったのを知らないから、こんな事を言うのだろう。
でも、どう言ったらいいのかわからなくて困りかけた時、ミナトが自分の顔を私の真ん前に寄せ、楽しげに微笑んだ。

「だから、彼女が戻ってきたら、思いっきりおしゃれ教え込んじゃおうかなんて思ってるのよ。
 その時は、ラピラピも一緒にかわゆーい格好にしてあげるからねぇ」
かわゆーい、というのが、よくわからないけど、ラズ姉とおそろいの格好するのは、ちょっと楽しみかもしれない。
その時の事を思うと、なんだか気分が良くなって来た。

それを見て取ったのか、ミナトは黙って私の髪の毛を梳くだけになった。
何となくまったりした感じの時間を過ごす私達。

ミナトがぽつりと呟いた。

「ラズリン、今ごろどうしてるんだろうねぇ……」

【ゆめみづき内一室:「北辰」】

「今」の「我」達はあの機体を調べている所であろうな。
わざわざ乗ってきたのだから、何か仕掛けがあるのであろうと。
「電子の舞姫」などと呼ばれている相手、何度も幻惑された相手の新機体ならば、当然その能力を調べるはず。
その事自体は予定通り、むしろ目的の一つであり、障害にはならない。

我が行動するに必要なのは、この小娘の体だけで十分なのだ。

この娘の体内の微小機械。これは他人の微小機械にも影響を及ぼし、支配下に置く事が出来る。
IFSとやらを持つ者であれば、その相手を乗っ取り、自らの手足として操る事も可能だろう。
だが、それだけなら妖精達でも可能な事。

影響の対象は相手の体内の機械だけではない。
この娘の場合はさらに上であり、周囲に散布されている物、体内から排出された自らの微小機械でさえもその対象である。
それを利用し、微小機械を持たない人間に対しても影響を及ぼすことが可能なのだ。
例えるなら、体内の病原菌を感染させるような物だろうか。

まあ、触れる程度の接触感染では、所詮は老廃物からの感染、壊れ掛けと言うか、性能がかなり小娘体内の物より落ちており、受けた相手が微小機械を持っていなければあまり長持ちはしない様だ。
それでも、小娘が本気を出せば、間借りしているだけの我より数段複雑な事が出来よう。
接触感染ではなく体内の「生きた」微小機械を与える粘膜感染までやってしまえば、思考の誘導から、催眠、その気になれば洗脳まで可能であろうな。
社会は人間関係で出来ているのだから、自由に人の心を操るという、この能力は、ある意味、神にも等しい力と言える。
木連の影となり隠密活動や情報操作を行っていた我には、この力の有効性がはっきりと理解できる。

しかし、小娘は自分が出来る事に気づいていないゆえ、周囲の意識を自分に好意を持たせる方向にずらしたり、無意識に相手の記憶を修正してしまう等の事しか出来ていなかった。
普通の人間は大抵、嫌われたくないと思い、不快な事は忘れて欲しいものだからな。

自分が何をしてきたかを知った時、小娘がどう反応するかは、少々楽しみではある。
知識無しの感情のみの善意の行動が、時には、綿密な計算と知性による悪意の行動よりも、大きな事象を引き起こす事があるという事を。

そこまでで思いを止め、軽く息を吐く。

まあ、今の我にとってはそんな事はどうでも良い。
目的に利用できるかそうでないか、それだけだ。


我の現在の目的は復讐人と勝負をつける事、それだけは何を置いても譲れない。
だが、もう一つ気になり始めている事があるのだ。


我が愚息、北斗。

情けない事だが、このような体を使う事になり、あ奴の気持ちに少々思う所が出てきたのだ。
あれほどの強さを持ちながら、北斗は自分の肉体が女性であるという枷に囚われているという事。
思えば、あの枝織という姿は、そこを突かれた事によるものかも知れぬ。
山崎辺りがやりそうな事だ。

男と女の違いというのは、純然と現れるものなのだ。
特に木連社会では如実に。

女性を慈しみ労わるという激我魂の教えの一つ。
いや、それ以前に、生物的本能という物かもしれないな。
男が女という物、性差を意識するのは。

そう、例えば……。

「食事です」
物思いに割り込む様に、扉を開け優人部隊隊員の一人が部屋に入ってきた。
ある意味丁度良くやって来た相手であった。

「……ありがとうございます。思っていたより紳士的ですね」
「いえ、女性に失礼な真似をするのは忍びないですから」
この体の持ち主、あの小娘ならこのような行動を取るであろう立ち振舞いを見せてみる。
相手の視線が、握った手、胸元から首筋、表情へと撫で、ほんの一瞬だが、心情に変化が現れたのを感じる。
まあ、ある意味、女という物はこれを本能的に理解していて、積極的に利用している者さえ居るようだが。

……が、このような真似をすると、自分の意識、心の立ち位置のような物が崩れてくる気がしていかんな。

だがしかし、利用できる物は全て利用するべきである。
そう考えなおし演技を続ける。

「あの……このままでは食べ辛いのです。
 手錠、外していただけません、ですか?」
言葉と共に相手の手を取ったのは先程の理由。

「あ、そうですね。それでは……」
男の目から意思の光が薄れ、こちらの望む行動をとり始める。

「ふふっ、私のしもべになりなさい……というやつか」

何故か広がる高揚感。
この感覚は、仕合いに勝った時に感じる物と似ている。
だが、何故だ……。

「女の戦いとは、こういう物かも知れぬという事か」
理由に思い当たり、苦々しく思いつつ、呟く。

「これも手は打っておくべきか」
脳裏の潜入行動予定に修正を入れつつ、我は行動を開始した。

この船には優人部隊の三羽烏、奴らが居るはず。
優人部隊は木連の表の部分、ゆえに激我魂に拘るようなある意味甘いとも言える面が存在する。
それを突く事が出来れば……。

【ゆめみづき内月臣自室:白鳥九十九】

「月臣、いったい何の用だ。こっちはこれからユキナの相手をしに行くので、頭が痛いんだが」
「まあ、そう言うな。大事な話なんだ」
月臣のやつはそう言ったが、すぐに話を始めようとせず、こちらを見つめたまま黙っている。
このままでは話が進まないため、再度促そうとした時、月臣はくっと口を引き絞った後、語り始めた。

「これからこの船は、兵器の性能報告やら補給やらのために、本国に戻るわけだが。
 俺はその時に、草璧殿へ地球人との和平を進言しようと思う」

それは、驚くべき発言であった。
が、ある意味では予想通りであり、その理由もいくつか推測できた。

「色恋に迷っているわけではないな?」
ゆえに推測できる理由の中で最悪であろうものを例に挙げ、自分は月臣の覚悟を問うた。

彼は馬鹿にするなというかのように立ち上がり、俺を睨みつつ、叫ぶ。
「確かにきっかけは彼女だ。しかし、それだけではない!
 木連の未来、これからの事を考えに考えて出した結論だ!」
「うむ。やはりおまえは心の友だ」
その月臣の姿から彼の覚悟を確認し、頷き、笑みを返す。
「おまえが言い出さなければ、こっちから言っていただろうからな」
「そうか! 嬉しいぞ白鳥!!
決意を確かめ合う様に差し出された手を握り合う俺達。

数瞬の後、組み合った手を見ながら、ふっ、と月臣は何か面白い事に気づいたかのように笑った。
「どうした、元一朗?」
「いやなに、俺たちは暫く前まで、ナナコさんが理想の女性だと言っていたのに、と思っただけだ」
「ほう? ならば、今はどう思っているんだ? 言ってみろ?」
表情から奴がどう思っているかが予想でき、返事を促す。
むこうもこちらの表情からどういう意図か理解できたのだろう、頷き、こちらを見る。
そして、二人同時に息を吸い込み、言い放つ。

「「ナナコさんは所詮二次元の存在だ!!」」

言葉が重なり合ったことで、友情を感じ、それによる嬉しさと楽しさで、盛大に笑い合う。


「……そうなると問題は、北辰殿が連れてきたあの女性だ」
笑いがおさまると、月臣が思い出したかのようにつぶやいた。
「そうだな。囚われの姫君を助け出すなどというのは、どちらが善悪かわかり易すぎるからな」
彼女は戦闘要員を助け、応援するという立場だ。
先頭に立ち、皆を護るために戦う英雄が囚われれば、残された者の戦意は大抵地に落ちるが、銃後で戦闘要員を応援するような、皆が護ろうと思わせる姫、アイドルなどと呼ばれるものが囚われた場合、残された者の戦意は跳ね上がる場合がある。

「それがわからぬ北辰殿ではないはず……」
「まさか俺達と同じという訳ではないだろうしな」

救出の筆頭となるであろう撫子の事、さらにそれに乗り込んでいるであろう彼女達の事を思い、月臣と自分はどちらからともなくため息をつきあう。

しかも、部屋に戻った時、問題はさらに存在すると思い知らされたわけだが。

【ゆめみづき内白鳥用船室:白鳥九十九】

「ユキナが居ない、だと?!」
私は自室に戻って、そこに人の気配が無い事に気づいた。
高杉に通信を繋ぎ、ユキナの事を問い質し、呆然とする。

「あいつ、ここでおとなしくして居ろと言ったのに」
「申し訳ありません。ですが、先程の戦闘から、何故か機器の調子が悪く、部下達も不調を訴えるものが多く……」
「言い訳するな! 少々の逆境乗り越えてみせるのが優人部隊だろうが!」
この時、不調の理由をもう少し頭に入れておけば事態は変わったかもしれなかったが、ユキナの事で頭が一杯になり、考える余裕がなくなっていた。
「申し訳ありませんでしたっ!!! これより全力をもって艦内の修理にあたります!」
私の叱責に耐えかねたのか通信が切れる。
私一人となった部屋で溜息をつき、大事な妹の事を思う。
だが、この鑑から出ていったとしたら、たどり着く可能性としては。
そうだとしたら、あいつ、一体何をするつもりだろうか……?

【ナデシコ内通路:白鳥ユキナ】

「こそこそこそ。とりあえず今の所、誰にも見つかってないわよね」
通路を忍び足で歩く私。
何ってったってここは地球人の船の中、あの悪名高い撫子の中なんだから、用心するに越した事はない。

私、お兄ちゃんを誑かした相手が見たくて、やって来てしまった。
無茶な事ばかりするってお兄ちゃんにはいつも叱られるけど、大事な兄妹だもん、みすみす不幸にさせる訳に行かないじゃない?

だからゆめみづきに有った新型隠密魚雷艇を使ってこの船に乗り込んできた訳よ。
発見されるのがもう少し遅かったら危なかったって言われちゃったけど、結果オーライよ。
いけいけごーごー、ってね。

でも、私がそんな事を思いつつ行動を開始しようとした時だった。

「あなた誰?」
「うひいいいいいいっっ?!!」
気配もしなかったのに、いきなり背後から声を掛けられ、叫び声を上げてしまう。

慌てて振り向く。
そこには薄桃色の髪の毛が特徴的な、妙に綺麗な、ある意味人形みたいな雰囲気のちっちゃな女の子が居た。

「ななな、なによあんたー!」
「あなた誰?」
私が叫んでるのに、この女の子は表情も変えず、問い掛けてくる。

「ふ、ふふん、人に名を聞く時は自分から名乗る物よ」
「……ラピス・ラズリ」
苦し紛れに放った言葉に、少々の間は有ったが、表情も変えずに返事をする女の子。
素直と言うか何と言うか、変な子ね。
私が内心でそう思っているのに、彼女は再び問い掛けてくる。

「あなた誰?」
「……白鳥ユキナよ」
向こうが名乗った以上、こちらも名乗らなければいけないから、名乗る。

「白鳥……。ここで何してるの?」
私の名前を聞き、何故か彼女は軽く首を傾げた後、さらに質問を重ねた。

「というか、なんであんた誰かに知らせようとかしないの?」
「何してるの?」
あーもー。話通じてないわけ?

「なにか理由がありそうだから、知りたい」
私が辟易としているのに構わずこの娘は聞いてくる。
どうしようかと思った時、通路の向こうで足音と話し声が聞こえて、慌てて隠れる私。

「事故かなんかで、向こうからやって来る羽目になった女の子が居るんだって?」
「おう、まだ十三歳の女の子だってさ」
「しかも、彼女も記憶喪失なんだとさ」
「へー。早く治って家に帰れると良いよなぁ」
地球人達の足音が離れて行くのを待つ中で、私は驚きと困惑の混じる奇妙な感情に陥る。
なによ、地球人のくせに、なんで私の事心配とかするのよ。

足音が聞こえなくなった瞬間、桃色髪の少女が再び問い掛ける。
「何をしに来たの?」
あ、ちょっと質問が変わったわね。

「お兄ちゃんをたぶらかしたミナトとかいう悪い地球女を見に来たのよ!
 きっとお兄ちゃんはだまされてるんだから!」
私の言葉に、この娘はほんの少しだけ首を傾げた。

「ミナト、悪い人じゃない。
 時々、綺麗な洋服着せてくれたり、髪の毛結ってくれたりする」
「だから! それが手なんだから!
 あんたみたいな世間知らずの子なんか、すぐ騙されちゃうんだから!
 お兄ちゃんもある意味そうだから、心配で仕方なくなっちゃったのよ!」

私が言いつのると、少女はちょっとだけびっくりしたような顔で黙る。
あっと、少し言いすぎたかな。
なんたってまだ子供なんだから、そういうの、よくわかんないわよね。
というか、何で戦艦にこんな子供が居るわけ?

「あの、あんた、何でこんなとこに……」
「……あなた、ミナトに会いに来たのね」
私の言葉を遮る様にいきなりラピスは呟くと、なにやら空中に地図やら画面やらを出して、誰かを探し始めた。

「ミナトはこっち。ついてきて」
な、なんなのよ。ついて行って良いのかな。
だけど、このまま当ても無くうろつく訳にも行かない気がして、彼女の後を追う。

……でも、ついた場所は。

【ナデシコ大浴場:白鳥ユキナ】

「おふろ?」

何で戦艦にこんなのがあるのよ。
一応、乙女のたしなみとして旅用具も持ってるし、その中には湯浴み用の水着だって入ってるけど。

「ここで待っていれば、ミナトは来るから」
そう言い残して、ラピスは歩き去ろうとする。
私は慌て気味に声を掛けた。

「ねえ、なんであなた、こんな事してくれるの?」
「好きな人が心配で色々する気持ち、色々された時の気持ち、知ってるから」

少しだけ、彼女が笑った気がした。

【ナデシコブリッジ:ホシノ・ルリ】

木連の白鳥九十九さんの妹、白鳥ユキナさん。
救助後、病室から抜け出してしまったのを捜索していたのです。
が、何故かお風呂でのぼせていた彼女をミナトさんが見つけ介抱した事で和解した、とか何とか。
まあ、そんな事は今更どうでも良いです。
で、現在、彼女の処遇を、木連との連絡及び交渉を含めて、検討を始めようとする所です。

ですが、今の私に重要な事はただ一つなだけで。

「わたしの乗ってきた小型艇の跳躍門式通信装置、持ってきたわ」
ブリッジの真中に、背に小型のチューリップを載せたバッタを動かしてくるユキナさん。
「じゃあ、ラズリさんと連絡取れたりしますね?!」
彼女に思わず声を掛けてしまう私。

「えっとぉ、それはわかんないけど。とりあえずお兄ちゃんに連絡取るね」
私の質問にそう返事をして手元のリモコンのボタンを押す彼女。
でも、なにも起きません。

「……あれ? えい、この、この、えいっ?!」
首を傾げた後、ボタンを押しまくる彼女。
やっぱり、なにも起きません。

「どうしたんですか? 早くしてください」
「やってるわよ! おっかしいな、これで良いはず、えいっ!」
気負いを込めてリモコンをバッタに向けボタンを押す彼女。
それでも、なにも起きません。

だんだん内心いらいらしてきた時、チューリップを背負ったバッタが、馬鹿にするように小首を傾げこちらを見て。
瞬間、私の中で何か切れた気がしました。

「蹴り」

蹴った。
蹴った。
さらに蹴った。

まるで悲鳴じみた動作音と共に小型チューリップが開き始め、私は我に返りました。
「生意気な機械にはこうするのが良いんです」
「……あんたって」

隣で何故か引きつった顔でユキナさんがこっちを見ましたが、そんな事を気にする暇は私にはないです。
映り始めた映像を見つめる私。

「誰だこの忙しい時に……ユキナか?!」
画面に映ったのは残念ながら、いえ、当たり前と言われればそうなんですが、白鳥さんでした。

「難しい話の前に、サービスよ。感謝してよね」
と、私が画面に入ってラズリさんの所在を問いただそうとする前に、ユキナさんが彼を黙らせるように言い放ち、ミナトさんを通信機の前に引っ張りこみました。
「み、ミナトさん、お久しぶりです……」
「うふふ、本当ね」
少々しゃちほこばっているのに聞いているこっちが恥ずかしくなってしまう様な会話が続いた後。

「ミナトさん……」
「白鳥さん……」

……勘弁して。
いくら両思いでも、この状況で頬染めて見詰め合って二人の世界を作らないで下さい。

どうしましょうかと思った時、予想外の方が予想外の行動をしてくれまして。

「そこに月臣さんはいらっしゃらないのですか?!
 私もあの人のお顔を拝見したいです!」

イズミさん?! 何事ですか?!
いつもの雰囲気と全く逆の、周囲にきらきらとした何かを振りまいてる感じの、そのお嬢様みたいな雰囲気はいったい?
一瞬、背後に薔薇の花束が見えた気さえしましたよ。

「やっぱりイズミのアレ、初めて見ると驚くよね」
「ありえねー豹変だもんな」
私を含めたここにいる大部分が焦る中、訳知り顔で頷くヒカルさんとリョーコさん。

そんな中、何故かいつもよりきりっとした艦長が進み出て、口を開きました。

「現在そちらにはこちらの乗組員が捕虜になっているはすです。
 彼女の現在の処遇について説明してください」

艦長のその言葉を聞いたとたん、白鳥さんの表情が、ばつの悪い顔と言うか、困り顔になり。

「あー、それ以前の問題がありまして。
 じつはですね。
 どこかに行ってしまって、用意していた部屋から居なくなってしまって。
 見つからないのです」

「「「「「「「「見つからないっ??!!!」」」」」」」」







【中書き:筆者】

第二十話Aパートです。

とりあえず、書く時間が取れたので、短めですが出せる時は出しておくのが良いだろうと。
で、話としては「起」ですね。Dパートまでやる気はないですけど。
ちょっと強引な気もしましたが、次回への引きを作ってみました。
その次回が何時になるかわからないのに、こういう事をするのはどうかと思ったんですが、この方が自分も気になると思いまして。出来るだけ早く書けると良いのですが……。

木連が小型艇にまでバッタを積んでいるというのは適当です。
イメージ的にはXウイングにR2D2が居るみたいなのを想像して頂きたいかな。


では、また次回に。

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

なんかTS物みたい(笑)。

いや、みたいじゃなくてそのものなんですけどね。

 

>小型艇にバッタ

大型艦船でも処理の手伝いをしたり雑用こなしてたりしましたもんねぇ。

小型艇どころか「一家に一台!」ってノリで家庭に業務に民需用のバッタが普及しててもおかしくないかもしれません。

木連ってマンパワーに欠けてますからねー・・・・・・・・って、自分で言っててなんですが、割とあるかも(爆)。